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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

レバレッジ比率規制緩和継続が危うくなってきた

昨年感染拡大を受けてレバレッジ比率規制緩和が行われたが、その期限がもうすぐ到来する。この期限延長が認められるかどうかにマーケットの関心が集まっており、もしこの時限措置が延長されなければ、マーケットインパクトも心配されている。

銀行トップからはこの期限延長を求める声が多く聞かれ、それがマーケットの安定につながるという主張がなされていた。個人的にもその通りだと思うが、世論的には銀行の主張に屈したくないという雰囲気があるのも理解できる。

やはり今回も銀行規制緩和反対はのエリザベスウォーレンが反対の声明を発している。この資本規制緩和の継続は、金融危機後に導入された厳格な規制のフレームワークをSubstantiallyに弱めるものだとコメントしている。

銀行にとってみれば米国債を保有するだけでレバレッジ比率の悪化を招くため、当然米国債を保有するインセンティブがなくなる。したがって、米国債の取引を避けるのは当然のことで、これによって米国債の流動性が悪化した。レバレッジ比率自体がリスクを増やすとは全く思えず、FEDがこれだけ流動性を供給し続ける中、それを銀行が吸収できないのは問題だと思うのだが、やはり銀行支援をすると政治的には望ましくないのだろう。

延期を求める議員も多数いるのだが、ウォーレンのような実力者が発言するとやはり影響は大きい。このような憶測によってマーケットは若干神経質になっているが、やはり規制緩和延長は難しいのかもしれない。日本の年度末に向けて米国金利市場においては更なる混乱が予想されるが、これだけ何度も流動性ショックが起きてもレバレッジ比率重視の傾向が変わらないということだと、もっと大きな流動性危機が必要なのかもしれない。

公表されている声明によると、銀行は感染拡大を規制をなし崩し的に緩和する「言い訳」として使っているという辛辣なコメントで批判している。なぜそこまでレバレッジ比率を重視して、その他のリスク管理手法を中止しないのか理解に苦しむところである。

日本円Synthetic LIBORに対する期待

LIBORの公表停止、または公表停止予定を発表すると、LIBORとRFRとのスプレッド計算が行われることになるが、そろそろ停止予定の発表があってもおかしくない。USDの公表停止は18か月延期されたが、スプレッド計算のトリガーとなるアナウンスメントは、様々な通貨について同時に出る可能性が高いので、これが行われるとマーケットへのインパクトも予想される。

英国では、新レートへの移行やフォールバック条項の導入が困難なタフレガシー契約については、Synthetic LIBORの利用可能性が高まっている。英国当局のFCAがIBA(ICE Benchmark Administration)に対してLIBORの算出方法を変更させる権限を行使する、という回りくどい言い方で報道はされているが、要はLIBORの代わりにSynthetic LIBORが使えるということだ。

計算方法はRFRに何らかのスプレッドを加えるものになるだろうが、これによって、LIBORが公表停止になったとしても、新レートに移行できなかった古いレガシー契約に対する手当ができることになる。

USDの場合は既に18か月の延長があるので問題がなく、CHFとEURについては、それほど取引も多くないので、おそらくSynthetic LIBORが使われることはないと想定されている。USDとともに、引き続き検討とされているのがJPYである。

社債のバイバックや新レートへの移行、あるいは既存の契約に頑健なフォールバック条項を入れたりといった手当が進んでいけば、Synthetic LIBORに頼る必要はないのだが、日本の現状を見るとこの移行作業が進んでいるとは到底思えない。したがって、Synthetic LIBORに期待している市場参加者がかなり多いものと予想される。

欧米ではタフレガシー契約に対して立法的解決策の検討が行われているが、日本ではこうした議論があるとは聞いたことがない。海外からも、日本の状況を憂慮する声が日に日に大きくなっているのを感じる。英国法だったりNY州法だったり、異なる準拠法で行われた取引もあり、本来であれば厳密な分析をしておくべきなのだろうが、なかなか統一見解がない。

極力新レートへの移行が望ましいと思っていたのだが、やはり日本円Synthetic LIBORの利用に向けて声を上げていくべきなのだろうか。だとするとすぐにでも作業を始めなければならない。あるいは、現状は様子見をしている日本の投資家も年末に向けてどこかで一斉に動き出すのだろうか。

ターム物リスクフリーレートはいつから本格的に使われるか

マーケットではまだ全容が見られないターム物RFRに対する期待が強い。金利が最初に決まるFoward lookingな前決め金利だからというのが大きいのだろう。特に金利が決まってからすぐに決済ができないという日本での期待が最も強いようだ。

昨年11月のEURのRFRワーキンググループで行われたターム物に関する市中協議では、40%が金利の前決めを希望し、58%が後決めを支持した。日本で同じような調査をしたら半分以上は前決めを希望するだろう。日本でTONA後決め複利金利かTORFなのかという二択の議論が起きているのがその証拠だと思う。どちらが主流になるかわかるまでは移行作業を行わないという意見すら聞かれる。

日本のターム物金利であるTORFの算出手法は、TONAに基づいて決まるため、TONAなしにTORFが存在するのは不思議な話なので、本来は二択というよりは、TONA→TORFという順序になるはずである。何となく気持ちはわからなくもないが、どうせTORFに行くことになるのなら最初からTORFに統一したいという声も最終投資家から聞かれる。しかし、このままTORFを待っていたらいつまでたってもLIBOR移行ができず、年末になって大慌てをすることになるのが目に見えている。

確かに日本におけるローンや債券のフォールバックレートの第一順位はターム物RFRとなっている(参考)。新規LIBORローンや債券が第三四半期からは使わないことが推奨されているので、TORFへの移行が進むという期待があるのだろうが、果たしてそうなのだろうか。

英国ではGBP建てローンのうち、フォワードルッキングなターム物SONIAに移行するのは少数だと繰り返しコメントされており、デリバティブ市場でも大きな移行があるとは想定されていない。米国では、AMERIBORやBSBYといったクレジットスプレッドの含まれた金利への移行の動きもあり、ターム物RFRへの移行が進んでいる様子はうかがわれない。

各国のターム物の公表は以下のようなスケジュールで進んでいるが、先行する英国での移行が進まず、米国も流動性が全く伸びていかない中、日本だけが突然TORFを使うようになるとは個人的には全く思えない。EURに至っては、参考値すら公表されていない。

日次参考値公表確定値公表
JPY2020/102021年央
GBP2020/72021/1
USD2020/102021 Q2

そろそろ前決めのTORFの流動性向上を待つよりも、後決め複利でも良いからすぐさま行動を起こす時期が来ているように思う。逆にTORFへの期待感がLIBOR移行を遅らせることになっているとしたら本末転倒である。

