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日本の社債市場活性化へ向けた取り組み

日本では、社債市場活性化のために長年検討が続けられてきたが、未だに社債市場の規模は海外に比べて格段に小さい。

この度JSDAから「社債市場の活性化に向けた今後の検討について」とう資料が公開されている。一方金融庁のホームページでも9月に社債市場の分析資料がポストされている。

以前は年間10兆円を下回っていた社債発行額だが、最近ではコンスタントに10兆円を超えるようになっており、多い年は15兆円を超えている。残高ベースでも100兆円を伺う水準にまで増えてきている。
ただし、米国の発行額は年間200兆円に近く、残高も1400兆円近いため、日本との差は歴然としている。レポートが示すように、日本の社債は9割以上がA格以上で、優良企業のみが発行するものになっている。投資する側から見ても、日本では株式ファンドばかりが選好され、債券ファンドはほとんど見られない。投資家層も銀行や保険、年金がメインで、個人が投資をする割合は極めて低い。

したがって、投資家保護の観点も株式に比べると注目度合いが低く、プロ向け市場となっている。そもそも優良企業による発行が主なので、利回りも低く、デフォルトなどしない前提で取引されているので、いざという時の想定外の損失が大きくなる。個人的な社債トレーディングの経験からも、低金利のクーポンの社債を買って最後まで持ち切るというのはあまり面白い取引ではない上、何か信用不安が発生した際には突然時価評価額が急落して損失を被るため、非常に取引しにくい商品であった。

今回は投資家保護の観点から、コベナンツ強化が課題として挙げられている。社債権者の権利保護を主眼に投資家保護をしようという方向性は正しい。しかし、だが、コベナンツ条項を入れたからと言ってすぐに社債取引が増える訳ではないので、複数の改革を同時に進めていく必要がある。

最近デフォルトが発生し投資家が損失を被った事例を下にJSDAが「近時のデフォルト事例に見る我が国社債市場の課題について」を公表している。なぜか企業名が伏せられているのでここでも書かないが、久しぶりの社債デフォルトであり、社債権者の権利の弱さを認識する事例だったのは確かである。個人的にも、いつも銀行などの方が情報を持っているだろうし、発行体ともつながっているから、情報は入ってこないし、きっと銀行には劣後してしまうんだろうなと思いながら投資をしていたが、確かに海外では銀行と少なくとも同列であるべく様々な手当てがなされている。

今後もJSDAで以下のような点を中心に議論していくとのことなので、社債市場の今後の発展に期待したい。

  1. コベナンツ付与のあり方
  2. 社債管理補助者に期待する役割
  3. 社債権者への適時適切な情報提供
  4. その他、社債権者保護に関する事項

ARRC解散

ARRCから11/8のミーティングが最後になったとのメールが来た。LIBORからの移行が終了し、ARRCもその役割を終えることになったようだ。数年するとLIBORって何?という人が増えてくるのだろう。

2019年から議長を務めたTom Wipf氏がUBSに移ったタイミングでARRCから退いており、6月末のUSD LIBORの公表停止も無事完了したため、当然といえば当然なのだろう。とはいえ、ターム物SOFR等の利用制限などは、ARRCのベストプラクティスガイダンスによって規定されており、今後ARRCという会議体がなくなることに若干の不安を覚えたのは私だけではないだろう。クレジットセンシティブレートの議論もARRCで行われていたので、今後はどのように議論を進めていくのかに注目が集まる。


ARRCからのアナウンスによると、今後は官民協力のもと、その他のメカニズムが作っていくことになろうと書かれているが、規制絡みの話は直接当局との交渉になるのかもしれない。


いずれにしても、金利と言えばLIBORだった世界から、全ての取引をスケジュール通りに移行させるのは並み大抵の作業ではなかった。個人的にもここまでスムーズに移行できるとは正直思っていなかった。
自らの利益のためだけではなく、業界のために膨大な時間を費やして作業をされた関係者の方々の努力に敬意を表したい。

SOFRベーシスの内部取引ヘッジ

ターム物のSOFRとオーバーナイトのSOFRのベーシスリスクヘッジができないことが問題になっていたが、銀行のグループ内でこれをヘッジする動きが活発になってきたようだ。

Ameriborなどのクレジットセンシティブレートが広がらない中、タームSOFRがローンの金利指標として幅広く使われるようになり、そのヘッジでターム物SOFRの固定受けの金利スワップニーズが増えてきた。しかし流動性に劣るターム物SOFRをメインにしたくない当局サイドの意向で、銀行がターム物SOFRの金利スワップを限定的にしか取引できないため、通常のオーバーナイトSOFTとターム物SOFRのベーシスポジションが大きくなってしまった。

このポジションをヘッジするために、銀行の中でローンを提供したり、ALMによってターム物SOFRの反対方向のニーズがあるグループ会社と取引をするという方法があるが、最近になってこのような内部ヘッジが増えてきたとのことである。当初このアイデアは当局から否定されていたと思っていたのだが、昨今ではこれが容認されいているようである。

ARRCのベストプラクティスでも、脚注でグループ内ヘッジの可能性についても触れられていたので、規制上の懸念点はクリアになっているようである。とはいえ、これが可能になるのは一部の大手銀行に限られ、しかも国によってはこのようなヘッジが認められない可能性があるので、問題の根本的解決にはならないようだ。やはり流動性の向上にしたがって、銀行がターム物SOFRを自由に取引できるようにしていくしかないのだろう。

社債担保を使ったDirty CSAの広がりと日本のデリバティブプライシング

欧州で適格担保を広げる動きが拡大している。昨年のGiltショックを受けて社債担保を適格担保に入れて欲しいという要望が多い。適格担保に社債が入るとデリバティブ取引のプライシングが変わってしまうので本来は望ましくないが、手持ち債券を売却して現金化を迫られた経験から、極力適格担保を広げるニーズがさらに高まっている。

