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複数商品をカバーするマスターネッティング契約の行方

ISDAで複数商品のネッティングを可能にするマスター契約を検討するワーキンググループが立ち上がった。従来のデリバティブ取引にレポや証券貸借取引を加えてネッティングを可能にする契約を検討するとのことである。コンセプトとしては特に新しいものではなく、古くから各金融機関で独自契約で同じことを実現する契約は存在していたと認識している。昨年にはISDAからホワイトペーパーも出されている。

日本においても、昔から円金利スワップとレポ取引を同時に行った時に、リスクがオフセットするのだから当初証拠金を引き下げてほしいという要望は、特にヘッジファンドを中心に頻繁に聞かれたが、オフセットするとしてもネッティングができない以上別々に当初証拠金を徴求するのが常だった。だが、CCPにおいては、国債先物と金利スワップのクロスマージンがJSCCでも行われ、海外CCPでも同様のクロスマージンは一般的となっている。

これが可能になると、マージンコールが一本化され、オペレーション、資本賦課においてコスト削減が実現できる。Risk.netの記事では、契約が複雑でニーズも少ないことから懐疑的な意見も紹介されている。確かにニーズは少ないのかもしれないが、先述したようなレポと金利スワップについては一定のニーズがあるものと思われる。Equity Swapと株券貸借取引等においても同様である。

ISDAの他、ICMA(International Capital Market Association)、ISLA(International Securities Lending Association)とそれぞれの業界団体の強力が必要になる。クローズアウトネッティングの法的有効性、各国法制との整合性等、かなりの分析が必要になるのも確かである。

ISDAからは、既存のISDAマスター契約にSFT(レポや株式貸借のような証券金融取引)のDefinitionを追加するという案が出されている。これによってISDA Createによる契約交渉が可能になる。契約交渉が複雑になることを恐れてか、否定的な意見が目立つようだが、個人的にはレポとデリバティブのネッティングは長年議論されているため、個社レベルでは一定の分析も終わっているところが多いと思う。既にこれを実現しているEMA(European Master Agreement)の例も応用できる。

確かにForce Majeureのようなコンセプト、クローズアウトまでの猶予期間の違い等、様々な違いが存在するのは確かだが、金融取引としては同じ性質を持っているので、これを機に極力統一かしていってはどうだろうか。資本規制、会計規則、当局承認等も極力スタンダードなものにしていった方が金融業界全体のためになると思う。

その意味ではシングルネームのCDSはSEC、インデックスCDSはCFTCのような重複も避けるべきなので、当局の統合が必要だろうし、業界団体の統合も起きるのかもしれない。システムも別々に開発する必要がなくなるため、複数商品をカバーできるものにしていかなければならない。契約交渉担当やシステム部門の統合まで議論の俎上に上るだろう。

システムも複数商品をカバーできるものにしていかなければならないだろうし、少なくとも、マスター契約の情報は各商品のシステムに流れていかなければならない。どうしてもこうなると人の職がかかってくるので一筋縄では行かないが、これは各企業で起きていることと同じである。

つくづく今後の金融にとってサイロは極力少ない方が良いと思う。政治闘争を続けている会社はすぐに環境変化についていけなくなるだろう。サイロは一度作ってしまうと、よほどの外圧がない限り自ら統合しようというインセンティブが働きにくい。誰も自分のポジションを無くすようには動かないし、自分の部署を他と統合したいというマネジメントも少ない。

このクロスプロダクトネッティングの実現には、技術的な問題よりも、こうしたサイロメンタリティが最大の障害になってくるのではないだろうか。