LIBORプロトコルに批准しない市場参加者を締め出すことはできるか

以前、一部海外ヘッジファンド等でLIBOR移行プロトコルに批准していないところがあると報じられていた。スプレッドがどのくらいに決まるかなど、最後の最後まで自分に有利になるかどうかを見極めてから批准するということらしい。

各国当局があそこまで早めの批准を呼び掛けているにも関わらず、最後までオプションを持っておこうとするのもさすがと言わざるを得ない。日本の参加者ではこんなことは起きないだろう。

こうしたプロトコルを批准していないヘッジファンドからNovationを受けてしまった場合はどうなるのだろう。プロトコルができる前の昔の取引は、ディーラー同士の取引になっており、批准時点でのすべての取引がプロトコルでカバーされるので問題ない。しかし最近になってNovationを受けてしまった場合は、ひょっとしたらプロトコルでカバーされないものがあるかもしれないし、何か特別な文言が当初のコンファメーションに入っているかもしれない。

となると、いちいち取引コンファメーションを取り寄せたりするのは面倒なので、プロトコルに批准していない先からはNovationを受けないという慣行が広がれば、こうした姑息なファンドをマーケットから締め出し、批准のインセンティブをつけることができるのではないか。これが本当かは法的に確認してみなければならないが、やはり業界を挙げて努力をしているときに、自分の利益だけを考えて動く投資行動は避けるべきだと強く思う。

英国FCAのLIBOR移行に関するスピーチ

JSCCのデータによると昨年10-11月にかけてOIS取引が一時的に盛り上がったと思っていたのだが、その後この流れが加速する雰囲気が感じられない。一時期日本円TIBORとユーロ円TIBORのベーシスも動いたことがあったが、その動きも落ち着いてしまった。LIBOR移行に関しては、日本のマーケットは完全に待ちの状態になってしまっているようだ、

LIBORプロトコルが1/25に発効し、批准者も着々と増えてはいるが、実際の取引にはほとんど変化がみられない。流動性がないから移行が進まないというにわとり卵の問題なのかもしれないが、今の状態は坂の上で止まっている雪玉のようなものなのだろう。誰かが押してやれば玉は転がり始め、あっという間に雪崩のようにその流れが大きくなるはずなのだが、皆がその玉を周りから見守っているような感じだ。ディーラーはやらなければならないことはわかっているので横から押してはいるのだが、やはり投資家の上からの一押しがないと本格的に球は転がり始めない。あるいは当局がそれを押しても良いのだが、日本では業界のことは業界に任せるべきという雰囲気がある。

日本より進んでいる英国の例を見てみよう。FCAのEdwin Schooling Latterの1/26のスピーチを見ると、様々な踏み込んだ発言をしており、市場参加者も彼の発言にはかなり注意を払っている。

既に決まっているスケジュールであるが、英国では新規のLIBOR貸し出しは3月末以降はできない点を強調している。そしてデリバティブ取引のFallbackを合意するが重要とし、For many firms, it is a regulatory obligation to have fallback arrangementsと述べている。Fallbackをアレンジするのは多くの会社にとって、規制上の義務という言い方だ。

英ポンド建てスワップにおいてはCCPで清算されないOTCのスワップ全体の約9%であり、そのうちプロトコル批准者のポジションは85%に上る。未だ批准を終えていない参加者に対しては、すぐにでも批准するよう呼びかけている。

Tough Legacyと言われるLIBOR移行が困難な古い取引に対する対応としてSynthetic LIBORにも言及している。EURやCHFについてはSynthetic LIBORの必要はないだろうが、GBPについてはこれが必要であり、円とドルについてもその必要性について検討を続けるとしている。IBAの市中協議でどのような意見が寄せられたか、それに応じてIBAがどのような決断をするかに注目が集まる。発言内容を見ていると、そう遠くない将来に結果が公表されるように思える。LIBORとRFRのスプレッド調整の計算のトリガーとなるので、次に起こるイベントとしては最も重要だ。

スプレッドが決まれば、Synthetic LIBORのスプレッドも決まり、この辺りの詳細が次なる市中協議に直ちにかけられることになる。この意見募集の内容もある程度固まっているように思える。米ドルは18か月の猶予があり、GBPもSynthetic LIBORの利用がほぼ確実な中、やはり円の行方が最も不透明だ。

Synthetic LIBORの可能性はあるものの、事前移行が可能なのであれば、年末を待たずにすぐにCompunded RFR(複利のリスクフリーレート)にConvertするべきとも述べられている。

日本では年度末の3月に移行が進むとは思えないので、この間に出されるIBAやFCAからの発表に応じて4月以降急速に作業を進めることになるのだろう。

LCHのLIBOR変換プランが明らかになった

LIBORからRFR(Risk Free Rates)への移行についてのLCHの意見募集については、一部報道を除いて詳細が公になっていなかったが、2/16にその結果が公開された。

タイミングについては、 Index Cessation Effective Dateかその直前ということで大部分の参加者の了承を得られた。そして、ISDA Fallback によってできるスワップではなく、標準RFRスワップに一気に変換されるということもほぼ決まった形になっている。

先日も解説した通り、Fallbackで発生したスワップは、標準RFR Swapとほぼ同じなのだが、計算期間等が微妙に異なっており、2種類のスワップが清算されることに対する懸念があった。市場参加者の中には、Fallback Rate RFR Swapを今から取引しようとする向きもあったらしく混乱が生じていた。Fallbackのスワップはあくまでも移行に際して一時的に発生してしまったスワップであり、今後主流になる市場標準のスワップとは異なるので、この方向性は歓迎されるだろう。参加者破綻時のオークション等CCPのリスク管理上も望ましい。

タイミングとしてはCessation Effective Dateということなので、年末になるのだろうが、過去の経験からすると、年末年始やクリスマス休暇の頃にこのような一大イベントが来るとは思いにくい。そうすると現実的には11月頃ということになるのだろうか。おそらく他のCCPも同じことをすると予想されるので、忙しい月になりそうだ。

変換方式については現金決済を好まない参加者が多く、RFRのレグに複利計算をしないスプレッドを加える方式になりそうだ。その方がCash Flowが大きく変わらず、ヘッジも継続され、リスクの変化も少ない。未実現損益が実現してしまうという懸念もあるのだろう。

オペレーション的には、一旦LIBOR Swapを解約して、新規のRFR Swapを立てることになる。つまり、既存の取引IDがなくなり、新たな取引IDが作られるということになり、法的にも旧取引が消滅し、新規のRFR Swapが一気に発生するということになるのだろう。実際はLIBORレグがRFRレグに置き換わり、計算期間や決済日は標準RFRスワップのConventionに従うことになる。LIBORではない固定金利のレグ等はそのままだ。スプレッド調整で若干残ってしまったValuationの差については少額の現金決済が発生する。

