クリアリングにおける執行と清算の分離について

米国債のクリアリング規制が来年末に導入される(レポは6ヶ月遅れ)が、それをどのようにクリアリングするかに注目が集まる。金利スワップなどのOTCデリバティブ取引の場合は、ディーラーが取り次ぐクライアントクリアリングが一般的だが、国債やレポの場合は異なる方式が採られている。OTCだと執行と清算が分離されているが、米国債やレポだとこの分離がない。

クリアリングを通さないOTCのプライムブローカーの場合もそうだが、Execution Brokerと顧客が取引すると、その取引がClearing Brokerに引き継がれる。これをGive upというが、事前にGive upに関する契約を締結しておくことにより、この顧客はディーラーの信用力で取引ができることになる。

つまり、Execution Brokerは、ヘッジファンドとではなく、JPMやGSといった大手行との取引としてリスクを取ることになる。顧客の信用リスクではなくClearing Brokerである大手金融機関の信用力に依拠して取引ができるので、非常に使い勝手が良い。

Give up後は、Execution BrokerとClearing Brokerの間に取引が立つことになり、顧客のリスクはClearing Brokerが引き受けることになる。リスクマネージャーとしては、リスクを取らずに取引できるのだから、Clearing Brokerなどにならずに、すべてExecution Brokerとして取引すれば良いのにと思ったくらいだ。

逆に言うと、Clearing Brokerになっていると、ヘッジファンドが他社と行った取引がGive upされてくる。自分で取引をしていないにもかかわらず、そのヘッジファンドのリスクだけ取ることになるのだから、フィーを十分に取らないと多大な信用リスクを抱えることになる。

Clearing Broker はプライムブローキングの手数料を取って収益を上げるのだが、顧客がデフォルトすると大きな損失を被る。といってもプライムブローカーの競争が激しかったため、この手数料は格安に放置されてきた。ここ数年、こうした信用リスクが顕在する事件が何件か起きたため、この手数料見直しの動きがある。

クリアリングについてもこれと同じような状況になりつつある。特にスワップなどのOTCでは、Clearing Brokerであることを理由にExecutionも集中させるというのが実質的に規制で禁じられており、他社からGive Upされてきた取引をClearing Brokerのトレーダーが見れないようなWallが設けられるのが一般的である。

Clearingサービスを提供するにもかかわらず、取引執行に際してメリットがゼロなので(顧客の心理的にはクリアリングをしてもらっているところと取引を使用という心理は若干働くかもしれないが)、クリアリングのコストはフィーで賄われなければならない。

しかしである、来年からクリアリングが義務付けられる米国債については、このClearingをすることによってExecutionを取るということが可能になっている。これはOTCとは大きな違いであり、最初聞いたときは不思議に思ったのだが、商品の生い立ちの違いなのかもしれない。SECからもこの「抱き合わせ販売」を禁じるコメントはなく、FICCのルールブックにも何の変更もないとのことである。

FICCは数年前からSponsored Modelというものを導入してOTCのクライアントクリアリングのような顧客向けクリアリングサービスを提供している。現在このシェアは13.4%とのことだが、銀行にとっても資本コストが下がるため、一定のニーズがある。ただし、このサービスはClearingとExecutionの抱き合わせを前提としており、別ディーラーでExecuteされた取引は対象外となっている。OTCに慣れた身からすると何とも不思議な仕組みなのだが、銀行にとってはありがたいのかもしれない。

おそらくこのままの形で清算集中の義務付けへと進むのだろうが、早晩これが議論になり、OTCのようにClearingとExecutionを分ける方向に進んでいくのだろう。とは言え、それが立法化されるには、現在の理解度だと5年くらいはかかるかもしれないが。