レポのヘアカットに対する規制強化

レポ取引のヘアカットフロアについては長らく議論されてきたが、当初米国当局が思い描いたプラン通り、徐々に市場慣行に変化の兆しが見られ始めている。

ヘアカットフロアとは、簡単に言うとレポ取引の当初証拠金(IM)に最低所要額を決めるようなものであり、急激な市場変動時にカウンターパーティーリスクを減らすために拠出する追加担保に下限をセットするものである。担保である有価証券を、額面から一定金額カットして評価することからヘアカットと呼ばれる。

証拠金規制によってデリバティブ取引に対してはIMが義務付けられたが、レポ取引は対象外であるため、そのIM(ヘアカット)はリスク管理上の要請というよりは、市場慣行によって決まることも多かった。リーマンショック時に多くのファンドがレポで破綻したが、ここにメスが入っていなかったのは、確かに片手落ちではあった。

とはいえ、なぜか米国以外からは、このヘアカットフロアを導入しようという声が盛り上がってこなかった。米国については、昨年2023年7月27日のバーゼルIII Endgameに、最低ヘアカットについての提案が含まれている。これは、何らかの資産を担保に、銀行が現金や、より信用力の高い証券を貸し出す取引についてヘアカットフロアを導入するというもので、レポのみならず、マージンローンなどのSFT(Security Financing Transactions)が対象となっている。

近年では、ヘッジファンドなどノンバンクセクターが、こうしたSFTによってレバレッジをかけることが問題視されるようになってきたため、米国外でもレポのヘアカットの問題が注目を集め始めたように思う。何らかの市場ストレス時に、こうしたノンバンクが一斉に取引を解約に走ることによって、金融市場に大きな混乱をもたらすことが懸念され始めたからだ。

このヘアカットフロアは、プロシクリカリティを防止するとともに、ヘッジファンドなどが過度にレバレッジを取ることに対する歯止めとなる。ヘアカットフロアを下回るヘアカットで取引をすると、それが無担保ローン扱いになるため、資本コストが格段に上がる。欧州では、ヘアカットフロアというよりは、ヘッジファンドのレバレッジ規制という観点の方が注目されやすいようにも思う。

米国外では、昨年8月に香港当局からもBasel III Endogameに関連したガイダンスが出された。この中にヘアカットフロアも含まれていると言われており、施行時期は2024年7月1日以降となっている。

FSBのペーパー(Implementation of G20 Non-Bank Financial Intermediation Reforms)によれば、4地域でヘアカットフロアのフレームワークが適用になっており、追加でさらに4地域で導入に向けた準備が行われていると書かれている。

英国からは、ヘアカットフロアをBasel III Endgameに含める予定ではないというアナウンスメントは出ていたが、Deal CRO Letterに見られるように、ヘアカットの厳格化を求める方向に舵を切っているように見える。

米国は、以前から欧州や英国には最低ヘアカットなどのレバレッジに制限をかける規制がない点を批判をしてきていた。米国でも米国債レポについて0%ヘアカットの事例は見られてきたが、今般レポの清算集中規制導入の方向性が固まったことから、さらに強く他国に働きかけをしてくることが予想される。こうなると、今後数年間の間に、レポ取引のコストや市場流動性に若干の影響が出てくることが予想される。