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CCPの清算基金が上昇している?

Risk.netに、最近CCPがVaRモデルに移行したため、清算基金(GF:Guarantee Fund)が上昇しているという記事が出ている。VaRモデル移行に伴って当初証拠金(IM:Initial Margi)が減ったため、GFが上がったという趣旨だ。若干個人的な直観に反するが、もしかしたら自分がみている日本の市場では起きていないが、海外ではこうした動きが加速しているのかもしれない。大手金融機関のGF拠出額は昨年前半に14.2%、約$14bn増えたとのことだ。

IMが増えると、Defaulters Payといってデフォルトした参加者の当初証拠金で損失の多くが賄われるので、不足分を全員で負担し合うGFが減る。逆にIMが減るとGFが増える。自己責任原則からすると、すべてをIMで賄った方がフェアではある。

しかし、IMが増えれば、これが極端に増えないよう、参加者がポジションを自主的に減らそうというインセンティブが生まれる。CCPでは極端にポジションが偏った場合、ポジションが巨大になった場合は、IMを徐々に増やすConcentration Chargeを導入している。

デフォルトしたとしても、自分の出した担保ではなく、銀行が代わりに出してくれたお金で処理できるとなると、クライアントクリアリングの顧客がどんどんリスクを増やしてしまうというモラルハザードが起きる。

そもそもSpanマージンからVaRへの移行は当初証拠金を減らすために行われた訳ではないはずなので、これによってIMが急減してGFが増えたというのは若干不思議ではある。大手ディーラーも、特にクライアントクリアリングビジネスを行っていれば、このIMとGFのバランスにはかなりセンシティブなはずである。

このIMとGFの比率はIM・GFまたはIM・CF比率などと言われ、リスク負担を議論する際には頻繁に参照される指標である(CFはClearing Fundの略)。個人的には通常の金利商品であれば、IMに対するGFは10%以下、できれば一桁台に抑えるべきだと思っているが、テイルの大きな商品の場合はある程度GFに以降しないと、証拠金負担が持続不可能なくらいに増加したり、プロシクリカリティを招いたりしてしまう。

適当なGuessではあるが、何となく金利スワップなら5%で良いが、為替なら10%、CDSなら20-40%といった感じだろうか。こう考えるとSwaptionなどはテイルが大きくなるのでCCPでの清算は極めて難しく、CDSも本来ならかなり困難な商品なのではないかと思う。これにCCPの負担分が加わり、3者でどうやって負担を分担するかが焦点となる。

この分担は誰がリスクをどのくらい負担するかという問題の他に、どのくらいのIMまでなら妥当なのかという問題が加わる。いくら自己負担原則が良いといっても、取引想定元本の半分の証拠金が必要などと言われたら、ヘッジなどしない方が良いということになってしまい、逆に金融市場が不安定になる。その意味ではクリアリングをしない方が良い商品というものも存在する。新たなToo big to failを作っても意味がないからだ。

昨今の金利や為替変動なら、市場の安定性を損なわず証拠金を集めてクリアリングするのが可能な範囲となっている。特に円に関してはそうだが、一時の米金利や英金利のような動きが常態化するとこれが難しくなってくる。リスク管理が重要だからといって極端に保守的な市場変動に備えるためにIMを増やし続けると、逆に市場流動性に支障が生じる。為替も何とかクリアリングできると思うのだが、大きな資金決済が発生するため決済リスクをどうするかが問題となる。CDSは、一たび危機が発生すると、IMでカバーできなくなる可能性が高いので、IMを上げるか、普段からGFを多めに取っておく必要がある。

現状の仕組みでは、IMはリスクを取る参加者自らが負担するが、GFはディーラーが拠出することになっている。したがって、その分IMに対するGFの比率が高いCDSのような商品はクリアリングブローカーが顧客に課すクリアリングフィーが高くなるべきであろう。ただし、市場変動やポジションの集中度合いなどによりIM・GF比率が変動すると、クリアリングフィーを調整する必要があるが、これは現実には困難である。

したがって、IM・GF比率の変動が激しい商品は、クリアリングブローカーにとっては、非常に扱いが難しい商品となってしまう。この辺りを国の保証、保険などによって損失負担ができれば、市場流動性に悪影響が及ぶほどIMやGFを増やさずに、クリアリングが可能になるのかもしれない。

クロスマージンスキームの対象範囲が拡がってきた

米国債の清算集中規制導入を来年末に控えて、米国CCPであるCMEとFICCの複数商品にわたる拡張版クロスマージンスキームが今度の月曜日から始まる。あらゆる取引のCCPへの移行が進むと、当然証拠金所要額が大きくなるが、クロスマージンはその効果を和らげる重要なツールとなる。

国債を買ってそれを先物でヘッジしているような場合、クロスマージンができると必要証拠金が大きく減ることになる。つまり、クロスマージンを提供できるCCPの競争力が格段に上がり、参加者としては、当然マージンのオフセットが大きいところで清算したいと思うので、CCPにとってはなくてはならないツールになりつつある。そして、自らオフセットする商品をすべてカバーできていない場合などは、今回のような複数のCCPにまたがるクロスマージンが効力を発揮する。。中国と香港のCCPが一部マージンを融通しあうスキームを始めたが、今後も複数のCCPにまたがるこういった取り組みは増えていくものと思われる。

日本ではほとんどすべての商品がJPX傘下のJSCCで行われているので、それほどフォーカスにはならないかもしれないが、スワップと国債先物のクロスマージンは実現できているものの、確かレポが対象になっていなかったと思うので、今後はここが課題になるかもしれない。特に英国中銀のDear CROレター移行レポのヘアカットを上げる動きが見られ始めているので、クロスマージンのニーズは高まっている。といっても実際に危機が起きた時は相関関係が大きく崩れ、思ったよりリスクのオフセットが得られないことも多いので、制度設計は慎重に行うべきである。

