円金利デリバティブの地盤沈下

前回為替関連のデータを見てみたが、今回はBISのTriennial Surveyの金利系デリバティブ取引データについてみてみる。前回2019年に取引が急増し市場でも話題になったが、今回2022年のデータを見てもそのトレンドが確認できる。2019年の$6.4tnからは2割ほど減って$5.2tnとなっているが、この減少分はほとんどがFRAから来ているようで、LIBOR改革後はFRAの取引ニーズがなくなったことを考えれば、やはり取引量は増加基調にある。また、一部は先物に移っているのかもしれない。

ロシアのウクライナ侵攻直後の4月の定点観測というのが残念だが、別の統計データによると4月は取引が少なかった月なので、実際の取引量はもう少し上振れしている可能性がある。

取引場所については、USDについてUKからUSやAsiaへのシフトが見られ、EURについてもUKからEUへのシフトがみられる。ただし、Brexitを考えると意外とUKが健闘している。

通貨別にみるとUSDやEURの取引量の増加が大きく、JPYの没落が著しい。一見USDのシェアが減っているようにも見えるが、FRAによる特殊要因を除けば引き続きUSDとEURは盤石だ。JPYについては2010年に6%のシェアを占めていたのが、今では2.2%にまで落ち込んでいる。AUDの半分くらいの取引量で、USD、EUR、GBP、AUDに次ぐ5位となっている。FXではそれなりの存在感を示しているのだが、金利系については、このままだとNZDとかKRWに抜かれてしまうのかもしれない。オプションその他の取引では突然取引量が増えてトップになっているが、これは仕組債がらみの特殊要因のように思える。

2019年以降取引量が急増しているが、コンプレッションや内部取引の影響が大きいようだ。Appendixを詳しく見ていくと、合計$5,226bnの内、Non-Market-Facing取引の内訳は以下の通りとなっている。

Related Party Trades: $1,198bn
Back to Back Trades: $460bn
Compression: $337bn

つまり、合計約$2tn程度はこうしたNon-Market-Facing取引ということになり、近年金利系デリバティブ取引が急増したのはこうしたコンプレッションなどの影響が大きいように思う。もしかしたらJPYの地位が下がっているのは、日本の市場参加者があまりコンプレッションやBack to Back取引によるリソース最適化を行っていないからなのかもしれないが、通貨ごとのNon-Market-Facing取引量は残念ながら公表されていない。

このNon-Market-Facing取引は、以下の通り推移しているので、この影響を除くと2000年からほぼ同じようなペースで増加しているようにも見える。

2016年: $1.31tn
2019年:$3.2tn
2022年: $1.97tn

https://www.bis.org/statistics/rpfx22_ir.pdf

もう一つ着目すべきなのは、大手金融機関のシェアが2010年の44%から2022年には19%へと急減している点である。そして、その他金融機関のシェアが46%から70%へと増えている。おそらくここにはヘッジファンドや、年金・保険会社といったリアルマネーが入っているものと思われる。ヘッジファンドが少ない点、年金や保険会社のデリバティブ利用が少ないという点がJPYの地盤沈下を招いているのかもしれない。保険会社の会計変更、貯蓄から投資への流れの中で金利スワップ等の利用が増えればJPYの取引量はAUDを超えて3位に入ってもおかしくない。

今後もデリバティブ取引の規模は順調に拡大していくことが予想され、特に日本でもここから巻き返しが起きる可能性もあるので、デリバティブリスク管理の重要性はますます増していくことになるだろう。そして、取引量の増加に備えて様々なインフラをグローバル並みに整備していかなければならない。

ROE重視の金融経営とは

日本の大手銀行がROE9-10%を目指すという記事が出ているが、日本の金融機関のROEも少しずつ上がってきた。自社株買いも少しずつ増え始め、資本効率を意識した発言もみられるようになってきた。ROE重視というのは既に何十年も前から言われていることなのだが、欧米と日本は環境が違う、ROEが最良の指標とは思えないという雰囲気があり、これまでは本腰を入れたROE改善が図られてこなかったように思う。

