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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

欧州の証券決済T+1化

先日米国とカナダの決済期間短縮化について記事を書いたが、欧州や英国では議論が割れているようだ。EUでは2カ月前の10月に議論が始まったばかりであり、未だ方向性についてのアナウンスは確認できていない。

英国については、タスクフォースが作られ議論が続けられているが、報道によるとかなり反対意見も多いようだ。一応今月末までにProgress Reportを公表し、来年末までに最終化の予定となっているようなのだが、今の雰囲気だと計画は後ろ倒しになりそうだ。どうやら短縮化すること自体に反対する意見は少ないようだが、その実施時期については慎重な意見が目立つ。

そもそもBrexitによって欧州規制とは一線を画した自由な規制の導入が可能ということで、エジンバラ改革と銘打ち国際金融都市ロンドンの地位向上を模索していたはずなのだが、ほとんど大きな進捗が見られない。銀行やアセマネ業界は2026年春ごろを目途に準備を進めるべきとしているようだが、バックオフィスのシステム改訂が間に合わないという意見が多い模様だ。このままだと今月に出されるProgress Reportでは、時期が明示されない可能性が高い。

その他の国ではインドが短縮化を進める方向で動いているが、日本ではあまり議論が盛り上がらない。もともと事務フローの自動化や、期間短縮に関しては世界に類を見ないくらいに慎重なところがある。海外のように短縮はするがフェイルが多くなるという慣行が、まじめな日本人にはなじまないのかもしれない。ただし、オペレーションの自動化、システム化、AIを使った効率化が急速に進む中、日本だけが後れを取るとグローバルな資金の流れから取り残されてしまう危険性もあるので、海外の動向を見ながらキャッチアップしていく必要があるだろう。

金利指標改革の作業終了と今後の課題

ARRCに続いてEuroのRFR Groupも11月13日の会合をもって最後となった。日本においても金利指標フォーラムの活動が終了となったが、第6回の会合の議事録によると、実務者ネットワークを維持するということで、一応フォーラムが存続する形になるようだ。定期的に会合を行うことはないが、当面は日銀からのメールによる情報共有にとどまるとのことである。

米金利については、ターム物SOFRのディーラー間取引の解禁が焦点となっているが、欧州に関してはEuriborの行方が課題として残っている。このため、日本と同様に、何か議論すべきトピックがあった場合は再度集まる可能性もあるとESMAはコメントしている。

デリバティブ取引に関しては半分以上がESTRに移っており、将来的にさらなる移行が進む可能性があるが、キャッシュに関しては、未だEuriborが存在感を保っている。そもそも債券などのキャッシュ商品に関しては、ターム物RFRを第一順位として優先して使うべきとしてしまったのが間違いだったのかもしれない。日本でもターム物のTORFの利用は進んでおらず、ユーロでもターム物ESTRの利用は限定的である。

当面は、Euriborの決定に関して、Liborで起きたような恣意的に金利を操作できることがないように、指標改革を続けていくしかなさそうだ。その意味では日本のTIBORと同じような状況になっている。

米証券決済T+1化のインパクト

来年5/28から米国で始まる(カナダは5/27)証券決済のT+1化まであと半年を切った。これによって決済リスクの軽減と、効率性、流動性の向上が期待されているのだが、同時にオペレーショナルリスク、フェイルの増加が懸念される。これを受けて各社ともさらなる事務フローの標準化と自動化を進めている。

米国での準備はほぼゴールが見えてきた感はあるが、米国外では、時差の問題もあり懸念材料が尽きない。米国の問題ということもあり、米国外での意識がそれほど高まっていないようにも感じる。とは言え、アジアで行われるクロスボーダーの取引の約半分は米国がらみであるため、本来は日本を含むアジアへのインパクトは意外と大きい。もともと取引のAllocation、コンファメーション送付、取引のBookingとAffirmationなどにかかる時間はアジアの方が長かったので、その影響も必然的に大きくなる。

また、米株や米国債などの決済が短縮されるということは、それに関連して行われる為替の決済に対しても注意を払っておく必要がある。先月11月には、FXPA(FX Professionals Association)から「FXPA Buy Side Guidance in Preparation for T+1 Settlement」が出されている。ここでも自動化やシステム化の重要性が強調されている。今回の変更は証券に関するものだけだと思っていると、実はこれに関連するあらゆる取引の決済期間短縮化につながる可能性がある。

証券のフェイルというのはグローバルでは頻繁に起きており、そのためのフェイルチャージも決められている。当然フェイルは望ましくないことなのだが、ある程度マーケット慣行として認められていた。これをもう少し厳格化しようという動きがあった後でのT+1化なので、フェイルが増えて混乱が増幅する可能性も否定できない。だが、T+1化を進めても結局フェイルが多発してT+2がほとんどになってしまったということだと本末転倒となってしまう。結局この問題は標準化とテクノロジーによって解決するしかないので、システム投資をケチると、大きな問題に発展しかねない。

日本では、フェイルというと大きな事務ミスとみなす市場参加者も稀に存在するので、その意味では真面目な国民性が表れているのだが、T+1化の後に混乱が発生しないとも限らない。特に為替がからんでくると、CLS決済も進んでいない中でフェイルが起きると、余計な決済リスクを取ることになりかねない。ここまで高速の処理が要求されるようになると、巨額のシステム投資を避け、人海戦術で乗り切ろうというのはもはや成り立たなくなってくる。

日本でも、銀行証券、ブローカー、カストディアン、信託銀行、アセマネ等で共同して自動化を促進していった方が良いのだろう。特に時差を考慮するとT+1だとあまり時間に余裕がないため、為替周りが特に気になるところである。

レポ取引のクリアリングは必要か

昨年のGilt Shockに際して英国金利が乱高下したことを受け、CCPの当初証拠金負担が上昇した。これを受けて当初証拠金が高止まりしていたLCHのRepoClearでは、証拠金モデルを見直しが先月行われた。とは言え、当然のことながら相対取引に比べたコスト高は否めず、取引が一方向に偏りやすいバイサイドがレポのCCP取引を増やすとは思えない。

CCPとしては急激な市場変動に備えて十分な当初証拠金を徴求しておかなければならないのだが、市場変動が激しくなると99% VaRなどのリスクをカバーする証拠金額が大きくなってしまう。特にレポの場合は相対取引のヘアカットが極端に小さいのが市場慣行となってしまっているため、清算取引と非清算取引の証拠金に大きな差が発生している。

現状の金利変動を考えると、レポという商品は清算集中が不可能な水準になっているのではないかと思われる。現在でも通貨スワップやスワップションの清算は進んでいないが、通貨スワップの決済リスクの他に、市場急変に備えて徴求しなければならない当初証拠金が大きすぎるというのが最大の理由だと思われる。

