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LIBOR改革は当局主導で進む

英国当局のFCAが先週木曜に来年第一四半期からはLIBORベースのスワップの提供を止めるべきと述べたレターを公表した。

ヘッジ等の明確な理由がある場合はそれを妨げるものではないが、標準スワップはLIBORではなくSONIAに持って行きたいとのことだ。確かにSONIA参照のスワップを行うことは現時点でも不可能ではなく、業界がその気になればできないことはないということなのかもしれない。というよりは、こうした当局の強いPushがない限りは、なかなか一気に移行させるということが難しいのだろう。

レターで述べられている通り、新規の変動利付債や証券化商品等でSONIAを参照するものが多くなってきており、SONIAを使うローンも増えてきた。しかし、既存のスワップについては、あまり移行が進んでいない。

また、各銀行に対して、LIBORの移行に関して法的に責任を有する取締役クラスを選任するよう求めている。日本でも来年どこかで似たような話になる可能性が極めて高くなってきた。そろそろ移行作業を本格化させなければならない時期がきたようだ。

LIBOR改革が一歩前進

今しがたISDAからLIBOR改革に関連したレポートが公開された。

参加者からの意見をまとめているが、過去5年間のHistorical Median Approachを大部分の参加者がサポートしたとのことだ。スプレッドの計算に経過期間を含めず、外れ値を除外せず、マイナスのスプレッドも除外しないという方向になりそうだ。計算期間に関しては、2営業日のいわゆるBackward Shiftを選好する参加者が多かった。

これによって2006年版のISDA定義集が変更されることになるが、今年中の最終化と来年実施が予定されている。

概ね予想通りの結果であまりマーケットインパクトは少ないものと思われるが、週明けの動きに注目したい。

LIBORからRFRへのシフトを加速するには

あらゆる場面で何度も議論はされているが、実際にはなかなか具体的な動きにはつながらないのがLIBOR改革である。だが、そろそろ当局がしびれを切らす時期に入りつつある。既に各国でLIBORを参照する取引のデータを当局が求めているだろうが、今後は定期的にこの割合が減っているかを示していく必要が出てくるものと思われる。

こうした移行を加速させるにはいくつかのやリ方があるが、最も簡単なのは、LIBORにリンクした商品の残高に対して資本賦課を行うというものがある。またはLIBORにリンクした商品を適格担保から外してしまうとか、LCR上のHQLAから外してしまうという方法も考えうる。

ほかにもLIBORリスクをいつまでも過大に抱えている会社に対してスプレッド上乗せを義務付けCVAを積み増してしまうという意見も報道されていたが、CVAは公正価値なので、おそらくCVA Capitalに手を加える方が現実的だろう。

その他は、通常の銀行検査で指導を加えていく方法で、日本ではこちらの方がなじみがあるのかもしれない。

来年は海外のCCPでの割引率の変更も予定されており、実際に行動を起こさなければならない時期に入ってくる。欧米の金融機関の場合は資本賦課を導入すれば一気に経営層が動き出し、急速にシフトが進むことが予想される。

まずはLIBOR参照資産の正確な把握を今年中には進め、それがどの程度減っているのかを月次程度で示せるようにしておかなければならない。来年これが全く減っていないとなると、LIBOR改革に非協力的と思われても仕方がないだろう。

Sponsored repoが米国レポ市場を変える

今年3月にFICCのSponsored repoのメンバー基準が緩和されたこともあり、FICCが米国レポ市場に占める割合が着実に拡大している。

そもそもSLRの影響で米系はレポ市場におけるプレゼンスを格段に落としているのは既に紹介した通りだが、このSponsored repoを使えば、MMF等の資金の出し手と行うレポと、反対方向のヘッジファンド等と行うリバースレポがネットできるため、バランスシートを使うことなく取引ができることになる。いわばレバレッジ比率規制がその拡大を促した仕組みと言えるだろう。

Sponsored repoは、OTCのクライアントクリアリングのようなものと捉えるとわかりやすいかもしれない。クリアリングブローカーたるSponsoring Memberが顧客のためにCCPで取引を清算することにより、実際の取引はすべてFICCを通したものとなり、オフセットする取引のネッティングが可能になる。このためレポ取引の最大の取引主体はFICCということになっている。

このSponsor Bankが少数の銀行に集中してしまっていることが、9月17日のレポレートの急騰を招く一要因となったと言われてもいるが、直近になってSponsor Bankの数が増え続けているようだ。

これまでは、四半期末が近づくと欧州銀行がバランスシートを縮小させることによりレポ市場が逼迫し、それをFEDが補うという形が続いていたが、欧州系がBaselのWindow Dressingとの批判を受けて四半期末のみにバランスシートを縮小する慣行を諦めつつあるように思えるため、こうなるとやはりSponsored repoに対する期待は高まる。またEBAのストレステストの変更も欧州系の行動に影響を与えることになるだろう。

レバレッジ比率規制の緩和は見込みにくいことから、今後もこの傾向には拍車がかかると思われ、ほとんどがFICC経由になる日も近いのかもしれない。Sponsored repoを使う場合とそうでない場合の資本コストの差はあまりにも大きいので、米国債投資を行う日本の投資家も早めに準備を進めていくことが必要だろう。

レバレッジ比率が短期金融市場を麻痺させている

一部の欧州系銀行のレバレッジ比率に対するバッファが減り続けているとの報道があった。平均的には、3%の最低比率を満たすために必要なティア1資本よりは約1.7倍程度の資本を確保しているようだが、ドイツ銀行、BNP、ABN Amro、SocGen等の余裕が少なくなっているとのことである。

バーゼルの分析によると、欧州銀大手行にかかる資本規制の中で最大のものがレバレッジ比率で、約6割の銀行がレバレッジ比率によって最大の制約を受けている。レバレッジ比率規制は、本来であればリスクベースで見た規制のバックストップとして導入されたものなので、これが最大の制約となっているというのは当初の意思に反すると思うのだが、米国でも同様の事象が起きている。

つまり、リスクの高い取引を減らしてもレバレッジ比率は向上せず、レポやJGBなどの安全資産を減らさないとこの状況は改善しないということになる。

ロジックは単純で、100億円のJGBを受け取って資金を貸し出すレポを行うと、レバレッジ比率によって3億円の資本を積まなければならなくなる。この資本に対して税引き後で10%を超えるようなリターンを上げるためには、5-6000万円近い収益が必要となる。米国の場合は5%が基準なので、1億円程度の利益が必要になる。レポでこのような収益を上げることは不可能なので、もし取引毎にハードルレートを計算して取引承認を行えば、レポビジネスからは撤退するのが経済的には得策ということになる。したがって、米国の大手銀行はほとんどレポ取引を行っておらず、総合採算で取引が継続できる銀行のみが市場に残る形になっている。

しかし、いくら短期の資金繰りが危険だからっといって、リスクの少ない取引をここまで規制する必要があるかには若干疑問が残る。お金を循環させるのが金融の役割であるはずなのに、資金の流れを止めてすべて中央銀行が資金供給をするようになってきている気がする。