概ね市場参加者が予想していた方向性になっており、返還方法についても違和感はない。ここでCCP取引の変換方法のスタンダードが出来上がったような形になったので、他のCCPも追随することになろう。

こうなると、CCPで清算しない相対取引についても同じような時期にRFRに移行しておかないとミスマッチが生じてしまう。市場標準RFRであれば既に清算可能な取引が多いだろうから、相対取引もRFRに移行するという機運が高まる可能性がある。

それにしても日本に置いては気持ち悪いくらい様子見の姿勢が続いているような気がする。ローンと債券が第二四半期末を目途にしているが、デリバティブも時期を明示していかないと、最後の最後まで待ちたいという投資家が出てきても不思議ではない。

11月にCCPの取引が完全移行するのであれば第三四半期の始め、つまり7月くらいから流動性の移行が起きていかないと、スケジュール的にかなり厳しくなるだろう。

国際金融都市になるには何が必要なのか

英国の金融センターとしての地位低下が止まらない。いくら長年金融の国際的なハブとして機能していても、金融取引はあっという間に国境をまたいで移動してしまう。

先日も紹介した通りオランダのアムステルダムが、あっという間に欧州の株式取引の中心地となった。アムステルダムの1月の一日平均の欧州株式取引高はEUR9.2bnとなり、シェアを落としたロンドンのEUR8.6bnを超えたと報道されている。従来の取引高の半分がロンドンから移った計算だ。昨年までの取引高で言うと、ロンドンの次はフランクフルト、パリと続いていたのだが、アムステルダムは一気にトップに躍り出た。金融サービス業の比率が15%程度を占める英国にとって、年間GBP9.5bnの損失が見込まれるという調査結果も報道されている。

と、新聞紙上では騒ぎになっているのだが、実際この影響はそれほど大きいものなのだろうか。日本で取引をしていても特に外資系は米国法人や英国法人を通して取引をすることが多く、取引執行機関もスワップであれば米国SEF(Swap Execution Facilities)を使ったりすることもある。特にOTCデリバティブや先物を普段取引をしている感じでは、それがどこで執行されているのかはトレーダー自身はあまり意識していない。当然取引執行を確認したり、取引報告をするオペレーション部門にとっては大きな違いなのかもしれないが、今や世界中どこでも取引ができる。

重要なのは流動性である。日本時間に東証で取引をした方が日本株は流動性があるだろうし、金利スワップも日本時間に日本のJSCCで取引をした方が流動性があるかもしれない。だがそれは流動性のある時間帯や取引Venueの話で取引執行場所がどこであるかはあまり関係がない。日経225先物はシンガポールのSGXや米国CMEでも取引できるし夜間取引の流動性も高い。わざわざ日本に住んでいなくても取引が可能だ。

また、国の経済に影響があるのは、やはり雇用だろう。確かにロンドンから人を移す動きはあるが、取引がアムステルダムに移ったとしてもロンドンの方がまだ金融機関の人員は多いと思う。つまり、ロンドンにいる人がアムステルダムの取引執行機関を使っているだけであれば、英国にとっては言うほどダメージが大きくはないのではないだろうか。あるとすれば取引税などの税金減くらいだろうか。

したがって、金融機関のオフィスや人が本格的にロンドンから脱出してしまうと、英国経済に対する影響が出てくる。今のところロンドンには引き続き金融人材が集積しており、一部テクノロジー部門を賃料の安いところに移したり、取引執行にかかる人的資源をEUに移したりする程度ではないか。もちろん、徐々に移行は進んでいるが、経営層、トレーダー等は引き続きロンドンにとどまっているように思う。そしてこれらの中枢の人材は英国から出る時はおそらくNYに行くのではないだろうか。

香港やアジアもなぜ金融都市としての評判が高まったかというと、人が集まったからである。その意味で低い所得税率や相続税率は人を集めるのに一役買った。そして優秀な人材が集まるにつれ、相乗効果が生まれ、インターナショナルスクールや英語を話せる病院など、世界中から人を惹きつけることになった。

とは言え、英語を話す人が今よりも少なかった80年代などは、それでも海外から日本に人が押し寄せてきた。優秀な人材が集まり、外資系もこぞって日本に参入した。日本からアジアに金融の中心が移っていったのは、言語や税金の問題もあるが、やはり日本の成長力や市場に魅力がなくなってしまったからなのだろう。

日本の成長がかつてのペースに戻ることはないだろうから、やはり極力許認可制度の簡素化、迅速化を進め、国際人材を呼び込むような工夫を続けていくしかない。日本に勢いのあった80年代ならば日本のやり方を貫いても問題なかったが、現状ではやはりビジネスのやり方を国際慣行に近づけていくしかないのだろう。

インフレの波及効果

米国GDPが4.9%に拡大すると予想され、景気回復を予想する声が多くなってきた。直近のデータを見ても着実な回復基調が見て取れる。ワクチン接種の進展と米国の1.9兆ドルの追加経済対策の影響が大きい。消費者物価指数も1.4%に上がり、原油価格上昇等から、6月には平均的に2.8%程度への上昇を予測する声が聞かれる。

10年のBreakevenは追加経済対策によって上がり始め、日本の物価連動国債までもが若干影響を受けている。その他、インフレ懸念からプラチナの価格が上がったりもしている。ビットコインの上昇にも関係しているかもしれない。

ただし、失業率だけは改善しないと見る意見が多いようだ。最近の雇用統計の影響もあるが、新規雇用数の回復が遅れるという意見が強くなっている。今年の平均的な失業率は5.3%くらいという予想で、米労働局発表の1月の失業率は6.3%であった。

景気刺激策の継続から資産価格は支えられ、株価ももうしばらくは上昇を続けるのかもしれない。インフレも2%を超えるが米国の場合はしばらくは許容範囲内だろう。日本でも同様な経済対策が続くだろうし、海外対比日本だけが引き締めに動くと円高懸念も高まる。ただし、日本だけがインフレ率が上がってこない。

海外の友人と話をしていると、米国その他の国の企業では、給料にインフレ調整がかかっている。つまり毎年2%とか3%物価上昇に合わせて基本給が上がっていく仕組みだ。例えば、2000年に給料が100、毎年3%給与上昇があると仮定すると、以下の表のように、複利効果によって20数年で給与格差は2倍になる。

海外日本
2000100.0100.0
2005115.9100.0
2010134.4100.0
2015155.8100.0
2020180.6100.0
2025209.4100.0

その分物価も上がっているのだから生活水準は変わらないという人もいるかもしれないが、この差は大きく、国際比較をした時の相対的な日本の地位は下がっていく。このまま行くと日本の給料は先進国中最低水準になってしまう。