おそらく資本コストが高く、多くのポジションを抱えるセルサイドにとっては清算のメリットはあるが、エンドユーザーにとっては、引き続き相対で取引を続けるのが最も現実的な選択肢となっている。この状況を変えられるとしたら、清算集中規制だが、これにはかなりの抵抗が予想される。というのも、今回は銀行からの抵抗というよりはエンドユーザーからの抵抗となり、コスト高が国民の年金パフォーマンスなどに影響してくる可能性があるからである。

現実的には市場急変時には、債券買取プログラムや、政府によるファイナンスが可能になることが多いので、特に国債レポ市場は、CDSや金利スワップとは様相が異なる。なかなか受け入れられないアイデアだとは思うが、レポは銀行と超大手のBalanced Portfolioを持った市場参加者に限った清算が中心で、バイサイドは引き続き相対というのが、しばらくの間のスタンダードであり続けるだろう。

ディーラーを経由した清算も可能ではあるが、通常はエンドユーザーのポジション管理はディーラーに依存しており、CCPサイドでできることは限られている。エンドユーザーが大きな一方向の取引を増やしたとしてもConcentration Chargeをそのエンドユーザーに転嫁することは現実的には結構難しい。しかもこうしたユーザーが増えればディーラーの資本コストも上がってしまう仕組みになっているため、ディーラーとしてもこうした顧客との取引を増やすインセンティブはあまりない。

クリアリングサービスを提供することによって、他のビジネスの収益が増えれば意味はあるかもしれないが、Execusionは利益相反の観点からこの二つはリンクしておらず、逆にクリアリングしていることをレバレッジにして取引執行の収益を取りに行くことは認められていない。したがって、収益性が低く資本コストの高いクライアントクリアリングビジネスからの撤退というのは、大手ディーラーの中では常に議論されている。

選択肢としては、規制によってレポ取引のヘアカットを増やし、相対取引のコストを上げることによってCCPへの移行を促すという方法が最もやりやすい。あるいはクリアリングの資本規制を見直してクリアリングブローカーを増やし競争を促すという方法もあるが、これは当局サイドには評判が悪い。通貨スワップで使われているSwapAgentとCCPの中間のような仕組みができるとレポ市場にとっては最高なのだろうが、これについてはさらなる技術革新が待たれるところである。

為替ヘッジコストと円相場

Bloombergにも出ていた通り、生保の外債為替ヘッジが極端に落ち込んでいる。過去にさかのぼると2015年9月末以来の落ち込みで、今年上半期のForward、FX Swap、Optionのヘッジ比率は50%を割っている。

足元の対内対外証券投資のデータを見ていると、外債のネットの売り越し状態は収まりつつあるため、FRBの利上げ停止により徐々に外債投資が復活する可能性もあるだろうが、現在5.7%にまで上昇したヘッジコストが下がるかどうかにも注目が集まる。基本的に外債投資が戻っても、ヘッジコストの高まりからUnhedgeで持つところが多くなる可能性がある。

通常このヘッジはFX Spot取引と3か月Forwardで行うことが多いが、現在は米金利が逆イールドで、3か月金利が極めて高くなっている。SOFRに比べて米国債のイールドが上がれば、若干有利になることもあるが、それでもまだヘッジコストが高い。

また、日銀の政策変更が緩やかなものになると予想されている現状においては、米国が利下げをAgressiveに前倒しで行わない限りは、急速な円高は起きにくいと判断すれば、ヘッジを行わないというのは自然な行動だろう。

米利下げが急速に進んだり、日本で賃金上昇が確認され、日銀の政策変更のスピードが上がってくれば、円高リスクが出てくるが、現状ではこのリスクは低いとみている投資家が多いのだろう。

金融庁の「有価証券モニタリングレポート」

今年9月に、金融庁から「有価証券モニタリングレポート」が出されている。これは、地銀の有価証券運用について、リスクテイク規模が大きい先を対象に行った調査結果をまとめたものである。有価証券投資自体を問題視している訳ではなく、体力に見合った投資とリスク管理の重要性を強調するものとなっている。


 そもそも地銀がなぜ有価証券投資を行う必要があるかというのが重要だと思うが、レポートでは、有価証券投資を「金融仲介機能発揮のための経営体力を維持する上での主要業務と位置づけるか、あくまで余裕資金の運用業務と位置づけるかといった点を明確化すべき」としている。

本来経営体力維持のために投資をするというのは不自然な気もするのだが、預金は集まるものの投資先がないからある程度仕方がないということの裏返しなのかもしれない。ただし、株式は少なくほとんどが債券なので、堅実にキャリーを稼ぎたいということなのだろう。

アメリカでも急速に預金が集まりすぎたシリコンバレーバンクが、その資金を米国債に振り向け、金利上昇時に損失を拡大させたのは記憶に新しい。レポートの中では、1%の金利上昇時に資本の15%程度を毀損するという分析結果となっており、これを「相応の規模」としている。画一的な対応を求めるものではないとしているが、この辺りがある程度の目線になってくるのだろう。米国で問題になった地銀と比べるとそれでもマイルドな水準に見えてしまう。

そのほかリスクの3線管理、ストレステスト、リスクアペタイトフレームワークなど、海外でも取り入れられているリスク管理手法の徹底が主張されている。運用やリスク管理に携わる人材不足も指摘されている。外貨流動性、資本減少リスクへの備えなど、今後のリスク管理フレームワークを確立するには良いガイドラインとなっている。

10年前には50%近かった日本国債の占める割合が19%まで低下しているのは大きな変化に見えるが、その分増えているのは地方債なので、国債と地方債を含めて考えると微減となっている。投資信託は19%に増えているが、株式は極めて少ない。

これを資金循環表などと組み合わせてみると、個人が銀行預金を増やし、その預金の一定割合が銀行を通じて債券に流れているのがわかる。その他の企業ではおそらく持ち合い株なども含めれば株式の比率が若干高いだろう。貯蓄から投資へとよく言われるが、個人が預金に集中させているとは言え、そのお金は銀行を通して国債や社債に流れているようだ。

過去20年間に米国の個人金融資産が3倍になった一方、日本は1.4倍とよく言われるが、非金融法人では意外と株式を持っている。一方金融機関の資産は社債に集中している。過去20年の株式パフォーマンスを考えると、海外の方が着実に金融資産を膨らませているのは確かだが、日本でもある程度は法人部門にその恩恵が一部蓄積されている。ただし、株式の割合は低く、持ち合い株なども多いため、確かに効率は良くない。ただ、それでも一部の大企業ではこうした蓄積があるため、賃上げ余力はあるのかもしれない。

銀行部門で見ると、負債の半分程度を預金で集め、そのまた半分を貸出しに回し、資産の2割近くを現金で保有しているように見える。比較的欧州に近い形だが、米国は現金預金比率は資産全体の2%程度しかない。常にお金を循環させていることが、経済効率を高めているようだ。また米国では、その他金融機関に属するセクターの資産が銀行の倍程度あり、欧州でも銀行と同レベルである。日本では銀行の約半分がその他金融機関である。米国ではPTF(Principal Trading Firm)と呼ばれる市場参加者がおり、この取引シェアが拡大している。米国市場ではもはやCitadelのようなPTFなしでは取引が成り立たなくなりつつある。米国債市場ではPTFのシェアは50%を超えており、今年前半のSVB破綻後はシェアが60%を超えた。

