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米国のLIBOR代替レートは複数候補が併存することになる

先週金曜に銀行監督当局としてはLIBORに変わる代替レートを特定の候補に限定しているわけではなく、銀行が選択できるとコメントしたというニュースが出ていた。基本的には既にこのブログで述べつくした内容ではあるが、ローンにおいてはSOFR以外のレートが使われる方向性を改めて確認したことになる。

ニュース上ではAmeriborのことも書かれているが、実際どのような発言があったのかは、実際の発言内容が見つからなかったのでよく分からなかった。しかし、これでSOFRに一本化するのではなく、複数のベンチマーク併存という方向性が確実になってきたと言えよう。金融機関としては、それぞれのレートについて金利カーブをシステム的に準備する必要があり、複数ベンチマークを用いたポジション評価をしなければならなくなる。

それほど大きな問題ではないものの、通常金融機関はカーブごとにBid Offer VAなどの様々なリザーブを取っていることが予想される。カーブが増えれば、そのカーブに依存したポジションを解消する際にビッドオファーを払わなければならないので、その分のリザーブが必要になるところが多いだろう。

しかしこのままカーブの種類が増えて、各種VAが増え続けるのは、本当に金融の将来にとって有益なのだろうか。複数のベンチマークが併存するのは避けられないのかもしれないが、無用に複雑性が増して、流動性やプライシングが悪化してしまうと、ユーザーの利便性を損なってしまうのではないだろうか。

FVAはトレーディング損益か?

Risk誌にFVAは通常の損益ではなく、その他の包括利益(OCI: Other Comprehensive Income)に入れるべきだと意見が紹介されていた。3月に海外大手銀行が巨額のFVA損失を出したことも影響している。

FVAの会計計上方法

FVAをヘッジするのはかなり難しく、本当にヘッジになっているかどうかもよくわからないので、個人的には賛成である。そもそも、FVAの計算方法には確立した方法がなく、自らの社債スプレッドを使って計算しているところもあれば、業界の平均スプレッドのようなものを使っているところもある。

計算方法が違う以上、これを変更すればヘッジ量も変わる。つまり経済的に必要なヘッジというよりは、会計上の損益変動を減らすためのヘッジとなっている。同じ理由からストラクチャードノートのDVAがOCIに移ったことを考えると、FVAも同様の扱いにするというのは理にかなっている。

FVAのヘッジ

FVAを競合他社の社債やCDSでヘッジすることも可能だが、そもそもこれにどこまで意味があるのかよくわからない。カナダのようにFVAヘッジを市場リスク資本計算から除外するような措置があれば話は別だが、このヘッジは結局マーケットリスクキャピタルを使うことになるので、資本規制上も望ましくない。

FVAの正確性

そもそも日本ではFVAを計上しているところは一部の証券会社にとどまっており、その意味では収益に影響を及ぼしていない。OCIにすらレポートされていないということだ。海外でも、どこまで真面目にFVAの計算を行っているかもよくわからず、個人的にはかなり保守的にレポートする銀行とそうでないところの差が非常に大きいように感じる。こうしたスタンスの違いで損益変動が大きく変わるというのは、やはり問題なのではないかと思う。

日本株に楽観論?

日経平均株価が約30年ぶり以来の高値を付けた。社会人になったころの株価に戻ったというのは何とも感慨深い。しかも外国人ではなく日本の個人投資家の買いが株価を押し上げている。より日本の個人投資家が株式市場に入ってきているようだ。

トヨタなどの大手の決算は比較的好調で、感染拡大度合いも欧米とは異なり低位で推移しているため、株価暴落を予想する声をよそに楽観論も漂い始めた。確かに近年大きく上げていた海外株に対すると下値安心感がある。

海外メディアでも日本株好調の記事を目にすることが多くなり、比較的コロナをうまく抑え込んでいると思われているところもあるので、ここから海外投資家の関心も高まっていくのかもしれない。

考えてみれば巣ごもり消費で業績を上げているGAFAばかりが強調されるが、任天堂やソニーなども同じような恩恵を受けているのではないだろうか。

日本株に投資しては裏切られてきた記憶を持つ人は多いだろうし、人口減やデフレなどもあり、リターンだけを考えれば海外株の方が格段にパフォームしてきたが、やはり日本の企業にも元気になってほしいものである。

大統領選後に金融業界に対する圧力はどう変わるか

米国大統領選挙の混乱が続いているが、それでも共和党が上院を支配しそうな勢いになってきた(追記:結局バイデン候補当確)。これにより大胆な景気刺激策を打てなくなるという憶測が強まった。金融業界にとってどのような影響があるかと考えてみると、まずはトランプ政権下で35%から21%まで下げられた法人税だが、バイデン政権になればこれを28%まで戻すというのが公約となっている。しかし上院を共和党が取れば、それほど簡単にはいかないかもしれない。

民主党が上院を取れば、銀行に対して厳しい立場を貫くウォーレン議員が財務長官ポストの有力候補だったであろう。しかしマサチューセッツ州にいる共和党知事がこれに反対することが予想される。日本の報道では金融規制強化が進むのではという報道が多いようだが、ある程度の増税のリスクはあっても金融規制が突然強化されるような方向にはならないように思える。