一方、こうしたクロスマージンは多くの商品を大規模に取引するディーラーに有利であり、一方向のポジションしか持たない中小規模の参加者に対するメリットが少なくなる傾向があるので注意が必要である。また、ヘッジファンドなどは国債、先物、レポのみならず、金利スワップを多用するので、CMEとFICCもSwapをどう取り込んでいくかが課題となる。

CMEのプレゼンテーションによると、CME Cleared Swapについても将来的なMargin Optimizationの対象となっている。こうなるとLCHからSwapをCMEに移す参加者も出てくるかもしれない。また、Approximately 30 Membersが対象となると書かれているが、30となるとほぼ大手の金融機関に限られているようだ。米国では分散化されたポートフォリオを持つファンドも多いことから、これをいかに顧客ポジションに拡大していくかが重要になる。日本では、ヘッジファンドが少なく一方向に傾いたポートフォリオを持つ顧客が多いと思われることから、海外よりはクロスマージンの効果は限られてしまうかもしれない。

日本で最もクロスマージンの効果があるのは、JSCC-LCHベーシスだろう。JSCCとLCHでオフセットしあう取引を持っていると、両CCPに対してマージンを払う必要があるが、リスク自体は極めて小さい。JSCCとLCHが共同してクロスマージンなんてことになると、かなり大きなニュースになるのは間違いない。しかし、現状では両CCPに参加できる海外参加者のみがメリットを受けるので、LCHに日本の参加者に対する円金利スワップが開放されてからの話になるのだろう。

G30の連銀窓口貸出改革提案

前ニューヨーク連銀総裁のWilliam Dudley氏を中心としたGroup of 30から、銀行破綻時の最後の貸し手機能の改善策についてのレポートが出ている。最後の貸し手とは、Lender of last resortの訳だが、頭文字をとってLoLRと呼ばれている。SVBが連銀のDiscount Windowに迅速にアクセスできずに破綻したことは別記事に書いたが、これを防ぐため、事前に担保拠出をしてはどうかという提案がメインとなっている。

確かにこの方法であれば、担保拠出などの手続きに時間がかかって資金が得られないという事態は避けることができる。また、普段からリスクに応じて担保を積み増すことになるので、SVBのように大きなリスクを抱える前に、何らかのストップがかけられた可能性もある。

その他、貸し出しのコスト引き下げ、ローンの期間延長、Discount Windowの利用を24/7にするという提案も含まれている。24/7とは24時間7日間ということで、つまり、365日いつでも利用可能ということになる。

当然預金保険の対象拡大や、LCRのパラメーター変更なども議論されているが、担保の事前拠出の方が効果が大きいと主張している。

米国債のクリアリング義務化の方向性も決まったばかりだが、レポについては、相対からクリアリングに移行すれば、カウンターパーティーリスクが少なくなり必要担保も減る。もしかしたら、これでクリアリングへのインセンティブを上げようということなのかもしれない。

また、リスクが増えた時に迅速に担保を動かす必要があるため、連銀サイドでのシステム変更も必要になる。そして、連銀が対応すれば、すべての金融機関に対してもシステムの高度化プレッシャーが強くかかってくることになる。金融がますます装置産業化していく中、日本でもそろそろシステムコストを渋らず、思い切った投資をしていく必要性が高まっている。

最後の貸し手論争

シリコンバレーバンク(以下SVB)破綻を受けて、規制当局の間では、様々な議論が行われている。最後の貸し手である中銀がもっと積極的に介入すべきという意見もあるが、それでもまずはそのような事態に陥らないように銀行の監督を厳しくするという論調が多い。

確かに危機時には中銀の窓口貸出(以下Discoujnt Window)によって資金提供をするという制度はあるのだが、これに手を付けてしまうと「危ない銀行」とみなされるリスクがあるので、その利用をためらう銀行が多い。これはいわゆるStigma問題と言われ、古くから起きている問題である。Stigmaは、「烙印」、「汚名」、「不名誉の印」などと辞書上では訳されているが、金融の世界においては、つぶれそうになった時に政府や中銀に泣きつくことが、信用不安を煽ることになるため、なかなか使えないという状況でよく使われる。

日本でもコロナショックにおいて、ドル供給のプログラムができたが、このStigma問題のため、本当に使ってよいのかという疑念が各行で渦巻いていたと報じられていた。

米国SVBもこの利用を躊躇したのか、Discoujnt Windowの申請をしたのは破綻の前日であった。これとは他に米国ではBTFP(Bank Term Funding Program)という銀行緊急借入制度がある。SVBショックもあり昨年新設された制度であるが、米国債や政府機関債を担保に最長1年まで借り入れをすることができる。金利は直近でOIS+10bpとなっており、Discoujnt Windowよりも安い上、Stigma問題も小さいため、その利用が急激に伸びている。担保にかかるヘアカットもゼロなので、かなりお得な資金調達である。特に満期保有で国債を保有していた地銀にとっては、国債を売却せずに資金を得られるので、まさに銀行危機時に効果を発揮するプログラムとなっている。

他にも、昨年破綻した米地銀の多くは、FHLB
Federal Home Loan Bank)からの資金を借り入れていたが、これには資産の30%までという上限がついている。SVBはこの上限に達していた。FICCのSponsored Repoも使えるが、地銀の間ではこのセットアップができているところが少なかったようである。この辺りは米国債の清算集中規制導入によって変わってくるかもしれない。

昨年の経験を踏まえると、Discount Windowは、やはりStigma問題がかなり大きな要素になっているように感じる。一方、BTFPを使ったとしてもすぐにそれが表に出ることはない。最長1年のローン終了後から1年後の公表なので約2年程度の猶予がある。もちろん、Discount Windowでは、商業ローンなどの流動性に劣る資産も担保として使えるというメリットがあり、BTFPでは対象外となっている地方債も使える。

ただし今の制度では、その利用をためらう銀行が多く、何らかの制度改革が必要なのだろう。Group of 30 からもDiscount Windowの改革案についての提案が出されているが、昨年成功したBTFPからも学べることは多いだろう。信用危機時にこうしたプログラムが市場に与えるインパクトも大きいため、一応注目しておいた方が良さそうだ。

