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LIBORからRFRへの移行の進捗状況

Clarus FinancialのWebサイトで主要通貨の金利スワップがどの程度LIBORからRFR(Risk Free Rate)に移っているか分析している。GBPが最も進んでおり、SONIAやSOFRのみならず、オーバーナイト金利である、Fed Fund Rate等も含めてRFRと定義しており、CCPで清算された取引のみを対象としているものの、全体間をつかむには非常に参考になる。

最も進んでいるのは英ポンドで想定元本ベースで71%が新レートでの取引となっている。特にこの1月に急上昇しているのが興味深い。米ドルは想定元本ベースで25%、2019年平均よりも低い水準であるほか、そのレートはほとんどがSOFRではなくFFである。EURも24%で特に移行が進んでいるようには見えない。オーストラリアドルは83%と最も進んでおり、カナダドルは59%となっている。最も遅れているのが円で、わずか7%という結果になっている。PV01ベースでみるとなんと3%である。ブログでも述べられている通りこの3月2日のSONIA以降期限に向けた動きに注目が集まる。

やや唐突感のある米商務省の為替市場に対するルール発表

昨日月曜日、米国商務省がAnti-Subsidy Dutiesについてのルールを最終化した。日本語では反補助金関税だっただろうか、中国など、自国通貨を不当に安く誘導している国に対する措置である。米中のフェーズ1合意をした直後のことで、 米財務省が中国を為替操作国から除いた後でもあり、 若干唐突感がある。何をもって不当とするかがキーになるが、基本的には財務省の専門性に頼るとしているが、異なる結果が出たとしても不思議ではない。すべての輸入品に課せられるものではないが、米国の不利益にあるものならこの対象となる可能性がある。

貿易不均衡を批判する大統領の意向には沿うものであるが、WTOのルールにも合致しているかどうか微妙であり、通常は金融政策に疎い商務省が音頭を取っているのが不思議でもある。とは言え、これがモニタリングリストに載っている日本などにも適用される可能性があるため、注意が必要だ。それほど為替市場に影響があるとは思えないが、一応注視していきたい。

EUのストレステストが厳格化

EBAが発表したEUのストレステストのシナリオがかなり厳しいものとなった。前回のテストがあまりにも甘いという批判があったからなのかもしれない。対象は51行で、Brexit前の基準日を使っているためかイギリスの銀行4行も対象となっている。興味深いのは金利のストレスシナリオにゼロ金利またはマイナス金利が長期間継続した場合が入っている点だ。これまでは金利が急上昇した時がリスクということが多かったが、今やこの低金利環境が長く続くことが銀行にとって最大のリスクということなのかもしれない。テストの結果は7月31日に公表されることになっている。2022年までのGDPの成長率は-4.3%という想定であり、 米国テストに比べるとまだ緩やかではあるが 、それでも以前に比べるとかなりシビアだ。

失業率は3.5%にまで上がり、株式市場は先進国で25%下落、EMで40%下落という想定だ。居住用不動産価格は16%下落、商業用不動産は20%の下落となっている。このストレステストは米国CCAR同様銀行の所要資本に密接に関係してくるため、銀行の投資行動に影響を与える。ROEを保つために一部ビジネスからの撤退や縮小もありうるため、注意が必要である。海外のストレステストがここまで厳しくなってくると日本でも似たようなことが起きる日も近いのかもしれない。

LIBOR公表停止前トリガー公開後に起きること

LIBOR廃止に向けたPre-cessation Trigger(公表停止前トリガー)が発動されたら何が起きるかについて、徐々にその全貌が見え始めてきた。まずは、英国当局であるFCAとIBA(ICE Benchmark Administration)からISDAに送られたレターが参考になる。これは、LIBORが市場実勢を反映していないと当局が公表した場合のトリガーであるが、この瞬間に引き続きLIBORを参照した取引が続けられるのか、また既存のLIBOR取引はどうなるのかという問題である。

このレターの中で、FCAはこの公表を行った後にLIBORが存続する期間について、極力短くすべきであり、期間の定義としてa
period of months, not yearsと述べている。IBAの方も、実態に即しないとされてしまった指標を公開し続けることはしたくないと述べており、市場参加者としても市場実態を表さないと当局が認めた指標を長期間にわたって使い続けるわけにはいかないだろう。