もともとバイデン氏はデラウェア州出身で、デラウェア州といえば様々な金融法人が設立されている州として有名であり、金融の重要性が高い州である。

そうなるともう一人の候補であるブレイナード氏のスタンスも重要だが、いずれにしてもFRBは民主党寄りの政策を取るようになるのではないかという声が多い。銀行のストレステストの緩和に反対し続けてきたブレイナード氏の意向が反映されるとなると、資本バッファの積み増しが要求され、銀行の資本コストは跳ね上がる。あまり金融規制に対して強い声を上げている印象はないものの、金融危機後に導入された銀行規制の緩和にはいつも反対票を投じているという印象がある。

総じてみると、大きく規制緩和が行われるような可能性は低いが、結局規制緩和を訴えたトランプ政権下でもそれほどの緩和はなされていない。そう考えると今までの状況が続くということになるのだろう。

スワップのノベーションはどのように行われるか

通常ヘッジファンドや海外の年金ファンド等は、いくつかの金融機関と取引を行うが、取引解約時にはNovationが行われることが多い。デリバティブの世界のNovationは簡単に言うとカウンターパーティーの交替である。自分の契約をだれか別の人に譲渡するということだが、結局その際に取引相手が変わることになるからだ。

日本ではこうしたファンドは少ないのだが、世界のデリバティブ市場においては、全体の取引量のかなりの部分はヘッジファンドやアセマネがマネージするファンド経由になっており、流動性に大きな影響を与えている。本気でスワップをやろうというのならこうしたファンドとの取引は避けて通ることはできない。これは円スワップでも同様である。

取引頻度が多いため、ノベーションやアロケーション、担保決済、電子取引、取引報告等の事務が煩雑になり、それをサポートするシステムやオペレーションフローが必要になる。こうしたシステムやオペレーションがネックになっているのか、言語の問題なのかよくわからないが、ファンドとの取引先は外資系がメインになっている気がする。

通常ファンドは複数の銀行にクォートを求めるので、複数の金融機関と取引をすることが多い。例えば以下のようにA、B、C、Dとそれぞれ1、2、3、4件のスワップを持っている例を想定する。

この場合、真ん中のヘッジファンド(HF)が利益確定のため全部の取引を解約しようとした場合、AからDの各銀行にそれぞれの取引解約を依頼するようなことはせず、すべての取引を示した上で全部を引き受けてくれる銀行を探すことになる。ここでAが提示したすべてのパッケージのプライスが良くコンペに勝ったとすると、ノベーションが行われ、以下のような関係に変わる。AはHFとの取引一つを解約し、残りの取引はHFが抜ける形(Step out)になる。例えばBから見るとカウンターパーティーがHFからAに変わったという形だ。HFがStep out、AがStep inし、BがRemaining Partyとなる。

レバレッジ比率規制や証拠金規制やOISディスカウントがなかった頃は簡単で、こうしたノベーションが即座に行われていた。現在では、AにとってはB、C、Dと取引を持つことになるため、レバレッジ比率の計算に入れなければならなくなり、証拠金規制対象のファンドであれば証拠金が増えるかどうかのチェックもしなければならない。また、ディスカウントの差などをチェックするために、それぞれとの担保契約(CSA)の確認も必要である。金融危機直後は、こうしたチェックのために回答が遅れてトラブルになることもあったかもしれないが、最近は理解が進んでいるようである。

ただし、CCPによる清算集中が進んでからはこれが楽になった。こうした手間を省くため、清算集中規制の対象になっていないヘッジファンドサイドも自主的にクリアリングをするようになっている。CCPを通じたフローの場合、ノベーションが行われた後すぐにCCPで清算されるため、当初の図のHFがCCPに変わったような形になる。

そしてこの後、ABCDそれぞれがCCPに持っている他のポジションと合わせてコンプレッションが行われ、これらポジションが削減されていくため、レバレッジ比率への影響も少なくなり、ポジションが極端に偏らない限りCCPに対する当初証拠金への影響も軽微となる。ディスカウントはCCPがしてする標準的なディスカウントになる。

CCPでの清算ができな通貨スワップやスワップションについては引き続き従来の問題は残るが、取引の大部分を占めるスワップについては、かなりフローが確立してきた。

ヘッジファンドというと何か日本ではハゲタカ的なイメージがあるが、こうしたファンド勢は市場の流動性向上には不可欠な存在になっている。日本でも資産運用の機運が高まり、ファンドが増えてくれば、こうした取引形態を行うところが増えてくるかもしれない。本邦でもノベーションなどの事務フローを海外並み高度化していかないと、世界に後れを取ってしまうだろう。

日本におけるLIBORからのシフト(その2)

先週末にOISの取引量拡大についてコメントしたが、その後新聞でも同様の内容が報道されていた。もともと日本では、金融に関するニュースが海外に比べて少なかったが、今回の報道記事は、きちんと調べて書かれていて良い記事だったと思う。

LIBORがなくなるとは言え、プロトコルさえ批准すればOKと思っている市場参加者が多いのか、このままでは来年以降何が起きるか非常に不安な状況である。計算期間の最後に金利が決まる後決め複利が日本では敬遠される傾向があり、ターム物リスクフリーレートであるTORFに期待する声が多いが、TORFの流動性を上げるにはOISの取引を増やすことが重要だ。したがって、どのタイミングでOISの取引が増えていくのかに注目が集まっているわけだが、期限を考えるとそろそろ限界が近づいている気がしてならない。

