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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

DVA効果はFVAによって相殺されるようになった

リーマンショック時に自らのクレジットスプレッドが拡大したことにより利益が上がったというニュースが注目を集めたが、今回はなぜこれが起きなかったのかということに興味を持った方が多かったようだ。ちょっとテクニカルになるが簡単にまとめてみたい。

デリバティブの信用評価調整であるCVAは双方向CVA計算をしている限り、カウンターパーティーの信用力に応じて変化するCVAと自らの信用力に応じて変化するDVAの合計となる。カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大すればCVAが増加(つまり損失拡大)するが同時に自らの信用スプレッドが拡大すればDVAが増加(収益拡大)となる。

最近ではCVAというとこのCVAとDVAの合計を指すことが多く、DVAという言葉はあまり聞かれなくなった。一方金融危機時と今回の最大の違いは、この間にFVAが導入されたという点である。FVAはファンディングコストなのでこちらも自らの信用スプレッドが拡大すれば収益悪化要因となる。したがって、信用スプレッドが軒並み拡大しているときは、DVAの収益とFVAの損失が相殺するため、以前のようにDVAからの利益拡大が目立つことにはなりにくい。

今後は2008-9年のように、自分の信用力が悪化したために利益が上がるということは少なくなっていくものと思われる。ただし、FVAの会計上の導入が終わっていない邦銀など、一部の銀行決算上はこうした影響が出てくる可能性はある。

今回はJPMが$951mmのXVA損失を計上しているが、funding spread widening on derivativesに起因すると書かれているのでおそらくFVA損失だろう。バンカメはcertain valuation adjustmentsによって$492mmの損失が発表しているが、これにはFVAが含まれていると報道されている。GSも約$500mmの損失を公表しており、おそらくFVAの影響が大きいものと思われる。

米銀大手の第一四半期決算は、ローンに対する引当金に加え、こうした評価調整によって収益が引き下げられたが、今やFVAがショックアブソーバーの役割をし始めているように感じている。以前は、収益低下をDVA利益が補うというショックアブソーバーだったのが、全く逆の形になっているのは皮肉なものである。

デリバティブ取引からの収益は各行とも好調で、もしこれらのVAがなければかなりの好決算になっていただろう。その場合、こんな状況で最高益を上げるなんてとんでもないという批判が巻き起こっていたかもしれない。今回はトレーディング収益が好調だったから良かったが、トレーディングが低調な上にFVA損失が重なれば目も当てられない。そうなると、今後の金融機関の業務としては、クレジット物など、あまり在庫を抱えるビジネスはやりにくいということになるのかもしれない。これを誰が支えるかというとやはり中央銀行ということになる。つまり規制を強化して金融機関のリスクテイクを減らし、それを中央銀行が補うというのがこれからのニューノーマルになるのだろう。

在宅勤務への準備不足によって市場が動く

4月に入ってJSCCの金利スワップ取引件数/金額が顕著に減少している。昨日4/13などは、債務負担件数が115件、金額も1.3兆円と通常の半分程度になってしまっている。3月の取引が非常に活発だったのに比べるとその落ち込みはかなり激しい。

年度初めということもあるが、おそらく政府の要請を受けて在宅勤務(というより自宅待機)が増えたことがその要因なのではないか。スワップ取引に際しては、海外のようなSTPが進んでいないため、コンファメーション、ブッキング、取引報告、担保授受等様々な実務が絡むため、慣れない自宅勤務をするよりは取引を控えてしまうという形になっているのかもしれない。

これに呼応してか、LCH/JSCCスプレッドのマイナス幅が拡大している。おそらく海外勢は引き続き在宅で円金利をLCHで受けているのに対し、日本の参加者が取引休止を余儀なくされているので、スプレッドが動いてしまっているのではないだろうか。

在宅勤務の準備ができていないなら止めてしまえというのは、日本だけ見ていれば理にかなった行動なのかもしれないが、グローバルにつながっている金融市場においては、こうした歪みが発生するのは避けられない。これによって日本の参加者が不利益を被ることがなければ良いが。。。

今後の金融の姿

緊急事態宣言が発令され、飲食店は軒並み営業停止や縮小に追い込まれている。とりあえずは5/6まで休みとしているところも多いが、これはおそらく数か月から半年、あるいは1年以上続く可能性が高いため、今手をこまねいていると早晩大変なことになる。日本は個室で食事をするのを好むため、感染対策を万全にした店舗への移行はしやすいので、少しやり方を変えて来るべき日に備えて準備をしていく必要があろう。

これはどの業界にも言えることだが、今後はビジネスのやり方を根底から変えていかなければならない。特に大打撃となっているバーでは、小瓶に入れたカクテルなどをデリバリーしようにも規制の関係でこれができないが、金融においても、免許制度、規制を変えていかなければ、ビジネスの変化に日本が取り残されてしまう。

まずは専用端末といったコンセプトを完全に放棄しなければならない。これまではセキュリティ重視から好まれた方法だったのだと思うが、日銀ネットに始まり、専用線を引いたPCしか使えないということになると、結局誰かが出社しなくてはならない。そのために高度なセキュリティ技術が必要になるが、海外で広く使われている仕組みを借りてくればそんなに難しいことではない。個人投資家を守るためというのももっともではあるが、郵送を原則としている取引報告書なども、メール等による送付を可能にする必要がある。

日本国債の入札・輪番業務、補完供給等のプロセスもかなりマニュアルだが、これも完全にオフィスに人がいるという前提で造られた仕組みで、こうした危機時には非常に脆弱な仕組みだ。政府が出勤する人数を絞り始めている今、日本国債の取引が海外に比べて極端に細ってしまうのではないかという懸念も聞かれる。これまでは、日銀を含めてほとんどの会社が、自社でプロセスやマニュアルを決めて、それへの対応ができることを金融機関に求めるということが多かった。今後は標準のやり方を決めてそれに適したシステムやプロセスを決めて皆がそれに従うというやり方にしないと、コストがかかりすぎてしまう。

