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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

SA-CCRの計算

バーゼルIIIの最終化がコロナによって1年延長されたものの、2023年1月のFRTB、信用リスクにかかる標準的手法、内部格付手法、CVAなどの適用まで2年を切った(本邦では2023年3月)。内部モデルによるRWAを標準法のRWAの72.5%を下限とするアウトプットフロアについても2023年1月からの段階適用となる(50%->55%->60%->65%->70%->72.5%)。

カウンターパーティークレジットリスク計測手法も、従来のカレントエクスポージャー方式からSA-CCRに変更になる。既にSA-CCRの導入を始めた邦銀も多いが、ROE重視の経営が盛んになる中、SA-CCRを巡る分析が今後活発になっていくものと思われる。SA-CCRは基本的に以下の6つの分野に影響を及ぼす。

  1. RWA
  2. Large Exposure Framework
  3. レバレッジ比率
  4. CCP向けエクスポージャー
  5. CVA
  6. アウトプットフロア

という訳で、若干SA-CCRについて整理してみる。デリバティブ取引はまず以下のリスクカテゴリに分けられる。

  1. コモディティ
  2. クレジット
  3. 株式
  4. 為替
  5. 金利
  6. その他

まずはカウンターパーティーのデフォルト時の時価であるるEAD(Exposure at Default)の計算が必要になる。要は取引相手がデフォルトするとき、どの程度のエクスポージャーを持っているかというものだ。これはいつもの通り以下の式で表記される。

EAD=α(RC+PFE)

αは当局指定のマジックナンバーである1.4、RCはReplacement Costの略、PFEはPotential Future Exposureの略である。RCはそのポジションを再構築したらどれくらいのコストがかかるかということでこのように呼ばれるのだろうが、要はその取引の時価(MtM)である。PFEはおなじみのVaRと似た概念で、エクスポージャーが潜在的にどれくらい動くかというものである。無担保の場合は1年間にどれくらい動くか、有担保の場合はMPORとかMPRと呼ばれる一定期間でどのくらい動くかを測るものである。OTCであれば、通常は2週間程度が使われることが多い。

PFEはそれぞれの資産クラスで計算したものを足し上げ、それに決められた掛け目(Multiplier)をかけて計算される。RCはISDAマスター契約などのネッティング契約の下にある取引をすべて足し上げる。この契約単位をネッティングセットという。

無担保の場合は以下の式で表される。

RC=max(CMV – NICA, 0)

CMVはCurrent Market Valueなので取引の時価(MtM)、NICAはNet Independent Collateral AmountなのでCSA契約で言う独立担保額、つまり当初証拠金と同義である。無担保なので要は取引の時価ということになる。ここでmaxがついているのでこの値はマイナスにならない。つまりA社でプラスの時価、B社でマイナスの時価だったとしてもそれらを相殺できない。

有担保の場合は以下の式となる。

RC=max(CMV-VM-NICA, TH+MTA-NICA,0)

だんだんややこしくなってきたが、VMは受け入れた変動証拠金、THは担保のThreshold、MTAは最低受渡金額(Minimum Transfer Amount)である。昨今ではThresholdは証拠金規制でほぼゼロになり、MTAもほぼ無視できるので、結局は担保でカバーされていない時価ということになる。ここでもmaxで0以下にならないので、異なるネッティングセット間で勝ち負けを相殺することはできない。

ハイブリッド取引のようにどこの資産クラスに入れるか明らかでない場合は、センシティビティの最も大きなリスクファクターなどによって分類する。年限毎のオフセット等その他詳細についてはまたの機会に。

日本の金融オペレーションはなぜ世界に後れを取ったか

あくまでも私見だが、日本のスワップ事務処理が世界に後れを取った理由の一つに、STPガイダンスがなかったことがあるのかもしれない。米国では2013年にSTPガイダンスが出され、欧州でも2015年に似たようなガイダンスが出された。要はクレジットリミットのチェックを瞬時に行い、その後のプロセスも極力自動化せよというものだが、これがSEF(Swap Execution Facility)、リアルタイムレポーティング等につながっている。

これにより、システム開発が行われ、一連の自動化プロセスが確立した。主にSEF上で執行されクリアリングされるような取引に対するプロセスなので、今回のArchegosのような事件には対応できないだろうが、一定程度のリスクコントロールも可能になる。

欧米ではClearing Certaintyという概念があり、執行前にクリアリングブローカーであるFCMとCCPが、取引がCCPで清算されることを事前にコミットする。CCPのブローカーに対するリミット、FCMが各顧客に対して持つリミットがあり、取引前にこれらのクレジットチェックが行われる。

なぜこんなことをするかというと、クリアされた取引と相対取引は資本コストやIMコスト、ディスカウントレートが異なるため、プライスが異なってしまうからである。クリア前提で取引を行い、その後にクリアリングできなかったとなると一方が損をしてしまう。清算集中義務規制が広がった今ではあまり問題にならないかもしれないが、当時はクリアリング前提の取引が急にOTCになってしまうとかなりの混乱を招いた。

通常はExecution Agreementでこうした場合にどのような対応をするかが取り決められている。STPガイダンスでは、Void Ab Initioという概念があり、あたかも取引がもともとなかったかのように無効になる。遡及的無効とでも訳すのだろうか。欧州ESMAのガイダンス上も取引がVoidになるとされているので、同じような対応となっている。

これを避けるためには取引前にリミットチェック等を瞬時に行う必要があり、これを確保するのがClearing Certaintyだ。クリアリングブローカーが顧客やSEFにリミットをあらかじめ伝えておき、これを超える場合には取引が瞬時にVoidとなる。取引の再提出は基本的には認められないが、ESMAの場合はシステム障害等による場合のみ例外が認められている。とは言え再提出の期限は10秒以内だったと思うので、システム的に対応していないと不可能だ。