日本においては銀行のプレゼンスが他国に比してかなり大きいが、これだけ集まった資金をいかに成長分野に流していくかが重要になってくる。国債や外債などではなく、今後の日本を変えるような、新しい成長分野に資金が流れることが望まれる。

日本でもG-SIBスコア削減が進捗

米銀大手行の第三四半期のG-SIBスコアが公表されてきているが、やはりどこもスコアを抑制しているのがわかる。ヘッジニーズが高まりデリバティブ取引が盛んになっているにも関わらず、デリバティブ取引の想定元本は第三四半期に減っている。JPMなどは債券のInventoryも減らしており、何とか今のBucketに留まろうとしているように見える。

マーケットでもG-SIB削減取引が頻繁にみられるようになってきているので、第四四半期にはさらなるスコア削減が予想される。

国別にスコアを見ていくとスコア上位には中国の銀行が並ぶようになってきた。同時に興味深いのは、欧米銀がスコア削減努力を続ける中、中国とともにスコアを伸ばしてきた邦銀勢のスコアが抑制されつつある点だ。邦銀も遅ればせながらコンプレッションなどを進め、スコア削減に取り組んでいるように見える。メガバンク3行とも、特に2022年の削減幅が大きい。中国の銀行は特に気にせずこれまで通り右肩上がりにスコアが上がっている。フランスの銀行があまり削減に熱心ではない点も興味深い。

これらはその国の規制を反映しているところもあるが、バーゼルなどの共通ルールで業務を行っている限りは、もはや大きいことは良いことではないのは明らかなので、極力効率的に業務を行っていく必要があるのは間違いない。

その意味では邦銀がようやく本気になっているように見えるのは心強い。なぜなら、市場でここまでG-SIB削減取引が出てくる環境においては、これをうまくコントロールしていかないと、余計なリスクを押し付けられてしまう可能性があるからである。一時期CVAやFVAでリスクを押し付けようとした市場参加者がいたのは事実なので、こうした動きに敏感になっておくのは極めて重要であろう。

米国債取引の清算集中規制はとん挫するか?

SECが米国債の清算集中義務化の議論を延期するという記事が出た。個人的にはCCPでの清算は望ましいと思っているのだが、これはデリバティブ取引やレポ取引のようなカウンターパーティーリスクを取る取引に関してのもので、国債のキャッシュ商品の売買に関して清算を義務付けるのが、市場の安定性と効率化につながるのかよくわからない。どちらかというとマージンや清算基金のコストが高すぎて全体としての効率が悪くなってしまうのではないかと思う。

年内には詳細がまとまると言われていた米国債の市場改革プランであるが、各方面から異論が噴出しているため、来年第一四半期に結論を先送りすることになったようだ。もともとのプランとしては、過去6か月のうち4か月において、米国債の取引量が$25bnを超えた場合は、一連の資本規制と報告規制をかけるというものだった。ある程度の取引を行うヘッジファンドなどが対象となるため、そうした会社が$25bn以内に取引を抑えようとすることにより、市場流動性に悪影響が及ぶと懸念されていた。

個人的にもこの懸念はもっともだと思っており、規制が強化されるのなら取引量を抑えようというのは当然の行動である。昨今はカウンターパーティーリスクや資本不足の懸念よりも、市場流動性が枯渇してることが最大のリスクだと思う。この状況下でさらに流動性を悪化するような規制は極力避けないと、米国債市場の価格変動がさらに大きなものになる可能性がある。昨今の価格急変はSVBショックを引き起こし、米国債の取引量の多い日本の機関投資家も痛手を被ったところが多いので、日本としても無視できない。

昨今の流れだと来年の第一四半期にルールの最終化ができるとは思えず、いったん仕切り直しになる可能性も高いと思っている。

日本ではなぜ社債市場が育たないか

これまで長年にわたる市場関係者の努力にもかかわらず、日本の社債市場はなかなか育っていない。この点に関して私見を。

銀行中心の資金調達

そもそも経済成長のためには必要なところにお金が流れることが不可欠だ。これが成功している国が成長率も高くなる。戦後の日本では、都市銀行、地方銀行、信金信組に加えて政府系金融機関が重厚長大産業に重点的に資金を融通し、奇跡の経済成長を成し遂げた。私が銀行員だった頃も、電力・ガス、海運・航空、自動車・鉄鋼といった分野毎に営業部が置かれ、こうした部門が当時は花形部門とされた。そして、インフラ系の投資が終わると、銀行融資が行き場を失い、バブル崩壊後の不良債権の増加に伴い、資金の流れが滞ってしまったのが、日本経済低迷の一つの理由なのではないかと思う。

新規事業への投資

アメリカでは、スタートアップ企業に対して資金を回す仕組みができ、新規産業が多数誕生したが、日本においては相変わらず銀行に資金が集まり続けたものの、それがこうした新規分野に回りにくかった。銀行員としての感覚としても、バブル崩壊後は不良債権問題もあったため、やはり伝統的な巨大優良企業に対する融資が優先され、業歴の浅い会社やスタートアップへの融資には積極的ではなかった。新規事業部門などを作ってスタートアップ融資をしようと試みたが、低金利で貸し出したにもかかわらずデフォルト率が高く、ビジネスとして成り立たなかった。

本来リスクの高い分野は上場益や高い金利を取って高リスク高リターンにしなければならないのだが、銀行間の競争もあり高い金利は取れなかった。こうした会社が社債発行をする環境も整備されておらず、ベンチャーキャピタルも少なかった。

貯蓄から国債へ

戦後復興を成し遂げた後も、個人の資金は銀行預金が増え続け、貯蓄から投資への掛け声も空しく、銀行に資金が吸収されていった。行き場を失った資金は国債投資に回り、政府債務が膨張していった。一部社債にも回っているが、日本の社債発行企業は優良企業がほとんどで、銀行の優良貸出先と重なっていた。国債投資によって国に集まった資金も、有効な使い方をされたとはいい難く、成長産業へは資金が行き届かなかった。90年代の銀行の中では、スタートアップ企業よりも、国や地方政府のバックアップのある第三セクターの方が融資先としては安全なのではないかという雰囲気すらあったと思う。

つまり結局大きなお金が集まった銀行と国が、効率的に資金を回せなかったので、新しいイノベーションが生まれず、以前からの大企業と効率性の低い国のプロジェクトにつぎ込まれてしまったのが日本低迷の原因ではないかと思っている。その意味では銀行が必要なところに資金を回せるのであれば、社債市場がなくても経済成長は可能なのかもしれない。

