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LIBORの終焉と今後の金利指標

昨日ついにUSD LIBORが終焉を迎えた。もちろんSynthetic Liborで一部残るものもあるが、一般的には昨日2023年6月30日がLIBOR最後の日として記憶されることになるだろう。JPYやGBPなどの他の通貨はすでに2021年に移行を終えているので、日本ではあまり大きなニュースにはなっていないが、それでもYahooトップニュースにLIBORのことが出ていたのが興味深かった。

こうなると当然CSR(Credit Sensitive Rates)がどうなるかということに注目が集まるのだが、最終レポートが出ると言われていた昨日を迎えても、当局サイドからのアナウンスは見つからない。協議に時間がかかっているのかもしれないが、IOSCOから適格ベンチマークとして認定される可能性は極めて低いものと思われる。

このCSR問題は、シリコンバレーバンクなどの米地銀破綻を受けて米国では大きな問題になっている。そもそもLIBORの代替レートであるSOFRだと、基本的にリスクフリーレートであるため、銀行の信用力を反映していない。つまり、リスクフリーレートで貸付をしているところに銀行危機が起き、ファンディングコストが上がってしまうと、銀行としては損失になってしまう。

これを解決するためにBSBYやAmeriborなどのCSRが出てきたのだが、そのレート決定の裏付けとなる実取引が少なく、いわゆる逆三角形問題が起きている。EYなどの独立監査によるとIOSCO準拠とのことなのだが、結局LIBORと同じような不正につながるのではないかと当局が懸念するのは至極当然と言える。

それでもBSBYの場合裏付けとなる現取引は1日$600bnを超える日もあり、SOFRには及ばないとはいえかなりのボリュームになっている。Euriborの参照取引などに比べると遥かに取引量が大きい。SECのゲンスラー氏がこれを認めるとは全く思えないが、パウエルFRB議長からはAmeriborについて肯定的なコメントも出ている。こうした状況に鑑みると、IOSCOがTIBORのレビューを行い、その透明性に疑義を示していないことはラッキーなのかもしれない。そのため、日本では海外のようなCSRの問題が起きていない。そもそもIOSCOはベンチマークを認定する団体ではなく基準やBest Practiceを示すだけなので、今後どのような議論になるかはよくわからない。

結局銀行のファンディングコストの急上昇に対する懸念は強いものの、実際はSOFRをベースとした取引がメインとなっている。英国などでは、そもそもCSRの話もほとんど聞かれない。EURもEuriborからESTRへのシフトは起きるかもしれないが、CSRの議論は盛り上がっていない。本当に銀行危機が起きたら大変なことになるのだろうが、当局としてはそんなことが起きないよう規制を強化するというのがメインシナリオなのかもしれない。日本の場合はもう少し金利に関しては融通が利くというかFlexibleな印象があるので、本当に銀行危機が起きれば、金利を上げられる余地は他の通貨に比べて大きいような気がする。

まずはIOSCOの出方に注目したい。

TONA先物がまずまずの取引量となっている

TFXが3月31日にTONA先物の取引を開始してからもうすぐ3か月となるが、そこそこの取引が行われているようである。日々の取引量や取引価格はTFXのウェブサイトで公表されている。OSEが取引を始めたのは5月29日だが、こちらも取引が見られている。

日銀の政策変更をめぐる不透明感も取引増加の背景にあるのかもしれないが、TFXとOSEの価格差を取るような裁定取引をするヘッジファンドまであると報じられていた。ディーラー以外の参加者も見られることから、ほとんど取引されないのではないかと疑問視する向きも多かった中では、まずまずの出だしといったところなのだろう。

金利スワップについても取引量が増えており、特にLCHに対するJSCCの優位が鮮明になってきている。これでUSクライアントのクリアリングが可能になれば、さらに流動性が上がってくる。TONA先物と金利スワップのクロスマージンが可能になれば、OSEのTONA先物の取引量も上がってくる可能性がある。

海外では為替でも先物やCCPでの清算を行うケースが増えてきた。資本規制が緩和される可能性は極めて低いため、ROEを向上させるためには先物やCCPへのシフトは今後も必然の流れとなるだろう。これまで日本ではあまり意識されてこなかった分野ではあるが、ここへ来て資本効率にフォーカスが当たり始めている。今後もさらに取引手法に変化が起きていくことが予想される。

理想のカウンターパーティーリスク管理とは

欧州ECBがカウンターパーティーリスクに関するガバナンスとリスク管理についてのコメント募集を行っている。募集が始まったのが6/2で、期限が7/14なので、比較的短期間の市中協議となるが、内容的にはそれほど大きな意見の相違がある内容でもなさそうだ。

対象となっている報告書はSound practices in counterparty credit risk governance and managementというもので、カウンターパーティーリスク管理のベストプラクティスのような形となっている。カウンターパーティーリスク管理のガバナンス、リスク管理手法、ストレステスト、WWR、デフォルトマネジメントなどの項目について、現行のベストプラクティスがまとめられている。

ガバナンス面では3線管理の重要性が強調されている。フロントオフィスの1st line of defenceと、独立したリスク管理部門である2nd line of defence、監査を行う3rd line of defenceのガバナンスと役割分担の重要性が強調されている。大手銀行はフロントに専門のカウンターパーティーリスクチームを設置しているものの、あまり効果を発揮していないというコメントも見られる。CCRに関する詳細な報告がシニアマネジメント層に報告されていないとも書かれている。マージンコールを始めとする詳細なリスク管理に対するトップマネジメントの関与不足も指摘されている。

確かに担保管理プロセス、WWRの管理、ストレステストなど、すべてのツールは揃っているが、トップマネジメントの関与があるかというと、このレポートがコメントしている通りなのかもしれない。定期的にリスク管理委員会などで報告はなされるが、トップマネジメントが、この深く突っ込んだ質問をしてくることは少ないのだろう。本来は、複雑でかなりの細部にわたるリスク報告書を平易な言葉で報告をしていくことと、CROだけでなくトップマネジメントがリスクに対して関心を持つことが必要なのだろう。