10月の日銀金融システムレポートを読むと、71頁に以下のようなくだりがある。

「⾦融機関に対しては、LIBOR 利⽤状況調査の継続的な実施やヒアリング等を通じて、個別⾦融機関の対応状況を確認し、必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく。」

そして脚注34にこう書かれている。

「第 2 回 LIBOR 利⽤状況調査について、現時点では、2020 年 12 ⽉末を報告基準⽇とし、2021 年 1〜3 ⽉中の調査票の発出を予定している。前回調査(2019 年6⽉末時点)以降における、移⾏作業の進捗等を確認することが主眼である。」

つまり年末時点でLIBOR取引を集計して、1年半前と比較してどの程度移行が進んでいるかを確認するということになる。あまり進捗がみられないと、「必要に応じて直接的な働きかけを⾏っていく」ことになるのだろうか。

もしかしたらこれがきっかけで12月までにOIS取引を増やしておこうという動きが出てくるかもしれない。前回の調査結果を見ると、PV01で集計することの多い海外とは異なり、想定元本ベースでの報告だった。第2回がどうなるかわからないが、日本はデリバティブはリスク量というよりは元本という文化が支配的でもあり、継続性の観点からも、想定元本で継続される可能性が高い。つまり、短期のOIS取引を増やせば元本は大きくなるので、移行が進んでいるように見えることになる。

このからくりに気づく人が増えれば、12月に向けて急速に短期のOISの取引量が増えるかもしれないが、いずれにしてもOISへの移行が進むのは業界にとっても望ましいことである。

USD LIBORの代替指標候補AMERIBORとは何か

LIBOR改革によりドルLIBORに代わるレートとしてSOFRへの移行が進みつつあるが、一方で米国地方銀行を中心にAmeriborを推す声が強くなってきた。

Ameriborとは、AFX(American Financial Exchange)が作成した金利指標で、無担保ローン市場における日々の取引実績に基づいた加重平均レートである。日数計算はActual/360、休日調整はFollowing、小数点5位を四捨五入したレートである。SOFRなどと同様IOSCO準拠のベンチマークとして承認されている。

American Financial Exchangeというと米国を代表する金融取引所かと思ってしまうが、つい5年前の2015年に設立されたばかりの自主規制取引所である。当初は6社のメンバーだったが、その後着実にメンバー数を200社以上に増やしている。これは全米銀行のおよそ1/4であり、メンバー銀行の資産量でいうと全米銀行資産の約14%を占めている。平均的に20憶ドルの取引があり、通算では1兆ドルを超えている。

米国債を担保にしたオーバーナイトの資金調達コストに連動するSOFRと異なり、多くの米国中小銀行の無担保資金調達コストをより良く表していることから、主に米国地銀がサポートしている。3月にSOFRが急激に下がる中、銀行の資金調達コストが下がらなかったことから、逆ザヤを懸念する銀行からの支持が多い。

こうした地銀は米国債保有高が少なく、それを担保に資金手当てをするというよりは、無担保での調達に頼ることが多いので、Ameriborの方が確実に自身の資金調達コストに連動する。何らかの危機が発生すれば有担保より無担保の調達コストの方が上昇しやすいが、貸出金利が有担保の調達コストに連動していると、一気に収益が悪化するからである。LIBORとの相関も99.74%(2020/10現在)とLIBORに近い動きをしている。その他詳細はAFXの月次レポートに詳しい。

またSOFRが米国外の銀行の行動にも影響を受ける一方、Ameriborは米国の一定の銀行の調達コストを反映したものであるため、特に米国地銀にとっては都合が良い。

このような懸念から2020年2月に地銀10行がFRBにレターを送り、Ameriborの検討を呼び掛けた。そして、5月にFRBパウエル長官は、SOFRがLIBOR代替金利の有力候補であるとしながらも、銀行がそれぞれの状況に合わせて適切な金利指標を選ぶことを容認し、中小銀行にとってはAmeriborの利用をサポートした形になっている。LIBORの代替レートとして幅広く認めたというよりは、中小銀行など一部の銀行にとっては有力候補だというトーンのようだったが、これによって複数のベンチマークが併用される可能性が一気に高まり、Ameriborに対する期待も高まった。

既に一部中小銀行では貸し出しレートとして使われており、10月には初のAmeribor参照債券がSignature Bankから発行された。他にも複数のベンチマーク候補があるが、中小銀行向けにはこのAmeriborが一歩抜きんでているように見える。取引量はそれほど伸びていないようだが、Ameribor先物取引も昨年8月から始まっている。

今後はこうした銀行からのヘッジニーズによりAmeribor参照の金利スワップ等も出てくるかもしれないが、これが米国の地銀のみに使われる一部の指標になるのか、クレジットスプレッドを考慮した貸し出しレートを使いたいというその他の金融機関の間でも広く使われるようになるのか、今後の動向に注目が集まる。