LCHの公表停止前トリガーについては先週もご紹介したが、CCPも当局がLIBORが実勢を反映していないと公表した場合、例えば当局が1ヶ月後に効力発生日を定めた場合、公表日にリスクフリーレートとのスプレッドをFixするのではなく、効力発生日にFixすることを提案している。この期間もどれくらいあるかが重要だが、やはり1ヶ月未満といった想定をしておくのが無難だろう。

おそらく当局公表後はLIBORのパネル行も早晩レートの提出をストップすることになるだろうから、やはり公開後は直ちに新レートに移る努力をしていく必要がある。そうなるとCCP以外の相対取引についても公表停止前トリガーを入れていく必要があると思われ、ISDAはおそらくその方向に動いていくのだろう。

リスクオフセンチメントが変える投資行動

ウィルスの影響が投資行動に影響を与え始めている。1月に$23bnの資金が高格付け社債市場に流れ込んでおり、先週だけでも$2.9bnの資金がハイイールド債から流出している。ここまでの資金流出は昨年8月以来とのことだ。1月前半の発行額が多かったため、それでも1月は活発な社債発行があったが、月の後半にかけてかなりの減少が起きている模様だ。

SARS等過去の経験からすると、しばらくして市場がリバウンドすることが多いのだが、今回は少し異なる様相を呈していると言う声が市場関係者の間からは聞かれる。これまでのウィルス発生時と異なるのは、ソーシャルメディアの発達、グローバルのサプライチェーンの相互関係の高まり、既に高止まっていた資産価格の3つがその理由という報道もある。今後は経済指標に与える影響も無視できなくなってきている。しばらくは様子見だが、そのうち株の投げ売りを誘発するようだと注意が必要だろう。

LIBOR改革に対するバイサイドの対応

LIBOR改革に関し海外当局の焦りが手に取るように感じられるようになってきた。今日のNY時間には米国ARRC(Alternative Reference Rates Committee)からバイサイド向けのチェックリストが公表されることになっている。欧米では、銀行は当局向けのレポート等も求められているため、ある程度の準備を進めているが、進んでいると言われる欧米でも生保やアセマネのようなバイサイドの準備はかなり遅れているとのことである。方向性がはっきりするまではシステム改定も行えないし、しばらく待ちの状態というところが多いようである。

英国では1月20日にアセマネ業界向けに英国当局であるFCAからレターが出されている。やはりLIBORに関しては英国が一歩進んでいる感はある。既に新レートであるSONIAが存在しているというのも大きい。

日本では、いくつか当局からコメントは出ているが、やはり準備に本腰を入れているところはそれほど多くないような印象を受けるが、2021年末の期限前にLIBORからの移行が強制的に起きる可能性も捨てきれないため、早急な対応が必要だと思われる。日本では本件についてはかなり詳しく勉強している実務家が多く、専門家の間の理解はかなり進んでいる。とは言え、お勉強の段階に留まっている感は否めず、それを行動に起こしているところが少ないという印象を受ける。この場でも実務面にフォーカスしたサマリーを少しまとめてみようと思う。

CCPのデフォルトオークションにバイサイドの参加を促すべきか

米通貨監督庁がCCPの参加者破たん時のポジション整理におけるオークションにバイサイドの参加を認める方向との報道があった。契約書類を簡素化し、できるだけ多くの参加者にオークションに参加してもらい、オークションの成立確率を上げようとの狙いだ。Nasdaqの参加者破綻時の教訓を活かし、同じようなことが起きない様にとの配慮だ。

オークションの性質を考えると至極当たり前のことだが、これはCCPの安全性を高めるために非常に重要な変更だ。もっともクライアントクリアリングに参加しているバイサイドに限られると思うので、クライアントクリアリングのないCCPではこれは難しいのだろう。本来ならさらに一歩進めて、CCPに参加していないバイサイドにもオークションの機会を与えて、その後のクリアリングの仕方を何とか工夫するところまでいけば、オークションの成立確率は更に上がることになるだろう。一時的にCCPで清算しない相対取引を認めるとか、その他短期的な例外措置を設けるといったことが考えられるかもしれない。

特に流動性がなくなり、ディーラーのリスク許容度が落ちている昨今ではこうした変更は非常に重要である。銀行以外のファンドや、マーケットメーク専門業者も出てきているため、流動性の主体が銀行以外にシフトしているという背景もある。

