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FSBからLIBOR移行ロードマップが公開された

FSB(金融安定理事会)からLIBOR移行のロードマップが示された。中銀によって推奨されるRFRへ早急に移行すべきと書かれている。デリバティブ取引については、LIBORに類似した代替レートを望んでいる節があるとして懸念が表明されており、そのようなものを待望するよりはRFRへの移行を進めるべしと書かれている。

米国のAmeriborやBSBYのようなレートのことを言っているのかもしれないが、字面だけ見ていると、RFRではないという意味ではTIBORも該当するように読めてしまう。現状日本の取引を見ていると、RFRというよりは、一時的にTIBORに移行しているのではないかと思える日もあるが、FSBはOvernightのRFRをメインにすべしという立場を明確にしている。

ActiveでLiquidなオーバーナイト金利にリンクしているためRFRは頑健であるとして推奨しているが、これを読めば日本でもTONAに移るべきというのは明らかであろう。システム的な準備の遅れから、一時的にTIBORに行くことはあっても最終的にはTONAというのは明確なのだが、円金利が膠着する中、あまりにもTIBORだけが動いているので、TIBORスワップの取引量も増えている。

FSBロードマップでは、Accounting PracticeやAccounting Processも含めて問題を洗い出しプランを策定済であることが求められているが、未だに日本ではヘッジ会計が障害になっているという話が聞かれるのが不思議だ。

移行タイミングについては、やはりGBPについてのタイムラインが多く、JPYについては、以下の2つが示されている。

  1. Q2末のローンとボンドの新規取引停止
  2. Q3末の新規IRS停止(及び7/31のTONAのQuoting ConventionのTONAへの変更)

1については早くから目標が決まっていたが、2についてはその公表が若干遅れた。一応ローンと債券についてシステムの準備完了の目途(Q1末)も示されている。ロードマップを見ればわかる通り、他の通貨は多くのタイムラインが決められている。

以前も紹介したJSCCの統計を見ていると、JPYについてはTIBORスワップが増えており、LIBORからTIBORへの移行が進んでいるのではないかとも思える様相を呈している。こうして固定受けのTIBORスワップが増えているためか、TIBOR-LIBORベーシスのタイトニングが止まらない。10年などは、初めてマイナス圏に突入し、さらにこの動きが続いている。

そうは言っても、日本はLIBOR改革によってLIBORからTIBORに移行しましたなどと言うと、全世界から疑問の声が上がる。ここはTIBORへのシフトは一時的なもので、ヘッジ会計やシステムの問題が解決すればTONAに移っていくと考えるのが自然だろう。もちろんローンヘッジニーズのTIBOR Swapは残るが、今のLIBORとTIBORという関係がOISOISとTIBORに変化するのだと思う。ZTIBORについては、当然恒久停止に備えて、ISDAフォールバックスプレッドに収斂し、2024年12月からはDTIBOR一本になるというのがメインシナリオである。

あとはいつTONAへの移行が起きるかだが、今月後半から急速にTONAスワップが増えるかどうかが重要である。

米国債取引の清算集中

SLR(補完的レバレッジ比率)の計算から米国債を除くという一時的免除措置の期限が切れた際に、同時にSLRの改革を検討するとのアナウンスメントがあり、市場参加者の注目を集めた。未だその内容については、詳細が公になっていないが、一つの案としては米国債のCCPによる清算がある。

米銀数行が免除措置の延長が行われなかった影響を公表していたが、レバレッジ比率にして1%近い影響があった。これはかなりの影響であり、いかに免除措置のインパクトが大きかったかを物語っている。

米国政府の景気刺激策がかなりのサイズになっていることから、今後も米国債の流通市場の活性化は重要な課題となることは間違いない。現状は、Wells Fargoがスキャンダルの影響で資産規模の拡大を制限されており、市場にストレスがかかれば、以前のように米国債の流通に支障が生じる可能性は捨てきれない。

CCPで清算をすることによって、取引相手が信用力のあるCCPに変われば、資本賦課が減ることになり、銀行が米国債やレポ取引を行いやすくなる。そして、CCPを経由した取引については、SLRなどのバランスシート制約が軽減されることになるものと思われる。つまりSLRの悪化無しに米国債取引を継続することが可能になる。

政治家や当局の意見は二つに分かれているようだが、CCP化の反対意見の方が、若干理論的に弱いように見える。破綻時には納税者に損が押し付けられるという論調も目立つが、税金投入を前提としたCCPは一般的ではない。通常は十分な証拠金を取った上で、参加者が拠出する清算基金、CCP自身の保証金や資本で、かなりのストレスに耐えられるように設計されている。

この辺りの議論が進むと、銀行サイドにはあまり反対する理由もないことから、米国債取引はCCPに移っていくことになるものと予想している。技術的にはそれほど難しい話ではないので、比較的早いペースで移行が進んでいくのではないかと思う。

LIBOR改革と清算集中規制

LIBORからRFRへの移行によって清算集中義務がどうなるか、SEFやETPの対象取引にどう変更があるかということが、そのうち議論になってくるものと思っていたが、やはり最初に動いたのは英国で、清算集中義務の範囲をどうするかについての市中協議が開始された。締め切りは7/14となっている。