米国債の清算集中規制への準備

年末に米国債とレポ取引の清算集中規制の最終案が出たが、そろそろ金融機関サイドの準備が始まりつつある。レポについては対象先が広いが、米国債の売買については例外規定があり、対象外となるところも多い。特にヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、プライムブローカークライアントとの取引が対象外になっているのが興味深い。ただし、トレーディングプラットフォームを使って売り手と買い手を結び付けた場合は対象となっている。

レポについては、CCPの直接参加者によって取引されたレポがすべて対象となっているため、大手の金融機関の取引についてはかなりの割合がカバーされることになる。現状CCPはFICCのみが対象だが、今後増えていく可能性もある。

ここからのスケジュールとしては、まず今年の5月下旬から6月上旬にCCPがルールブックの改正が行われることになっている。内容的には概ね予想ができるため今からでも準備は可能だが、現状では担当者を決めてプロジェクトの計画を策定し、本格的な作業はおそらく6月くらいからということになろう。

そしてこの変更に基づいてディーラーの自己ポジションと顧客ポジションの分割などを完了させるのが来年3月末までくらいとなろう。実際の規制施行は米国債売買が来年末(2025年12月末)、レポが再来年2026年6月末となる。

資本規制やネッティング効率を考えると、早めにCCPに移行しておく方が望ましいことから、海外大手金融機関は今年から徐々にポジションをCCPに移していくことになるかもしれない。内部取引に関する適用除外規定もかなり限定的に読めるので、遅れないように準備を進めておく必要がある。

こうしてCCP取引が標準となってくると、CCPを介さない取引のプライスが悪くなったり、取引量に制限がかかる可能性があるので、米国債を取引する日本の市場参加者はある程度の準備をしておく必要があるだろう。特にCCPへのOpen Accessを確保するよう求めらていることから、多くの市場参加者がCCPに参加していくことが予想される。ある程度の取引量があるのなら、直接参加も検討に値するのかもしれない。

規制強化が市場変動を激しくする

お金が回らなくなると経済活動が停滞するというのが個人的な経験測だが、米国でも資金の流れが悪くなってきているように感じる。日本では、個人が銀行預金にお金を回し、銀行が重厚長大産業にその資金を回していたころは良かったが、国債や外債に回り始めてから経済が停滞した。

一方、米国では、商業銀行の資産に占める現金の割合は約10%程度であったが、最近では15%を超えるようになってきている。通常金融危機やコロナショック時には現金を潤沢に準備しようという意識が働くのでこれが高くなるのは当然なのだが、シリコンバレーバンクなどの危機が去った今でも現金比率が高止まっている。規制強化もあり、現金がないと不安という心理が働いているように感じる。

12月末に短期金融市場でSOFRが急上昇して市場を驚かせた。期末に資金がひっ迫するのは珍しいことではないが、それでも今回の上昇幅には危機感を覚えた人も多かったものと思われる。何もイベントがなくてもここまでマーケットが動きうるというのは、何か構造的な問題があるように思えてならない。

これで米国債の清算集中規制が始まると、さらに証拠金ニーズが高まり、現金がひっ迫する可能性も高まるため、引き続き注視しておく必要があるだろう。米国債の発行も増え、銀行が手元にリザーブしておく現金も増え、規制により証拠金が増えると、現金が経済活動に回らず、カストディアンやFEDに滞留するということが起きる。国債に回った資金が成長資金に回ればまだましだが、この資金がどこまでうまく使われるかは政府にかかっている。

いずれにしても銀行サイドは、貸出に慎重な姿勢を続けることが予想される。資金を集めるために、預金金利を高めに保とうとするところも出てくるだろう。投資面でも極力現金比率を上げようとするため、マーケットメークにも消極的になるかもしれない。そうすると当然市場のボラティリティが上がる。

急激な市場変動は昨今あちこちで起きているが、今年も何らかのきっかけで市場がクラッシュする可能性は高いと考えた方がよさそうだ。

日本円金利スワップの躍進

日銀政策変更を期待する海外勢の取引増もあり、日本円金利スワップの取引量が急増している。現場の感覚としても昨年はかなり取引が活発だった印象があるが、
JSCCの統計で確認してみる。月次の債務負担金額をグラフにしてみると以下のように一目瞭然だ。個人的にも、グラフを描くまでは、ここまではっきり出るとは思っていなかった。

当初は月50兆円程度だった債務負担金額は、たまに100兆円まで届くようなこともあったが、LIBOR改革の辺りで若干取引が減っていた。LIBORからOISに移行した後は順調に取引量が増え始め、昨年一気に急増し、月間200兆円を超えるようなレベルになっている。

これは単なる想定元本なので、短期の取引が増えれば元本が増えるのだが、特に短期シフトが起きているわけではなさそうだ。昨年11月と12月は2年未満の取引が増えており、若干元本の増加に寄与しているが、それでも全体のトレンドは変わらない。

もう一つの要因としては、LCHからのシフトであるが、現状の債務負担残高がJSCCが61%を占めている。以前見た時は50%程度で拮抗していたと思うのでJSCCへのシフトは確実に起きているようだ。これまでの蓄積である残高でみて61%なので、最近の取引だけを見れば70%を超えているときも多いだろう。

外資系証券の取引量が増えているというニュースもあったことから、やはり海外勢の円金利スワップの取引量が増えているのだろう。これまで、日本円金利スワップの取引量は他通貨に比べてあまり増えてこなかったが、ここへ来て一気に盛り返している感がある。

日本円の金利にはCCPベーシスがあるので、LCH金利とJSCC金利が存在しているが、最近ではJSCC金利を使って取引をしたいというところがほとんどになっている。通貨スワップのディスカウントなどもJSCCを好む人が表れているので、市場慣行としてはJSCC金利が円金利スワップの標準になったといっても過言ではないだろう。

