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バーゼルのカウンターパーティーリスクマネジメントガイダンス公表

バーゼルから、カウンターパーティーリスクマネジメントのガイドライン「Guidelines of Counterparty Credit Risk Management」が公表されている。特に目新しい内容という訳ではないが、何かイベントがあった場合には、ここに書かれていることを普段から行ってきたかどうかが問われることになるため、自社のリスク管理方針と照らし合わせて項目を確認しておくと良いと思う。

概ね以下のような項目について望ましいベストプラクティスが書かれている。

  • デューデリジェンスとクライアントオンボーディング
  • 信用リスク削減(担保、保証やその他のリスク削減)
  • エクスポージャー管理(エクスポージャーの捉え方、ポテンシャルエクスポージャー、ストレステストとシナリオ分析)
  • ガバナンス(人とカルチャー、リスクフレームワーク、レポーティング、リミットと例外管理)
  • インフラ、データ、システム
  • ポジションクローズアウト(要注意リスト、デフォルトマネジメント)

冒頭にも書かれている通り、このようなリスク管理の強化はLTCMやArchegosの破綻というカウンターパーティーリスクイベントを意識して作られている。その意味では、日本で起きているカウンターパーティーリスク損失というよりは海外ヘッジファンド発のものが念頭にある。とは言え、日本でもこうした海外ファンドとの取引が増えているため、無視できる内容という訳ではない。むしろ、海外に遅れないようにリスク管理を強化すべきセクターとなる。

確かに、日本に比べると海外の方がリスクの高い取引が多く市場のボラティリティも大きい。戦争などの地政学的リスクもあり、最近のコモディティ価格の乱高下もカウンターパーティーリスク管理を一層困難にしている。海外で業務を行う金融機関に対しては、こうしたガイダンスに注意を払い、リスク管理を継続的に高度化していくことが望まれる。

このガイダンスでも人の重要性が強調されているが、リスク管理に通じたプロフェッショナルを十分に配置し、それをトップマネジメントに報告する仕組みづくりが肝要である。ここ数年で、リスクマネージャーに対するニーズは大きく高まってきた。日本に比較して海外の方がリスクマネージャーの社内的立場が弱いと感じたこともあったが、最近では、リスク部門がかなり強力になってきている。それも長年リスク管理に携わってきたプロに対するニーズが高まり、給与水準にも変化が生じてきているようにも思える。

リスク管理の経験のないフロントの人間が、異動や転職でリスクの世界に入ってくるということも以前に比べて少なくなり、本当のプロが求められるようになったということは悪いことではない。とはいえ、規制の要請もあるのだろうが、若干リスク管理が増えすぎて保守的な方向に振れているようにも思える。3線管理は重要なのだが、1線と2線の線引きが曖昧になり、1線の中でもカウンターパーティーリスク、マーケットリスクのみならず、いわゆるNFR(Non Financial Risk)へとリスクの範囲が拡大している。

3線管理の問題は、フロントが商品によって複数部門に分かれているため、債券のリスク管理、株式のリスク管理といった形で、複数のリスク管理者が必要になる点だ。そして今度はそれらの部門すべてのリスクを統括する人が必要なのではないかという議論になる。本来であれば2線が管理してきたところだが、2線から1線にリスク管理をシフトさせているところでは、1線のリスクがだんだん増えていく。といっても2線の要員を減らすわけにもいかず、結果的にリスクを見る人が増えていく。

どこかに最適解があるのだろうが、ここまで規制がきびしくなると、なかなか後戻りはできない。だた、昨今起きているイベントを見ると、人が増えれば解決するという問題でもないのは明らかである。リスク管理の高度化と厳格化は望ましいことなのだが、人の質を保ちつつ、効率的に組織運営をするというのも重要な視点だろう。

信用リスク移転マーケットの拡大

CDSの流動性が低い日本では、以前からCVAのヘッジにCLNが使われるケースがあった。クレジットイベントに相対のISDA契約の下での取引のevent of default を加えるForth trigger CDSの形だ。通常はiTraxx Japanでヘッジするのが一般的なのだが、以前はCapitalのReliefも少なかったため、何とかカウンターパーティーリスクを完全に消そうという努力が行われていた。Indexのヘッジ効果が50%認められる可能性のある今では、そこまで頑張ってヘッジする必要はないかもしれないが、それでもデフォルトリスクをダイレクトにヘッジできるメリットは大きい。

対象会社は、そこそこの規模の会社だが、CDS市場での取引が行われていないところとなる。一方CDSの流動性はないものの、社債が流通しているため、ディーラーによっては、Bespokeにマーケットを作ってヘッジをすることもあった。また、複数の銀行が、それぞれに集中しているリスクを交換しあうというアイデアも検討されたが、実際に約定にまで至ったケースは少ないだろう。

CDSやCLN、保証などを使ってこうしたクレジットリスクのポートフォリオのリスク分散を図ることは可能である。こうした場合いつも守秘義務のハードルが立ちはだかるが、CDSでサイレントにヘッジすることが可能なのだから、第三者が間に入ってリスクの最適化をすることは可能なのではないかと思われる。

このようなリスク外しのニーズがある一方で、日本でよく知られた会社のリスクならとっても良いという参加者がいるのも事実である。だからこそ日本ではCLNが比較的盛んに取引される。ネックになるのは会計で、日々時価評価をすることを嫌うところが多い。満期保有にしてPLが日々ブレないようにしたいというニーズが良く聞かれる。その意味ではCDSよりはCLNや保証の方が好まれるマーケットである。

一方米国では、FRBが昨年2023年9月28日のFAQで、ローンの信用リスクを移転するCRT(Credit Risk Transfer)にCapital Reliefを与える道を開いた。実はドイツなどの欧州やカナダではこうしたCRTは広く行われていたのだが、米国では数年前にRegulation Qを保守的に解釈するようになったため、あまり取引が行われてこなかったという経緯がある。

ディール毎に承認を得るのは非現実的であったが、昨年から、一定の条件を満たせば個別承認を省略できる可能性が高くなった。銀行向けのレターによれば、CLNの合計残高が$20bnまたは銀行の資本の100%のどちらか低い方を上回らない限り、毎回承認を取りに行く必要はないとされている。

さらに今般大手銀行のみならず、米地銀5行に対しても同様の承認が与えられた。昨年からのディール数も増えていることから、今後CRTマーケットが大きな注目を集めるようになるかもしれない。そして、このリスク移転のガイドライン緩和に際しては、CDSのみならず、日本で好まれる保証形態も含まれている。こうなると、ISDAの下でのCDSや時価評価を避けたい投資家へとすそ野が広がるかもしれない。海外ではPEファンドなどがメインだが、日本では地銀などもこうした投資を行うようになっていくかもしれない。