とはいえ、この10年の間にリスク管理に関しては大きな進歩が見られているのも確かである。以前であれば、ビジネスを推し進めたい現場と、それを抑えようという2線が対決するのが当然だったが、最近では、2線が承認した取引でさえも、ビジネスサイドのトップが否認するというケースもあるようだ。特に海外大手銀行では、アルケゴスのような大きな損失が発生すると、現場のマネジメント層も責任を負うことが増えてきたため、収益サイドに偏っていた現場のマネジメントのフォーカスが、若干リスク寄りに変化している。

最も効果を発揮しているのは、こうした損失が発生した時に現場のマネジメント層が個人的に責任を負うというプラクティスである。これは当初英国で始められた規制だが、米国でも似たような議論が出始めている。この場合の「責任を負う」とは、過去に支給されたボーナスが没収される可能性があることを意味する。こうなると、いくら収益が重要といってもリスクを気にせざるを得なくなる。だが、これが正しいリスク管理なのかどうかはよくわからない。

退職を控えたマネジメントなどが、すべてのリスクを避けるという行動にでることもありうるからだ。一方転職してきたばかり、着任したばかりのマネジメントにはこうしたインセンティブがなく、両者のせめぎあいとなる。だが、これが本当に金融機関の経営として健全と言えるのだろうか。やはり個人の生活とビジネスディシジョンは別に分けておいた方が良いと思う。そもそもこうした規制が海外で導入されるのは、上級管理職の報酬が極端に高すぎるからなのかもしれない。

とはいえ、現場のマネジメントがリスクに注意を払うのは良いことである。日本の場合はリスクはリスク管理部門、ファンディングコストは財務部門、資本コストや規制コストは企画部門のようにサイロに分かれていて、現場のトレーダーが資本コストやファンディングコストを気にしながら取引をすることが少ない印象がある。海外モデルが正しいとは言えないが、海外と日本の中間のようなところに正しい姿があるような気がする。

Non Financial Riskに対する資本規制強化

大手銀行の資本コストが20%アップというニュースが今月初めに大きな話題となった。資本コストの変更によって大きなビジネスの転換を余儀なくされた米系にとっては、こうしたニュースは個人レベルまで影響が及ぶ大問題であるため、各所から問い合わせが寄せられた。当然シリコンバレーバンクなどの銀行破綻を受けた資本規制の変更であり、トレーディング業務の割合の大きい大手銀行に対する影響も大きいと言われた。

これまでこうした資本規制の変更に翻弄されてきた債券ビジネスに関わる担当にとっては、またかという感じだったのだが、報道によると今回は少し様相が異なっていた。というのは、これまでは安全とみなされていたウェルスマネジメントに対する資本コストの増加が見込まれると報道されたからだ。

2007-2009年の金融危機では、トレーディング業務が狙い撃ちされ、それに対応するためにいくつかの銀行がウェルスマネジメントに舵を切った。こうした銀行の収益は安定し株価も右肩上がりとなり、従来巨額の収益をトレーディングから上げてきた銀行との差を広げていった。今では猫も杓子もウェルスマネジメントという風潮になっているのだが、今回の変更がこの傾向に待ったをかけるのかに注目が集まる。

こうした手数料収入にフォーカスしたビジネスは、確かにトレーディングから収益を上げるビジネスよりはリスクの振れ幅が少ない。しかし、今回注目されたのは、カウンターパーティーリスクやマーケットリスクではなく、不正や人的システムエラー、サイバー攻撃のようなオペレーショナルリスクに対する資本賦課の増加である。

金利ポジションの管理に失敗したSVBを始めとする地銀や中小銀行に対する規制強化は誰もが予想していたが、ウェルスマネジメントのような手数料ビジネスにまで規制強化の影響が及ぶとは思っておらず若干唐突感がある。確かに、昨今では虐待疑惑のかかる富豪と取引をしていたことから罰金を科される事件なども起きており、金融機関は、より社会的な責任を負うようになってきている。日本でも反社会勢力との取引が銀行を危機に追いやることもあるため、同じように状況にある。

虐待、環境破壊など、社会的に望ましくないとされる業界とビジネスを行っていることが、金融機関を危機に追いやることがあるので、確かにリスクとはいえる。つまり資金融通をするという金融仲介機能以外に、社会的公器としての役割が金融機関には求められるようになってきたということである。

従来は、カウンターパーティーの財務的健全性の検証にフォーカスしていたDue Deligenceが、それ以外のNon Financialな部分に及び始めたということである。日本では、こうしたリスクに対する罰金の額は少ないが、米国エプスタイン事件ではJPMは160億円にも上る罰金を支払っている。こうしたリスクはリスクの高いトレーディングビジネスを行っているとか、アルケゴスのような集中リスクを抱えるという伝統的なリスクとは性質が異なってくる。

今後はデフォルト損失やトレーディング損失にフォーカスするリスク管理者のほかに、KYC(Know Your Client)や顧客の社会的行動についても注意を払う担当が必要になってくる。そしてそのリスクを数値化し、資本コストとして割り当てていく必要がある。これはトレーディングビジネスのみならず、ありとあらゆるビジネスに関係してくる。

日本では反社会勢力に対する取引という観点で、もしかしたらこの分野では一日の長があるのかもしれないが、海外ビジネスを行う際には、日本とは異なり、巨額の罰金が科せられる可能性があることを考慮しながら、新たなプロセスを設けていかないと、日本の銀行だけが罰せられるということにならないよう、注意していかなければならない。

欧州CCPの利用の義務付けは欧州のためになるのか

EMIR3.0の一部であるActive account要件が物議を醸している。これはEUR金利スワップの一定程度を英国LCHではなく、EUのEurexでクリアリングするように定めたルールだ。LCHに比べると流動性に劣るEurexでクリアリングするということは、それだけ追加コストを払わざるを得なくなるということだ。LCH/EurexのCCPベーシスは、LCH/CMEベーシスとは異なり、10年で4bp程度にまで開くことがある。年金基金やアセマネなどで最良執行義務があるところなどは、コストの高いEurexでのクリアリングを義務付けられると、顧客との間で問題が起きるのではないかという懸念もある。

