Brexitにより2021年始より、株式のトレーディングが英国からEUに大きく流れた。1月初日の英国における取引はほぼ半分になったという報道もみられる。もしかしたら本当に英国は金融センターとしての地位を失っていくのかもしれない。基本的にEUの投資家は、英ポンド建て以外のEU株式はEU域内で取引をしなければならない。EUで取引をした方が流動性もあるようだ。こうなるとEUの株式をわざわざロンドンで取引をしようというインセンティブはなくなる。これまでは、Brexitによる雇用減も1万人程度で、大きな影響はないと言われていたが、これが7万5千人になるのではとう報道もあった。
英国の年金資産は6兆ポンドを超えるとも言われており、引き続き重要な市場であることは明らかだが、従来のような地位を享受し続けられるかは定かではない。スイス株の取り扱い、英国におけるソブリンウェルスファンド創設の話もあるが、ロンドンの地位を保つには、80年代に行ったような大規模な改革が必要になるだろう。
デリバティブ取引については2022年6月までの免除規定があるためすぐに変化があるとは思えないが、現物株がEUに完全に映ってしまえば何らかの影響があるかもしれない。EUサイドもEU域内CCPへの誘致を加速させるだろうし、EU域外の資産運用会社にポートフォリオ管理を任せることは禁止されていないものの、昨今のコンプライアンス重視にかこつけて、よりEU域内で完結させるような動きを見せる可能性も高い。
ただし、特にデリバティブ取引や先物取引になると、取引の場所の重要性が低くなる。日本の日経平均先物にしても、株価指数の中では世界3位で、夜間取引で膨大な取引量があり、日本に住んでいなくても取引が可能である。デリバティブ取引も日本で日本時間であったとしてもロンドンの会社として取引が可能であり、あまり地域を考えながら取引をすることがあまりない。
唯一考えなければならないのが規制とライセンスである。日本で取引をする際には金商法に従わなければならないとか、米国ではDodd Frank法、EUではEMIRといった具合に異なる規制によって取引拠点が影響を受ける。つまり、EUが規制を変えてしまえば英国を締め出すことは容易にできてしまう。今でも米国参加者は日本のCCPで円金利スワップを清算できないし、日本の市場参加者が海外のCCPで円金利スワップをする際にも制限がある。
こうした制限は利用者の利便性というよりは、顧客資産保護に対する当局の考え方や、国同士の政治的交渉によって決まる。つまりすべては政治で決まるということだ。現在の欧州の交渉状況を見ていると、英国に不利に動き始めているように見える。一定のEUシフトはこれからも続く可能性がある。