NISAはやはり国内個別株に流れた

日本証券業協会の3月末のNISA口座の開設・利用状況が公開された。先月書いたように、これまで個別株にすでに投資していた投資家が、新NISA開始に合わせて成長枠のポジションを一気に増やしたという仮説を裏付ける形になっていると思う。これまで既に投資を行って資産を築いている投資家にとっては、一気に新NISAの枠を使い切ろうというのは自然な行動だろう。

口座開設は昨年同期比1.3倍、投資額が約3倍となっているが、成長枠での投資額は1月から1.68兆、1.28兆、0.9兆と減速傾向にある。積立枠の方はコンスタントに0.26-0.27兆となっているので、積み立て枠の残高は着実に積みあがっていくことが予想される。

個別株は全体の半分くらいだが、うち9割超が日本株となっている。前月もコメントしたように、NISAが始まると、オルカンや米株インデックスにお金が流れるだけという人が多かったが、実際は日本株へ流入している。ただし、投信だけを見ると海外、内外に分類される投信が多いので、海外に流れているというのもあながち間違いではない。経験の長い投資家が国内株を新NISAへ移行させる動きは当初よりは少なくなるだろうから、今後は国内個別株ではなく海外投信が増えていくことになろう。

為替取引の未来

為替のスポット取引の電子化はかなり進んだが、直近ではフォワードや為替スワップ、NDFにおける取引が急速に増えている。

こうしたスポット以外の1日の取引量は、昨年比2倍近くに増えているというデータもある。フォワードについては、従前3ヶ月未満がほとんどだったが、最近では1年を超えるような取引も増えてきている。今後は為替取引のかなりの部分が電子取引に移行していくだろう。

一方大手ディーラーはスポット取引のInternalizationを進める傾向が顕著になっている。外部の取引プラットフォームで取引を行いマーケットを動かしてしまうよりは、内部で売り買いをマッチングさせることができれば、マーケットインパクトを抑えることができ、取引コストも低減できる。

2016のバーゼルのレポートでは、63%のスポット取引がinternalizeされており、多いところでは90%を内製化している。こうなると、規模の経済が働くようになり、取引量の多い大手銀行が有利になる。為替関連取引からの収益の60%は、上位10銀行が上げているというデータもある。

すると今度は、パブリックプラットフォームでの取引が少なくなり、価格の透明性を低下させる懸念が発生する。内製化を完全に禁じることは難しいだろうが、米国の規制はこうした取引をなるべくパブリックな執行Venueを使うように義務付ける傾向があるので、SwapをSEFで取引させたように、極力パブリックな執行機関経由で取引させる規制が生まれるかもしれない。

アルゴやHFTの台頭もあり、取引を小刻みに分けて行い、マーケットインパクトを減らすという努力も続けられているため、そもそも価格が見えにくくなる要因は内製化に限らない。

ここ数年の電子化の拡がりと、内製化の増加は、今後の為替マーケットの方向性を変えていく可能性がある。しばらく、注意を払っていく必要がありそうだ。

経済制裁とデリバティブ取引の解消

ロシアに対する中国の支援抑制を目指して、米政府が中国の一部銀行に対して制裁措置を検討しているという報道があり、マーケットが混乱した。

国として経済制裁を発動するのは仕方ないが、経済制裁で痛手を被るのは、制裁をかけた側、または関係のない国の市場参加者が不利益を被る可能性が高い。業界としても経済制裁発動時にいかにして市場の混乱を抑えながらポジションを解消していくかどうかについて、完全に準備ができているとは言い難い。

経済制裁に関してはISDAがEconomic Sanctions Program & Derivativesというペーパーを出している。この中で挙げられている架空の事例がとてもわかりやすいのでここで紹介しておく。

とある米銀が架空の国Ruritaniaの銀行NBR(National Bank of Ruritania)とCSAの下で$10bnの通貨スワップを行っていたと仮定して、このRuritaniaに経済制裁がかかったら何が起きるかというシナリオが書かれている。

該当取引は通貨スワップなので、時間差で米銀が架空のローカル通貨であるR$を支払い、NBRが米ドルを支払うことになるが、経済制裁のため、米銀はR$を支払うことができなくなるという想定だ。経済制裁によってローカル通貨であるR$が20%下落して($1=100R$と想定)、米銀は$2bnものエクスポージャーを抱えてしまう。

米国の経済制裁リストはSDN(Specially Designated Nationals)リストと呼ばれるが、ここに掲載された会社とはライセンスなしにビジネスを行うことが禁じられる。当然スワップの支払いをすることもできず、マージンコールさえかけられないという判断になると判断される可能性がある。つまり、有担保の取引が、突然$2bnの無担保エクスポージャーとなり、スワップの決済も受けられなくなる。そして裸のポジションを抱えることになるので、市場変動によってはエクスポージャーが最悪$10bnまで無尽蔵に増えてしまう危険性もある。

経済制裁はおそらくISDAのIllegalityをトリガーするが、ライセンスがないと解約権行使さえも経済制裁の違反となる可能性がある。経済制裁のために米銀がスワップの支払いを行わないと、NBRは支払い不履行を理由にポジション解消をしようとするだろう。そしてそれがISDAのCross Defaultをトリガーし、その米銀のその他の契約の解消をトリガーしてしまう可能性もある。

米銀としては、Illegalityが支払い不履行に優先すると主張することもできるが、Illegalityをトリガーしたとしても結局3営業日のWaiting Periodの後はNBRに解約権が生じる。そして、ポジション解消時にクォートを取るのはNon Affected PartyであるNBRサイドにある。そう。経済制裁では、Affected Partyは制裁リストに入ったNBRではなく、米銀になるのである。

ここで、Illegalityを主張する通知を送ると共に、NBRの支払い不履行を訴える。しかし当然ながらRuritaniaの方も国として敵対する国外への外貨支払いを禁じている可能性が高いため、政府の承認なしには支払いができず、これは支払い不履行ではなく、Force Majeureであると主張する。

また、Illegalityでポジションが解消できれば、これ以上のマーケットリスクを負わないというメリットはあるものの、どの価格で解消するかについて不透明性が残る。この場合、NBRがポジション再構築のために得られるクォーテーションを元に解約することになるが、経済制裁などが起きた直後にローカルマーケットがどのようになっているかは定かではない。したがって経済制裁は、制裁をかけた方の国の企業が、大きなリスクを負うことになってしまうのである。

これがISDAが最低30日間のポジション解消期間であるWind-Down Periodを提唱している理由である。OFAC(米国財務省外国資産管理室)でも30日間はライセンスに猶予期間を設けているので、実際にはポジション解消のための時間が与えられる可能性が極めて高い。

ISDAのガイダンスでも、市場の規模、流動性等に応じてこのWind-Down Periodを十分に取ることが推奨されているため、例えば中国などのケースでは、3か月程度の猶予が与えられることになるように思うのだが、実際どうなるかは誰も保証できない。しかし、ロシアですら3か月の猶予があったことは一つのデータポイントとなる。