まだ具体的な数値が確定した訳ではないが、この要件が課されるのは2024年からなので、適用開始に向けて議論が大きくなる可能性がある。

Risk.netによるとドルスワップの80%は米国参加者によるものである一方、ユーロスワップの場合は、24%が欧州参加者によるものらしい。直感的にはわかりにくいが、ドルの場合は、米国参加者による取引がかなりの部分をカバーしている、つまり受けも払いもバランスよく含まれているということのようだ。したがって、CCPベーシスが拡大しにくい。一方ユーロの場合は、EUの参加者の取引がマーケット全体のバランスを表しているというよりは、70%の取引がEU外のグローバルプレーヤーによるものとなっている。つまり、EUの参加者にEurexの参加を義務付けても、一部のフローが移るだけで、結局CCPベーシスの縮小にはつながらない。

米国の場合は、CMEにおいて先物と金利スワップのクロスマージンによる証拠金の削減が可能になっていることからCMEでクリアリングするメリットもある。一方Eurexの先物は取引量が少ないため、クロスマージンのメリットが少ない。こうなると異なる通貨間の相殺効果があるLCHの方がマージンが少なくなり、コストが下がる。

また、年金基金に認められている清算集中義務の免除の期限が来週から切れることから、一方向(長期の固定受け)の取引が更に増え、ベーシスの拡大につながるのではないかという懸念がある。週明け以降のマーケットには注意したい。

中国オンショアスワップの行方

5/15に中国のSwap Connectの取引が始まったが、事前の期待とは裏腹に、今のところそれほど取引量は増えていないようだ。主な参加者は中国外の大手アセマネ、年金、保険会社といった、いわゆるリアルマネーの投資家となっている。

とは言え、興味を示す市場参加者が確実に増えているようなので、一定の時期を経れば急激に取引量が増えていくことが予想される。そうなると、これまでオフショアでドル差金決済をするNon Derivarableで取引されてきた金利スワップ(NDIRS)マーケットからのシフトが予想される。オンショアでDerivarableの金利スワップが使えるのであれば中国国債(CGB)のヘッジとしても最適である。流動性や取引コスト面でもオンショアの金利スワップは圧倒的に有利だ。

事実、Swap Connectの話が出てからというものオンショアとオフショアのスワップ金利の差は20bpから4bpへと縮小している。このベーシスリスクは中国のトレーダーの収益の源泉だったのだが、この取引戦略のうまみがなくなりつつある。

これまでBond ConnectやCIBM DirectによってCGBの取引をしてきたオフショア投資家のほとんどがSwap Connectに参加していくようになると予想されている。CIBM Directに比べると参加時に求められる手続きもSwap Connectの方が簡単なようだ。

それにしてもOnshoreとOffshoreでここまでマーケットが異なるということには驚きを隠せない。流動性にも大きな違いがある。これが社債になると、OffshoreでほぼDistress債のような価格で取引されているものでも、Onshoreではパー近くで取引されることもある。一連の市場開放策によってこうした差が収斂していくと予想する投資家も多く、実際にポジションを取っている人もいるようだ。確かに巨大なOnshoreマーケットが開放され、参加者が増えてくれば、ドルに次ぐマーケットが出来上がる可能性はある。当然政治的リスクはあるものの、無視できるマーケットではないだろう。

米国の決済期間T+1化がアジアに与える影響

米国で決済期間の短縮化が粛々と進んでいるが、アジアでは時差の関係から様々な問題点が指摘されるようになってきた。社債や株式の決済を来年5月28日の期限までにT+1にすべく作業が進んでいるのだが、実は米国ではそれほど問題がなくとも、時差の関係でアジアにおける作業が最も大変になるかもしれない。

例えばアジアの市場参加者が米国債を購入した場合、次の日に米ドルの確保をしてT+2で決済してきた。これがT+1になるということは取引がマッチした日に米ドルをSame Dayで確保するのがベストである。あるいは決済前に米ドルを持っておかなければならない。日本円はおそらく大丈夫だろうが、アジアの通貨の中には、取引日のNYクローズなどに為替を取ろうと思っても、時間帯的に流動性に難があるかもしれない。

CLSのカットオフであるNY時間18時に間に合わないと相対の決済を行うしかないが、そうすると決済リスクが発生してしまう。ここまでテクノロジーが進歩したのだから、即時決済などが進んでも良いのだが、なかなかこれに関しては技術革新が起きていない。

こうした点は以前から議論されてきたのだが、アジアからの懸念が十分に認識されないうちに、米国主導でT+1化が進んでしまっているような気がする。もう少しアジアからの主張を声高にしていく必要がありそうだ。

ISDA SIMMのAd Hoc更新が行われた

証拠金規制のIMについては、毎年決まった時期にパラメーターの更新が行われるが、今回は直近のボラティリティの上昇を受けAd hocで調整が行われた。マージンパラメーターの変更が遅きに失しているという批判を受けて通常のサイクル外で変更をかけたものと思われる。このVersion 2.5からVersion 2.5Aへの変更は来月から実施されるが、主に金利関連の変更が行われている。

ドルやユーロなどの標準的なVolatilityの通貨に関するもので15年までの年限に関するものだが、6か月までの短い年限では若干リスクウェイトが低くなっている一方、3-5年回りの年限で引き上げが行われている。逆にHigh Volatility通貨については短期の上昇が著しい。唯一のLow Volatility通貨である円については、10年回りのリスクウェイトが上がっている。日銀の政策修正を巡って10年近辺の変動が大きくなったのでこれは当然だろう。クレジット物、株式、為替、コモディティなどには全く変化はない。

これによって相対取引のIMが7月15日から引き上げられることになる。10年円金利スワップのRisk Weightが2割程度引き上げになるのが、日本にとっては最大の影響となるだろう。あとはHigh Volatility通貨であるブラジル、メキシコなどの短期スワップのIMが急上昇し、ドルについては5年回りが15%増となる。

Clarusの分析では一般的なポートフォリオでIMが4-17%、平均にして14%増加すると見込まれている。最近IMが急上昇したコモディティのIM増加幅に比べるとマイルドな変化と言えるが、円金利についての変更はそこそこのマーケットインパクトがあるかもしれない。原則論からするとIMのファンディングコストをチャージするMVAの上昇につながる。