スワップも海外のように、ボイストレーディングを極力減らし、スクリーンでの執行を進めていくべきだ。こうなってくると国債のe-tradingも極力進めた方が良いだろう。銘柄間の差も取引流動性を下げる原因になっているため、CDSのインデックスでやったような年4回のロールを2回にするといった変更など、これまで全く考えなかったような変更をJGBについても行っていくべきかもしれない。CDSでは以前に発行されたシリーズの流動性は極端に低くなってしまう為、極力最新のシリーズであるカレント物にロールするという慣行があるが、JGBでもこうしたロールを促していくことはできないものなのだろうか。あるいは日銀が古いシリーズを市場から極力吸収していくとか、何か方法を見つけないと、オンザラン、オフザランの違いからリスクが発生したり、今回のように流動性が落ちたりしてしまう。国債の引け値のきざみが粗すぎるというのも日々の収益変動が大きくなる理由となっているような気もする。

今は緊急危機対応に忙殺されてしまっているが、おちついたら新しい金融のあり方を模索してみたい。

ARRCが債券取引のLIBOR SPREAD調整方法決定

ARRC(Alternative Reference Rates Committee)が米ドル建てCash Products(社債などの債券)についてのスプレッド調整方法を4/8に公表した。コロナウィルスの感染拡大でコメント期限が3/25に延期されていたが、その集計結果をもとにコメントが出されている。

LIBORに代わる新レートはSOFRに決まって久しいが、実際に移行する際にSOFR±α=LIBORとするようなαを決めるというものなのだが、結局は大方の予想通り、デリバティブと同じLIBORとSOFRの過去5年間の平均(厳密にはメジアン)に落ち着いて。

一般消費者向けに関しては1年間の経過措置を設けることも提案されている。あくまでもRecommendationとの位置づけだが、ほとんどの市場参加者はこれに従うことになるのだろう。今後はARRCの推奨するフォールバック条項が契約に盛り込まれていくことになるのだろう。

このアナウンスメントにより、一部で高まっていたLIBOR移行の期限延期期待が少し打ち消された形になったとの報道もあった。一方、日本ではRisk.netがディーラーからの延期を求める声が高まっているという記事が出ている。長時間労働と伝統的なビジネス慣行によりリモートワークが厳しいという現場の声も紹介されており、上司が承認しないと外部へのメールも送れないという会社さえあると書かれている。欧米のようにCash Productsでリスクフリーレートへ移行する兆しも見られない。

それにしても、リモート環境が整っていないため日本だけがLIBOR改革を遅らせるというのはあまりにも格好がつかない。そもそも日本が技術的に劣っているとは思えず、在宅からの業務フロー構築はそれほど難しいことではない。やはりRisk誌が書いているように、滅私奉公的な日本の企業文化と、当局がオフィス以外からの業務を認めることに消極的だったからなのだろうか。確かに、今でも「いやあ。まだまだ出社してますよ。」と誇らしげに言う人もいるし、家から電話をかけていることを顧客に知られると気まずいという営業員がいるとの話も聞くので、当たらずとも遠からずなのかもしれない。

LIBOR改革がもたらす時価評価変更

LIBOR改革の一時的延期を求める声が大きくなる中、唯一延期を望まない声が大きいのが割引率の変更である。ユーロのスワップに関しては、CCPで清算された取引について、EONIAから€STRへのディスカウントレートの変更が6月19日から22日の間に予定されているが、これにより既存のCleared Swapの価値が変更になる。これに併せてCCPで清算されることが決まっているスワップションについても同様の変更が発生すると思わているのだが、LIBOR改革が延期になると、これまでの前提が崩れてしまう。

Risk.netによれば、8割方のスワップションが割引率変更を前提としてプライシングされており、これが延期になると無用な混乱を招いてしまうからだ。ユーロのリスクフリーレート検討ワーキンググループでは、相対のスワップション取引の割引率変更をどう進めるかについて意見募集を行っているが、コメント期限が4月17日まで延期されている。

一部の市場参加者は既に6月22日に割引率を変更する契約交渉に入っているようであり、確かにこの方がCCPで清算された取引と相対取引の割引率が一致するため、ミスマッチも少なく、不確定要素もなくなる。

前回のOISディスカウントの変更時もそうだったが、こうしたスワップの時価評価に影響のある変更の場合、単純に時期をずらすのは非常に難しい。なぜなら既存の日程をベースにプライシングされた取引が多く、日付を変更すれば、得をする人と損をする人が出てきてしまうためである。

おそらくLIBOR改革に関しては何等かの延期措置が取られる可能性があるが、こうしたプライシングに影響があるものについては、当初の予定通り進めておいた方が良いのだろう。他国が先行しているため、日本はそこから学ぶことができるが、日本円については、こうした他の通貨のスワップの状況を見ながら最善のスケジュールを立てていく必要がある。

コロナによる格下げはプロシクリカリティを引き起こすのか

欧州証券市場監督局(ESMA)のMaijoor議長が、格付機関は今回のコロナショックによる拙速な格下げを避けるべきとコメントしているとの報道があった。すでに格付機関との対話も行っているようだ。今回の危機は企業や国にとっては不可抗力のようなもので、一旦状況が落ち着けば急速に回復するからとのことのようだ。格下げ自体が問題というよりもそのタイミングが重要とのことだ。