とはいえ、経済制裁に備えた準備をするとなると、どうしても最も保守的なシナリオが議論される傾向がある。最悪の状況に備えるのがリスク管理者の仕事なので仕方ないが、Wind-Down PeriodもなくIllegalityにヒットするシナリオを考えると、上の架空の例にあったように、かなり困難な状況が予想される。ただ、そうは言っても今の段階から取引を停止してマーケットを壊すのも得策ではない。

ISDAもこの辺りはよく理解しているため、こうしたホワイトペーパーを出して注意喚起をしているのだが、ある程度政府との調整も必要になるのではないだろうか。少なくともISDAの1992年版を2002年版に変えておく、それが難しい場合にはIllegalityの文言修正をしておく必要はある。また、独自に制裁に備えた文言を入れている市場参加者も増えているので、契約の見直しは急務である。

ローンヘッジが一般化してきた

CVAヘッジのためにCDSが本格的に使われ始めて20年近くたつが、これがローンの世界にも広がってきた。CVAは日々値洗いされるため、CDSでヘッジしておけば日々のPL変動が避けられる。しかし、ローンの場合は日々時価評価が変わらない一方CDSの時価だけが変動してしまうため、日々のPLに極度の注意を払う欧米行では、これが大きなネックとなっていた。とは言え、日本のようなマーケットでは、CDSがローンヘッジに使われているところもあり、日々のPL変動を気にしなければ、実質的にはヘッジになっているため、特にこれが問題という訳ではない。

最近欧州銀行を中心に使われているスキームはSRT(Synthetic Risk Transfer)と言われており、主なリスクの引き受け先はバイサイドとなる。投資リターンを上げなければならないバイサイドは、10%とか20%のリターンが得られるなら、こうした資産に投資するインセンティブがある。一方銀行にとっても、バーゼルIIIの最終化もあって資本規制が厳しくなる中、クレジットリスクを減らすことができればRWAの削減にもつながるため、双方にとってWin Winとなる。特に標準法のもとでは、クレジットリスクはかなり大きな資本コストとなるため、リスクが減らせれば資本上のメリットは大きい。

本来であればローン自体を売ってしまえば、様々なオペレーショナルリスクやベーシスリスクを抱えることなくリスクを削減することができる。しかし、銀行としては顧客との関係性を重視するため、貸出金を他に売り払うことはなかなか難しい。SRTによってリスクを減らせれば、顧客関係を損なうことなく資本削減を図ることがj可能になる。

昔から、こうしたリスク削減は欧州系が盛んに行っていた。各種トリガーを時価評価に反映させたり、当初証拠金に現金以外の担保を含めてVA(評価調整)を減らしに行ったりという提案は、たいてい欧州系から寄せられていた。今回も欧州での動きが活発だが、Basel III Endgameの行方次第では米銀の参入も活発になるかもしれない。

とは言え、こうした商品にありがちなのだが、実際にデフォルトが起きた場合に投資家が何とか支払いを避けようという動きも出てくる。CDSのようにDCがデフォルト判定を行うプロセスが確立していれば問題ないが、SRTの場合は契約や事務手続きがすべてBespoke(ディール毎に仕立てられた独自のプロセス)となる。特に日本では、金利減免や返済猶予が他国よりは頻繁に行われ、そのほとんどがプライベートで行われるので、デフォルト判定が難しい。銀行が、SRTでヘッジしている場合だけ、金利減免や返済猶予をせずにデフォルトにもっていくということが起きてしまうかもしれない。

しかし、資本規制が年々強化されていく環境の中、こうしたリスク分散ツールが存在することは、金融が円滑に機能するためには望ましいことである。日本においても、会計士、当局を交えてWorking Groupなどを組織して、信用リスクの移転が透明性高く行えるようになれば、全体としてのリスク許容度が上がり、必要なところに資金が流れるようになるかもしれない。

金利が動いたときに自動的にレポをする取引

もう10年くらい前に書いた記事だが、担保契約の違いを利用してレポ取引をする方法を紹介したことがある。英国のギルトショック時に担保拠出のために国債の売却を余儀なくされたアセマネが多かったことから、今般この手法についての報道が見られた。Collateral Switch という名前で紹介されている。

仕組みはいたって簡単だ。以下のようにBack to Backで金利スワップ(IRS)を行い、金利変動時には現金をA銀行から受け取り、国債担保をB銀行に出せるようにしておけばよい。Back to Backなのでマーケットリスクはゼロだが、カウンターパーティーリスク、IMコスト、資本コストがどれくらいかかるかは確認しておく必要はある。

自社がA銀行から固定金利を受けるIRSを行えば、金利低下時にA銀行に勝ちポジションを持つ。そしてA銀行から現金担保を受け取る。反対のB銀行に対しては負けポジションとなるので、国債を担保に出す形になる。

逆にA銀行に固定金利を払えば、金利上昇時にA銀行から現金担保を受け取り、B銀行に国債を出す。つまりギルトショックのような金利上昇時に国債を現金に換えるというレポ取引が自動的にできることになる。金利変動時に必要になる担保金額に応じてIRSのサイズを調整すれば、金利上昇時に現金が足りなくなって国債を売却する必要がなくなる。もちろん、金利が想定と逆方向に動いた場合には国債を受け取って現金を拠出しなければならない。

だが、このような仕組みを作っておけば、金利上昇時に突然レポで現金を取りに行ったりする必要がなくなるのでメリットは大きい。

こうして考えると完璧な仕組みのように思えるのだが、10年前に提唱した時は、ほとんどこれを実行に移すところは見たことがなかった。良い案ですねとは言われるのだが、実際に普段必要もないスワップを執行するまでではないという反応だった。しかし、ギルトショックを経て担保売却を余儀なくされたファンドの中では、今回こそ本気で検討しているところがありそうだ。

これは何も金利スワップだけでなく、為替やコモディティでも可能である。CCPとの取引、SwapAgentとの取引なども組み合わせて、あらゆる取引を最適化することも可能だ。現金以外のCSAはコスト高になる傾向があるが、国債や社債担保に抵抗感のない中堅銀行、日本、韓国、中国などの銀行と取引をすれば比較的安く取引ができる可能性はある。逆に言えば、銀行サイドはこうしたコストを取引にきちんと反映しておく必要がある。

米国のクリアリングビジネスに起きている矛盾

Basel III endgameに対する批判の一つにFootnote428があるが、これはクライアントクリアリングのポジションに対してCVAを計算し、資本賦課を行うという提案である。通常米国はエージェントモデルを採用しているため、クライアントとCCPの間に立って取引の相手方になるわけではなく、CCPとクライアントの取引をエージェントとして仲介しているという整理になる。当局からするとクライアントがデフォルトした場合にはCCPにその履行を保証しなければならないので、リスクを取っているという理論なのだろう。