今回は年次更新のサイクルの外で行われた最初の変更となるが、今後は四半期ごとの更新などへと議論が移っていくかもしれない。市場変動に合わせて柔軟に変更をかけるというコンセプトは問題ないのだろうが、あまりに頻繁にこれが変わると、ファンディングコストがぶれるため、ビジネスプランが立てにくくなるうえ、プロシクリカリティを誘発しかねない。とはいえ、市場が動いてからのカリブレーションがかなりのラグを持って行われるのも問題なので、今回のような、大きな変動があったときに機動的に変更をかけるという方法にするしかないのだろう。

ただし、頻繁な変更に備えて社内のシステムテストなどのプロセスをもう少し自動化していく必要はありそうだ。

顧客保護を意図した規制により顧客の利益が損なわれる例

5/15に中国のSwap ConnectがGo Liveとなり、グローバルで注目を集めている。ここへ来て、JSCCで長らく問題となっていたUS Personのクライアントクリアリング参加が突然注目を集め始めた。米国の市場参加者はCFTCの制約により、Exempt DCOと言われる外国CCPに参加することができないのはこのブログでも何度か説明してきた。

もともとは、米国の市場参加者を保護するための制約だったのだが、流動性が高まるJSCCの円金利スワップ市場や、今回新たに始まったSwap Connect経由の中国の金利スワップも取引することができない。完全に米国の参加者にとっては不利なのだが、CFTCは自分で自分の首を絞めてしまっている。

中国の場合、オンショアとオフショアで完全にマーケットが二分されてしまっており、オンショアマーケットの流動性は格段に高い。これは金利だけでなく、為替、債券などあらゆる商品共通である。社債などもオフショアのドル債は30%くらいに価格が下落していてもオンショアでは90%で取引されていたりする。金利スワップについては、ドルで決済するNon Derivarableの形で行われてきたが、今般のSwap Connectにより、海外市場参加者がより流動性の高いオンショアマーケットにアクセスすることができるようになった。だが、米国の参加者以外はという但し書きがつく。

DCOとはDerivatives Clearing Organizationの略で、これが認められるためには、米国CFTCが定めた要件を満たす必要がある。しかし、多くの米国外CCPはExempt DCOというStatusを取ることにより、一部制限された形で取引を行っている。JSCCもSwap Connectを提供するHKEXもともにこの形態をとっている。

米国のバイサイドでは日本円金利市場はもちろん、中国国債の取引をするところも多いので、流動性の高まるJSCCの金利スワップや中国のSwap Connectにアクセスできないのは、非常に不利である。大手であれば欧州にファンドを設立してそこから取引をすれば良いが、こうなると何のための規制なのかわからなくなってくる。これでようやくCFTCも重い腰を上げるかもしれない。

金融機関のシステム産業化

大手米銀がテクノロジー投資を加速させている。クラウドインフラ、データーセンター、各種データ分析、セキュリティ、ソフトウェアやアプリ開発と、もはや金融機関というとテクノロジー会社の様相を呈してきている。これまで右肩上がりに上昇してきたテクノロジー支出だが、今後も更に増加することが見込まれている。全世界のテクノロジー支出は4.8兆ドルを超えるとも言われている。

JPMの2022年のテクノロジー予算は約$14bn(約2兆円!)だが、そのうち$6bnが成長を支える新デジタル商品やデジタルサービス、通常業務に必要なテクノロジーの導入に充てられている。そして$4bnが主要ビジネスであるチェースブランドのリテール、投資銀行、商業銀行、資産運用に使われている。

特にJPMだけが突出しているという訳でもなく、バンカメも約$11bnを年間使っており、兆円単位での支出をする銀行は多い。日本のシステム投資額を同じ分類で比較するのは難しいが、一昨年のS&Pのアナリストの分析では、比較的システム投資に熱心なMUFGが300億円程度と推定していた。当時のJPMの投資額が1.1兆円だったことから1/3以下ということになる。近年では邦銀のシステム投資は米銀の1/5というニュースもあった。円安の影響もあるが、JPMの投資が2兆円近くになってきたことから、この差はさらに開いているものと思われる。

米銀のシステム投資は、新技術に対して行われることが多く、6-7割がこうした新しい取り組みに対するものである。翻って日本の状況をみると、既存システムのメンテナンスや拡張が中心になっており、先のS&Pの分析では新技術に対する投資は2割程度と推測していた。

システム投資のみでなく、人材面でも大きな変化がみられる。海外ではトレーダーの数は極端に少なくなり、オペレーション部門の人員削減が進み、かなりの業務がシステムやAIに置き換わっている。当然過渡期であるため、日本のように人手を介して手厚くサポートするサービスに比べると、満足のいくサービスが行えていない面もあるかもしれないが、これは技術進歩によって大きく変わっていくことになる。JPMなどでは全従業員の約2割以上がテクノロジー関連の技術者だが、邦銀のシステム部門の人員は全体の数%と言われる。

これだけのIT人材を雇おうと思うと、もう国内だけでは不可能となる。実際米銀でもテクノロジー部門の人員はほとんどが米国外におり、ブタペスト、ムンバイなど世界中のあらゆる国から優秀な人材を集めている。特にコロナ以降この傾向はますます強まっている。

あらゆるスタートアップ企業が新しいテクノロジーをフル活用して、過去のシステムより優れたものを短期間でしかも低コストで構築しているのをみると、日本でも時代遅れのレガシーシステムのメンテナンスに資金を投入するよりは、一から新しいシステムを作った方が良いのかもしれない。もっとも銀行サービスが止まってしまっては死活問題なので、そこまで大胆な決断ができるところは少ないだろうが、意外とその方がリスクが低いのかもしれない。

日本の金融を復活させるには

このところ日本に対する海外からの関心が急速に高まっている。一時は日銀の政策変更を睨んだ取引がヘッジファンドの間では流行したが、現在は日銀トレードは一旦小休止となり、金利市場以外のところではあらゆる関心が寄せられている。

海外の論調は、成長期待というよりは、Non Chinaとしての日本の政治的安定性を評価する声が多いが、それでも日本にようやく構造変化が起き始めているという意見も多くなっている。