イギリスが3月にFitchによって格下げされ、イタリアも投機的等級に下げられそうになってきている。確かにウィルス広がりを受けて経済的な影響も出始めており、デフォルト件数も増えてきているので、企業の倒産確率を表す格付が下がるのは致し方ないとも思えるが、格下げによって自動的にその会社の社債を売却せざるを得なくなる年金基金やファンドも多く、格付会社が危機を増幅してPro Cyclicalityを引き起こしているという意見も完全には否定できない。

リーマンショック、欧州危機の時にも散々話題になったが、結局状況はあまり変わっていない。株価急落に際してはサーキットブレーカー制度があり、一時的に取引がストップされるが、これも急激な価格変動を避ける手段の一つである。格下げをストップさせるダウングレードブレーカーのようなものが議論されるようになるのかもしれない。

金融取引においては、格下げによって取引を解約するダウングレードトリガーはかなり少なくなってきた。ファンドについてはNAVトリガーもあるが、これも1ヶ月にNAVが2割とか3割減少したからといって、いきなりトリガーを引くかという問題も起きている。

ローンについては、財務制限条項とかこうしたトリガーをむやみに引かないようにとのお達しがあったが、デリバティブ取引についても心情的には同じような対応をすべきという声もある。一方で、実際に資金不足によってデフォルトするファンドもあるので判断がむずかしい。

そう考えるとプロシクリカリティは避けられないのかもしれないが、デリバティブの世界で起きたようなダウングレードトリガーによって機械的な取引解約するようなことを避けるのは有効なのだろう。ファンドも格下げされたら自動的にポートフォリオから外すという厳格なルールを外して、状況を見ながら判断するのが最も良いのかもしれない。

スワップスプレッドは規制で動く

SLRなどのバランスシート規制による制約によってドル金利のスワップスプレッドがマイナスに転じていることは何度か紹介してきたが、このコロナショックを受けて、マイナス幅が極度に大きくなっていた。しかし、SLRの計算から米国債を除くといった各種規制の一時的緩和もあり、このスプレッドが急速に戻している。未だマイナス圏にはあるものの、これがプラスに浮上するのではないかという意見も出ている。

何度か説明してきたが、簡単におさらいをすると、通常LIBORなどの金利には銀行の信用リスクが含まれている為、国のスプレッドである国債のイールドよりLIBORの方が高くなるのが通常であった。しかし規制によって国債を保有することが難しくなると、逆に国債が敬遠され、国債金利が上昇するというのがリーマンショック以降常態化している。

銀行アナリストの中にはSLRの一時的緩和措置は1年の期限切れ後も延長されると予想する声もあり、それに応じてスワップスプレッドがプラスになる可能性がささやかれ始めた。やはり規制の影響は甚大ということか。

一方日本は相変わらずスワップ金利が低い状態が続いており、今回の危機でマイナス幅が拡大してからなかなか戻ってこない。ただし、在宅勤務になるとスワップよりJGBや先物が選好される可能性もあるので、その場合にはスワップスプレッドも海外と同じような動きを見せ始めるかもしれない(違う理由からではあるが)。

LIBOR改革は延期されるか

夜中にLIBOR移行に関するグローバルコールがあった。こんな状態ではあるが、やはりLIBOR改革担当となった人達は、責任感に燃えて、家から多くの人が参加して活発に進捗を議論している。

一日中コロナ対策でてんやわんやになっている人は、ごめん、今それどころではなくて作業が進んでいないと言ってしまうのだが、当局から期限が切られている以上、LIBOR改革担当にとっては当然面白くない。

3月25日に、英国FCA、英国中銀からは、LIBORからの移行について期限の延期はないと高らかに宣言されてしまったのでなおさらだ。一応今後の状況によっては、タイミングについても影響があるかもしれないというリスクヘッジのコメントはついていたが、金融機関サイドは延期がないという前提で準備を進めなければならない。

Euromoneyが主張しているように、今は多くの銀行員がLIBOR改革に時間を使うよりは、このコロナショックのおかげで苦境に陥っている中小企業からの貸出要望に応えるべく、ローン担当者を全力投入すべきなのだろうが、各銀行でそんな判断はできない。何か緊急事態宣言が出せない日本のような状況になっている。

記事にもあるように国際的な連携のもとガイダンスが出されることが切に望まれる。LIBIOR改革はシステム改訂や契約変更の他、全顧客との対話が必要になる。顧客サイドも、こんなことで電話してもそれどころではないという反応が多い中、とてもでないが完全な準備ができるとは思えなくなってきた。この状態で無理やり移行すると何か事件が起きるような気さえする。通常規制延期には消極的なのだが、今回ばかりはちょっと様相が違うと感じている。

また、リーマンショック後の金融規制のおかげで、銀行はリスクを取れなくなっており、今回のショックでもそれほど危機的状況に陥っているという声は聞こえてこない。今朝の新聞の記事がうまくその状況を描写していると思う。通常日本のメディアではあまりまともな金融関連記事は見たことないのだが、この記事の内容はその通りだと思う。おそらく8年間で初めての日本語記事のリンクを付けた気がする。

一つ不安なのは、第一四半期の銀行決算発表で、海外大手銀行が軒並み高収益だったりしたら、火事場泥棒のように金融機関不審が高まるのではないかという点だ。規制強化とともに会計規則も強化され、益出しや益の先送りが海外では不可能なので、この可能性は高いのではないかと思っている。

マージン規制フェーズ5/6延期決定

Basel/IOSCOから証拠金規制のIMフェーズ5と6の延期が昨日発表された。先日ここで予想した通り1年の延期となっている。想定元本50mmユーロを超える参加者は2021年9月1日、8mmユーロを超える参加者は2022年9月1日が適用開始日となる。

