JPM決算発表時のSLRに対するコメント

昨日JPMの2020年第四四半期の決算発表があったが、感染拡大にも関わらず好調な決算だった。それよりも個人的には、いつもそこかしこにちりばめられる規制についての批判に注目している。今回もレバレッジ比率規制(SLR)をめぐるコメントが興味深い。

SLRが導入されたころは、FEDのバランスシートがそれほど大きくなかったが、近年これが急速に膨らんでおり、それに応じてGSIBチャージとSLRが、単なるバックストップからBinding Measureになってきたと述べられている。バックストップと言っているのは、バーゼルIIIの先進的手法などの所要資本がメインで、SLRは、精緻なリスク指標ではなく、あくまでも補完的役割だったのが、今や大きな制約になってしまっているということだ。つまり、バックストップであるはずのSLRの重要性が高まってしまったので、その他の資本計算を精緻にモニターする必要はなくなり、SLRだけが重要になってしまった。

SLRについては感染拡大を受けて一時的に緩和されているが、これも3月末には期限が切れてしまう。JPMは、これを恒久的な措置とするか、最低でも期限延長をすべきと言っている。

昨今では金利低下とローンに対する需要が低下したため、預金を集めてもほとんど収益に貢献しなくなっている。この状況下でSLRが最大制約となってしまうと、新規社債発行を行い、資本も高水準で確保しなければならない。こうなると、当然新規に預金が増えるとROEの低下を招く。では、銀行としては、新規預金受け入れを止めるか、その資金を他のところに回すか、資本を高水準に保ったままコストを転嫁するかという難しい選択を迫られる。これを解決するには、サイズに依存したSLRのような規制の一時緩和措置の継続が必要だという論法だ。

欧州で実例はあるものの、預金にマイナス金利を適用するのはかなりのハードルだ。口座維持手数料等を取って金利のマイナス分の効果を削減するというのが今のところ精一杯かと思う。担保としての意味合いもあるのだろうが、未だに預金獲得に走るところがある日本の銀行とは異なり、JPMの場合は規制のコストまで考慮してビジネスモデルを模索している姿が決算発表のコメントから伺われる。

それでも海外の場合は、預金の占める割合は日本ほど高くなく、株や債券、投資信託等への投資に回る部分が大きいので、まだましである。日本でも預金から投資への流れは着実にみられ始めているが、やはり現金を持つリスクというものを考えておいた方が良いと思う。デフレ下では関係なかったが、これから万が一インフレが起きれば現金の価値は下がってしまう。自宅に金庫を買って現金をため込むという方法はあるが、電子マネーがここまで普及してくると、金融機関などに資金を置いておく必要性は高まる。

こうした変化をうまく捉えて銀行経営を考えなければならないと、JPMのコメントを見ていて再認識させられた。

ISDA LIBORプロトコルの批准が加速

ISDAのLIBORプロトコル批准者数が7000近くになり、批准が加速してきた。ISDAのリストによると、日本の銀行、証券、生損保も軒並み批准を完了し、地銀や信金まで名前が既に上がっている。一部名前が出ていない市場参加者はそろそろ焦りを感じているところではないだろうか。

不思議なことに80%以上が米国の市場参加者であるが、日本も100社を超えており、英国、シンガポールの次に4番目の多さとなっている。ただし米国があまりに多いので日本のシェアは2%に満たない。米国の場合は一つの金融機関でも複数の会社が存在しているからかもしれない。

ISDAも1/14にアナウンスを出しており、更なる参加者の拡大を呼び掛けている。発効は1/25だが、その後の批准も可能だ。ただし、批准のタイミングをずらして自らが得をすることを模索していると見られたくないため、早期に批准を進めようというところが多いものと思われる。

ISDAのアナウンスにもあるように、プロトコルはサインすればそれで終わりではなく、前倒しで自主的に移行作業を進めることが推奨される。年末までにそれほど時間があるわけではないので待ったなしの状況になってきた。

