2022年3月のLMEショック

3月のニッケルの価格暴騰時の取引キャンセルを巡って、ElliotとJane StreetのLMEに対する訴訟に関連してLME側の反論が出ている。今後も語り継がれるであろうRisk Incidentの一つなので経緯を確認してみる。

まずLME側の主張のメインは、もしキャンセルをしていなければそれまでの最大のマージンコールの10倍の$20bnのマージンコールが発生し、多くのデフォルトを誘発していただろうという点である。つまり連鎖倒産が発生すればLME自体にも破綻の危機があったということである。LMEの損失は$2.6bnになっていたとのことで、生存参加者に対しても最低$1.22bnの清算基金の拠出が求められていたとのことである。若干誇張はあるのかもしれないが、確かに、24時間のうちに価格が250%も上昇したため、さもありなんという数字ではある。

最も大きな変動があった3/8の前日も価格が66%上昇し、既に翌日9時のマージンコール期限には3社がマージンコールに応えられず、その他1社もペンディングとなっていたとのことである。3/7の午前中には合計$7bn、9回の日中証拠金を求めていたが、これ以上は無理と判断し、午後からは追証をストップしている。

そして、3/8の朝5:53には既に合計$2bn、6社の証拠金が滞っていることが確認された。そして、更に7社から証拠金が払えないという連絡を受けていた。これも受けて朝7時半の段階でマージンコールをストップするという決断を下している。

この一連の顛末は、コモディティ商品のCCPの脆弱さを物語っている。一般的に、財務の健全性に劣る小規模参加者が多く、規制が厳しくマージンコールなどの処理に慣れている大規模金融機関が中心の、金利スワップCCPなどとは大きく異なっている。概してコモディティ商品のCCPの場合は、証拠金を下げてほしいという要望の方が強くなりがちであり、リスク管理を強化すべきという大手金融機関の意見が少数意見になりがちである。

こうした小規模参加者は、当然LMEから離れ、マージンの少ない相対取引に移行している。米国債のクリアリングでも最近議論され始めたが、CCPがすべての商品に対する特効薬という訳ではないという主張の根拠の一つでもある。

もう一つ、今回の価格変動のきっかけとなったと言われているTsingshanのOTCのポジションについてはLMEは把握していなかったと述べられている。だた、その後の報道を見ていると、コモディティ業界で、これを知らなかった人はいないだろうとまで言われているので、おそらく何となくはわかっていたものの、詳細なポジションまでは把握していなかったという当たり前の見解を表明しただけなのだろう。

いずれにしても、コモディティ商品のCCPについては、今後も活発な議論が必要になろう。禁じ手ではあるもののサーキットブレーカー制度を拡充したような、何らかの価格統制が必要になるのかもしれない。