クリアリングブローカーとしてもクライアントクリアリングサービスを提供しているバイサイドが突然巨大なポートフォリオを落札した場合、その顧客向けの清算基金を拠出しなければならなくなる。したがって、クリアリングブローカーサイドにも一定程度のインセンティブが必要であるし、こうしたケースに対して、一時的な例外措置等を認めても良いのかもしれない。

今後はこうした慣行が一般的になっていく可能性も高く、日本を含む米国外のCCPがどのような対応を取るかに注目が集まる。

LCHがPre-Cessationトリガー導入を検討

一昨日LCHがPre-cessationトリガーの適用検討を公表した。これはLIBORが当局より金利動向を適切に反映していないと判定された場合に、清算されたLIBOR取引を新レートに自動的に置き換えるというものだ。参加者の承認が得られれば正式決定となる。ゾンビLIBORを抱えたまま参加者デフォルトが発生し、残ったポジションのオークションでBidが困難になる状況も考えられるため、CCPとしては妥当な判断なのだろう。

こうなるとLCHで清算された金利スワップと相対のスワップの参照レートが異なることになってしまう。また、JSCCが同じような対処をしないとLCH SwapとJSCC Swapの差も生じてしまう。また、JSCCも同じ対処をしたとしてもタイムラグが生じると一定期間二つのレートが混在することになってしまう。

当然ISDAでは、再度参加者にコメント募集を行い、同じようなトリガーをフォールバック条項に標準文言として入れるかどうかの判断をすることになるのだろう。前回は合意に至らなかった点であるが、CCPがトリガー適用を決めたとなると若干様相が異なってくることが予想される。

英国では当局のPushもあり、LIBOR改革の議論が急ピッチで進んでいる。日本の動きはまだ鈍いがおそらく数か月もすると急速にCatch Upが進むことになるだろう。

マネージド型CDOの復活

マネージド型シンセティックCDO復活の兆しがあるようだ。既に2017年ころから、せいぜい2年か3年という短期のスタティック型シンセティックCDOは少なからず取引されていたが、ここへきて、マネージド型かつ期間の長いものに注目が集まっている。JPM、野村、BNPの名前が挙がっており、第一四半期中には取引が行われる見込みとReutersが報じている。CDO(Collateralized Debt Obligation)は、資産担保証券の一つで、ローンや社債などから構成される金銭債権を担保として発行される証券化商品だが、シンセティックとつくと、CDSを裏付けとしたCDOになる。

CLOが規制の影響で伸び悩む中、CDOが若干形を変えてある程度の復活を遂げるのは、ほぼ既定路線のようだ。確かにここまで利回りを得るのが難しくなると、CDOにニーズが集まるのも無理はない。金融危機で痛い目にあった投資家には未だアレルギーもあるだろうが、それほど長い取引でなければ、投資ニーズは一定程度あるだろう。ただし、マネージド型となると、ポートフォリオ入れ替えのコストが発生するのと、昨今の流動性の中でそれが頻繁に可能なのかというハードルも残る。以前のような格付を付与した債券の発行も、担保コスト、XVAコスト、ファンディングコスト等を加味すると以前よりは簡単ではないだろう。また、金融危機後に導入された規制により、CDOポジションをそのまま抱えると、銀行は追加資本賦課を受けたり、レバレッジ削減を行わなければならない。投資家も単なる社債に投資してデフォルトした場合と、CDOで損失を被る場合はサラリーマンリスクはかなり異なる。

こうした事情から、特に日本ではこの販売額が伸びるとは思いにくいが、まずは海外でどのくらいの規模で発行が伸びていくかに注目したい。

消去法による投資が活発化

欧州で少しでも金利のつく債券に大きなニーズが集まっている。先週はスペインが火曜の10年債入札で10bnユーロの発行額に対して53bnユーロの需要を集めている。イタリアは7bnの30年入札に対して47bnユーロの需要が集まった。その他の国も軒並み強い需要を年始から集めている。ECBが月間20bnユーロの債券購入を行っているうえ、金融緩和とマイナス金利政策を継続するという見込みから、このような旺盛な需要につながっている。現金をカストディアンに持っているとマイナス金利をチャージされるという事情もあってファンドマネジャーがプラス金利なら何でも書いたいというニーズもあるのかもしれない。