金融庁からは日本の規制変更も出ると思われるので、日本の市場参加者についても1年の猶予ができる。

今回の危機で海外がかなりの割合で在宅勤務になる中、日本では決済や担保授受といったオペレーション業務が在宅に対応できないため、取引が細るということが懸念されているので、日本にとっても朗報なのかもしれない。

これを機に、会社の端末でないと送金指示ができないとか、郵送の取引コンファメーションしか受け付けないとか、適格機関投資家以外には同意がない限り、郵送で書類を送らなければならないとか、新時代に対応できない慣行についての見直し作業も進むことが切に望まれる。

規制緩和により焦点は資本・バランスシート規制から流動性規制へ

米国FRBからの金融機関向け連銀貸出、連銀からの有担保、無担保信用供与、資本・流動性バッファの利用、所要連銀預金の減少各種緩和策が出ており、そのQ&Aも公開されている。その後SLR(補完的レバレッジ比率)規制の一時的緩和も行われ、米国債と連銀預金をレバレッジエクスポージャーから除外することが認められたのは既に紹介したところである。

とは言え、LCR(流動性カバレッジ比率)規制に関する緩和が行われていないため、銀行がバランスシートを拡大することができずにいるという記事がRisk.netに紹介されている。

欧州ではECBがLCRが100%を下回ることを許容しているとのことなので、米国とは異なる対応となっているようだ。米国もQ&Aの中では100%を許容しているように受け取れるコメントもしているが、その解釈を巡っては業界でも混乱が生じている。このような状況では100%を下回る状態に陥ることを避けようという銀行がほどんどだろう。

米国にはほかにもRLAPとかRLENという流動性要件があるので、事態は更に複雑になる。RLAPはResolution Liquidity Adequacy and Positioning、RLENはResolution Liquidity Execution Needsの略で「アールラップ」、「アールレン」と呼ばれているようだ(少なくとも私にはそう聞こえる)。こうした制約は銀行によって異なるため、何を重視するかは業界でコンセンサスを取るのが難しいので、ロビー活動も一筋縄ではいかない。

つまりバランスシート規制、資本規制についてはかなり緩和が進み銀行が市場に資金を融通することが可能になってきたが、流動性関連規制が置きざれにされている。国の要請によって企業に資金を融通すると一部が預金に残り、それがLCR等流動性関連比率を悪化させてしまうため、資金供与をするインセンティブに制限がかかるという仕組みのようだ。

あまり全てを緩和しろというのもやりすぎだとは思うが、ありとあらゆる規制を入れたため、その関係性が複雑になりすぎ、一部規制緩和だけでは、なかなか市場にインパクトを与えにくくなってきたということなのだろう。

レバレッジ比率規制の一時的緩和が公表された

FEDからSLR(Supplementary leverage ratio)の一時的緩和が本日付で発表されている。米国債市場の流動性ショックに対応して、矢継ぎ早に対応策を打ち出してきたが、ついに規制緩和の本丸にまで踏み込んだ形だ。来年2021年3月31日までの時限措置となっている。これにより、米国債やFRBにある預金をSLR計算の分母に含めなくても良くなる。今回の措置は即日有効になり、45日のコメント期間が設けられている。

とは言え、SLRに対しては、一部の銀行を除き既にかなり対応が進んでおり、以前のように最低基準すれすれという銀行は少なくなっている。さらに、今回の措置には米国債のレポが含まれていないため、引き続きレポ取引はバランスシートの膨張要因となるので、以前ほどはインパクトは大きくないのかもしれない。

しかし、コメント募集の質問事項の中に、以下のようなものがあるので、ひょっとしたらレポ取引にも対象を広げることを検討しているのかもしれない。Should the Board exclude any specific repo-style transaction that would support banking organization’s role as financial intermediaries, and ,if yes, why?

日本版NO ACTION LETTER

金融庁から報告提出期限についてのアナウンス「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」を踏まえたBCP対応に係る留意事項が公表されている。必要な業務の継続が可能となるよう、臨機 かつ柔軟な対応が金融機関に求められると書かれている。

留意事項として、 役員等の経営機能の維持のための体制の構築(電話会議、輪番体制等) や在宅勤務(テレワーク)や時差出勤等の積極的な推進が唄われている。この状況の中当然のことのように思われる方もいるかもしれないが、ここで金融庁からアナウンスがあったという事実が大きい。これで、金融機関各社のコンプライアンスに対応が一気に変わるからである。

これだけが理由ではないのとは思うものの、金融業界の雰囲気が今秋一気に変化したのを肌で感じる。何があっても出社しなければという日本的雰囲気が変化し、柔軟な対応をしようという機運が生まれたように思う。確かに、システムや決済オペレーション等、一朝一夕に構築できないものもある。とは言え、こうした準備を真剣に進めなければならないという雰囲気になったのは非常に大きい。これで業界が良い方向に舵を切ってくれることが切に望まれる。まずは迅速に動いて頂いた金融庁に感謝したい。

金融ショック時に取引、流動性供給を継続するには

これだけ市場変動が激しくなると海外ではオプション取引によって損失の影響を最小化しようという動きが出てくる。しかし、ここまでくると資本規制に起因する銀行のリミットが上限に近づいてくる。これを受けて米国の取引所が銀行に流動性を支えるために資本上の免除手当を入れられないか働きかけているという報道があった。

これまで何度も紹介してきたCEMからSA-CCRへの移行を早めることにより、顧客のためのポジションを元本でなくリスクによって決める方法の早期導入を求める内容だ。今回の市場変動を受けて3月のオプション取引量が過去5年で最大になったと報じられている。既に3月18日にFED副議長らに宛てた文書が送られているが、当局の動きが注目される。