欧米ともこの一連のプロセスにかなり厳格なタイムフレームを設けており、1分以内とか10秒以内とか細かく決められている。つまり、2013年くらいから、欧米金融機関はシステム開発にかなりのコストをかけ、ほとんどのプロセスの自動化することに注力してきた。

システム開発は不思議なもので、よほどのトップダウンの指示がない限り巨額投資が行われないという性質がある。特に従業員の雇用を守るという視点が入ってくると、自動化に対する抵抗力まで生まれてくる。規制で決められているのでやるというのが最も簡単だ。

日本の金融のオートメーション化が進まなかったのは、文化的な要素もあるのだろうが、このSTPガイダンスのような規制の後押しがなかったからなのかもしれない。STPプロセスの場合は、途中でそれを止めることができず、例えばBookingを間違えると、それがそのままConfirmationに反映され、SDRレポーティングまで行ってしまう。

事務ミスに対する許容度の低い日本では、きちんと人の目でチェックして顧客に送る書類には絶対にミスがないように気を配る。送ってから間違いがあれば直すという海外とは文化が異なる。ただ、昨今の自動化の流れの中では、人海戦術でミスを極限まで減らすという戦略には限界がある。不完全ではありながらも自動化の努力を進め、AIを駆使してそのプロセスを日々改善している海外とは、早晩戦えなくなってしまうのではないだろうか。

CMEのIBOR CONVERSION追加詳細

CMEからLIBOR取引一括変換の追加詳細が公表された。JPYが12/3、GBPが12/17なので、LCHと同じスケジュールになっている。既にFixingが終わった部分については、後決めでレートを変更することはなく、そのまま決まったFixingが維持されるとある。

また、オペレーション的にはCancel &Rebookだが、法的にはAmendmentの形を取るという点も新しい。ヘッジ会計の継続とかレポーティング規制の免除を受けやすいということなのだろうか。Swaptionについては、一旦Fallbackしたスワップをクリアして、日の終わりに標準OISに変換するとしている。これは参加者にとってはありがたい話なのだろう。ベーシススワップは二つのスワップに分解するようで、こちらはLCHとも同じだ。

参加者の意見を踏まえてこうした詳細が決められているのだろうが、CCPによって細かい点が微妙に異なっているのが興味深い。今後はこれらのやり方が一本化されていくことになるのだろうか。

しかし、色んな意味においてヘッジ会計は面倒だ。これがなければ、普通にコンプレッションサイクルで新レートに変えられるのに。

TIBORシフトは起きるか(UPDATE)

(グラフが間違えていたので修正しました。)

LIBOR公表停止関連のアナウンスを受け、OISへのシフトが増えるかに注目が集まっている。JSCCの債務負担金額の推移を見ると、全般的には右肩上がりだが、期待したほどには増えていない。

一方TIBOR関連のニュースもあったが、存続する予定のDTIBORが若干増えている。3月に顕著だったのはDTIBOR vs ZTIBORスワップだ。従来はほぼ同じものとして扱われていたDとZが今後異なってくることを予想した動きなのか、このリスクをヘッジすべきという判断が働いたのかはよく分からないが、この伸び率はかなり大きい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

年度末のヘッジニーズ等もあるだろうから一概には言えないが、引き続きTIBOR Swapは継続して使われていくのだろう。ドル円通貨スワップはSOFR vs TIBORは可能なのかという話まであったが、さすがに通貨スワップはSOFR vs TONAだと思う。とは言え、豪ドルなどはBBSWが残るのでBBSW vs SOFRも可能だろうから、理論的にはTIBORベースの通貨スワップの取引が増える可能性は捨てきれない。

TIBOR統合のDとZの統合が2024年12月となりそうだが、統合という言葉が使われているからか、DとZのスプレッドが縮小するという声が多いのも気になる。確か厳密にはZが廃止となり、Dが新しいレートとして残ることになる。したがってZが廃止となるのであればFallbackのトリガーイベントとなり、OIS+スプレッドになるのか。そうするとDとZが近づいていくというよりは、DとZが別物になっていくという理論も成り立つ。いずれにしてもTIBORは公開情報も少ないのでよく分からない。

決済迅速化によってリスクを減らす

Archegos問題でCSが$4.7bnという巨額損失を公表したが、一年間必死に働いて得た収益が一瞬にして吹っ飛んでしまったようなもので、衝撃は大きい。幸いマーケットを揺るがすようなインパクトにはならなかったが、ファミリーオフィスに対する規制強化が叫ばれるようになったのは当然だろう。

リーマンショック時にも何度もファンド破綻を経験したが、マージンコールに遅れた場合に、ファンド責任者からはもう少し待ってほしいという依頼が当然届く。後は他の銀行の出方を見ながらということになるが、経験上すぐに動かなければ負けである。これは債務金額が変化しないローンとは異なり、特にデリバティブ取引の場合は、急速に債務が膨らむような方向に市場が動くのが常である。その後数週間待てるのであれば、資産価格が戻ってくる可能性があるが、その時には既に破綻していて時すでに遅しとなる。

そもそもマージンコールをかけて資金を送金してもらうというプロセス自体が時代遅れになってきているのではないだろうか。今の技術を使えば、損失が膨らんだ段階でリアルタイムに資金移動を行い、口座に資金がなくなった段階で自動的にLiquidationを始めるような仕組みは簡単に作れるように思う。

