「金融」カテゴリーアーカイブ

LIBOR移行状況

ここからはLIBORからの移行が加速していくはずなので、2週間前に作成したグラフをUpdateしてみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

JSCCでクリアリングされた取引のみになるが、あまり前回と変わり映えがない。取引量が低調というのもあるのかもしれないが、この期間のLIBOR関連スワップの割合は67%となっている。TIBOR関連が22%でOISは11%という結果で、前回よりOISが減っておりTIBORが2割を超えている。

ただ、ISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorの推移をみると5月になって明確な上昇トレンドが確認できる。RFRの割合が6.8%というのは過去最高であり、GBPの54.9%には遠く及ばないもののUSDの6.9%と同じくらいになっている。

https://rfr.clarusft.com/

また、FCAが市中協議で意見募集を始めたが、シンセティックLIBORのベースとなるSONIAのターム物についてRifinitivではなくIBA(ICE Benchmark Administration)を選び、QUICKのTORFについても言及している。USDのターム物ではCMEが選ばれたが、GBPにおいてはIBAが面目を保った形になっている。

さて、JPY LIBORに話を戻すと、次はFSBのロードマップのP5にもあるように7/31のQuoting Conventionの変更がある。USDも7/26に同様の変更が行われるが、海外では、LIBORスワップを行うときは、まずはSOFR Swapを行い、LIBOR vs SOFRのベーシススワップを入れるという方向で話が進んでいる。ただし、円については何故かここまで具体的な話は聞かれてこない。ひょっとして日本では、特に気にせずLIBORスワップが続けられることになるのだろうか。

確かに二つのスワップをしなければならないとなると資本賦課も上がり、管理も面倒なので自然とOISに移っていくことになるが、これが変わらないのなら、逆にOISスワップをするときにLIBORスワップとLIBOR vs OISの二つのスワップをブックしなければならないとなると、移行のきっかけにもならないのではないか。単に二つのレートのスクリーンがありますよ。でもOISがメインですよ。という緩い感じのConvention Changeではあまり意味がないような気が個人的にするのだが。。。

CMEのSPAN2の導入時期が近付いてきた

長らく間議論されてきたCMEの証拠金モデルの変更が今年第四四半期になりそうだ。COVIDによって先延ばしになってきた変更がようやく導入されることになる。SPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)は1988年から証拠金計算に使われており、日本でもJSCCとCMEの間でライセンス契約が結ばれ、先物・オプション取引の証拠金所要額計算にも使われている。世界で32の取引所で採用されている手法なので、日本を含めて世界中にインパクトを与える。

新しい計算手法はSPAN2と呼ばれ、シナリオベースのSPAN1と異なり、ヒストリカルデータを使ったVaRタイプのモデルとなっている。市場リスク、ストレスリスク、流動性・集中リスクの3つの部分に分かれており、ローリング・ルックバック期間に基づいている。AnchorモデルかRolling Lookbackモデルかはよく議論になるが、Anchorモデルの場合は例えば金融危機の時期を含むように2008年からといった形で過去データを固定する。

Rolling Lookbackは常に過去何年かといった期間をずらしていくので、極端な市場変動の時期が外れてしまうと証拠金額が大きくぶれてしまう。こうしたブレを緩和するために、一定のフロアを設けたり、ボラティリティを調整することによって、極端な変動が発生しないようにしている。商品によっては季節性を考慮したりもする。仮想シナリオを含めるのも良く使われる方法だ。

16のシナリオに基づくSPAN1に比べ、ポートフォリオ全体の動きを包括的に考慮するため、同じネッティング契約のもとに入っている取引については、ある程度のオフセットが見込まれるのではないかと予想される。パラレルテストは既に始まっているが、概ね好評との報道が多いため、当局承認を経て実際に導入されることになるのだろう。

アルケゴスの損失により、各金融機関ともMargined Riskの管理方法については、活発な議論がされていると思われるが、このSPANもリスク管理手法の進化に重要な役割を果たすことになるだろう。無担保取引が多かった頃は企業分析、ヘッジ等がリスク管理上重要だったが、有担保取引や取引所取引が中心になってくると、こうした証拠金計算手法がリスク管理の中心になってくるものと思われる。

米短期市場の資金の流れ

昨日米短期市場についてコメントしたが、もう少しデータも含めてみてみたい。今年3月にSLR(補完的レバレッジ比率)の一時緩和が延長されなかったことにより、JPMやCitiといった米銀大手が事業会社と預金を減らすよう話をしているという報道があったが、行き場を失ったその資金はMMFに流れた。お金を借りたいという会社が多ければ資金があるのはありがたいのだが、資金ニーズがないため、現在の資本規制下では、預金増は収益性低下につながってしまう。MMFに流れ込んだ資金は以下のように昨年以降急増している。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/

FRBはQEによって資産購入を続けているが、融資が増えない以上資産を売って現金をもらうインセンティブが銀行にはなくなる。米国債とFRBの準備預金がレバレッジ比率の計算から一時的に除外されていた時は良かったが、この期限が切れた今となっては預金増は重荷になってしまう。MMFに移してもらえば資産運用となるためSLRの計算には含まれない。

米銀大手3行の預金額は、2019年末から2020年末までに約3兆ドルから約4兆ドルへと増えたが、ローンの方は2兆ドル程度で一定である。優先株の発行等によりティア1資本を増やしてSLRの改善に努めてはいるものの、今年の第一四半期にも預金は約2500億ドル増えているため、預金は銀行経営の重しでしかなくなってきた。

企業はMMFに資金を移し、MMFは結局短期国債であるT-Billに投資をすることになるが、このT-billの発行額が減少している。となるとお金の行き場がなくなってしまったため、FRBはRRP(リバースレポプログラム)によって国債を市場に提供した。6月のデータはまだないが、このRRPの利用額を国債に絞ってグラフにしてみると以下のようになる。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/federal-reserve-repo-facility-total-utilization-and-mmfs-participation/