定年後は物価の安いアジアに移住という話が以前あったが、そのうち物価が安く良質なサービスを受けられる日本の人気が高まり、逆に海外からの高所得高齢者の移住が加速するようになるのではないか。そうして物価が上がると日本の賃金で働く人々が苦境に陥ってしまう。何らかの防衛をしないと日本の資産は海外に買い漁られてしまうかもしれない。

逆に、海外資産に投資すればそのまま値段が上がっていく。当然為替レートである程度調整されるはずなのだが、介入によって変動が抑えられている。つまり、日本にいながら海外企業のために働き、海外資産に投資していけば、食費や生活必需品は安い日本の物価を享受することができてしまう。ネット経由で海外の仕事を請け負うのは簡単になった今、これは十分可能なのだろう。ただし、為替手数料、送金手数料、税金を考慮する必要があり、投資についても日本の証券会社の品揃え、手数料に限界があるため、海外証券口座を持つ必要がある。

物価上昇が当たり前の国では物価連動債やインフレヘッジの取引も多くなる。イギリスやオランダなど欧州ではこうした年金ファンドの金融取引が非常に活発である。日本にも物価連動国債はあるが、取引量は少なく流動性にも難がある。インフレを経験した人が少なくなっているのでヘッジなど考える人が少ないのかもしれないが、このままお金を刷り続ければ、どこかで突然物価上昇が起きてもおかしくない。

考えてみれば自分が生まれて初めてバスに乗った時の運賃は子供料金で25円だった。大卒初任給も以下のように10年ごとに上昇し続け1995年以降はほぼ横ばいである。(→参考)やはり日本経済が成長していたころは物価も上がっている。

1965年 月2.3万円
1975年 月8.4万円
1985年 月14万円
1995年 月19.4万円
2020年 月20.9万円

こう考えると、今後の年金はどうなってしまうのだろうか。海外の年金は当然物価調整が入るのでインフレがあれば需給金額も増える。二本も一応インフレ連動だったが、2004年のマクロ経済スライドの導入によって訳が分からなくなってしまった。少なくとも完全にインフレに連動しているとは思えない。

こう考えていくと、日本を取り巻く環境は厳しいが、海外と渡り合って成長する企業も少しずつでてきており、製品の品質、サービスは世界最高水準である。ただ、経済・金融関連についてはかなり遅れていると認めざるを得ない。

金融オペレーションの自動化が急務

金融のオートメーション化が急速に進み始め、海外では装置産業のようになりつつある。システムへの依存が高まり、金融業界で働く人材は減るものの取引量は急拡大を続けている。特にバックオフィスと言われるオペレーション部門の業務の自動化、STP化が顕著であり、電子取引とつながれているところの取引などはほとんど人手が介在することはない。

翻って国内の状況を見ると、特に債券関連では電話取引の割合が依然高く、取引の約定記録をメールで送ったり、その内容を複数の人で確認して間違いがないことを確認して送ったりという業務が一般的になっている。1円の違いのために何人もの人が残業するということが昔言われたが、間違いを許さない文化というのも、効率性向上の障害になっているかもしれない。。

昨年2020年3月などは、グローバルで取引量が急増し、その後ほとんどの従業員が在宅勤務になった後も、海外では高水準で取引が続けられている。日本の場合は4月の緊急事態宣言で急速に取引量が落ち込み、その後も海外に比べた取引の低迷が目立つ。人がオフィスにいなくてもすべての業務が完結する欧米と比べ、会社に通勤して実際に目だ確認しなければならない日本の金融業務は雲泥の差ができてしまっている。

海外でも昨年取引量が倍以上に増大した時にはかなりの混乱がみられた。日本で同じような取引業急増が起きたら、完全に破綻していたと思われるレベルだ。特に海外ではファンドのアロケーションというものがあるので、一旦執行した取引を傘下にある複数のサブファンドに割り当てるプロセスが一般的なので、処理件数が多くなる。貯蓄から投資への流れの進んでいない日本ではファンドの数も少ないので何とかなっているが、今後日本の金融を海外並みにしていくには、こうした事務対応の強化が急務である。

今のまま日本に海外からの参加者が増えて取引が急増すると、確実にシステムが止まるか、事務負担増に耐えきれずに事故が起きることになってしまうだろう。

海外では、特に先物の分野において、取引執行からその確認、アロケーション、CCPにつなぐところまでの業務の標準化が検討されており、このためのプラットフォームを業界で作ろうという話も出ている。店頭デリバティブ(OTC)に関しては、MarkitServのおかげもあり、ある程度フローが確立しているが、先物の方が若干遅れている感がある。こうした流れに日本が全く参加できていないのが歯がゆいところである。

いくら日本の金融資産が1900兆といっても、その運用のために膨大な人を雇って目でチェックするマニュアルプロセスを導入しなければならないとすると、大手運用機関は二の足を踏んでしまうだろう。日本の労働法の下ではそうした人々を解雇することも不可能なので、その人たちの仕事を守るために人海戦術を続けることになってしまう。

海外に行って銀行の明細書に誤りがあるのを見つけた時にはびっくりしたのだが、言えばすぐに何事もなかったかのように修正されて終わる。日本だったら、けしからん、上を出せ、改善策を提示しろと言われ、人を増やしてチェック体制を整えますということになるところだ。さすがにAIやシステムチェックが優秀になってきたので、海外でもミスが少なくなってきた。この辺りの意識改革をしていかないと日本の金融に未来の遅れは取り戻せないと思う。

マイナス金利プロトコルは破綻してしまうのか

先週マイナス金利プロトコル脱退の話をしたが、どうしてこのようなことになるのか少し考えてみた。従来の担保契約(CSA)では、金利がマイナスになったらゼロとみなすという文言が入っている契約と、そうしたことが何も書かれていないサイレントCSAがある。このサイレントCSAの解釈は各国法制や個社ごとに異なっていたが、プロトコルを批准すればそれが解決される。英国法ではサイレントCSAはフロア有と解釈されるという話が当時あったが、米国法や日本法では曖昧なまま議論が進んでいた記憶がある。

あくまでも個人的な予想なのだが、ここで、サイレントCSAを締結していて勝ちポジションを多く持っている市場参加者がいたとする。解釈があいまいなので何もせずに担保金利を受け渡ししていない状況なのだが、マイナス金利プロトコルに批准すれば担保をもらった上に金利までもらえるということに気づいてしまう。そして突然プロトコルに批准して相手方に金利を払うように要求するということが可能になる。

突然依頼を受けた方は、これまで金利にフロアがあると思って時価評価も行っていたところ、急にディスカウントカーブが変わるため、One Timeで損失を計上することになってしまう。文句を言おうにも、業界で合意して作成したプロトコルに批准しただけなので、如何ともしがたい。