FICCビジネスの変遷

債券トレーディングが好調だ。一時期のリストラの嵐が嘘のようだ。FICC (Fixed Income, Currencies and Commodities)と言われるこの部門は、2008年以降の金融危機において諸悪の根源とされ、各種規制強化と相俟って、10年以上に亘ってリストラが続けられてきた。収益は半分近くまで落ち込み、数千人規模のリストラが何度も繰り返された。2012年のUBS(5,600人)、2015年のCredit Suisse(6,000人)、ドイツ銀行(9,000人)等大幅削減が行われてきた。自己勘定取引の禁止と債券商品に不利な資本規制によって、業界地図は大きく塗り替わった。

それが今回の感染拡大を受けた市場変動によって完全に息を吹き返した。社債による資金調達やビジネスリスクをヘッジするという行動自体は、経済活動を行うにあたって必要不可欠なものであり、債務がある以上はそれを何とかしなければならないというニーズが出てくるのは当然である。久しぶりに債券部門への採用も進んでおり、一時はFICCからの撤退とビジネスモデルの変革を訴えていた銀行ですらFICCの再拡大を検討し始めているようである。

とは言え、昨今の収益拡大は特に米系の大手に集中しており、以前のような多数の参加者が競争する状況には戻っていないように見える。自己勘定取引が減少し、トレーダーもリスクを取って収益を狙いに行くような行動がしにくくなり、どちらかというとプラットフォーム商売になってきている。特に海外では電子取引への移行が進み、米国債や為替取引では、リスクを取って儲けるというよりは、機械で巨額の取引をさばき収益を上げている。つまりテクノロジー投資が重要になっており、これが一つの参入障壁となっている。

中堅銀行が大手銀行のトレーダーを高給で引き抜くというようなことが起き始めるのかもしれないが、現在の環境においては、成果が出にくくなっているのではないだろうか。邦銀でも外国人トレーダーを破格の給料で雇うというのは避けた方が良いのかもしれない。それよりはプラットフォームやビジネスモデルを構築してきた実績を持つ人を取って、十分なシステム投資を行っていくのが肝要だろう。特に日本の金融機関のシステム予算は、海外と比べて格段に低い気がする。JGBのマーケットがすぐに電子取引に移行するとは思いにくいが、このままだと日本のマーケット自体が海外に取り残されてしまうかもしれない。

日本におけるLIBORからのシフト

JSCCのデータを見てみると、最近いくつかの変化がみられる。まずはOIS取引の増加だ。2018年が16.2兆円、2019年が23.1兆円だったものが、ことし10月までで28.4兆円に増加している。特に10月は6.4兆円と今年最大となり、取引量の多かった3月を上回っている。

もう一つは日本円TIBOR(DTIBOR)だ。8月を除けば、全般的にユーロ円TIBOR(ZTIBOR)と比べてDTIBORの取引量が多くなってきている。短い年限はZTIBOR、長い年限はDTIBORが多い。このまま行くと、今年は一年を通して初めてDTIBORがZTIBORを上回るかもしれない。D-Zのベーシススワップも昨年の2倍程度清算されている。

LIBOR参照スワップは今年はかなり減ってきているが、一部LCHに流れたと思っていたが、最近ではLCHの取引量も減ってきているようである。

TIBORについては将来的なDとZの統合をにらんで、DTIBORへ取引をシフトさせているのかもしれない。また、LIBORがなくなるのに備えて、今のうちからDTIBORにシフトさせる動きもあるのだろうか。

OISの増加は、今後のTORFの流動性確保のためにも望ましいだ。プロトコルの批准も始まり、LIBOR改革のタイムラインも厳しくなってきたため、更なるマーケットの変化が望まれるところである。

ESG投資を401k対象から除外

ESG投資が盛んになってきたが、米国労働省はこの度、退職金プランの401kへの投資対象先に関しては、あくまでもリスクリターンを重視すべきであり、それ以外の環境や社会的目的に基づくべきではないという法案を最終化したと報じられている。

あれだけ批判の声が上がっていたにも拘らずそのまま最終化されたのには正直驚きを隠せない。今年のESG関連投資を組み込んだファンドの7割が旧来のファンドのパフォーマンスを上回ったという記事もあったが、ESGだからといってリターンがないがしろにされているという懸念もよくわからない。

ただし、ファンドマネージャーが、そうした投資がいかに受益者のリターンにつながるかを示せれば例外的に認められるとされている。当然投資顧問会社は反対をしてる。そもそも退職後の生活を支える資金なのだから、投資目的は環境問題や社会的問題と結びつけるべきではないという発想なのかもしれないが、こうした投資がリターンを生まないとも限らない。

一応禁止というわけではないのだが、そのための申請手続き等が煩雑になる。しかし購入者が限られてしまうということで、他のファンドに比べて不利になったりしないのだろうか。2018年にはこうしたファンドを401kに組み込んでいるのは2.8%くらいだそうなので、すぐに大きなインパクトがあるとは思えないが、こうしたファンドへの資金流入額が第三四半期に98憶ドルと過去最高を記録している中、今後の影響は相応にあるのではないかと思われる。ESG関連ファンド資産も2012年には5兆ドルにも満たなかったものが、今年は17兆ドルを超えている。まあこの法案も選挙の結果次第で変わるのかもしれないが。

金融トレーディング専門用語

金融機関にいると、ロングとかショートとかいう言葉が頻繁に使われるが、慣れないと結構面倒だ。基本的にロングは買持ち、ショートは売り持ちなのだが、債券の世界では商品特性の違いもあるので厄介だ。また、受けと払いの方向もわかりにくい。会社による違いもあるかもしれないが一応主なものを整理しておく。