2017年くらいにもRRPが使われていたが最近はほとんど利用がなかった。それが一気に4月に3500億ドルを超えてきている。国債のみかどうか定かではないが、報道によるとこれが直近7500億ドルを超えてきた。

こうして改めてデータを見てみると、かなりマーケットの流れが変わってきているのを改めて実感した。やはりSLRの見直しは急務のように思える。

米短期市場の混乱の始まり

FRBの利上げ前倒し方針を受けてマーケットがきな臭くなってきた。6/17から、IOER(超過準備の付利)とリバースレポの金利を0%から0.05%に上げたことにより、突然過去最高水準となる7500億ドルを超える資金が、RRP(Reverse Repo Program)を通じて約70社の市場参加者から流入した。お金の行き場に困っていたMMF、政府系企業、銀行が、現金をFRBに預けた格好だ。春先までほとんど使われていなかったこのRRPの金額がここまで急増するのは異例だ。

数か月前からこの資金流入は続いており、1日当たり5000億ドル程度にはなっていたが、今後もこの増加傾向は続きそうで、近いうちに1兆ドルを超えるだろうという声も聞かれる。つい最近までほとんど利用がなかったものがここまで急増したというのは、少し神経質になるべきなのかもしれない。ここ10年くらいのグラフを見ても明らかにこの動きは目立つ。

リバースレポなので米国債を担保に資金を得る方向なので、現金が余り過ぎているか、担保債となる米国債が足りないという理由が考えられる。2月から短期国債の供給が減っているのも影響しているのだろうが、やはりお金があまり過ぎているのだろう。2019年9月にレポレートが急騰してFRBが資金供給を行った時とは反対の流れになっている。

実行FF金利が過去最低水準になっていたため、利上げを想定する声は多かったが、これを受けてFF金利は0.10%まで上昇した。0%から0.25%の範囲に誘導するためなので、パウエル議長は狙い通りとコメントしているようだが、マーケットの現場では明らかに混乱がみられる。

FRBは月間1200億ドルの資産購入プログラムを継続しており、金余りが続いているため、どこかに資金の置き場が必要になっている。銀行融資も実は昨年後半からは増えておらず、企業の資金調達ニーズも減退している。完全に金余りである。コロナショック直後は有事に備えるためかローンが一時的に増加し、企業在庫も増えていたが、昨年からそれは解消され運転資金の必要性もなくなってきた。

ワクチン接種が進み経済活動が再開されれば消費が増え、生産も復活するという見込みだったのだろうが、実はコロナ前には完全に戻らず、消費増が生産増に結び付かないのではないかという懸念も出始めている。確かにリモートで何でもできるということも明らかになり、完全に元に戻るといよりは、ロックダウン時に起きた変化が一定程度継続する可能性は高いだろう。これだけ資金が余っているのなら債券購入プログラムを止めるというのが普通の考え方だが、FRBはそのインパクトにも神経をとがらせているのだろう。

今回は単にリバースレポの金利を0.05%引き上げただけと言ってはそれまでだが、FRBが短期の金利がマイナスになるのを極度に恐れていることの裏返しなのかもしれない。誰もが安全と思っていたMMFの危機につながるかもしれないのである。SLRの一時的緩和を延長しなかったのも事態を悪化させた。

実際の生産活動に比して資金が多すぎると、その調整はインフレに表れてくるはずである。足元のインフレ加速は一時的なものとパウエル議長はコメントしているが、これが続けば緩和修正が早まる可能性があり、その時に株式市場の暴落が始まってもおかしくない。しばらくは短期市場の行方にも注目したい。

LIBOR取引に対するペナルティチャージがかかり始める

CCPで清算された取引について、12月にLIBORからOISへの一括変換作業が行われるが、当局のガイダンスにもある通り、事前に変換が行われることが望ましい。LCHでは、ペナルティという言い方はしていないものの、残ってしまっているLIBOR Swapに実質的には手数料をかけることになっている。大分前から話は出ていたので、事前変換はMUSTだと思っていたのだが、関係者と話をしてみると、このフィーに気づいていない人が多いようで気になった。

詳細はLCHのWebサイトを参照頂きたいが、フォールバックフィーとコンバージョンフィーという二つの手数料によって早期移行を促す仕組みとなっている。フォールバックフィーは、残存LIBOR Swapにかかるもので、コンバージョンフィーは12月の一括変換時にかかるフィーである。

フォールバックフィーは、LIBOR Swapの件数によってチャージされるが、重要なのはこれが毎月取られるという点である。18か月の延長のあったUSD LIBORは除外されているが、JPY、GBP、EUR、CHFについては9月末から一件5ポンドのフィーが取られる。

日本では、面倒なので最後まで待とうという声も聞かれるが、12月に変換作業を行うスワップが多いとオペレーションリスクがあるうえ、こうしたフィーによる収益インパクトもある。CCPで清算された取引については、コンプレッション/Risk Transformationがメインの削減方法になるので、来月以降できるだけ多くの参加者がTriOptimaとQuantileのRunに参加し、Risk Torelenceを上げてLIBOR取引の削減に努める必要がある。

ちなみにこの手数料は直接参加者である銀行のみならずクライアントクリアリングのポジションにも適用される。12月に適用されるコンバージョンフィーについてはまだ開示されていないものと思われるが、早期コンバージョンのインセンティブ付のために、高い水準に設定されたとしても不思議ではない。

LCHがこうしたフィーを導入しているということはJSCCなど他のCCPが追随したとしても不思議ではない。コンプレッションの参加者は特に日本では限定的かもしれないが、今後はこうしたコンプレッションRunに積極的に参加することも重要になる。まずはLIBOR Swapの件数を調べてコストを計算してみるべきだ。わずかなbid offerやブローカーコストに注意を払うトレーダーが、単に手間だからと言ってコンプレッションに参加しないというのは本末転倒である。いや。トレーダーというよりは、資本、ファンディング、証拠金、クリアリングにかかるコストに対して注意を払う部門が必要なのかもしれない。