もっと悪者がいたと仮定すると、オプションをしこたま買いまくってプレミアムを払い、取引の時価を思いきりプラスにしてからプロトコルに批准すれば、巨額の利益が上げられてしまう。このゲームには抜け穴があったということになってしまうのだろうか。確かに当時はこんなことには気づかなかった。プロトコルからの脱退は年一回だったと思うので、なかなか防衛手段がない。

ISDAのWebを見ると2019年に新規批准したエンティティが37社、2020年が30社となっているが、今年に入っても新規批准者がみられる。単純に英国金利の低下によって批准をしているところ、新規のグループ法人や現地法人等を作ったために批准をしたところが多そうだが、実際のところはよく分からない。少なくとも上で書いたような悪事を働いているように見えるところは少なそうだ。

上で書いたようなゲームをしようにも、批准日や批准者がすべて公開されるので、よっぽどのことがない限りそこから利益を上げようとするのは得策ではないように思うのだが。。。

LIBORからの移行はいつ起きるのか

SOFR Swapの取引量が1月に過去最高を更新した。昨年10月のCCPのディスカウント変更時を上回る$223bnの取引があった。CMEの発表によると、同じくSOFR先物も1月の平均取引高が過去最高となり、月末のOpen Interestも最高水準となっている。とは言えeurodollar先物と比較するとまだまだ5%を超えるくらいであり、移行のペースは速いとは言えない。

流動性がないから取引を増やせない。でも取引を増やさなければ流動性は生まれない。鶏卵の典型例だ。これを断ち切るには誰かが流動性がなくても取引を始めなければならない。

トレーダーとしては、実はやろうと思えば取引を増やすことは可能だ。しかし収益になるわけではなくリスクはあるので、増やすインセンティブがない。特に顧客からのニーズもある訳ではない。当然顧客からすると、今後どうなるかが不透明な中、わざわざ新レートを使おうというインセンティブはない。とは言え、会社の方針として、あるいは当局の指示でもあれば、ディーラーサイドは、一気に移行を進めることは現実的には可能だと思っている。

新規の取引においてLiborが使えなくなる目標期限が迫っているので、おそらくここから一気に移行が加速するのだろう。というかこの頃には移行が本格化していないと、ターム物のレートの構築が遅れ、社債発行等の後継金利の第一候補がターム物RFR(Risk Free Rate)なので、キャッシュマーケットに影響が及ぶ。

日本円についてはTORFの参考値が公表されているが、まだこれを使った取引は見られていないものと思われる。透明性を高めるためTORFの公表を行うQuickベンチマークスという会社が先月設立されたが、確定値の算出開始には後数か月以上はかかる。TORFの確定値算出とLIBOR公表停止の間が数か月くらいしかなくなる可能性が高いことから、現実的にはTORFを使った取引がすぐに増えるような気もしない。残念ながらTORF先物もSOFR先物のような取引量になるとも想像しにくい。

他にも、LIBORとSOFRのスプレッドが決定される時期に移行が加速する可能性も高い。LIBORとSOFRの交換レートが決まれば、不確実性が低下するため、取引はしやすくなる。これらが起きるのは今後数か月のことなので、前もって準備をしようという動きも出てくる。

何となくマーケットを見ていると、今すぐには新レートを使った取引はしないものの、大手中心に、動き出した時のために準備をしておこうという動きは見られる。何かきっかけがあれば、こうした市場参加者が動き出し、それを見て慌てて他のところが追随するという流れになるのだろう。

米国株式市場の混乱によって規制強化が起きる

以前WSB(WallStreetBets)の話をしたが、先週はこの話題で持ちきりだった。GameStop株の乱高下で個人投資家の存在感の大きさが際立ったが、オンライン掲示板のコメントで群衆が動き株価が動くというのは、理論的には当たり前の話だったが、ここまでの騒ぎになると何等かの規制が入ってくるのは間違いないだろう。

フォーカスの当たる会社は、特に業績が良い訳ではなく、何の脈絡もなく突然人気株になってしまう。銀が上がると書かれればETFや銀の現物まで一気に価格が急騰する。健全なマーケットとは程遠い。証券会社の人間がどこかの株価を吊り上げようとしたら完全に犯罪だが、一般群衆となるとどうやって規制するのだろうか。

バブル期の日本で証券会社がこの銘柄と決めて顧客に勧めまくった姿は、これと同じような動きなのかもしれない。個人投資家が一時取引ができなくなったにも関わらず、ヘッジファンドや機関投資家は取引が継続できたということで、政治家も証券会社批判に回っている。

SECは昨日1/29に声明を出しており、現状を詳細にモニタリングすると言っている。当局、FINRAや自主規制団体とともに議論を重ねているようであり、疑わしい取引について報告をするページを設けて意見募集もしている。

何と言ってもあのGensler氏が議長になるのだから、何も変化が起きないということはないだろう。ただ、Gensler氏のフォーカスが以前のようなデリバティブ規制ではなく、昨今のこうした動きやSPAC、ビットコインというところに向かいそうなので、従来のような銀行規制の強化にはすぐには手を付けないようにも思う。外出自粛が続く上、給付金追加支給もあり、中央銀行の流動性供給も続くことから、株式をめぐる混乱はしばらく続くだろう。もしかしたら規制強化が株式バブル崩壊の引き金になるということもあるのだろうか。

マイナス金利プロトコル脱退の動きが出てきた

通常預金をすれば金利がもらえる、担保を出せばその担保に対する金利は返ってくるというのが以前の常識だったが、マイナス金利になるとおかしなことになる。お金を預けた方が金利を払い、担保を出した方が金利を払うということいなるからだ。とは言え、海外、法人預金、日銀当座預金の一部にもマイナス金利が適用されている。

ここで自分が得をするときだけ担保金利のマイナスを許容すると、業界で大混乱になるため、当時ISDA中心に皆でマイナス金利を適用しましょうということで2014年にマイナス金利プロトコルが出来上がった。CCPの取引にもマイナス金利が適用され、何となく落ち着きを見せたと思っていたのだが、英国の金利低下を受けてこのプロトコル脱退の動きがあるというニュースがマーケットを震撼させた。

市場で金利がマイナスになるのであれば担保金利もマイナスにすべきであり、これがマイナスにならないとデリバティブ取引の割引率もおかしなことになり、すべてのデリバティブ取引の時価評価が変わってしまう。

そもそもこれを防ぐために、業界でプロトコルを準備し、大手銀行はすべてこれに批准していたのだが、いざ金利がマイナスになりそうになってきたらこれを反故にするというのはどういうことなのだろうか。もちろん銀行が自らの利益のためにこの決断をしたとは考えにくいので、顧客にチェリーピックをされると自らの身が危うくなるということなのだろうが。