DTCCの株式決済システムを高度化させれば済むように思うのだが、最近パイロット運用が一時的に認められたPaxosのようなサービスが正式にSECからライセンスを取れば、DTCCを脅かすようになるのかもしれない。ブロックチェーン技術が進めば、こうしたファンドやファミリーオフィス破綻の影響を最小化できるのではないだろうか。この辺りはFTの社説にも報じられていたが全くその通りだと思う。DTCCは2023年までに決済期間を2日から1日に縮小する計画を持っているが、本来即時決済に持っていくべきだと思う。

今回話題になっているトータルリターンスワップのようなデリバティブ取引については、MPOR(Margin Period or Risk)を1日、2日または、2週間のように決めてその間のリスクをカバーすべく当初証拠金などのマージンが決まる。瞬時に決済が可能なのであれば、2日間のリスクをカバーする必要はなくなり、必要証拠金が減る。つまり、よりレバレッジがかけられることになるので、本末転倒という声も聞こえてきそうだが、その分直ちにポジション清算に動けるのであれば、マーケットが極端に動いて巨額損失が発生する前にポジションカットをすることが可能になる。

今回のArchegos事件によって、ファミリーオフィスに対する規制を強化するとか、金融機関サイドがこうした投資家に巨額のリスクを取らせないようにすべきといった議論が盛り上がっている。しかし、そもそも、ある程度損失が膨らんだ時点で強制終了し、こうした巨額の損失が発生しないような仕組みを作ってしまえばよいのではないだろうか。

CLEARED SWAPの一括変換プロセスが明らかになってきた

LCH、CME、Eurex、JSCCの新レートへの切り替えプロセスについての情報が公開され始めている。JSCCからは3/26に「LIBOR参照スワップの標準的なOISへの変換に関する取扱いについて」という文書が開示されているので、年末までのどこかで行われるだろう変換作業に向けて準備を進めていくことになる。ただし、今後の変更の可能性があるという但し書きがついているので確定という訳ではなさそうだ。

JPY LIBORについてはスプレッド付のTONA(OIS)に変換するという方針になっており、後決めの、Delayed Payment(2日ラグ)とする標準的なTONA(OIS)に変換するとあるので、ISDAプロトコルによるFallbackによってできるスワップではなく標準OISへの変換である。つまり、LIBORの時の金利支払い日より2日後にOISレグの金利支払いが行われるという想定だ。キャッシュフローが異なることになるので若干面倒だが仕方がないのだろう。ただ、投資家にとっては異なる日に振り込まれても困るという人もいるかもしれない。

変換前にレートが確定していても、変換日にPaymentを迎えていないLIBOR参照のキャッシュフローについてはTONA-OISとして金利計算、支払いを行うとある。確かに後決めだから変換した後に金利を決めるのは当然ということなのかもしれないが、既に決まっている金利までが変わるとなると何か特殊なプロセスを考えなければならないかもしれない。

LCHの方のアナウンスを見ると、意見募集の結果当初のキャッシュフローを極力保持してほしいという依頼が多かったようで、LCHとしては、極力その方向で行きたい(Intend to preserve this outcome)とも書かれている。CCP間で処理が異なるのも面倒なので、今後の議論によっていずれかの方法に収斂していくのかもしれない。

他にもJSCC案では、LIBOR 6/3 basisについてはOIS vs OISベーシススワップとして変換するとある。OISの6/3というのはない気がするので、片方のレグは半年ごとのPayment、もう一方は四半期ごとのPaymentではあるが、単なる固定されたキャッシュフローのスワップということになるのだろうか。おそらくコンプレッションもできないだろうから、これは決済してしまってなくしてしまえないものだろうか。それか標準的な固定 vs 変動のスワップに分解するとか。実際にどのように変換プロセスを決めようかと考えていると、何だか訳がわからなくなってきたので、もう少し時間をかけて考えてみたい。

ターム物リスクフリーレートの取引はいつから活発化するか

オペレーション、システム的な理由から、日本においては、市場標準の後決め複利RFR(リスクフリーレート)に移行したくないというニーズが一定程度存在する。こうした市場参加者は前決めのターム物RFRに期待を寄せる声が大きく、これが標準OIS取引への移行の妨げになっている気がする。

日銀検討委員会で債券、ローンLIBORフォールバックとしてターム物RFRが第一順位に来ているとうのも、ターム物RFRを待ちたいという意見につながっている。日本のターム物RFRであるTORFについては、2021/4/26から確定値公表が始まると発表されているが、公表されたからと言って一気に流動性が上がるとは全く思えない。

何か勘違いもあるのかもしれないが、TORFの計算のもとになっているOIS取引が増えていかないとTORFの頑健性は上がっていかない。OISの取引が増えないのにTORFの流動性を頑張って上げましょうというのは本末転倒の議論に感じる。

海外に目を転じると、ARRCから3/23にフォワードルッキングなSOFRターム物金利についてのUpdateが公表されているが、そもそもOISの流動性がない中、ターム物RFRの早期流動性向上に懐疑的なコメントとなっている。

While trading activity in SOFR derivatives is growing, at this time, the ARRC believes that it is not yet in a position to recommend a term rate with confidence based on the current level of liquidity in SOFR
derivatives markets.