理系重視の米国と文系重視の日本

海外でも銀行は重要な役割を果たしているが、大きく違うと感じたのは、日本では商業銀行優位という点だ。半沢直樹でも取り上げられていたが、以前は銀行から証券子会社への出向を命じられて意気消沈している同期もいたくらいだ。一方アメリカでは、商業銀行と投資銀行との比較になると、投資銀行を志向する人が多かった。外資系投資銀行は日本に来るとJPモルガン証券、シティーグループ証券のように証券会社と呼ばれるが、なぜか証券会社というより投資銀行といった方が聞こえが良い。アメリカではこの垣根はなくなっているので、商業銀行も投資銀行業務を行っているが、商業銀行は事務をしっかりこなす文系、投資銀行は金融工学を駆使した理科系といったイメージも残っている。日本では銀行といえば文系の世界で、理科系人材が入ってきたのは90年代になってからだ。

NISAによる資金循環の変化

資産運用立国を目指して様々な取り組みが行われているが、来年からはNISAの拡充によって一定程度の資金が銀行から投資信託に流れることが予想される。こうなると、銀行経由ではなく、直接成長企業などへ資金が回るようになる。ただし、NISAの中身とNISA対象商品の中でどこに資金が回るかも重要になってくる。おそらくかなりの部分が全米株式インデックスや全世界インデックスに回ることになるだろうが、そうすると日本の産業には資金が回らない。ただ、NISAで個人が資産形成できれば、それが消費に回って国内が潤うという可能性はる。

国のNISAなのだから、一定程度国内投資にインセンティブを与えても良いと思うのだが、海外企業の方が成長性が高い現状では、ある程度海外に資金が流れるのは仕方ないだろう。また、NISAの対象商品の中で日本の社債に投資するファンドはあまりに少ない。そもそも優良企業ばかりで利回りの低い日本の社債では、信託報酬をカバーできるだけのリターンも得られないので社債ファンドは非常に難しい。

社債市場の活性化

まずは、社債発行会社のすそ野を広げ、リターンの高い社債が市場に流通する必要がある。A格以上がほとんどを占める日本の社債市場では、5%とか10%のリターンが期待できる社債はほとんどない。海外では、優良企業の社債を100で買うよりも、ディストレス債を30で買う方がリスク管理的にも安心感がある。なぜなら、100の社債は5年もたてば半分になるかもしれないが、今30の社債から30以上の損失は出ない。回収率が2割とか3割程度あるのが海外の標準なので、おそらく損失の可能性は極めて低い。一方社債が償還すれば100で返ってくる。倍以上になるということだ。日本はリターンが低いうえ回収率も10%程度と低くなることが多いので、社債投資家としては最悪の市場ということになる。

利回りが高ければ社債は売れる

日本で社債が売れないかというとそういう訳ではなく、PRDCなどは日本で最も盛んに取引され、CLNなども日本で結構売れている。高利の仕組債が金融庁から問題視されたのは記憶に新しいが、利回りが高ければそれに投資したいという投資家はかなり多い。つまり、日本の社債市場が活性化しないのは、国債と同じようなクーポンの低い投資対象しか存在していないことが問題なのであり、リスクの高い会社の社債が発行されれば、それに投資する人がでてきてもおかしくない。30年のPRDCとBB格の社債のどちらのリスクが高いかは考えてみれば明らかである。これがアジア開発銀行、世界銀行発行だからといって極端にレバレッジのかかった債券が売れている。この辺のリスク感覚も身に着けていく必要があるし、社内では世銀といった方が通しやすいといった異常な状態は正していかなければならない。

日本でも、今で言えばビックモーターなどのような問題を抱えた会社が社債を出していれば(一部銀行保証付私募債は出ている)、それが10とか20とかで売られているはずで、社債ファンドからすれば是が非でも買いたい銘柄となる。銀行ローンの売買も行われているが、大手金融機関の間の一部に限定されている。つまり社債発行体のすそ野が広がれば、あらゆるリターンを提供する社債が流通することになり、それによってリターンを上げようとする投資信託やファンドなどが組成されるはずである。そしてNISAの資金が流れ込めば、リスクの高いビジネスに対して資金が循環するようになる。銀行がリスクの高いところに資金を流せないのであれば、社債やクラウドファンディングでも何でも良いが、資金を回せるような仕組みを作らないと日本でイノベーションが起きにくくなる。

本来銀行貸し付けが受けられないところが、高いクーポンを出しても社債発行を考えるといった形にでもなれば、資金の流れがスムーズになるのだろうが、現在は銀行融資よりも社債発行の方がハードルが高い。これを補うものとして興味深いのは、クラウドファンディングである。最近も知人がクラウドファンディングで資金を集めて起業したが、こうした形で資金が循環すると経済の活性化につながる。クラウドファンディングのようなことを社債でできないかと考えると、小口化・デジタル化も一つの可能性なのかもしれない。

米国では、銀行が長期の資金を貸さないが、欧州や日本では、長期資金も借り入れで賄われることが多い。銀行の方が社債権者よりも優先してしまうという事情もある。JSDAの資料にある「銀行融資をやめるという話ではないが、そうすると社債市場はなかなか育たない」というコメントが興味深い。本来はオーバーバンキングが問題であり、銀行が少なくなれば健全な競争が生まれ、市場原理が働くという意見を持っている人は多いが、それを表立って言えない雰囲気が日本にはあったのかもしれない。

最近では銀行重視の風潮も和らぎ、銀行グループの中の証券会社の地位も上がってきた。特に銀行業のみを守ろうという意識もなくなってきたように思うので、業界を挙げて日本の経済に資金を循環させるにはどうしたらよいのかという議論が行われることが期待される。その中で社債市場の役割というものが見えてくるのだろう。

日本の社債市場活性化へ向けた取り組み

日本では、社債市場活性化のために長年検討が続けられてきたが、未だに社債市場の規模は海外に比べて格段に小さい。

この度JSDAから「社債市場の活性化に向けた今後の検討について」とう資料が公開されている。一方金融庁のホームページでも9月に社債市場の分析資料がポストされている。

以前は年間10兆円を下回っていた社債発行額だが、最近ではコンスタントに10兆円を超えるようになっており、多い年は15兆円を超えている。残高ベースでも100兆円を伺う水準にまで増えてきている。
ただし、米国の発行額は年間200兆円に近く、残高も1400兆円近いため、日本との差は歴然としている。レポートが示すように、日本の社債は9割以上がA格以上で、優良企業のみが発行するものになっている。投資する側から見ても、日本では株式ファンドばかりが選好され、債券ファンドはほとんど見られない。投資家層も銀行や保険、年金がメインで、個人が投資をする割合は極めて低い。

したがって、投資家保護の観点も株式に比べると注目度合いが低く、プロ向け市場となっている。そもそも優良企業による発行が主なので、利回りも低く、デフォルトなどしない前提で取引されているので、いざという時の想定外の損失が大きくなる。個人的な社債トレーディングの経験からも、低金利のクーポンの社債を買って最後まで持ち切るというのはあまり面白い取引ではない上、何か信用不安が発生した際には突然時価評価額が急落して損失を被るため、非常に取引しにくい商品であった。