業界でチェリーピックを防ぐために極力皆でこのプロトコルを批准しようと働きかけてきた身からすると、信じられない気分だ。当時も自らが得をするときだけマイナス金利を適用し、損をする場合にはこれを拒否するという動きがあり、皆がこれをやりだすと収拾がつかなくなるので、皆で大人の対応をしましょうということだったのだが、結局チェリーピックしたもの勝ちということになってしまう。

Citi、JPMなどの大手がプロトコルから離脱しているということなので、この流れはもう変えられない。現存する取引にはインパクトはないようだが、今後離脱した銀行と行う新規取引については、担保金利がマイナスにならない。

昨年もLIBOR改革がらみで、業界(ARRC)で決めたCash Compensationをしないのが市場標準になった時にも思ったのだが、業界の善意で秩序を保とうとしても、結局はそれを利用して収益を上げようとする人がでてくるので、結局自主努力だけでは無理ということなのかもしれない。

こうなると担保を多く出している市場参加者はマイナス金利の適用を避けるだろうし、担保を受け取っている方はマイナス金利を享受したいと思うのは当然だろう。プロトコルが破綻するということは、結局業界の善意で市場標準を作るのは無理で、やはり金融には規制が必要ということなのかもしれない。非常に残念だ。

しかしこの影響は非常に大きい。担保付デリバティブ取引の割引率が担保金利であったことを考えると、ほとんどの取引のValuationが変わるということになる。今後の取引時にもマイナス金利非適用顧客と取引した時に、それをDealer間でヘッジしCCPで清算した場合、CCPはマイナス金利適用なのでミスマッチが生じてしまう。それともCCPもマイナス金利適用を止めるのだろうか。少なくとも大手ディーラー間ではマイナス金利適用を相対で約束するのだろうか。

少なくともはっきりしているのは、今後このプロトコルに批准しようという市場参加者は少なくなっていくだろうということだ。そして市場分断が起き流動性にも影響が出る可能性がある。既にマイナス金利を適用している日本はどうなるのだろうか。

SPACが変えた株式市場とそのメリット

昨年から急増したSPACを通じた上場について、自らも多くのIPOを手掛けたGSのCEOが警鐘を鳴らした。SPACとは特別買収目的会社と訳され、未公開会社の買収を目的として設立される法人だが、近年投資銀行の株式収益のかなりの部分を占めるようになってきている。かなり昔からあった手法だが、昨年突然金融の表舞台に出てきた。米銀大手5行が2020年第四四半期に軒並み前年比30%程度の収益増を果たした裏ににはSPACの影響もあると思う。

2021年のこの流れが続くかどうかは定かではないが、1月の出だしを見る限り、勢いは衰えていないようだ。今月のIPOによる資金調達額のうち、実に70%以上がSPAC経由となっており、GSのCEOが心配になるのももっともである。既に200億ドルを超える資金を集めているというから驚きだ。テクノロジー会社、電気自動車といったいかにも投資家の興味を引きそうな会社にとっては、非常に資金調達が容易になる。

上場といってもいわゆるブランクチェック会社という空箱への投資で、その後買収企業が決まるため、いろいろと利益相反もあるだろうし、情報開示についても通常のIPOとは異なるものとなる。前SEC議長のJay Clayton氏も昨年SPACの調査をしているとコメントしていたが、金融危機時に名をはせた、あのGery Gensler氏がSEC議長に就任したことから、今後はSPACをめぐる規制が強化されることが予想される。

とは言え、スタートアップ企業に迅速に資金が回るこの仕組みは完全に悪とは言い切れないメリットがあるのも確かである。日本ではなかなか実現にはハードルが高いが、特にベンチャー企業の少ない日本でもこうした工夫がなされても良いかと思う。昨年2020年にモビリティやテクノロジー分野の26社がSPACに買収されたが、そのほとんどは利益を上げていないにも関わらず時価総額が1000憶ドルを超えている。

あまりにも市場が過熱しているので、今後は規制や制度整備で一旦このバブル状態が落ち着くことになる可能性は高いが、それでも一定のルールが定められれば、企業の資金調達手段の一つとして存続していくことになるだろう。日本でもこうした革新が起きることが期待される。

事業会社はスワップ取引に対して担保を出すようになるか

事業会社のデリバティブ担保契約についてのニュースがRisk.netに出ていた。海外では事業会社も担保契約であるCSAを締結するようになっているようだ。Vodafoneの担保金額についての記述があったので、財務諸表を見てみると、確かに27頁にCash Collateral Liabilitiesという項目があり、これが19年度末のEUR2bnから、20年度末にはEUR5.3bnに増えている。脚注2を見るとデリバティブカウンターパーティーである金融機関から受け取った現金担保とある。返却しなければならない資金なので、借りている金額、つまり負債として計上されている。EUR以外で調達した社債をEURに倒す通貨スワップを行っていると記載されているので、こうした通貨スワップか、昨年の金利低下でIn the moneyになった金利スワップから来ているのだろう。

また、Mark to market derivative financial instrumentsという項目もEUR1.2bnからEUR4.4bnに増えており、デリバティブ契約のMTM Adjustmentと説明されている。そのまま読むとデリバティブ取引の勝ちポジションかと思うが、MTM Adjustmentと書かれているのでCVAやFVAを含めているのかもしれない。

その下にShort Term InvestmentsがEUR5.2bnあるが、独、英、日の国債や政府保証債のEUR1.7bnを含むとあり、そのうちEUR1.1bnは銀行に担保として拠出しているとある。

これを見ると事業会社であったとしてもかなりのデリバティブ取引を使っており、そのポジションも5000億円を超える水準になっている。ここまでくると、財務に与える影響は相当なものであることがわかる。担保オペレーションも整備し、CVAなどの影響も管理しているようなので、一部の一般事業法人の財務部門はデリバティブ取引に対しても相応の知識を持つまでに洗練されているように見える。

他の会社の例としてAppleの財務諸表P48を見てみても、金利スワップ、通貨スワップをヘッジに使っており、Master Netting AgreementとCollateral Security Agreementを締結していると書かれている。おそらくISDA/CSAとレポの契約を総称してこのように表現しているのだろう。

Microsoftの財務諸表P72にも、OTCデリバティブの標準的慣習に似た担保を出すことを求められているという表現があるので、何らかの担保拠出がされていることが伺われる。欧米では事業会社の大手になると、意外とCSAの締結が進んでいるのかもしれない。

リーマン後の取引先リスク削減の動きによるところもあるが、やはり大きいのはCVA、FVA、KVAなどのデリバティブ取引にかかるコストだろう。特に昨今の証拠金規制、清算集中規制、資本規制強化の流れの中、無担保取引は金融機関にとってもかなりのコストになる。顧客獲得のためにある程度優良企業には譲歩せざるを得ないとは思うが、それによってROEが下がってしまっては元も子もないので、一定程度のチャージをせざるを得ない。このコストを聞けば通常の大手企業であれば担保契約締結に向かうのは当然の結果だと思う。おそらくヘッジコストが半分とか1/4にまでなることは珍しくないからだ。