1月は比較的発行が多かったが2020年は欧州全体としてみるとそれほど発行額が例年に比べて多いわけではなさそうということもあり、投資家が我先に債券購入を進めているようだ。一方マイナス金利の発行が多いドイツ国債に対する需要はかなり弱い。

こうなると、リスクを見極めて投資をするというよりは、マイナス金利を食らうくらいなら、どんどん投資をするという行動を誘発してしまうのではないだろうか。低格付のハイイールド債などの投資も増え、行き場を失った資金があらゆるプラス金利のリスク資産に流入しているように見える。とは言え、大統領選までは米国は何としてでも市場を支えようとするだろうから、11月までは何とかもつのかもしれないが、12月前には資金を他人移した方が良さそうだ。

日本株への注目は高まるか

中東問題やウィルスの話はあるものの、年始からマーケットは堅調な動きを見せている。各国中央銀行の金融政策が最大のドライバーであることは間違いないが、企業決算、地政学リスク等を考えると、市場関係者の間では極めて慎重な意見が多い。ダボス会議でも、BridgewaterのCIOのコメントにもあるように景気拡大は終わり、中央銀行は金融緩和も引締めもできないという苦しい立場に追いやられてるように見える。

マイナス金利政策については、銀行業界から多くの批判が出ているが、やはり自らの収益低下の言い訳に聞こえるのか、ロビー活動の成果は全く出ていない。最近では、マイナス金利政策の長期化が経済に与える悪影響を説明することにより、別の方面から説得を試みているように見えるが、確かにマイナス金利政策のおかげで、資金がリスク資産に急速に流れているのは事実であり、これが資産価格上昇を招いているというのも誤った指摘ではないだろう。今年だけで19兆ドルにも上るという社債のリファイナンスの規模もクレジットマーケットにとっては懸念の種である。通常のリセッションは、こうした債務不安から株価急落が誘発され、景気後退という流れを辿る。ダボス会議である投資家代表がコメとしたように、中央銀行が次のリセッションを2021年か2022年に先延ばしはしているものの、最終的には確実にそれは起きるのだろう。

過去の株価や不動産価格の動きを見ていると、今ここで投資を増やすかどうかというのは非常に難しい選択だが、投資しないリスクもある。その中で唯一過去対比それほど割高に見えないのは日本株なのかもしれない。日経平均株価では、過去20年で2回表れた月足のゴールデンクロスに近づいている。ここを達成すると、現在の価格から2割高の2万9000円付近までの上昇が視野に入るとの見方がある。確かに何かショックがあった時の傷は既に急上昇した他のセクターよりも、浅くなるのかもしれない。

米銀の変化に見る金融の方向性

米銀決算が好調である。マイナス金利、規制強化、マージンの縮小と色々なマイナス要因は挙げられるが、この10年で米銀の収入は拡大し、ROEも上昇、収益性は高まっているように見える。だが、特に好調なのは預金取扱銀行であるJPM、BAML、CITIである。規制対応、電子化等規模の経済の働く分野の重要性が増したということもあるが、今後はコマーシャルバンクの時代なのかもしれない。2000年くらいには、5大銀行の時価総額はほぼ横並びだったのが、現在でがJPMの時価が突出しており、BAML、CITIと続く、Wells Fargoなどもスキャンダルがなければもう少し好調だったかもしれない。一方マーケット業務を中心とするGS、MSの時価総額は回復したとは言え、コマーシャルバンクには及ばない。

GSはMarcusやAppleとのパートナーシップでコマーシャルバンクに参入を図っており、MSはWealth Managementへのシフトを進めている。やはりトレーディングに対する資本賦課の方が厳しかったというのが最大の理由だと思うが、顧客のニーズも伝統的な銀行業や資産運用ビジネスにシフトしているのかもしれない。ある意味当局主導でこのシフトが起きたとも言え、当局の方向性に沿ったビジネスをするところが利益を上げられるということなのだろうか。金融機関の将来を考える時に、本来どのようなビジネスを提供すべきかというよりは、資本制約の少ないビジネスは何かを考えて事業再編を考える方が成功しやすく、そうなるとすべての銀行が同じ方向に向かってしまう。そして、中小銀行よりは大銀行が有利になり、新規参入は可能なように見えて、周辺業務以外は実はそれほど進んではいない。