JPY LIBOR SwapについてはLCH等の一括変換直後の12/6からは清算集中義務から外れるとされている。すべてのLIBOR Swapが年末に公表停止となる前に、段階的に清算集中義務から外れることになる。そして新レートのスワップに清算集中義務が課せられていくこととなる。

新レートとしては、EURがEONIAが€STRに、GBPがSONIA
へと変更されるが、JPYについては、清算集中義務から外れるとしか書書かれておらず、後継指標の指定がない。

多くの国で一つのRFRへの移行が進む中、日本の金利市場では異なるアプローチが採用されており、現時点では、どのベンチマークが日本円Liborに代わって標準となるかはいまだ不明というのがその理由のようだ。そしてドルと円については、引き続き清算集中義務の範囲についてレビューを継続するとある。

円については、現段階では1つのベンチマークから別の単一のベンチマークに行われるとは考えられないため、流動性や取引量が円Liborからどの契約に切り替わるかは判断できないと書かれている。おそらくOISと同程度の取引量となっているTIBORが念頭にあるのだろう。

確かにシステム対応の遅れやヘッジ会計についての整理が終わらないために一時的にTIBORに流れることはあるだろうが、デリバティブ取引において、TIBORがLIBORの完全にとって代わると考えている日本の市場参加者は少ないのだろうが、外から見ると不明ということになるのだろうか。

後は日本の金融庁からのTONAの清算集中義務についてのアナウンスメントが待たれる。5年、7年、10年のLIBORスワップが対象となっている電子取引基盤規制の変更も必要だ。現状に鑑みると、12月に切り替えが行われるというのが最も自然に思える。いずれにしてもCCPで清算が不可能になれば清算集中もできないので、同じく12/6になると考えるのが普通だろう。そうするとETPの指標切り替えもこの辺りになるのだろうか。もしかしたら流動性がどうなるかわからないので、一定期間清算集中規制が適用されない空白の時間ができたりする可能性もあるのだろうか。

いずれにしても今年は忙しい年末となりそうだ。

4月のRFR移行指標公表

4月のISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorが10.1%と発表された。3月の8.7%よりは上がったものの、昨年後半に10%を超えてから本格的な増加がみられない。その中でもUSDが7.5%になったのは朗報ではある。CHFが16.7%へと急上昇しているが、JPYについては、3.9%と依然さえない移行状況となっている。GBPは順調に50%を超え、ほぼ問題なく完全移行が達成できそうだ。

LIBOR移行とは関係ないかもしれないが、それよりも驚いたのは全体の取引量が激減しているという点だ。ここ直近では最も取引量が少なくなっている。JPYも例外ではない(というより最も減少幅が大きい)が、雰囲気からすると5月も低調な取引量となっているように思える。

SOFR参照スワップの取引量がSONIAを超えているのも興味深いが、USDについても着々と移行が進み始めているように思える。CHFも順調に移行が進んでいる。JPYは大丈夫なのだろうか。

英国のRFR移行ロードマップ

英国では、Sterling RFRワーキンググループのRoadmapに従って、着々と移行が進んでいる。やはり何かきっかけがないとマーケットの慣行というのは変わらないものなので、こうしたタイムラインが明確に示されることが実は一番大事なのではないかと思う。ここで示されているのは、以下のようなプランだ。

  1. 年末のGBP LIBORの停止に向けた準備
  2. 後決め複利SONIAの拡大に向けた努力
  3. 3月末で新規LIBOR参照ローン、債券、証券化商品、スワップなどの線形デリバティブ取引の停止
  4. LIBORから変換が必要な取引を3月末までに洗い出し、9月末までに変換作業を終えるべく努力
  5. スワップションなどの非線形デリバティブ取引については新規取引を6月末で停止するとともに、9月末までに変換を完了すべく努力

こうしたタイムラインの他にもクォートのConvention変更の日程も明らかにしており、それによって金融機関が行動を変えている。こうしてみるとほとんどの移行作業を9月末までには終わらせるという目標になっている。

翻って日本の状況を見ると、1だけが同じである。つまり日本は最終目標は同じなのに、他のすべての点において後れを取っている。米ドルは最終目標地点が18か月先なので、最も遅れているのが円である。

3については、LIBOR参照貸し出しの新規停止が日本では6月末なので3か月遅れ、線形デリバティブ取引については9月末なので半年遅れとなっている。

この英国のロードマップの中で、GBP LIBORにリンクしたレグを持つ通貨スワップの新規停止については、During Q2/Q3という言い方になっており、注にある細かい文字のところを見ると、It is acknowledged cross-currency RFR markets currently remain nascent, and that further developments will be necessary in 2021と書かれている。つまり、RFR通貨スワップについては、まだ移行の初期段階であり、厳格なタイムラインを示すまでには至っていないということのようだ。

したがって、GBP LIBOR参照取引の金利スワップは3月末、スワップションは6月末で停止となるが、通貨スワップについては9月末まで新規取引が行われる可能性があり、当然そのリスクヘッジとしての金利スワップがあれば、それも継続されるという理解になるのだろう。

