流動性強化は本当に金融の安定につながるのか

SVB破綻、CSの救済などを経て各国当局から規制強化の話が矢継ぎ早に出ている。SVBのレビューなどは日本の新聞でも報道されている。当たり前のことではあるが、LCRとNSFRなどの流動性規制の強化が提案されている。確かにトランプ政権において中小銀行に対する流動性規制の対象範囲が狭められたことは一つの原因だろうが、流動性規制をこれ以上厳格しても本当に意味があるかは不明である。

どこの銀行でも起きている議論だろうが、ストレステストの前提が甘すぎたのではないかということで、各種シナリオの見直しが行われている。金利が突然2%上がったらどうなるか、天然ガスの価格が3倍になったらどうするか、為替レートが30%動いたらどうなるかなど、いくらでもストレスシナリオを増やすことは可能である。

ただ、金利2%変動に備えてカウンターパーティーリスクを制限したり、その分の現金をリザーブしていくとなると、そのビジネスからは撤退した方が良いという結論に近づく。LCRも似たような議論で、掛け目を厳しくしたり、現状の100%要件を200%にすれば良いではないかという単純な議論が出てくる。ただ、これがどこまで行ったらビジネスとして成り立たなくなるかという意見はあまり聞かれない。米国債の場合は2%の変動はさもありなんという感じかもしれないが、これが日本国債にも適用されるとそれは違うのではないかと思うのだが、この状況下ではそれが絶対に起きないと言い切るのも難しい。

特に大手国際行場合は、ディールごとに収益率を計算しており、厳格なROEハードルが存在している。規制が厳格すればさらに米国債の在庫を持ちにくくなるだろうし、レポに対する制限もかかる。そしてそれが市場流動性を脅かしさらなる市場変動を加速させる。

例えば日本の10年国債を5000億円在庫にもった時に金利が200bp上昇すれば、1000億円の損失が出る。個人的には損失が$1bnを超えると確実に国際的なメディアで記事が出てしまうので、1000億円というのは重要な閾値である。そうすると各銀行が5000億円程度しか在庫を抱えられないということになる。実際は200bp変動をベースにリミットを決めている銀行ばかりではないと思われるので、日本ではこれが起きていないが、米国ではおそらくこのような状況になっている。

こう考えると実は日本の規制というのは実によくワークしているのではないか。海外が米国債の評価損のことを騒ぎ立てるずっと前から、地銀の外債投資に関しての懸念は当局が指摘しており、普通に新聞紙上でも話題になっていた。そして、LCRやNSFRなどの比率を調整する前から個別の指導が入っていたことが予想される。一律の基準を決めるよりは個別の状況に合わせながら危機管理をする体制が、バブル崩壊による金融危機を経験することによって確立しているのかもしれない。海外の銀行危機を受けて日本は大丈夫かとう質問が来るたびに、複雑な気分になっている国内のリスク管理は多いのではないだろうか。