信用リスク移転マーケットの拡大

CDSの流動性が低い日本では、以前からCVAのヘッジにCLNが使われるケースがあった。クレジットイベントに相対のISDA契約の下での取引のevent of default を加えるForth trigger CDSの形だ。通常はiTraxx Japanでヘッジするのが一般的なのだが、以前はCapitalのReliefも少なかったため、何とかカウンターパーティーリスクを完全に消そうという努力が行われていた。Indexのヘッジ効果が50%認められる可能性のある今では、そこまで頑張ってヘッジする必要はないかもしれないが、それでもデフォルトリスクをダイレクトにヘッジできるメリットは大きい。

対象会社は、そこそこの規模の会社だが、CDS市場での取引が行われていないところとなる。一方CDSの流動性はないものの、社債が流通しているため、ディーラーによっては、Bespokeにマーケットを作ってヘッジをすることもあった。また、複数の銀行が、それぞれに集中しているリスクを交換しあうというアイデアも検討されたが、実際に約定にまで至ったケースは少ないだろう。

CDSやCLN、保証などを使ってこうしたクレジットリスクのポートフォリオのリスク分散を図ることは可能である。こうした場合いつも守秘義務のハードルが立ちはだかるが、CDSでサイレントにヘッジすることが可能なのだから、第三者が間に入ってリスクの最適化をすることは可能なのではないかと思われる。

このようなリスク外しのニーズがある一方で、日本でよく知られた会社のリスクならとっても良いという参加者がいるのも事実である。だからこそ日本ではCLNが比較的盛んに取引される。ネックになるのは会計で、日々時価評価をすることを嫌うところが多い。満期保有にしてPLが日々ブレないようにしたいというニーズが良く聞かれる。その意味ではCDSよりはCLNや保証の方が好まれるマーケットである。

一方米国では、FRBが昨年2023年9月28日のFAQで、ローンの信用リスクを移転するCRT(Credit Risk Transfer)にCapital Reliefを与える道を開いた。実はドイツなどの欧州やカナダではこうしたCRTは広く行われていたのだが、米国では数年前にRegulation Qを保守的に解釈するようになったため、あまり取引が行われてこなかったという経緯がある。

ディール毎に承認を得るのは非現実的であったが、昨年から、一定の条件を満たせば個別承認を省略できる可能性が高くなった。銀行向けのレターによれば、CLNの合計残高が$20bnまたは銀行の資本の100%のどちらか低い方を上回らない限り、毎回承認を取りに行く必要はないとされている。

さらに今般大手銀行のみならず、米地銀5行に対しても同様の承認が与えられた。昨年からのディール数も増えていることから、今後CRTマーケットが大きな注目を集めるようになるかもしれない。そして、このリスク移転のガイドライン緩和に際しては、CDSのみならず、日本で好まれる保証形態も含まれている。こうなると、ISDAの下でのCDSや時価評価を避けたい投資家へとすそ野が広がるかもしれない。海外ではPEファンドなどがメインだが、日本では地銀などもこうした投資を行うようになっていくかもしれない。