しかし、クライアントが破綻したとしても、クライアントが拠出したIMがあるため、CVAを計算したとしても、それほど大きなリスクになるとは思えない。ただし、資本計算は本来のリスクを見るというよりは、保守的な標準法を適用するところが多くなってきているため、リスクと資本賦課が一致しなくなってきている。これまでは標準法ではCVAが除外されていたのだが、Basel III Endgameではこれをenhanced risk-based アプローチの中で捕捉しようとしている。

そもそも通常の保証であればオフバランスで注記のみの対応となるのに、CVAだけに資本賦課をかけるのは、若干不思議ではある。しかもクライアントのデフォルトリスクは、すでに信用リスク資本として資本賦課が行われている。今回のEndgame見直しではここがどうなるかに注目している。もしCVA資本賦課が必要なら、各銀行でクライアントクリアリングビジネスからの撤退議論が盛り上がることになるだろう。

以前であれば、リーマンブラザーズ証券破綻時にクリアリングのポジションを引き受けようという金融機関があったかもしれないが、新しい資本規制のもとで新たな破綻が起きた場合は、資本コスト増を伴う他社ポジションの引き受けは難しくなると思う。そうなると金融機関破綻後直ちにポジションの解消へと進み、市場変動を更に激しくすることになる。清算集中規制によって、クリアリングのポジションが以前とは比べ物にならないほどに拡大している一方、クリアリングブローカーが減っているため、更に危機に拍車がかかるだろう。

欧州やアジアの当局からはここまでの提案が聞こえてこないが、米国はなぜかクリアリングを推進一方でクリアリングブローカーの負担増を図っており、ブレーキとアクセルを両方同時に踏んでいる。ただ、裏を返せば欧州や日本の金融機関にとってはチャンスなのかもしれない。

Basel IIIで内部モデルは存続できるのか

バーゼル3FRTBの最終化を控えて、内部モデルか標準法かという議論が注目されているが、欧州3行が内部モデルを検討中とRisk.netで報道された。これまでカナダ、日本と標準法を採用する銀行ばかりだったため、ぼぼ初めて大手行の内部モデル検討のニュースとなる。内部モデルは部分適用が可能なので、どの商品で内部モデルが採用されるのかに注目が集まる。

先日のISDA AGMでも、内部モデルへの移行を望むようなコメントが日本の当局サイドからもあったが、本邦でも一定程度内部モデルを適用する動きが今後出てくるかもしれない。最も注目が集まるのは米国だが、これまでのところ米国ルールが最も厳しくなっており、すべて標準法にしてしまうと所要資本が倍近くになり、かなりのビジネスが立ち行かなる水準になっている。そのため、業界各方面から見直しを望む声が上げられているのだが、今後どの程度の緩和が公表されるのかに注目が集まる。

内部モデル適用には様々なハードルがあるが、データ収集などに巨額のコストがかかる割に資本削減幅が不十分という意見も多い。現在内部モデルの利用は全体の8割を超えているが、今後のコストを考えるとこれが3割程度に減るというアンケート結果もある。クライアントクリアリングなど、コストが80%上がるというISDAの分析結果もあり、全世界がクリアリングを推奨する方向に進む中、それを支えるブローカー不足が深刻な問題になりかねない。また、Risk.netでも指摘されているPLAテストにはかなりのリソースが必要になるだろう。PLAはPL Attribution の略だが、日々の収益がどのようにして得られたかを要因分解するものである。

前日末のポジションに当日のマーケット変動を当てはめれば、おおよその損益が計算できるという理論なのだが、これがなかなか難しい。特に新規取引から上がった利益と、市場変動による利益を分けるのが困難だ。取引をビッドオファーほぼゼロで行い、その直後に市場が急速に変動して損失が出た場合、それが新規取引によるものなのか、それともトレーダーのポジショニングが悪かったために市場変動から生じた損失なのか、非常にグレーである。

当然トレーダーとしては、自分の腕が悪かったために損失が出たと言われるのは心外だろうし、そんなフローを持ってきたやつが悪いということで、トレーディング損失というよりは新規取引による損失に入れたくなるだろう。トレーダーとしては、顧客取引からのマークアップを極力低くし、自分のトレーディングによって稼いだと言える部分を増やしたいという心理が働く。しかし、ボルカールールが導入された今では、純粋なトレーディング収益は、表向きあってはならないはずであり、すべては顧客のフローに関係しているはずである。また、非線形のリスクやクロスガンマ効果など、PL Attributionを完璧に出すのは困難ということは皆よく理解している。

日本でもバブル崩壊後に見られたことだが、どうも米国では政治家が金融機関の味方とみられるのを嫌がる雰囲気があるように思う。巨大銀行に厳しくしておけば世論のサポートを得られやすく、支持率上昇にもつながるということなのかもしれない。その意味では日本の金融規制は、現実に合わせてうまく手綱さばきができていると言えるのかもしれない。

クリアリングにおける執行と清算の分離について

米国債のクリアリング規制が来年末に導入される(レポは6ヶ月遅れ)が、それをどのようにクリアリングするかに注目が集まる。金利スワップなどのOTCデリバティブ取引の場合は、ディーラーが取り次ぐクライアントクリアリングが一般的だが、国債やレポの場合は異なる方式が採られている。OTCだと執行と清算が分離されているが、米国債やレポだとこの分離がない。

クリアリングを通さないOTCのプライムブローカーの場合もそうだが、Execution Brokerと顧客が取引すると、その取引がClearing Brokerに引き継がれる。これをGive upというが、事前にGive upに関する契約を締結しておくことにより、この顧客はディーラーの信用力で取引ができることになる。

つまり、Execution Brokerは、ヘッジファンドとではなく、JPMやGSといった大手行との取引としてリスクを取ることになる。顧客の信用リスクではなくClearing Brokerである大手金融機関の信用力に依拠して取引ができるので、非常に使い勝手が良い。

Give up後は、Execution BrokerとClearing Brokerの間に取引が立つことになり、顧客のリスクはClearing Brokerが引き受けることになる。リスクマネージャーとしては、リスクを取らずに取引できるのだから、Clearing Brokerなどにならずに、すべてExecution Brokerとして取引すれば良いのにと思ったくらいだ。

逆に言うと、Clearing Brokerになっていると、ヘッジファンドが他社と行った取引がGive upされてくる。自分で取引をしていないにもかかわらず、そのヘッジファンドのリスクだけ取ることになるのだから、フィーを十分に取らないと多大な信用リスクを抱えることになる。

Clearing Broker はプライムブローキングの手数料を取って収益を上げるのだが、顧客がデフォルトすると大きな損失を被る。といってもプライムブローカーの競争が激しかったため、この手数料は格安に放置されてきた。ここ数年、こうした信用リスクが顕在する事件が何件か起きたため、この手数料見直しの動きがある。

クリアリングについてもこれと同じような状況になりつつある。特にスワップなどのOTCでは、Clearing Brokerであることを理由にExecutionも集中させるというのが実質的に規制で禁じられており、他社からGive Upされてきた取引をClearing Brokerのトレーダーが見れないようなWallが設けられるのが一般的である。

