経済制裁とデリバティブ取引

米国がロシアの銀行に経済制裁をかけてから相当経つが、今般更にRosbankがリストに加えられ、VTBに対する制裁の範囲も拡大したと報じられた。特に大きなインパクトは予想されていないが、台湾情勢も不透明なことから、今後は経済制裁に対しても注意を払っていかなければならない。

以前からISDAからは経済制裁に関するホワイトペーパー等が出されており、一部では契約書の手当てをしようとしているところもある。ただし、こうした契約変更が大きく進んでいるという報道も見られない。むしろ、交渉に手間取り全く手当てができないというコメントの方が多く報じられている。

ISDAのペーパーを読めばおわかりのように、どうも要点がつかみにくい。法律的に穴のない正しい文言を作成しようとしたためか、一読しただけでは趣旨が分かりにくく、膨大な修正が必要な印象を受けてしまう。ここまでの修正を受け入れてくれるところは多くないと思う。

経済制裁が発動された段階では、対象となるロシアの銀行に対する支払いが違法となった。担保のやり取りや解約金の支払いなどもできなくなる。しかしこの制限は西側諸国にかかるので、契約上の履行ができなくなるのはロシアの銀行ではない。通常は、1-3か月程度のWind-down期間を経て、Illegalityがトリガーされることになるだろうが、この場合のAffected Partyは支払いをしなかった西側諸国の当事者である。Illegalityの場合は両当事者がトリガーを引けるが、解約の計算人はロシアの銀行となる。この時ロシアの銀行はグローバル銀行にQuoteを求めにいくことが困難になり、その計算が市場慣行に則ったものになるか心もとない。

そもそも相手先がデリバティブに詳しくない事業会社だった場合などは、Commercially Reasonableな手法で計算を行うのは困難だろう。後の訴訟に備えてきちんと証拠書類等もそろえておかなければならない。これはおそらくIllegalityの盲点で、本来であればこの計算はその他のCaluculation Agentと同様、ディーラーサイドが行うとするべきだったのだろう。これくらいの変更であれば、きちんと説明すれば何らかの文言変更はできそうなものだが、ISDAが提唱している文言になると、若干複雑になり説得できる自信がない。

適切なWind-down Periodを取ることがまずは最重要だが、経済制裁による解約時のベストプラクティスガイダンスを出すといったことが行われるとデリバティブ取引の安定に資するものと思われる。