日経平均が1990年以来の最高値をつけ、1-3月のGDP成長率も1.6%と予想を上回り、個人消費が全体を押し上げている。焦点だった賃金も若干上昇の兆しを見せ始めており、輸出額も過去2年間で43%と盛り返している。

この追い風を利用して、あとは生産性向上が達成できれば国際的な地位向上を達成できるかもしれない。生産性向上に関しては、過剰品質、過剰サービスからの脱却が不可欠だと思う。どこかで「おもてなし」の精神が捻じ曲げられたのか、日本では効率性よりも完璧を求める風潮がある。日本の半導体の凋落原因を分析した記事にもあったが、同じことはあらゆる分野で起きていると思う。

25年ほど前に米国で生活した時は、チェックの利用額に誤りがあったり、窓口サービスのいい加減さにあきれたものだが、ミスを100%無くすために多大なコストをかけるよりは95%程度で良しとして効率性を追求するのも理にかなっている。当時1円の帳尻を合わせるために支店の銀行員全員で残業するという話もあったが、アメリカだったら無視してさっさと皆帰宅しただろう。

「お客様は神様」という言葉が誤って理解されたことにも起因する。「自分は客だ」という態度で銀行、レストラン、タクシー運転手にクレームをつける人がいるが、海外では店員が言い返す姿も見られる。日本ではひたすら謝るのが一般的だ。

日本でシステム化や標準化が進まないのもここに原因があるのだろう。各社ごとの仕組みに併せるためにあらゆるカスタマイスを求められるため、システム対応が困難で、コストもかかる。それだったら、人間が柔軟に対応した方が安いということになり、システム化と標準化が進まない。最新のテクノロジーを使おうにも、系列システム会社を使わなければならないという制約もあるため、古いテクノロジーを使い続けることになってしまう。

海外では、金利が高い銀行に一瞬で資金が移動するようになり、SVBショックのような混乱が起きている。世知辛い世の中と言われるが、過剰サービスをしても預金を残してくれるかは心もとない。こうしたサービスは資産運用などの分野ではまだ通用するかもしれないが、伝統的な金融サービスは更に標準化、効率化されていくことになるだろう。

ただし、それでも安定性と信頼性は金融サービスには不可欠であることから、日本の金融に最新のテクノロジーを組み合わせれば、世界で十分戦えると思う。そのためには効率よく事務処理を行い、システムかと標準化を進めて生産性を向上させることが肝要である。

米ターム物金利を巡る混乱

ある意味タイミングが悪かったとも言えるのだが、米地銀がローン金利としてその利用を拡げているターム物SOFRの流動性問題が大きくなってきた。ターム物SOFRは依然銀行間での取引が制限されており、CCPによる清算もできない。つまり相対取引で地銀のリスクをとって取引がなされるので、米地銀に対する信用不安が大きくなった現状ではどうしても取引コストが上昇しやすい。

ターム物SOFRの流動性がないから、資本コストが高いからという理由でもともと取引コストが上昇していたところに、地銀の信用リスクの問題が重なってしまった。来月2023年6月末に公表停止をUSD LIBORが迎える中、金利市場の混乱要因となっている。通常金利スワップのビッドオファーは1bpを超えることは少ないが、これが最大10bp近くになったこともあると報道されているが、かなりの異常事態である。

ディーラーサイドとしては、流動性がない商品はレベル3資産に分類せざるを得ず、資本コストがかさむ。ヘッジができないためトレーダーがリスクチャージを増やすのも致し方ない。カウンターパーティーリスクもあるため、この地銀ショックの中では、若干のXVAをかけるところもあるかもしれない。ARRCの制限もあることから、日本でもターム物SOFRを取引する際には、コンプライアンス違反にならないよう、慎重に検討しなければならなくなる。

CCPサイドとしては、流動性がない商品を清算してしまうと、万が一参加者破綻があった場合には、ポジション解消のコストがかかることから、そのクリアリングには慎重にならざるを得ない。当初証拠金や清算基金の計算も保守的にせざるを得ない。

地銀サイドとしては、LIBORからの移行を進めるため、言われた通りターム物SOFRに移行しただけなのに、これほどのコストを払わざるを得なくなっている。

誰も得をしないこのような状況になってしまったのはなぜなのだろうか。個人的にはローンの代替金利にターム物を第一順位としてしまったのが間違いだったように思うのだが、後の祭りである。ターム物の利用が進んでいない他の通貨ではあまりこのような問題が起きていない。日本でもターム物のTORFが少しずつ使われ始めているが、TIBORもあることから大きな動きにはなっていない。

相対取引からCCPにおける清算取引へ、LIBORからリスクフリーレートへという掛け声のもと業界で努力が続けられてきたのだが、このターム物に限っては、清算取引から相対取引へという逆の流れが出来上がってしまっている。そして銀行に対する信用不安が大きくなっているにもかかわらず、信用リスクを取った上で取引をしなければならず、そのヘッジもできない。

ここまでくると、ディーラー間取引を認め、クリアリングの方向へ進むしかないのではないだろうか。

米国債務上限問題がマージンコールに与える影響

毎回問題になる米国債務上限だが、米国債がデリバティブ取引の担保として広く使われていることを考えると、既に米国だけの問題ではない。ISDAのAGMでのパネルディスカッションで議論されているのを聞いて初めて気づいたのだが、債務上限に関する6/1までに合意されないと、解決策が見つかるまでに満期を迎える短期の米国債は無価値になるとのことだ。

こうした米国債を担保にとっているCCPや市場参加者は、ヘアカットを変更することによって別の担保への変更を依頼することも可能だが、そうすると金融市場にパニックが生じてしまうかもしれない。また、今後はこうした担保を不適格とするようなルール変更が必要になってくるかもしれない。

確かにデフォルトする可能性が高い担保を受け取るのを避けたいというのはリスク管理上きわめて自然である。だが、そうなると満期の違いによって適格担保が変わることになり、一時的に混乱が発生する。

現状短期国債の担保ヘアカットはCCPによって異なっているが、概ね0.25%から3.75%のレンジに収まっている。過去の短期国債の市場変動からすると妥当なのだろうが、米国の債務上限のような特殊事情は考慮していない。