システム的、オペレーション的に手作業が多く消極的な参加者も多いようだが、海外ではほぼ自動化が進み、通用作業の一つになっている。こうした点でも後れを取らないようにしないと、証拠金負担、資本賦課によって収益性、ROEにおいても海外に後れを取ることになる。これに気づいているクライアントクリアリングの参加者は少ないのではないかと思うが、顧客サイドも早めに準備をした方が良いのではないだろうか。

米国債に清算集中規制は適用されるか

CMEとFICCが米国債のクリアリングに関してクロスマージンの仕組みを見直すというニュースが出ている。もともとCMEはBrokerTecを運営するNex社を買収したことによって、米国債の清算進出を伺っていると数年前に騒がれた。CMEが国債とレポ取引を一体的に管理できるようになれば、国債、レポ、先物、スワップまでクロスマージンができるようになり、証拠金削減につながるので、米国債の流動性向上に資する可能性がある。

現状は国債と国債先物のクロスマージンにとどまっているが、商品が広がればマージンの削減効果も高くなる。米国債のクリアリング規制の話も出始めているが、米国債のCCPによる清算集中義務化が確定すれば、このクロスマージンは極めて重要になる。

一時はCMEがDTCCの牙城を切り崩すかと思ったのだが、両者が強調するような方向に進んでいる。提案では、各CCPがクロスマージンの証拠金削減効果を計算し、より保守的な方の数字を採用するということのようだ。既に株式オプションでOCCとCMEが実現している方式に近い。今年中に局承認までもっていきたいとのことなので、かなり検討が進んでいる模様だ。

レバレッジ比率規制の見直しをしている最中にこのニュースが出るということは、米国債の清算集中義務付けや米国債の流動性向上策の一環としてこれが出てきているとも勘繰りたくなる。確かに、銀行のバランスシート制約によって米国債の流動性問題が発生したので、清算集中によってバランスシートインパクトを軽減するという方式であれば規制緩和に反対している政治家も説得しやすい。

日本でもIRSと国債先物のクロスマージンが行われているが、すべてJSCCの中で行えるため、複数CCPが絡む米国よりはハードルが低い。国債、レポを含めたクロスマージン制度の充実を今のうちから検討しておいた方が良いのかもしれない。

Quoting Convention変更のインパクト

CFTCから6/8に公表されたインターバンクのQuoting Convention変更に関するアナウンスメントが注目を集めた。関連する基調講演及びFAQも参照頂きたい。

GBPでは昨年スワップ等の線形商品、5月にはスワップションなどの非線形商品についてのConvention変更が行われたが、ドルについては7/26にLIBORからSOFRにQuoteの慣行を変更することになる。日本についても来月同様の変更が予定されている。

これはベストプラクティスで罰則がある訳ではないのだが、マーケットでは極力これに従う方向になるだろう。余談だが、海外では昔からベストプラクティスガイダンスというものが多く、市場参加者はできる限りこれに従ってきた。日本ではあまり聞かれない慣行で、単なるガイドラインで罰則規定がないなら関係ないのではないかという意見も聞かれることがあるが、海外の市場慣行はこうしたベストプラクティスで動くことが多い。法律ではないので、たとえ市場慣行が変わらず方針変換をしたとしても、法律の書き換えは必要ないため使い勝手が良い。

さて、7/26よりディーラー間ではLIBORよりもSOFRを優先させるということだが、イメージがつかみにくい。具体的には、7/26以降ディーラー間では、LIBOR Swapの代わりにSOFR Swapを提示して取引をすることになる。しかもLIBOR Swapの画面は情報提供目的のみとなり、10/22以降はその画面が完全に消えることになる。

CFTCのアナウンスに従えば、すべての取引、アウトライトおよびベーシス・スワップは、SOFRを中心に行われることになる。 ここで、LIBORはSOFRのベーシスとしてアクセス可能となると書かれている。つまり、LIBOR Swapをやりたいと言われたら、固定 vs LIBORのスワップを行うわけではなく、まずは固定 vs SOFRのスワップを行い、SOFR vs LIBORのベーシススワップを入れることになる。Notionalが二倍になるので資本賦課の点でも不利になる。そして、10/22以降は、LIBORの画面が完全に消える。

もともとLIBORの画面もOISの画面も両方あるから、7月以降何が変わるかよく分からないという声もあるが、取引の仕方が、固定 vs LIBORではなくOISを挟んだ二つのスワップになるとすると、やはり移行の機運は高まるのではないかと思う。

LIBOR移行進捗状況

先週は日銀副総裁の講演(最終局面を迎えたLIBOR移行対応)、ISDAのBenchmark Strategies Forum、Quick社のセミナー等、LIBOR関連の様々な情報提供が行われた。そろそろマーケットも動き出す雰囲気が感じられるので、また直近のデータが気になる。

JSCCの清算取引データを見てみると、確かに直近LIBOR Swapの割合が減少傾向にある。6/3ベーシスやDTIBOR vs ZTIBORベーシスなどはそれぞれ適宜分類して、単純にLIBOR関連、TIBOR関連、OIS関連に分けてみた。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

OISが突然取引される日はあるものの、やはり直近はTIBORへのシフトが起きているように見える。一昨日などはTIBORの取引量がLIBORに迫っている。DTIBORは20年までしか清算できないので、実はこれよりもTIBORは多い可能性もある。グラフの期間の取引量を合計すると、LIBOR関連が65%、TIBOR関連が19%、OIS関連が16%という割合になる。昨年は8割を超えていたLIBORの割合が65%というのは進歩だが、4月が67%、5月が66%だったことを考えると、それほどトレンドが大きく変わったわけではない。