ディーラーからすると、自分は顧客のフローを受けているだけだから、顧客がRFRレートの取引を依頼してこないと移行できないと言い、顧客サイドからすると、RFRの流動性が上がらないと移行できないと言い、お互いに何もできずにそのままになっている気がする。現実的には、流動性もないのに顧客がRFRで取引をしてくるとは思いにくいので、こうしたロードマップが示され、それを遵守すべく業界全体が動くというのが最も重要かと思う。

ARRCがCMEをターム物SOFR管理者として選定

先ほど(NY時間5/21)、ARRCがフォワードルッキングなターム物SOFRの管理者としてCMEを選定したと発表した。あとは5/6にARRCが示したガイドラインを満たすほどにSOFRの流動性が上がってくることが完全推奨の条件となる。AmeriborやBSBYなどの代替レートが注目を集めてはいるが、やはりARRCとしてはターム物SOFRを推奨したいということだと思う。

個人的にはAmeribor等は地銀のローン中心に使われるレートになるものと思っていたのだが、バンカメがBSBY連動債を発行し、BSBY vs SOFRのベーシススワップが執行されたりと、意外とその利用度が上がってきている。正直SOFRを進めてきたARRCや当局も困惑しているのではないだろうか。

さて、今後の方向性だが、今回CMEを選定したとはいえ、完全推奨という訳ではないので、キャッシュマーケットのFallbackレートは後決め複利のSOFRとなる。そして流動性向上が認められればターム物SOFRが主流となる。

このウォーターフォールは日本も同じなので、第一順位はターム物、つまりTORFということになる。日本では流動性がないと問題という議論が海外ほどは聞かれず、TORFを使いたいという市場参加者が多い気がするが、先物すら満足に存在していない中、米国を追い抜いてターム物が主流になるとは、少なくとも今年中は考えづらい。

それにしてもCMEはさすがだ。色々なビジネスにおいて先見の明がある。日本で金利先物というとTFXとなるのだろうが、CMEはあまりにも巨大である。何とか日本でも金利先物を盛り上げられないものなのだろうか。不思議と日本では先物というと株式先物とコモディティというイメージがある。唯一JGB先物は長期国債先物だけが取引されているという状況である。このような状況でTORFが主流になるの日は来るのだろうか。

GBPとJPYのLIBOR移行スピードの違い

英国のRFRの検討体のガイダンスでは7/1からはスワップションなど非線形のProductについても新規のLIBOR参照取引が停止となる。そして、こうした商品のクォートのコンベンションが5/11からRFRであるSONIAへと変更になった。

これは英国中銀のガイダンスを受けたものだが、その直後の5/14にGBP4.8bnもの取引がDTCCに報告されたとのことだ。4月全体の半分くらいを1日で取引したことになる。今年の1月がGBP1.2bn程度だったことを考えると、非線形商品についてもRFRへの移行が加速してきたように見える。

スワップなどのLinear Productについては昨年の10月頃にQuoting Conventionが変更になっているが、そこから半年たってNon Linearの移行も加速している。今年12月末に向けて着々と移行が進んでいる。1月の段階ではほとんどLIBORだったものが、4月には半々くらいに拮抗し、5月にはSONIAが逆転した形になっている。おそらく予定通り7月1日からはRFRのスワップションへの移行が完全に完了することになるのだろう。

日本の場合は線形商品の新規LIBOR参照取引の停止は9月末なので10月から新規取引の停止となる。そこから2か月で、英国で徐々に進んできた移行を一気に行わなければならない。

本当に間に合うのだろうか。。。

望ましいCCPの破綻処理とは

英国で提案されたCCPの破綻処理が議論になっている。2月に公表された英国財務省の案は、CCPがデフォルトに陥りそうになった時に英国中銀に権限を与え、CCPの規則によらずに中銀が迅速に行動を起こせるようにし、金融システムの安定を図ろうというものである。

この提案では、清算基金のようなCCPの参加者への債務を帳消しにしたり、CCPの規則で認められた範囲を超えて追加資金を要求できるようになっている。この追加資金拠出は日本のCCPであるJSCCでも取り入れられている手法だが、無限拠出を避けるため清算基金と同額程度にキャップされていることが多い。まだ全文を読んでいないのだが、どうやら英国中銀はこれを2倍にまで引き上げようとしているようだ。さらに参加者破綻に起因しないデフォルト時には、VMGHが使えないので、これを3倍としている。VMGHとはVariation Margin Gains Haircuttingの略で、要は勝ちポジションを持っている参加者がそれをあきらめるというものだ。

思い起こせば、日本はもともと市場参加者にほぼ無制限に資金拠出を求められる無限責任の形をになっていたため、国際的に批判を集め一定のキャップを設けることになった。今回の英国中銀の提案は、昔の日本のやり方に一歩近づくということになる。

これに関しては様々な意見があろうが、個人的には、もしCCPが破綻するようなことになれば、大規模銀行の破綻と同じような市場混乱が起きるため、何らかの形で当局が介入してくることになる気がしている。その意味で無限責任に近い状況になる。日本の場合は無限責任といっても多くの金融機関を破綻さぜるようなことはないから、きっと日銀が介入して資金を提供するのではないかという憶測からか、当局には逆らえないからか理由は定かでないが、昔から無限責任が問題視されることはなかった。

