資産運用プログレスレポートが伝える危機感

今年も金融庁から「資産運用業高度化プログレスレポート2023」が公表された。政府サイドでもNISA拡充などのプランがあることからか、かなり突っ込んだ内容になっており、各所で話題になっている。内容は至極もっともであるが、見る人が見ればかなり辛辣な内容ともいえる。

表現はマイルドにはなっているものの、要は以下のようなことを問題視している。

  • 自分の企業グループの商品を売らせて手数料を稼ぐことが目的になっており、顧客本位でない。
  • 顧客の利益よりは、グループ内の人事上の処遇を優先している。
  • 素人が人事異動で担当になるだけで本当のプロが運用していない。経営トップが素人。
  • その時々で話題性のあるファンドを作っては手数料を稼ごうとするため、リターンの芳しくないファンドが量産されコストがかさむ。
  • 独立系運用会社が少なく、ほとんどが大手銀行や証券会社グループに牛耳られている。
  • システムベンダー間の不十分な競争によって資産運用業のコストが高くなっている。

これは、日本の終身雇用、企業系列経営を真っ向から否定しているようにも見える。日本の大企業ではシニア層のポジションを準備するために、系列の会社や取引先の役員等に人をはめ込むことが人事部の大事な仕事の一つとなっている。ジェネラリストを養成するという目的の下で頻繁な人事異動が行われる。OBOGの行き先を増やすためにシステム会社に代表されるグループ企業を量産しており、若干テクノロジーが遅れていたとしてもそこを使わざるを得ない。

システム会社や資産運用会社を新規で立ち上げたとしても、系列企業のサービスを使わざるを得ない日本では、たとえサービスに優れていたとしても算入することが困難である。日本でベンチャーが育たないのは、人材の流動性や資金確保の問題以外に、一度大企業に入ったらその人たちを一生守るという日本の雇用システムに起因しているのかもしれない。

海外からの参入に対しては、日本語対応、日本の法律対応のほか、過剰とも言われる日本のサービス水準についていけず断念するところが多い。こうしてガラパゴス化してしまったために不利益を被っているのは個人なのだろう。

では、海外のサービスを使えば良いのだが、金融庁への登録がない海外証券会社を使うと、上場株を買っても未上場株として税務申告をする必要があったり、損失繰越や損益通算などの税制面において不利益が発生する。世界でこれだけ様々なETFがあるのに、いまだに手数料の高い日本の投信を買わざるを得なくなる。

今回のプログレスレポートはこうした問題点をきちんと把握し、それに対する対応策を模索している。そうしないとNISAを拡充しても大手金融グループを支えるだけで終わってしまうという危機感がにじみ出ている。今後どのような変化が起きるかに注目したい。