デリバティブ取引のDVAとは

CVAについて書いた以上はDVA(Debt Valuation Adjustments)についても触れざるを得ない。例によって正式な定義というよりは直感的な理解に重点を置く。

企業が銀行にお金を借りると、銀行が企業のリスクを取ることになる。逆に企業が銀行に預金をすると逆になる(預金保険とか細かい点は省略する)。

じゃあその時のローンの金利が3%だったとして、お金を預けてくれたら2%に下げても良いという提案があったとする。その時の値引き分の1%がDVAみたいなものである(預金相殺の実効性などの細かい点は無視)。

カウンターパーティーリスクを考える時、ローンとデリバティブの最大の違いはデリバティブの双方向性、つまりデリバティブの価値がプラスにもマイナスにもなるという点である。ローンの場合は、1億円の借りたのに、いつのまにか市場変動によって1億円貸していたことになってしまったということは通常起きない。

しかしデリバティブの取引の場合は、マーケットが動けばこれが普通に発生する。銀行が潰れないという前提の下ではあまり意味のない議論だが、リーマン破綻によって銀行リスクに注目が集まり、それと同時にCVAの議論が高まったのも興味深い。

あるSwap取引の企業のデフォルト時の期待損失が10で銀行のデフォルト時の期待損失が5だったとすると、

銀行から見た双方向CVA= -10(CVA)+5(DVA)=-5
企業から見た双方向CVA= -5 (CVA) +10 (DVA)=5

となり双方向CVAの価値が符号を逆にして一致する。一物一価の法則が成り立つので理論的にも美しい(一般的にDVAを含まないものを一方向CVA、DVAを含むものを双方向CVAと呼んでいる)。

つまり、自分の企業のデフォルト確率が上がると、DVAが大きくなり、その分が利益として計上できる。自分が潰れそうになると利益が上がるということで、これを計上することに嫌悪感を示す人もいるが、単純にデリバティブの価値は双方の信用力に応じて変化するものなので、理論的には全く問題はない。

自身の信用リスクをデリバティブの時価に反映させるための信用調整、自身がデフォルトすることにより、負担を免れることとなる含み損の期待値、自分がデフォルトするというオプションの価値などと、色々な説明の仕方はあるだろうが、要は当事者双方がリスクを取っているのだから、それをきちんと時価に反映させましょうというものである。

LCHはBREXITを乗り越える

Brexit後にEUの市場参加者がLCHのような英国のCCPに参加できなくなるという恐れがあったが、今年の年末以降も引き続き英国CCPへのアクセスを認めるというアナウンスメントが先週木曜にあった。

EUの市場参加者にとっては朗報ではあるが、ある意味当たり前の結果でもある。いくら英国が離脱したからといって、現時点である意味世界一ともいえるLCHにアクセスできないとなると、それはEUにとっても打撃となる。

とは言え、引き続きあらゆる可能性に備えることを推奨するというコメントも加わっており、引き続き可能であればEUの中でCCPを完結させようという意図も伺われる。これは時限措置としての位置づけだが、今回はいつまでという期限が明示されていない。

今後は英国とEUの規制の同等性が重要になってくる。両国がお互いの規制を同程度の頑健なものと認めればお互いの規制に依拠できるという考え方である。

EUとしてはEurex等のEU域内のCCPへの移行がもっと進むという希望的観測を持っていたのではないだろうか。しかし、一度約定した取引を別のCCPに移すという作業は思ったより難しく、流動性の問題もあるため、CCP間のポジション移管が事実上困難ということが明らかになったとも言えよう。

したがって、例えばLCHが日本の円金利スワップ市場に参入したとしても、急激にJSCCからLCHの移管が進む可能性は低いということなのかもしれない。CCPベーシスが存在する今のマーケットでは、LCHスワップとJSCCスワップは別物になってしまっており、お互いに共存していくということになるものと思われる。円金利スワップの流動性向上のためには、CCPベーシスがなくなるような相互接続を可能にするか、LCHの円金利スワップへの参入を大々的に許容する方が望ましいのではないかと思える。