デルタショート

固定金利払い変動金利受けの金利スワップを行うと、金利ショートになる。金融機関によってプラスマイナスが異なることもあるが、一般的にはショート方向をプラスの数字で表すところが多いのではないだろうか。債券をショートするのと同じ方向で金利が上がれば利益が出る。

反対に固定受けだとロングとなりマイナスの数字として表れる。社債をロングするのと同じ方向で、金利が下がれば利益が出る方向だ。

クレジットロング

クレジットリスクを取るという方向なので、社債の買い、CDSの売りをクレジットロングという。全員がこう言うのか定かではないが、CVAトレーダーはこの言い方を使っている。CDSをロングするという場合もあるが、これはCDSの買いになるのでヘッジ方向、つまりクレジットショートになり、結構面倒なので、クレジットリスクを取っている方をロングと言う方がCVAトレーダーにはわかりやすい。

通貨ベーシスの受け

ベーシスが受けられたのでドル円ベーシスが拡大したなどというが、日本のカウンターパーティーがドル調達をする方向の通貨スワップを行ったときに、取引を行った金融機関行サイドではベーシスを受けることになる。日本の企業がドル調達をするということは、企業サイドが当初ドルを受け取って円と交換する。その後ドル金利を払い円金利を受け、最後にドルを返して円を受け取る。

現状通貨ベーシスはマイナスだが、このような取引が増えるとドル円ベーシスがマイナス方向にさらに拡大する。サムライ債を発行して円を調達し、それをドルに交換するような場合も同じ方向になるのでベーシス拡大要因になる。反対にドル債を発行して円に倒すときはベーシスの払いとなり、ドル円ベーシスは縮小しマイナスが小さくなる。

ドル円のショート

為替の場合はスポットでドルを売って円を買う場合にはドル円のショートという。最初にドルが来ているので、それをショートするということなのだろう。ドル円が下がるというと円高方向に進むということになる。

相場の強弱を表す用語

相場の方向を表す言葉には様々なものがある。一般的に国債が買われているときは「強い」というが、反対語は「弱い」ではなく「甘い」である。国債が買われて金利が低下しているときは、売られて金利上昇するとと言われる。野球の打者の打率で3割2分9厘などというが、これは0.329。厘の後は毛、糸、忽と続く。0.329155だと3割2分9厘1毛(もう)5糸(し)5忽(こつ)となる。前日の引け(終値)から0.5bp下がれば5糸強(ごしづよ)と言う。他にも様々な特殊用語があるが、国債トレーダーに外国人がほとんどいないのは、これらの特殊用語のためなのかとすら思ってしまう。

外国人トレーダーは債券が買われているときはStrongFirmBullなどと言うが、売られているときはWeakBearということが多く間違ってもSweatとは言わない。当然日本語で牛とか熊とも言わない。

Better offeredというと売られる方向だ。日本語でもオファーが強いなどと言う。あまり上がらないということでHeavyということもある。相場の重しになるという日本語と近いのだろう。

相場が上がっているときにラリーする(英語ではRally)という言葉も良く使われる。辞書では反発する、回復すると書かれているが、単純に上がっているときにもラリーすると言っているように思う。UnderperformingOutperformingも良く使う言葉だ。相対的な意味合いがあるので、30年だけが強いときに30年がアウトパフォームするという。

改めて見てみると相場の世界は日本でも海外でも不思議な言葉が多い。

SOFR Swapへの移行が進み始めた

LCHとCMEにおけるディスカウントレート変更が無事終了し、SOFR参照の取引量が増加してきた。一時は30年で9bp近くまで拡大していたSOFR/FFベーシスもオークション後に5bp台に縮小したことを考えると、オークションは問題なく行われたといってよいだろう。LCHにおけるベーシススワップの解消コストも、20年以下の年限で0.16bpから0.46bp、最も高かった30年でも0.58bpと、比較的落ち着いた結果となっている。CMEも全体的に0.14bpのコストだったようだ。

SOFRスワップの取引量もオークション周りの日で過去最高を記録し、その後も着実に取引量が増えることが期待されている。オークションにかかる取引については11月19日までレポートしなくても良いことになっているため、実際の取引はもっと多かったとも思われる。特に長期の取引が多くなっているようだ。

先にポストしたように、今回のLCHのオークションは興味深い示唆を与えてくれた。通常は取引が一方向に偏っていると思われていたが、実際はかなり受け払いが均衡していたという点だ。30年こそ予想通りの方向での偏りが若干見られたが、20年以下のところはほぼ受け払い交錯という形だったように思う。そうなるとCMEか、相対取引で偏りがあるということになるのだろうか。CMEのオークションの詳細はあまり公表されていないが、今回オークションがスムーズに完了したことを考えると、クライアントクリアリングのポジションには、それほど大きな不均衡はなかったと言える。そうなるとやはりCCPでクリアリングされていない、相対取引に偏りが残っていることになるのだろう。

クリアリング規制のかからない事業会社等が固定クーポンの社債を発行したときには、銀行はその事業会社と固定払い変動受けのスワップをすることになる。そのヘッジはCCPに行くだろうから、相対取引で固定払い、CCP取引で固定受けというSplitになる。