日本ではOver bankingもあり銀行がROEを下げてでも取引をするという傾向は残っているためなのか、事業会社の担保契約締結はそれほど進んでいないように思う。しかしCVAやROEを気にするようになると、欧米のようなプライシング慣行が導入される日も遠くない。そのためには、即時決済や同時決済など、日本の決済システムの高度化が急務であり、人手を介してミスがないようにダブルチェックをするようなやり方から、システム化と自動化を進めていく必要がある。事業会社向けにこうした決済関連のサービスを提供する会社が増えても良いだろう。

今後の国際金融ハブはどこか

Brexit後に株式現物取引の多くがロンドンからEUに移ったデリバティブ取引についてもデータが出始めた。業界ではよくCashかDerivativesかという言い方をするが、この場合のCash取引というのは債券のような現物取引、スワップなどがDerivative取引だ。

キャッシュ取引の場合は取引所の場所が移れば取引拠点が移る。先物の場合は若干微妙で、例えば日経225の先物は大証で取引されるが、夜間取引も可能で、米国CMEやシンガポールSGXでも取引できる。デリバティブ取引は場所を問わないため、拠点が移るというのはどういうことかというと、基本CFTCの規制で義務付けられた取引Venueで判断する。これは米国ではSEF(Swap Execution Facilities)、欧州ではOTF(Organized Trading Facilities)、日本はブローカーを中心としたETP(電子取引基盤)となる。

今回は、取引執行がロンドンから米国SEFに移るという事象が発生した。IHS Markitの調べによると1月の最初の2週間で、EURとGBPのスワップ取引に占める米国SEFのシェアが12月の11%から23%へと倍増したとのことである。USDのスワップ取引シェアも36%から48%に増加しており、これら3通貨のEUの取引執行機関のシェアは落ち込みを見せている。

BrexitによってEUに取引が移るかと思ったら米国に取られたということだが、これはもともと想定されていた。金融取引に場所はあまり関係ないのだから流動性があるところに取引が移るというのがデリバティブ取引においては自然な流れだろう。しかも以下に簡単に取引が別の拠点に移るかということも明らかになりつつある。

金融危機後はDodd Frank法によって米国における取引を嫌い、欧州に流れる動きがみられたが、今後この流れは逆転していくものと思われる。SEC議長になったゲンスラー氏がさらなる規制強化を進める可能性もあるが、おそらくスワップ規制にはそれほど大きな変更は生じないだろう。むしろビットコインやSPACと言った近年注目を集めている分野の規制変更にフォーカスするものと思われる。

日本の国際金融ハブ化というが、単純にデリバティブ取引を行うのであれば、一部金商法の制限はあるものの、海外からの取引は可能で、日経225先物の取引などは全く場所を選ばない。現物と先物の裁定取引等は日本の市場が開いている時間に取引した方が流動性が高いため、やはり拠点を選ぶのは現物ということになる。つまり日本の株式や社債に興味がある投資顧問会社が日本進出を検討するという構図になる。

一方もう一つ注目を集めているのがオランダのアムステルダムである。今やデリバティブ取引においては、SEFや電子取引を提供するTradeweb、Bloomberg、MarketAxessのような会社が重要であるが、こうした会社はすべてEU拠点としてオランダを選んでいる。こうなると、こうした電子取引のシェアはオランダが欧州で最も取引量が多いということになる。既に国債取引、株式取引はかなりの部分がオランダに移っており、1月の取引量はロンドンを超えている模様だ。

アジアの取引ハブはどこになるかということだが、既にデリバはTradewebとBloombergの2強で、社債についてはMarketAxessの取引も増え始めている。ただ、ローン中心だったためか、いかんせん円建ての国内社債市場があまりにも小さい。昨今は円債の起債も増えているので、社債市場の整備は海外からの投資や日本への進出を増やすためには重要課題である。

ETPは米国SEFに関する規制と同等性を保つためにとりあえず揃えたという感が否めず、これをアジアのマーケットスタンダードにしていこうという機運は全く見られない。唯一動いていたのはJGBのYensai.com、Quickくらいで、後はJSCCやTFXに期待ということになる。

金融ハブというのならオランダのような政策を取るというアイデアもあると思うのだが、現在のところ税制、英語サポートという一般的な内容にとどまっている(もちろん、これらも大事だが)。やはり国際ハブ化の前に、金融のシステム化、オートメーション化など、テクノロジー投資が不可欠である。政策面から後押しできるとすれば、米国のようなSEFの規制、STPガイドライン、決済周りの規制を整備して、日本の金融機関に海外並みのテクノロジー投資を促すことが肝要かと思う。

LIBORから新レートへの一括変換

一部では、ドルLIBORのLIBOR消滅の延期のニュースを誤解してとらえている向きもあるようだが、これはあくまでも移行が困難な古いレガシー取引に対する措置であって、新規取引は予定通り新レートで行われなければならない。したがって、移行作業を止めてよいというわけでは全くない。

また、5年間の中央値でスプレッドを決める時点も18か月遅延と誤解されることもあるが、これも12月のISDAのWebinarでFCAのSchooling Latter氏からコメントがあったように、すべてのLIBORベンチマークのスプレッド計算が一度に起きる可能性が高い。

ここでも何度かコメントしたように、ドル円通貨スワップにおいて、円Legだけ最初にスプレッドが決まり、その後にドルLegの調整が二段階で決まるのは面倒でしかない。

また、これに関してCCPにおけるレート変更がいつ起きるかという点についても意見が分かれている。LCHの意見募集が一般公開されていないため、ここでは紹介できなかったが、CMEの市中協議は内容を見ることができる。ここでは、市場参加者からLCHと同様の一括変換の検討依頼があったと書かれているが、CCP間で扱いが異なると対応が難しくなるので、当然の成り行きだろう。となると結局JSCCも追随するだろうから、すべてがLCHのやり方に収斂していく可能性が高い。

CMEの意見募集は以下の5点となっている。

  1. 他の市場、他のCCPとの平仄
  2. 一括変換のタイミング
  3. 固定レート、クーポンの計算期間、支払い日の扱い
  4. ヘッジ会計及び税金上の扱い
  5. 一括変換後に行使されたスワップションによってできたスワップの扱い