これまで日本の当局の対応について少しコメントをしてきたが、もしかしたら業界サイドにも問題があるのかもしれない。この取引所が当局に出したレターのように、海外では業界団体を含む業界サイドからの働きかけも多いように思う。

日本においては、証券自己資本規制等がCEM方式を取っているが、これも証券会社が流動性を支える障壁になっている。未だに格付に頼った方式になっているのも問題だ。つまりどんな優良企業であっても格付が存在しなければ信用リスクが高いとみなされ、高い信用リスク資本賦課を要求される。

また、決済関係が遅れている日本の場合は、マージンコールのオペレーションを避けるため、無担保で為替取引を行うケースも多いものと予想されるが、これをヘッジする先は有担保なので、この資本コストもばかにならない。グローバル金融機関で、このような顧客取引のリスクを本社に移転している場合は、対本社は有担保、日本の顧客は無担保となってしまう。本社が銀行出なかった場合は、証券自己資本上の信用リスク資本賦課も大きい。

グローバル展開をしているアセマネも、海外では有担保だが、日本の年金資産等を扱う時だけは無担保ということもありうる。こうした取引はグローバルでは問題になるのだろうが、日本の特殊性ということでおそらく今でも続いているのだろう。しかしこのような市場変動が起きると、いざという時に取引が止められるということもあるのではないか。オペレーションが面倒だというのも理解できるが、有事に安定的に取引を継続できるメリットも大きいものと思われる。今回の危機でその重要性がまた再認識されたと思う。

日本で規制や法律を柔軟に変えるのが困難な理由は何か

ローンの返済が滞った場合には、通常なら銀行は引当金を増やさなければならないが、EUではこのルールを緩めてよいという発表が水曜にあったと報道されている。返済猶予や州ベースでの保証なども検討されている。IFRS9によればこうした返済猶予等があると、引当金を積み増さなければならないのだが、コロナショックを受けた一時的流動性逼迫等については柔軟な取り扱いを認めるというものだ。

経済対策としては、影響を受けた企業に対して直接お金を回すことが日本ではまず検討されるが、こうした規制、会計上のルールの柔軟適用は、お金を使わずに経済活動に影響を与えることができるという点で優れている。今回の各国の対応を見ていると、こうした規制緩和のニュースがあちこちで聞かれる。

ECBの前総裁のマリオ・ドラギはFTの社説の中で、規制や担保が人々の雇用や経済を守るための障壁になってはならないと強く述べている。そして今回の危機を戦争になぞらえ、スピードが最も重要だと主張している。

日本においては、企業支援策等直接資金を供給するという政策については、色々と議論が進んでいるようであるが、規制緩和方向の話はあまり聞こえてこない。もしかしたら金融特有の問題ではなく、ルールや規制を柔軟に変えるということが難しい国なのかもしれない。海外は都市封鎖や一般企業に人工呼吸器を作らせたり、外出時のルール等も矢継ぎ早にどんどん出てくる。日本はあくまでも自粛要請だったり、法的拘束力を伴わないものばかりが出てくる。

戦時中は国家総動員法とか金属類回収令とか、様々な法律が柔軟に制定されたと思うが、もしかしたら戦争の経験によってこうした法律を柔軟に変えるということにアレルギーができてしまったのではないだろうか。あるいは占領中にこうしたことができないようにされてしまったのか。この辺りは専門家でないので良くわからないがいずれにせよ、日本の対応が全て遅いというのには何か理由があるのだろう。

こうした危機時に日本が優れているのは、もしかしたら既存の法律の枠組みの中で柔軟に動ける、民業圧迫と批判されてきた政府系金融機関の役割なのかもしれない。

業界からの悲鳴

金融業界では、こんな状態の中出勤はしたくないものの、在宅勤務が許されない雰囲気があり、泣く泣く出社しているという声が良く聞かれる。こんなマーケットが動いているときに家から仕事とは言いづらいというのと、コンプライアンスの理由が大きいようだ。録音などのモニタリングができる電話がない場合は、家から営業活動をしたり、取引を執行したりということが許されないからとのことだ。外出自粛が強化され「今が瀬戸際」というのであれば、米国と同じような録音免除等の様々な免除措置や在宅勤務を奨励するようなコメントが発表されると良いのだが。これで問題が起きれば、長時間労働が問題になったときと同じように、訴訟などに発展するのだろうか。

市場取引を継続するためには

木曜に米財務長官からは市場を開け続けるという強いメッセージが出ている。取引所の停止の噂が出る中、それを明確に火消しした格好だ。たとえ、困難になったとしても数時間でも市場を開けるとも言っている。ただ、ほとんどの取引所、ブローカー、ディーラーがほぼ100%在宅でも何とか市場を開け続けることが証明された今では、確かにこれはそんなに難しくないことのように思える。FEDも矢継ぎ早に市場安定策を打ち出しており、2兆ドルの財政支援策も 急ピッチでまとめられた 。官民一丸となって今回の危機を乗り越えようという意気込みが感じられる。

これまでNYの会議室と電話で繋いで電話会議をしていたのだが、全員電話になると結構アジアにとってはやりやすい。会議室で同時に皆が話しているところに電話で、しかも母国語以外で割り込むというのはかなり難儀なのだが、全員が電話になるとかなり楽になる。以前時差は問題だが、在宅勤務になり、移動の負担がなくなると夕食の後に少し電話に乗るくらい訳ない。しかも会社支給の在宅勤務用電話は、携帯とは全く異なり、時間差も少なく音声も非常にクリアである。Zoom Meetingも驚くくらい早く快適だ。おそらくこんな感じで金融はきっと誰もオフィスに行かなくても仕事ができるようになるのだろう、というよりはほぼ実現しているといって良い。