今回はそのうちCCPから固定を受ける方向のディスカウントが変更になり、相対取引の固定払いの方は変更が起きていない。つまり、ここでかなりのミスマッチが生じているのではないだろうか。

まあおそらく、大手行はこのあたりを加味した上でヘッジを行っているだろうし、CCPの当初証拠金が増えないようにMVAを取っていると思われるので、特に大きな問題にはならないのだろう。さすがに大手邦銀は大丈夫だろうが、こういった準備をせずにドル金利スワップを抱えている銀行がいるかどうか気になるところである。

アルゴ取引は市場流動性を高めるか

BISからアルゴ取引が為替マーケットに与えた影響についてのペーパーが本日付けで公表されている。色々な意見はあるものの、3月の市場混乱期にはアルゴ取引が市場の効率化に好影響を与えたと分析している。当然危機を増幅するという危険性はあるものの、むしろ取引執行にプラスになったという結論をBISのペーパーで導き出しているのは興味深い。

以前フラッシュクラッシュが起きた時は、アルゴ取引がその変動を増幅させたとする論調が多かったため、若干この結論には驚いたが、何となく感覚とも合う気がする。

アルゴ取引を行えば、巨大な注文を小分けにして市場にインパクトを与えないような取引執行をすることが可能になる。取引量は多くなり、市場に出てくる取引執行量が分散されるという効果があるのだろう。現在アルゴ取引はSpot FXの20%近くを処理するようになってきているようだが、徐々にそのユーザーのすそ野が広がり始めている。

そもそもアルゴで行っているような取引は、以前から自動化はされていなくても、手作業で似たようなことが行われていたため、単にその効率性を向上させただけなのかもしれない。こうなると優秀なアルゴ、電子執行システムを持つところが競争優位に立つことになる。残念ながら、この点に関しては海外企業の方が強みを持つ企業が多いように感じる。

それほど難しいことではないのだが、人海戦術に頼り十分なシステム投資をしてこなかったツケが回ってきているのではないだろうか。あるいは海外で増えている高速取引を主に行うファンドや機関投資家が日本には少なく、日本は事業会社向けの地道なサービスから収益を上げるという構造が定着してしまっているからかもしれない。

金融以外ではこうした技術を応用しようという動きはみられるが、なぜか金融においては、いつも海外の後塵を拝してしまう。とは言え、BISまでお墨付きを与えたような流動性供給の役割を日本が担えないというのは何とも悲しいところである。今後の発展に期待したい。

AMERIBOR参照債券が発行された

LIBORからSOFRへの移行が叫ばれる中、銀行の調達コストを加味しないSOFRでの貸し出しに対する懸念が発生し、信用スプレッドを反映したレートの検討が進められてきた。

そしてついに今月初めにAmeribor参照の債券発行が行われたようだ。$375mmの5年債ということでそれほど大きなサイズではないが、地銀が発行するサイズとしてはまずまずの大きさだ。Ameribor参照の債券が発行されたとなると、Ameribor参照の金利スワップも行われるようになるのかもしれない。既にAmeribor参照のローンは取引されているようなので、意外と地方銀行や中堅銀行で広く利用される可能性が出てきた。

SOFRのターム物がまだ確立していないため、Ameriborがなくなった場合はSOFRにフォールバックするという条件になっているようで、今後はターム物のAmeriborも作られるようだ。

欧州ではこのような議論にはなっていないが、銀行の調達コストが急上昇した時に、リスクフリーのSOFRで貸し出しを続けてしまうと採算割れになってしまうという懸念は各国で高まっている。日本ではTIBORがあるから問題ないということなのかもしれないが、結局複数のレートが使われるようになるのだろうか。Ameribor vs SOFRのようなベーシススワップマーケットも生まれてくるのだろうか。

日本と海外の会議の違い

海外との会議で最初よく思ったのは、「なぜ皆こんな初歩的な質問をするんだろう」という疑問だ。中には自分が参加していることを主張するために質問するとか、単に聞き返すだけの人も多い。だが、これに慣れてくると実はこの方が効率的なのではないかと思うようになってしまうから不思議だ。

逆に海外から言われるのは、なぜ日本人は会議中や顧客訪問中にウトウトする人がいるんだという点だ。彼らにとっては顧客との会議中に寝ている人がいるのが信じられないらしい。確かに思い起こすと外国人が会議中に寝ているのはほとんど見たことがない。といっても自分自身もつい睡魔が襲ってくることもあり、人のことは言えない。

彼らは常に発言しようと身構えているので、会話にEngage、つまり、積極的に参加している。人間しゃべりながら寝ることはできないからだ。試しに日本の会議でも眠くなった時に何でもよいから質問をしてみると、見事に眠気が飛ぶ。

こういう会議に慣れた外国人が日本に来て会議をするとあまりの反応のなさにびっくりして帰っていく。自分のプレゼンに問題があったのかとか聞かれるので、いつも言葉と文化の問題だろうと答えておくのだが。

日本でもアクティブラーニングということが言われるようになっているが、確かに誰かの講義をウトウトしながら聞いているよりは、自分もたまに発言をしながら学んでいく方がよっぽど身になるのだろう。

海外留学時にもやはり授業中寝ているのは日本人が多く、向こうの学生はコーラ片手にたまにスナックでも食べながら質問しまくっていたが、寝ている人はあまり見かけなかった。