ただし、海外の資本規制上は、将来的に損失や資金負担が発生するのであれば、それを資本計算や流動性に加味して業務運営をしなければならない。したがって、上限なしに資金拠出が求められれば所要資本が増加してしまうため、一定の上限が必要である。CCP破綻時の追加拠出を別扱いにして、資本、流動性規制上の数字に加味しなくても良いということであれば無限責任でも問題なかったのかもしれない。

今回の英国中銀の提案が所要資本の増加につながるのであれば、銀行にとってはたまったものではないだろう。いずれにしてもCCPの破綻規制と資本・流動性規制のバランスなので、本来であれば当局サイドが、すべてのピースのバランスを取った上で規制を決めればよいはずの話のように思える。

現状市場参加者は、CCPの規則に則って取引清算を行っており、その前提で資本計算等を行っている。中銀がこれらのルールを逸脱した権限を持つことが参加者にとってプラスになるのかマイナスになるのかは実際にそれが起きてみないとわからない。今回の文書上も参加者に過度の負担を負わせるものではないというコメントもみられる。NCWO(No Creditor Worse Off)というコンセプトで、CCPの株主、清算参加者が不利な状況に置かれたときに補償するという規定だ。

とは言え、やはりCCPを企業体として存続させるという意味においては、通常の企業と同じように資本を厚くするというのが本来のやり方なのであろう。CCP破綻時には国の関与が予想されるとは言え、国の資金を投入することに対しては世論の反発も出るだろう。特にリーマンの経験があるからか、海外では過度の資金投入は困難だ。CCPの資本という意味ではSIGまたはSITGと言われるCCPの自己負担分を増やしていくのが王道なのだろう。SIGはSkin in the Gameの略で、企業経営者が事業に自費をつぎ込む際にも使われる言葉だが、破綻処理において使われるCCPの負担分を指す。

参加者のリスクに見合った負担がIM(当初証拠金)、自分のリスクではないが全体のために負担するのが清算基金、CCPの負担がSIGとなるが、この3社のバランスが最も大事だと思う。国際的にこの3つの適正負担割合を決めるのが望ましいというのが個人的な意見だ。こうなると勝ち方負担のVMGHなどは本来は望ましくないのだろう。VMGHがあると、CCPに破綻可能性が上昇した時にメンバーがVMを減らそうと躍起になり、銀行の取り付け騒ぎのような動きによって市場変動が加速してしまう可能性も否定できない。

今回は追加SIGといった概念も提案されており、5月28日までコメント募集となっている。どのようなコメントが寄せられるか注目が集まる。

ドル円通貨スワップの新レート移管が待ったなしに

国内ではLIBORからの移行が遅々として進まない。日々LIBORスワップが行われており、JSCCのデータを見ていても、どちらかと言えばTIBORへ移管しているのかと思えるほどの取引量になっている。

とは言え、来年からはLIBORが公表されなくなるのは確定しており、10月以降は新規取引にLIBORを使うことが当局からも推奨されていない。あと半年を切っているというのに、10月以降もLIBORを使えるかという問い合わせすら入る始末である。

プロトコルさえ批准しておけばLIBOR移管は終了と思っている市場参加者も多いのかもしれないが、海外当局者がコメントしている通りプロトコルはシートベルトのようなものである。シートベルトをしているからと言って時速100㎞で壁に突っ込んで良いということにはならない。壁に当たる直前に減速するとか、ハンドルを切るとか、何か行動を起こす必要がある。

顧客資産を委託しているファンドなどは、ハンドルを右に切るのか左に切るのかといった判断を入れることが難しいので、壁に突っ込むしかないという事情もあるのかもしれないが、その他の参加者は直ちに行動を起こすべきだろう。もしかしたら最近取引量が減っているのは、壁に突っ込む前にスピードを減速させているということなのだろうか。

特に通貨スワップについては、ドルLIBORの存続が18か月間延長されたことから、2段階の壁が存在している。こんな面倒なことになるのなら、事前にハンドルを切って2度の衝突を避けた方が明らかに得策なのだが、自主的に早期変換を行おうという動きはあまり見られない。それでも新規取引でRFRを使った通貨スワップは徐々に取引はされ始めているようだ。

通貨スワップに関してはARRCから2020年1月24日に出された勧告に移管に関するある程度のガイドラインが示されている(日銀も日本語でコメントを1月31日に出している。)。ここでは、変換の仕方について以下の3つの選択肢が示されている。

当然新規RFR vs RFRの通貨スワップが大々的に取引されていないので、どの方法が主流になるかは定かではないが、何となく③の方法が多そうだ。つまり、元本交換と最終金利支払いが2営業日ずれることになる。為替のFixingの仕方や決済日が変わることもあり、システム開発が追いつかないので移管が進まないと言ことなのかもしれない。

本来であればこうした詳細をはっきり決めた上で各社がシステム開発を進めて、一斉に切り替えるというプロセスが理想なのだろうが、やはり金融市場においては、当局がここまで細かいところに立ち入るのも困難だし、銀行が主導してしまうのも何となく難しそうだ。やはりある程度のコンベンションができてから、それをルール化していくというやり方しかできないのだろう。