ただし、同じ話を日本ですると様相が少し異なる。日本ではWork from Home (WFH)というよりはStay at Home(SAT)であり、在宅勤務というよりは自宅待機に近い印象を受ける。業界の友人と在宅勤務の話をしていると、在宅勤務をすると規制上望ましくないという感覚があるようだ。確かに、トレーダーの管理監督、情報管理、守秘義務等様々なハードルはあるが、海外ではそれを一つ一つクリアしてきており、当局からも録音義務の一時免除等のアナウンスが矢継ぎ早に出ており、市場の継続に力点が置かれている。日本の場合も当局もそんなに理不尽ではないと思うが、日本のコンプライアンスは、在宅勤務に関しては世界一厳しい。日本のBCP対応はこれまで在宅を意識しておらず、何があっても誰かが出勤するという前提だったのだと思う。

確かに海外の同僚が日本に来たときに、フロアが昔の米国のように騒がしいと驚いていた。まいん!ごしあま!などと怒号が飛び交うのは彼らにとっては懐かしい時代に移るようだ。いつも外人の新人に、一毛五指強の発音を教えているのが非常に滑稽だ。1.5bp Downで良いのに。今回のコロナショックを経てこうした慣行ももしかしたら下火になっていくのかもしれない。

金融機関サイドで、規制を気にするあまり何があっても出勤するというのは日本の文化のせいかもしれない。これを変えるには、海外のように明確な指針を広く公開していく必要があるのだろう。ここで、なぜ、海外のように明確な指針を出さないのか考えてみた。阿吽の呼吸、言外の意図をくみ取るという文化もあるだろうが、おそらくマーケットの専門性と特殊性の問題なのではないだろうか。海外ではトレーダーが当局に転職したりといった人材交流があり、担当者も市場経験が長いため、何となく雰囲気が掴めている。一方日本では、業界との癒着を嫌うためか当局担当者の異動の頻度が多く、嘱託で短期間勤めている金融機関出身者を除くと専門家は少ない。この状況であやふやな知識のまま、全世界に大々的に指針を出すというのは誰でも躊躇する。

したがって、金融機関にヒアリングをしたり、個別に連絡をすることにより、何とか対応しているという感じなのではないだろうか。まあ米国でも財務長官が4大銀トップとの会談などをやっているのである程度似たようなものなのだろうが、トップ以外の会話の頻度は海外ではそれほど多くないように思う。開かれた市場との対話ということなのかもしれないが、非公式の対話から市場が動てしまっても不公平なので、水面下の対話から、広く市場に向けたメッセージへという欧米の流れも参考にできると思う。

証拠金規制フェーズ5の延期

ほとんどの金融関連業界団体が、今年9月のマージン規制フェーズ5の延期を求めている。COVID-19関連で在宅勤務が進む中、必要な契約、オペレーションのセットアップに時間が割さけないためだ。延期の期間としては6ヶ月と1年というのが案として出されている。契約に関しては、電子署名の認められている国は良いだろうが、この点で遅れている国は在宅勤務が長引くと対応できないというコメントも報道されているが、日本のことを指しているのかもしれない。

半年延期になるとフェーズ6が来年9月に控えているので全てが半年遅れになるのだろうが、1年遅れだとフェーズ5が来年9月、フェーズ6が再来年9月ということになるのだろう。現状を見ると1年延期の可能性の方が高いように思う。

契約書やカストディアンの準備等は既にフェーズ1-4でプロセスが出来上がっているので、それほど手間がかかるとは思えない。ただし、初めて対象になるバイサイドの投資家にとっては心理的ハードルが高いのも理解できる。

ただ、個人的には、業界がこぞってこの延期を求めている背景には、昨今の市場変動によるバイサイドのパフォーマンスがあるのではないかと勘繰ってしまう。海外ではマージンコールに応えられずデフォルトをしているファンドが増えてきており、決済が滞ったり、担保が入ってこなかったりといったことが増えてきている。市場心理の悪化から投資家からの現金化要請も増えており、一時的に担保となる現金が足りなくなっているものと推測される。特にマージン規制によってVM(変動証拠金)に対する担保は欧米では現金であることが求められるため流動性危機に陥っているところが多い。

こんな状態の時に、いくらIM(当初証拠金)には国債等の現金以外の資産が使えるといっても、更なる担保負担増は避けられない。このウィルスが夏に収束するという見通しが遠のく中、9月から追加担保拠出は何としてでも避けたいという心理が働いても不思議ではない。こういう報道の仕方をするメディアは見かけないが、当然業績が悪化したから証拠金規制を延期して欲しいなどとは言えないため、今のような言い方になっているのだろう。とは言え、今回の極度の市場変動の中無理に規制導入を進めて更なる解約と市場混乱の増幅を招くのも得策ではないため、延期はやむを得ないのだろう。

コロナショックを受けた金融改革提言③

BCP Planへの本気度
海外のメディア情報を見ていると、海外大手金融機関のほとんどの従業員が自宅勤務となっている。進んでいるところは9割近くといっても良いだろう。同時にバックアップセンターや、複数拠点を使いながら、このマーケットの混乱の中でも何とか業務を継続している。当局も取引報告や電話の録音義務を一時的に緩和し、一般企業の従業員には自宅勤務を命ずる一方、金融機関の従業員には出社を認める通達を機動的に出してマーケットを支える努力をしている。自宅外取引の承認プロセスも確立しており、そのモニタリングについても一定のコントロールが効いている。

