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TONA FIRST開始

昨日7/30、TONA Firstにより、スワップの気配値提示がTONAベースに切り替えられた。ディーラー間市場の円LIBORの気配値が一斉に停止され、スワップと言えばTONAスワップを指すようになった。というより、このシフトは少し前から始まっていたので、特に昨日に大きな変更があったという感じはしなかった。

JSCCのデータを見てみる。

OIS関連取引の割合は50%に近づき、LIBORの比率が直近数日は3割強となっている。7月に入って完全に流れがOISに移ってきたという感じだ。

この気配値提示の変更の意味するところだが、今後LIBORスワップを行いたいというときは、まずOISスワップを行い、LIBOR/OISのベーシススワップを行うことになる。これまで固定 vs LIBORの一つの取引だったのが2取引に分かれることになる。当然想定元本が増えるので、レバレッジ比率が上がり、資本賦課が上昇してしまう。コストが高いということはLIBORスワップのb/oがワイドになるということを意味する。

そうなるとLIBORスワップを行おうという人は少なくなり、一気に移行が加速すると思っている。

通貨スワップについては9/21というターゲットが全世界的に意識されているが、ヘッジで使う金利スワップがRFRに移り始めると、通貨スワップも早めの移行を進めるところが出てくるかもしれない。

選択権付債券売買取引とは

日本には選択権付債券売買取引というものがある。これは債券のオプション取引なのだが、日本では債券売買の一種として扱われる。JSDAの定義を見ると以下のように書かれている。

「当事者の一方が受渡日を指定できる権利を有する債券売買取引であって、行使期間内に受渡日の指定が行われない場合には、当該債券売買取引の契約が解除されるもの。」

あくまでもオプションとは書かれておらず、債券売買取引とされている。ターバイ(ターゲット・バイイング)やカバコー(カバード・コール)のように、債券売買時の戦略として使われることも多いからだろうか。ターバイは、ここまで価格が下がったから債券を買う、カバコーは、ここまで上がったら利益確定する時には便利である。要するにターバイはプットオプションの売り、カバコーはコールオプションの売りである。

実務上は債券店頭オプション取引、国債店頭オプション取引、あるいは簡単にJGBオプションと呼ばれることが多く、法務部門以外で選択権付債券売買という言葉を使う人は少ない。ほとんどが日本国債を参照する取引だが、地方債や社債にも使える。

基本的にはオプション取引と同様に条件を決めるが、取引期間は最長で1年3か月とされている。オプションであるにもかかわらず債券売買とされているため、社内のシステムや帳簿管理上は通常のオプションと異なる扱いをしている金融機関が多いものと思われる。詳細はJSDAの規則を参照頂きたい。見事にオプションという言葉が使われていないが、選択権という言葉がオプションを表す訳語として使われており、コール、プット、インザマネー、行使期間というオプション用語が並ぶ。契約も別途用意されるのでISDAマスター契約にも含まれない。

売買証拠金の受入れという条項があり、オプションの買い手は担保を取るとされているが、相手方が特定投資家の場合はこれが免除されるので、ほとんどの取引は無担保で行われている。つまり、性質的にはデリバティブ取引でありながら、証拠金規制の対象外となり、無担保取引がほぼ標準のような形で運用されているというのが実態である。期間が限定されているからカウンターパーティーリスクは大きくないのだが、大手金融機関が無担保で取引ができる稀有な、日本独自の商品となっている。

スワップなどのデリバティブ取引と選択権付債券売買取引を行った場合は、契約上のネッティングができないことになってしまうが、選択権付債券売買取引ではなくISDAマスター契約の下で行うBond Optionとして、ネッティングやCSAの対象とすることも可能である。カウンターパーティーリスクが気になる場合はBond OptionとしてISDA/CSAの下で取引をすれば、カウンターパーティーリスク削減が可能になる。

日本は昔から担保を嫌う文化があるのか、当初のレポ取引やこの債券店頭などが無担保で取引されており、現在でも普通に使われている。海外のリスク管理者などからすると無担保でオプション取引をするというと驚かれる。ISDAからこの債券店頭オプションにしてしまえば証拠金規制逃れができるのかと聞かれたこともあるが、別に規制逃れではなく、立派に日本の規制に従った取引である。

とは言っても、バーゼルや各種規制がグローバル化されていく中、例えば、この取引はSA-CCR上どのように取り扱われるのかとか、SDR等への報告はオプションとして報告しないのかとか、疑問は尽きない。そのうちスタンダードのBond Optionにしていく方が本当は望ましいのではないかと思うのだが、実際に使っている投資家からは反対の声が上がるのだろう。

最後に新規取引の取引量(コール、プットの合計)を月次で示しておくが、一時よりは取引量が減ったものの、一定のニーズは継続しているようである。

https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/sentaku/index.html

CCPによる一括変換で発生する特殊なOIS取引

一部で見落とされているようだが、CCPのConversionによってできるOIS取引は厳密には標準OISとは異なっている。以前も紹介したLCHのアナウンスメントには「LCH wish to confirm that we also intend to retain the roll dates & accrual periods of the original LIBOR contract.」と書かれている。

つまり、JPY LIBOR Swapの場合LIBORレグはTONAに変わり、計算期間終了日から2日後に金利支払いが行われる。これを便宜的にT0と表す。LIBORスワップのConventionは固定レグも変動レグもT0である。これをT0/T0と表すと、標準OISは後決めであるためT2/T2となる。

では12月の一括変換によって生じるOISはどうなるかというと、変動金利サイドはT2になるが固定金利サイドはもともとLIBORスワップのConventionを維持するので、固定がT0、変動がT0になる。これをT0/T2と表す。つまり以下のように金利支払日が異なってくる。

  • LIBOR Swap:T0/T0
  • 標準OIS:T2/T2
  • 一括変換によって発生するOIS:T0/T2

また、当然ながらLIBORスワップの金利支払いが半年毎のSA(Semi Annual)だったとしたら、一括変換後のOISも固定金利がSAとなり、変動金利の方はOISの標準Conventionである年一回のPA(Per-Annual)になるものと思われる。つまり、一括変換後のOISは固定金利がSA、変動金利がPA、T0/T2となる。一方新規で標準OISを取引するとPA、PA、T2/T2となる。