やはりヘッジ会計がネックなのだろうか。当局としても金融機関にプレッシャーをかけるより、監査法人にLIBOR移行に協力するようにした方が効果的なのではないかとも思ってしまう。時価評価を嫌う日本の文化では、会計がデリバティブ市場に与える影響が他国に比べて極端に大きい。直接デリバティブ取引をすると時価評価しなければならないからという理由で、日本でRepackが多いのも会計が理由のように思う。

来月7月からは、新規のUSD LIBORスワップが原則停止となるが、厳密にいえばドル円の通貨スワップにもUSD LIBORが含まれているので、これも停止かという話もある。ただ、現状のマーケットを見ていると、7月に完全移行ができるとは到底思えない。GBPのロードマップ上もGBP LIBORレグを含む通貨スワップはQ3移行の停止を想定しているとも読める箇所があるので、しばらくは通貨スワップの移行は起きないのだろう。海外では通貨スワップの事前移行の動きも活発化しているので、日本の遅れがここでも目立ち始めている。ワクチンと同じように、日本は動き出すまでは異様に時間がかかるが、一旦動き出すとものすごいスピードで追いつくということになるのかもしれない。

金融とITの融合

金融データ分析を行うCoalition Greenwichのレポートについての記事が出ていたが、バイサイドの株式トレーディングに係る予算が12%増加したとのことだ。コロナ禍で、リモートワークに対応するためにシステム投資を増やしたところが多いようだ。予算のうち40%がリモートワーク環境に対するものなので、感染終息後もリモートワークを一部活用することになりそうだ。

次に大きいのはオーダーマネジメントシステムに対する出費で27%を占めている。また、AI、ブロックチェーン、クラウド技術に対する予算も33%程度増やすとなっている。Robotic処理などの次世代テクノロジーに対する出費も増加する見込みだ。

確かにデリバティブ取引周りの処理についても、コンファメーションを郵送やFAXで送っていた頃とは大きく異なり、かなりの部分がオートメーション化された。取引のブッキングや照合作業もほとんどが機械化されており、ミスも減ってきた。

このように金融はますますテクノロジーに依存する形に変化している。業績好調にもかかわらず、人員削減は続いているが、テクノロジーに対する出費は軒並み増えている。人の仕事がマシンに変わると言われて久しいが、少なくとも予算や人員を見ているとこれは既に業界の常識になっている。

既にかなりの部分がオートメーション化されてしまったため、口頭で確認した内容が間違っていると、それがそのまま下流のプロセスに流れ、Booking、クリアリング、清算機関へと流れてしまう。電子取引の多い海外では、あまり問題にならないが、ボイストレーディングが中心の日本では、誤ったコンファメーションを出したり、当局報告データに誤りがあることを恐れるためか、わざわざこの自動プロセスを外し、複数の人がチェックするというオペレーションを行っているところもあると聞く。

日本では、システム投資にお金が流れにくい。そんなコストを掛けるよりは人海戦術でやった方が確実という結論になることも多い。解雇という選択をしにくいため、余剰人員活用をしたいというニーズもあるのかもしれない。

しかし、ここまで海外のシステム投資が増えてくると、このままでは日本の金融が大きく取り残されてしまう可能性がある。大手はきちんと戦略を立てて、システム投資をしているところが多いが、バイサイドや大手機関投資家で、Coaltionが分析したような積極投資を行っているところは少ないように思う。

海外投資家に聞くと、フェイルに対する慣行、資金決済、口座開設にかかる手間の他にも、何か日本の金融は特殊だというイメージがあるようで、極力オフショアで取引をしたいという意見が多い。

アジアを含めた海外の資金の影響がここまで大きくなってくると、日本の金融ガラパゴス化は、日本にとってあまり良い影響があるとは思えない。本当は日本で作った基準がグローバルに広がっていけばよいのだが、金融においては、残念ながら極力グローバルスタンダードに合わせていく方が望ましいのだろう。

ターム物RFRではなくオーバーナイトRFR

6/2にFSBからもう一つ「金利指標改革:オーバーナイト物リスク・フリー・レート及びターム物レート」が公表されている。2018年7月の文書を改訂したものだが、オーバーナイトのRFRへの移行が金融の安定性のために重要としている。主にデリバティブ市場について触れられている箇所が多い。

ターム物金利についても言及があるが、it is important that transition away from IBORs is to the new overnight RFRs rather than to these types of term rates.と書かれており、ターム物ではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。IBORsはDeep/Liquid Underlying Marketに欠けるため脆弱だとしているが、内容的にはこのIBORsにはTIBORも入るように思うのは私だけだろうか。

また、以下のように、ターム物RFRを広範に使うことは、利益相反にもなりかねないと明確に述べている。

widespread use of term RFRs in derivatives would create the potential for actual or perceived conflicts of interest for market participants.

FSBもターム物に一定の役割があるとは認めつつも、その利用は限定的なものになるとしている。一方オーバーナイトRFRの利点として、中央銀行の政策金利に連動しやすく、銀行に対する信用懸念によって市場が歪められる可能性も低いという点を挙げている。そしてターム物の流動性向上を待つのではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。

英国では、ターム物SONIAの導入にも関わらず、変動利付債や証券化商品の発行において、後決めSONIAが広く使われるようになっている。スイスではターム物金利が存在しないこともあり、住宅ローンや企業向けローンで後決め複利のSARONが一般的となっている。米国の変動利付債も後決めSOFRが一般的となり、消費者ローンは前決めSOFRになっていることなどが紹介されている。日本についての言及はない。

以下のようにFSBとしては、ターム物がオーバーナイトRFRほど頑健性を持つようになるとは予想しておらず、その使用は限定的なものであるべきと言い切っている。そしてターム物の方が変動も激しいことが予想されるので、金融の安定には望ましくないとしている。

because the FSB does not expect such RFR-derived term rates to be as robust as the overnight RFRs themselves, they should be used only where necessary.