日本と海外の最大の違いの一つがこのROEに対する姿勢かと思われる。グローバルバンクでは、案件ごとにROEをチェックし、それが10%などのターゲットを満たしていないと案件がほぼ確実に却下される。それでは競争に勝てない、この案件は将来的に重要だといっても、例外的に認められるケースは極めてまれだ。デリバティブ取引でも同様で、いくら他社が良いプライスを出してくるからといっても、KVAを賄えない収益となる取引を実行できる可能性はほとんどない。

日本の銀行で働いているときは、他社の価格をみながら、競争上の理由によってROEがターゲットに達していなくても取引をするのはそれほどおかしいことではなかったように思う。欧米のように利益だけを重視してはだめで、日本経済に対する影響などを考えて、必要なところには資金を回さなければならないと言われたのをよく覚えている。これは当時はもっともな意見だと思い、あまり疑問を感じなかった。ただ、自分が資金を出さなかったとしても他に喜んで資金を提供するところが多かったのも事実ではあった。

ROE重視というのは経営トップが号令をかけるだけでは現場はその通りに動かず、その改善も遅々としたものになりがちである。これを一気に改善するには適切なインセンティブメカニズムを構築する必要がある。企画部のようなところが基準を決めて従わせるか、KVAを現場から徴求してしまうという方法が、まず提案されやすい。一方グローバル銀行では、部門採算を突き詰める傾向にあり、資本コストやファンディングコストが各トレーディングデスクに割り当てられる。それが日々の収益から税金のように取られていく。そして部門別のROEがチェックされ、それがあまりに低いと業績評価にダイレクトに影響する。したがって、トレーダーが自ら資本コストの高い取引を避けるようになり、コストの高い取引に対しては多くのチャージをかけるようになる。

不思議なものでこのようなコストアロケーションが行われていなかった頃はトレーダーがファンディングや資本効率を意識することはなかった。これが日々のPLから差し引かれるようになると、社内カルチャーが一変する。つまり、ROEを向上させたい、コスト削減を図りたいというときには、全社的に号令をかけるのではなく、コストアロケーションによって末端まで行動を変えてしまうのが手っ取り早い。例えばSA-CCRへの変更があったときなど、現場には他社が資本コストを気にしてプライシングを変えてきているという情報がすぐに入ってくるため、これに応じて徐々にプライシング慣行を素早く変更できる。

経営トップや企画部門が管理をしていると、ここまで機動的には動けない。金融に限らず日本は値上げをしにくい文化だとは言われるが、デリバティブ取引でも同様であり、競争上の理由から全員でROEが下がるという事象が起きて金融の長期低迷が起きているように思う。そもそもXVAというのは、取引に係るあらゆるコストを、それぞれの取引に紐づけることにより、効率を上げるために使われているという側面がある。

CVAがなかった頃は各トレーダーがカウンターパーティーリスクを考慮することなく取引していたし、FVAが入るまではファンディングコストは財務部門が管理するものだと思われていた。KVAは資本計算をする部門の責任、MVAは、担保管理部門の範疇といった具合に管理が分散していたところ、XVAの登場によって、それを一つ一つの取引レベルまで落とし込んで管理をするようにしたということである。したがって、ROE重視の経営に舵を切るには、ROE改善と号令をかけるだけではなく、そのコストを各取引後とに落とし込んで、現場のトレーダーのインセンティブを変えてしまうのが、最も有効なのだと思う。

金融商品の価格上限

欧州天然ガスの価格に上限設定に対する批判の声が大きくなっている。以前紹介した通り、天然ガスの価格があまりに乱高下するため、マージンコールに応えられなくなる市場参加者が増え、当局サイドから価格をコントロールするための上限を設定することが提案された。

一定の動きがあった時に取引を止めるサーキットブレーカーは一般的だが、上限となると確かに批判の声が上がるのはもっともだろう。日経平均などの価格に上限があったら、それは不自然以外の何物でもない。とは言え、天然ガスのように、一時的にどこまで乱高下するかわからないという場合には気持ちもわからなくはない。ニッケルのように取引がキャンセルになるくらいなら上限を設定する方がましかもしれない。

だが、当然取引所が賛成するとは思えず、ICEなどは取引所をEUから移すという話まで報道されている。最近の動きをみていると、何となくEUの金融規制は迷走している印象はぬぐえない。

