Basel IIIで内部モデルは存続できるのか

バーゼル3FRTBの最終化を控えて、内部モデルか標準法かという議論が注目されているが、欧州3行が内部モデルを検討中とRisk.netで報道された。これまでカナダ、日本と標準法を採用する銀行ばかりだったため、ぼぼ初めて大手行の内部モデル検討のニュースとなる。内部モデルは部分適用が可能なので、どの商品で内部モデルが採用されるのかに注目が集まる。

先日のISDA AGMでも、内部モデルへの移行を望むようなコメントが日本の当局サイドからもあったが、本邦でも一定程度内部モデルを適用する動きが今後出てくるかもしれない。最も注目が集まるのは米国だが、これまでのところ米国ルールが最も厳しくなっており、すべて標準法にしてしまうと所要資本が倍近くになり、かなりのビジネスが立ち行かなる水準になっている。そのため、業界各方面から見直しを望む声が上げられているのだが、今後どの程度の緩和が公表されるのかに注目が集まる。

内部モデル適用には様々なハードルがあるが、データ収集などに巨額のコストがかかる割に資本削減幅が不十分という意見も多い。現在内部モデルの利用は全体の8割を超えているが、今後のコストを考えるとこれが3割程度に減るというアンケート結果もある。クライアントクリアリングなど、コストが80%上がるというISDAの分析結果もあり、全世界がクリアリングを推奨する方向に進む中、それを支えるブローカー不足が深刻な問題になりかねない。また、Risk.netでも指摘されているPLAテストにはかなりのリソースが必要になるだろう。PLAはPL Attribution の略だが、日々の収益がどのようにして得られたかを要因分解するものである。

前日末のポジションに当日のマーケット変動を当てはめれば、おおよその損益が計算できるという理論なのだが、これがなかなか難しい。特に新規取引から上がった利益と、市場変動による利益を分けるのが困難だ。取引をビッドオファーほぼゼロで行い、その直後に市場が急速に変動して損失が出た場合、それが新規取引によるものなのか、それともトレーダーのポジショニングが悪かったために市場変動から生じた損失なのか、非常にグレーである。

当然トレーダーとしては、自分の腕が悪かったために損失が出たと言われるのは心外だろうし、そんなフローを持ってきたやつが悪いということで、トレーディング損失というよりは新規取引による損失に入れたくなるだろう。トレーダーとしては、顧客取引からのマークアップを極力低くし、自分のトレーディングによって稼いだと言える部分を増やしたいという心理が働く。しかし、ボルカールールが導入された今では、純粋なトレーディング収益は、表向きあってはならないはずであり、すべては顧客のフローに関係しているはずである。また、非線形のリスクやクロスガンマ効果など、PL Attributionを完璧に出すのは困難ということは皆よく理解している。

日本でもバブル崩壊後に見られたことだが、どうも米国では政治家が金融機関の味方とみられるのを嫌がる雰囲気があるように思う。巨大銀行に厳しくしておけば世論のサポートを得られやすく、支持率上昇にもつながるということなのかもしれない。その意味では日本の金融規制は、現実に合わせてうまく手綱さばきができていると言えるのかもしれない。

クリアリングにおける執行と清算の分離について

米国債のクリアリング規制が来年末に導入される(レポは6ヶ月遅れ)が、それをどのようにクリアリングするかに注目が集まる。金利スワップなどのOTCデリバティブ取引の場合は、ディーラーが取り次ぐクライアントクリアリングが一般的だが、国債やレポの場合は異なる方式が採られている。OTCだと執行と清算が分離されているが、米国債やレポだとこの分離がない。

クリアリングを通さないOTCのプライムブローカーの場合もそうだが、Execution Brokerと顧客が取引すると、その取引がClearing Brokerに引き継がれる。これをGive upというが、事前にGive upに関する契約を締結しておくことにより、この顧客はディーラーの信用力で取引ができることになる。

つまり、Execution Brokerは、ヘッジファンドとではなく、JPMやGSといった大手行との取引としてリスクを取ることになる。顧客の信用リスクではなくClearing Brokerである大手金融機関の信用力に依拠して取引ができるので、非常に使い勝手が良い。

Give up後は、Execution BrokerとClearing Brokerの間に取引が立つことになり、顧客のリスクはClearing Brokerが引き受けることになる。リスクマネージャーとしては、リスクを取らずに取引できるのだから、Clearing Brokerなどにならずに、すべてExecution Brokerとして取引すれば良いのにと思ったくらいだ。

逆に言うと、Clearing Brokerになっていると、ヘッジファンドが他社と行った取引がGive upされてくる。自分で取引をしていないにもかかわらず、そのヘッジファンドのリスクだけ取ることになるのだから、フィーを十分に取らないと多大な信用リスクを抱えることになる。

Clearing Broker はプライムブローキングの手数料を取って収益を上げるのだが、顧客がデフォルトすると大きな損失を被る。といってもプライムブローカーの競争が激しかったため、この手数料は格安に放置されてきた。ここ数年、こうした信用リスクが顕在する事件が何件か起きたため、この手数料見直しの動きがある。

クリアリングについてもこれと同じような状況になりつつある。特にスワップなどのOTCでは、Clearing Brokerであることを理由にExecutionも集中させるというのが実質的に規制で禁じられており、他社からGive Upされてきた取引をClearing Brokerのトレーダーが見れないようなWallが設けられるのが一般的である。

Clearingサービスを提供するにもかかわらず、取引執行に際してメリットがゼロなので(顧客の心理的にはクリアリングをしてもらっているところと取引を使用という心理は若干働くかもしれないが)、クリアリングのコストはフィーで賄われなければならない。

しかしである、来年からクリアリングが義務付けられる米国債については、このClearingをすることによってExecutionを取るということが可能になっている。これはOTCとは大きな違いであり、最初聞いたときは不思議に思ったのだが、商品の生い立ちの違いなのかもしれない。SECからもこの「抱き合わせ販売」を禁じるコメントはなく、FICCのルールブックにも何の変更もないとのことである。

FICCは数年前からSponsored Modelというものを導入してOTCのクライアントクリアリングのような顧客向けクリアリングサービスを提供している。現在このシェアは13.4%とのことだが、銀行にとっても資本コストが下がるため、一定のニーズがある。ただし、このサービスはClearingとExecutionの抱き合わせを前提としており、別ディーラーでExecuteされた取引は対象外となっている。OTCに慣れた身からすると何とも不思議な仕組みなのだが、銀行にとってはありがたいのかもしれない。

おそらくこのままの形で清算集中の義務付けへと進むのだろうが、早晩これが議論になり、OTCのようにClearingとExecutionを分ける方向に進んでいくのだろう。とは言え、それが立法化されるには、現在の理解度だと5年くらいはかかるかもしれないが。