いずれにしても日本円においても、遅ればせながら他通貨並みに金利スワップの利用が増えてきた。これからますますデリバティブ取引の重要性は日本でも高まっていくことになるのだろう。海外に比べて遅れているデリバティブリスク管理に通じた人材の育成も急務である。

金利上昇と国債評価損

直近まで英国中銀の金融政策委員会の外部委員を務めていたサンダース氏によると、英国は金融危機以降、多くの長期債を買い入れたため、他国の中銀に比べると大きな損失を被る可能性が高いとのことである。

日銀も多くの国債買い入れを行っているが、金利が上昇すればこの損失が大きな問題になる。米国や欧州では、昨今の金利上昇によって中銀が買い入れた国債からの損失が大きくなっている。FTの報道によると、英国中銀の保有する国債の評価損は元本の23%とのことで、米国や欧州の約13%に比べてかなり高くなっている。

日銀が580兆円程度の国債を保有しており、単純に20%の評価損と仮定すると115兆円の損失となる。英国の場合15年から20年の国債が多いため確かに他国よりは長期債の比率が多いかもしれない。日本の場合は10年債が半分弱でその他は10年債と5年債が多く、英国よりは保有国債の満期は短いように見える。財務省の試算では金利が1%上昇すれば国債費は3.7兆円増加するとされているので、利払い費用だけに注目すればそれほどの金額ではない。しかし、英国並みに20%の評価損が出ると、一年分の歳出に相当する金額が吹っ飛んでしまう。日銀の2023年の上半期決算では、国債の評価損は10.5兆円だったので、あながちあり得ない数字ではない。

そう考えると金利が欧米並みに上昇すると、日本の財政はとんでもないことになってしまう。つまり、極端な金利上昇は何としてでも避けなければならないということなのだろう。そう考えると、マイナス金利からの正常化は確実に起きるのだろうが、かといって金利が一直線に上昇していくというのは、あまり想定しにくい。

以前長期金利が2%になったら評価損は52.7兆円になるという試算が公表されたが、こうした損失から逆算するとせいぜい長期金利2%が限度といったところになるのだろうか。日銀が述べたように、金利上昇に伴う含み損で短期的に財務が悪化しても、政策運営能力に支障が発生しないというのは、その通りなのだろう。ただ2%を急に超えてくるようだと歯止めがきかなくなる危険性があるので、ゆっくり金利が上がるものの低位安定してくれるのがもっとも望ましいシナリオなのだろう。

極端にリスクを避けると金融システムの安定が脅かされる?

CFTCのBob Wasserman氏が、CCPのクライアントクリアリングにおけるバックアップブローカーについて、12/11のGMACで懸念を表明した。クリアリングブローカーである銀行の破綻時に顧客ポジションを他のディーラーにスムーズに移せるとは思っている市場参加者は少ないと思うが、当局サイドもこれを認めている。Bob Wasserman氏はクリアリングの仕組みについてはかなり詳しい方なので、よく現実が見えているということなのだろう。当局としては異例ともいえるかもしれないが、厳しい資本規制がこのPortingを難しくしていると認めている。

上位10社のブローカーが全体の80%をクリアリングしているというのは、確かに問題である。昨今の資本規制とその収益性の低さから、クライアントクリアリングビジネスから撤退するディーラーが増え、撤退までいかなくともリスク許容度を減らしているところは多いものと推測される。リミットを引き下げているところもあるため、清算集中規制がない商品については、CCPからOTCに取引を移すところもあるというコメントも聞かれる。資本規制だけが問題ではないものの、規制強化が市場参加者をクリアリングから相対に押しやっているというのは皮肉な話だ。

特にArchegos以降、クライアントクリアリングに対する懸念も大きくなり、昨今のストレステスト重視も相まって、クリアリングがさらに厳しくなっている印象がある。Archegosで問題になったのはクリアリングされた取引ではなかったのだが、巨額のポジションとなると、必ずクライアントクリアリングのポジションが問題になってしまう。昨今のボラティリティが高まっているのは事実ではあるが、極端なシナリオを想定してリスクが大きいと判断するのは、クライアントクリアリングに関しては、少し行き過ぎているような感覚がある。

まずArchegosレポートで指摘されたようなStatic MarginがCCPでは発生しない。各CCPとも市場のボラティリティに併せて当初証拠金を見直しているため、CCPのIMはダイナミックに変動する。これを無視しして、例えば金利が2%突然上がった場合の想定損失額をベースに議論をするのは間違っているように思う。当然そんなことが100%起きないとは言えないため、なかなか認められないのだが、そのようなシナリオをベースにするならそもそもクライアントクリアリングビジネスは成り立たない。また、そんな状況で破綻参加者の傘下にあるポジションを受け入れようなどと言うディーラーがどこにいるのだろうか。

こうした極端なシナリオを想定して各ディーラーが保守的にリスクを見るようになると、クリアリングの仕組みが崩壊してしまうだろう。当然中央銀行や政府に頼った仕組みを作るのは望ましくないが、戦争や天変地異で市場が大きく変動した時に備え、証拠金や資本を積んでおくというのは不可能なレベルに近づきつつある。システムが存続不可能になるレベルまでディーラーが保守的になるのを防ぐために、ある程度の国のバックアップが必要ということを認めるのは、行き過ぎなのだろうか。

英国決済短縮化についてのアナウンスメント

英国の決済期間短縮化に関するタスクフォースからレターが送られている。T+1化をすべきかどうかというよりは、いつどのように実現するかという問題とされているので、すでにT+1化を進めるのは既定路線となっている。T+1がなぜ望ましいかというと、業界全体でシステムやオペレーションのプロセスの自動化に投資するきっかけとなるからだと述べられている。