翻って国内を見ると、日本は伝統的にコマーシャルバンク優位の国であり、伝統的な銀行業務を得意とする点からも、もっと国際的にプレゼンスがあっても良いはずである。米銀は、Wells Fargo以外はかなりトレーディング業務を行っており、今回の決算でも実はトレーディング収益をかなり上げている。伝統的な銀行業務を活かしてトレーディングに結び付けているようにも思える。そうなると、日本でも銀行と証券をどう一体的にビジネスとして相乗効果を発揮するかというのがキーになっていくように思える。

FEDの資金供給はQEと同じ効果をもたらしている

FTにFEDの資金供給はQEかそうでないかという記事が出ている。昨年10月にFEDが資金供給を行った際に、パウエル長官はこれはQE(Quantitative Easing、量的緩和)ではないとしきりに強調していたが、マーケットでは実質的にQEだという受け止め方をする人が多い。これを機に株価をはじめとする資産価格は上昇し、株価上昇は今も続いている。前回QEの終了を図ったのは2017年の10月だが、しばらくして株価は伸び悩み2018年秋以降から下降トレンドに入ってしまった。今回はレポによる資金供給に加え、$60bnの短期国債を購入し続けている。

QEとなると長期金利を下げ、安全資産から株式等のリスクのある資産へのシフトを促す目的で行われるが、今回はそうした目的ではないとFEDは主張している。そして1年以内の短期の国債を購入することで、長期金利への影響は限定的ということで、QEではないというロジックにしているようだ。確かに10年国債金利は10月移行逆に上昇しているが、結局FEDが短期国債の購入を増やして資金をじゃぶじゃぶに供給したため、お金の行き場がなくなり、それが株式等のリスク資産に流れている。

おそらく目的としてはQEではなく、短期資金市場で起きた混乱に対処するための方策だったのかもしれないが、結局QEと同じ結果をもたらしている。FTで紹介されているコメントの通り、後はこれを取りやめる時にマーケットがどのように受け止めるかということが重要になってくる。FEDとしてはかなり厳しい状況に追い込まれているように思えるが、いったいどのようにしてこれを正常化させていくのだろうか。そしてその時に株価はどうなってしまうのだろうか。

CCPの清算基金

ナスダックの清算基金が棄損し、清算参加者が損失を被った件以降、CCPの安全性に対する注目が高まったが、今般Risk.netで大手CCPの清算基金の構成についての記事が出ている。これを見ると、それぞれのCCPによってかなりリスクが異なっているように見える。安全第一のところは中央銀行や分別された預金が主であるが、ここで少しでも収益をひねり出そうというところは社債やAgency Bondに投資をしたり、リバースレポでYieldを享受しているところもある。

日本のCCPであるJSCCの場合は、43%が中央銀行預金、31%が国債で、安全性を重視しているように見えるが、Eurexのように社債に振り向けているところもある。

FMI原則はあるものの、確かに清算基金の構成までを制限する規制はないため、このようなばらつきがあるのかもしれないが、CCPの安定性にもかかわることなので、今後は何らかのルールができていくのかもしれない。

ある程度CCP間の競争によって技術革新を促すことも必要なのだろうが、何において競争するかCCPの場合はよくわからなくなってしまう。当然証拠金や清算基金が少なければ、コストが安くなり、一部の参加者はそれにメリットを感じるかももしれない。一方リスクが高まればそれを気にする大手や保守的な参加者はそのCCPを敬遠するかもしれない。では利益を上げているCCPが良いかというと、証拠金や清算基金を利ザヤの稼げる資産に投資することも可能だが、その資産が棄損するリスクもある。とはいっても利益が出ないCCPはそれだけで安全性がなくなる。

市場参加者からすると、同じ商品で複数CCPがあるとマーケットの分断が起きる。現状であれば国内参加者から固定受け金利スワップをJSCCで行ったものはJSCCの参加者とでなければ完全なヘッジができない。これをLCHでヘッジしてしまうとCCPベーシスという新たなリスクを取ることになってしまうので、以前より市場分断が起きている。こうなると、国のインフラとして一つのCCPにまとめた方が楽ではないかという意見も出てくる。

今更一つのCCPにまとめることは不可能だろうから、何とかCCPの相互接続、リスク移転ができるように進めていくのが一番ではないだろうか。当局を巻き込んだ大がかりな議論になるだろうが、昨今の流動性では、これを進める価値はあると思う。

金融引締めが先かバブル崩壊が先か?