Clearingサービスを提供するにもかかわらず、取引執行に際してメリットがゼロなので(顧客の心理的にはクリアリングをしてもらっているところと取引を使用という心理は若干働くかもしれないが)、クリアリングのコストはフィーで賄われなければならない。

しかしである、来年からクリアリングが義務付けられる米国債については、このClearingをすることによってExecutionを取るということが可能になっている。これはOTCとは大きな違いであり、最初聞いたときは不思議に思ったのだが、商品の生い立ちの違いなのかもしれない。SECからもこの「抱き合わせ販売」を禁じるコメントはなく、FICCのルールブックにも何の変更もないとのことである。

FICCは数年前からSponsored Modelというものを導入してOTCのクライアントクリアリングのような顧客向けクリアリングサービスを提供している。現在このシェアは13.4%とのことだが、銀行にとっても資本コストが下がるため、一定のニーズがある。ただし、このサービスはClearingとExecutionの抱き合わせを前提としており、別ディーラーでExecuteされた取引は対象外となっている。OTCに慣れた身からすると何とも不思議な仕組みなのだが、銀行にとってはありがたいのかもしれない。

おそらくこのままの形で清算集中の義務付けへと進むのだろうが、早晩これが議論になり、OTCのようにClearingとExecutionを分ける方向に進んでいくのだろう。とは言え、それが立法化されるには、現在の理解度だと5年くらいはかかるかもしれないが。

Basel III緩和について

Basel III endgameに関して、G-SIB surchargeを緩和するというCFTC議長のコメントがRisk.netで紹介されている。これは今週三日間に渡って開催されたISDAの年次総会でのコメントだが、こうやって報道されるとかなり市場関係者に期待を与える内容となっている。

実際に会場で発言を聞いていた時には、ここまで強く発言したような印象は受けなかったのだが、確かに報道されたような発言はあった。やはり発言の一部を文字にすると若干印象が異なるということを再認識した。

クリアリングが望ましいことであることには疑問の余地はなく、それを推し進めて行きたいというのは本音だろう。クリアリングのエージェントモデルがこれまでと同様の扱いになるのであれば、クリアリングブローカーにとっては朗報である。

規制がここまでクリアリングへのシフトを促しており、米国債やレポの清算集中規制も導入されるが、その一方でクリアリングの資本チャージを増やすというのは矛盾している。質問の仕方がうまかったのかもしれないが、さすがにクリアリングをリスキーなものとして資本チャージをかけるという論理はなかなか説明が難しい。

今後2、3ヶ月の間に最終修正案が固まるとの発言があった。この記事よりは若干悲観的にみているものの、少なくとも何らかの緩和策は出てくるだろうから、今後の動向に注目が集まる。

それにしてもISDAの年次総会は相変わらず活況であり、デリバティブの世界ではやはり一年に一度の一大カンファランスと言ってよいだろう。円安の影響もあるが参加費もISDAメンバーで25万円程度、メンバー外で30万円近くと高額になり、スポンサーに求められる金額も相当なものである。その分内容は充実しており、業界関係者のネットワーキングもできるので非常に有意義であった。色々とコストが厳しい世の中だが、長く続けてもらいたいものである。来年はアムステルダムだが、できれば参加してみたいものだ。

担保のための流動性確保に関するFSBレポート公表

先週4月17日に、マージンコールに備えた流動性確保に関する市中協議文書がFSBから公表された。昨今急激な市場変動により巨額のマージンコールが発生し、それによって危機が増幅したため、その対応策を主に8つにまとめての提案している。いずれも理にかなっており、市場参加者が直ちに対応しなければならないことばかりだ。ただし、それをどのように達成するかは、当然ながら各参加者の創意工夫に委ねられている。

今回の分析はNBFIにフォーカスを当てているが、このセクターは様々な種類の参加者がおり、規制も銀行のように一律でかけにくいので、その対応にもばらつきが生じがちである。

ここで問題になるのは比較的規模の大きなバイサイドだと、銀行にプレッシャーをかけて適格担保の種類を広げたり、IMを引き下げたりできてしまうという点である。今や大手バイサイドの交渉力はますます強くなっており、SIMMなどの規制IMが適用される場合を除き、IMの引き下げ交渉も頻繁に行われる。しかしこうしたプレッシャーがアルケゴスのような事件を引き起こしたのは確かなので、こうしたrace to bottom が起きないように注意していく必要もある。

今回の提案によってバイサイドは、マージンコールに備えた流動性ストレステストや、突発事象が起きた時のコンティンジェンシープランを策定しなければならない。ここで問題になるのは、5番目の提案にあるextreme but plausible scenariosである。これは言うは易しだか、どの程度かPlausible なのかは非常に難しい問題である。

一昨年のニッケルショックをPlausible なものとして準備していた市場参加者がどのくらいいただろうか。大抵は誰もが想定していなかったような極度な変動が起きるのか常である。では保守的に極端なショックを前提にすると、常日頃からそのための現金担保を用意しておかなければならず、そのためには多大なコストがかかる。過去に起きたほとんどのマーケットショックは、後で振り返ってみればPlausibleだったという人もいるが、過去にはありえないとされたシナリオばかりである。

したがって、Plausible ではない極端なショックが発生した時に何ができるかを考え、ツールを準備しておくことが重要である。これはある意味、火事や地震に備えた保険のような範疇に入るのかもしれない。地震リスクに備えて、全員が海外脱出をしたり、核攻撃に備えて核シェルターを全員が作るのは現実的ではない。

銀行のコミットメントラインや、いざという時に在庫や売掛金を担保に資金調達ができるようにアレンジしておいたり、レポやストックローンのセットアップを作っておくといったことが考えられる。

もちろんバイサイド側もストレステストやシナリオ分析をディーラーやサードパーティのみに頼るのではなく、自ら理解してプランを作っておく必要はある。

昨今では、CCPなどでも当初証拠金のシミュレーションモデルを提供したり、ストレス時の証拠金の情報を提供したりするところが増えてきたが、こうした情報提供も有用だ。

いずれにしても、このFSBのペーパーを見る限り、すべての問題を解決するウルトラCはないというのが正直な感想だ。担保流動性問題について書かれたペーパーは、どれも至極もっともなのだが、特に目新しい提案はないというようにとらえられがちである。危機に備えて流動性ストレステストを行ったり、流動資産を準備したりといった、至極当然のRecomendationに終始してしまうのはある意味仕方がないのかもしれない。

本来であれば、先物やCCPに多くのマーケットを移していき、その取引所なりCCP内で急激な市場変動を抑えるということをしても良いのではないかと思う。例えばサーキットブレーカーなどは頻繁に使われているのだが、これがあれば、マージンコールの金額が急増するのをある程度防ぐことができる。数日間でも時間の余裕があれば、流動性を確保することも可能になる。どうしてもマーケットというのは過剰反応することがあるので、それに対して担保を無限につぎ込んでいくのではなく、こうした市場変動を抑える方策を考えるべき時期に来ているのかもしれない。

