クロスマージンスキームの対象範囲が拡がってきた

米国債の清算集中規制導入を来年末に控えて、米国CCPであるCMEとFICCの複数商品にわたる拡張版クロスマージンスキームが今度の月曜日から始まる。あらゆる取引のCCPへの移行が進むと、当然証拠金所要額が大きくなるが、クロスマージンはその効果を和らげる重要なツールとなる。

国債を買ってそれを先物でヘッジしているような場合、クロスマージンができると必要証拠金が大きく減ることになる。つまり、クロスマージンを提供できるCCPの競争力が格段に上がり、参加者としては、当然マージンのオフセットが大きいところで清算したいと思うので、CCPにとってはなくてはならないツールになりつつある。そして、自らオフセットする商品をすべてカバーできていない場合などは、今回のような複数のCCPにまたがるクロスマージンが効力を発揮する。。中国と香港のCCPが一部マージンを融通しあうスキームを始めたが、今後も複数のCCPにまたがるこういった取り組みは増えていくものと思われる。

日本ではほとんどすべての商品がJPX傘下のJSCCで行われているので、それほどフォーカスにはならないかもしれないが、スワップと国債先物のクロスマージンは実現できているものの、確かレポが対象になっていなかったと思うので、今後はここが課題になるかもしれない。特に英国中銀のDear CROレター移行レポのヘアカットを上げる動きが見られ始めているので、クロスマージンのニーズは高まっている。といっても実際に危機が起きた時は相関関係が大きく崩れ、思ったよりリスクのオフセットが得られないことも多いので、制度設計は慎重に行うべきである。

一方、こうしたクロスマージンは多くの商品を大規模に取引するディーラーに有利であり、一方向のポジションしか持たない中小規模の参加者に対するメリットが少なくなる傾向があるので注意が必要である。また、ヘッジファンドなどは国債、先物、レポのみならず、金利スワップを多用するので、CMEとFICCもSwapをどう取り込んでいくかが課題となる。

CMEのプレゼンテーションによると、CME Cleared Swapについても将来的なMargin Optimizationの対象となっている。こうなるとLCHからSwapをCMEに移す参加者も出てくるかもしれない。また、Approximately 30 Membersが対象となると書かれているが、30となるとほぼ大手の金融機関に限られているようだ。米国では分散化されたポートフォリオを持つファンドも多いことから、これをいかに顧客ポジションに拡大していくかが重要になる。日本では、ヘッジファンドが少なく一方向に傾いたポートフォリオを持つ顧客が多いと思われることから、海外よりはクロスマージンの効果は限られてしまうかもしれない。

日本で最もクロスマージンの効果があるのは、JSCC-LCHベーシスだろう。JSCCとLCHでオフセットしあう取引を持っていると、両CCPに対してマージンを払う必要があるが、リスク自体は極めて小さい。JSCCとLCHが共同してクロスマージンなんてことになると、かなり大きなニュースになるのは間違いない。しかし、現状では両CCPに参加できる海外参加者のみがメリットを受けるので、LCHに日本の参加者に対する円金利スワップが開放されてからの話になるのだろう。