また、どうしても金利を先に確定させたいローンなどについては、前決めRFRやIBORと同じNotice、決済を行うRFRの可能性にも触れている。ヘッジツールとしても、一部の債券のヘッジ以外はオーバーナイトRFRを使うのが効果的と述べられている。全般的にターム物の利用は限定的にすべきであり、特にデリバティブ取引については、オーバーナイトRFRをメインとすべきという強いメッセージがあちこちにちりばめられている。そしてターム物を使ったとしても、流動性がなくなる場合に備えてフォールバックの文言を準備すべきとまで言っている。

ターム物のTORFに対する期待感が強く、足下でTIBORへのシフトがみられる日本は大丈夫なのだろうか。

JPY LIBORの移行状況

TIBORの盛り上がりについて書いたが、実際のデータを確認してみたくなった。米国のようなSDRが充実していない日本では、公開されている情報としてはJSCCのデータが最も充実している。早速各指標のシェアを見るグラフを作ってみたところ以下のような結果となった。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

データの略称は以下の通り

  • L: LIBOR(含むLIBOR6/3)
  • Z: ZTIBOR
  • D: DTIBOR
  • LZ: LIBOR vs ZTIBOR
  • DZ: DTIBOR vs ZTIBOR

これだけ見ると、Lの部分がここ数か月急速にシェアを落としており、実はLIBORからの移行が進んでいるように見える。特に5月のOISは昨年の秋を超えて、13%のシェアとなっている。そしてTL(グラフのLZ)が8%へと増えている。4月以降LZが増えているが、同時にDの割合も増え、これまであまり見られなかったDZがみられるようになった。これまでほぼ同じものとされていたところ、あまりに動くのでヘッジのフローが入っているのかもしれない。

4月はOISというよりはTIBOR移行の様相を呈していたが、5月にOISが巻き返しを見せている。Quoting Conventionも来月には変わるので、ようやく動きが見えてきたということか。

全体の取引量を見てみると以下のようになる(単位:百万円)。4、5月は取引量自体が極めて少なかったが、四半期末にあたる6月には少しは取引量が戻るだろうから、6月のデータに注目したい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

日本全体では固定受けニーズが強いというのはよく言われることである。そうするとここ最近のTLベーシスの縮小はLからDまたはZへの移行の結果なのかもしれないが、今度はOISに移るとなると、TLが反転し、今度はOISが下がるということになるのだろうか。

FSBからLIBOR移行ロードマップが公開された

FSB(金融安定理事会)からLIBOR移行のロードマップが示された。中銀によって推奨されるRFRへ早急に移行すべきと書かれている。デリバティブ取引については、LIBORに類似した代替レートを望んでいる節があるとして懸念が表明されており、そのようなものを待望するよりはRFRへの移行を進めるべしと書かれている。

米国のAmeriborやBSBYのようなレートのことを言っているのかもしれないが、字面だけ見ていると、RFRではないという意味ではTIBORも該当するように読めてしまう。現状日本の取引を見ていると、RFRというよりは、一時的にTIBORに移行しているのではないかと思える日もあるが、FSBはOvernightのRFRをメインにすべしという立場を明確にしている。

ActiveでLiquidなオーバーナイト金利にリンクしているためRFRは頑健であるとして推奨しているが、これを読めば日本でもTONAに移るべきというのは明らかであろう。システム的な準備の遅れから、一時的にTIBORに行くことはあっても最終的にはTONAというのは明確なのだが、円金利が膠着する中、あまりにもTIBORだけが動いているので、TIBORスワップの取引量も増えている。

FSBロードマップでは、Accounting PracticeやAccounting Processも含めて問題を洗い出しプランを策定済であることが求められているが、未だに日本ではヘッジ会計が障害になっているという話が聞かれるのが不思議だ。

移行タイミングについては、やはりGBPについてのタイムラインが多く、JPYについては、以下の2つが示されている。

  1. Q2末のローンとボンドの新規取引停止
  2. Q3末の新規IRS停止(及び7/31のTONAのQuoting ConventionのTONAへの変更)

1については早くから目標が決まっていたが、2についてはその公表が若干遅れた。一応ローンと債券についてシステムの準備完了の目途(Q1末)も示されている。ロードマップを見ればわかる通り、他の通貨は多くのタイムラインが決められている。

以前も紹介したJSCCの統計を見ていると、JPYについてはTIBORスワップが増えており、LIBORからTIBORへの移行が進んでいるのではないかとも思える様相を呈している。こうして固定受けのTIBORスワップが増えているためか、TIBOR-LIBORベーシスのタイトニングが止まらない。10年などは、初めてマイナス圏に突入し、さらにこの動きが続いている。

そうは言っても、日本はLIBOR改革によってLIBORからTIBORに移行しましたなどと言うと、全世界から疑問の声が上がる。ここはTIBORへのシフトは一時的なもので、ヘッジ会計やシステムの問題が解決すればTONAに移っていくと考えるのが自然だろう。もちろんローンヘッジニーズのTIBOR Swapは残るが、今のLIBORとTIBORという関係がOISOISとTIBORに変化するのだと思う。ZTIBORについては、当然恒久停止に備えて、ISDAフォールバックスプレッドに収斂し、2024年12月からはDTIBOR一本になるというのがメインシナリオである。

あとはいつTONAへの移行が起きるかだが、今月後半から急速にTONAスワップが増えるかどうかが重要である。

米国債取引の清算集中

SLR(補完的レバレッジ比率)の計算から米国債を除くという一時的免除措置の期限が切れた際に、同時にSLRの改革を検討するとのアナウンスメントがあり、市場参加者の注目を集めた。未だその内容については、詳細が公になっていないが、一つの案としては米国債のCCPによる清算がある。

米銀数行が免除措置の延長が行われなかった影響を公表していたが、レバレッジ比率にして1%近い影響があった。これはかなりの影響であり、いかに免除措置のインパクトが大きかったかを物語っている。