世界の資産価格はFEDに依存しているという記事があったが、全くその通りだと思う。2年ほど前にバランスシート縮小を始めた際に、マーケットはすぐさま反応し、結局量的緩和が続けられることになった。その間株価は上昇を続けてきており、特に昨年9月のレポショックの後は更なる資金供給が続けられている。当然国債を購入する方法ではなくレポによる資金供給であり、FEDもこれはQEではないとしつこく念押ししていたが、効果としては同じものがある。結局バランスシートが10%増加したのだから大したものである。こうなると当然金利は下がるし、株価は上がっていく。

こうした流動性は伝統的な貸付などの銀行活動から供給されているというよりは、レポ取引、デリバティブ取引等によって賄われており、資金供給先としては中央銀行を先頭にソブリンウェルスファンド、ヘッジファンド、アセマネ、キャッシュリッチな企業等が挙げられる。

QEを終了させようとして市場が混乱した経験や、レポ金利が10%以上に跳ね上がった経験を持つFEDとしては、本音ではバランスシートの縮小をしたいものの、最後までQEを続けなければならないのではないだろうか。特に利上げを極端に嫌うトランプ政権のもとでは、いくら中央銀行の独立性といっても、なかなか難しいという事情もある。米国以外の国も、他に先駆けて資産縮小に舵を切れば、自国通貨高を招く懸念からなかなか動けない。

もしかしたら金融引き締めによってバブルが大崩壊した90年代の日本のような状況なのかもしれない。おそらくそれを恐れたFEDは早めに対処したかったのかもしれないが、市場変動が思ったより大きかったため、結局緩和継続を余儀なくされている。

しばらくは、いくら景気が過熱しても大統領選もあるため、あまりドラスティックな動きはできないだろう。そのため、後1年くらいは株価上昇は続くのかもしれないが、何かのきっかけでバブル崩壊が起きてもおかしくないのかもしれない。

やはりLIBOR改革は当局主導

以前LIBORからRFRへの移行は当局のプッシュによって進むということを昨年の投稿でも書いたが、やはりその通りの状況になってきた。決して金融機関がさぼっている訳ではないと思うのだが、この移行はやはり一大作業である。技術的な問題が多すぎて罰則で追い込まない限りは改革のスピードが上がらない。

今回は英国BOE、FCA共同声明でポンド建てのLIBOR連動キャッシュプロダクトを9月末までに取りやめるようにとの指導があったと報道されている。社債や仕組債の発行にも影響が出るかもしれない。 デリバティブ取引については、ポンド建て金利スワップの利用を停止する期限を3月2日としている。 既に 大手各行の経営層に書簡が送られたようだ。来月からは、毎月移行に向けた努力を行っているという明確lな証拠の提出が求められる。 進展がない場合は、資本賦課をするというのが常套手段だが、こうなるとコストに跳ね返ってくるので、金融機関は多大なコストをかけてでも移行を進めようということになる。

今回は珍しく日本の新聞でも簡単に紹介されているので、国内でも関心が高まってくるだろうし、金融庁が同じことをしても不思議ではないだろう。

TOTUS Letterはもう必要ない

昨年夏にこのブログでも紹介したが、Volker Rule2.0により、今月からTOTUS Letterは必要なくなっている。こんな風に簡単に結論だけを書くと弁護士には怒られるが、詳細は各種弁護士事務所がサマリーを作っているのでそちらを参照して頂きたい。ここはあくまで個人が気ままに書いている日記のようなものなので。

にもかかわらず、この事実が周知徹底されていないのか、業界の中でも未だこれが必要だと思っているところが多い様である。2013年のボルカールールでは、Prop Tradingの規制から外れるには完全に米国とは無関係であるということを確約するTOTUS Representative Letterというものを米系とは結び、米国人が取引のArrangement、Negotiation、Executionに関わらないということを確認していた。

2019年の修正により、この要件を満たす必要がなくなり、TOTUS Letterがなくても、一定の免除規定を満たしている限り、引き続きTOTUS Exemptionを受けられることになっている。弁護士ではないので確固たることは言えないが、TOTUS Letterはもう必要なくなったということだと理解している。