LIBOR存続が延長されたUSDだが、新規取引については7月からはLIBORの利用の自粛が求められている。つまりドル円通貨スワップについては後1か月半でTONA vs SOFRスワップにしなければならないということになる。SOFRとLIBORと異なる通貨スワップが同時に存続してしまうのは色々と面倒で、スプレッドは固定されたとはいえ、一応LIBOR vs SOFRのベーシスリスクも管理しなければならない。

そうなると後数週間で通貨スワップの主流はTONA vs SOFRスワップということになるはずである。その割にはあまりにも静かだ。ほとんどの人は気づいているはずなのに、このまま皆壁に突っ込んでいくのだろうか。

ARRCがターム物推奨の条件を提示

LIBOR代替金利として、相変わらずフォワードルッキングなターム物金利を望む声が強いが、ARRCがこの度ターム物金利を推奨するために考慮する市場指標を公表した。3月には、流動性が不十分であることを理由に、ターム物金利を推奨できないとコメントしていたが、不満の声が多かったのかもしれない。

条件としては以下の通りだ。

  1. SOFRに連動するオーバーナイトのデリバティブ取引量の継続的な増加
  2. SOFRデリバティブの流動性を高めるためにつくられたARRCのベスト・プラクティスに対する目に見える進展。
    a. SOFRスワップおよびスワップスプレッドの電子的なマーケットメークおよび執行の提供
    b. 米ドル建てデリバティブ取引のクォートの市場標準をLIBORからSOFRに変更すること
    c. SOFRに連動した金利変動商品(スワップション、キャップ、フロアを含む)のマーケットメーク
  3. SOFR平均にリンクした、ローンを含むキャッシュ商品(前決め、後決め共)の目に見える増加

英国でもターム物金利を推奨するには、新レートであるSONIA連動のデリバティブ取引の流動性が高まることが必要としている。流動性がない中で前決めのターム物を使うと、結局市場操作が可能になり、何のためにLIBORから移行したのかわからなくなってしまうからである。その点後決めであれば、流動性の高いオーバーナイトのマーケットで実際に取引された金利から決められるので恣意性がなくなる。

米国では、やはり金利が後から決まることを問題視している参加者が多いようで、これは日本とも同じである。ただ、米国ではAmeriborやBSBYなどの代替金利が生まれ始めるとともに、流動性のない中ターム物金利に移ることはできないという原則を保っている。この点日本ではなぜか、TONA Swapの流動性がない中、ターム物のTORFを盛り上げたいという声が多いような気がする。

ARRCの今回の推奨により、SOFR Swapの流動性が高まればターム物が使えるということが明確になったため、頑張ってSOFRの流動性を上げようという動きが出てくるかに注目が集まる。日本でも「TONA Swapの流動性が上がらないとTORFが支持できない」くらいの声明があってもよさそうなものなのだが。

決済短縮化の流れが決定的になってきた

SECの新議長となったゲンスラー氏が早速動き出している。金融危機時には銀行を目の敵にしていた印象を持たれていたたが、さすがに金融規制については熟知しており、今後の行動力に期待すら集まる。

その中で、ファイナンスとテクノロジーの融合の重要性を説いており、それに政策立案者がどう対応するかという点に注目していた。今年前半に見られた市場変動の要因として、彼は以下の7つを挙げている。

  1. ゲーミフィケーションとユーザーエクスペリエンス
  2. 支払いフロー
  3. 株式市場構造
  4. ショートセルと市場の透明性
  5. ソーシャルメディア
  6. Market ”Plumbing”:清算と決済
  7. システミックリスク

Market ”Plumbing”はマーケットの導管(マーケットを機能させるインフラ)とでも訳すのだろうか。何となくニュアンスはわかるが。

そして、時間はリスクであるとして、決済期間の短縮を訴えているが、これには全く同感である。テクノロジーの進化によって即時決済を含む決済期間の短縮は技術的には可能になっているはずである。マージンコールなどの即時決済、ポジションの即時把握が可能になれば、ゲームストップやArchegosのようなショックは、完全に防ぐところまでは行かなくとも、ある程度の損失で止められた可能性がある。

SECのスタッフに、決済サイクル短縮化のための検討を指示したと言っているので、今後間違いなく決済のT+1、ひいてはT+0化が加速するだろう。奇しくもRobinhoodのCEOも時代遅れの決済システムに対する不満を表明していた。DTCCもまずはT+1化に向けて動き出しているようで、これにより所要証拠金の削減の可能性にも言及されている。

現在、証拠金や資本計算にはMPOR(Margin Period of Risk)というものが使われているが、これはマージンコールの支払いが滞ってからデフォルトしてクローズアウトするまでの期間だが、決済期間が短縮されれば所要担保額が少なくなるはずである。

こうなると、世界で最も金融決済が遅れている日本がまた世界から取り残されることにならないか心配である。債券等の決済期間を遅らせてほしいというリクエストの数は世界一である。ゴールデンウイークがあるから、年末年始だから、在宅勤務が多いからという理由まで様々だが、グローバルには有名な話になってしまっている。証拠金規制でもT+1等の期限が切られていないのは日本の規制だけである。「直ちに」とルールには書かれているが、これを海外に説明するのは非常に難しい。

