Brexit後に株式現物取引の多くがロンドンからEUに移ったデリバティブ取引についてもデータが出始めた。業界ではよくCashかDerivativesかという言い方をするが、この場合のCash取引というのは債券のような現物取引、スワップなどがDerivative取引だ。
キャッシュ取引の場合は取引所の場所が移れば取引拠点が移る。先物の場合は若干微妙で、例えば日経225の先物は大証で取引されるが、夜間取引も可能で、米国CMEやシンガポールSGXでも取引できる。デリバティブ取引は場所を問わないため、拠点が移るというのはどういうことかというと、基本CFTCの規制で義務付けられた取引Venueで判断する。これは米国ではSEF(Swap Execution Facilities)、欧州ではOTF(Organized Trading Facilities)、日本はブローカーを中心としたETP(電子取引基盤)となる。
今回は、取引執行がロンドンから米国SEFに移るという事象が発生した。IHS Markitの調べによると1月の最初の2週間で、EURとGBPのスワップ取引に占める米国SEFのシェアが12月の11%から23%へと倍増したとのことである。USDのスワップ取引シェアも36%から48%に増加しており、これら3通貨のEUの取引執行機関のシェアは落ち込みを見せている。
BrexitによってEUに取引が移るかと思ったら米国に取られたということだが、これはもともと想定されていた。金融取引に場所はあまり関係ないのだから流動性があるところに取引が移るというのがデリバティブ取引においては自然な流れだろう。しかも以下に簡単に取引が別の拠点に移るかということも明らかになりつつある。
金融危機後はDodd Frank法によって米国における取引を嫌い、欧州に流れる動きがみられたが、今後この流れは逆転していくものと思われる。SEC議長になったゲンスラー氏がさらなる規制強化を進める可能性もあるが、おそらくスワップ規制にはそれほど大きな変更は生じないだろう。むしろビットコインやSPACと言った近年注目を集めている分野の規制変更にフォーカスするものと思われる。
日本の国際金融ハブ化というが、単純にデリバティブ取引を行うのであれば、一部金商法の制限はあるものの、海外からの取引は可能で、日経225先物の取引などは全く場所を選ばない。現物と先物の裁定取引等は日本の市場が開いている時間に取引した方が流動性が高いため、やはり拠点を選ぶのは現物ということになる。つまり日本の株式や社債に興味がある投資顧問会社が日本進出を検討するという構図になる。
一方もう一つ注目を集めているのがオランダのアムステルダムである。今やデリバティブ取引においては、SEFや電子取引を提供するTradeweb、Bloomberg、MarketAxessのような会社が重要であるが、こうした会社はすべてEU拠点としてオランダを選んでいる。こうなると、こうした電子取引のシェアはオランダが欧州で最も取引量が多いということになる。既に国債取引、株式取引はかなりの部分がオランダに移っており、1月の取引量はロンドンを超えている模様だ。
アジアの取引ハブはどこになるかということだが、既にデリバはTradewebとBloombergの2強で、社債についてはMarketAxessの取引も増え始めている。ただ、ローン中心だったためか、いかんせん円建ての国内社債市場があまりにも小さい。昨今は円債の起債も増えているので、社債市場の整備は海外からの投資や日本への進出を増やすためには重要課題である。
ETPは米国SEFに関する規制と同等性を保つためにとりあえず揃えたという感が否めず、これをアジアのマーケットスタンダードにしていこうという機運は全く見られない。唯一動いていたのはJGBのYensai.com、Quickくらいで、後はJSCCやTFXに期待ということになる。
金融ハブというのならオランダのような政策を取るというアイデアもあると思うのだが、現在のところ税制、英語サポートという一般的な内容にとどまっている(もちろん、これらも大事だが)。やはり国際ハブ化の前に、金融のシステム化、オートメーション化など、テクノロジー投資が不可欠である。政策面から後押しできるとすれば、米国のようなSEFの規制、STPガイドライン、決済周りの規制を整備して、日本の金融機関に海外並みのテクノロジー投資を促すことが肝要かと思う。