先日Standard CSAのような仕組みで通貨スワップに円担保が出せれば良いのにというコメントをしたが、これは既に可能になっているようだ。Risk.netが報じているように、ドイツのKfWがEURUSDの通貨スワップの変動証拠金(VM)に対してEUR担保を出しているものの、SwapAgentを使うことによってUSDディスカウントが行えるようになったとのことだ。
記事の中では、このTransportation Currencyを使う手法は、きわめて複雑でディーラーサイドにもリスクだというコメントも紹介されているが、10年ちょっと前にStandard CSAの仕組みについてさんざん議論をした人たちにとっては、いまさら何をという感じだろう。当時緊急時にはドルだけでなく円も出せるようにとEmergency Collateral Clauseを入れるべく議論が盛り上がったのが懐かしく思い出される。
当時は証拠金規制の導入によって、Standard CSAは完全に忘れ去られてしまったが、これが後にこのような形で実現するとは誰が予測しただろう。その意味では、SwapAgentの努力は賞賛に値する。
この担保通貨の違いは、日本でも大きな問題になっており、ドル円通貨スワップを行うエンドユーザーにとっては、クロスガンマのヘッジ、流動性の分断もあり、コスト高の一因になっている。ただでさえ、緊急時に備えて確保しておかなければならないドルを担保に出すというのは、日本の市場参加者にとってはハードルが高い。これが円担保でドルディスカウントの通貨スワップの流動性を享受できるのであれば、日本の通貨スワップ市場にとっても朗報である。
現状日本ではSwapAgentの利用はそれほど進んでいないが、これで頻繁に通貨スワップを行うエンドユーザーへと広がる可能性が出てきた。そもそも日本は流動性に比して商品が多すぎてリスクとコストがかさんでしまう構造になっているので、こうした標準化が可能になるのは望ましいことである。これまでは円担保の通貨スワップ市場とドル担保の通貨スワップ市場の流動性が分断されてしまっていたからだ。
確かに拠出された円現金を為替取引によって日々ドルに換える手続きは面倒に思われるだろうが、自動化してしまえば、ある程度対応可能だ。通貨スワップの60-70%がSwapAgent経由になったという意見もみられるので、今後は通貨スワップの主流がSwapAgent経由になっていく可能性が高い。まだ日本での利用は少ないが、円担保が使えるのであれば利用価値が高まる。そしてほとんどの取引がSwapAgentに移れば、CCPベーシスのようにSwapAgent vs. Bilateral Basisなども生まれるかもしれない。
大手行の中でこれに参加しているのはバンカメくらいのようだが、KfWのような大手市場参加者がSwapAgent限定で取引を始めればその他のディーラーも対応せざるを得なくなる。ヘッジファンドでもこれに追随するところが出てくるだろう。そして日本の市場参加者が本格的に参入してくると、いよいよSwapAgent経由の通貨スワップが主流になる。担保コールのDisputeもなくなり、様々なプロセスが標準化されるため、事務コストのかかる日本においても注目が高まってくることになるだろう。