という記載の通り、現状のSOFRの流動性に照らすと、自信をもってターム物金利を推奨できる立場にないとしている。SOFRが流動性の低い実取引に基づいているということは、金利操作が可能ということにもつながり、何のためのLIBOR改革かわからなくなる。

TORFについてもQuickのページで説明されている通り、以下のような順位で計算がなされている。

  1. 実取引
  2. CLOB(現時点では当然対象外)
  3. 気配値ペア(想定元本情報有り)
  4. 気配値
  5. 気配値ペア(想定元本情報無し)

CLOBとはCentral Limit Order Bookのことで、いわゆる取引の「板」に当たるものである。現状CLOBが存在せず、気配値もほぼない中、唯一限定的にOISの実取引があるのだろうが、OISの実取引が増えない中TORFの頑健性を高めるのは理論的にはおかしな話になってしまう。

一方ARRCは、フォワードルッキングなターム物金利を新規取引に使うのは少し待った方が良く、現状あるもの、つまり後決め複利のRFRを使うことを推奨している。米ドルの他、英ポンドについてもターム物RFRの利用を一部の用途に制限すべきという意見も聞こえる。

LIBORがなくなる年末までには流動性が上がる見込みのないターム物にはある程度見切りをつけて、早めに標準OISに移行すべきというのが海外の主要意見である。そうしないとターム物の流動性が上がるまで様子見を決め込む市場参加者が増えてしまうため、海外当局は早めに警告を発しているのかもしれない。

日本ではこのような意見はあまり聞かれないので、特に多くの債券投資家がTORFに期待して何もせず、そのうち年末近くなって実はTORFは使えないということが明らかになり、慌てて別の手段を検討し始めパニックになるという姿が容易に想像できてしまうのは私だけだろうか。










ローンから社債へのシフトは本物か

先日に続いて社債の話を少し。円建て社債がここ2年間急増しているというグラフを載せたが、外債も同じように増えている。こちらはここ数年というよりはリーマンショック後右肩上がりに伸びているように見える。

出所:日本銀行データより筆者作成

負債に占める割合も2016年あたりから18%程度まで増えており、ローンから社債への流れが本格化している。優良企業では50年債などの発行もあり、ローンでは不可能な資金調達が低利でできるようになり、低格付債の発行も増え始めている。銀行ローンはそれほど長期のものがないので、低利のうちに長期間の資金確保をしようというニーズが増えるのも当然の流れである。日銀の社債買い入れも追い風だ。

市場と連動しているのかどうかよくわからない長短プライムレートで借り入れるよりは、低金利を活かしてマーケットレートで資金を借りたいというのは当然の流れだろう。社債投資家は銀行のようにあれこれ言ってくることもないし、多くの投資家への分散もできる。ESG債の発行も増えてくることが予想され、債券市場が面白くなってきた。

負債に占める社債の割合が増えると投資家との対話も重視するようになり、銀行だけを向いた経営というよりは、市場に評価される経営が必要になってくる。これで海外並みの収益率を重視した企業が増えてくるきっかけになるかもしれない。

ワクチン投与の進展と経済活動

金融市場だけを見ているとワクチンの重要性が非常に高まっている。当初は安全性を疑う声からワクチン投与を拒否する人の割合が相応に見込まれていたが、ここへきてワクチン投与による効用が不安感を上回っているように感じる。

最近の電話会議では、ワクチンもう打った?という話題から始まり、ロンドンはほぼ一回目を終わった人が増え始め、NYでもそろそろ受けようと思うという意見が増えてきている。

英国では3月のサービス部門収益が大幅拡大し、4月もさらなる拡大が予想されている。新規感染者数も3-4000人程度の日が多くなり、そろそろ日本と英国が逆転しそうだ。サービス産業が英国経済の80%を占めていることを考えるとここからの景気回復は思ったより早そうだ。

Google Mobilityのデータやクレジットカード支出統計なども、3月は力強い回復を見せている。4月以降、厳しいロックダウンの間に貯めこまれた資金が一気に消費に向かう可能性がある。労働市場も回復し、GDP成長率も当初予想の5%を大きく超えてくる可能性が高くなってきた。

米国ではまだ30%がワクチン投与に後ろ向きとCNBCで報道されており、これを義務化するかどうかという議論が起こっている。政府の立場としては強制はできないという立場を貫くだろうが、水疱瘡やはしかの予防接種は、通学の条件だった州もあったので、今後、航空機の搭乗のほか、劇場やコンサートでワクチン証明書が必要になることもあるだろう(当然、宗教、体質の問題もあるので完全強制は不可能だが)。

現在のワクチンはEUA(Emergency Use Authorization)による承認で正式承認ではなく義務化は難しいが、実際にイスラエルでは一部娯楽施設の入場に証明書が必要になっている。米国でも証明書を提示すればドーナッツがもらえるとか各種割引を提供する店が出始めている。レストランなどでも、ワクチン接種をしない従業員には接客をさせないというバーが出てきて議論になっている。ワクチン接種に金銭的インセンティブを与えるという企業もある。

ワクチン接種者のみで飲み会をやろうとか、海外旅行をしようということになると、自分だけが家にこもり続けることもできなくなってくるのではないだろうか。日本にいるとそんな雰囲気はないが、海外では夏の飛行機の予約も増えているとのことなので、思ったより早く変化の波が訪れているようだ。

日本の社債市場は発展するか

日本は間接金融中心だったため、社債市場の育成が遅れたというのは何年も言われてきたことである。JSDAで社債市場の活性化に関する懇談会が開かれたり、業界を上げて様々な努力が何十年も行われてきたが、結局大きな成果を得るには至っていない。

社債発行が少ないので活発な流通市場も育たず、社債レポ市場もないため、満期保有目的の投資以外はあまり投資家ニーズもなかった。CDSである程度ヘッジできるようになったとは言え、CDS市場の流動性も海外に比べると極端に低い。