今回は投資家保護の観点から、コベナンツ強化が課題として挙げられている。社債権者の権利保護を主眼に投資家保護をしようという方向性は正しい。しかし、だが、コベナンツ条項を入れたからと言ってすぐに社債取引が増える訳ではないので、複数の改革を同時に進めていく必要がある。

最近デフォルトが発生し投資家が損失を被った事例を下にJSDAが「近時のデフォルト事例に見る我が国社債市場の課題について」を公表している。なぜか企業名が伏せられているのでここでも書かないが、久しぶりの社債デフォルトであり、社債権者の権利の弱さを認識する事例だったのは確かである。個人的にも、いつも銀行などの方が情報を持っているだろうし、発行体ともつながっているから、情報は入ってこないし、きっと銀行には劣後してしまうんだろうなと思いながら投資をしていたが、確かに海外では銀行と少なくとも同列であるべく様々な手当てがなされている。

今後もJSDAで以下のような点を中心に議論していくとのことなので、社債市場の今後の発展に期待したい。

  1. コベナンツ付与のあり方
  2. 社債管理補助者に期待する役割
  3. 社債権者への適時適切な情報提供
  4. その他、社債権者保護に関する事項

ARRC解散

ARRCから11/8のミーティングが最後になったとのメールが来た。LIBORからの移行が終了し、ARRCもその役割を終えることになったようだ。数年するとLIBORって何?という人が増えてくるのだろう。

2019年から議長を務めたTom Wipf氏がUBSに移ったタイミングでARRCから退いており、6月末のUSD LIBORの公表停止も無事完了したため、当然といえば当然なのだろう。とはいえ、ターム物SOFR等の利用制限などは、ARRCのベストプラクティスガイダンスによって規定されており、今後ARRCという会議体がなくなることに若干の不安を覚えたのは私だけではないだろう。クレジットセンシティブレートの議論もARRCで行われていたので、今後はどのように議論を進めていくのかに注目が集まる。


ARRCからのアナウンスによると、今後は官民協力のもと、その他のメカニズムが作っていくことになろうと書かれているが、規制絡みの話は直接当局との交渉になるのかもしれない。


いずれにしても、金利と言えばLIBORだった世界から、全ての取引をスケジュール通りに移行させるのは並み大抵の作業ではなかった。個人的にもここまでスムーズに移行できるとは正直思っていなかった。
自らの利益のためだけではなく、業界のために膨大な時間を費やして作業をされた関係者の方々の努力に敬意を表したい。

SOFRベーシスの内部取引ヘッジ

ターム物のSOFRとオーバーナイトのSOFRのベーシスリスクヘッジができないことが問題になっていたが、銀行のグループ内でこれをヘッジする動きが活発になってきたようだ。

Ameriborなどのクレジットセンシティブレートが広がらない中、タームSOFRがローンの金利指標として幅広く使われるようになり、そのヘッジでターム物SOFRの固定受けの金利スワップニーズが増えてきた。しかし流動性に劣るターム物SOFRをメインにしたくない当局サイドの意向で、銀行がターム物SOFRの金利スワップを限定的にしか取引できないため、通常のオーバーナイトSOFTとターム物SOFRのベーシスポジションが大きくなってしまった。

このポジションをヘッジするために、銀行の中でローンを提供したり、ALMによってターム物SOFRの反対方向のニーズがあるグループ会社と取引をするという方法があるが、最近になってこのような内部ヘッジが増えてきたとのことである。当初このアイデアは当局から否定されていたと思っていたのだが、昨今ではこれが容認されいているようである。

ARRCのベストプラクティスでも、脚注でグループ内ヘッジの可能性についても触れられていたので、規制上の懸念点はクリアになっているようである。とはいえ、これが可能になるのは一部の大手銀行に限られ、しかも国によってはこのようなヘッジが認められない可能性があるので、問題の根本的解決にはならないようだ。やはり流動性の向上にしたがって、銀行がターム物SOFRを自由に取引できるようにしていくしかないのだろう。

社債担保を使ったDirty CSAの広がりと日本のデリバティブプライシング

欧州で適格担保を広げる動きが拡大している。昨年のGiltショックを受けて社債担保を適格担保に入れて欲しいという要望が多い。適格担保に社債が入るとデリバティブ取引のプライシングが変わってしまうので本来は望ましくないが、手持ち債券を売却して現金化を迫られた経験から、極力適格担保を広げるニーズがさらに高まっている。

現金担保のみでプライシングへの影響がなく、極力標準的な条件にしたCSAをClean CSAというのに対し、社債を担保に取ったり、非標準的な条件が入ったCSAをDirty CSAと呼ぶが、こうしたDirty CSAのもとで行う取引は、プライシングや価格評価の方法が不透明になってしまう。

ディーラーによってプライシングが異なるので、Novationや解約時に問題が発生することも多い。社債が入ることによってディスカウントカーブが変わるという影響のみならず、レバレッジ比率規制などによる資本コストも取引に織り込む必要もあるので、さらに透明性が低くなる。

社債のディスカウントカーブについては、Forwardのレポスプレッドを考慮してCheapest to Deliverの担保を決めるという手法を取るところも多い。つまり5年までは円がCheapestだが、それ以降はEURというように、フォワードカーブによって複合的なカーブを引くところが、主流ではないかと思う。

ディスカウントだけを見ても、長期のフォワードのレポ市場の動きを考慮して社債のファンディングカーブを引くのは極めて難しい。せいぜい手前の数カ月くらいのマーケットは観測可能だが、それ以降の長期になると、ある程度の前提を置いた上でカーブを引くしかない。特に日本などは社債のレポ市場がほぼ存在していない。

日本の場合は、取引の時価にあたる変動証拠金(VM)に対しても債券が出せることになっており、VMが現金のみに限定されている海外とは事情が異なるが、これまではプライシング上の差が大きな問題になることはなかった。というより、そこまで精緻にプライシングする人が少ないということなのだろう。

通常年金ファンドは固定金利を受けることになるので、ディーラーとしては金利上昇にReceivableが経ちエクスポージャーが増える。これを銀行間やCCPとヘッジをすることになるのだが、このヘッジに対してはVMとIMを拠出する必要がある。海外ではVMは現金のみなので、社債を受け取ってしまったディーラーは、それをレポに出して資金調達をする必要がある。そして顧客向けと銀行間のヘッジに対して資本コストがかかることになる。顧客の方でレポを行って現金担保を拠出しても良いのだが、レポ市場へのアクセスが限られているとこれが難しい。

また、通常社債担保については、信用力やテナーを考慮したヘアカットが科されるのが一般的である。ヘアカットが10%であれば、社債をレポ市場に出しても90%しかファンディングできない。昨今では当局サイドで最低ヘアカットを決めようという動きもある。