どうやらマーケットスタンダードやオペレーションの詳細を詰める第一フェーズと、実際に移行を行う第二フェースの二段階アプローチが検討されているようだ。

ただ、実際の移行日については未だに意見が分かれているようである。米国がT+1で英国がT+2という期間を極力少なくするために、できるだけ米国に合わせて早い段階での移行をすべきという意見もあるが、未だ時期が決定していない欧州に合わせるべきという意見もある。

最終レポートは来年第一四半期には出るようだが、ここでも期限が示されないかもしれない。それでもあまりに遅らせたくないという意見も多いことから、来年は、欧州も含めて移行に向けた分析と議論が盛り上がることになろう。これに向けて、各社とも全世界的に決済短縮化に向けたシステム開発を進めることになるが、米国で準備を行っているところについては、それほど追加の作業負担は大きくない。むしろ早めに揃えてもらった方が効率性が高まる。

日本は何もしなくて良いのだろうか。

中国のデリバティブ市場の盛り上がり

中国のCallable債が売れている。HKで発行されるCNH(Offshore Deliverable)の点心債(Dim Sum Bond)に中国本土からの買いニーズが高まっている。Callableというと台湾のFormosaの例があるので、金利のVegaなど、マーケットへのインパクトが気になってしまう。台湾の例では、ドルの長期のベガを抑えるインパクトが大きかったため、台湾の規制などの動向によって米金利市場が大きく変動した。

Callableの場合は、発行体が早期償還をするオプションがついているので、以下のような式になる。

Callable債の価格=通常の債券価格-オプションの価値

通常金利が上がれば債券価格は下がるのだが、オプションの価値も下がるのでCallable債の下落幅はマイルドなものになる。通常Callableの発行が増えると、Swaptionを売ってYeild Enhancementを行う動きが出る。中国CNHの場合は、通貨スワップによってCNHをUSDに交換し、通貨スワップに対するオプションを売る。通常通貨スワップのVolの買い手は少ないので、売り一辺倒になってしまうが、ここにヘッジファンドが買い手として現れている。

中国本土と香港間の債券相互取引であるBond Connectが2017年から始まっているが、香港から中国への投資をNorthbound(北向通)、逆をSouthbound(南向通)という。最近では、クーポンの高い不動産会社の債券に流れていたSouthboundの資金が、Callable債に流れているようである。Southboundが始まったのは2021年9月なので、極めて短期間の間に取引が増えている。

点心債は信用力の高いグローバルバンクが発行するものが多く、クーポンもCallableにすることによって1%程度高くなることもあり、中国本土の資金がかなり流れてきているようだ。

取引の流れとしては、発行体が債券発行によって得たCNHを通貨スワップでUSDに倒す。通貨スワップではCNHの固定金利を受けてそれを投資家にPass throughし、USDの変動金利を支払う。そしてその通貨スワップのSwaptionを売ってYeild Enhancementを行う。
CNHUSDの通貨ベーシスが拡大すれば高いクーポンを提供できることになる。この通貨スワップのSwaptionにヘッジファンドの資金が流れ、Swaptionのマーケットが広がりつつある。

米金利が下がり、中国元が減価するとCNHのImplied Yieldが高くなる。また、中国オンショアとオフショアの金利差が開くと、クーポンが上がるためSouthboundの取引が増える。ヘッジファンドはこの辺りの市場の動きを予測することにより利益を上げているようだ。これに、中国市場におけるプレゼンスの大きい欧州の自動車会社の売り上げ減による、通貨スワップの減少などの要素も加わり、マーケットダイナミクスが複雑になる。

中国経済時代は停滞の兆しがみられるものの、市場開放努力は着々と進められており、金融取引自体は未だ世界の投資家の興味を惹きつけているようである。

米国債のCCPによる清算義務付けが決定

先週12月13日の水曜に米国SECから、米国債の清算集中規制を進める旨のアナウンスがあった。これまでレポの20%、リバースレポの30%、現物取引の13%しかクリアされておらず、大部分の取引が相対で行われてきたので、全体で26兆ドルといわれる米国債市場にとって大きな変化になる。

ゲンスラー委員長が指摘しているように、現状米国債レポ取引の多く(74%程度)がゼロヘアカット、つまりデリバで当初証拠金に当たる超過担保なしで取引されており、レバレッジがかかっている。これがCCPに移行することにより一律のヘアカットがかかることになる。10月に英国中銀から出されたDear CROレターでもレポのヘアカットが不十分であるとの指摘があり、すでにマーケットに若干影響が出始めているが、今後はレポのヘアカットにも大きな変化が起きる可能性が高い。

ゲンスラー氏のいつもの主張のように、クリアリングによってAll to Allの取引が増え、競争が促され、透明性が高まるとされている。ディーラーとしては、自己ポジションと相殺してヘアカットを計算することができなくなるので、顧客毎に担保を確保していくことになる。確かに透明性は増すだろうが、コストが上がることは間違いない。一方、ディーラーとしては、顧客から受け取った担保をそのままCCPにリハイポすることが認められるようである。

清算集中の対象であるが、レポについては
のメンバーとの取引についてはほぼ全て清算(内部取引は除く)、顧客取引についてもSponsored Repoの形でクリアリングが行われることになる。現物については、IDB(インターディーラーブローカー)プラットフォームにおける取引が対象となる。昨年9月に発表された当初案からするとだいぶ後退したようにも見える。ヘッジファンドなどには米国債の現物取引の清算は義務付けられておらず、レポのみが対象となる。

このルールは以下のような2年半の間に段階的に適用される。

15か月: CCPが顧客クリアリングなどのルールを最終化
9か月: 顧客サイドでの現物取引のクリアリングの準備
6か月: レポ取引についてのクリアリング準備

これによって担保ニーズが高まり、クリアリングに向けたシステム、オペレーションの整備などの準備が始まる。これがほかの国に広がるかどうかにも注目が集まる。おそらく事務の自動化やオペレーション負担増加を嫌う日本が最後になるだろうが、次は欧州の動向に注目が集まる。