以下今回の8提言をリストアップしておく。

  1. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクの評価を、流動性リスク管理およびガバナンスの枠組みに組み込むべきである。
  2. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクに対するリスクアペタイトを決め、極端だがありうるストレス環境下でもマージンコールから生じる流動性ニーズを確実に満たすことができるよう、コンティンジェンシー・ファイディング・プランを策定すべきである。
  3. 市場参加者は、マージンコールに起因する流動性リスクが、特に極端だがありうるストレスシナリオにおいても頑健に管理されることを確保するために、 定期的に流動性リスクの枠組みを見直し、更新すべきである。
  4. 市場参加者は、マージンコールに起因する潜在的な流動性ひっ迫の原因を特定し、決められた流動性リスクアペタイトに合う回復力を確保するために、流動性ストレステ ストを実施すべきである。ストレステストの結果は、適切かつ多様で信頼性の高い担保の水準を決めるために使用されるべきである。
  5. 頑健なストレステストは、市場参加者の全体的な流動性ポジションと同様に、証拠金および 担保コールの変化によって引き起こされる、極端だがもっともらしい流動性ストレスの範囲を 分析すべきである。
  6. 市場参加者は、強靭で効率的なオペレーショナル・プロセスと担保管理プロセスを持 つべきである。
  7. 市場参加者は、十分な水準の現金及び容易に入手可能な資産並びに多様な流動資産を維持し、マージンコールに対応するための適切な担保フローを確立すべきである。
  8. 市場参加者は、ストレス状況下におけるマージンコールの急増に対する十分なオペレーショナル・レジリエンスを確保するため、担保取引におけるカウンターパーティおよび第三者サービス・プロバイダーと積極的かつ透明性のある定期的なやり取りを行うべきである。

リサーチアンバンドリングの撤廃

予想通り、今週水曜4/10に、リサーチアンバンドリング撤廃案が英国当局から公表された。金融の細かい規制については日本の新聞ではあまり詳細に報じられないが、この件だけは、比較的日本の新聞でも記事として扱われる。

市中協議を経て今年前半には最終化される予定だ。英国が撤廃を決めたことで、おそらく欧州も同様の方向に進むだろう。そもそもこの規制は2018年に欧州MiFID IIによって導入された規制だが、当初はリサーチにかかる費用の透明性向上のために、リサーチの料金を取引で賄うことが禁じられた。

以前は営業が顧客サービスの一環として、リサーチレポートを持参して顧客訪問をして、実際の取引に結びつけるというのが一般的な慣行だった。こうしたリサーチレポートは無料で配られていたが、これに価格をつけるとなると、顧客サイドからは、コストを払ってまで入手したいものではないという意見が出て、結局はレポートが減ってしまった。

特に、単独でレポートを購入したいというニーズが少ない小型株などについてはレポート自体がなくなることも多かった。結局はリサーチのカバレッジが減り、リサーチ業界の縮小を招き、必要な情報が投資家に届きにくくなるという弊害が生じた。その意味では、このアンバンドリング禁止令の撤廃は、業界にとって望ましい変更といえよう。

そもそも規制導入当初は、なぜこの規制が透明性向上につながるのかよくわからなかった。日本でも、欧州の事業主体が関わる場合、欧州の会社のレポートを配る場合は、規制対象になるのではないかという混乱が生じた。そのうち、日本でもリサーチペーパーをプリントアウトして持参してはいけない、レポートをメールで送信してはならないといった、数々の制約が生まれた。各種情報提供をすることによって顧客関係を構築し、取引に結び付けるというのはどこの業界でも行われていることであり、金融業界でも、リサーチでなく、単なる個人的見解なら良いのではないかと、かなりの混乱を招いた。

6年は長かったが、ようやく無駄なプロセスが省略できるのは望ましいことである。これで、中小小型株などのリサーチカバレッジが復活して欲しいものである。

マージンコールは銀行貸し出しで

投信ファンドを担保に資金を借り、マージンコールに充てるというスキームの検討が進んでいると報じられている。2022年の英国債ショック時に、マージンコールに応えるために国債の売却を余儀なくされた経験を踏まえて、様々な対策が検討されている。

確かに、市場変動が起きるたびに、与信リスクをカバーするために拠出していた担保を売却するのは現実的ではない。大手であれば国債のレポで資金調達がある程度可能だが、中小ファンドではこれは難しい。レポ取引に対しては、昨年の英国中銀からのCRO向けレターにおいて、ヘアカットやレポのリスク管理強化が求められており、市場に徐々にその影響が表れ始めているような気がする。こうした状況の中、中小ファンドが、ファンドの資産を裏付けに資金調達できるのであれば、市場の安定化にも繋がる。

ただし、レポのような標準的な商品ではないため、GMRAのような標準契約が使えず、相対のローン契約を結ぶ必要がある。今後のためにも、何か標準マスター契約のようなものができれば、利用が拡大するかもしれない。要はマージンコールに備えた担保付きのコミットメントラインのようなもので、急な流動性ニーズに応えるものである。その性質的にも、デリバティブカウンターパーティーが負担するよりも、流動資産を潤沢に持つ銀行が対応する方が理にかなっている。

日本でも同様だが、銀行と証券、あるいは、ローンとデリバティブ取引の間には、何かPhilosophyの違いのようなものがある。それほど頻繁に起きるわけではないものの、銀行だと、支払いが滞った場合には、若干猶予を与えたり、支払いについて交渉が始まったりすることがある。一方デリバティブ取引の場合は、不払いがあれば即座にデフォルト通知を送り、ISDAのタイムラインに従ってポジションクローズとなる。これはFXや為替取引の追証の対応と同じだ。時間的に猶予を与えていると、その間に市場変動が起きて損失額が膨らむ可能異性があるというのが主な理由だろう。

銀行ローンの場合は、少しくらい猶予を与えたからと言って1億円のローンが1億2千万円に増えたりはしない。よくデリバティブカウンターパーティーが苦境に陥った時に銀行の担当者からトリガーを引くのを少し待ってもらえないかという話が出ることが多いが、このような猶予が認められるケースは少ない。

しかし、年金基金やファンドは、急激な市場変動に備えて、巨額の現金を保有しているとファンドのリターンが下がってしまうため、流動性のある資産は極力少なくし、できるだけ投資に資金を回せるようにする。マージンコールのたびに資産を売却していてはあまりにも非効率である。

そして、金融危機の経験から、レポ取引については当局の懸念も大きいため、着々と規制強化が行われている。金融機関サイドも、規制強化によって膨らんだレポの資本コストやバランスシートコストをカバーすることができず、できるだけレポのラインを絞ろうとするのは当然の流れとなっている。