米国政府の景気刺激策がかなりのサイズになっていることから、今後も米国債の流通市場の活性化は重要な課題となることは間違いない。現状は、Wells Fargoがスキャンダルの影響で資産規模の拡大を制限されており、市場にストレスがかかれば、以前のように米国債の流通に支障が生じる可能性は捨てきれない。

CCPで清算をすることによって、取引相手が信用力のあるCCPに変われば、資本賦課が減ることになり、銀行が米国債やレポ取引を行いやすくなる。そして、CCPを経由した取引については、SLRなどのバランスシート制約が軽減されることになるものと思われる。つまりSLRの悪化無しに米国債取引を継続することが可能になる。

政治家や当局の意見は二つに分かれているようだが、CCP化の反対意見の方が、若干理論的に弱いように見える。破綻時には納税者に損が押し付けられるという論調も目立つが、税金投入を前提としたCCPは一般的ではない。通常は十分な証拠金を取った上で、参加者が拠出する清算基金、CCP自身の保証金や資本で、かなりのストレスに耐えられるように設計されている。

この辺りの議論が進むと、銀行サイドにはあまり反対する理由もないことから、米国債取引はCCPに移っていくことになるものと予想している。技術的にはそれほど難しい話ではないので、比較的早いペースで移行が進んでいくのではないかと思う。

LIBOR改革と清算集中規制

LIBORからRFRへの移行によって清算集中義務がどうなるか、SEFやETPの対象取引にどう変更があるかということが、そのうち議論になってくるものと思っていたが、やはり最初に動いたのは英国で、清算集中義務の範囲をどうするかについての市中協議が開始された。締め切りは7/14となっている。

JPY LIBOR SwapについてはLCH等の一括変換直後の12/6からは清算集中義務から外れるとされている。すべてのLIBOR Swapが年末に公表停止となる前に、段階的に清算集中義務から外れることになる。そして新レートのスワップに清算集中義務が課せられていくこととなる。

新レートとしては、EURがEONIAが€STRに、GBPがSONIA
へと変更されるが、JPYについては、清算集中義務から外れるとしか書書かれておらず、後継指標の指定がない。

多くの国で一つのRFRへの移行が進む中、日本の金利市場では異なるアプローチが採用されており、現時点では、どのベンチマークが日本円Liborに代わって標準となるかはいまだ不明というのがその理由のようだ。そしてドルと円については、引き続き清算集中義務の範囲についてレビューを継続するとある。

円については、現段階では1つのベンチマークから別の単一のベンチマークに行われるとは考えられないため、流動性や取引量が円Liborからどの契約に切り替わるかは判断できないと書かれている。おそらくOISと同程度の取引量となっているTIBORが念頭にあるのだろう。

確かにシステム対応の遅れやヘッジ会計についての整理が終わらないために一時的にTIBORに流れることはあるだろうが、デリバティブ取引において、TIBORがLIBORの完全にとって代わると考えている日本の市場参加者は少ないのだろうが、外から見ると不明ということになるのだろうか。

後は日本の金融庁からのTONAの清算集中義務についてのアナウンスメントが待たれる。5年、7年、10年のLIBORスワップが対象となっている電子取引基盤規制の変更も必要だ。現状に鑑みると、12月に切り替えが行われるというのが最も自然に思える。いずれにしてもCCPで清算が不可能になれば清算集中もできないので、同じく12/6になると考えるのが普通だろう。そうするとETPの指標切り替えもこの辺りになるのだろうか。もしかしたら流動性がどうなるかわからないので、一定期間清算集中規制が適用されない空白の時間ができたりする可能性もあるのだろうか。

いずれにしても今年は忙しい年末となりそうだ。

4月のRFR移行指標公表

4月のISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorが10.1%と発表された。3月の8.7%よりは上がったものの、昨年後半に10%を超えてから本格的な増加がみられない。その中でもUSDが7.5%になったのは朗報ではある。CHFが16.7%へと急上昇しているが、JPYについては、3.9%と依然さえない移行状況となっている。GBPは順調に50%を超え、ほぼ問題なく完全移行が達成できそうだ。

LIBOR移行とは関係ないかもしれないが、それよりも驚いたのは全体の取引量が激減しているという点だ。ここ直近では最も取引量が少なくなっている。JPYも例外ではない(というより最も減少幅が大きい)が、雰囲気からすると5月も低調な取引量となっているように思える。

SOFR参照スワップの取引量がSONIAを超えているのも興味深いが、USDについても着々と移行が進み始めているように思える。CHFも順調に移行が進んでいる。JPYは大丈夫なのだろうか。

英国のRFR移行ロードマップ

英国では、Sterling RFRワーキンググループのRoadmapに従って、着々と移行が進んでいる。やはり何かきっかけがないとマーケットの慣行というのは変わらないものなので、こうしたタイムラインが明確に示されることが実は一番大事なのではないかと思う。ここで示されているのは、以下のようなプランだ。

  1. 年末のGBP LIBORの停止に向けた準備
  2. 後決め複利SONIAの拡大に向けた努力
  3. 3月末で新規LIBOR参照ローン、債券、証券化商品、スワップなどの線形デリバティブ取引の停止
  4. LIBORから変換が必要な取引を3月末までに洗い出し、9月末までに変換作業を終えるべく努力
  5. スワップションなどの非線形デリバティブ取引については新規取引を6月末で停止するとともに、9月末までに変換を完了すべく努力

こうしたタイムラインの他にもクォートのConvention変更の日程も明らかにしており、それによって金融機関が行動を変えている。こうしてみるとほとんどの移行作業を9月末までには終わらせるという目標になっている。

翻って日本の状況を見ると、1だけが同じである。つまり日本は最終目標は同じなのに、他のすべての点において後れを取っている。米ドルは最終目標地点が18か月先なので、最も遅れているのが円である。