他にもCCPの担保条件には満期までの期間制限がある。例えばLCHは3日以内に満期を迎える米国債は非適格となっている。Eurexは15日、ICEは2日だが、CMEにはこうした制限がない。おそらく相対のCSAでこうした条件を加えているところはないものと思われるが、今後は何らかの制限をつけるところが出てくるかもしれない。

米国債のクーポン支払いが重なるという問題もあるだろうが、これはSubstition(担保の入替)で対応可能だろう。

CCPは当局とも会話をしているらしいので、何らかの対応がなされるのだろうが、市場参加者の間でこれに対策を考えているところは少なそうな雰囲気がある。もし信用力に懸念のあるヘッジファンドと取引をしていて、こうした米国債を担保に受け取っていれば、意外と注意をした方が良いのかもしれない。少なくとも該当国債を誰から受け取っているかは調べてみた方が良さそうだ。

金融における保護主義の功罪

欧州のクリアリング規制が迷走している。EURスワップの清算に関して、依然英国のLCHのシェアが大きいことから、一定のスワップを欧州域内で清算するよう規制しようとしているのだが、もともとのコンセプトに無理がある。欧州域外の市場参加者にとってみれば、使い勝手が良く流動性が高い方を使いたいというのは当然のニーズであり、LCHのこれまでの歴史を見れば、全てを欧州のEurexに移すのは現時点では困難だ。どの程度の量のスワップを移さなければならないかについても、未だはっきりとして数字が示されていない。2025年の期限に向けて不透明感が漂う。

結局マーケットメーカーとしての銀行は、LCHとEurexの両方において流動性を提供しなければならないので、どちらか一つに移すことは不可能だ。そうすると結局顧客ニーズの多いLCHで取引を継続せざるを得ない。特に米国や日本の市場参加者で、現状ではわざわざ流動性の低い欧州をメインで使おうというところは少ないだろう。

当初は激変緩和措置として本格移行が一時的に免除されていたが、結局この免除は何度も延長され、今でも一定の範囲内で認められている。思った通りの移行ができなかったというのが正直なところだろう。そうは言ってもすべてを英国に依存することもできなかったので、多くの銀行はEU域内拠点を充実させている。確かに拠点間の移動は進み、ドイツやフランスのオフィスも徐々に人が増えてきたのは確かである。しかし、円については日本のJSCCを使いたい人が多いのと同様に、LCHで清算したいというニーズは当面なくならないだろう。

日本の市場参加者もLCHを使えないという事情はあるので、似たような話があるのだが、対象が日本の金融危機観に止まっているため、あまり国際的な議論にはならない。JSCCがここまでシェアを伸ばしている中、LCHの利用を解禁しても良いのかもしれない。そして米国の市場参加者もJSCCに参加できるようにして、極力国による境界は無くしていった方が市場のためには望ましいのだろう。

資産運用プログレスレポートが伝える危機感

今年も金融庁から「資産運用業高度化プログレスレポート2023」が公表された。政府サイドでもNISA拡充などのプランがあることからか、かなり突っ込んだ内容になっており、各所で話題になっている。内容は至極もっともであるが、見る人が見ればかなり辛辣な内容ともいえる。

表現はマイルドにはなっているものの、要は以下のようなことを問題視している。

  • 自分の企業グループの商品を売らせて手数料を稼ぐことが目的になっており、顧客本位でない。
  • 顧客の利益よりは、グループ内の人事上の処遇を優先している。
  • 素人が人事異動で担当になるだけで本当のプロが運用していない。経営トップが素人。
  • その時々で話題性のあるファンドを作っては手数料を稼ごうとするため、リターンの芳しくないファンドが量産されコストがかさむ。
  • 独立系運用会社が少なく、ほとんどが大手銀行や証券会社グループに牛耳られている。
  • システムベンダー間の不十分な競争によって資産運用業のコストが高くなっている。

これは、日本の終身雇用、企業系列経営を真っ向から否定しているようにも見える。日本の大企業ではシニア層のポジションを準備するために、系列の会社や取引先の役員等に人をはめ込むことが人事部の大事な仕事の一つとなっている。ジェネラリストを養成するという目的の下で頻繁な人事異動が行われる。OBOGの行き先を増やすためにシステム会社に代表されるグループ企業を量産しており、若干テクノロジーが遅れていたとしてもそこを使わざるを得ない。

システム会社や資産運用会社を新規で立ち上げたとしても、系列企業のサービスを使わざるを得ない日本では、たとえサービスに優れていたとしても算入することが困難である。日本でベンチャーが育たないのは、人材の流動性や資金確保の問題以外に、一度大企業に入ったらその人たちを一生守るという日本の雇用システムに起因しているのかもしれない。

海外からの参入に対しては、日本語対応、日本の法律対応のほか、過剰とも言われる日本のサービス水準についていけず断念するところが多い。こうしてガラパゴス化してしまったために不利益を被っているのは個人なのだろう。

では、海外のサービスを使えば良いのだが、金融庁への登録がない海外証券会社を使うと、上場株を買っても未上場株として税務申告をする必要があったり、損失繰越や損益通算などの税制面において不利益が発生する。世界でこれだけ様々なETFがあるのに、いまだに手数料の高い日本の投信を買わざるを得なくなる。

今回のプログレスレポートはこうした問題点をきちんと把握し、それに対する対応策を模索している。そうしないとNISAを拡充しても大手金融グループを支えるだけで終わってしまうという危機感がにじみ出ている。今後どのような変化が起きるかに注目したい。

リアルタイム取引が金融を変える

SNSによって信用不安が広がり金融を揺るがしたことが、今回のG7でも取り上げられた。24時間いつでも預金が引き出せるようになり、急速な資金流出への対応が課題とされた。

ビットコインなども既に24/7(週7日24時間)取引が可能であり、為替もほぼ24/5である。クレジットカードはいつでも使えるし、PayPayやLine Payでの資金移動も24/7だ。米国ではオンライン証券が個人向けに株式の24時間取引も可能にするところが現れている。