  • LIBOR Swap:SA/SA
  • 標準OIS:PA/PA
  • 一括変換によって発生するOIS:SA/PA

このように二つの異なるOIS取引が存在することになるので、通常のコンプレッションでは消せない。ひょっとしたらシステム対応が難しい参加者もいるかもしれない。

これを避けるためには、CCPの一括変換を待つのではなく、何らかの方法で事前に標準OISに変えたいという市場参加者が出てきてもおかしくない。様々な検討を進めているが、意外と詰めなければならない点が数多く出てきている。変換日である12月にはLIBORの流動性が下がって時価評価も困難になっているかもしれないし、オペレーション面で思わぬ混乱が発生する危険性もある。やはり極力事前移行を進めておいた方が良いのだろう。



SFT(Securities Financing Transaction)の基礎

SFTは、Securities Financing Transactionの略で証券金融取引と訳される。主にレポ取引と証券貸借取引からなる。

レポ取引

レポ取引は、簡単に言うと資産と現金の交換だ。海外では法的には売却の形を取るのが一般的であり、日本では現先取引がこれに当たる。現先は後で債券を売戻す(または買戻す)条件付での売買のことを言う。一方貸借取引は、売買ではなく貸借の形を取る。国債等を担保としてのお金を借り、一定期間後にそれを返す取引を言う。貸し借りか売却かの違いはあるものの、両者は経済的には同じものなので、両者を総称してレポ取引ということが多い。証券と証券を交換する取引(Collateral Switch、Collateral Upgrade)や現金担保なしに証券のみを貸し借りする(Unsecured Borrowing)なども行われる。実際売買なのだが、短期的に国債を貸し借りするというイメージの方が分かりやすいので、ここからは便宜的に貸す、借りるという言葉を使う。

お金を借りる時に国債を担保に出すと実はこれはレポとなるので、銀行の短期資金調達にも使われる。銀行では、自分がお金を借りる方向をレポ、お金を貸す方をリバースレポと言ったりもする。中銀が銀行から資金を借り入れるものをリバースレポというのだが、ややこしくなるので、自分が銀行として理解した方が金融機関の人はわかりやすいと思う。


レポ取引は通常、GMRA(Global Master Repurchase Agreement)(英国法)またはMRA(Master Repurchase Agreement)(ニューヨーク法)に基づいて行われる。GMRAはISDAマスターのレポ版である。ISDAマスターと同じようにあらかじめ決められた標準条項と当事者間で合意する付属書で構成されている。また、株式のレポ、代理人が本人に代わって行うレポ、英国債やイタリア国債のような特定の証券レポに関する追加条項等の附属書がある。ISDAと同じように全取引共通の項目はマスター契約であるGMRAに含まれているが、取引日やレートなどの個別取引に関する条項は当然含められないので、こちらはConfirmationで規定される。

レポ市場は、銀行が短期資金調達を行う重要な市場であるが、海外では中銀からの調達がメインとなっている。したがって、中央銀行がレポに関して行う政策変更は重要なマーケットインパクトを持つことも多い。

ストックローン

ストックローンとは株券貸借で、手数料を払って株式を借りる取引である。借り手は、要求に応じて、または決められた日に同等の株式を返却する義務がある。国債、社債など、あらゆる種類の有価証券を使用することができるが、最も一般的なのは株式である。
借り手は貸株料を支払い、現金や他の有価証券、信用状(LC: Letter of Credit)などの担保を提供する。借り手は空売りの決済やフェイルを避けるために株を借りたいというニーズがあり、貸し手は貸借料を受けて取りたいというニーズがある。この点で資金を借りたいというニーズが中心のレポとは若干性質が異なる。

ストックローンは、通常、GMSLA(Global Master Securities Lending Agreement)(英国法)またはMSLA(Master Securities Lending Agreement)(ニューヨーク法)が契約としては使われる。これらも、GMRA と同様マスター契約の一種であり、標準条項と補足条項に分かれている。個別取引の条件がConfirmationに記載されるのもレポと同じである。

SFTとデリバティブ取引

デリバティブ取引はあらゆる取引が作れるため、SFTと同じような取引をデリバティブで行うことは容易である。あるいは、デリバティブ取引のリスクをSFTでヘッジすることも可能である。このため、資本規制等の各種規制はデリバティブ取引とSFTをともにカバーするのが一般的になってきている。特にトータルリターンスワップを使えばレポやストックローンと同じことを経済的に実現することができる。アルケゴス破綻のきっかけとなったトータルリターンスワップであるが、SFTを使うよりトータルリターンスワップの形を取ったため、レバレッジが増やせたと言えるかもしれない。

銀行サイドも株式オプションを売った場合に、そのリスクをストックローンでヘッジすることもできる。実際このようなヘッジをしているデスクもあるだろうが、ヘッジをしているにも関わらずデリバティブ取引とストックローンがネッティングできないため、資本賦課は双方にかかってしまい使い勝手が悪い。デリバティブ取引とSFTのネッティングが可能になれば、市場の効率化に資することになる。

SFTと担保管理

CCPによる清算集中、証拠金規制による当初証拠金、変動証拠金の授受が一般的になるにつれ、適切な担保管理が重要になってきた。各CCPに対する担保拠出、相対取引の証拠金などのニーズが年々高まっている。こうした担保拠出ニーズに対しては、それぞれの契約の適格担保、担保のヘアカットなどを考慮し、在庫として保有している債券、現金、または取引相手方から受け取っている担保を最適化して充てていく必要がある。この巧拙によって資金効率が変わり、収益性にも影響を及ぼす。SLR、LCR、NSFR等の規制制約に照らして、資本コストの最適化も行う必要がある。SFTを使えば、適格担保を調達したり、余った担保を貸し出して運用することが可能になる。