確かに大手外資系では、通常業務のほぼ100%が自宅でできるのは事実である。15年ほど前から、普通に会社のPCにリモートログインし、すべてのシステムが使え、おそらくアクセスできないものはほとんどないのではないだろうか。電話も支給され、家のルーターにつなぐとすぐに会社にいるのと全く同じ操作が可能である。さすがにトレーダーは少し苦労するだろうが、皆普段から休みの時にリモートログインをして仕事をすることが多い為、急に自宅勤務になったからといって、支障をきたす人は少ない。緊急連絡の手法も、会社メール→会社電話→インスタントメッセージ→携帯電話→自宅固定電話のように従業員が応答するまで追い続ける連絡システムが普通に使われており、数十年前の学校で使われていた緊急連絡網とは雲泥の差である。セキュリティ対策も常日頃から改善努力が続けられてきており、Zoom等を使って常時職場と接続し、自宅勤務をする際の注意事項から自宅勤務が長期化した社員のメンタルヘルスに関する気配りまでがなされていると海外では普通の様に報道されている。取引所やブローカー、ひいては当局までもが、バックアップサイトや自宅からの業務を普通に継続している。当然慣れないことであるので、様々なプロセスが遅れたりすることはあるが、おそらく100%が自宅勤務でも市場を開けることは可能だろう。余談にはなるが、海外ではリモートコンピューティングとか、リモートで仕事をすると言われ、テレワークは日本だけで聞かれる言葉のように思う。確かに電話も使うが、メインは会社のパソコンにリモートでログインして行う仕事が中心になるので、リモートで仕事をすると言う方がしっくりくる。おそらく日本の場合は会社のPCにログインすると言うよりは、電話で仕事をするのが中心だからなのかもしれない。

この点においては、さすがに日本の遅れをひしひしと感じる。専用端末という前近代的な仕組みが残っていたり、バックアップサイトを普段からテストをすることも少ないところがある。当然日本の大手はかなり進んでいるが、日本企業全体の危機対応となると、どこまでできているのか心もとない。そもそも、何があっても会社に出社するという前提で仕組みが作られているようにすら思える。確かに地震があっても台風が来ても皆満員電車に乗って必死に通勤しており、電車の本数を減らしたりといった対応は昨年の台風で初めて行われた対応である。だからこそ、社員の転勤問題、子育ての苦労等様々な障壁が日本のサラリーマンにはあった訳だが、リモートワークが進めば、実は日本が最も恩恵を受けるのではないだろうか。なぜなら、単身赴任で家族と離れ離れで過ごす人が多く、海外のように簡単に住み込みの家政婦を雇えず、職場への距離が遠く、満員電車の中で過ごす時間が長い日本にとっては、今後の伸びしろが、日本には最もあるということになるからである。

実はこうしたリモートワークのインフラはそれほど大がかりなものではなく、恐らく日本ではすぐに導入可能なものばかりである。今回のこのコロナショックを活かして、是非とも日本の金融業界の生産性を上げていきたいものである。そうすれば日本の金融の未来は極めて明るいと断言できる。

コロナショックを受けた金融改革提言②

CCPの相互接続
このマーケットの混乱の中で相変わらずCCPベーシスの乱高下が続いている。海外投資家がリスクオフになって固定金利を受け始めると、それにつれてLCHの金利が下がり、JSCCの金利が置いて行かれ、海外の金融緩和ニュースで金利が上昇すると海外からの払いでCCPベーシスが戻すといったことの繰り返しが起きている。以前であれば、海外の受けに対して国内の払いを当ててヘッジをするということが容易だったが、今では金利が二つ(厳密にはCMEやEurexもあるが)存在するために、円金利スワップ市場の流動性は極端に落ちている。本来であればCCPを一つにするのが簡単なのだろうが今となっては不可能だろう。となると残されるのはCCP間の相互接続である。今や多国間のスワップ協定なども行われているため、CCP間で定期的にポジションをフラットにする取引をしたり、すべての大手参加者が複数のCCPに接続できるよう規制を緩めたりして、このベーシスを無くす努力をしていかないとスワップ市場の機能不全が危機時に加速してしまう。

同時に日本にはLibor/Tiborベーシス、DTiborとZTiborのベーシス、Libor OISベーシス、6s3sベーシスなどがあるが、極力こうしたベーシスリスクを無くす努力をし、取引標準化を図ることが流動性向上につながるはずである。

想定元本主義からの脱却
規制資本計算に使われるカレントエクスポージャー方式に代表されるように、デリバティブ取引のリスクを計算する際に、想定元本に一定の掛け目をかけて計算することがあるが、完全にオフセットしている取引があった場合もリスクがあると見なされてしまう。100億円の受けと100億円の払いがあればリスクはゼロだが、元本は200億円となってしまうからである。銀行にもローン畑の人が多いからか、100億円の金利スワップを100億円のローンと同じように考えてしまう人が銀行の審査部には存在しているという話も聞かれる。100億円すべてを棄損する可能性のあるローンに比べ、クーポン1%の100億円の10年金利スワップの受けの場合は、将来の金利収入は最大10億円であるため(金利がマイナスになると話は別だが)、リスクは全く異なる。SA-CCRへの移行によりこれはリスクを考慮することが可能になるが、日本の証券自己資本や銀行のリスク管理において、元本をベースにした管理からの脱却を図ることにより、ネッティングを意識したり、本来のリスクを意識した取引ができるようになる。

印鑑の廃止
今般の自宅勤務の進展において一つ話題になっているのが印鑑文化である。海外であれば、契約書をプリントアウトしてサインした後PDFにして送り返せば契約締結ができることが多いのだが、日本では誰かがオフィスに残って印鑑を押さなければならない。収入印紙を購入して貼り付けなければならないというのも日本独自の文化だ。電子納税は進み始めているが、印紙税の別納、電子署名等を進めていかないとスピードにおいて他国から取り残されてしまう。登記簿謄本は直近数ヶ月のもののみを受け付けるという慣習も、他国にはない日本独自のやり方である。これだけ電子化の世の中において、役所に登記簿謄本を取りに行ったり、確定日付を取りに行ったり、その紙を郵送したりといった方法では、今後対面のサービスが縮小し、電子的処理が進む金融実務にそぐわない。