おそらくこれは、システムコストをかけたくない、人手で対応した方が安いという理由の他に、期限に後れることに対する嫌悪感という文化的な要素もあるのかもしれない。金融はどうしても欧米主導なので、期限に後れてもフェイル扱いにしてフェイルチャージを払うというのが一般的になっているが、日本だとフェイルをデフォルトのように扱うところもある。

いずれにしても決済システムの高度化とシステム化をもう少し進めていかないと、アジアの他国にも完全に後れを取ってしまう。ここまでくると規制でシステム化を強制するしかないのかもしれない。


リスク管理と規制

以前Equity OptionのボラティリティがSA-CCRの計算上非常に保守的に扱われているというペーパーがJournal of Credit Riskに出ていた。ドイツのMichael Kratochwil氏のものだったが、SA-CCRの調整に加えられるいわゆる当局ファクターが大きすぎるというものだ。昨今の株式オプションの取引増加に照らすと、この計算方法は当局や銀行にとっても重要な問題となる。

過去のデータから計算すると、個別株でボラティリティが2.25倍高く見積もられてしまうとの分析だった。だが、昨今の株式市場のボラティリティは過去に比べてかなり高くなり、Archegosに代表されるようなリスクも顕在してきた。しかもSA-CCRはヘッジやネッティングを考慮するので、一方向に傾いたポートフォリオに対しては、多くの資本が必要となる。

これまでのカレントエクスポージャー方式(CEM)では株式のポテンシャルフューチャーエクスポージャー(PFE)は1年以下が6%、1から5年が8%、5年超が10%だった。これは大体2週間の99%といったVaRに近くなるのだが、現在の個別株のボラティリティからすると、20%を下回る程度のVolatilityになってしまうので、これも若干少ない。当初証拠金の簡便法であるグリッドだと15%だが、これもVolatility換算で33%程度だ。

今回Archegosの破綻に関してCredit Suisseが10%のIMしかとっていなかったというニュースが出ていたが、証拠金規制の標準グリッドの15%よりも小さい。通常は最低でも20%くらいは取るのが業界水準のはずなので、本当であれば相当Agressiveにビジネスを取りに行ったのだろう。

この当初証拠金、以前は独立担保額(IA)ということが多かったが、この交渉はいつも難しい。一番低いところを例に出して、あそこはここまで下げてくれたのになぜこんなに高いんだという競争をあおるところもある。ただし、最近ではCCPのマージン、SIMMモデル、証拠金規制上のグリッドなど様々なデータポイントがあり、少なくとも客観的にこれくらいは必要というコンセンサスが得られやすい。

そう考えると、やはり清算集中規制、証拠金規制は金融の安定性にかなり役に立っていると言えるのだろう。ただし、これらのRegulatory Minimumを取っていたとしてもArchegos損失は免れなかっただろうから、いかに個別のリスク管理が大事かということになる。

日本のTrade Bookingは海外に追いつけるか

少し前にことになるが、CFTCから2019年7月に日本の電子取引基盤(ETP)業者に対するSEF登録免除が公表され、日本のETP規制と米国規制との同等性が認められるている。日本のETPは円金利スワップの5年、7年、10年が対象で、店頭デリバティブの残高が6兆円を超える金商業者同士の取引が規制対象となる。確か日本でETP業者として登録されているのは以下の7社と記憶している。最近はあまりチェックしていなかったのだが、ETPがどれくらい使われているのかリンクから確認してみる。

データの見えるところだけを4/30で拾ってみると、TotanでUeda Traditionで3件Prebonが0件、Traditionが1件見えている。BGCはリンク切れのように見える。ClearMarketsもIntraday Tradingのところに取引があれば表示されるということなのだろうか。他はデータが見つからないかアクセス権が必要なようだ。

GW前で取引が少ないからという事情もあるだろうが、大手市場参加者の5、7、10年のスワップのみで、リンクされたパッケージトレードが対象外になっているので、JSCCの統計情報で示されている件数と比較するとあまりにも少ない。

米国SEFの場合は、対象年限や範囲が広いため、どうせやるなら全部SEFに乗せてしまえということになるのかもしれないが、日本のETPの場合は、この件数だと全部乗せるのは避け、対象取引だけ手作業で対応しようという判断になりそうだ。あるいはパッケージ取引やBlock取引など、対象外になる取引が多いのかもしれない。規制逃れになるので無理だろうが、ひょっとしたら11年スワップとかにしているところもあったりするのだろうか。

いずれにしてもここまで件数が少ないと、制度としていかがなものか。米国SEFと同等と言い切ってしまうのも何となく気が引ける。同じデータをSDRで見てみると件数が桁違いだ。欧州も米国SEFとの同等性がかなり確保されているので、海外の金融機関の取引はほぼSDRで確認でき、日本の取引だけが見えなくなっているというように見える。

ここまでリアルタイムでレポートするにはシステム的にSTPが確保されていなければならないため、海外ではシステム開発がかなり進んでいる。日本はシステム開発をしなくても良いよう極力対象を絞っているので、手作業が続けられている。今後e-tradingが増えたり、データ活用が進むようになってくると、日本だけ取り残されてしまうのではないだろうか。