業界でもあきらめムードに近いものがあったのだが、この傾向に若干変化が表れてきているように見える。大型起債のニュースが近年多かったので、久々にJSDAのデータを拾ってみると、以下のように年間発行額が15兆円を超えている。何となく7、8兆円が平均で多い時で10兆円という感覚だったので15兆円というのは頭一つ抜けた感じであり、しかもこれが2年続いている。

日本証券業協会データより筆者作成

もしかしたら銀行との関係にも変化が起き始めているのかもしれない。昨年末の大型起債も順調に消化され、投資家層も厚くなってきた感がある。昨年大型投資時には、中央公的、生損保、投信、系統、銀行で投資家層の7割を占めており、残りが地銀、海外その他と報じられていた。投信に組み込む動きと海外投資家のニーズが増えているのかもしれない。

それでも米国に比べると微々たる発行量だが、海外のように社債市場が活発化すると、銀行と企業の力関係も変化してくることが期待される。低格付債市場も活発化すれば、新興企業の資金調達の道も開かれるようになる。

ドル建て債券になると海外投資家が容易に投資できるが、円資金が必要な場合は通貨スワップが必要になる。このコストを考えると、円債でニーズが賄えれば企業にとっては望ましい。ほとんど金利のつかない銀行預金にしておくより、きちんと利息のつく社債投資を行いたいという個人も出てくるだろう。そして日本の社債をベースにしたETFや、リスク分散の観点から円建て資産を持ちたいという海外投資家も入ってくるかもしれない。

そうすれば、セカンダリー市場での売買も活発化し、レポ、社債ショートのニーズも高まり、CDS市場も活発化するのではないだろうか。

通貨スワップはいつからLIBORからRFRに変わるか

LIBORからのシフトに伴う通貨スワップに関する質問が多くなってきた。ドル円の通貨スワップで言えば、JPYのレグだけ今年末でTONAに変換され、USDレグは2023年6月に変換されるということになるかということなのだが、確かにFallbackまで待てばそうなる。

この過程では、TONA vs USDLIBORという通貨スワップができることになる。Risk.netの記事では、このようなスワップは、単にもう一種類のベーシスが生まれるだけで、トレーダーとしては特に問題ないというコメントが紹介されていたが、それでもやはり厄介だ。やはり事前にTONA vs SOFRのスワップに一度に変えてしまう方が、オペレーション的にもリスク管理上も簡単である。

DTCCに報告されているRFR同士の通貨スワップの取引量もまだ極めて限定的である。今年に入ってから62取引しかなく、円については6取引である。とは言え、この4月からGBP LIBORの新規取引が奨励されなくなり、USD LIBORは確か7月から、JPY LIBORは10月から同じ状況になるので、徐々にRFRの流動性も上がってくるだろう。流動性が上がれば、一斉にRFRに変換してしまおうというニーズも増えてくることが予想される。

当然LIBORリスクをヘッジしている一部のものはLIBORのまま残るだろうが、ブローカーマーケットの主流がRFRに移れば、b/oもRFRの方がタイトになっていくだろうし、自然のシフトが進んでいくことが予想される。

問題はいつどのように相対での交渉を始めるかという点だ。ディーラーは数多くの取引を抱えているので、数か月の間に多くの取引を変換することが難しくなってくる。オペレーション的には徐々に慣れてくるだろうが、最終顧客に対する説明や個別対応が難しくなる危険性もある。海外では極力マーケットスタンダードの形に持っていこうとするのが通常であるが、日本の場合はオペレーション、システムの制約から、いつものように支払日等で特殊対応が必要になるかもしれない。こうなると期限内にすべてのスワップを変換するのはかなり困難になるだろう。

おそらく海外では7月から変換が進み始め、日本では10月以降から移行が本格化するという感じかと思う。ただしそうなると10月は忙しくなり結局間に合わず、JPY LegだけがFallbackしてしまうスワップが多くなるというのが、残念ながら現実的な予想なのかもしれない。

よく日本は、かなり早い段階から細かく勉強をする人が多いものの、お勉強どまりでその後の作業が進まず、最後の最後で駆け込みで何とかしようとするものの、各種制約が大きすぎて頓挫すると言われることが多い。海外のメディアでも実は日本のLIBOR移行が最も問題なのではないかという記事が出ていたが、何とか汚名挽回と行きたいところである。

Archegosショックについて

週末から金融業界はArchegosの話題で持ちきりだが、見方によってはこれも規制の産物と言えるのかもしれない。昔であれば株式のエクスポージャーを取りたければ、マージンレンディング等が様々な方法があるが、こうしたSecurity Financeはレバレッジ比率規制等の規制上不利になり、トータルリターンスワップを使った方が所要資本が低いということが起きる。

ヘッジファンドにとっても株を買う必要はなくマージンコールにさえ応えられれば良いため、レバレッジがかけられる。中央清算機関での清算や取引報告要件も弱いため、ニーズが高まるのは当然である。

また、スワップ形式であれば想定元本を小さくして取引をブックすることも理論的には可能であり、元本のみに注目する規制上更に有利になる。100億円の元本で1%の金利を支払うスワップと10億円の元本で10%の金利を払うスワップは、全く同じペイアウトになるものの、想定元本は後者が10分の1になり、レバレッジ比率規制上の所要資本も大幅に減少する。

国債でも同じで、レポを行うよりはTRSにしてしまった方が所要資本額を減らせる可能性がある。バックストップとしてのレバレッジ比率規制なら問題ないが、これが最大の制約になっており、先月のように規制緩和延長を巡って市場が動いたりするのは本来望ましくない。

本当ならリスクの高い取引の所要資本を大きくするべきなのだが、国債取引やレポをするくらいならスワップにしてしまった方が得策になる。このインセンティブを何とか修正すべきだというのはここで何度も主張してきたことだ。