したがって、極力ファンドが持っている資産を担保にマージンコールに応えるための資金を銀行から調達するというのが、最も理にかなっている。事業会社であれば、在庫や売掛金担保でコミットメントラインを確保すればよい。

金融市場を安定させようと思うと、カウンターパーティーリスクを減らすために変動証拠金に加えて当初証拠金を増やすのが手っ取り早い。CCPでクリアされた取引でも同じようにVMとIMが求められている。ただ、事業会社やファンドがそのために現金を確保しておくのは困難であるため、このような担保付ローンは一つの大きな解決策となろう。

やはり円安基調は変わらないのか

米国の年3回の利下げ観測が急速にしぼんできた。現時点では年2回がメインシナリオになり、スワップ市場で織り込まれている予想利下げ幅も60bpになっている。

CFTCのデータを見ても先週更に先物のショートが追加されており、CTAもショートに傾いている。ここまで来ると、チキンゲームで保ってきたロングポジションも限界を迎えるかもしれない。さらなる金利上昇があれば、一気にポジションをカバーしようとする動きによってさらなる金利上昇が起きる可能性もある。

こうなると、なかなか為替も円高には振れにくくなる。しばらくは円安基調が継続する可能性が高くなってきたが、後は介入と日銀の利上げに注目がシフトする。介入ともなれば短期の米国債を売ることも想定されるが、これは米金利の更なる上昇圧力となる。

堅調な雇用統計、原油やゴールドの価格上昇もありインフレを懸念する声が強くなってきたのも背景にあるだろうから、今晩のCPIには大きな注目が集まる。ここで予想を上回れば、これまでの10年4~4.5%のレンジをブレイクし、さらなる金利上昇が起きる可能性がある。一方で、足下ではショートに傾きすぎという意見もあり、CPIの結果次第ではショートスクイーズが起きる可能性も否定できない。

日本でも物価の上昇基調が確認されつつあり、連合が先週公表した平均賃上げ率は5.24%と、33年ぶりの高水準となった。植田総裁も金融緩和の縮小に言及し始めている。円安に対しても、「金融政策の対応をもちろん考える可能性がある」と述べられている。4月の利上げの可能性は低いが、ある程度上げていかないと、円安に歯止めがかからなくなるかもしれない。

新NISAはお金の流れをどう変えるか

JSDAの2024年2月末のNISA口座開設・利用状況が公開された。新NISAが始まりどの程度の資金が流れてきているのか関心が集まっていたが、確かに口座開設、買付額ともに大きく伸びている。

証券会社10社(大手5社、ネット証券5社)を通じた買付額は、1月と2月の2カ月で3.5兆円に上っている。昨年末までのNISAの累計買付額が36.7兆円だったことを考えると、発足2カ月で10%近く増加というのは上々のスタートと言えよう。

内訳をみると、うち85%が成長投資枠で15%が積み立て投資枠となっている。そして、成長投資枠の買付額のうち59%が株式に流れており、何とその91%が国内株とのことだ。

新NISA発足当初は、資金が海外に流れ円安要因になるなどと言う意見が多く聞かれたが、ふたを開けてみると意外と国内株式へと資金が流れている様子がうかがえる。

投資初心者の若年層が入ってくることを考えると、全米インデックスやオルカンなどが増えるという予想が多かったのだが、おそらくこうした買付は金額的には小さかったのだろう。むしろ、投資歴の長いベテラン投資家が枠を使いきるべく一気に買い付けたということなのではないだろうか。

昨年末の資金循環統計を見ると、株式等、債務証券、投資信託で410兆円の残高があり、全体に占める割合は、19%となっている。このうちNISAが35兆円程度で、1月2月のペースが続けばNISA全体が倍の70兆円になることになる。今後はスタートダッシュが若干息切れすることにより、おそらくこれよりは少なくなるだろうが、仮に減速しなかったとしても、全体の割合は19%から21%への上昇にとどまる。

そう考えると、急速に預金から投資への流れるというよりは、数年をかけて徐々に変化が起きていくことになる。しかし、周りで見ても若者のNISA参入が目立っており、今後は確かに投資への流れが加速していきそうな雰囲気はある。引き続き資金の流れの変化に注目が集まる。

英国の決済期間T+1化が確実になった

米国の決済期間T+1化を受けて、英国でも決済期間短縮化のためのタスクフォースが設立され議論が続けられてきた。そのタスクフォースの提案に対する政府コメントが先週3/28に出されている。遅くとも2027年までにT+1化を実現すべきというタスクフォースの意見に対して政府サイドも全面的に支持するという内容だ。同時にT+1化を推進する新たなTenchinical Groupの設立もアナウンスされている。

今回の提案では、2025年の運用変更と2027年末までの完全移行という2段階アプ ローチが推奨されている。まずは2025年に向けて運用の一部変更を義務付け段階的に移行準備ができるようにするというものだ。ただ、当然EUとの平仄を合わせるべきという意見もあるので、同時移行も検討すべきとコメントされている。どうやらT+1化を進めること自体はコンセンサスが取れているようだが、米国とどの程度のラグを設けるか、EUとの平仄をどう取るかといった、タイミングを巡って色々と意見が分かれ、報告が当初より3か月遅れになったようだ。

先週ESMAも、決済サイクルの短縮に対して寄せられたパブリックコメントに関する報告書を公表した。T+1を飛び越えてT+0へ移行することは否定したが、引き続き検討を進め、来年2025年1月17日までに別の報告書を発表することとしている。

これで時期的には少しずれるものの、決済期間短縮化はグローバルで進められる方向性になった。おそらく将来的にはT+0化の話も出てくることが予想される。日本も決済システムの高度化、自動化に対する投資を怠らないようにしておいた方が良いだろう。

資本規制における標準法の広がりと金融リスク管理の将来

米国の本格施行を来年に控えて、Basel III Endgameの話があちこちで聞かれるようになってきた。今回の変更によってかなり大きなインパクトが出るという報道も多いため、どのビジネスが最も割を食うのか、縮小せざるを得ない商品はあるのだろうかという憶測が飛び交っている。ただし、その影響をロジカルに説明している人は少なく、いつものように、Exoticな商品やコモディティなどが厳しい扱いになるのではないかといった、ぼやっとして議論に終始している。

また、市中協議で数多くの批判が寄せられたことから当局も大幅な見直しに言及している。このため、ビジネスミックスの見直しなど、具体的な行動に移せず戸惑っているところが多いように思う。保守的な銀行などでは、これが明らかになるまではリスクを増やさないよう様子見の姿勢を貫くところもあるのではないだろうか。

そんな中で去る一月に適用が始まったカナダでは、内部モデルを使う大手銀行がゼロで、すべて標準法を適用していると報じられた。ただ、少なくとも一行は内部モデル適用に向けて準備をしているということなので、単に準備期間が短かったという可能性もある。とはいえ、内部モデルを構築するコストに照らして、標準法のみを使うという判断をするところも多いものと思われる。