現金担保のみでプライシングへの影響がなく、極力標準的な条件にしたCSAをClean CSAというのに対し、社債を担保に取ったり、非標準的な条件が入ったCSAをDirty CSAと呼ぶが、こうしたDirty CSAのもとで行う取引は、プライシングや価格評価の方法が不透明になってしまう。

ディーラーによってプライシングが異なるので、Novationや解約時に問題が発生することも多い。社債が入ることによってディスカウントカーブが変わるという影響のみならず、レバレッジ比率規制などによる資本コストも取引に織り込む必要もあるので、さらに透明性が低くなる。

社債のディスカウントカーブについては、Forwardのレポスプレッドを考慮してCheapest to Deliverの担保を決めるという手法を取るところも多い。つまり5年までは円がCheapestだが、それ以降はEURというように、フォワードカーブによって複合的なカーブを引くところが、主流ではないかと思う。

ディスカウントだけを見ても、長期のフォワードのレポ市場の動きを考慮して社債のファンディングカーブを引くのは極めて難しい。せいぜい手前の数カ月くらいのマーケットは観測可能だが、それ以降の長期になると、ある程度の前提を置いた上でカーブを引くしかない。特に日本などは社債のレポ市場がほぼ存在していない。

日本の場合は、取引の時価にあたる変動証拠金(VM)に対しても債券が出せることになっており、VMが現金のみに限定されている海外とは事情が異なるが、これまではプライシング上の差が大きな問題になることはなかった。というより、そこまで精緻にプライシングする人が少ないということなのだろう。

通常年金ファンドは固定金利を受けることになるので、ディーラーとしては金利上昇にReceivableが経ちエクスポージャーが増える。これを銀行間やCCPとヘッジをすることになるのだが、このヘッジに対してはVMとIMを拠出する必要がある。海外ではVMは現金のみなので、社債を受け取ってしまったディーラーは、それをレポに出して資金調達をする必要がある。そして顧客向けと銀行間のヘッジに対して資本コストがかかることになる。顧客の方でレポを行って現金担保を拠出しても良いのだが、レポ市場へのアクセスが限られているとこれが難しい。

また、通常社債担保については、信用力やテナーを考慮したヘアカットが科されるのが一般的である。ヘアカットが10%であれば、社債をレポ市場に出しても90%しかファンディングできない。昨今では当局サイドで最低ヘアカットを決めようという動きもある。

こうした様々なコストを反映させると、スワップの価格が5-10bpずれることも頻繁に起きる。日本でもようやく金利が上昇しつつあるため、ディスカウントカーブが重要になってくるのではないだろうか。欧州の議論を見ていると、そろそろ精緻なプライシングについて検討を始めた方が良い気がする。

Volume Discountは悪か

先月SECから出されたVolume based Exchange Transaction Pricingに関するガイダンスが話題になっている。証券会社を通じたオーダーに関して取引量に応じた手数料体系を禁じるというものだ。理由としては、エージェンシーとなるブローカーの公平な競争を促すためとのことだ。つまり、Volume baseにすると、巨額の取引を扱う大手銀行が有利になっており、中小ブローカーが支払う手数料が割高になっているという主張だ。また、月間の取引量などによって事後に価格が決まることもあるため、取引執行時にFeeが確定しないという点も問題視されている。

そもそもこうしたVolume Discountはかなり広範囲に使われており、OTCのCCPの料金体系でも幅広く使われている。金利スワップなどのブローカーに支払う手数料にも一部使われており、業界では幅広く受け入れられてきた慣行である。これは何も金融に限らず、まとめ買いをすればそれにかかるコストも少なくなるので、一般的な小売でも頻繁にみられる慣行だ。こうした慣行を認めるガイダンスも過去に出されていることもあり、一貫性にかけるメッセージが出されている点について業界からの批判が大きくなっている。

SEF導入の時もそうだったが、SECトップのGensler氏は中小金融機関やブローカーも含めて、アクセスを大きく広げ、競争を促すことを重要視しているように見える。今回のガイダンスの是非については色々と議論があるだようだが、日本では、ある程度の資本を持ったところがサービス提供をした方が安全という雰囲気があり、あまりこうした話は聞かれない。特にCCPへの参加者に関しては、より安定を志向し、一定の規模の資本とリスク許容度を持った参加者がその仕組みを支える制度となっている。

確かにあまりに行きすぎたVolume Discountを与えるのは良くないのだろうが、実際に大きな取引を一括して行う方がコストは低くなるので、それに応じて手数料を変えるというのは、極めて自然な考え方だろう。今後の議論の行方が注目される。

CCPへのアクセスとPorting

欧州の年金基金に対しては長年清算集中規制が免除されてきたが、その免除期間が終わりCCPへのアクセスが重要な問題になってきた。金融危機後にCCPへのシフトによるカウンターパーティーリスクの削減が進み、CCPが金融の安定に資する役割を果たしたことは間違いない。

だが、このブログでも何度か述べてきたように、CCPへのシフトを進む一方で、CCPに顧客をつなぐ役割を果たすブローカーに対する資本チャージが大きくなり、クリアリングブローカーの撤退が相次いだ。ここまでCCPで取引を清算する市場参加者が増えてくると、ブローカーサイドのキャパシティに限界が来ているように思えてならない。

IOSCOもESMAも、どんな市場環境下にあってもCCPへのアクセスが安定的に供給されることが重要と強調しているが、果たしてこれが確保されているかどうかというと大いに疑問だ。ブローカー破綻時には顧客ポジションがほかのブローカーに移せるようにポーティングという仕組みがあるが、これが機能するとは全く思えない。

アルケゴス以降のリスク管理は本来のリスクというよりは、サイズに偏ってきている。ポジションが小さければ新聞紙上を賑わす事件にならないからか、たとえリスクが小さくても、とにかく大きな取引に躊躇するところが増えてきた。CCP取引はそのサイズが大きなものになりがちであり、CCP自体がToo Big To Failである。そして担保のファンディングコスト、流動性リスク、資本コストがますます大きくなってきている。ロシア問題を受けてCountry Riskへの注目が高まる中、CCPへのリスクについて懸念する声も大きくなりつつある。