それにしても日本の金融機関までもが巻き込まれているのは若干残念だ。ローンの世界だと返済猶予を与えるのにそれほど大きな抵抗はないかもしれないが、証券取引の世界だとほんの少し支払いが遅れただけでもクローズアウトに走るのがこの世界では一般的である。一分一秒を争うので、夜中だろうが何だろうが、緊急電話会議を行ってポジションをクローズするのが通常だと思われるので、初期動作の遅れは致命傷となる。こうした危機管理対応にはある程度の慣れが必要なのかもしれない。

TIBOR一本化実施は2024年12月末

全銀協TIBOR運営機関からTIBORの算出、公表に関する自己評価が公開された。特に目新しい内容はなかったが、以前から言われている日本円TIBORとユーロ円TIBORの一本化のスケジュールに触れられている。3月5日のFCAのアナウンスメントを受けてLIBORの公表停止時期が明らかになったことを受け、TIBORの一本化について2024年12月末と想定していると書かれている。

もともとTIBORには日本円TIBOR(DTIBOR)とユーロ円TIBOR(ZTIBOR)があったが、Zを廃止してDに一本化することで方向性が決まっていた。タイミングとしてはLIBOR改革の後18か月とか2年というスケジュール感であったが、今般5通貨のLIBORの全テナーが公表停止となる2023年6月から数えて18か月後という想定のようだ。円LIBOR自体は今年末までだが、USD LIBORが2023年6月なので、そこから18か月としているようだ。

2024年末というと、後3年9か月あるので、ずいぶんゆっくりな印象だ。円LIBORの新規取引停止が9月末になったため、引き続き二つのTIBORリスクを管理していく必要がありそうだ。

ターム物リスクフリーレートは主流になるのか

米国のLIBOR代替指標であるSOFRのターム物の流動性が上がらない。USD LIBORの公表が18か月延長された影響もあるのかもしれないが、ARRCが目標としていたスケジュールから大幅に遅れる見込みとなってきた。ARRCからもあきらめにも似たコメントが直近出されている。それでもUSではSOFRの先物が数千億円程度取引されているので日本よりはましかもしれない。CMEでは先物をベースに1,3,6か月物のターム物SOFRの取引を近日中に開始するとしている。

USDについては、日本と同じようにターム物RFRがローンや債券の推奨レートの中では上位に位置している。しかし、このままの流動性だと、ターム物RFR自体が実取引に基づかないレートになってしまい、市場操作の温床となったLIBORの二の舞となりかねない。

CCPにおけるディスカウント変更、3月5日のFCAアナウンスメントと、SOFRの流動性向上に資すると思われた重要イベントをこなしたが、SOFRスワップの流動性は一向に上がってこない。ユーロについても似たような状況でターム物€STRの取引は極めて少ない。日本のターム物のTOFRの確定値の公表がもうすぐ始まるのだろうが、海外がこんな状況の中日本だけが成功するとは思いにくい。

しかも米国では先物取引が増えているうえ、変動金利の米国債の発行等も見込まれている。SOFR参照債券の発行も進んでいる。米国ではターム物SOFR以外にもクレジットスプレッドを考慮したIceノBYI、BloombergのBSBY、Ameriborへのシフトも予想される。こうなるとやはり日本ではTIBORがしばらくは増えるのかもしれない。

一方英国ではターム物SONIAの使用に関する提案が公表されている。シンセティックLIBORのヘッジを含むあらゆるケースでの使用が想定されているようだ。ターム物RFRの使用は10%程度とする当初の提案からすると、よりターム物RFRを許容するようになっているように見える。3/5のFCAのアナウンスメントで、Synthetic LIBORの計算方法が、ターム物RFR+スプレッドとされていたのも関係しているのかもしれない。日本の9月より5か月早く4/1より新規LIBOR取引が原則停止になるので、英国の進展は今後の参考になろう。

結論からすると、いつかはターム物RFRの流動性が上がってくるのだろうが、現在の市場関係者の想定よりは大分遅くなりそうだ。




円LIBORスワップは9月末で新規取引停止

昨日、日本円金利指標に関する検討委員会第21回会合資料が公開された。公開と同時にBloomberg上で、9月末に新規円スワップ停止のヘッドラインが出てマーケットがざわついた。

遅くとも9月末までに新規取引を停止すること、前倒しが可能であれば9月末を待つことなく積極的な対応を進めることとある。気配値提示も7月末にはLIBORからTONAに移行すべきとされている。個人的には若干遅い感もあるが、時期が明確になったのは望ましいことである。

もともとローンと債券に関しては6月末で停止というガイダンスになっており、デリバティブ取引についても何らかの目安が示されるだろうというのはある程度予想されたことであったが、驚きをもって迎えた市場参加者も多かったようだ。いずれにしても来年1月からはLIBOR公表停止なので、たとえ時期についてガイダンスが出なかったとしても、今年後半には移行が始まるのは想定通りである。

マーケットでは、TONA vs SOFRの通貨スワップやTONAベースのSwaptionなどの取引もちらほら見られはじめ、いよいよ移行が本格化する。とは言え、この段階になってもシステム、オペレーション的に準備ができていないところもあるだろうから、一旦TIBORに流れる動きもあるかもしれない。ひょっとしたらTORFに期待していたのかもしれないが、今年中にTORFの流動性が急速に上がるとは個人的には思っていない。早急にOISスワップに移行すべきだろう。