複数商品をカバーするマスターネッティング契約の行方

ISDAで複数商品のネッティングを可能にするマスター契約を検討するワーキンググループが立ち上がった。従来のデリバティブ取引にレポや証券貸借取引を加えてネッティングを可能にする契約を検討するとのことである。コンセプトとしては特に新しいものではなく、古くから各金融機関で独自契約で同じことを実現する契約は存在していたと認識している。昨年にはISDAからホワイトペーパーも出されている。

日本においても、昔から円金利スワップとレポ取引を同時に行った時に、リスクがオフセットするのだから当初証拠金を引き下げてほしいという要望は、特にヘッジファンドを中心に頻繁に聞かれたが、オフセットするとしてもネッティングができない以上別々に当初証拠金を徴求するのが常だった。だが、CCPにおいては、国債先物と金利スワップのクロスマージンがJSCCでも行われ、海外CCPでも同様のクロスマージンは一般的となっている。

これが可能になると、マージンコールが一本化され、オペレーション、資本賦課においてコスト削減が実現できる。Risk.netの記事では、契約が複雑でニーズも少ないことから懐疑的な意見も紹介されている。確かにニーズは少ないのかもしれないが、先述したようなレポと金利スワップについては一定のニーズがあるものと思われる。Equity Swapと株券貸借取引等においても同様である。

ISDAの他、ICMA(International Capital Market Association)、ISLA(International Securities Lending Association)とそれぞれの業界団体の強力が必要になる。クローズアウトネッティングの法的有効性、各国法制との整合性等、かなりの分析が必要になるのも確かである。

ISDAからは、既存のISDAマスター契約にSFT(レポや株式貸借のような証券金融取引)のDefinitionを追加するという案が出されている。これによってISDA Createによる契約交渉が可能になる。契約交渉が複雑になることを恐れてか、否定的な意見が目立つようだが、個人的にはレポとデリバティブのネッティングは長年議論されているため、個社レベルでは一定の分析も終わっているところが多いと思う。既にこれを実現しているEMA(European Master Agreement)の例も応用できる。

確かにForce Majeureのようなコンセプト、クローズアウトまでの猶予期間の違い等、様々な違いが存在するのは確かだが、金融取引としては同じ性質を持っているので、これを機に極力統一かしていってはどうだろうか。資本規制、会計規則、当局承認等も極力スタンダードなものにしていった方が金融業界全体のためになると思う。

その意味ではシングルネームのCDSはSEC、インデックスCDSはCFTCのような重複も避けるべきなので、当局の統合が必要だろうし、業界団体の統合も起きるのかもしれない。システムも別々に開発する必要がなくなるため、複数商品をカバーできるものにしていかなければならない。契約交渉担当やシステム部門の統合まで議論の俎上に上るだろう。

システムも複数商品をカバーできるものにしていかなければならないだろうし、少なくとも、マスター契約の情報は各商品のシステムに流れていかなければならない。どうしてもこうなると人の職がかかってくるので一筋縄では行かないが、これは各企業で起きていることと同じである。

つくづく今後の金融にとってサイロは極力少ない方が良いと思う。政治闘争を続けている会社はすぐに環境変化についていけなくなるだろう。サイロは一度作ってしまうと、よほどの外圧がない限り自ら統合しようというインセンティブが働きにくい。誰も自分のポジションを無くすようには動かないし、自分の部署を他と統合したいというマネジメントも少ない。

このクロスプロダクトネッティングの実現には、技術的な問題よりも、こうしたサイロメンタリティが最大の障害になってくるのではないだろうか。

OISがLIBORを逆転

ここのところJSCCのデータを日々確認してきたのだが、本日7/15ついにOIS関連取引がLIBORを逆転した。間違いがあるといけないので時間のある週末にでも確認したいと思うが、何とOIS関連が56%となり、LIBOR関連がたったの21%となっている。二日前にもTIBORが増えてLIBORの比率が4割を切ったのでいよいよかと思っていたのだが、OISが半分を超えたというのは一大ニュースである。このまま円のLIBOR改革は加速していくのだろうか。こうなるとこの後は意外と早いかもしれない。

LIBORベースのUSDJPY通貨スワップが終わる日

SOFR First等金利スワップのLIBOR移行は順調に進んでいるが、通貨スワップはどうなるのかという質問が多い。当初はUSD LIBORの新規IRSが停止となる7月から通貨スワップについても同様というガイドラインもあったが、マーケットの状況から、実際にこれは困難となっている。

英国の検討体からは2/Q3というタイムラインが示され、FSBからも同様のコメントが出ていたことから、おそらく9月以降だろうという意見が強くなっている。

恥ずかしながら気づいていなかったのだが、CFTCのMRAC(Market Risk Advisory Committee)のSOFR Firstの推奨ペーパーを見ると、Expected Timingという但し書き付だが、9/21が移行の日と書かれている。CHF、GBP、JPYとUSDの通貨ペアが対象となっている。

この文書によると、これまでアナウンスされていた通り、線形商品が7/26にQuoting Convention変更を行うことになっている。そして10/22にはインターディーラーのBroker Screenが使えなくなる。第二ステップは通貨スワップ、第三ステップがスワップション、Cap、Floorなどの非線形商品となっている。第三ステップについては日程が示されておらず、SubcommiteeでConfirmされる予定となっている。そして第四ステップがExchange Traded Derivativesその他となっている。こちらも日程は未確定である。

若干思っていたより通貨スワップが早いという印象だ。9月21日以降、新規のドル円の通貨スワップがRFRにすべて移行するのだろうか。動き出したら早いので意外と問題ないのかもしれないが、現時点だと若干Agressiveに感じてしまう。とは言え足下の移行は進み始めているので、引き続き移行努力を継続するしかないのだろう。

Back to Back取引とポジションの集中管理が重要になってきた

ECBが今般市中協議を行っているoptions and discretions policiesの修正が、Brexit後の金融機関の内部取引慣行に変化をもたらすことが懸念されている。焦点は、金融システミックリスクを防ぐために設けられたLarge Exposure Limitの対象から内部取引を外すかどうかだ。