Non Financial Riskへの懸念の高まりにより、口座開設にも慎重になるところが増え、大手金融機関が破綻したときにその顧客の巨大なポジションを2日といった短期間で受け入れるのは、どう考えても不可能だろう。すべてのCCPがこのポーティングを前提に制度を作っているだろうが、危機時の対応については、何らかの対策をしないと、ポジション移管ができず、CCPとしては顧客ポジションを解約せざるを得なくなる可能性は極めて高い。

欧州では、顧客がブローカーを経由せずCCPにアクセスするIndirect Clearingも検討されているが、OTC取引でこれを大規模に行っているところはない。EUではクリアリングブローカーサービスが、Frandt(Fair, Reasonable, non-discriminatory and transparent)であることを求めているが、これは顧客保護の観点からの提案である。しかし、クリアリングブローカーのキャパシティが減少していく中、ブローカーに対する負担軽減を少し検討した方が市場全体の安定性が増すように思う。

FMI原則では、Portingが確実に行えるような仕組みを準備するようCCPに求めているが、バクアップブローカーを準備していない顧客もあるだろし、ブローカーにはそれをRejectする権利もある。EMIRのように事前にバックアップブローカーにPortingを約束する契約を締結することを求めない限り、実際にPortingが確実に行えるかは定かでない。そもそもブローカーにバックアップのサポートを提供するインセンティブが少ない。おそらくそれを約束してしまうとその分の資本チャージがとられることになる可能性もあるし、実際にPortingが起きた時にどのくらいの流動性が必要なのかを常に把握しておく必要がある。とはいえ、このサービスに大きな利益をチャージできるはずもない。

唯一ワークしそうなのは、緊急時にはKWCの要件を一時的に緩めたり、資本チャージを免除したりといった方策だろう。または米国のように裁判所の決定をもとに強制的にPortingを行うという方法だろう。というより、実際に事が起きた時は強制的なPortingが行われる可能性は極めて高い。

いずれにしても、今のままでは、次の危機に耐えられないだろう。これを解決するにはCCPサイドの自助努力だけでは難しく、当局からの何らかのサポートが必要になるのではないだろうか。

英国がボーナス上限を廃止

英国が明日10/31からボーナスキャップを外すと報道されている。2014年に基本給の2倍までとしていたボーナスの上限を廃止し、英国シティの競争力を高めようという狙いのようだ。そもそも英国は当初からこのEU案には反対だったので、Brexitによって独自のルールを作ることができるようになった。

英国当局はこのボーナスキャップが金融機関で働く人のMobilityの阻害要因になっていたと主張しており、業績悪化時に報酬を下げることが可能になるため、金融の安定につながると述べている。

昔はこのキャップがなかったので、金融機関の基本給は低く抑えられており、好調な年は報酬を大きく上げる一方、不調時には報酬を大きく下げることで、収益を安定化させることができていた。ただ、ボーナス上限がないと巨大なリスクを取って収益を上げようというインセンティブが働くという理論で、キャップを導入することになったと記憶している。

キャップが設けられてからは、報酬水準を保つために基本給の引き上げが行われたが、逆に収益低下時に報酬を下げることができなくなり、あらゆるところで弊害が生まれた。そもそもボーナス上限がないからといって、巨額のリスクを取ることなどは昨今の規制環境下ではほぼ不可能だ。キャップが廃止されても、ボーナスの一定割合を数年間にわたって支払ったり、業績悪化時には支払ったボーナスの返還を求めることができるため、それほど大きな影響があるとは思えない。

基本給を上げすぎると、報酬に差がつかなくなり、以前なら報酬を下げて人をキープすることもできた場合に、解雇せざるを得ないケースが増えたりといった弊害もあるだろう。英国だけの動きだが、特に上限廃止で問題がが生じることはないものと思われる。

米国の決済短縮化のインパクト

SECが米国株、債券の決済期間のT+1化を打ち出し、8月から隔週でテストが始まっているが、欧州ETFに関して懸念する声が大きくなっている。欧州では約40%のファンドが米国関連の資産を扱っているため、ETFの決済がT+2で行われる一方、米国証券の決済がT+1になると、マーケットメーカーがミスマッチを埋めるべくファンディングコストを負担しなければならなくなることが懸念されている。期限に遅れてペナルティを科されるケースも増えるかもしれない。

米国内では大きな問題は生じないだろうが、ESMAが10/5付のペーパーで示した通り、ETF業界のコスト高につながる可能性がある。アジアではあまり話題になっていないが、同じ問題が発生するはずである。

大手行は問題ないかもしれないが、すべてのオペレーションがT+2決済を前提に作られているため、中小金融機関において、米国証券のみT+1にするための準備ができているのかどうかは心もとない。

これを避けるにはオートメーション化を進めるしかないのだろうが、アジアの場合はこれも遅れている。欧州ではETFのみ免除を検討するという話も聞かれるが、アジアも何らかの準備をしなくて良いのだろうか。日本の場合はETFが少なく投資信託も特殊なフローになっているのであまり問題ないのかもしれないが。。。

FRTBの実務的な理解が遅れている

遅まきながらFRTB関連の作業が本格化してきた。まずはデータを集めるのに苦労しているところが多いという報道もあるが、今のところモデル担当やクオンツ、ITなどの部門が必死で作業をしている。若干懸念なのはフロントのトレーダーやシニアマネジメントがその影響を正しく理解できていない点である。誰もがFRTB対策が必要とは認めているものの、そのインパクトについて詳細を語れる人があまりにも少ないように思う。

以前もSA-CCRの時にも似たようなことがあったが、結局施行されて初めてその重大性に気づくことになり、市場インパクトが突然大きく顕在化するということになりかねない。