共通データフォーマットがポートフォリオ最適化を促す

当初証拠金モデルのSIMMの計算に使われる共通データーフォーマットのCrifが新しくなる。もともと証拠金規制の中のIM計算にかかるSIMMのインプットであったため、現物決済されるFX Forwardなどが対象外となっていたが、それらも含めてCrif-plusとするとのことだ。これですべての取引がカバーされることになるため、その用途がSIMMのみならず、資本計算やコンプレッション、ポートフォリオ最適化等様々な用途に使えることになる。

SA-CCRの適用開始も間近に控えていることから、このデータの重要性はさらに高まる。今後は各社のトレーディングシステムも、いかにCrif-plusなどのような標準フォーマットに変換できるかが重要になる。

TriOptimaのようなコンプレッションベンダーは、当初証拠金、資本、リスク等様々なポートフォリオ最適化など、そのサービスを拡張しているが、こうした共通データフォーマットはその流れを一層加速させることになるだろう。本邦ではあまり資本対比の収益性が重視されてこなかったが、その流れが変わりつつあり、そのためにはSA-CCRへの移行による資本コスト増減を正しく分析することが不可欠となる。

海外ではTriOptimaの牙城を崩すべく、Quantile Technologiesが$51mmの投資資金を受け入れ、そのほかにもIHS MarkitとCMEの合弁、米銀が投資したCapitolisなどが業容を拡大している。こうしたポートフォリオ最適化は今後の銀行経営に欠かすことのできないサービスとなるだろう。

このサービスがコンサルティング業務と異なるのは、複数の銀行のデータを集めて業界全体での最適化を図れる点だ。通常は銀行は競合他社に自分の取引データを開示することは困難だが、守秘義務契約を締結したサードパーティーベンダーであれば、業界全体のポートフォリオを最適化する提案をすることができる。これが銀行全体のリスク量、資本、ファンディング、証拠金、ひいてはXVAまで、様々な分野に広がる可能性を秘めている。

守秘義務があるので難しいかもしれないが、ひょっとしたらアルケゴスのような業界全体に溜まっていた巨額のリスクにも気づけたのかもしれない。日本でも当局に取引データは蓄積されているもののそのデータが完全に分析できているとは限らないので、こうした専門会社が金融全体の安全性のために当局と連携するということもあり得る。

こうなると単にDealer間の取引にとどまらず、年金ファンドや保険会社などのデリバティブ取引ユーザーもこうしたサービスを必要とするようになるかもしれない。日本ではあまりこうした動きは見られないが、数年内にきっとフォーカスが集まっていることであろう。


GBP LIBORからSONIAの移行から学べるもの

日本円LIBORからの移行がどのように進むかという点で、GBP LIBORの移行がどのように進んでいるかが参考になる。FCAのSchooling Latter氏によると、引き続きLIBORスワップのシェアが半分くらいあるものの、未だにLIBORが継続しているというよりは、コンプレッションや移行に係るリスク管理上の取引とのことだ。

ある意味当然のことなのだが、あれだけ当局から新規取引にLIBORを使うなと言われている以上は、まともなディーラーであれば、極力顧客にも新レートへの移行を促すだろうし、社内ポリシーとしてもLIBORの取引を大々的に認めるのは難しいだろう。当然システム整備等が間に合わない顧客からは、いつまで使えるのか、新規LIBORスワップはできないのかという問い合わせが入ると思うが、ディーラーとしては、例外規定に入っているリスク管理、ヘッジのためのスワップのみ可能と答える他ないだろう。

いつものごとく、他のディーラーは期限移行も取引してくれると言っているのに、なぜお宅はできないんだという人も出てくるだろうが、こうしたいわゆるRace to Bottomを助長するような発言は取り締まっても良いくらいだと思う。新規取引が本当にリスク管理やヘッジのためのやむを得ない取引だったのかチェックする義務は厳密にはないものの、移行が進まない場合は、海外当局であればその正当性をヒアリングする可能性もある。

英国ではLIBORスワップの引き合いが来たときは、SONIAスワップとSONIA-LIBORベーシスのパッケージを進めているところもあると報じられている。

第一四半期の取引データによると、2年を超えるような長期のスワップの移行が進んできたようだ。これはで短期に集中していたSONIA取引が徐々に長期に広がってきたのは望ましいことである。

英国で起きているこれら一連の移行が今後日本では一気に起きることを考えると、夏以降は短期のスワップからOISに移り、それが徐々に長期に波及し、最後にスワップションなどのNon Linearな商品に移っていくことになるのだろう。

一方USDについてはここでも何度か紹介してきたAmeribor、BYI、BSBY(ビスビー)の勢いが増してきた。ISDAの定義集にも入ってくることになるようだ。ARRCとしてはじくじたる思いもあるのかもしれないが、このマーケットの流れには逆らえなさそうだ。

ターム物金利の流動性問題

CMEが米ドルのLIBOR代替金利であるSOFRのターム物を広めようと努力している。ARRCからは、SOFRの取引量が不十分であるため、指標の頑健性に欠けるとして、その拙速な利用に対して否定的な立場が示されたばかりであるが、CMEの取り組みがどこまで成功するかに注目が集まる。

