米短期市場の混乱の始まり

FRBの利上げ前倒し方針を受けてマーケットがきな臭くなってきた。6/17から、IOER(超過準備の付利)とリバースレポの金利を0%から0.05%に上げたことにより、突然過去最高水準となる7500億ドルを超える資金が、RRP(Reverse Repo Program)を通じて約70社の市場参加者から流入した。お金の行き場に困っていたMMF、政府系企業、銀行が、現金をFRBに預けた格好だ。春先までほとんど使われていなかったこのRRPの金額がここまで急増するのは異例だ。

数か月前からこの資金流入は続いており、1日当たり5000億ドル程度にはなっていたが、今後もこの増加傾向は続きそうで、近いうちに1兆ドルを超えるだろうという声も聞かれる。つい最近までほとんど利用がなかったものがここまで急増したというのは、少し神経質になるべきなのかもしれない。ここ10年くらいのグラフを見ても明らかにこの動きは目立つ。

リバースレポなので米国債を担保に資金を得る方向なので、現金が余り過ぎているか、担保債となる米国債が足りないという理由が考えられる。2月から短期国債の供給が減っているのも影響しているのだろうが、やはりお金があまり過ぎているのだろう。2019年9月にレポレートが急騰してFRBが資金供給を行った時とは反対の流れになっている。

実行FF金利が過去最低水準になっていたため、利上げを想定する声は多かったが、これを受けてFF金利は0.10%まで上昇した。0%から0.25%の範囲に誘導するためなので、パウエル議長は狙い通りとコメントしているようだが、マーケットの現場では明らかに混乱がみられる。

FRBは月間1200億ドルの資産購入プログラムを継続しており、金余りが続いているため、どこかに資金の置き場が必要になっている。銀行融資も実は昨年後半からは増えておらず、企業の資金調達ニーズも減退している。完全に金余りである。コロナショック直後は有事に備えるためかローンが一時的に増加し、企業在庫も増えていたが、昨年からそれは解消され運転資金の必要性もなくなってきた。

ワクチン接種が進み経済活動が再開されれば消費が増え、生産も復活するという見込みだったのだろうが、実はコロナ前には完全に戻らず、消費増が生産増に結び付かないのではないかという懸念も出始めている。確かにリモートで何でもできるということも明らかになり、完全に元に戻るといよりは、ロックダウン時に起きた変化が一定程度継続する可能性は高いだろう。これだけ資金が余っているのなら債券購入プログラムを止めるというのが普通の考え方だが、FRBはそのインパクトにも神経をとがらせているのだろう。

今回は単にリバースレポの金利を0.05%引き上げただけと言ってはそれまでだが、FRBが短期の金利がマイナスになるのを極度に恐れていることの裏返しなのかもしれない。誰もが安全と思っていたMMFの危機につながるかもしれないのである。SLRの一時的緩和を延長しなかったのも事態を悪化させた。

実際の生産活動に比して資金が多すぎると、その調整はインフレに表れてくるはずである。足元のインフレ加速は一時的なものとパウエル議長はコメントしているが、これが続けば緩和修正が早まる可能性があり、その時に株式市場の暴落が始まってもおかしくない。しばらくは短期市場の行方にも注目したい。

LIBOR取引に対するペナルティチャージがかかり始める

CCPで清算された取引について、12月にLIBORからOISへの一括変換作業が行われるが、当局のガイダンスにもある通り、事前に変換が行われることが望ましい。LCHでは、ペナルティという言い方はしていないものの、残ってしまっているLIBOR Swapに実質的には手数料をかけることになっている。大分前から話は出ていたので、事前変換はMUSTだと思っていたのだが、関係者と話をしてみると、このフィーに気づいていない人が多いようで気になった。

詳細はLCHのWebサイトを参照頂きたいが、フォールバックフィーとコンバージョンフィーという二つの手数料によって早期移行を促す仕組みとなっている。フォールバックフィーは、残存LIBOR Swapにかかるもので、コンバージョンフィーは12月の一括変換時にかかるフィーである。

フォールバックフィーは、LIBOR Swapの件数によってチャージされるが、重要なのはこれが毎月取られるという点である。18か月の延長のあったUSD LIBORは除外されているが、JPY、GBP、EUR、CHFについては9月末から一件5ポンドのフィーが取られる。

日本では、面倒なので最後まで待とうという声も聞かれるが、12月に変換作業を行うスワップが多いとオペレーションリスクがあるうえ、こうしたフィーによる収益インパクトもある。CCPで清算された取引については、コンプレッション/Risk Transformationがメインの削減方法になるので、来月以降できるだけ多くの参加者がTriOptimaとQuantileのRunに参加し、Risk Torelenceを上げてLIBOR取引の削減に努める必要がある。

ちなみにこの手数料は直接参加者である銀行のみならずクライアントクリアリングのポジションにも適用される。12月に適用されるコンバージョンフィーについてはまだ開示されていないものと思われるが、早期コンバージョンのインセンティブ付のために、高い水準に設定されたとしても不思議ではない。

LCHがこうしたフィーを導入しているということはJSCCなど他のCCPが追随したとしても不思議ではない。コンプレッションの参加者は特に日本では限定的かもしれないが、今後はこうしたコンプレッションRunに積極的に参加することも重要になる。まずはLIBOR Swapの件数を調べてコストを計算してみるべきだ。わずかなbid offerやブローカーコストに注意を払うトレーダーが、単に手間だからと言ってコンプレッションに参加しないというのは本末転倒である。いや。トレーダーというよりは、資本、ファンディング、証拠金、クリアリングにかかるコストに対して注意を払う部門が必要なのかもしれない。

システム的、オペレーション的に手作業が多く消極的な参加者も多いようだが、海外ではほぼ自動化が進み、通用作業の一つになっている。こうした点でも後れを取らないようにしないと、証拠金負担、資本賦課によって収益性、ROEにおいても海外に後れを取ることになる。これに気づいているクライアントクリアリングの参加者は少ないのではないかと思うが、顧客サイドも早めに準備をした方が良いのではないだろうか。