海外では日中のレポ取引も始まり、クロスボーダーでも取引が可能なところまで来ている。こうしたレポが広がれば急な資金ニーズに対応できる。金利が急上昇した時などに手持ちの国債によって資金調達を行いマージンコールにも対応することができる。分散型台帳技術(DLT)を使って決済を行えば、レポ金利なども分単位で計算できる。

ISDAの年次総会でこうしたリアルタイム取引について議論が盛り上がっているようであり、5年から10年すれば、ほとんどの資産が24/7で取引できるようになるかもしれないという意見も聞かれた。海外では、NYやSingaporeなど、24時間に近いところまで取引時間を拡げようという動きがある。JPXも取引時間の延長や休日取引の範囲を広げている。そのうち取引時間内、時間外取引などという言葉も死語になるかもしれない。

こうした技術をマージンコールにも使えるようにして、決済リスクも極限まで減らせば、金融システムに発生するリスクが少なくなる。ここまでテクノロジーを使った決済などが活発に議論されている中、日本の状態は若干心配だ。システム投資額が日本は極端に少なく、基幹システムもレガシーシステムが数多く残っており、最新のテクノロジーを利用したシステムに置き換わる速度が遅い。

確かに海外では、金融機関の社員が独立して金融システム会社を興すことが多いが、日本ではこうした動きは見られない。日本進出を検討するスタートアップもみられるが、企業系列のシステム会社の寡占状態を突き崩すのは困難という結論になってしまっているところが多い。とは言え、今後の金融のカギを握るのはテクノロジーであることは間違いないので、テクノロジーの進歩にはついていかないと日本の金融自体が地盤沈下してしまう危険性もある。

中国 Swap Connect始動

先月4/28に中国のPRCがSwap Connectのルールブックを最終化したことを受け、稼働開始が近づいてきた。5/15が開始日とみられている。

中国のオンショア金利とオフショア金利にはかなり大きな差があったが、これが手練してくるかどうかに注目が集まる。現時点ではこの差は4bp程度だが、それでも以前に比べればかなり縮まってきた。オフショアの方がb/oもワイドで流動性もなかったことにより、China Access Tradeというオンショアとオフショアをつなぐ取引が行われてきたが、このマーケットに大きな変化が起きることになりそうだ。

一部の制限付きながら、これで海外投資家も中国のオンショアCNY金利スワップ市場にアクセスができることになる。実際の取引はBond Connectと同様にTradewebまたはBloomberg経由で行われる。海外投資家はHKEXのOTC Clearに、中国国内投資家は上海クリアリングハウス(SCH)にフェースすることになるが、OTCCとSCHが相互接続をする形となる。

取引量については、一日CNY20bnという制限が付くが、ネッティング後なので当面は問題のないサイズだろうが、クリアリングリミットはOTCCととSCHのネッティング後でCNY4bnとなっている。感覚的には少し足りない気もするが、今後の見直しも示唆されていることから、取引量が増えてくれば柔軟に変更が行われるものと思われる。

JSCCと同じようにISDAなどのマスター契約がなくてもSwap Connect経由の取引ができるようになっているが、JSCCと同様にDCO登録がないので、US顧客のクライアントクリアリングができない。

オンショアへのアクセストレードは、大手金融機関の収益源になっていたと思われることから、今後のダイナミクスの変化に注目が集まるが、透明性と流動性が向上することから市場にとっては望ましい変化である。

以前日本の金利スワップ市場の規模がAUDを下回って世界5位になったと書いたが、CNYは現在世界10位である。CAD、CZK、NZDを追い抜くのは時間の問題だが、そうなるとJPYも追い越して世界のトップクラスの取引量を占めるようになるのは時間の問題だろう。

日本の金融国際化へ向けた動きが加速し始めた

経済諮問会議の第5回の会議結果が公表されているが、かなり具体的な内容に踏み込んでいる。金融に関しては、「海外からの人材・資金を呼び込むためのアクションプラン」が添付資料として掲載されている。戦略分野への投資促進、スタートアップハブ形成、高度外国人材の呼び込みなどが謳われている。

金融に関しては、国際金融センターとしての機能強化や高度人材や資金の呼び込みがメインだが、特別にタスクフォースを創設し、不断の努力を続けていく方向性になっている。

これまでは、中国経済の急成長から、香港や上海にアジア拠点を作る動きが中心だったが、ここへ来て政治的リスクを重視し、拠点を中国以外に移そうという意見もちらほら聞かれるようになってきた。当然シンガポールが最大の候補なのだが、日本の安定性を見直す動きも見られ始めている。これまで何度も掛け声だけにとどまっていた日本の国際金融都市構想を推し進める最後のチャンスになるかもしれない。

Brexitによって英国からEUへ拠点を移す動きが加速し始め、香港もかつてほどの勢いがなくなってきた。相変わらずNYの一人勝ちは変わらないが、シンガポールの他にもっと日本が見直されても良いと思う。外国語による授業の充実も謳われているが、やはり金融業界にいると英語は不可欠と言わざるを得ない。現時点では、シンガポール、韓国、インド、マレーシアなど、英語に問題のないアジア系が、グローバル銀行でもかなりの地位を占めるようになっている。残念ながら日本人の幹部級はあまりに少ない。

これについては、今10歳前後の世代から思い切った教育を施せば、10年後にはかなり大きな動きになることから、ある程度の即効性がある。コストは高いがインターナショナルスクールが急速に増えているのも朗報だ。本年度中にAIを活用した新たな翻訳システムを確立し来年度に本格導入というプランも含まれているが、こうした技術進歩も日本にとっては追い風になる。

資本コストや株価を意識した経営についても触れられているが、日本企業が本気でROE向上を目指せば、日本株にはアップサイドが見込まれるし、自然と海外投資も入ってくるだろう。

金融庁の国際金融センター構想も着実に成果を上げつつあり、拠点開設サポートオフィスの機能、体制強化も提案されている。どこまでできるか不明だが、税についても「国際金融センターに向けた税制上の課題の把握については、クロスボーダー投資の活性化に係る手続面の課題の把握をはじめとして、必要な見直しに向けた対応を行う。」と書かれている。