この上限は来年2月15日から適用されるが、以下の二つが条件となっている。

1.TTFの期近の契約が3日連続で€180/MWhを超える

2.同じTTFの価格が3日間連続でLNGの参照価格より€35/MWh高くなる。

これを超える価格はEUの取引所では認められないということになる。一たびこの条件を満たすと20営業日はそのまま上限が適用され、3日連続で€180/MWhを下回った時に解除される。一応時限措置となっているので来年の11月に報告書を出しその後の存続の可否を決めることになっているようだ。

確かにこれがEUだけの規制となれば、EU外では価格が動いていることになり、誰もEUで取引をしようとは思わなくなるのではないか。そうすると相対取引の参照価格もEUの指標ではなく別のものを見るようになるのかもしれない。インフレ率でもEM通貨の為替レートでも、どこまででも上がり続けることはあり、上限があるという話は個人的にには聞いたことがない。日銀のYCCだって25bpとか50bpとかで上限を設定しているのではなく、それを目掛けて指値オペを打っているだけだ。今回のICEの話をきっかけに価格上限の話が立ち消えになるのかもしれない。

経済制裁とデリバティブ取引

米国がロシアの銀行に経済制裁をかけてから相当経つが、今般更にRosbankがリストに加えられ、VTBに対する制裁の範囲も拡大したと報じられた。特に大きなインパクトは予想されていないが、台湾情勢も不透明なことから、今後は経済制裁に対しても注意を払っていかなければならない。

以前からISDAからは経済制裁に関するホワイトペーパー等が出されており、一部では契約書の手当てをしようとしているところもある。ただし、こうした契約変更が大きく進んでいるという報道も見られない。むしろ、交渉に手間取り全く手当てができないというコメントの方が多く報じられている。

ISDAのペーパーを読めばおわかりのように、どうも要点がつかみにくい。法律的に穴のない正しい文言を作成しようとしたためか、一読しただけでは趣旨が分かりにくく、膨大な修正が必要な印象を受けてしまう。ここまでの修正を受け入れてくれるところは多くないと思う。

経済制裁が発動された段階では、対象となるロシアの銀行に対する支払いが違法となった。担保のやり取りや解約金の支払いなどもできなくなる。しかしこの制限は西側諸国にかかるので、契約上の履行ができなくなるのはロシアの銀行ではない。通常は、1-3か月程度のWind-down期間を経て、Illegalityがトリガーされることになるだろうが、この場合のAffected Partyは支払いをしなかった西側諸国の当事者である。Illegalityの場合は両当事者がトリガーを引けるが、解約の計算人はロシアの銀行となる。この時ロシアの銀行はグローバル銀行にQuoteを求めにいくことが困難になり、その計算が市場慣行に則ったものになるか心もとない。

そもそも相手先がデリバティブに詳しくない事業会社だった場合などは、Commercially Reasonableな手法で計算を行うのは困難だろう。後の訴訟に備えてきちんと証拠書類等もそろえておかなければならない。これはおそらくIllegalityの盲点で、本来であればこの計算はその他のCaluculation Agentと同様、ディーラーサイドが行うとするべきだったのだろう。これくらいの変更であれば、きちんと説明すれば何らかの文言変更はできそうなものだが、ISDAが提唱している文言になると、若干複雑になり説得できる自信がない。

適切なWind-down Periodを取ることがまずは最重要だが、経済制裁による解約時のベストプラクティスガイダンスを出すといったことが行われるとデリバティブ取引の安定に資するものと思われる。

エジンバラ改革

ロンドンでは金融規制緩和の話が頻繁にメディアを賑わすようになった。Brexit後の金融業界の復活をかけて、以前の金融ビッグバンの再来を期待する声が多く聞かれる。英国財務省の中堅大臣ポストであるCity MinisterのAndrew GriffithがFCAや英国中銀といった規制当局向けに書簡を送り、ロンドンを金融資本市場の中心地として復活させるため、より迅速で透明背の高い改革を求めている。政府としても近々改革案を出す予定だったのだが、そのスピード感に不満を感じているのか、大臣による異例の介入となっている。

この改革案は、当初ビッグバン2.0と言われていたが、発表の場となるスコットランドの首都の名前を取ってエジンバラ改革と名付けられた。ただし、1986年のビックバンに比べるとかなり控えめな内容となりそうであり、後世に名を残すようなものにはならないように思える。