2のタイミングについては、やはりドルだけ遅らせるというのは手間なので、すべて同時にやってしまった方が望ましいと思う。3については、既に決まっているクーポンはそれを使う方法と、そのクーポンも置き換える方法の2種類があるが、CCP間で扱いが異なるように思える。トレーダーにとっては、後決めなのだから全て置き換える方が良いように思えるのだが、バックオフィスの人にとっては、既に決まったレートを変更するというのは抵抗があるのかもしれない。5は、スワップになりクリアされた瞬間に標準OISに変更するというので良いと思う。

そろそろLCHの市中協議の期限なので、来週か再来週くらいには今後の方向性が明らかになってくるものと思われる。

パッシブ投資へのシフトがもたらす変化

Vanguardの預かり資産額が7兆ドルを超えた。これでBlackRockとVanguardの2強体制がほぼ確立した。これは昨今のアクティブファンドからETFへの資金シフトを如実に表していると言えよう。

ETFに流入した資産額は近年急増しており、特に昨年は7600憶ドルを超える資産増となり、ETFの資産は8兆ドルを超えた。中央銀行が大量の緊急流動性を供給したため、感染拡大をめぐる市場混乱をよそに、ETFへ流れ込む資金は増加の一途を辿っている。安全資産逃避もあるだろうが、ゴールドのETFにも450憶ドル近くの資金が流れ、ゴールドの価格上昇に一役買った。

昨年の新規ETFビジネスの半分以上をこの2社が獲得しているというのも驚きであるが、日本にこうした資産運用会社が出てこないのは歯がゆいところだ。

近年ではStory ETFといったテーマ別ETFが人気になっている。ストーリ性のある株から何らかのテーマを持ったETFの方に資金が流れている。クラウドコンピューティング、新エネルギーなどホットトピックが生まれると、それに特化したETFが作られているが、手数料が高くなるうえ、あまり分散効果はないように思える。とは言え、ETFの資産額増加に一役を買っているようだ。

MiFID IIのリサーチアンバンドリングによって小型株のアナリストが減り、アクティブファンドが減ることによって個別企業分析の重要性が低下しているのは若干気になる。本当に良い企業を見極めようというよりは、インデックスをトラックすることにのみフォーカスが集中してしまっているように思う。やはり流れを変えるには、大きなマーケットショックが一度は必要なのかもしれない。

JPM決算発表時のSLRに対するコメント

昨日JPMの2020年第四四半期の決算発表があったが、感染拡大にも関わらず好調な決算だった。それよりも個人的には、いつもそこかしこにちりばめられる規制についての批判に注目している。今回もレバレッジ比率規制(SLR)をめぐるコメントが興味深い。

SLRが導入されたころは、FEDのバランスシートがそれほど大きくなかったが、近年これが急速に膨らんでおり、それに応じてGSIBチャージとSLRが、単なるバックストップからBinding Measureになってきたと述べられている。バックストップと言っているのは、バーゼルIIIの先進的手法などの所要資本がメインで、SLRは、精緻なリスク指標ではなく、あくまでも補完的役割だったのが、今や大きな制約になってしまっているということだ。つまり、バックストップであるはずのSLRの重要性が高まってしまったので、その他の資本計算を精緻にモニターする必要はなくなり、SLRだけが重要になってしまった。

SLRについては感染拡大を受けて一時的に緩和されているが、これも3月末には期限が切れてしまう。JPMは、これを恒久的な措置とするか、最低でも期限延長をすべきと言っている。

昨今では金利低下とローンに対する需要が低下したため、預金を集めてもほとんど収益に貢献しなくなっている。この状況下でSLRが最大制約となってしまうと、新規社債発行を行い、資本も高水準で確保しなければならない。こうなると、当然新規に預金が増えるとROEの低下を招く。では、銀行としては、新規預金受け入れを止めるか、その資金を他のところに回すか、資本を高水準に保ったままコストを転嫁するかという難しい選択を迫られる。これを解決するには、サイズに依存したSLRのような規制の一時緩和措置の継続が必要だという論法だ。

欧州で実例はあるものの、預金にマイナス金利を適用するのはかなりのハードルだ。口座維持手数料等を取って金利のマイナス分の効果を削減するというのが今のところ精一杯かと思う。担保としての意味合いもあるのだろうが、未だに預金獲得に走るところがある日本の銀行とは異なり、JPMの場合は規制のコストまで考慮してビジネスモデルを模索している姿が決算発表のコメントから伺われる。

それでも海外の場合は、預金の占める割合は日本ほど高くなく、株や債券、投資信託等への投資に回る部分が大きいので、まだましである。日本でも預金から投資への流れは着実にみられ始めているが、やはり現金を持つリスクというものを考えておいた方が良いと思う。デフレ下では関係なかったが、これから万が一インフレが起きれば現金の価値は下がってしまう。自宅に金庫を買って現金をため込むという方法はあるが、電子マネーがここまで普及してくると、金融機関などに資金を置いておく必要性は高まる。

こうした変化をうまく捉えて銀行経営を考えなければならないと、JPMのコメントを見ていて再認識させられた。

ISDA LIBORプロトコルの批准が加速

ISDAのLIBORプロトコル批准者数が7000近くになり、批准が加速してきた。ISDAのリストによると、日本の銀行、証券、生損保も軒並み批准を完了し、地銀や信金まで名前が既に上がっている。一部名前が出ていない市場参加者はそろそろ焦りを感じているところではないだろうか。

不思議なことに80%以上が米国の市場参加者であるが、日本も100社を超えており、英国、シンガポールの次に4番目の多さとなっている。ただし米国があまりに多いので日本のシェアは2%に満たない。米国の場合は一つの金融機関でも複数の会社が存在しているからかもしれない。

ISDAも1/14にアナウンスを出しており、更なる参加者の拡大を呼び掛けている。発効は1/25だが、その後の批准も可能だ。ただし、批准のタイミングをずらして自らが得をすることを模索していると見られたくないため、早期に批准を進めようというところが多いものと思われる。

ISDAのアナウンスにもあるように、プロトコルはサインすればそれで終わりではなく、前倒しで自主的に移行作業を進めることが推奨される。年末までにそれほど時間があるわけではないので待ったなしの状況になってきた。

ドルの担保金利変更もARRCの推奨期限となったが、あまり進んでいないように思える。やはりすべての取引の価格を合わせるのが困難なのだろう。金額に合意できないと、新規取引から新レートによるディスカウントに変えていくという二段階の変更が主流になる。この状況ではマージンコールが二倍になり、ネッティングもできないので一時的に必要担保額が増えてしまう。証拠金規制導入時にレガシー取引と新規取引でネッティングセットを分けたような場合は、契約が3つも4つも増えてしまうこともある。カストディアンの業務も煩雑になろう。

LIBOR改革には、レートの変更以外に様々な事務の変更が関係してくるため、今年一年の事務作業は著しく増えることになる。やはり早めの移行準備が肝要である。