Brexit後の激変緩和措置として、英国法人とEU法人の間でリスク移転のための内部取引を行ったとしても、これまではリミットの対象外だったが、この免除措置を巡って議論が続いているようだ。ECBが英国締め出しのためにこのような変更を画策しているかどうかは定かではないが、内部取引がリミットの対象になると、英国法人とEU法人との間の取引が困難になり、事実上英国が締め出されることになってしまう。

EUの資本規制であるCRR IIの下では、一取引先に対するエクスポージャーは、ティア1資本の25%内にすべきとされている。またG-Sibs同士では15%がリミットだ。ケースバイケースでの免除も可能となっているため、急に取引が止められる可能性は低いと思われるが、いつでもその準備があるということは、EUが交渉上一枚カードを握ったことになる。そしてその裁量権はかなり大きい。こうなるとロンドンからリスク管理を行っている場合は、それをEUに移す検討を始める必要があるかもしれない。

特にリスクの少ないCCPとの取引や、当初証拠金を取った上で行っている有担保取引などは、厳格なリスク管理を行っているという理由で免除が継続される可能性が高くなる。問題は無担保で行っているデリバティブや、流動性の少ない長期のインフレスワップ等ではないだろうか。

リスク移転を行う内部取引はBack to Back Swapとも呼ばれ、金融機関のリスク管理の中心となっている。例えば日本法人が日本の顧客とGBP IRSを行った場合は、裏で日本法人と英国法人との間でBack to Back Swapを入れることにより、日本法人はGBPの金利リスクから解放される。

そして世界中から集められたGBP金利のリスクはマザーマーケットである英国で管理される。日本法人にはクレジットリスク、カウンターパーティーリスクは残るもののマーケットリスクは存在せず、市場リスク資本もかからない。カウンターパーティーリスクを移転することも可能である。

メリットはこれだけにとどまらない。様々なトレーダー、部署が行った取引をBack to Backによって集約すると、コンプレッションや当初証拠金の最適化、資本の最適化までが容易に行えるようになる。Back to Back Swapは、今や金融機関のリソース管理の中心となっている。ポジション集約が効率的に行われているからLIBOR改革やCSA変更などを行う際にも話が早い。

翻って本邦では、海外エクスポージャーが少ないというのもあるが、一部の先進行を除いて、あまりこうしたことは行われていないようである。したがって、部署が異なるとそのポジションには触ることすらできなくなり、同じネッティングセットの中にあるにもかかわらず、全体最適を考えるのが困難になる。人の部署のポジションには触れないし、中央で管理する部門もない。あったとしても現場に気を使うためか、アクティブなポジション管理は難しい。海外とのBack to Backまでは必要ないかもしれないが、あらゆる部署のポジションの全体最適を考える部門は必須である。

昨今の資本規制、流動性規制強化の流れの中で、こうしたポジション管理はますますその重要性を増していく。これを変えるだけで英国とEUの金融規制が大きく影響を受けるようにすらなっている。日本でも、高度なポジションの集中管理を進めないと世界から取り残されてしまうことが懸念される。

OISへの移行状況アップデート

引き続きLIBOR移行状況を追ってみる。JSCCの統計データによると、LIBOR関連取引の割合は徐々に減少し、5から6割程度の日が増えてきた。7月1日から始まったOIS取引へのシフトも、加速はしていないものの一定程度みられる。一時的にTIBORからOISのシフトの様相を呈していたが、引き続きTIBOR関連取引もみられる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

LCHがTIBORスワップをクリアリングしていないという点と、TIBORの適格清算取引はZTIBORが30年、DTIBORが20年までという点にも注意が必要である。ちなみにOISは40年まで清算可能である。したがって、TIBORがJSCCに集中することからTIBOR取引のシェアが実態より高く感じるかもしれない(JSCCの適格商品はJSCCのWebを参照)。

また、20年超のDTIBORがクリアリングされていないことから、長期TIBORの取引量が実態より少なく見えているかもしれない。または、30年のDTIBORスワップがクリアリングできないのでZTIBORでクリアリングして、30年のDZベーシスが溜まっているという可能性もある。この辺りは将来的にDTIBORの適格対象年限が拡大されるときには何らかの影響があるかもしれない。

Clarusの分析を見ても、DV01ベースでみると、TIBOR取引の50%以上が長期となっている。確かにJSCCのデータを確認してみるとLIBORよりはTIBORの方が長期の割合が多い。

TIBORはLIBORとは異なり今後も存続するベンチマークであるため、DとZがどのように一本化されているかも含めて興味深いマーケットである。ただデリバティブマーケットを見ている限り、ディーラー間取引の主流はOISに移る気配があり、月末のQuoting Convention変更に向けて、更に移行が加速していくことになるだろう。

一部監査法人の問題なのかもしれないが、ヘッジ会計の継続を巡ってOISに移れないという声が一部で聞かれるが、さすがにLIBOR公表停止まで半年を切った今、そんなことも言っていられなくなる。そうなるとTIBORは10%程度で残りはOISということになっていくのだろう。

金融のIT産業化

電子取引、アルゴ取引の増加に伴い、為替マーケットにおける大手銀行の寡占が進んでいると報道されている。おそらく感染拡大による影響もあるのだろうが、この流れは引き続き進むものと予想される。2020年には、JPM、UBS、DBのトップ3で30%のマーケットシェアを占めたとのことだ。

電子取引やアルゴリズム取引への投資は不可欠となり、その巧拙が金融機関の収益を左右するようになっている。やはりこの分野でも欧米の銀行が先行している。金融については日本はやはり追いつけないのか。やはりシステムの弱さが世界的に際立っているような気がする。

金融取引では、コスト管理と効率性が求められるが、人海戦術でミスをなくす戦略を続けてきた銀行には太刀打ちできない。また、国内のシステム会社も海外に比べると格段に弱い。インドやハンガリー、中国といった国々の優秀なエンジニアの使い方が上手くないというのも関係しているのかもしれない。