新規取引がシフトしていくと、当然過去の取引とのミスマッチが生じてくるのでレガシー契約の移行作業も進んでいくことが想定される。各種統計データを見ていると、OIS Swapの取引量はこれまでほとんど増えてきていない。個人的な予想としては、来週以降一旦TIBORが活発化し、徐々にOISが増えていくという流れになると思っている。

会計上のCVA開示基準変更

後10日ほどであるが、2021/4/1より「時価の算定に関する会計基準」が導入される。金融機関においては、CVA算出をはじめとした各種対応が進んでいると思われる。日本においては、デリバティブ取引の相手先によって厳密には時価を変える必要がなかったが、これが大きい場合は何らかの形で財務諸表に開示する必要が出てくる。個人的にもようやくここまで来たかと感慨深いものがある。

これらの基準や則を読んでもCVAという言葉すら出てこないのでわかりにくいが、企業会計基準適用指針第19号(2011年3月改正)からの改正点(開示例)を見るとデリバティブ取引の評価技法の説明のところに以下のような文言が例示されている。

「取引相手の信用リスク及び当社自身の信用リスクに基づく価格調整を行っている。」

取引相手の信用リスクに基づく価格調整がCVA、当社自身の信用リスクに基づく価格調整がDVAということになるのだろう。そのままCVAとかDVAと書いてくれれば分かりやすいのだが、ざっと見る限りこれら一連の基準の中にCVAという言葉は出てこないように見える。

当然金融商品の時価について幅広くカバーされているもので、CVAにフォーカスしたものではないので仕方ないが、あまり目立たず残念な気分だ。

いずれにしてもこうしたカウンターパーティーリスクが正式に価格調整に含まれる慣行が広がるのは望ましいことである。今後の各企業のディスクロージャーの仕方に注目したい。

SLRの条件緩和措置の打ち切り

最後の最後までどちらに転ぶかわからなかった米SLR(Supplemental Leverage Ratio、補完的レバレッジ比率)の緩和措置延長だが、FRBから当初予定通り3/31で打ち切りとなることが発表された。昨年4月に感染拡大を受けた市場混乱への対応策として、米国債と中銀準備預金をSLRの計算から除外していた。

実際にこの免除規定が銀行のSLRに無視できない恩恵を与えていたので、この打ち切りが銀行の行動に与える影響は大きいだろう。JPMが全四半期決算で公開したように、この免除がなければSLRは6.9%から5.8%へと1.1%悪化していた。Citiの場合は7%が5.9%へと悪化との予想だった。基準の5%は下回らないものの、レバレッジ比率にして1.1%の下落幅は馬鹿にできない。しかし、銀行株は軒並み1%弱の下落にとどまっており、米金利上昇幅も小さく、思ったよりマーケットインパクトが出ていない。

同時に、今後SLRの微修正に関して市場の意見を求めるとしたのがある程度影響したのかもしれない。銀行資本に関しては厳しい意見を言う議員も多く、この見直しが銀行資本の頑健性を失わせることのないよう努力するというコメントもあるので、それほど大きな緩和は期待できないとも思えない。しかし、市場が思ったより落ち着いていたのを見ると、この見直しに対する期待も高かったのだろう。

個人的には国債のレポマーケットを大幅に縮小し、リスクが高いからというよりは単にバランスシートを使う理由で、短期市場の機能が制約されてしまったので、SLRがそれほど意味がある指標とは思えない。逆に銀行がきちんとリスク管理をしようというインセンティブを削がれてしまっているようにさえ思う。安全資産である国債を持っても、デフォルトの危険性の高いハイイールド債を買っても、同じようにレバレッジ比率が悪化してしまうからである。

本来であれば、SLRのようなバックストップとして使われる指標より、バーゼル3先進的手法のような精緻な指標を見ていく方が望ましい。金融危機時に、複雑なモデル等を使って銀行が資本規制を逃れることができたという批判が大きくなったため、簡単に計算のできるSLRが最大の制約条件になってしまったが、SLRができてから7年の間に銀行のリスク管理が高度化されたとは思えず、米国債市場の変動は逆に大きくなってしまったように思う。特に感染拡大を受けた経済パッケージを大量に発動している中、国債発行額は増え続けているため、国債市場を混乱させるのは当局としても望ましくないはずである。

中銀準備金の供給と財務省証券の発行が最近増加していることから、SLRが経済成長の制約となったり、金融の安定性を損なうことになるのであれば、SLRの見直しを検討する必要があるかもしれない」とFRBは声明で述べているので、ある程度問題の認識はしているようだ。結局延期をしてもいつかはそれを終えなければならないので、抜本的見直しを匂わすことで市場混乱を抑えようということなのだろう。

レバレッジ比率が原因で銀行が国債取引を手控えるようになり、今や中央銀行が銀行の穴を埋めるような形になっている。これは米銀の財務諸表や各種統計データを見れば明らかである。この発表を受けて、銀行の行動にも変化が起きることは明らかであり、米金利に対しては上昇圧力として働きやすい。

また、金余りの中預金が集まりすぎると、銀行としてはそれを中銀預金や米国債に回さざるを得なくなるが、それに資本が必要ということになると預金は欲しくないということになる。貸し出せば良いではないかと言われるかもしれないが、相応の引当金が必要になり、それが銀行決算に大きな影響を与えているのは昨今の決算を見れば明らかだ。

SLRが本当に正しく見直されるには、もう一度米国債ショックが起きる必要があるのかもしれない。

BREXITによって欧州から米国への取引シフトが起きている

Brexitが金融機関に与えた影響は意外と大きかったようだ。欧州の銀行のデリバティブ取引シェアが減少し、収益にも影響が出始めているという報道があった。今回もっとも恩恵を被っているのは米銀のようだ。