一方で、作業の煩雑さと、昨今の市場急変によるボラティリティの高まりから、内部モデルをあきらめ、標準法で資本を積んだ方が良いという意見が支配的になりつつある。あまりに標準法の資本コストが高い分野に絞って内部モデル方式の承認を求め、その他は標準法でという方針になっているところが多そうだ。しかし、内部モデルを使うデスクが少なくなると、全体的なDiversificationが効かなくなるので、内部モデル採用デスクの所要資本が大きく変動しやすいということになる。

何とか内部モデルの承認を取ったとしても、実際に大きな市場変動が起きてモデルが不十分と判断された場合には、結局標準法を使うことになる。こうなると最初からすべて標準法を使った方が良いのでないかという話になる。FRTBの検討が始まったころは、ある程度の内部モデルの利用を想定していたため、若干楽観論が支配的だったが、結局すべて標準法ということになるとFRTBの影響は思ったより大きくなる可能性が高い。

そして、すべて標準法を使っていた方が、市場急変時に資本コストの変動とROEの急低下を避けることができ、プロシクリカリティを避けられるという効果もある。VaRではなく期待ショートフォール方式なので、Volatilityは高くないはずと言われていたのだが、ここまで市場変動が激しくなると、期待ショートフォールでもあまり変わりがなくなってしまう。特に株式やコモディティに関しては、昨今の市場変動だとあまり内部モデルに手間とコストをかけるのは割に合わないかもしれない。

昨今では、リスク管理にストレステストやシナリオ分析を多用するようになっており、極端な市場変動を想定して日々の業務を行うようになっている。したがって、市場ストレスを含んだ内部モデル方式を使うことによる資本削減効果は少なくなっており、これは今後もさらに少なくなっていくことが容易に想像できる。

最大手行ですらこのような議論をしているのだから、ほとんどの銀行において内部モデル方式は、あまり割に合わないのではないだろうか。とはいえ、そのような議論が現段階で詳細に行われているのかどうか定かではない。そろそろお勉強の時期を終えて、実際にどのように業務を行っていくのかを真剣に議論した方が良いのだろう。

英国当局レターから伺えるリスク管理高度化の方向性

英国中銀からのDear CROレターの内容についてもう少し考察してみる。Appendixには今後のリスク管理に重要な項目が列挙されているので、それを一つずつ見ていく。

カウンターパーティーリスクストレステスト

従来はポテンシャルエクスポージャー(PE)によるリミット管理が主流であったが、昨今の市場変動に際してPEでは不十分という意見が支配的となった。今回のレターで指摘されている通り、市場急変時の担保評価の変動によるリスクが十分に把握されていなかった。Adhocなストレステストや定期的なストレステストを行うところもあったが、それでは不十分とされている。こうなると日々数多くのストレステストを走らせる必要があり、それに応じてリミット管理を行うことがほぼ義務付けとなっている印象だ。2nd Line of Defenceがこれを管理すべきとあるので、信用リスク管理部等の第二線がこの役割を担っていくことになる。

集中リスク

顧客ごと、ポートフォリオごとの集中リスク管理が不十分と指摘されている。市場環境によっては流動性がないリスクについて適切なリスク管理やリミット管理ができるように、リスク管理を高度化させなければならない。

MPOR

古くて新しいトピックであるが、Margin Period of Riskがリスク管理上精緻に反映されていないという批判である。クローズアウトに時間がかかる場合、流動性に劣るポートフォリオの場合、非標準的な条項が入っている場合にはMPORを調整してそれが適切にPEなどのリスク管理指標に反映されていなければならない。

担保のヘアカット

担保の種類によって最低ヘアカット水準を2nd Lineが決めるプロセスができていない銀行があるとの指摘である。確かにレポのヘアカットなどは市場慣行で決まっている部分も多々あると思うので、フロントでヘアカットを決めてしまっているところもあるかもしれない。ここは以前から顧客交渉において非常に難しい部分はあったが、今後はある程度強く交渉していく必要があるのだろう。ただ、もう少し当局サイドからのPushがないと、大手アセマネやファンドの抵抗が予想される。少なくとも2nd lineが設定したヘアカットポリシーが必要とのことなので、銀行としては対応が必要となる。

顧客デューデリジェンス(新規、継続)

特に英国のLDIについての懸念なのだろうが、取引時にLDIファンドマネージャーの運用ファンドのリスクを、資産タイプごとに注意深く考慮していない銀行が多いとの批判である。ファンドのサイズやレバレッジ、流動性の違いに応じてリスクアペタイトを調整すべきとある。多くの銀行がこれができていないというのが若干驚きだが、特にLDIについてはこうしたリスク分類が不十分だったのかもしれない。運用資産の投資家にリコースがあるかどうかもきちんと把握すべきとあるが、これもファンドリスク管理の基本なので、もしかしたら中小銀行でこうしたプロセスがずさんなところがあったのかもしれない。

ファンドマネージャーの情報開示

こちらはアルケゴスに絡む問題なので理解しやすいが、NAV、流動性バッファ、レバレッジ、投資戦略などファンドの最新情報が常に把握できていないという批判である。担保が入ってこなかった時に迅速な意思決定を行えるように普段から情報収集を怠らないようにするのは基本である。通常はNAVトリガーをつけて定期的なディスクロージャーを義務付けているだろうが、ポジションが大きい先については頻繁な会話が必要となる。

オペレーション制約

ここからはオペレーションに関する問題になるが、まずは決済や担保プロセスのオペレーションについてである。ここでミスのないようにオペレーションの人材を増やすと書かれているわけではなく、オートメーションが重視されている点に注意が必要である。日本では、人員を増やしたり、ダブルチェック、トリプルチェックをすることによってミスを無くそうという考え方が支配的だが、海外ではすべてSTP化など、システム化によってミスに対応しようとしている。当然顧客によってゴールデンウィークにマージンコールを免除するなどといった特殊処理は不可能である。こうしたInefficiencyを極力なくしていくようにと主張しているようにすら読める。