20年以上前に米国で過ごした時期に、銀行通帳に頻繁に誤りがあり、日本の銀行の優秀さを改めて実感したのだが、そのミスをなくすために徹底的に人間がチェックをしていたのだろう。米国ではミスを指摘されたら直せばよい、99%正しければ十分で、最後の1%を向上させるために膨大なコストがかかるなら、費用対効果に見合わないという考え方だった。

日本なら1%のミスをなくすために極限まで努力をしろという文化があったように思う。顧客サイドにも間違いを許さない文化が日本にはある。そうこうしているうちにテクノロジーが進歩して、ミスを機械的に防ぐ方法が進歩しており、日本は完全に後れを取ってしまった。

昨年3月には、パンデミックによってボラティリティーが上昇し、Bid/Offerが金融危機以来の水準まで拡大し、金融機関に収益をもたらすこととなった。マシンが動いていれば収益が上がるということで、金融が完全にIT産業化している。株式や為替で始まったこの流れは、債券市場にも波及しており、コロナ感染拡大はこれに拍車をかけた形になっている。

記事にもあるように、銀行はアルゴリズム取引に多額の投資を行っており、変動する市場の状況に応じて取引スタイルを自動的に変更するようなAdaptive Algoも登場した。2020年には、為替トレーダーの4割以上がアルゴ取引を使っており、今後はこの比率の上昇が見込まれる。やはり日本には、金融のみならずテクノロジー企業の進歩が不可欠である。

SPAN2とは

本年2021年には米国CMEのマージンモデルの変更が控えている。これまで長年業界標準として使われてきたSPANモデルの改良版となる。SPANは30年以上前の1988年にCMEで開発された証拠金計算モデルであり、日本のJSCCを含む世界30以上のCCPで使われている。

近年は先物の種類が増えるとともに、清算集中規制によって、CCPで取り扱うOTC取引も増加した。商品の複雑化、資本賦課等のへ間もあり、単一の商品だけではなく、ポートフォリオベースのリスク管理も重要となってきた。SPAN2の概要はCMEのWebsiteで詳細が説明されているが、ここでは簡単に概要を紹介する。

SPAN2の特徴

リスクの変化に応じて証拠金がダイナミックに変動する

先物、オプション、OTCスワップなど複数の商品を統一の手法によってカバー

リスクファクターについての透明性を向上

将来のポートフォリオの複雑化に対応する柔軟性

季節性、オプションリスク、ポジション整理・集中リスクへの対応

SPAN2の構成要素

  1. マーケットリスク
    十分な期間をカバーするヒストリカルVaR
    必要に応じてボラティリティや相関を調整
    季節性を考慮
    Skewなどのリスクファクターを含むVol Surfaceデータを利用
  2. ストレスリスク
    Event-Driven Stress VaR(十分な期間のヒストリカルVaRを計算するとともに、Brexitなどの実際に起きたイベントを追加することもできる)
    Hypothetical Stress VaR(実際には起きていないが、起きる可能性のある架空のシナリオを考慮)
  3. 流動性リスク
    ポートフォリオベースで、デフォルト時の清算に要するコストを考慮
  4. 集中リスク
    リスクの集中した大規模ポートフォリオの清算に要する追加コストを考慮
  5. リスク相殺
    従来のSPAN1と新SPAN2のリスク相殺

従前は無担保取引からリスクが発生することが多かったが、証拠金規制や清算集中規制の導入によって、リスク管理のメインストリームが、マージンリスクの管理へと移ってきた。2018年のNasdaqのコモディティクリアリングにおけるEinar Aasの損失や今年2021年3月に起きたアルケゴスの破綻はこうした傾向をさらに強めている。

日本では伝統的にリスク管理と言えばクレジットリスク管理が中心であり、顧客企業の財務分析を行って信用枠を設定するという伝統的な与信管理が主だった。デリバティブ取引については、マーケットリスク管理が一部では行われてきたが、日本の金融が銀行中心なためか、海外に比べてExpertが少ない気がする。

特に海外ファンドのリスク管理に長けた人材が枯渇している。アルケゴスのようなファミリーオフィスやヘッジファンドとの取引においては、相手を知ることはもちろん重要だが、いかにポジションを管理し、清算時の流動性リスクや集中リスクを管理し、十分な証拠金を確保することが最重要課題となる。その意味で、SPAN2モデルのような証拠金モデルについて、もう少し興味が集まるようになっても良いと思う。

英国が金融規制をリードする

英国の金融規制がEU規制のMiFID IIとは一線を画す形になりそうだ。財務省のSunak氏からEUとは異なる英国独自の金融規制を進める旨の発言が出されている。同時に英財務省からはBrexit後のシティのビジョンを示した「A New Chapter for Financial Services」と題した文書が公表されている。投資を呼び込むために中国、インド、ブラジルなどと金融サービス協定を結ぶとしている。

確かにMiFID IIは金融業界でも評判が悪く、まだ米国Dodd Frankの方が評価が高い。金融ビジネスは規制によってかなり大きく変化するので、英国が金融規制をオープンでグローバルなものにできれば、Brexit後に失いかけた地位を取り戻すことができるかもしれない。LIBOR改革で見せたように、英国当局は金融に精通した人材が多く、欧州当局よりレベルが高いように思う。ソルベンシーIIの見直しも表明していることから銀行のみならず保険会社についてもインパクトがある。

しかし一方で、欧州規制等の同等性を得られる可能性は低くなった。欧州と英国で異なる規制環境の中でビジネスが行われるということは効率性の観点からは望ましくない。これまでは同等性を根拠にグローバルな金融取引が成り立ってきたが、金融機関側としては異なる規制対応プログラムを策定する必要がある。

