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選択権付債券売買取引とは

日本には選択権付債券売買取引というものがある。これは債券のオプション取引なのだが、日本では債券売買の一種として扱われる。JSDAの定義を見ると以下のように書かれている。

「当事者の一方が受渡日を指定できる権利を有する債券売買取引であって、行使期間内に受渡日の指定が行われない場合には、当該債券売買取引の契約が解除されるもの。」

あくまでもオプションとは書かれておらず、債券売買取引とされている。ターバイ(ターゲット・バイイング)やカバコー(カバード・コール)のように、債券売買時の戦略として使われることも多いからだろうか。ターバイは、ここまで価格が下がったから債券を買う、カバコーは、ここまで上がったら利益確定する時には便利である。要するにターバイはプットオプションの売り、カバコーはコールオプションの売りである。

実務上は債券店頭オプション取引、国債店頭オプション取引、あるいは簡単にJGBオプションと呼ばれることが多く、法務部門以外で選択権付債券売買という言葉を使う人は少ない。ほとんどが日本国債を参照する取引だが、地方債や社債にも使える。

基本的にはオプション取引と同様に条件を決めるが、取引期間は最長で1年3か月とされている。オプションであるにもかかわらず債券売買とされているため、社内のシステムや帳簿管理上は通常のオプションと異なる扱いをしている金融機関が多いものと思われる。詳細はJSDAの規則を参照頂きたい。見事にオプションという言葉が使われていないが、選択権という言葉がオプションを表す訳語として使われており、コール、プット、インザマネー、行使期間というオプション用語が並ぶ。契約も別途用意されるのでISDAマスター契約にも含まれない。

売買証拠金の受入れという条項があり、オプションの買い手は担保を取るとされているが、相手方が特定投資家の場合はこれが免除されるので、ほとんどの取引は無担保で行われている。つまり、性質的にはデリバティブ取引でありながら、証拠金規制の対象外となり、無担保取引がほぼ標準のような形で運用されているというのが実態である。期間が限定されているからカウンターパーティーリスクは大きくないのだが、大手金融機関が無担保で取引ができる稀有な、日本独自の商品となっている。

スワップなどのデリバティブ取引と選択権付債券売買取引を行った場合は、契約上のネッティングができないことになってしまうが、選択権付債券売買取引ではなくISDAマスター契約の下で行うBond Optionとして、ネッティングやCSAの対象とすることも可能である。カウンターパーティーリスクが気になる場合はBond OptionとしてISDA/CSAの下で取引をすれば、カウンターパーティーリスク削減が可能になる。

日本は昔から担保を嫌う文化があるのか、当初のレポ取引やこの債券店頭などが無担保で取引されており、現在でも普通に使われている。海外のリスク管理者などからすると無担保でオプション取引をするというと驚かれる。ISDAからこの債券店頭オプションにしてしまえば証拠金規制逃れができるのかと聞かれたこともあるが、別に規制逃れではなく、立派に日本の規制に従った取引である。

とは言っても、バーゼルや各種規制がグローバル化されていく中、例えば、この取引はSA-CCR上どのように取り扱われるのかとか、SDR等への報告はオプションとして報告しないのかとか、疑問は尽きない。そのうちスタンダードのBond Optionにしていく方が本当は望ましいのではないかと思うのだが、実際に使っている投資家からは反対の声が上がるのだろう。

最後に新規取引の取引量(コール、プットの合計)を月次で示しておくが、一時よりは取引量が減ったものの、一定のニーズは継続しているようである。

https://www.jsda.or.jp/shiryoshitsu/toukei/sentaku/index.html