マージンコール

担保コールやDisputeなどのプロセスがHighly Maualであることが問題視されている。ここでもAutomationが重視されている。市場急変によってマージンコールが増えれば、全てのリクエストを捌くことができなくなることが懸念されている。日本やアジアでは、巨額のマージンコールに応える場合には役員クラスの決済が必要といった話が聞かれる。当然データエラーがあるなら精査する必要はあろうが、マージンコールに決済が必要というプロセスは当局から見ればナンセンスである。本項目は「We expect firms to continue to focus on the automation of these margining processes.」 という一文で結ばれている。

担保に関する代替手段

市場急変時に緊急的にその他の担保を受け入れられるようにすべきという主張である。ここはおそらく手配済のところが多いだろう。

通貨スワップに対するリスクアペタイト

この後のいくつかの項目は省略するが最後にこの通貨スワップに関するコメントがある。ストレス時に対応できないほどの大きな通貨リスクを抱えている銀行があると書かれている。特にGeneral Wrong Way Riskを抱えた銀行に対する懸念が大きいようである。期間ミスマッチによりクローズアウト時にポジション解消ができないリスクが懸念されている。日本の顧客に対するドル調達の通貨スワップはまさにこれに当たるので、このポジションがあまり大きくならないように注意が必要というようにも読める。

このように、今回のレターはアルケゴスとはほぼ関係なく、銀行がさらにリスク管理の高度化をする際の指針が示されている。既に多くの銀行が対応を終えているか、進行中なので、アジアでも後れを取らないよう、リスク管理の高度化を加速させる必要があろう。

英国のDear CROレターが日本市場に与えるインパクト

10月5日に英国中銀から大手行のChief Risk Officer宛にカウンターパーティーリスクに関するレターが送られている。これは2021年のDear CEO Letterに続くものだが、Dear CROレターとでも言うのだろうか。英国中銀のフラストレーションが表れているのか、「前回伝えられたメッセージへの対応が完全になされていないのは遺憾である」と辛らつなコメントが見られる。

前回はアルケゴス破綻の後ということで、ファミリーオフィスやヘッジファンド向けのカウンターパーティーリスク管理やプライムブローカーサービスに関するリスク管理の高度化に各行とも力を入れていたが、どうやらそこが懸念の中心ではなかったという書きぶりだ。Bank of Englandが期待していたのは、アルケゴス破綻を受けて、それをその他の商品やビジネスへのRead across、つまり同じ検証をその他の分野でも行うことだったようだ。そしてその中心になっているのはアルケゴス破綻の原因となったEquity Financingではなく、債券部門の証券貸借取引やその他関連取引とされている。つまりレポや通貨スワップがやり玉に挙げられている。

たまたまアルケゴス破綻という事件はあったものの、当局が求めていたのは、それに対応する業務改善ではなく、カウンターパーティーリスク管理全般に亘るより大きなリスク管理の高度化であり、今になって考えてみるとそれはレポと通貨スワップだったと言っているように読める。

12月までにはさらなる改善プランを示さなけれはならないので、おそらくどこの銀行もこのレターへの対応に追われているものと思われる。そしてこのレターに書かれていることを考慮することが、今後のリスク管理に不可欠になっていくのは間違いない。海外ではコンサルティング会社も含めてかなりの作業を進めているようであり、業界スタンダードが確立されつつあるように思う。過去にも同じようなことが何回かあったが、その都度日本やアジアの銀行の対応が遅れ、いつの間にかインダストリースタンダードが出来上がってしまっていた。したがって、日本でもこの内容に注意を払っておく必要がある。

例えば、日本では長年カレントエクスポージャー方式に近い想定元本×%でデリバティブのリミット管理をするところが多かったが、海外ではPEによって枠管理をするのが標準となっていた。日本だけ信用リスク管理の手法が異なってしまったのだが、規制のグローバル化にも注意を払っておく必要がある。今回のレターでは、PE方式の不十分性を強調しており、何らかのストレステストを枠管理に導入することを提唱している。といってもこれは最初のDear CEO Letterにも書かれていたので、すでに大手行の間では主流になっており、すでに導入を終えているところが多いものと思われる(ただし日本ではあまり聞かれない)。MPORの厳格管理もすでにモデル変更を行っているところが多いだろう。

今回フォーカスとなったレポについては、昨年後半から海外ヘッジファンドによるJGBショートに絡む取引が多くなり、流動性がひっ迫した。日銀が国債買い入れを増やしたため、レポ市場も激しくひっ迫した。通貨スワップについては、ドル調達が常に日本の当局からの懸念事項として挙げられているが、そのサイズも無視できないサイズになっている。その意味ではグローバルバンクでも日本のリスクについての注目が高まっている。集中リスクについても重要な課題とされているが、日本のJSCCに集中したレポ取引はかなりのサイズになる。

また、通貨スワップについては、今回のLetterでも誤方向リスクについて言及されているが、日本の市場参加者がドル調達をする場合にグローバルバンクと行う為替スワップや通貨スワップは、グローバルバンクから見るとGeneral Wrong Way取引となる。したがって、状況によっては、そのキャパシティに制約がかかる事態が容易に想像できる。

このように、英国当局からのレターは、日本のマーケットについても極めて重要な内容を含んでいるため、詳細な内容については後ほど別記事でさらに詳しく見ていきたい。

日本も資本効率重視に舵を切るか

JPMが資本規制強化に対応するためにローンの証券化を増やしている。住宅ローンやオートローン、クレジットカードローンなどを含むリテールローンのエクスポージャーを積極的に落としに行っている。新しく最終化されるバーゼルIIIでは、$100ドルのRWAに対して$2の資本を積まなければならない。

JPMのローン残高は$1.3tn兆を超えるが、米国証券化市場は$0.5tnに満たない。JPMが取り組んでいる証券化ディールのサイズは$62.5bnとの報道もあったので、全体に占める割合はそれほど大きくないように見えるが、今後規制強化が進むにつれ、この割合を増やしていくことは間違いない。