とは言うものの、Brexit後に欧州にビジネスが移る危機感もあり、英国がこの問題に本腰を入れたというのは大きいと思う。単にマーケットを締め付けるだけでなく、市場参加者の意見を反映させたうえで新しい形の金融規制が生まれるかもしれない。そこに魅力を感じてロンドンが国際金融都市として栄えれば、欧州サイドにも規制見直しの機運が生まれるだろう。そしてこれは米国や日本にも影響を及ぼすことになる。コロナであらゆるビジネスが変化したのと同様に、Brexitによって、こうした変革が加速しているという見方もできる。

結局通常は変化を嫌うのが人類の常なので、天災、疫病、戦争、金融危機等のようなイベントによって、それまで変わらなかったものが変化していくのかもしれない。

OISが増えた日2

昨日に続いてOISへのシフトが続いている。昨日は取引数でみたが、今日は想定元本で見てみる。本日7/2のJSCCのスワップにおけるOISの割合は38%でこれまでの最高となっている。昨日は取引件数でOIS関連取引が20%を超えたが、取引量では13%だった。これが今日は一気に38%に上昇した。どうやらこの流れは本物のようだ。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei.html

7/1からはUSD IRSについて新規取引を控えるようにというのがARRCのガイドラインだが、これと日を同じくしてOISへの移行に火が付いたことになる。USDについては、SOFRの流動性が上がってこないことから未だLIBORの取引が多いように見える。同時に通貨スワップについてもLIBOR取引が継続している。

ただ、6s/3s等を含むLIBOR関連取引が60%程度なので、TIBORからOISへの移行と言えなくもない。ようやくTIBORではなくOISがデリバティブの主流ということがデータに表れてきた格好だ。来週以降の移行状況にも引き続き注目したい。

OISが増えた日

JSCCのデータを日々眺めているのだが、今日は突然OISが増えている。件数の方に大きな影響があるようなので、今回は取引件数でいつものグラフを作ってみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

これまで全体の数パーセントだったOISの割合が突然20%を超えた。LIBOR関連取引も70%となった。TIBORとOISの割合が逆転しているのも特徴的だ。これはConversion等による一時的なものなのか、それともようやく流れが変わったのか、今月は市場動向から目が離せない。

また、6/23には、Tradewebからのツイートで、TONA/LIBORスイッチ取引の初約定が公開されている。JSCC以外にもこうしたベンダー経由のConversionができるとなると、今後こうした流れが加速していくものと思われる。おそらく他のベンダーも追随してくるだろう。

だがこうなるとCCPで変換する取引が減ってしまい、CCPとしてはConversion時の手数料収入が減ってしまうのだろうか。全体のボリュームからすると微々たるものなのかもしれないが。

円については初とのことだが、海外ではこうした変換も進んでいるようである。日本では海外ほど当局のPushがないためか早期コンバージョンを進める市場参加者が少ないが、安いコストでかつ簡単にコンバージョンができるのであれば、こうしたベンダーコンバージョンも良いのかもしれない。

LIBOR後の清算集中規制

CFTCコミッショナーのStump氏が海外CCPへのアクセスについてコメントを発信し続けている。LIBORがなくなったらCFTCのすべての清算集中規制は書き換えられるべき。だが、清算集中義務を課す一方で、規制対応のために、流動性を提供するCCPに米国参加者がアクセスするのを禁じるというのはおかしい。という趣旨の発言をしたとRisk.netで報じられている。

確かにBlackRockやVanguardといった米国のアセマネがJSCCにアクセスできないというのは昔からあった議論だが、これまではCFTCサイドが米国の顧客保護のためにこれを禁じていた。昨年法案が最終化したばかりなのですぐにこれが可能になるかどうかは不明だが、ここまで何度もコメントを出しているところを見ると、よっぽど大きな課題として認識しているのだろう。

確かに清算集中規制は今後修正されていくのだろうが、日本ではあまり議論が盛り上がっていない。12月にLCHなどのCCPは一括でLIBOR
から標準TONAスワップへの変換を行うが、その後はLIBOR Swapの清算集中はできない。現在の規制上はCCPが清算しないスワップは清算しなくても良いということなので、LIBORスワップを行ったとしても清算集中義務はなくなる。当然後継金利であるTONAに清算集中義務がかかることになると思われるのだが、その時期は明らかではない。

英国中銀からは12月6日以降JPY LIBOR Swapの清算集中義務がなくなる内容の市中協議文書が公開された。ただ、足下でTIBORへのシフトが進んでいるためか、その後規制がかかる後継レートは指定していない。TIBORになる可能性でも意識しているのだろうか。CFTCも同じようなルール改定を行うだろうが、現時点ではまだアナウンスはない。本来なら日本円スワップなのだから、日本がルールを決めてそれに海外が合わせるという順序が自然なのだが…

実取引データに基づかないベンチマーク、流動性に難のあるベンチマークを使うことに対する懸念が海外では強くなっている。これがAmeriborやBSBY、ターム物金利などに対する懸念にもつながっている。日本でも、OISの流動性が上がらないためターム物であるTORFを使うことに対して懸念をする声も聞かれるが、なぜかTIBORに対する批判はない。ベンチマーク規制上の要件をクリアしているというだけならBSBY等も同じで、BSBYはダメでTIBORは問題ないというのは不思議な気がする。

CFTCの話に戻ると、JSCCに参加をしたいという米国の市場参加者に対して、顧客保護のため参加できない仕組みを作るというのも理解しがたい。本人がリスクを承知で使いたいといっているのに、あなたのためを思って禁じているのですというのも不思議だ。確かに海外ETF等を投資家が買いたいと思っても日本で許可されているものでないと投資ができないようにしているのと同じなのかもしれない。こと金融に関してはこうした七不思議のようなものが多い。

LIBOR移行状況

ここからはLIBORからの移行が加速していくはずなので、2週間前に作成したグラフをUpdateしてみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

JSCCでクリアリングされた取引のみになるが、あまり前回と変わり映えがない。取引量が低調というのもあるのかもしれないが、この期間のLIBOR関連スワップの割合は67%となっている。TIBOR関連が22%でOISは11%という結果で、前回よりOISが減っておりTIBORが2割を超えている。