欧州の証券決済T+1化

先日米国とカナダの決済期間短縮化について記事を書いたが、欧州や英国では議論が割れているようだ。EUでは2カ月前の10月に議論が始まったばかりであり、未だ方向性についてのアナウンスは確認できていない。

英国については、タスクフォースが作られ議論が続けられているが、報道によるとかなり反対意見も多いようだ。一応今月末までにProgress Reportを公表し、来年末までに最終化の予定となっているようなのだが、今の雰囲気だと計画は後ろ倒しになりそうだ。どうやら短縮化すること自体に反対する意見は少ないようだが、その実施時期については慎重な意見が目立つ。

そもそもBrexitによって欧州規制とは一線を画した自由な規制の導入が可能ということで、エジンバラ改革と銘打ち国際金融都市ロンドンの地位向上を模索していたはずなのだが、ほとんど大きな進捗が見られない。銀行やアセマネ業界は2026年春ごろを目途に準備を進めるべきとしているようだが、バックオフィスのシステム改訂が間に合わないという意見が多い模様だ。このままだと今月に出されるProgress Reportでは、時期が明示されない可能性が高い。

その他の国ではインドが短縮化を進める方向で動いているが、日本ではあまり議論が盛り上がらない。もともと事務フローの自動化や、期間短縮に関しては世界に類を見ないくらいに慎重なところがある。海外のように短縮はするがフェイルが多くなるという慣行が、まじめな日本人にはなじまないのかもしれない。ただし、オペレーションの自動化、システム化、AIを使った効率化が急速に進む中、日本だけが後れを取るとグローバルな資金の流れから取り残されてしまう危険性もあるので、海外の動向を見ながらキャッチアップしていく必要があるだろう。

金利指標改革の作業終了と今後の課題

ARRCに続いてEuroのRFR Groupも11月13日の会合をもって最後となった。日本においても金利指標フォーラムの活動が終了となったが、第6回の会合の議事録によると、実務者ネットワークを維持するということで、一応フォーラムが存続する形になるようだ。定期的に会合を行うことはないが、当面は日銀からのメールによる情報共有にとどまるとのことである。

米金利については、ターム物SOFRのディーラー間取引の解禁が焦点となっているが、欧州に関してはEuriborの行方が課題として残っている。このため、日本と同様に、何か議論すべきトピックがあった場合は再度集まる可能性もあるとESMAはコメントしている。

デリバティブ取引に関しては半分以上がESTRに移っており、将来的にさらなる移行が進む可能性があるが、キャッシュに関しては、未だEuriborが存在感を保っている。そもそも債券などのキャッシュ商品に関しては、ターム物RFRを第一順位として優先して使うべきとしてしまったのが間違いだったのかもしれない。日本でもターム物のTORFの利用は進んでおらず、ユーロでもターム物ESTRの利用は限定的である。

当面は、Euriborの決定に関して、Liborで起きたような恣意的に金利を操作できることがないように、指標改革を続けていくしかなさそうだ。その意味では日本のTIBORと同じような状況になっている。

米証券決済T+1化のインパクト

来年5/28から米国で始まる(カナダは5/27)証券決済のT+1化まであと半年を切った。これによって決済リスクの軽減と、効率性、流動性の向上が期待されているのだが、同時にオペレーショナルリスク、フェイルの増加が懸念される。これを受けて各社ともさらなる事務フローの標準化と自動化を進めている。

米国での準備はほぼゴールが見えてきた感はあるが、米国外では、時差の問題もあり懸念材料が尽きない。米国の問題ということもあり、米国外での意識がそれほど高まっていないようにも感じる。とは言え、アジアで行われるクロスボーダーの取引の約半分は米国がらみであるため、本来は日本を含むアジアへのインパクトは意外と大きい。もともと取引のAllocation、コンファメーション送付、取引のBookingとAffirmationなどにかかる時間はアジアの方が長かったので、その影響も必然的に大きくなる。

また、米株や米国債などの決済が短縮されるということは、それに関連して行われる為替の決済に対しても注意を払っておく必要がある。先月11月には、FXPA(FX Professionals Association)から「FXPA Buy Side Guidance in Preparation for T+1 Settlement」が出されている。ここでも自動化やシステム化の重要性が強調されている。今回の変更は証券に関するものだけだと思っていると、実はこれに関連するあらゆる取引の決済期間短縮化につながる可能性がある。

証券のフェイルというのはグローバルでは頻繁に起きており、そのためのフェイルチャージも決められている。当然フェイルは望ましくないことなのだが、ある程度マーケット慣行として認められていた。これをもう少し厳格化しようという動きがあった後でのT+1化なので、フェイルが増えて混乱が増幅する可能性も否定できない。だが、T+1化を進めても結局フェイルが多発してT+2がほとんどになってしまったということだと本末転倒となってしまう。結局この問題は標準化とテクノロジーによって解決するしかないので、システム投資をケチると、大きな問題に発展しかねない。

日本では、フェイルというと大きな事務ミスとみなす市場参加者も稀に存在するので、その意味では真面目な国民性が表れているのだが、T+1化の後に混乱が発生しないとも限らない。特に為替がからんでくると、CLS決済も進んでいない中でフェイルが起きると、余計な決済リスクを取ることになりかねない。ここまで高速の処理が要求されるようになると、巨額のシステム投資を避け、人海戦術で乗り切ろうというのはもはや成り立たなくなってくる。

日本でも、銀行証券、ブローカー、カストディアン、信託銀行、アセマネ等で共同して自動化を促進していった方が良いのだろう。特に時差を考慮するとT+1だとあまり時間に余裕がないため、為替周りが特に気になるところである。

レポ取引のクリアリングは必要か

昨年のGilt Shockに際して英国金利が乱高下したことを受け、CCPの当初証拠金負担が上昇した。これを受けて当初証拠金が高止まりしていたLCHのRepoClearでは、証拠金モデルを見直しが先月行われた。とは言え、当然のことながら相対取引に比べたコスト高は否めず、取引が一方向に偏りやすいバイサイドがレポのCCP取引を増やすとは思えない。