こうした証券化は確かに若干の資本コスト削減につながるだろうが、ここまで資本規制が厳しくなると、当然ローンの出し手は銀行から、ノンバンクやプライベートファンドに移っていくことになるのだろう。だからこそ最近では、ノンバンクに対する規制強化が叫ばれているが、巨大銀行に対する規制に比べれば、まだまだ序の口といった感じだ。

ここからは、いかに資本を効率的に使うかというCapital Optimizationが重要になっていくだろうが、不思議と日本ではあまりこういった意見は聞かれない。ROEが海外ほど重要指標となっていないのと、ノンバンクが海外ほど大きくないからかもしれないが、外資系のトレーディングの現場で毎日のように資本コストという言葉が使われている中、日本だけが別世界になっているようにすら感じる。証券化市場のサイズも小さい。

しかし、後5年もすれば日本でも資本効率向上を目指す銀行が増え、さまざまな資本コスト削減ツールが使われるようになっていくものと予想する。やはりそのためには、企画部門が全社的に号令をかけるというやり方よりは、資本コストを各トレーディングデスクに分配し、トレーダーやセールス誰もが資本コストを意識するようにしていくことが重要だろう。

中国から日本への資金シフト

中国当局が自国民の海外投資を制限しようとしているという報道があった。国内投資家がオフショア口座を新たに開設するのをブローカーに禁止するという内容だ。同時に中国政府が支配する中央匯金投資有限責任公司が8年ぶりに4大銀行への巨額投資をしたと報じられてい。今後6カ月にわたってこの投資は続けられるようだ。確かにこれを受けて株価は上昇している。

何とか中国の株式市場を支えようという動きの一環のようだ。逆に言うとそれほどまでに海外投資家が中国から資金を引き揚げているということのようだ。7月から9月までに海外投資家は中国A株を110億ドル程度売り越している。来年の企業収益予想は11.6%増とそれほど悪くないにもかかわらず、政治的リスクもあるので慎重な投資家が多い。GDP成長率も5%超えが予想されているので、経済データと投資家行動にギャップがあるように見える。

一方日本ではNISAの資金のかなりの部分が海外へ流れているものの、資金流入も続いている。中国と日本がこのような状況になるのは20年ぶりくらいではないだろうか。中国に回っていた資金の移動先としてインドと並んで日本が重要な候補先の一つになっている。日本に対する海外からの問い合わせも増えており、関心が高まっている。直近ではJapan Weeksも開催され、資産運用特区に関する検討も急ピッチで進められているようだ。ここまで盛り上がっているのは久しぶりなので、今後の動きに期待が集まる。

バーゼルIIIの最終化タイミング

バーゼルIIIの最終案施行に向けて欧州の銀行はすでにかなりの資本を積んでおり、2028年の期限までにあと6億ユーロのTier 1資本を追加すればよいだけだというコメントが欧州当局から出されている。これは2022年末時点でEUの157行を対象にしたモニタリング調査の結果によるものである。

欧州のバーゼルIII最終案の施行は2025年1月からとなっており、2028年までの移行期間が設けられている。米国は6カ月遅れで施行開始となるが、移行期間が短いため最終期限はEUと同じタイミングになる。英国の銀行は施行開始を米国と同じように半年遅らせることを提案しているが、最終的な結論は2024年中に出されると予想されている。世界全体でみると、約2/3の国において2024年末までにほとんどのルールが施行され、残りは2025年に適用されると予想されている。

同じくバーゼル委員会からは、資本の不足額は以前予想した78億ユーロより少なく、約30億ユーロとなるとのコメントもあった。

当初はかなり大騒ぎになったが、各銀行における分析も進み、若干落ち着きを見せている。それでも一部のビジネスにとっては大きな資本コストとなるため、さらなるレビューが必要となる。

一つ懸念なのは、今回の変更がどれくらいのインパクト及ぼすのかが簡単には把握しずらいという点である。業界内では誰しもがBasel IIIのEnd gameについて話題にしているが、その影響について詳細に理解している人が極めて少ない。このままだと実際の計算をしてから始めて思いもよらない影響が明らかになり、市場流動性に支障をきたすということもありうる。ルールをあまりにも複雑にしたため、余計混乱を招くという典型例にならないことを願うばかりである。

中国から日本へのシフトは起きるか

世界の株式市場のシェアは、米国43%、EU11%、中国11%、日本5%、香港4%、UK3%となっており、中国や香港のプレゼンスが拡大してきたが、近年は中国、香港からの資金流出が著しい。過去を振り返ると、日本から中国へのシフトがかなりの勢いで続いてきたが、それが逆転しそうな勢いになってきた。

香港の株式市場は2000年には1兆ドルに満たなかったが、それがピークで6兆ドルを超えた。そこから過去3年で急速に規模を縮小し、今では4兆ドルちょっとになっている。中国企業の株式が3/4程度を占めるため、政治的緊張から欧米投資家がかなりの資金を引き揚げていることが明らかになっている。証券会社に置く最低残高や現状0.13%の印紙税引き下げなど、各種防衛策を打ち出しているようだが、この流れは止まらない。

以前は、アジアの拠点と言えば日本だったが、2000年代に入ってほとんどが香港に移っていった。現在は香港からシンガポールへと人が流れている。方や日本は資産運用立国を目指し、様々な改革を進めようとしている。

特に今年の資産運用高度化プログレスレポートは、業界関係者にとっても、ついにここまで踏み込んで提案したかという内容になっている。奇しくも中国に振り向けられていた資金の振り替え先を探すところが多く、日本とインドが良く候補に挙げられる。その中でも日本への投資は政治的リスクが少ないため、今後も資金流入が続く可能性がある。

政治的不安から香港を離れる人も多くなっているが、話を聞いてみると、やはりシンガポールが圧倒的に強い。ただ、日本のことを聞いてみると、「考えもしなかった」という答えが返ってくる。色々とメリットを説明すると、「なるほど、日本もありかも」という人も多い。税金が高いという認識があるようだが、最高税率は高いものの、住宅コスト、物価などを考えると、ミドルクラスに対してはそれほど大きな違いはない。海外にはあまり知られていない各種税制優遇もある。