こうした様々なコストを反映させると、スワップの価格が5-10bpずれることも頻繁に起きる。日本でもようやく金利が上昇しつつあるため、ディスカウントカーブが重要になってくるのではないだろうか。欧州の議論を見ていると、そろそろ精緻なプライシングについて検討を始めた方が良い気がする。

Volume Discountは悪か

先月SECから出されたVolume based Exchange Transaction Pricingに関するガイダンスが話題になっている。証券会社を通じたオーダーに関して取引量に応じた手数料体系を禁じるというものだ。理由としては、エージェンシーとなるブローカーの公平な競争を促すためとのことだ。つまり、Volume baseにすると、巨額の取引を扱う大手銀行が有利になっており、中小ブローカーが支払う手数料が割高になっているという主張だ。また、月間の取引量などによって事後に価格が決まることもあるため、取引執行時にFeeが確定しないという点も問題視されている。

そもそもこうしたVolume Discountはかなり広範囲に使われており、OTCのCCPの料金体系でも幅広く使われている。金利スワップなどのブローカーに支払う手数料にも一部使われており、業界では幅広く受け入れられてきた慣行である。これは何も金融に限らず、まとめ買いをすればそれにかかるコストも少なくなるので、一般的な小売でも頻繁にみられる慣行だ。こうした慣行を認めるガイダンスも過去に出されていることもあり、一貫性にかけるメッセージが出されている点について業界からの批判が大きくなっている。

SEF導入の時もそうだったが、SECトップのGensler氏は中小金融機関やブローカーも含めて、アクセスを大きく広げ、競争を促すことを重要視しているように見える。今回のガイダンスの是非については色々と議論があるだようだが、日本では、ある程度の資本を持ったところがサービス提供をした方が安全という雰囲気があり、あまりこうした話は聞かれない。特にCCPへの参加者に関しては、より安定を志向し、一定の規模の資本とリスク許容度を持った参加者がその仕組みを支える制度となっている。

確かにあまりに行きすぎたVolume Discountを与えるのは良くないのだろうが、実際に大きな取引を一括して行う方がコストは低くなるので、それに応じて手数料を変えるというのは、極めて自然な考え方だろう。今後の議論の行方が注目される。

CCPへのアクセスとPorting

欧州の年金基金に対しては長年清算集中規制が免除されてきたが、その免除期間が終わりCCPへのアクセスが重要な問題になってきた。金融危機後にCCPへのシフトによるカウンターパーティーリスクの削減が進み、CCPが金融の安定に資する役割を果たしたことは間違いない。

だが、このブログでも何度か述べてきたように、CCPへのシフトを進む一方で、CCPに顧客をつなぐ役割を果たすブローカーに対する資本チャージが大きくなり、クリアリングブローカーの撤退が相次いだ。ここまでCCPで取引を清算する市場参加者が増えてくると、ブローカーサイドのキャパシティに限界が来ているように思えてならない。

IOSCOもESMAも、どんな市場環境下にあってもCCPへのアクセスが安定的に供給されることが重要と強調しているが、果たしてこれが確保されているかどうかというと大いに疑問だ。ブローカー破綻時には顧客ポジションがほかのブローカーに移せるようにポーティングという仕組みがあるが、これが機能するとは全く思えない。

アルケゴス以降のリスク管理は本来のリスクというよりは、サイズに偏ってきている。ポジションが小さければ新聞紙上を賑わす事件にならないからか、たとえリスクが小さくても、とにかく大きな取引に躊躇するところが増えてきた。CCP取引はそのサイズが大きなものになりがちであり、CCP自体がToo Big To Failである。そして担保のファンディングコスト、流動性リスク、資本コストがますます大きくなってきている。ロシア問題を受けてCountry Riskへの注目が高まる中、CCPへのリスクについて懸念する声も大きくなりつつある。

Non Financial Riskへの懸念の高まりにより、口座開設にも慎重になるところが増え、大手金融機関が破綻したときにその顧客の巨大なポジションを2日といった短期間で受け入れるのは、どう考えても不可能だろう。すべてのCCPがこのポーティングを前提に制度を作っているだろうが、危機時の対応については、何らかの対策をしないと、ポジション移管ができず、CCPとしては顧客ポジションを解約せざるを得なくなる可能性は極めて高い。

欧州では、顧客がブローカーを経由せずCCPにアクセスするIndirect Clearingも検討されているが、OTC取引でこれを大規模に行っているところはない。EUではクリアリングブローカーサービスが、Frandt(Fair, Reasonable, non-discriminatory and transparent)であることを求めているが、これは顧客保護の観点からの提案である。しかし、クリアリングブローカーのキャパシティが減少していく中、ブローカーに対する負担軽減を少し検討した方が市場全体の安定性が増すように思う。

FMI原則では、Portingが確実に行えるような仕組みを準備するようCCPに求めているが、バクアップブローカーを準備していない顧客もあるだろし、ブローカーにはそれをRejectする権利もある。EMIRのように事前にバックアップブローカーにPortingを約束する契約を締結することを求めない限り、実際にPortingが確実に行えるかは定かでない。そもそもブローカーにバックアップのサポートを提供するインセンティブが少ない。おそらくそれを約束してしまうとその分の資本チャージがとられることになる可能性もあるし、実際にPortingが起きた時にどのくらいの流動性が必要なのかを常に把握しておく必要がある。とはいえ、このサービスに大きな利益をチャージできるはずもない。

唯一ワークしそうなのは、緊急時にはKWCの要件を一時的に緩めたり、資本チャージを免除したりといった方策だろう。または米国のように裁判所の決定をもとに強制的にPortingを行うという方法だろう。というより、実際に事が起きた時は強制的なPortingが行われる可能性は極めて高い。

いずれにしても、今のままでは、次の危機に耐えられないだろう。これを解決するにはCCPサイドの自助努力だけでは難しく、当局からの何らかのサポートが必要になるのではないだろうか。

英国がボーナス上限を廃止

英国が明日10/31からボーナスキャップを外すと報道されている。2014年に基本給の2倍までとしていたボーナスの上限を廃止し、英国シティの競争力を高めようという狙いのようだ。そもそも英国は当初からこのEU案には反対だったので、Brexitによって独自のルールを作ることができるようになった。

英国当局はこのボーナスキャップが金融機関で働く人のMobilityの阻害要因になっていたと主張しており、業績悪化時に報酬を下げることが可能になるため、金融の安定につながると述べている。

昔はこのキャップがなかったので、金融機関の基本給は低く抑えられており、好調な年は報酬を大きく上げる一方、不調時には報酬を大きく下げることで、収益を安定化させることができていた。ただ、ボーナス上限がないと巨大なリスクを取って収益を上げようというインセンティブが働くという理論で、キャップを導入することになったと記憶している。