ただ、ISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorの推移をみると5月になって明確な上昇トレンドが確認できる。RFRの割合が6.8%というのは過去最高であり、GBPの54.9%には遠く及ばないもののUSDの6.9%と同じくらいになっている。

https://rfr.clarusft.com/

また、FCAが市中協議で意見募集を始めたが、シンセティックLIBORのベースとなるSONIAのターム物についてRifinitivではなくIBA(ICE Benchmark Administration)を選び、QUICKのTORFについても言及している。USDのターム物ではCMEが選ばれたが、GBPにおいてはIBAが面目を保った形になっている。

さて、JPY LIBORに話を戻すと、次はFSBのロードマップのP5にもあるように7/31のQuoting Conventionの変更がある。USDも7/26に同様の変更が行われるが、海外では、LIBORスワップを行うときは、まずはSOFR Swapを行い、LIBOR vs SOFRのベーシススワップを入れるという方向で話が進んでいる。ただし、円については何故かここまで具体的な話は聞かれてこない。ひょっとして日本では、特に気にせずLIBORスワップが続けられることになるのだろうか。

確かに二つのスワップをしなければならないとなると資本賦課も上がり、管理も面倒なので自然とOISに移っていくことになるが、これが変わらないのなら、逆にOISスワップをするときにLIBORスワップとLIBOR vs OISの二つのスワップをブックしなければならないとなると、移行のきっかけにもならないのではないか。単に二つのレートのスクリーンがありますよ。でもOISがメインですよ。という緩い感じのConvention Changeではあまり意味がないような気が個人的にするのだが。。。

CMEのSPAN2の導入時期が近付いてきた

長らく間議論されてきたCMEの証拠金モデルの変更が今年第四四半期になりそうだ。COVIDによって先延ばしになってきた変更がようやく導入されることになる。SPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)は1988年から証拠金計算に使われており、日本でもJSCCとCMEの間でライセンス契約が結ばれ、先物・オプション取引の証拠金所要額計算にも使われている。世界で32の取引所で採用されている手法なので、日本を含めて世界中にインパクトを与える。

新しい計算手法はSPAN2と呼ばれ、シナリオベースのSPAN1と異なり、ヒストリカルデータを使ったVaRタイプのモデルとなっている。市場リスク、ストレスリスク、流動性・集中リスクの3つの部分に分かれており、ローリング・ルックバック期間に基づいている。AnchorモデルかRolling Lookbackモデルかはよく議論になるが、Anchorモデルの場合は例えば金融危機の時期を含むように2008年からといった形で過去データを固定する。

Rolling Lookbackは常に過去何年かといった期間をずらしていくので、極端な市場変動の時期が外れてしまうと証拠金額が大きくぶれてしまう。こうしたブレを緩和するために、一定のフロアを設けたり、ボラティリティを調整することによって、極端な変動が発生しないようにしている。商品によっては季節性を考慮したりもする。仮想シナリオを含めるのも良く使われる方法だ。

16のシナリオに基づくSPAN1に比べ、ポートフォリオ全体の動きを包括的に考慮するため、同じネッティング契約のもとに入っている取引については、ある程度のオフセットが見込まれるのではないかと予想される。パラレルテストは既に始まっているが、概ね好評との報道が多いため、当局承認を経て実際に導入されることになるのだろう。

アルケゴスの損失により、各金融機関ともMargined Riskの管理方法については、活発な議論がされていると思われるが、このSPANもリスク管理手法の進化に重要な役割を果たすことになるだろう。無担保取引が多かった頃は企業分析、ヘッジ等がリスク管理上重要だったが、有担保取引や取引所取引が中心になってくると、こうした証拠金計算手法がリスク管理の中心になってくるものと思われる。

米短期市場の資金の流れ

昨日米短期市場についてコメントしたが、もう少しデータも含めてみてみたい。今年3月にSLR(補完的レバレッジ比率)の一時緩和が延長されなかったことにより、JPMやCitiといった米銀大手が事業会社と預金を減らすよう話をしているという報道があったが、行き場を失ったその資金はMMFに流れた。お金を借りたいという会社が多ければ資金があるのはありがたいのだが、資金ニーズがないため、現在の資本規制下では、預金増は収益性低下につながってしまう。MMFに流れ込んだ資金は以下のように昨年以降急増している。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/

FRBはQEによって資産購入を続けているが、融資が増えない以上資産を売って現金をもらうインセンティブが銀行にはなくなる。米国債とFRBの準備預金がレバレッジ比率の計算から一時的に除外されていた時は良かったが、この期限が切れた今となっては預金増は重荷になってしまう。MMFに移してもらえば資産運用となるためSLRの計算には含まれない。

米銀大手3行の預金額は、2019年末から2020年末までに約3兆ドルから約4兆ドルへと増えたが、ローンの方は2兆ドル程度で一定である。優先株の発行等によりティア1資本を増やしてSLRの改善に努めてはいるものの、今年の第一四半期にも預金は約2500億ドル増えているため、預金は銀行経営の重しでしかなくなってきた。

企業はMMFに資金を移し、MMFは結局短期国債であるT-Billに投資をすることになるが、このT-billの発行額が減少している。となるとお金の行き場がなくなってしまったため、FRBはRRP(リバースレポプログラム)によって国債を市場に提供した。6月のデータはまだないが、このRRPの利用額を国債に絞ってグラフにしてみると以下のようになる。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/federal-reserve-repo-facility-total-utilization-and-mmfs-participation/

2017年くらいにもRRPが使われていたが最近はほとんど利用がなかった。それが一気に4月に3500億ドルを超えてきている。国債のみかどうか定かではないが、報道によるとこれが直近7500億ドルを超えてきた。

