為替取引のクリアリングシフトは起きるのか

為替の世界でSA-CCRの影響が大きく騒がれたのが、3年ほど前だった。米系がSA-CCRの先行適用を始めた際に大手行が資本コストをプライシングに入れ始め、一時的に為替マーケットの流動性が低下した。ただし、その後その影響が長く続くことはなく、最近ではあの時ほど大きな話題にはなっていない。

ただし、Basel III End Gameを控え、各行とも資本コストを気にする動きが出てきているという報道が多くなってきた。当時もSA-CCRで資本コストがかさむようになると、クリアリングへの移行が進むのではないかという話があったが、現実にはあまり大きな動きはなかったが、今回こそはという報道も見られる。

そもそも証拠金規制において現物決済為替と通貨スワップの元本交換部分についてIM規制がかからなかったことが、為替の世界でクリアリングが進まなかった最大の原因である。もし為替取引にIM規制がかかっていれば、今頃ほとんどの取引がクリアリングされていたことだろう。しかし、資本コストの制約が大きくなってくると、またクリアリングへの移行を検討するところが増えてきてもおかしくない。

クリアリングへの移行を後押しする要因としてはMPORの削減、STM、ネッティング効果の3つがある。MPORはMargin Period of Riskの略で、担保決済をしてから破綻によってポジションをクローズするまでの期間を指す。この間にマーケットが動いて時価変動が起きれば、その分の担保は入ってこない。通常相対取引では10日をフロアとしてマージンコールの頻度が週次だったりすると、これに調整が加えられる。

取引数が5000を超えたり、流動性の低い取引がネッティングセットに含まれている場合は、このMPORは20日に延びる。こうしたMPORの長い取引については、CCPに移行することによって、MPORが10日まで削減でき、資本賦課を減らすことができる。これとSTMの組み合わせで資本が半分まで削減できるという記事もあった。

そして、CEMでは限定的だったネッティング効果が認められるようになるので、全体で90%もの資本賦課の削減が可能になることがあるとも言われている。ただし、この削減効果は大手行にはメリットが大きいが、バイサイドの投資家には直接のメリットは少ない。ただし、銀行がプライシングに織り込む資本コストが少なくなるので、間接的にプライシング面での恩恵を受ける。

ここで注目されているのがLCHのSmart Clearingだ。これは、相対取引とCCPで清算された為替取引全体を分析し、資本コストが最小になるように最適化プログラムを走らせるというものである。CCPに移行するかどうかは、資本コストの削減幅と、CCPに移すことによる追加の担保コストを天秤にかけることになるが、これを常に最適化するようにCCPにおける取引量を調整できる。

特にすでにNDFの取引がある市場参加者にとっては更にメリットが大きくなる。Basel IIIの最終化の影響が明らかになってくるのが今年の夏ごろになるだろうが、そのあたりから、今度こそ為替取引のCCPへの移行が本格化するかもしれない。