キャップが設けられてからは、報酬水準を保つために基本給の引き上げが行われたが、逆に収益低下時に報酬を下げることができなくなり、あらゆるところで弊害が生まれた。そもそもボーナス上限がないからといって、巨額のリスクを取ることなどは昨今の規制環境下ではほぼ不可能だ。キャップが廃止されても、ボーナスの一定割合を数年間にわたって支払ったり、業績悪化時には支払ったボーナスの返還を求めることができるため、それほど大きな影響があるとは思えない。

基本給を上げすぎると、報酬に差がつかなくなり、以前なら報酬を下げて人をキープすることもできた場合に、解雇せざるを得ないケースが増えたりといった弊害もあるだろう。英国だけの動きだが、特に上限廃止で問題がが生じることはないものと思われる。

米国の決済短縮化のインパクト

SECが米国株、債券の決済期間のT+1化を打ち出し、8月から隔週でテストが始まっているが、欧州ETFに関して懸念する声が大きくなっている。欧州では約40%のファンドが米国関連の資産を扱っているため、ETFの決済がT+2で行われる一方、米国証券の決済がT+1になると、マーケットメーカーがミスマッチを埋めるべくファンディングコストを負担しなければならなくなることが懸念されている。期限に遅れてペナルティを科されるケースも増えるかもしれない。

米国内では大きな問題は生じないだろうが、ESMAが10/5付のペーパーで示した通り、ETF業界のコスト高につながる可能性がある。アジアではあまり話題になっていないが、同じ問題が発生するはずである。

大手行は問題ないかもしれないが、すべてのオペレーションがT+2決済を前提に作られているため、中小金融機関において、米国証券のみT+1にするための準備ができているのかどうかは心もとない。

これを避けるにはオートメーション化を進めるしかないのだろうが、アジアの場合はこれも遅れている。欧州ではETFのみ免除を検討するという話も聞かれるが、アジアも何らかの準備をしなくて良いのだろうか。日本の場合はETFが少なく投資信託も特殊なフローになっているのであまり問題ないのかもしれないが。。。

FRTBの実務的な理解が遅れている

遅まきながらFRTB関連の作業が本格化してきた。まずはデータを集めるのに苦労しているところが多いという報道もあるが、今のところモデル担当やクオンツ、ITなどの部門が必死で作業をしている。若干懸念なのはフロントのトレーダーやシニアマネジメントがその影響を正しく理解できていない点である。誰もがFRTB対策が必要とは認めているものの、そのインパクトについて詳細を語れる人があまりにも少ないように思う。

以前もSA-CCRの時にも似たようなことがあったが、結局施行されて初めてその重大性に気づくことになり、市場インパクトが突然大きく顕在化するということになりかねない。

一方で、作業の煩雑さと、昨今の市場急変によるボラティリティの高まりから、内部モデルをあきらめ、標準法で資本を積んだ方が良いという意見が支配的になりつつある。あまりに標準法の資本コストが高い分野に絞って内部モデル方式の承認を求め、その他は標準法でという方針になっているところが多そうだ。しかし、内部モデルを使うデスクが少なくなると、全体的なDiversificationが効かなくなるので、内部モデル採用デスクの所要資本が大きく変動しやすいということになる。

何とか内部モデルの承認を取ったとしても、実際に大きな市場変動が起きてモデルが不十分と判断された場合には、結局標準法を使うことになる。こうなると最初からすべて標準法を使った方が良いのでないかという話になる。FRTBの検討が始まったころは、ある程度の内部モデルの利用を想定していたため、若干楽観論が支配的だったが、結局すべて標準法ということになるとFRTBの影響は思ったより大きくなる可能性が高い。

そして、すべて標準法を使っていた方が、市場急変時に資本コストの変動とROEの急低下を避けることができ、プロシクリカリティを避けられるという効果もある。VaRではなく期待ショートフォール方式なので、Volatilityは高くないはずと言われていたのだが、ここまで市場変動が激しくなると、期待ショートフォールでもあまり変わりがなくなってしまう。特に株式やコモディティに関しては、昨今の市場変動だとあまり内部モデルに手間とコストをかけるのは割に合わないかもしれない。

昨今では、リスク管理にストレステストやシナリオ分析を多用するようになっており、極端な市場変動を想定して日々の業務を行うようになっている。したがって、市場ストレスを含んだ内部モデル方式を使うことによる資本削減効果は少なくなっており、これは今後もさらに少なくなっていくことが容易に想像できる。

最大手行ですらこのような議論をしているのだから、ほとんどの銀行において内部モデル方式は、あまり割に合わないのではないだろうか。とはいえ、そのような議論が現段階で詳細に行われているのかどうか定かではない。そろそろお勉強の時期を終えて、実際にどのように業務を行っていくのかを真剣に議論した方が良いのだろう。

英国当局レターから伺えるリスク管理高度化の方向性

英国中銀からのDear CROレターの内容についてもう少し考察してみる。Appendixには今後のリスク管理に重要な項目が列挙されているので、それを一つずつ見ていく。

カウンターパーティーリスクストレステスト

従来はポテンシャルエクスポージャー(PE)によるリミット管理が主流であったが、昨今の市場変動に際してPEでは不十分という意見が支配的となった。今回のレターで指摘されている通り、市場急変時の担保評価の変動によるリスクが十分に把握されていなかった。Adhocなストレステストや定期的なストレステストを行うところもあったが、それでは不十分とされている。こうなると日々数多くのストレステストを走らせる必要があり、それに応じてリミット管理を行うことがほぼ義務付けとなっている印象だ。2nd Line of Defenceがこれを管理すべきとあるので、信用リスク管理部等の第二線がこの役割を担っていくことになる。

集中リスク

顧客ごと、ポートフォリオごとの集中リスク管理が不十分と指摘されている。市場環境によっては流動性がないリスクについて適切なリスク管理やリミット管理ができるように、リスク管理を高度化させなければならない。

MPOR

古くて新しいトピックであるが、Margin Period of Riskがリスク管理上精緻に反映されていないという批判である。クローズアウトに時間がかかる場合、流動性に劣るポートフォリオの場合、非標準的な条項が入っている場合にはMPORを調整してそれが適切にPEなどのリスク管理指標に反映されていなければならない。

担保のヘアカット

担保の種類によって最低ヘアカット水準を2nd Lineが決めるプロセスができていない銀行があるとの指摘である。確かにレポのヘアカットなどは市場慣行で決まっている部分も多々あると思うので、フロントでヘアカットを決めてしまっているところもあるかもしれない。ここは以前から顧客交渉において非常に難しい部分はあったが、今後はある程度強く交渉していく必要があるのだろう。ただ、もう少し当局サイドからのPushがないと、大手アセマネやファンドの抵抗が予想される。少なくとも2nd lineが設定したヘアカットポリシーが必要とのことなので、銀行としては対応が必要となる。

顧客デューデリジェンス(新規、継続)