ドルの担保金利変更もARRCの推奨期限となったが、あまり進んでいないように思える。やはりすべての取引の価格を合わせるのが困難なのだろう。金額に合意できないと、新規取引から新レートによるディスカウントに変えていくという二段階の変更が主流になる。この状況ではマージンコールが二倍になり、ネッティングもできないので一時的に必要担保額が増えてしまう。証拠金規制導入時にレガシー取引と新規取引でネッティングセットを分けたような場合は、契約が3つも4つも増えてしまうこともある。カストディアンの業務も煩雑になろう。

LIBOR改革には、レートの変更以外に様々な事務の変更が関係してくるため、今年一年の事務作業は著しく増えることになる。やはり早めの移行準備が肝要である。

LIBOR移行に関するLCHの市中協議

LCHのLIBOR移行プランについての問い合わせが増えてきた。とは言え、現在行われている市中協議の詳細は、自分の知る限り公開されていないと思うので、ここで書くことはできないが、いくつか新聞報道やLCHのコメントから分かっている内容をまとめてみる。

まずは昨日1/15のBloombergの記事によると、本年末を控えたLIBORの公表停止前にLIBORから新レートへの切り替えを行うことについての意見募集と書かれている。この切り替えによって生じた損益はCCPを通じてやり取りするという案になっている。CMEも同様の意見募集を14日の木曜日に始めたとある。

別途Risk.netにも書かれていたが、スワップの切り替えの際に、ISDAプロトコルに基づくFallback Rate RFRに変更されるのではなく、マーケットスタンダードである、標準的RFRスワップに変更するというのが、今回の意見募集の趣旨である。

この二つのスワップを仮にStandard OISとFallback Rate OISと呼ぶことにすると、条件はほぼ同じだが、少しだけ性質が異なる二種類のスワップがCCPに存在してしまう。こうなると、流動性が分断され、参加者破綻時などにオークションを掛ける際も面倒なことになり、リスク管理上も望ましくない。その後のコンプレッションや解約のハードルも上がる。

特にFallback Rate OISは、Fallback発生時には一瞬取引量が増えるが、その後も継続的に取引が行われる可能性は低く、普通に考えればStandard OISにシフトしていくことになる。当然流動性がなくなれば、クローズアウト時のコストも大きくなるため、当初証拠金所要額も上げざるを得ない。

一時的にFallback Rate OISをクリアリングしても良いが、どうせ使われなくなるのであれば、Fallback Rate TONAができた瞬間にStandard TONAに変換してしまえば、二種類のスワップが併存する状況は避けられる。

CCPとしては、なるべく多くの商品を清算してサービス向上を図りたいというニーズもあるだろうが、流動性向上のためにメインの商品に絞ってマーケットスタンダードを作っていくという視点が求められると思う。その意味ではLCHの提案は個人的には賛成である。おそらく市中協議でも市場参加者からの支持が得られるのではないかと思われる。

次期SEC議長候補が市場にもたらすもの

先週Gary Gensler氏が次期SEC議長候補になっているとの報道が相次いだ。ゲンスラー氏と言えば金融業界の方であれば覚えている方も多いと思うが、オバマ政権でCFTC長官を務めたやり手で、ドッド・フランク法導入時に様々な金融規制強化を推進した人物である。

個人的には金融業界の方向を決める際に規制が果たす役割が増えたのは彼の功績?によるところが大きい。バイデン氏と近く、昨年11月から金融規制等に関してアドバイスを行っていたので、今回の報道はそれほど驚きではないものの、前議長が規制緩和を進めてきただけに、今後の流れが一気に変わる可能性がある。

近年はブロックチェーン技術や仮想通貨について大学で講義したりしていたので、ビットコイン等の市場について新しい規制が入ってくるかもしれない。もともとGS出身者で、デリバティブ取引を支持する立場だったのが、金融危機を受けて完全にデリバティブ市場を抑えに行ったことを考えると、仮想通貨市場に同様の規制をかけ始めたとしても不思議ではない。以前見せたようななりふり構わず突進する推進力を見せれば、ビットコイン市場暴落の可能性は捨てきれない。

その他のフォーカスとしては、天候リスクの開示、職場のダイバーシティ等が予想されている。いずれにしても、業務遂行能力が高く、極めて有能な人物であることは間違いないので、そのまま議長に就任すれば、良くも悪くもマーケットに対する影響は大きくなるだろう。