しかし、大手ならまだしも、米国債等を取引する多くの投資家が、こうした米国の規制変更までいちいち追っていくのは無理があり、逆の立場だったら米国の投資家が日本の規制変更をそこまで見ているとは思えない。しかも英語の法律で海外の法律に従うため、まじめにやろうとすれば弁護士事務所にコストを払って分析をするところもあるのかもしれない。これだけグローバルになった金融取引で、こうした域外適用は少しでも減らして欲しいものである。

リスクオフで選好される円以外の安全資産

年始に中東に緊張が走った時、誰もが急速な円高を予想したはずである。だが実際は107円程度までの穏やかな円高にとどり、その後はすぐに110円までの円安に動いた。以前は、有事の際は安全資産といい割れる円への資金逃避が起き、円高につながるというように言われることが多かったが、徐々にこの法則が働かなくなってきている。

マイナス金利で行き場を失った資金が外貨資産に流れ、急速なリスクオフの際に円に換えるニーズがあるからと言われることもあるが、何となくしっくりこない。おそらく他国の金利も下ってきたため、円以外の選択肢が増えたと言う事なのではないか。事実、今回は円ではなくゴールドに資金が流れているようでもあり、ユーロ等の低金利通貨にも資金が向かっているように思える。こうなると日銀が介入するような急速な円高の可能性はかなり低くなっているのではないだろうか。

英国CCPのEUアクセスは6月末までに決まる

先週木曜に、英国のCCPがBrexit後にEUの投資家にアクセスを保てるかは6月までに決めたいとのコメントがESMAから出された。英国がEUの規則をほぼキープしたとしても自動的にアクセスが引き続き与えられる訳ではないという態度は依然変わっていない。

1月31日に英国がEU離脱をしても経過措置は12月末まで続くはずだが、その後の運用については不透明性が残る。LCH等が引き続きEU顧客にサービス提供を続けられるかどうかは英国ルールがEUと同等かどうかがキーになるが、これも6月までに分析を終えるようだ。

色々と警告が出されているものの当局同士が市場の分断を避けたいと思っているのは確実であり、おそらく大きな混乱なく移行が進むのではないかと思う。ただ、不測の事態に備えて巨額のコストをかけてEU域内のオペレーションを用意した金融機関にとっては、かなりの収益圧迫要因になっていることは間違いない。おそらく大丈夫とはいっても、準備を怠ると当局や取引相手からも信用されなくなるので、無駄とはわかっていても投資をせざるを得ない。

近年はこうしたコスト負担が大きくなっているように思う。ビジネスを存続させるためには致し方ないのかもしれないが、採算性を厳しく見ていくと一部のビジネス閉鎖という判断につながってもおかしくないところまで来ている。ただ、同時に参入障壁も高まっているので、今後は大手銀行が引き続き存続し、周辺ビジネスや一部のファンクションをスタートアップや小規模なベンダー等にアウトソースする姿が一般的になるのかもしれない。もちろんベンダー選定のプロセスも厳しくなっているので、何をやっても手間がかかるのは変わりないのだが。

フェイルに対する欧州規制

今年の9月から、欧州で決済のフェイルに対する規制強化が行われるというニュースが出ている。日本では、もともとフェイルに対して厳しい立場をとる投資家が多かったが、海外では1日に数百から数千件のフェイルが恒常的に発生しているのが現状である。

現状債券の3%、株式の6%と結構なフェイルが発生しているという分析もあるため、債券、株式の取引コストに影響が出てもおかしくない。現場の感覚からすると、殆どのフェイルは数日のうちに解決し、大きな問題になることは少ないが、今後は業務フローを見直す必要がある。それでも不確実性を嫌う日本ではフェイルを問題視する傾向があるので、海外よりは対応が楽かもしれない(その割には連続休暇時に未決済残高が溜まることにはあまり問題視していないのも不思議ではあるが)。

基本的には欧州内の取引についての規制だが、EuroclearやClearstreamなどで決済する証券が対象になるので日本への影響も無視できないものと思われる。

マージンが急激に縮小する中取引コストだけが嵩んでいくが、今後の取引流動性に悪影響が出ないことを願うのみである。