とは言え、欧州の杓子定規ないくつかの規制に対する批判が高まっている中、英国がEUの呪縛から逃れて、自由に制度設計をできるようになったことに対する期待は高まる。これで英国が地位を回復すれば、金融危機以降、厳格化が常に行われてきた金融規制に、新しい流れが生まれるかもしれない。ソルベンシーIIやMiFid IIなどで見直しが入ることが予想されている。

一方、EUの方では英国から取引を呼び込むべく、LCHに対するプレッシャーを強めている。CCPでの清算についての新しいルールが近々公表されるが、かなりEUの保護主義的な内容になっているという話が聞かれる。一応2025年に期限を迎える一時的免除以降もEUの市場参加者はLCHで清算できることにはなっているが、細かいところでLCHの使用を制限するような内容が織り込まれるのではないかと言われている。ただし、LCHを使っている市場参加者に対して追加の資本賦課を求めるという案は採用されないようなので、一安心といったところか。

英国とEUの規制の動向をみていると、英国の方が経済原則に則った規制を実現しようとしているように見える。いずれにしても今週は双方案が明らかになるだろうから、その詳細に注目が集まる。

バーゼルのFXサーベイ

バーゼルからは3年ごとに為替市場についての分析がTriennial Central Bank Surveyとして公表されているが、本年2022年が公表年に当たる。為替取引の市場は相川らず順調に右肩上がりの成長を続けている。全体の取引量は7.5兆ドルとなり、3年前から14%増となっている。

通貨別にみるとドルの圧倒的地位は揺るがず、シェアは89%で3年前からほぼ変動はない。なお、為替取引は通貨ペアで統計をとるのでこのシェアの合計は200%となっている。つまりドル円であればドルと円の両方にカウントされるため合計が200%になってしまうということだ。

円もほぼ横ばいの17%で、何とかEURの31%に続く3位の地位を保っている。4位はGBPの13%で、ここまでは大きな変動はないが、5位にCNYが7%で入ってきている。つまりAUD、CAD、CHFを一気に抜き去り5位に躍り出たということだ。世界の5大通貨にCNYが入ってきたというのは中国の影響力の拡大を物語っている。

為替の世界ではG10通貨とEM通貨のように分けて議論をするが、G10に入るAUDがEMのCNYに抜かれるというのは象徴的な順位逆転だ。ちなみに他のG10通貨はNZD、CAD、NOK、SEKだが、いずれも数%のシェアとなっており、SGD、KRW、INR、MXN、TWDなどと取引量はそう変わらない。日本の国力低下が騒がれているが、為替に関しては以前大きな地位を保っているように見える。

全体の取引量をみると2010年から2022年の過去12年の間に為替取引は約2倍のマーケットとなっている。スポット取引に比べ、フォワード、FXスワップ、通貨スワップの伸びが著しい。ノンバンクへのシフトが続くと思われたが、直近では銀行を通じた取引が増えているようだ。1日平均の取引量としては、USDが6.6兆ドル、円が1.2兆ドルだが、CNYも0.5兆ドルまで増えてきている。2010年にCNYが$34mmだったことを考えると約15倍になったということだ。シェアを落としているのが、AUD、CHF、RUB、TRYなどだが、全般的に欧州からアジアシフトの流れがみられる。

政治的混乱が起きず、このままの流れが続くと、次回3年後のサーベイではCNYがGBPやJPYを抜いているのかもしれない。

USターム物SOFRはCMEが標準に

英国当局のFCAがCMEのターム物SOFRをUSDシンセティックLIBORの指標として使うことを推奨した。既にICEもUSDのターム物SOFRを4月から公表していたので、ライバルでもあるCMEのターム物SOFRを認めるというのは異例のことのようにも思えるが、さすがにARRCがCMEのターム物SOFRをサポートしている以上止む無しといったところなのだろう。CMEのターム物SOFRのインプットとなっているSOFR先物の取引量が思った以上に伸びているのも心強い。市場分断が起きることを懸念して一つの指標に絞ったというコメントも出されている。