こうして改めてデータを見てみると、かなりマーケットの流れが変わってきているのを改めて実感した。やはりSLRの見直しは急務のように思える。

米短期市場の混乱の始まり

FRBの利上げ前倒し方針を受けてマーケットがきな臭くなってきた。6/17から、IOER(超過準備の付利)とリバースレポの金利を0%から0.05%に上げたことにより、突然過去最高水準となる7500億ドルを超える資金が、RRP(Reverse Repo Program)を通じて約70社の市場参加者から流入した。お金の行き場に困っていたMMF、政府系企業、銀行が、現金をFRBに預けた格好だ。春先までほとんど使われていなかったこのRRPの金額がここまで急増するのは異例だ。

数か月前からこの資金流入は続いており、1日当たり5000億ドル程度にはなっていたが、今後もこの増加傾向は続きそうで、近いうちに1兆ドルを超えるだろうという声も聞かれる。つい最近までほとんど利用がなかったものがここまで急増したというのは、少し神経質になるべきなのかもしれない。ここ10年くらいのグラフを見ても明らかにこの動きは目立つ。

リバースレポなので米国債を担保に資金を得る方向なので、現金が余り過ぎているか、担保債となる米国債が足りないという理由が考えられる。2月から短期国債の供給が減っているのも影響しているのだろうが、やはりお金があまり過ぎているのだろう。2019年9月にレポレートが急騰してFRBが資金供給を行った時とは反対の流れになっている。

実行FF金利が過去最低水準になっていたため、利上げを想定する声は多かったが、これを受けてFF金利は0.10%まで上昇した。0%から0.25%の範囲に誘導するためなので、パウエル議長は狙い通りとコメントしているようだが、マーケットの現場では明らかに混乱がみられる。

FRBは月間1200億ドルの資産購入プログラムを継続しており、金余りが続いているため、どこかに資金の置き場が必要になっている。銀行融資も実は昨年後半からは増えておらず、企業の資金調達ニーズも減退している。完全に金余りである。コロナショック直後は有事に備えるためかローンが一時的に増加し、企業在庫も増えていたが、昨年からそれは解消され運転資金の必要性もなくなってきた。

ワクチン接種が進み経済活動が再開されれば消費が増え、生産も復活するという見込みだったのだろうが、実はコロナ前には完全に戻らず、消費増が生産増に結び付かないのではないかという懸念も出始めている。確かにリモートで何でもできるということも明らかになり、完全に元に戻るといよりは、ロックダウン時に起きた変化が一定程度継続する可能性は高いだろう。これだけ資金が余っているのなら債券購入プログラムを止めるというのが普通の考え方だが、FRBはそのインパクトにも神経をとがらせているのだろう。

今回は単にリバースレポの金利を0.05%引き上げただけと言ってはそれまでだが、FRBが短期の金利がマイナスになるのを極度に恐れていることの裏返しなのかもしれない。誰もが安全と思っていたMMFの危機につながるかもしれないのである。SLRの一時的緩和を延長しなかったのも事態を悪化させた。

実際の生産活動に比して資金が多すぎると、その調整はインフレに表れてくるはずである。足元のインフレ加速は一時的なものとパウエル議長はコメントしているが、これが続けば緩和修正が早まる可能性があり、その時に株式市場の暴落が始まってもおかしくない。しばらくは短期市場の行方にも注目したい。

LIBOR取引に対するペナルティチャージがかかり始める

CCPで清算された取引について、12月にLIBORからOISへの一括変換作業が行われるが、当局のガイダンスにもある通り、事前に変換が行われることが望ましい。LCHでは、ペナルティという言い方はしていないものの、残ってしまっているLIBOR Swapに実質的には手数料をかけることになっている。大分前から話は出ていたので、事前変換はMUSTだと思っていたのだが、関係者と話をしてみると、このフィーに気づいていない人が多いようで気になった。

詳細はLCHのWebサイトを参照頂きたいが、フォールバックフィーとコンバージョンフィーという二つの手数料によって早期移行を促す仕組みとなっている。フォールバックフィーは、残存LIBOR Swapにかかるもので、コンバージョンフィーは12月の一括変換時にかかるフィーである。

フォールバックフィーは、LIBOR Swapの件数によってチャージされるが、重要なのはこれが毎月取られるという点である。18か月の延長のあったUSD LIBORは除外されているが、JPY、GBP、EUR、CHFについては9月末から一件5ポンドのフィーが取られる。

日本では、面倒なので最後まで待とうという声も聞かれるが、12月に変換作業を行うスワップが多いとオペレーションリスクがあるうえ、こうしたフィーによる収益インパクトもある。CCPで清算された取引については、コンプレッション/Risk Transformationがメインの削減方法になるので、来月以降できるだけ多くの参加者がTriOptimaとQuantileのRunに参加し、Risk Torelenceを上げてLIBOR取引の削減に努める必要がある。

ちなみにこの手数料は直接参加者である銀行のみならずクライアントクリアリングのポジションにも適用される。12月に適用されるコンバージョンフィーについてはまだ開示されていないものと思われるが、早期コンバージョンのインセンティブ付のために、高い水準に設定されたとしても不思議ではない。

LCHがこうしたフィーを導入しているということはJSCCなど他のCCPが追随したとしても不思議ではない。コンプレッションの参加者は特に日本では限定的かもしれないが、今後はこうしたコンプレッションRunに積極的に参加することも重要になる。まずはLIBOR Swapの件数を調べてコストを計算してみるべきだ。わずかなbid offerやブローカーコストに注意を払うトレーダーが、単に手間だからと言ってコンプレッションに参加しないというのは本末転倒である。いや。トレーダーというよりは、資本、ファンディング、証拠金、クリアリングにかかるコストに対して注意を払う部門が必要なのかもしれない。

システム的、オペレーション的に手作業が多く消極的な参加者も多いようだが、海外ではほぼ自動化が進み、通用作業の一つになっている。こうした点でも後れを取らないようにしないと、証拠金負担、資本賦課によって収益性、ROEにおいても海外に後れを取ることになる。これに気づいているクライアントクリアリングの参加者は少ないのではないかと思うが、顧客サイドも早めに準備をした方が良いのではないだろうか。