コロナショックを受けた金融改革提言①

今回のコロナショックは、今後の金融のあり方を根底から変えてしまうだろう。特にニューヨークやロンドンといった金融の中心都市が、極端なストレス下で取引をしているため、海外の変化の方が早く進む可能性がある。日本も欧米に遅れないよう、早急に対応を進めていく必要がある。具体的には何をすればよいかはまだ完全には見えてこないが、単なる一個人の意見として、いくつか提言をしてみたい。

決済システムの高度化、オートメーション化
マージンコールから決済までにかかる時間が日本は最も長い。海外ではマージンコールがかかったら即日か翌日には着金が確認できるが、日本の場合は2日とか3日を要求する市場参加者が未だに多い。一日でこれだけ市場が動く時代にあって、リスクが出てから3日後に着金というのはあり得ない。銀行サイドもこれを長くすることによって顧客獲得競争をするところがあるが、人手を介して送金指示をしたり、担保を出すのに承認がいるというプロセスを止めるべきである。その辺の買い物でも一瞬で電子決済ができる時代に担保の送金に2日とか3日かかるというのはあり得ない。特に、海外が人手を介さない方向に進む中このままでは日本だけ取り残されてしまう。CLSを通じた決済やDVP決済が何故か進まないのも日本の特徴だ。

マーケットインフラへに対する国のサポート
これまでは、取引所やCCPはいざという時に中銀のサポートが得られるという前提でルール作りがされてこなかった。海外のCCPの中には銀行と同様の支援が得られるところがあったり、流動性サポートが得られるところもある。日本の場合は、いざとなったらこうしたサポートが得られると多くの人が思っているが、それを前提としたルール作りをしてほしくない、モラルハザードを防ぎたいということで中銀サポートは明文化されていない。したがって、いざとなったら市場参加者が流動性を拠出したり、一部損失負担をする仕組になっている。しかし、現状の資本規制、流動性規制のもとでは、こうした有事の流動性供給を約束している場合は、その分の流動性を常に確保し、資本も積んでおく必要がある。取引所やCCPは完全なマーケットインフラになっているため、参加者破綻時にCCPの流動性が枯渇した場合は中銀のサポートが得られることを明確化したらどうだろうか。そうすれば、銀行が無駄な資金を常に抱えておく必要がなくなり、もっと市場にお金が回るようになる。

同じようなことは、その他のストレス時対応にも言える。銀行は、例えば現在のようにドルが逼迫した時のために、ドル調達ができるよう、何らかの手当をしておかなければならない。ただし、実際に米ドルが調達困難になった場合は、日銀の米ドル供給オペレーションを使うのではないだろうか。それを見越してストレステスト計画を策定するのはおかしいという意見ももっともだが、米国では緊急時に米国債を現金に換えるということを前提として良いという方向に舵を切りつつある。こうしたルールの見直しができれば緊急時の流動性安定につながる。現在米国債で起きているような極度の流動性低下も避けられるかもしれない。なお、ドル供給オペレーションに関しては、年度末まで来週火曜の一回が残されるのみだが、ここに資金ニーズが集中しないよう、日次化を進めると良いと思う(と思ったら既に土曜に日程追加になってました…さすがです) そして、このオペレーションを使うこと自体が、自らドルが調達できないことを示すようなものであるため、使いたくても使えないということのないよう、利用を促進できれば望ましい。米国では大手が共同で連銀貸出を使う旨アナウンスしているが、同じようなアナウンスも効果あるかもしれない。

取引の自動化と20年国債先物の取引拡大
米国のように国債の電子取引等を日本でも進めていく必要があるが、そのためには自動的にプライスをQuoteし、自動ヘッジまで行うところまで、マーケットが進んでいくことになるものと思われる。自宅勤務でノートパソコンから一つ一つ顧客取引を捌いて取引をブックし、コンファメーションをメールで送るなどと言うのでは限界がある。おそらく欧米は今回の混乱を受けて、プロセスの自動化を図ることにより、自宅勤務であったとしてもスムーズに取引ができるような環境整備を進めていくだろう。

また、自動ヘッジに関しては現在7年近辺の国債先物しかないが、これだけで自動ヘッジは不可能である。やはり20年物など更なる年限拡大が今後の取引自動化には必要なのではないか。また銘柄間の価格差が無用な収益変動を生み出しているため、国債価格もっと細かい単位で評価できるようにしたり、回号を減らしたり、輪番でオフザラン銘柄を吸収したりと、流動性向上のための改善も求められる。

取引ライセンスの緩和
今回のウィルスのケースを含め、通常のオフィスでの取引執行が困難になる場合には、例えば香港やシンガポールといった別の地域からの取引執行を可能にすべきである。外務員資格の問題や海外から日本のブックで取引をするということに対する抵抗感があるのは理解できるが、東京のオフィスにいないと取引ができないということでは、今後発生するシナリオに対応できない。大地震、停電、交通機関のマヒなど、様々な理由で通常のオフィスに出勤できないことを想定して、場所に縛られない取引執行を可能にするプランを考えた方が良い。個人宅からの取引執行に抵抗があるのも当然だが、現実に今ニューヨークやロンドンでは、オフィスに出社できない人が多数おり、実際に自宅からの取引も行われつつある。電話の録音義務を免除したNo Action Letterなどはその最たる例だろう。セキュリティの問題もあるのだろうが、端末に依存しないネット経由の取引ができるよう、日銀ネット、ブローカー、銀行のシステム、フローを大幅に見直す必要がある。