せっかくここまで機運が盛り上がってきたので、ここは一気に英国のビッグバンのような改革に持っていければ日本の未来も明るい。アジアが今後世界経済のメインセンターになる可能性は極めて高いため、その流れを日本でもCaptureするためには、今が最も大事な時期と言えよう。

流動性強化は本当に金融の安定につながるのか

SVB破綻、CSの救済などを経て各国当局から規制強化の話が矢継ぎ早に出ている。SVBのレビューなどは日本の新聞でも報道されている。当たり前のことではあるが、LCRとNSFRなどの流動性規制の強化が提案されている。確かにトランプ政権において中小銀行に対する流動性規制の対象範囲が狭められたことは一つの原因だろうが、流動性規制をこれ以上厳格しても本当に意味があるかは不明である。

どこの銀行でも起きている議論だろうが、ストレステストの前提が甘すぎたのではないかということで、各種シナリオの見直しが行われている。金利が突然2%上がったらどうなるか、天然ガスの価格が3倍になったらどうするか、為替レートが30%動いたらどうなるかなど、いくらでもストレスシナリオを増やすことは可能である。

ただ、金利2%変動に備えてカウンターパーティーリスクを制限したり、その分の現金をリザーブしていくとなると、そのビジネスからは撤退した方が良いという結論に近づく。LCRも似たような議論で、掛け目を厳しくしたり、現状の100%要件を200%にすれば良いではないかという単純な議論が出てくる。ただ、これがどこまで行ったらビジネスとして成り立たなくなるかという意見はあまり聞かれない。米国債の場合は2%の変動はさもありなんという感じかもしれないが、これが日本国債にも適用されるとそれは違うのではないかと思うのだが、この状況下ではそれが絶対に起きないと言い切るのも難しい。

特に大手国際行場合は、ディールごとに収益率を計算しており、厳格なROEハードルが存在している。規制が厳格すればさらに米国債の在庫を持ちにくくなるだろうし、レポに対する制限もかかる。そしてそれが市場流動性を脅かしさらなる市場変動を加速させる。

例えば日本の10年国債を5000億円在庫にもった時に金利が200bp上昇すれば、1000億円の損失が出る。個人的には損失が$1bnを超えると確実に国際的なメディアで記事が出てしまうので、1000億円というのは重要な閾値である。そうすると各銀行が5000億円程度しか在庫を抱えられないということになる。実際は200bp変動をベースにリミットを決めている銀行ばかりではないと思われるので、日本ではこれが起きていないが、米国ではおそらくこのような状況になっている。

こう考えると実は日本の規制というのは実によくワークしているのではないか。海外が米国債の評価損のことを騒ぎ立てるずっと前から、地銀の外債投資に関しての懸念は当局が指摘しており、普通に新聞紙上でも話題になっていた。そして、LCRやNSFRなどの比率を調整する前から個別の指導が入っていたことが予想される。一律の基準を決めるよりは個別の状況に合わせながら危機管理をする体制が、バブル崩壊による金融危機を経験することによって確立しているのかもしれない。海外の銀行危機を受けて日本は大丈夫かとう質問が来るたびに、複雑な気分になっている国内のリスク管理は多いのではないだろうか。

Standard CSAの手法がSwapAgentで復活

先日Standard CSAのような仕組みで通貨スワップに円担保が出せれば良いのにというコメントをしたが、これは既に可能になっているようだ。Risk.netが報じているように、ドイツのKfWがEURUSDの通貨スワップの変動証拠金(VM)に対してEUR担保を出しているものの、SwapAgentを使うことによってUSDディスカウントが行えるようになったとのことだ。

記事の中では、このTransportation Currencyを使う手法は、きわめて複雑でディーラーサイドにもリスクだというコメントも紹介されているが、10年ちょっと前にStandard CSAの仕組みについてさんざん議論をした人たちにとっては、いまさら何をという感じだろう。当時緊急時にはドルだけでなく円も出せるようにとEmergency Collateral Clauseを入れるべく議論が盛り上がったのが懐かしく思い出される。

当時は証拠金規制の導入によって、Standard CSAは完全に忘れ去られてしまったが、これが後にこのような形で実現するとは誰が予測しただろう。その意味では、SwapAgentの努力は賞賛に値する。

この担保通貨の違いは、日本でも大きな問題になっており、ドル円通貨スワップを行うエンドユーザーにとっては、クロスガンマのヘッジ、流動性の分断もあり、コスト高の一因になっている。ただでさえ、緊急時に備えて確保しておかなければならないドルを担保に出すというのは、日本の市場参加者にとってはハードルが高い。これが円担保でドルディスカウントの通貨スワップの流動性を享受できるのであれば、日本の通貨スワップ市場にとっても朗報である。

現状日本ではSwapAgentの利用はそれほど進んでいないが、これで頻繁に通貨スワップを行うエンドユーザーへと広がる可能性が出てきた。そもそも日本は流動性に比して商品が多すぎてリスクとコストがかさんでしまう構造になっているので、こうした標準化が可能になるのは望ましいことである。これまでは円担保の通貨スワップ市場とドル担保の通貨スワップ市場の流動性が分断されてしまっていたからだ。

確かに拠出された円現金を為替取引によって日々ドルに換える手続きは面倒に思われるだろうが、自動化してしまえば、ある程度対応可能だ。通貨スワップの60-70%がSwapAgent経由になったという意見もみられるので、今後は通貨スワップの主流がSwapAgent経由になっていく可能性が高い。まだ日本での利用は少ないが、円担保が使えるのであれば利用価値が高まる。そしてほとんどの取引がSwapAgentに移れば、CCPベーシスのようにSwapAgent vs. Bilateral Basisなども生まれるかもしれない。

大手行の中でこれに参加しているのはバンカメくらいのようだが、KfWのような大手市場参加者がSwapAgent限定で取引を始めればその他のディーラーも対応せざるを得なくなる。ヘッジファンドでもこれに追随するところが出てくるだろう。そして日本の市場参加者が本格的に参入してくると、いよいよSwapAgent経由の通貨スワップが主流になる。担保コールのDisputeもなくなり、様々なプロセスが標準化されるため、事務コストのかかる日本においても注目が高まってくることになるだろう。