特に英国のLDIについての懸念なのだろうが、取引時にLDIファンドマネージャーの運用ファンドのリスクを、資産タイプごとに注意深く考慮していない銀行が多いとの批判である。ファンドのサイズやレバレッジ、流動性の違いに応じてリスクアペタイトを調整すべきとある。多くの銀行がこれができていないというのが若干驚きだが、特にLDIについてはこうしたリスク分類が不十分だったのかもしれない。運用資産の投資家にリコースがあるかどうかもきちんと把握すべきとあるが、これもファンドリスク管理の基本なので、もしかしたら中小銀行でこうしたプロセスがずさんなところがあったのかもしれない。

ファンドマネージャーの情報開示

こちらはアルケゴスに絡む問題なので理解しやすいが、NAV、流動性バッファ、レバレッジ、投資戦略などファンドの最新情報が常に把握できていないという批判である。担保が入ってこなかった時に迅速な意思決定を行えるように普段から情報収集を怠らないようにするのは基本である。通常はNAVトリガーをつけて定期的なディスクロージャーを義務付けているだろうが、ポジションが大きい先については頻繁な会話が必要となる。

オペレーション制約

ここからはオペレーションに関する問題になるが、まずは決済や担保プロセスのオペレーションについてである。ここでミスのないようにオペレーションの人材を増やすと書かれているわけではなく、オートメーションが重視されている点に注意が必要である。日本では、人員を増やしたり、ダブルチェック、トリプルチェックをすることによってミスを無くそうという考え方が支配的だが、海外ではすべてSTP化など、システム化によってミスに対応しようとしている。当然顧客によってゴールデンウィークにマージンコールを免除するなどといった特殊処理は不可能である。こうしたInefficiencyを極力なくしていくようにと主張しているようにすら読める。

マージンコール

担保コールやDisputeなどのプロセスがHighly Maualであることが問題視されている。ここでもAutomationが重視されている。市場急変によってマージンコールが増えれば、全てのリクエストを捌くことができなくなることが懸念されている。日本やアジアでは、巨額のマージンコールに応える場合には役員クラスの決済が必要といった話が聞かれる。当然データエラーがあるなら精査する必要はあろうが、マージンコールに決済が必要というプロセスは当局から見ればナンセンスである。本項目は「We expect firms to continue to focus on the automation of these margining processes.」 という一文で結ばれている。

担保に関する代替手段

市場急変時に緊急的にその他の担保を受け入れられるようにすべきという主張である。ここはおそらく手配済のところが多いだろう。

通貨スワップに対するリスクアペタイト

この後のいくつかの項目は省略するが最後にこの通貨スワップに関するコメントがある。ストレス時に対応できないほどの大きな通貨リスクを抱えている銀行があると書かれている。特にGeneral Wrong Way Riskを抱えた銀行に対する懸念が大きいようである。期間ミスマッチによりクローズアウト時にポジション解消ができないリスクが懸念されている。日本の顧客に対するドル調達の通貨スワップはまさにこれに当たるので、このポジションがあまり大きくならないように注意が必要というようにも読める。

このように、今回のレターはアルケゴスとはほぼ関係なく、銀行がさらにリスク管理の高度化をする際の指針が示されている。既に多くの銀行が対応を終えているか、進行中なので、アジアでも後れを取らないよう、リスク管理の高度化を加速させる必要があろう。

英国のDear CROレターが日本市場に与えるインパクト

10月5日に英国中銀から大手行のChief Risk Officer宛にカウンターパーティーリスクに関するレターが送られている。これは2021年のDear CEO Letterに続くものだが、Dear CROレターとでも言うのだろうか。英国中銀のフラストレーションが表れているのか、「前回伝えられたメッセージへの対応が完全になされていないのは遺憾である」と辛らつなコメントが見られる。

前回はアルケゴス破綻の後ということで、ファミリーオフィスやヘッジファンド向けのカウンターパーティーリスク管理やプライムブローカーサービスに関するリスク管理の高度化に各行とも力を入れていたが、どうやらそこが懸念の中心ではなかったという書きぶりだ。Bank of Englandが期待していたのは、アルケゴス破綻を受けて、それをその他の商品やビジネスへのRead across、つまり同じ検証をその他の分野でも行うことだったようだ。そしてその中心になっているのはアルケゴス破綻の原因となったEquity Financingではなく、債券部門の証券貸借取引やその他関連取引とされている。つまりレポや通貨スワップがやり玉に挙げられている。

たまたまアルケゴス破綻という事件はあったものの、当局が求めていたのは、それに対応する業務改善ではなく、カウンターパーティーリスク管理全般に亘るより大きなリスク管理の高度化であり、今になって考えてみるとそれはレポと通貨スワップだったと言っているように読める。

12月までにはさらなる改善プランを示さなけれはならないので、おそらくどこの銀行もこのレターへの対応に追われているものと思われる。そしてこのレターに書かれていることを考慮することが、今後のリスク管理に不可欠になっていくのは間違いない。海外ではコンサルティング会社も含めてかなりの作業を進めているようであり、業界スタンダードが確立されつつあるように思う。過去にも同じようなことが何回かあったが、その都度日本やアジアの銀行の対応が遅れ、いつの間にかインダストリースタンダードが出来上がってしまっていた。したがって、日本でもこの内容に注意を払っておく必要がある。

例えば、日本では長年カレントエクスポージャー方式に近い想定元本×%でデリバティブのリミット管理をするところが多かったが、海外ではPEによって枠管理をするのが標準となっていた。日本だけ信用リスク管理の手法が異なってしまったのだが、規制のグローバル化にも注意を払っておく必要がある。今回のレターでは、PE方式の不十分性を強調しており、何らかのストレステストを枠管理に導入することを提唱している。といってもこれは最初のDear CEO Letterにも書かれていたので、すでに大手行の間では主流になっており、すでに導入を終えているところが多いものと思われる(ただし日本ではあまり聞かれない)。MPORの厳格管理もすでにモデル変更を行っているところが多いだろう。

今回フォーカスとなったレポについては、昨年後半から海外ヘッジファンドによるJGBショートに絡む取引が多くなり、流動性がひっ迫した。日銀が国債買い入れを増やしたため、レポ市場も激しくひっ迫した。通貨スワップについては、ドル調達が常に日本の当局からの懸念事項として挙げられているが、そのサイズも無視できないサイズになっている。その意味ではグローバルバンクでも日本のリスクについての注目が高まっている。集中リスクについても重要な課題とされているが、日本のJSCCに集中したレポ取引はかなりのサイズになる。

また、通貨スワップについては、今回のLetterでも誤方向リスクについて言及されているが、日本の市場参加者がドル調達をする場合にグローバルバンクと行う為替スワップや通貨スワップは、グローバルバンクから見るとGeneral Wrong Way取引となる。したがって、状況によっては、そのキャパシティに制約がかかる事態が容易に想像できる。

このように、英国当局からのレターは、日本のマーケットについても極めて重要な内容を含んでいるため、詳細な内容については後ほど別記事でさらに詳しく見ていきたい。