金融庁の「拠点サポートオフィス」もかなりの成果を上げつつあり、ヘッジファンド業界の間で話題に出てくることも多くなった。資産運用特区の検討も進んでいるが、香港の状況に鑑みても今が絶好のチャンスと言えよう。生活の不安を口にする人が多いが、六本木あたりに特区を作ってニセコのような英語をメインとするようなEnglish Townでも作れないのだろうか。海外の大学や病院、研究所を誘致して、English Speakerに対する職を増やし、英語で生活できる地域が日本に一つくらいあっても良い気がする。いずれにしても中華街やコリアンタウンなどは既に存在している。

他国から移民を受け入れるとなると様々な問題がからむが、こと金融に関しては、海外の高度人材を一定程度呼び込むくらいはどこの国も推進している。特に日本に移住する人が増えれば、日本のお金を巻き上げてやろうというよりは、一緒に日本を盛り上げようという雰囲気になるはずだ。政府のイニシアティブはマスコミで叩かれることは多いが、今回は是非成功して欲しいものである。

短期金利市場が次のクラッシュを引き起こす

米国債の現物と先物のベーシスを取る取引が増えている。デュレーションをロングにするには様々な方法があるが、米国では、現物国債を買う、金利スワップの固定金利を受ける、先物をロングするといった選択肢の中で先物ロングのコストが安くなっている。現物を買うとバランスシートを使ってしまい、金利スワップにもCCPへの当初証拠金、あるいは相対取引のSIMMによる証拠金がかかる。先物も証拠金が必要なのだが、相対的なバランスシートコストや資本コストが安い。

こうして先物のニーズが極度に高まると、今度は逆に、バランスシート制約の少ないヘッジファンドが現物を買って、先物をショートするという取引が成り立つようになる。こうしたヘッジファンドは現金を潤沢に持っているわけではないので、国債を買う資金をレポで調達することが多い。

なんだか堂々巡りをしているように見える取引だが、市場のDislocationを見つけて裁定取引を行うこと自体は昔から行われていることである。ただし、最近はタームレポのコストが上がっているので、くOvernightで日々ロールする投資家が増えている。こうなると、レポ市場が動いてレポコストが上がった場合に一斉に取引解約が起きて市場変動が加速するリスクがある。

昔は安かったレポコストも規制強化によって上昇し、ディーラーのリスク許容度が落ちた今では、レポ市場が混乱する可能性は以前より高くなっている。ここが震源地になって市場がクラッシュする可能性は極めて高くなっている。市場がクラッシュした時にディーラーがレポのロールを断ることが目に見えているからだ。特に年末にかけてはディーラーのリスク許容度は極端に落ちる。

そもそもタームレポとオーバーナイトレポのコストがここまで異なってきているのは、オーバーナイトだとヘアカットを取らないという不思議な市場慣行に起因しているように思う。その意味では最低ヘアカットを決めようという一連の議論にはある程度の正当性があるのかもしれない。金利スワップなどほかの同じようなリスクを持つ商品に比べ、レポだけには当初証拠金がないというのはおかしい。

レポレートは貸出金利、金利スワップやその他の商品にも波及する。LIBOR改革によってSOFRへの移行が行われたが、SOFRの計算のインプットにはレポレートが含まれているからだ。

この辺りは日本とは状況が大きく異なっている。日本の場合は先物と現物のベーシスリスクは、7年の先物と10年国債といった7y‐10yの取引で表現されることが多いが、このベーシスはたまに思いもよらない変動を見せる。そして、その都度何人かの円金利トレーダーが突然市場から姿を消すということが起きる。そもそも流動性のある先物の年限が一つしかない。レポについては「もの」がないので、そもそも歪んだ価格形成になっており、日銀の政策変更を見込んだ国外からのショートニーズが混乱に拍車をかける。TONA先物も徐々に取引が増えてはいるものの米国の比ではない。

日本では米国のような経路で危機が発生することはないだろうが、米国でショックが起きればそれが日本にも何らかの形で波及することになる。少し頭の体操が必要のようだ。

Eurex EUR Swap Outright Curveの公表開始

BGCがEurexで清算されるEuro Swapレートカーブの公表を開始した。これまではLCHのカーブにスプレッドを加える形で取引が行われていたが、これがダイレクトにEurex レートで取引できるようになる。

これによって現在10年で3-4bpある、EurexスワップとLCHスワップのCCPベーシスがなくなるかもしれないという意見も聞かれるが、Eurexのメインユーザーである欧州リアルマネーは固定受けのニーズが多いため、結局フローは偏ったままになり、特にベーシスには変化はないものと思われる。

欧州当局者としては、EURスワップが、英国のLCHにリンクされたLCH金利+αでQuoteされるのは望ましくないのだろうが、この一連の自国保護政策がうまくいくかどうかはよくわからない。ある程度は無理やり欧州に移行することはできているが、結局米国や日本などの市場参加者からすると、わざわざ流動性に劣るEurexを使う必要性は低い。

国内プレーヤーのプレゼンスの大きい円とは若干様相が異なる。日本ではJSCCのシェアが7割を超え、市場参加者は流動性の高いJSCCプライスで取引をすることを選好している。日本円金利スワップについては、海外の市場参加者がJSCCに参加したいという声が強く、LCHに対する制限をなくしたからといって、JSCCの優位は変わらないものと思われる。

CFTCが米国顧客のJSCC参加に前向きになりつつあるコメントがいくつか見られるが、同時にLCHにも門戸開放し、バランスの取れた透明性の高い円金利スワップマーケットが構築されるのが、市場参加者としては最も望ましい。やはり人為的に市場の流れを操作しようというのは、健全な市場育成の観点からは望ましくないものと思われる。