EUの銀行は英国の取引基盤(Trading Venue)へのアクセスを持てなくなってしまったので、英国の機関投資家や銀行との取引から締め出されてしまった。これを解決するにはEUの銀行は英国に現地法人を設立しなければならなくなる。

結局は多くの取引が、同等性がある程度確保されたUSのSEF(Swap Execution Facilities)に流れている。ディーラー間取引について言えば、US SEFの取引は今年1月に10倍以上に伸びている。確かにUKとEUとの争いに巻き込まれ、それぞれの取引Venueに接続するよりは、すべてUS SEFに持っていた方が簡単だ。

金利スワップは半数以上がこうした取引Venueで取引されておりCDSのインデックス物などは、ほぼすべてが取引Venue上の取引である。ちなみに日本はETP(電子取引基盤)なのだが、こちらはSEFを参考にして作られたが、同等性を確保するためだけに作られた感が否めず、取引に占めるシェアは極めて低い。

アセマネや年金などもUS SEFに移す傾向がみられるようだが、英国のリアルマネーはそのまま英国で取引を継続しており、ここにはEUの銀行がアクセスできなくなっている。UK VenueのシェアはEUR IRSについては未だ11%、GBP IRSでは21%、USD IRSで6%とそれなりのシェアを占めている。

数年前にも書いたことだが、海外でビジネスをする際の拠点は支店と現地法人のどちらが望ましいのかという問題がここでも重要になってくる。現在の規制環境下においては、支店形式は好まれず、自分の国でビジネスをするのであれば、その国の規制を遵守し、資本もその国の中に置いた現地法人が有利なのは当然である。EUの銀行は現地法人ではなく支店形式で海外進出をしているところが多いので、こちらも状況の悪化に拍車をかけている。

一方米銀や英銀は、現地法人形式で海外拠点を作る傾向があるので、かなり有利である。Brexitで英国を締め出そうとしたEUが、実は不利になるという皮肉なことが起きている。ただし、これによって英国にも交渉力が生まれるので、規制の同等性を認め欧州全体の利益を考えるような方向に進むかもしれないという期待も生まれる。

国際金融ハブを目指す日本にとっても、この辺りの動きは非常に参考になる。簡単に国境をまたいでしまう金融取引は、すぐに最もオープンな場所に流れてしまうということは、今回の例を見れば明らかだからだ。

LCHのLIBOR移行プラン

先ほどLCHからもLIBOR移行に関するアナウンスメントがあった。年末までに行われるスワップの一括コンバージョンに関してタイミングが示され、JPY、CHF、EURについては2021/12/3、GBPについては12/17という提案となっている。12月はクリスマスの時期を除くと週末が3回なので、他のCCPが似たような時期に変換を行うとなると毎週末忙しい年末になりそうだ。

なお、6/30からフォールバックフィーとコンバージョンフィーというものが課されることになる。これらのフィーによって早期コンバージョンのインセンティブを与えたいとしている。

変換に際しては元のLIBORスワップと同じRoll dateと計算期間を保ちたいとしている。また、3s6sのようなベーシススワップについては、3month OISと6month OISのようなスワップに変換するのではなく、3m OIS vs 固定金利、6m OIS vs 固定の二つのスワップに分けるとのことだ。この方がコンプレッションがやりやすいからなのかもしれない。

細かい詳細はこれから詰めていくものと思われるが、これで海外主要CCPのプランが公開された。JSCCも同じような方向性になっていくものと思われる。

BISのドル調達関連レポート

昨年2020年の今頃に感染拡大から現金回帰が強まり、ドル資金のひっ迫が発生した。その後中央銀行のドル供給オペレーションによって落ち着きを取り戻したが、この辺りの市場の変化について、BISがレポートをまとめている。結論から言うと以下の3点に集約される。

  • 米国外銀行は、米国内からまたは、オフショアのMMFファンドからドル調達を行っていたが、2020年にはこれがその他の銀行以外からの調達にシフトした。
  • 通常MMFからのドルの最大の取り手である日本の銀行とカナダの銀行のドル調達が2020年3月以降減ったが、これは2020年末までに回復しておらず、最大の減少となっている。
  • 社債発行市場においてはドル債発行のニーズは衰えておらず、2020年3月の市場混乱以降、ドル債のシェアが伸びている。

2020年第三四半期末時点における米国外の銀行のドル負債は、以下のような構成になっている。ここ数年の動きを見ると、米国外のドル預金とドル債が増えてきている。これ以外は米銀や中銀に対する負債である。MMFから銀行以外への調達シフトが起きていはいるが、これが構造的なのかは現時点では不明とされている。

米国内のドル預金24%
米国外のドル預金49%
ドル債23%

この中でドル債調達が過去5年の間に増え続けており、全通貨の社債に占めるドル債のシェアは、2015年末の38%から2020年末には44%に増えている。2020年に関していうと、邦銀と独銀の発行が減っている。2020年末に残存するドル債の総額でいうと英国に本拠を持つ銀行がトップで15.8%のシェア、次いで中国(9.5%)、日本(8.7%)と続く。

これを見る限り、ドル調達ニーズは引き続きあるが、ドル債の発行は今後も増えていくことが予想される。ドルニーズの高まりは2020年3月のような混乱を引き起こす可能性もあるので、今後の動向にも注目したい。特にSLR(Supplemental Leverage Ratio)の免除が3月末以降も継続されるかどうかに注目が集まっているが、この延長が却下されると、米国債市場への混乱、ドル資金に対するニーズの拡大、ドル円ベーシスの拡大といった形でマーケットにインパクトが波及することもあるので注意が必要である。