当然海外企業でも議事進行が完全に決まっていてその通りに粛々と進むものも稀にはあるが、たいていはすぐさま質問が入って、あちこちで議論が始まり収拾がつかなくなるが、そこで生まれるものも多い。

日本でも、完璧な資料を用意してそれを読み上げていくという会議から、簡単な1ページの図表だけを示して議論をするという会議がもう少し増えても良いのではないかと思う。

ISDA IBORプロトコル批准開始

予定通りISDAからIBORプロトコルの手続き開始のアナウンスメントが10/23にあった。といっても、大手金融機関はこれに先立つエスクロー期間に既に手続きを進めているので、開始時点から257社がすでに手続き済となっており、日本からもメガバンク、大手証券が既に批准者リストに名を連ねている。

先にアナウンスがあったように2021年1月25日が発効日となっている。大手行以外の批准は日本では現時点ではそれほど多くないようだが、今後急速に増えていくことが予想される。だが重要なのは、これに批准したからすべて終わりではないということだ。実際取引タイプごとにかなりの作業が必要になり、下手をすると移行に際して損失が発生したり、リスク量の変化からヘッジがワークしなくなったりする可能性もある。

先週行われたLCHとCMEのディスカウント変更がスムーズに行わたことを考えると、今のうちに相対取引は極力CCPにバックロードしておくというのも一つの手だろうし、早めにLIBOR取引を解約して新レートでの取引を入れるというのもありだろう。

実際CCPのディスカウント変更以降SOFRの取引は増えているようなので、やはりCCPのCleared Swapからマーケットが動いていく流れが今後も出てくるのだろう。

大統領選のインパクト

市場はバイデン勝利を織り込んでいるが、そうなると気になるのはバイデン氏の政策が与えるインパクトだ。まずは法人税の21%から28%への引き上げだが、これは金融機関の純利益減少につながる。特に米国内の収益貢献が大きい銀行へのインパクトが大きいが、国際的に収益を上げている大銀行への影響は比較的少なくなる。

とは言え、現状の経済環境だと、たとえ民主党が上院を掌握したとしても増税に反対する声は出てくるだろうという報道が多い。一方景気刺激策にも相当の資金が流れ込み、低所得者支援も加速するだろうから、銀行が積み立てている引当金の戻りもあるだろう。金利上昇によって金融セクターが恩恵を受ける可能性も市場に織り込まれつつある。まずは人種問題、格差問題、環境問題、ヘルスケア等にフォーカスされるだろうから、増税は2022年以降という報道もある。

これまで報じられている内容からすると、バイデン勝利+民主党上院制覇で、米金利上昇ということになるのだろうし、事実今週の10年債利回りの上昇率は8月以来となっている。イールドカーブのスティープニングを予想する声も多い。2回目の景気刺激策実施の可能性も高くなり、加熱する株式に対しても警戒感が薄れてきているようだ。生産指数インデックスなども上昇しており、何となく楽観ムードが漂っている。

金融規制に関しては、バイデン政権では当然規制強化という論調だが、金融取引税の導入の話も出ていたし、ウォーレン氏の発言権が増すのではという懸念もある。ただ、現状のマーケットを見ていると、トランプ政権下よりは規制が強化されるだろうと言われている割には、そこまで変化はないのではないかという雰囲気も感じられる。4年前のことがあるので誰も確信はないのだろうが、やけに市場も落ち着いているような気がする。

デリバティブ取引の当初証拠金計算にはSIMMと標準法のどちらを使うべきか

2022年9月に延期されたIMビックバンまで後2年を切った。これによって、当初証拠金の拠出義務が、地銀や生保などに広がることになる。大手行を対象にした2016年9月のフェーズ1から毎年適用会社が拡大されてきたが、これがコロナによって延期され、2021年9月にデリバティブ想定元本残高80億ユーロ超のフェーズ5、2022年9月に80億ユーロ超のフェーズ6が予定されている。これを受けて以前あった標準法かSIMMかということが話題になっているようだ。

標準法はグリッド方式とも呼ばれ、想定元本に以下のような一定の掛け目をかけた簡便法で、誰でも簡単に導入できる。

この簡単さが受けるのか、デリバティブのエンドユーザーが最初に考えるのは、システムやモデル開発等は面倒だからこれを使ってしまおうという方法のようだ。ただし、売り買い双方の取引があるときそれを相殺させることが「完全には」できないので、計算される金額は多くなる。完全にはと言ったのは、以下のようなNGRによって最大6割オフセットまでは可能だからだ。

ここで計算された当初証拠金額は自分が拠出する担保額というよりは相手方に徴求する金額なので、自分のコストにはならないと思う人もいるかもしれないが、実際は相手方の銀行やディーラーがその担保拠出コストを織り込んでプライシングしてくるため、自分の取引コストが高くなることに注意が必要である。標準法を使っているというだけで敬遠されてしまう可能性も否定できない。

そうなると、ほとんどの市場参加者はISDAのSIMMを使うことになる。ISDAのペーパーを見ると難しそうに思えるかもしれないが、この計算はそれほど難しくない。結局は2週間99%のVaRを計算するようなものだ。相手方も同じ考え方を用いているので、毎日答え合わせもできる。