リスクマネージャーとしては、実際のリスク管理手法と資本計算に使われるリスク計測方法が異なるというのは、あまり望ましくない。本当のリスクを見るのではなく、単に想定元本が大きいからといった理由で取引を控えることになる可能性がある。そして、標準法を重視するあまり、本来のリスクを見落としてしまうことが危惧される。

金融業界の中にも、以前のようなデリバティブリスクに詳しい担当者が減り、すべてローンと同じようにリスクを見る傾向が強くなってきているような気がする。当然銀行のトップは複雑な取引に精通しているわけではないので、誰にでも理解がしやすいローンのサイズでリスク判断をしてしまうところも多くなっているのではないだろうか。

2年ほど前に、欧州でも大手行の1行が内部モデルをあきらめたという報道があったが、その後その数は3行に増えている。欧州の内部モデルに関する規則は193ページにも及び、これを満たすには相当のコストがかかるため、コスト増を嫌うところもあるだろう。加えて、内部モデルによる資本削減が制限されるOutput Floorの問題もある。米国のCollins FloorはOutput Floorよりも厳しいため、米国でも標準法を使うところが増えても不思議ではない。

金融市場は、いつもダイナミックに変化している。こうした変化をとらえて標準法をタイムリーに変更できるのだろうか。標準法の弱点を突くような取引が出てこないとも限らず、標準法がリスクカルチャーを醸成する妨げになってしまわないか心配である。標準法が正しくリスクをとらえていない商品などで、巨額損失が出る危険性がないとも言い切れない。コスト削減要請の中、リスクモデルに対する投資が減らされたり、リスクマネージャーを減らす動きが出てくることも予想される。当然銀行自らリスク管理を高度化していかなければならないのだが、単純化された標準法がこうしたインセンティブを削がないよう願うばかりである。

中銀の緊急資金供与とStigma問題

ほとんどの国には、銀行が流動性危機に見舞われたときに一時的に緊急資金供給をするプログラムがある。ただし、これを利用したことが公になると、その銀行が危ないのではないかという憶測を呼ぶという恐れが常に付きまとう。おそらくStigmaという単語の意味を知ったのはこの問題について考えた時だったと思う。辞書では烙印、汚名、不名誉などと訳されているが、まさに国に資金供与を求めると、こうしたStigma問題が発生する。

しかし、最近米国FRBの高官からは、こうした資金供与を申請したとしても問題なく、むしろ積極的に使って欲しいというメッセージが出されたおり、Stigma問題に対する市場の見方に変化が見られるようになってきた。特にSVBが連銀窓口貸出を受けられずに破綻したこともあり、常日頃からこの資金にアクセスできるよう、準備を整えておく必要があるという認識すら示されている。

同様に問題は日本でも起きており、ドル資金供給のプログラムなどは、何となく使ってはいけないのではないかという雰囲気があったが、コロナショック時に活発に使われ、実は使っても問題ないということが認識されるようになった気がする。当然、それを当てにして銀行経営を行うのはどうかとも思うが、いざというときに風評被害を恐れてこれを使わず、銀行が破綻しては元も子もない。そもそもこうしたプログラムを創設した意味がなくなってしまう。

米国でもいざというときに備えて、定期的にこのプログラムの利用をテストすることが望ましいという意見もある。一部では、LCRの計算に連銀貸出を考慮しても良いのではないかとの意見も出ている。

いつも思うのだが、ここまで技術が進んで、スマホ決済なども可能になったのだから、資金を簡単に動かせるような技術は生まれないのだろうか。PayPayやLine Payなどでは、システム障害がない限り24時間資金移動が寛太にできる。なぜ緊急時の資金プログラムで24時間送金ができなかったり(今後24時間になるようだが)、担保金のやり取りに1日とか、下手すると数日かかったりするのだろう。このような即時決済が可能だったら、SVBはあのタイミングで破綻する必要はなかったのではないか。

残念ながらこうした決済周りの技術革新は、常に海外発となっている。先日も海外からの友人が、日本ではスマホに入れたクレジットカードのタッチ決済ができるところがなく愕然としていた。未だに日本では現金使用率が高い。

カウンターパーティーリスクの世界でも、取引先破綻からポジションクローズまで約2週間かかるという前提で、2週間99%VaRを当初証拠金に取るという考え方が根強く残っている。DisputeやGrace Periodの影響もあるのだが、昨今のマーケット環境において、ポジションクローズまで破綻から2週間かかるというのは長すぎる。そしてこれが長いために当初証拠金の金額が大きくなっており、流動性をひっ迫している。この期間を短縮してCCPのIMやSIMMの数字を減らすことができれば、プロシクリカリティの影響を緩和し、市場流動性の向上に役立つのではないだろうか。

CDSのクレジットイベント決定委員会のルール改正

ISDAがCDSのDC(Determination Committee)の制度改革に向けて意見募集をしている。このDCはクレジット・デリバティブ決定委員会のことで、CDSのクレジットイベントは判定するための委員会だ。第三者としてLinklatersに独立した評価を依頼しており、最終結果はまもなく公表され、2024年後半に市中協議が行われる予定と報じられている。


以前は26社であったDCのメンバーは、最近徐々に減っており、12社程度となっている。基本銀行などのセルサイドが10社、ファンドやアセマネなどのバイサイドが5社となっているが、今回の見直しは、バイサイド側からの情報公開を求める声に応えたものなのだろう。主な変更点はDCのWebsiteに若干公開されている。DCの意思決定プロセスの透明性向上、公平性の確保は重要なポイントであり、ヘッジファンドやアセマネがDCに参加したいという気持ちもわかるが、実際に参加しても失望するだけではないかという気もする。

そもそも、DCで話されたことをベースに取引をすることは禁じられているし、自分のポジションに合うような決定をするよう働きかけをすることもできない。2016年の改正もあったので、銀行内では、トレーディングを行うフロント部門はDCで議論された情報にアクセスできるはずもなく、意思決定に圧力をかけることなどもってのほかである。

ただ働きであるにも関わらず、透明性を確保するためにある程度の調査分析が必要となり、時間もかなり取られる。銀行の場合はコストも負担しているはずなので、割に合わない役割といっても過言ではないように思う。参加したいというファンドに門戸を開くのは大賛成だが、おそらく2、3回参加したら辞退するところが多発するのではないだろうか。

特に日本では、なぜISDAが企業のデフォルトを決めるのかという意見が出されて混乱したことがあった。企業の命運を決定するわけではなく、CDS契約のクレジットイベントに該当するかの判定をするだけだったのだが、ここが誤解された。その時も出された意見であるが、日本においては、市場参加者が集まって議論するのではなく、当局主導のもとで判定を行うべきという考えている人が多いように思う。どうせ、透明性を保ちつつ、自己のポジションに捕らわれない、公平公正な判断をしなければならないのだから、監督する機関が指導を行っても良いような気がする。