ローンヘッジが一般化してきた

CVAヘッジのためにCDSが本格的に使われ始めて20年近くたつが、これがローンの世界にも広がってきた。CVAは日々値洗いされるため、CDSでヘッジしておけば日々のPL変動が避けられる。しかし、ローンの場合は日々時価評価が変わらない一方CDSの時価だけが変動してしまうため、日々のPLに極度の注意を払う欧米行では、これが大きなネックとなっていた。とは言え、日本のようなマーケットでは、CDSがローンヘッジに使われているところもあり、日々のPL変動を気にしなければ、実質的にはヘッジになっているため、特にこれが問題という訳ではない。

最近欧州銀行を中心に使われているスキームはSRT(Synthetic Risk Transfer)と言われており、主なリスクの引き受け先はバイサイドとなる。投資リターンを上げなければならないバイサイドは、10%とか20%のリターンが得られるなら、こうした資産に投資するインセンティブがある。一方銀行にとっても、バーゼルIIIの最終化もあって資本規制が厳しくなる中、クレジットリスクを減らすことができればRWAの削減にもつながるため、双方にとってWin Winとなる。特に標準法のもとでは、クレジットリスクはかなり大きな資本コストとなるため、リスクが減らせれば資本上のメリットは大きい。

本来であればローン自体を売ってしまえば、様々なオペレーショナルリスクやベーシスリスクを抱えることなくリスクを削減することができる。しかし、銀行としては顧客との関係性を重視するため、貸出金を他に売り払うことはなかなか難しい。SRTによってリスクを減らせれば、顧客関係を損なうことなく資本削減を図ることがj可能になる。

昔から、こうしたリスク削減は欧州系が盛んに行っていた。各種トリガーを時価評価に反映させたり、当初証拠金に現金以外の担保を含めてVA(評価調整)を減らしに行ったりという提案は、たいてい欧州系から寄せられていた。今回も欧州での動きが活発だが、Basel III Endgameの行方次第では米銀の参入も活発になるかもしれない。

とは言え、こうした商品にありがちなのだが、実際にデフォルトが起きた場合に投資家が何とか支払いを避けようという動きも出てくる。CDSのようにDCがデフォルト判定を行うプロセスが確立していれば問題ないが、SRTの場合は契約や事務手続きがすべてBespoke(ディール毎に仕立てられた独自のプロセス)となる。特に日本では、金利減免や返済猶予が他国よりは頻繁に行われ、そのほとんどがプライベートで行われるので、デフォルト判定が難しい。銀行が、SRTでヘッジしている場合だけ、金利減免や返済猶予をせずにデフォルトにもっていくということが起きてしまうかもしれない。

しかし、資本規制が年々強化されていく環境の中、こうしたリスク分散ツールが存在することは、金融が円滑に機能するためには望ましいことである。日本においても、会計士、当局を交えてWorking Groupなどを組織して、信用リスクの移転が透明性高く行えるようになれば、全体としてのリスク許容度が上がり、必要なところに資金が流れるようになるかもしれない。

金利が動いたときに自動的にレポをする取引

もう10年くらい前に書いた記事だが、担保契約の違いを利用してレポ取引をする方法を紹介したことがある。英国のギルトショック時に担保拠出のために国債の売却を余儀なくされたアセマネが多かったことから、今般この手法についての報道が見られた。Collateral Switch という名前で紹介されている。

仕組みはいたって簡単だ。以下のようにBack to Backで金利スワップ(IRS)を行い、金利変動時には現金をA銀行から受け取り、国債担保をB銀行に出せるようにしておけばよい。Back to Backなのでマーケットリスクはゼロだが、カウンターパーティーリスク、IMコスト、資本コストがどれくらいかかるかは確認しておく必要はある。

自社がA銀行から固定金利を受けるIRSを行えば、金利低下時にA銀行に勝ちポジションを持つ。そしてA銀行から現金担保を受け取る。反対のB銀行に対しては負けポジションとなるので、国債を担保に出す形になる。

逆にA銀行に固定金利を払えば、金利上昇時にA銀行から現金担保を受け取り、B銀行に国債を出す。つまりギルトショックのような金利上昇時に国債を現金に換えるというレポ取引が自動的にできることになる。金利変動時に必要になる担保金額に応じてIRSのサイズを調整すれば、金利上昇時に現金が足りなくなって国債を売却する必要がなくなる。もちろん、金利が想定と逆方向に動いた場合には国債を受け取って現金を拠出しなければならない。

だが、このような仕組みを作っておけば、金利上昇時に突然レポで現金を取りに行ったりする必要がなくなるのでメリットは大きい。

こうして考えると完璧な仕組みのように思えるのだが、10年前に提唱した時は、ほとんどこれを実行に移すところは見たことがなかった。良い案ですねとは言われるのだが、実際に普段必要もないスワップを執行するまでではないという反応だった。しかし、ギルトショックを経て担保売却を余儀なくされたファンドの中では、今回こそ本気で検討しているところがありそうだ。

これは何も金利スワップだけでなく、為替やコモディティでも可能である。CCPとの取引、SwapAgentとの取引なども組み合わせて、あらゆる取引を最適化することも可能だ。現金以外のCSAはコスト高になる傾向があるが、国債や社債担保に抵抗感のない中堅銀行、日本、韓国、中国などの銀行と取引をすれば比較的安く取引ができる可能性はある。逆に言えば、銀行サイドはこうしたコストを取引にきちんと反映しておく必要がある。