プロシクリカリティに注意するため、2週間VaRは2008年などのストレス期間を含めての計算になるだろうから、例えば10年金利で20bpくらいの金利の動きとする。10年なので10をかけてだいたい2%くらいが当初証拠金となる。先ほどの標準法の掛け目だと4%だからやはりSIMMの方が低くなる。イールドカーブコントロールで10年の変動が抑えられているということもあるだろうが、一方これが30年金利になるとSIMMの方が高くなるだろう(5年超をすべて同じ掛け目にしているのもどうかとは思うが)。

資本計算のカレントエクスポージャー方式が簡便にリスクを表す指標として使われたためか、日本ではグリッド志向が強いような気がする。取引先リスクのリミットを決める時も想定元本に掛け目をかけて決めているところもあるのではないだろうか。SIMMの導入を良い機会ととらえて、モデルによって簡単なリスク量把握ができるような環境ができると金融の発展につながるかもしれない。

社債発行ペースが落ちてきた

今年は、欧州で5000憶ドル超、米国で1.2兆ドルにも及ぶ社債発行が行われてきたが、直近ではこのペースに陰りが見えてきた。一方で市場には潤沢な資金が継続して流れ込んでおり、金余りの様相を呈している。この流れが継続すると信用スプレッドのタイト化は続くだろうし、中小企業まで新規社債発行の動きが広がっていくことになるのだろう。大企業はほぼ来年までの資金調達を終えているように見えるため、第四四半期はサイズの小さな発行が主流になり、全体としてのボリュームは減少することが予想される。

一部の企業の中にはその信用スプレッドが、感染拡大前の水準をも下回っているところがある。つくづく市場は政府、中央銀行の行動によって動くものだという認識を新たにさせられる。それでもさすがにここまでスプレッドがタイトになる(社債価格は上昇する)と、そろそろ投資適格社債ポートフォリオから資金を引き上げる動きもみられて始めているようだ。特に社債ETFからは9月以降資金が流出しており、個別の社債へその資金は流れているようである。

また、AT&T、BPなどのように社債のバイバックを行い債務を減らす動きも見られ始めている。今年は社債発行は多いが、同時にバイバックも昨年比40%増程度で推移している。危機前に資金手当てをしておこうとした企業が、実は経済混乱は思ったよりひどくないため、無駄な債務はやはり減らそうとしているようだ。大統領選で思ったほどの混乱が起きないという予想も市場のセンチメントを変えているのかもしれない。

それにしても日本の社債市場ではこうした話があまり聞かれない。外債発行をした場合はグローバルな投資家の需要を集めるため、海外と全く同様の動きになるが、円債市場は全く別物のようだ。円債を発行するよりは銀行にローンを借りた方が楽ということなのだろうか。確かに周りにも株を買う人は多いが、社債を買う人はあまりいない。円債に投資するファンドも海外に比べると少ない。

マイナス金利になったり、中央銀行がお金を刷り続ける中では、現金を持っていることも危険なはずなのだが、やはり投資をする方が危険と思う人の方が多いのだろう。日本の資産運用ビジネスの拡大に期待したい。

米国テクノロジー株の動きの背景にあるもの

暴落を危惧する声をよそに、米国テクノロジー関連株が引き続き好調だ。最近若干の調整はあったとはいえ、2000年代初めのドットコムバブルを超える勢いだ。S&P500に占めるテクノロジー関連株のシェアは40%に近づき、1999年の37%を超えた。

以前のような単なる熱狂というよりは、リモートワークなどの環境変化の波に乗って、着実にキャッシュフローを生み出しているので、この株価上昇は正当化できるという意見も多い。PERで比較してみるとApple、Facebook、GoogleのAlphabet等は軒並み30台中盤で、極端に高いという感じはしないが、Netflixは90近く、Amazonなどは130近くになっている。

ある一定の企業の影響力が強まるといつも起きることだが、今後は規制の動向が気になる。金融規制の金融株に与える影響を考えるとこれが懸念材料の一つとなることは明らかだ。米国民主党からは、独占状態にあるプラットフォームを他のビジネスラインから分離させるべきという意見が出ている。iphonや検索エンジン等を分離するということなのだろうか。

もう一つ気になるのは株式デリバティブ市場の動きだ。今週月曜はColumbus Dayで米国は休日だったが、株式市場はオープンしており、株式オプションの約定額が急増した。特にAppleのオプション取引(主にコールの買い)が今年2番目に大きかった模様だ。

いつものごとくコールを売った銀行はそのポジションをカバーするために現物株を買う。これが株価上昇につながるというもので、ソフトバンクの米国金融市場における知名度を高めた手法である。とは言え、今ではNasdaq Whaleという別名で呼ばれているソフトバンクのような大口投資家のフローというよりは、サイズが小さな注文が多かったようなので、小口投資家がこぞってこの手法を取り入れているようだ。新iPhoneの話もあったが、Apple株は月曜に6.4%上昇しており、株式分割後最大の上げ幅となった。休みで仕事もないけど外にも出れないからデイトレードでもするかという感じなのかもしれない。

そのうち日本でもオンラインブローカーが安い手数料でオプション取引を広げようとすれば、日本でも同じようなことが起きるのだろうか。こうして上げられた株はどこかで暴落するのだろうか。