3については、LIBOR参照貸し出しの新規停止が日本では6月末なので3か月遅れ、線形デリバティブ取引については9月末なので半年遅れとなっている。

この英国のロードマップの中で、GBP LIBORにリンクしたレグを持つ通貨スワップの新規停止については、During Q2/Q3という言い方になっており、注にある細かい文字のところを見ると、It is acknowledged cross-currency RFR markets currently remain nascent, and that further developments will be necessary in 2021と書かれている。つまり、RFR通貨スワップについては、まだ移行の初期段階であり、厳格なタイムラインを示すまでには至っていないということのようだ。

したがって、GBP LIBOR参照取引の金利スワップは3月末、スワップションは6月末で停止となるが、通貨スワップについては9月末まで新規取引が行われる可能性があり、当然そのリスクヘッジとしての金利スワップがあれば、それも継続されるという理解になるのだろう。

ディーラーからすると、自分は顧客のフローを受けているだけだから、顧客がRFRレートの取引を依頼してこないと移行できないと言い、顧客サイドからすると、RFRの流動性が上がらないと移行できないと言い、お互いに何もできずにそのままになっている気がする。現実的には、流動性もないのに顧客がRFRで取引をしてくるとは思いにくいので、こうしたロードマップが示され、それを遵守すべく業界全体が動くというのが最も重要かと思う。

ARRCがCMEをターム物SOFR管理者として選定

先ほど(NY時間5/21)、ARRCがフォワードルッキングなターム物SOFRの管理者としてCMEを選定したと発表した。あとは5/6にARRCが示したガイドラインを満たすほどにSOFRの流動性が上がってくることが完全推奨の条件となる。AmeriborやBSBYなどの代替レートが注目を集めてはいるが、やはりARRCとしてはターム物SOFRを推奨したいということだと思う。

個人的にはAmeribor等は地銀のローン中心に使われるレートになるものと思っていたのだが、バンカメがBSBY連動債を発行し、BSBY vs SOFRのベーシススワップが執行されたりと、意外とその利用度が上がってきている。正直SOFRを進めてきたARRCや当局も困惑しているのではないだろうか。

さて、今後の方向性だが、今回CMEを選定したとはいえ、完全推奨という訳ではないので、キャッシュマーケットのFallbackレートは後決め複利のSOFRとなる。そして流動性向上が認められればターム物SOFRが主流となる。

このウォーターフォールは日本も同じなので、第一順位はターム物、つまりTORFということになる。日本では流動性がないと問題という議論が海外ほどは聞かれず、TORFを使いたいという市場参加者が多い気がするが、先物すら満足に存在していない中、米国を追い抜いてターム物が主流になるとは、少なくとも今年中は考えづらい。

それにしてもCMEはさすがだ。色々なビジネスにおいて先見の明がある。日本で金利先物というとTFXとなるのだろうが、CMEはあまりにも巨大である。何とか日本でも金利先物を盛り上げられないものなのだろうか。不思議と日本では先物というと株式先物とコモディティというイメージがある。唯一JGB先物は長期国債先物だけが取引されているという状況である。このような状況でTORFが主流になるの日は来るのだろうか。

GBPとJPYのLIBOR移行スピードの違い

英国のRFRの検討体のガイダンスでは7/1からはスワップションなど非線形のProductについても新規のLIBOR参照取引が停止となる。そして、こうした商品のクォートのコンベンションが5/11からRFRであるSONIAへと変更になった。

これは英国中銀のガイダンスを受けたものだが、その直後の5/14にGBP4.8bnもの取引がDTCCに報告されたとのことだ。4月全体の半分くらいを1日で取引したことになる。今年の1月がGBP1.2bn程度だったことを考えると、非線形商品についてもRFRへの移行が加速してきたように見える。

スワップなどのLinear Productについては昨年の10月頃にQuoting Conventionが変更になっているが、そこから半年たってNon Linearの移行も加速している。今年12月末に向けて着々と移行が進んでいる。1月の段階ではほとんどLIBORだったものが、4月には半々くらいに拮抗し、5月にはSONIAが逆転した形になっている。おそらく予定通り7月1日からはRFRのスワップションへの移行が完全に完了することになるのだろう。

日本の場合は線形商品の新規LIBOR参照取引の停止は9月末なので10月から新規取引の停止となる。そこから2か月で、英国で徐々に進んできた移行を一気に行わなければならない。

本当に間に合うのだろうか。。。

望ましいCCPの破綻処理とは

英国で提案されたCCPの破綻処理が議論になっている。2月に公表された英国財務省の案は、CCPがデフォルトに陥りそうになった時に英国中銀に権限を与え、CCPの規則によらずに中銀が迅速に行動を起こせるようにし、金融システムの安定を図ろうというものである。

この提案では、清算基金のようなCCPの参加者への債務を帳消しにしたり、CCPの規則で認められた範囲を超えて追加資金を要求できるようになっている。この追加資金拠出は日本のCCPであるJSCCでも取り入れられている手法だが、無限拠出を避けるため清算基金と同額程度にキャップされていることが多い。まだ全文を読んでいないのだが、どうやら英国中銀はこれを2倍にまで引き上げようとしているようだ。さらに参加者破綻に起因しないデフォルト時には、VMGHが使えないので、これを3倍としている。VMGHとはVariation Margin Gains Haircuttingの略で、要は勝ちポジションを持っている参加者がそれをあきらめるというものだ。

思い起こせば、日本はもともと市場参加者にほぼ無制限に資金拠出を求められる無限責任の形をになっていたため、国際的に批判を集め一定のキャップを設けることになった。今回の英国中銀の提案は、昔の日本のやり方に一歩近づくということになる。

これに関しては様々な意見があろうが、個人的には、もしCCPが破綻するようなことになれば、大規模銀行の破綻と同じような市場混乱が起きるため、何らかの形で当局が介入してくることになる気がしている。その意味で無限責任に近い状況になる。日本の場合は無限責任といっても多くの金融機関を破綻さぜるようなことはないから、きっと日銀が介入して資金を提供するのではないかという憶測からか、当局には逆らえないからか理由は定かでないが、昔から無限責任が問題視されることはなかった。