CCPとしては急激な市場変動に備えて十分な当初証拠金を徴求しておかなければならないのだが、市場変動が激しくなると99% VaRなどのリスクをカバーする証拠金額が大きくなってしまう。特にレポの場合は相対取引のヘアカットが極端に小さいのが市場慣行となってしまっているため、清算取引と非清算取引の証拠金に大きな差が発生している。

現状の金利変動を考えると、レポという商品は清算集中が不可能な水準になっているのではないかと思われる。現在でも通貨スワップやスワップションの清算は進んでいないが、通貨スワップの決済リスクの他に、市場急変に備えて徴求しなければならない当初証拠金が大きすぎるというのが最大の理由だと思われる。

おそらく資本コストが高く、多くのポジションを抱えるセルサイドにとっては清算のメリットはあるが、エンドユーザーにとっては、引き続き相対で取引を続けるのが最も現実的な選択肢となっている。この状況を変えられるとしたら、清算集中規制だが、これにはかなりの抵抗が予想される。というのも、今回は銀行からの抵抗というよりはエンドユーザーからの抵抗となり、コスト高が国民の年金パフォーマンスなどに影響してくる可能性があるからである。

現実的には市場急変時には、債券買取プログラムや、政府によるファイナンスが可能になることが多いので、特に国債レポ市場は、CDSや金利スワップとは様相が異なる。なかなか受け入れられないアイデアだとは思うが、レポは銀行と超大手のBalanced Portfolioを持った市場参加者に限った清算が中心で、バイサイドは引き続き相対というのが、しばらくの間のスタンダードであり続けるだろう。

ディーラーを経由した清算も可能ではあるが、通常はエンドユーザーのポジション管理はディーラーに依存しており、CCPサイドでできることは限られている。エンドユーザーが大きな一方向の取引を増やしたとしてもConcentration Chargeをそのエンドユーザーに転嫁することは現実的には結構難しい。しかもこうしたユーザーが増えればディーラーの資本コストも上がってしまう仕組みになっているため、ディーラーとしてもこうした顧客との取引を増やすインセンティブはあまりない。

クリアリングサービスを提供することによって、他のビジネスの収益が増えれば意味はあるかもしれないが、Execusionは利益相反の観点からこの二つはリンクしておらず、逆にクリアリングしていることをレバレッジにして取引執行の収益を取りに行くことは認められていない。したがって、収益性が低く資本コストの高いクライアントクリアリングビジネスからの撤退というのは、大手ディーラーの中では常に議論されている。

選択肢としては、規制によってレポ取引のヘアカットを増やし、相対取引のコストを上げることによってCCPへの移行を促すという方法が最もやりやすい。あるいはクリアリングの資本規制を見直してクリアリングブローカーを増やし競争を促すという方法もあるが、これは当局サイドには評判が悪い。通貨スワップで使われているSwapAgentとCCPの中間のような仕組みができるとレポ市場にとっては最高なのだろうが、これについてはさらなる技術革新が待たれるところである。

為替ヘッジコストと円相場

Bloombergにも出ていた通り、生保の外債為替ヘッジが極端に落ち込んでいる。過去にさかのぼると2015年9月末以来の落ち込みで、今年上半期のForward、FX Swap、Optionのヘッジ比率は50%を割っている。

足元の対内対外証券投資のデータを見ていると、外債のネットの売り越し状態は収まりつつあるため、FRBの利上げ停止により徐々に外債投資が復活する可能性もあるだろうが、現在5.7%にまで上昇したヘッジコストが下がるかどうかにも注目が集まる。基本的に外債投資が戻っても、ヘッジコストの高まりからUnhedgeで持つところが多くなる可能性がある。

通常このヘッジはFX Spot取引と3か月Forwardで行うことが多いが、現在は米金利が逆イールドで、3か月金利が極めて高くなっている。SOFRに比べて米国債のイールドが上がれば、若干有利になることもあるが、それでもまだヘッジコストが高い。

また、日銀の政策変更が緩やかなものになると予想されている現状においては、米国が利下げをAgressiveに前倒しで行わない限りは、急速な円高は起きにくいと判断すれば、ヘッジを行わないというのは自然な行動だろう。

米利下げが急速に進んだり、日本で賃金上昇が確認され、日銀の政策変更のスピードが上がってくれば、円高リスクが出てくるが、現状ではこのリスクは低いとみている投資家が多いのだろう。

金融庁の「有価証券モニタリングレポート」

今年9月に、金融庁から「有価証券モニタリングレポート」が出されている。これは、地銀の有価証券運用について、リスクテイク規模が大きい先を対象に行った調査結果をまとめたものである。有価証券投資自体を問題視している訳ではなく、体力に見合った投資とリスク管理の重要性を強調するものとなっている。


 そもそも地銀がなぜ有価証券投資を行う必要があるかというのが重要だと思うが、レポートでは、有価証券投資を「金融仲介機能発揮のための経営体力を維持する上での主要業務と位置づけるか、あくまで余裕資金の運用業務と位置づけるかといった点を明確化すべき」としている。

本来経営体力維持のために投資をするというのは不自然な気もするのだが、預金は集まるものの投資先がないからある程度仕方がないということの裏返しなのかもしれない。ただし、株式は少なくほとんどが債券なので、堅実にキャリーを稼ぎたいということなのだろう。

アメリカでも急速に預金が集まりすぎたシリコンバレーバンクが、その資金を米国債に振り向け、金利上昇時に損失を拡大させたのは記憶に新しい。レポートの中では、1%の金利上昇時に資本の15%程度を毀損するという分析結果となっており、これを「相応の規模」としている。画一的な対応を求めるものではないとしているが、この辺りがある程度の目線になってくるのだろう。米国で問題になった地銀と比べるとそれでもマイルドな水準に見えてしまう。