使用期限は2024年9月となっているので、LIBOR公表停止の来年6月から1年3か月後ということになる。日本円のシンセティックLIBORは1年の期限だったと思うので、今月で使えなくなるが、一部を除いてあまり話題になっていない。気づかずにそのままになっている契約もあるのかもしれないが、ほとんどの銀行は当然期限を意識しながら準備をしてきたので、ほぼ問題はないだろう。英国ポンドの方は少し期限が長いが、1か月物と6か月物が来年3月、3か月物が2024年3月までとなっている。

USDシンセティックLIBORについては、今後10年間にわたり毎年期限を延長するオプションがついているが、この調子だと延長なく移行が完了する可能性が高いものと思われる。

それにしても日本ではターム物や先物の議論が盛り上がらない。このままでは、いずれも必要なしとなってもおかしくない程の進捗状況だ。TONA先物については、TFXが来年1月-3月の間に上場予定で、OSEは来年5月末の上場を予定している。

OSEに寄せられたパブリックコメントの内容が先週公開されたが、流動性が低い中複数の商品が上場することに対する懸念も寄せられている。確かに、市場分断が起きることを懸念して一つの指標に絞った冒頭英国のような例はあまり日本では見られない。日本では、金融のみならず、ニーズの応えるべく多くの商品をそろえる傾向があり、あまり標準化に重きが置かれない文化があるように思う。LCHなどのでも、極力流動性を集中させるために標準化したというコメントが聞かれるが、日本ではより多くのお客様のニーズに応えるために対象商品を拡げたというコメントが良く聞かれる。

一旦取引量が増えればそこそこ取引されるかもしれないが、今のところ高い期待は感じられない。金利も動くようになってきたことから今後の進展に期待したい。

2022年3月のLMEショック

3月のニッケルの価格暴騰時の取引キャンセルを巡って、ElliotとJane StreetのLMEに対する訴訟に関連してLME側の反論が出ている。今後も語り継がれるであろうRisk Incidentの一つなので経緯を確認してみる。

まずLME側の主張のメインは、もしキャンセルをしていなければそれまでの最大のマージンコールの10倍の$20bnのマージンコールが発生し、多くのデフォルトを誘発していただろうという点である。つまり連鎖倒産が発生すればLME自体にも破綻の危機があったということである。LMEの損失は$2.6bnになっていたとのことで、生存参加者に対しても最低$1.22bnの清算基金の拠出が求められていたとのことである。若干誇張はあるのかもしれないが、確かに、24時間のうちに価格が250%も上昇したため、さもありなんという数字ではある。

最も大きな変動があった3/8の前日も価格が66%上昇し、既に翌日9時のマージンコール期限には3社がマージンコールに応えられず、その他1社もペンディングとなっていたとのことである。3/7の午前中には合計$7bn、9回の日中証拠金を求めていたが、これ以上は無理と判断し、午後からは追証をストップしている。

そして、3/8の朝5:53には既に合計$2bn、6社の証拠金が滞っていることが確認された。そして、更に7社から証拠金が払えないという連絡を受けていた。これも受けて朝7時半の段階でマージンコールをストップするという決断を下している。

この一連の顛末は、コモディティ商品のCCPの脆弱さを物語っている。一般的に、財務の健全性に劣る小規模参加者が多く、規制が厳しくマージンコールなどの処理に慣れている大規模金融機関が中心の、金利スワップCCPなどとは大きく異なっている。概してコモディティ商品のCCPの場合は、証拠金を下げてほしいという要望の方が強くなりがちであり、リスク管理を強化すべきという大手金融機関の意見が少数意見になりがちである。

こうした小規模参加者は、当然LMEから離れ、マージンの少ない相対取引に移行している。米国債のクリアリングでも最近議論され始めたが、CCPがすべての商品に対する特効薬という訳ではないという主張の根拠の一つでもある。

もう一つ、今回の価格変動のきっかけとなったと言われているTsingshanのOTCのポジションについてはLMEは把握していなかったと述べられている。だた、その後の報道を見ていると、コモディティ業界で、これを知らなかった人はいないだろうとまで言われているので、おそらく何となくはわかっていたものの、詳細なポジションまでは把握していなかったという当たり前の見解を表明しただけなのだろう。

いずれにしても、コモディティ商品のCCPについては、今後も活発な議論が必要になろう。禁じ手ではあるもののサーキットブレーカー制度を拡充したような、何らかの価格統制が必要になるのかもしれない。