ただし、海外の資本規制上は、将来的に損失や資金負担が発生するのであれば、それを資本計算や流動性に加味して業務運営をしなければならない。したがって、上限なしに資金拠出が求められれば所要資本が増加してしまうため、一定の上限が必要である。CCP破綻時の追加拠出を別扱いにして、資本、流動性規制上の数字に加味しなくても良いということであれば無限責任でも問題なかったのかもしれない。

今回の英国中銀の提案が所要資本の増加につながるのであれば、銀行にとってはたまったものではないだろう。いずれにしてもCCPの破綻規制と資本・流動性規制のバランスなので、本来であれば当局サイドが、すべてのピースのバランスを取った上で規制を決めればよいはずの話のように思える。

現状市場参加者は、CCPの規則に則って取引清算を行っており、その前提で資本計算等を行っている。中銀がこれらのルールを逸脱した権限を持つことが参加者にとってプラスになるのかマイナスになるのかは実際にそれが起きてみないとわからない。今回の文書上も参加者に過度の負担を負わせるものではないというコメントもみられる。NCWO(No Creditor Worse Off)というコンセプトで、CCPの株主、清算参加者が不利な状況に置かれたときに補償するという規定だ。

とは言え、やはりCCPを企業体として存続させるという意味においては、通常の企業と同じように資本を厚くするというのが本来のやり方なのであろう。CCP破綻時には国の関与が予想されるとは言え、国の資金を投入することに対しては世論の反発も出るだろう。特にリーマンの経験があるからか、海外では過度の資金投入は困難だ。CCPの資本という意味ではSIGまたはSITGと言われるCCPの自己負担分を増やしていくのが王道なのだろう。SIGはSkin in the Gameの略で、企業経営者が事業に自費をつぎ込む際にも使われる言葉だが、破綻処理において使われるCCPの負担分を指す。

参加者のリスクに見合った負担がIM(当初証拠金)、自分のリスクではないが全体のために負担するのが清算基金、CCPの負担がSIGとなるが、この3社のバランスが最も大事だと思う。国際的にこの3つの適正負担割合を決めるのが望ましいというのが個人的な意見だ。こうなると勝ち方負担のVMGHなどは本来は望ましくないのだろう。VMGHがあると、CCPに破綻可能性が上昇した時にメンバーがVMを減らそうと躍起になり、銀行の取り付け騒ぎのような動きによって市場変動が加速してしまう可能性も否定できない。

今回は追加SIGといった概念も提案されており、5月28日までコメント募集となっている。どのようなコメントが寄せられるか注目が集まる。

ドル円通貨スワップの新レート移管が待ったなしに

国内ではLIBORからの移行が遅々として進まない。日々LIBORスワップが行われており、JSCCのデータを見ていても、どちらかと言えばTIBORへ移管しているのかと思えるほどの取引量になっている。

とは言え、来年からはLIBORが公表されなくなるのは確定しており、10月以降は新規取引にLIBORを使うことが当局からも推奨されていない。あと半年を切っているというのに、10月以降もLIBORを使えるかという問い合わせすら入る始末である。

プロトコルさえ批准しておけばLIBOR移管は終了と思っている市場参加者も多いのかもしれないが、海外当局者がコメントしている通りプロトコルはシートベルトのようなものである。シートベルトをしているからと言って時速100㎞で壁に突っ込んで良いということにはならない。壁に当たる直前に減速するとか、ハンドルを切るとか、何か行動を起こす必要がある。

顧客資産を委託しているファンドなどは、ハンドルを右に切るのか左に切るのかといった判断を入れることが難しいので、壁に突っ込むしかないという事情もあるのかもしれないが、その他の参加者は直ちに行動を起こすべきだろう。もしかしたら最近取引量が減っているのは、壁に突っ込む前にスピードを減速させているということなのだろうか。

特に通貨スワップについては、ドルLIBORの存続が18か月間延長されたことから、2段階の壁が存在している。こんな面倒なことになるのなら、事前にハンドルを切って2度の衝突を避けた方が明らかに得策なのだが、自主的に早期変換を行おうという動きはあまり見られない。それでも新規取引でRFRを使った通貨スワップは徐々に取引はされ始めているようだ。

通貨スワップに関してはARRCから2020年1月24日に出された勧告に移管に関するある程度のガイドラインが示されている(日銀も日本語でコメントを1月31日に出している。)。ここでは、変換の仕方について以下の3つの選択肢が示されている。

当然新規RFR vs RFRの通貨スワップが大々的に取引されていないので、どの方法が主流になるかは定かではないが、何となく③の方法が多そうだ。つまり、元本交換と最終金利支払いが2営業日ずれることになる。為替のFixingの仕方や決済日が変わることもあり、システム開発が追いつかないので移管が進まないと言ことなのかもしれない。

本来であればこうした詳細をはっきり決めた上で各社がシステム開発を進めて、一斉に切り替えるというプロセスが理想なのだろうが、やはり金融市場においては、当局がここまで細かいところに立ち入るのも困難だし、銀行が主導してしまうのも何となく難しそうだ。やはりある程度のコンベンションができてから、それをルール化していくというやり方しかできないのだろう。

LIBOR存続が延長されたUSDだが、新規取引については7月からはLIBORの利用の自粛が求められている。つまりドル円通貨スワップについては後1か月半でTONA vs SOFRスワップにしなければならないということになる。SOFRとLIBORと異なる通貨スワップが同時に存続してしまうのは色々と面倒で、スプレッドは固定されたとはいえ、一応LIBOR vs SOFRのベーシスリスクも管理しなければならない。

そうなると後数週間で通貨スワップの主流はTONA vs SOFRスワップということになるはずである。その割にはあまりにも静かだ。ほとんどの人は気づいているはずなのに、このまま皆壁に突っ込んでいくのだろうか。