そのほかリスクの3線管理、ストレステスト、リスクアペタイトフレームワークなど、海外でも取り入れられているリスク管理手法の徹底が主張されている。運用やリスク管理に携わる人材不足も指摘されている。外貨流動性、資本減少リスクへの備えなど、今後のリスク管理フレームワークを確立するには良いガイドラインとなっている。

10年前には50%近かった日本国債の占める割合が19%まで低下しているのは大きな変化に見えるが、その分増えているのは地方債なので、国債と地方債を含めて考えると微減となっている。投資信託は19%に増えているが、株式は極めて少ない。

これを資金循環表などと組み合わせてみると、個人が銀行預金を増やし、その預金の一定割合が銀行を通じて債券に流れているのがわかる。その他の企業ではおそらく持ち合い株なども含めれば株式の比率が若干高いだろう。貯蓄から投資へとよく言われるが、個人が預金に集中させているとは言え、そのお金は銀行を通して国債や社債に流れているようだ。

過去20年間に米国の個人金融資産が3倍になった一方、日本は1.4倍とよく言われるが、非金融法人では意外と株式を持っている。一方金融機関の資産は社債に集中している。過去20年の株式パフォーマンスを考えると、海外の方が着実に金融資産を膨らませているのは確かだが、日本でもある程度は法人部門にその恩恵が一部蓄積されている。ただし、株式の割合は低く、持ち合い株なども多いため、確かに効率は良くない。ただ、それでも一部の大企業ではこうした蓄積があるため、賃上げ余力はあるのかもしれない。

銀行部門で見ると、負債の半分程度を預金で集め、そのまた半分を貸出しに回し、資産の2割近くを現金で保有しているように見える。比較的欧州に近い形だが、米国は現金預金比率は資産全体の2%程度しかない。常にお金を循環させていることが、経済効率を高めているようだ。また米国では、その他金融機関に属するセクターの資産が銀行の倍程度あり、欧州でも銀行と同レベルである。日本では銀行の約半分がその他金融機関である。米国ではPTF(Principal Trading Firm)と呼ばれる市場参加者がおり、この取引シェアが拡大している。米国市場ではもはやCitadelのようなPTFなしでは取引が成り立たなくなりつつある。米国債市場ではPTFのシェアは50%を超えており、今年前半のSVB破綻後はシェアが60%を超えた。

日本においては銀行のプレゼンスが他国に比してかなり大きいが、これだけ集まった資金をいかに成長分野に流していくかが重要になってくる。国債や外債などではなく、今後の日本を変えるような、新しい成長分野に資金が流れることが望まれる。

日本でもG-SIBスコア削減が進捗

米銀大手行の第三四半期のG-SIBスコアが公表されてきているが、やはりどこもスコアを抑制しているのがわかる。ヘッジニーズが高まりデリバティブ取引が盛んになっているにも関わらず、デリバティブ取引の想定元本は第三四半期に減っている。JPMなどは債券のInventoryも減らしており、何とか今のBucketに留まろうとしているように見える。

マーケットでもG-SIB削減取引が頻繁にみられるようになってきているので、第四四半期にはさらなるスコア削減が予想される。

国別にスコアを見ていくとスコア上位には中国の銀行が並ぶようになってきた。同時に興味深いのは、欧米銀がスコア削減努力を続ける中、中国とともにスコアを伸ばしてきた邦銀勢のスコアが抑制されつつある点だ。邦銀も遅ればせながらコンプレッションなどを進め、スコア削減に取り組んでいるように見える。メガバンク3行とも、特に2022年の削減幅が大きい。中国の銀行は特に気にせずこれまで通り右肩上がりにスコアが上がっている。フランスの銀行があまり削減に熱心ではない点も興味深い。

これらはその国の規制を反映しているところもあるが、バーゼルなどの共通ルールで業務を行っている限りは、もはや大きいことは良いことではないのは明らかなので、極力効率的に業務を行っていく必要があるのは間違いない。

その意味では邦銀がようやく本気になっているように見えるのは心強い。なぜなら、市場でここまでG-SIB削減取引が出てくる環境においては、これをうまくコントロールしていかないと、余計なリスクを押し付けられてしまう可能性があるからである。一時期CVAやFVAでリスクを押し付けようとした市場参加者がいたのは事実なので、こうした動きに敏感になっておくのは極めて重要であろう。

米国債取引の清算集中規制はとん挫するか?

SECが米国債の清算集中義務化の議論を延期するという記事が出た。個人的にはCCPでの清算は望ましいと思っているのだが、これはデリバティブ取引やレポ取引のようなカウンターパーティーリスクを取る取引に関してのもので、国債のキャッシュ商品の売買に関して清算を義務付けるのが、市場の安定性と効率化につながるのかよくわからない。どちらかというとマージンや清算基金のコストが高すぎて全体としての効率が悪くなってしまうのではないかと思う。

年内には詳細がまとまると言われていた米国債の市場改革プランであるが、各方面から異論が噴出しているため、来年第一四半期に結論を先送りすることになったようだ。もともとのプランとしては、過去6か月のうち4か月において、米国債の取引量が$25bnを超えた場合は、一連の資本規制と報告規制をかけるというものだった。ある程度の取引を行うヘッジファンドなどが対象となるため、そうした会社が$25bn以内に取引を抑えようとすることにより、市場流動性に悪影響が及ぶと懸念されていた。

個人的にもこの懸念はもっともだと思っており、規制が強化されるのなら取引量を抑えようというのは当然の行動である。昨今はカウンターパーティーリスクや資本不足の懸念よりも、市場流動性が枯渇してることが最大のリスクだと思う。この状況下でさらに流動性を悪化するような規制は極力避けないと、米国債市場の価格変動がさらに大きなものになる可能性がある。昨今の価格急変はSVBショックを引き起こし、米国債の取引量の多い日本の機関投資家も痛手を被ったところが多いので、日本としても無視できない。

昨今の流れだと来年の第一四半期にルールの最終化ができるとは思えず、いったん仕切り直しになる可能性も高いと思っている。