ノンバンクに対する中銀特別融資

英国中銀が銀行以外のノンバンクセクターに対する緊急融資プログラムを創設する予定だと報道された。これはコロナショックなどの市場ショック時の一時的措置ではなく、恒久的措置として導入される予定だ。

NBFI(Non Bank Financial Intermediation)という新たなセクターの存在感が増し、金融危機が銀行以外から発生するのではないかということでNBFIに対する規制強化が叫ばれて久しいが、今回はNBFIにも銀行と同じようなショックアブソーバーを用意しようというものだ。銀行に資金を供給するだけでは危機を抑えることができないので、それ以外にも直接資金を供給しようということだ。

ここでいうノンバンクとしてはICPFsが想定されている。個人的にあまり聞いたことのない言葉だったが、Insurance Companies and Pension Fundsの略のようだ。つまり生命保険会社と年金基金、従来のリアルマネーがこれに該当する。まずはICPFsから始めて、他のノンバンクにも対象を広げるかどうか検討する予定とのことだ。この資金供給は国債を担保にした融資の形態で行われるが、適格担保を国債以外にも広げる可能性がある。英国中銀は、これと同時に銀行や保険会社に対する規制緩和を計画していると述べている。

確かに昨年9月のGilt Shockでは、金利上昇によって国債売却を余儀なくされたのは銀行ではなく、こうしたICPFsだった。金融危機以降このICPFsのバランスシートはほぼ倍増しており、銀行の成長率をはるかに凌いでいる。ノンバンクのバランスシートは市場全体のほぼ半分のシェアを占めるほどに成長しており、今後は銀行ではなく銀行以外が金融の中心になっていくことは間違いない。資産運用立国を目指す日本でも同じような動きがみられることになるだろう。

英国がバーゼルIII最終段階を半年延長

英国がバーゼルIIの最終案の施行時期を半年遅らせるという報道があった。もしこれが本当であれば米国と同じ2025年7月からの開始となり、EUが先に2025年1月に開始となる。当初は2021年1月という話をしていたので、かなり延期された印象だ。ただし5年とされていた段階摘要の期間が半年短くなるので、最後の日程は変更ないということになるようだ。

市中協議において各方面からのコメントが数多く寄せられたため、その対応に時間がかかっている模様だが、年内には最終案の詳細を大筋固めて発表するとのことだ。

米国が更に半年延長させるという噂もあるので最終的にどうなるかについては不透明さが残る。EUも同じように延期するかもしれないが、そもそも段階適用の期間が長かったので、そのまま施行される可能性も高い。

日本はこうしたターゲットを守り通すことが多いが、海外ではこうした規制の延長が頻繁に起こる。これも文化の違いなのか柔軟性があるというのかよくわからないが、ここまで環境が大きく変わる金融においては、ある程度柔軟な対応も必要なのかもしれない。

クリアリングブローカー不足がそのうち問題になるだろう

米国債及びそのレポ取引の清算集中規制導入の議論に注目が集まっているが、考えれば考えるほど無理があるように思えてきた。もともとレバレッジ比率などの改善によって、最大のネックとなっている資本コストが下がることから市場流動性が向上すると思っていたのだが、どうも昨今の規制の方向性としては、クライアントクリアリングビジネスに対して厳しい。

多くのバイサイド顧客が自らメンバーとなってクリアリングに参加し、相応の負担をするのであれば問題ないかもしれないが、今の議論だとFCM(Futures Commission Merchant)であるブローカーに対する負担が重すぎるように見える。

DTCCのホワイトペーパーによると、このクリアリング規制よって一日1.63兆ドルもの取引が新たにクリアリングされるだろうとのことである。内訳はレポが$500bn、Reverse Repoが$520bn、国債の現物が$605bnである。もし多くのバイサイドがFCMを通じてクリアリングに参加しようとすると、数少ないディーラーが各種コストを負担した上でサービス提供することになる。

10年前にクライアントクリアリングビジネスが生まれた時には予想できなかったのだが、このビジネスの収益性は資本コスト対比かなり低い。にもかかわらず、顧客からの要求は結構厳しい。もともと規制で義務付けられていることなので、そのサービスを提供してもらって当然感覚もあるのかもしれない。規制が強化されてコストが上がっても手数料引き上げは非常に困難である。

燃料や原材料費の急騰によってラーメン屋の廃業が相次いでいるというニュースがあったが、それと同じ状況だ。ラーメンを1500円とか2000円にすることができないから撤退するのと似たようなことが、クリアリング業務にも起きているように思う。

クライアントクリアリングにかかる資本規制強化は留まるところを知らず、資本賦課は上がり続けている。CCPの流動性が足りなくなった時に、一定の流動性提供も義務付けられている。そのために一定の資金を常時準備しておくか、そのような場合に資金手当てができるようにラインを作っておかなければならない。そしてこの偶発流動性提供に対しても資本賦課がかかる。

こうしたコスト高から、採算が合わないということでクライアントクリアリングから撤退したディーラーも多い。残っているところも、業界のために続けているのか、あるいは重要顧客に対して途中で辞めるとも言い出せず、仕方なく続けているところもあろいう。

特に年間の取引量が少ないところや、取引が一方向に偏るところでは、クリアイング難民が生まれてきているように思う。この状況で清算集中義務を課せば、かなりの混乱が予想される。米国はもう少しブローカーが多いのかもしれないが、日本のJSCCでクライアントクリアリングサービスを提供しているのは現状6社のみだ。これで100社以上の顧客にサービスを提供しているのだから、そのうち一社に何かあった時に、決められた2日の期限内に残りのブローカーに直ちにポジションをポーティングできるかどうかは定かではない。

もしクリアリング規制を強化するのであれば、全体としてのシステミックリスクが発生しないように、市場のキャパを広げる施策を同時に打つ必要があるのではないだろうか。一日1.63兆ドルというのは並大抵の金額ではなく、それに付随する資本や義務付け流動性供給などのコストはかなりの負担になる。少なくともクリアリング規制と資本規制強化のバランスを入念に精査する必要があろう。