確かにSOFR先物の一日当たりの取引量は徐々に増えてきており、新レートの先物すら存在しない日本に比べれば少しはましになってきている。とは言え、流動性が十分といえないまま指標が使われるようになると、指標が操作されやすくなり、何のためにLIBORから移行したのかがわからなくなってしまう。当局からはターム物の利用は一部の限られた部分に限るべきだという意見も出されている。

LIBOR改革が始まったころは、もう少し早くターム物RFRができるという前提だったのだろう。この話が出てから既存の契約に組み込まれたFallback文言上は、後継金利をターム物RFRとしているものが多い。米国の場合は18か月の猶予ができたのでまだましだが、日本はどうなるのだろう。

こんな中バンカメがクレジットリスクを含んだ新レートの一つであるBSBYを参照する債券を$1bn発行したというニュースが4/21に飛び込んできた。クレジットスプレッドを含んだレートとしてはAmeribor建ての債券が米地銀から発行されていたが、大手銀行がBSBY建ての債券を発行するというのは正直驚いた。BSBYはBloombergが公表するものでBloomberg Short-Term Bank Yield Indexのことである。

それでも米国ではこのような様々な取り組みがなされているだけましなのかもしれない。日本では来週の月曜4/26からTORFの確定値が公表されるが、OISの流動性がない中これを使うというのは海外当局やARRCとしては指示できないということなのだろうが、日本では不思議とこういった議論はあまり聞かれない。

最近はTIBORマーケットが盛り上がっているが、日本では一時的にTIBORがメインになってしまったりするのだろうか。LIBORがダメでなぜTIBORが問題ないのかと、何度海外から説明を求められたかわからないが、ここまで時間がなくなってくると一時的にTIBORに移行してから他の手段を考えるしか方法がなくなっているのかもしれない。

日本はいつも準備と勉強だけは誰よりも早くから進める割には、実際に行動が伴わないと、いつも批判され悔しい思いをするのだが、ワクチンにしてもLIBOR改革にしても、なかなか反論ができないのがもどかしいところである。

CFTCコミッショナーのコメントがCLEARD Marketに与える影響

最近はビットコイン関連のコメントで有名になってしまった米国CFTCコミッショナーのStump氏であるが、先週4/19にCFTCのWebサイトで公開されたCCPに関するスピーチが興味深い。

ここでは国際規制当局間の連携の重要性が説かれており、地域に特化した規制の撤廃、規制のグローバル化が訴えられている。当然全く同じ規制を各国が導入するのは不可能ではあるものの、Compatibilityが重要との主張である。規制が重複してしまうと、増加の一途を辿るOTCクリアリングのリスク管理上のメリットが損なわれてしまうとの意見はもっともである。

そしてCase StudyとしてExempt DCOの話題に踏み込んでいる。DCOはDerivatives Clearing Organizationsの略で、米国で正式に認可を受けたCCPのことである。この他にExempt DCOというステータスがあるが、これは、米国マーケットに与える影響が軽微などの理由で、DCO登録を免除しつつ、米国参加者にも門戸を開くものとなっている。ちなみに欧州の場合は第三国CCPという認証がある。日本のCCPであるJSCCはこのExempt DCOとして登録免除決定を受けている。

今回Stump氏は、当時も話題になった2019年のExempt DCOに関するCFTCの決定が誤りだったのではないかと述べているのである。この提案によって、米国顧客はFCMを通じてExempt DCOにアクセスすることができなくなっているが、これを問題視している。上場先物にはこんな制限はないのでOTCだけに制限があるのもおかしいとしている。

これがなぜ重要かと言うと、現在米国の大手アセマネなどの主要市場参加者はJSCCに参加できない。欧州にはこのような規制がないので、JSCCのメンバーになっているが、JSCCのクライアントクリアリングの参加者に厳密な米国顧客はいないはずである。つまり、円金利市場にとって重要なのは、米国顧客がJSCCで円金利スワップをクリアリングできるようにすべきと言っているのに等しいということである。

つまり、参加者が異なること、ポジションの偏りによって生まれていたJSCC-LCHベーシスがなくなる方向に動くということなのだろうか(といっても最近はこのベーシスは既にかなり縮まっているのであまり影響はないかもしれないが)。

続けて、「米国外のCCPが米国顧客のために取引清算を可能にするため、DCO登録免除取得の道筋を再検討するよう自分が求めたにも関わらず、昨年はそのような努力はなされなかった。」とコメントしている。

最後にロケーションベースの政策を批判し、グローバル市場へのグローバルなアクセスが確保されるべき、世界中のCCPが競争することを認めなければならない、場所による制限を最小限にするよう努めなければならないとしている。マーケットのグローバルな性質を無視して域外の人が一定の地域のCCPにアクセスできなくなると、金融不安を軽減するどころか助長するので、国境を越えた協力、連携が不可欠であると述べている。至極もっともな内容でいずれも同感である。良く練られた良いスピーチだと思う。

こうして考えてみると、日本でLCHやCMEが日本の顧客に対して円金利スワップの清算ができないこと、米国顧客がJSCCに入れないことというのは、Stump氏にとっては大問題ということになるのだろうか。

バーゼルIIIの国内規制方針案

2023年3月期から国内で実施となるバーゼルIIIの規制方針が公表され、コメント期間も終わったことから、6月のターゲットを前に告示改正案のパブコメ募集という形になる。バーゼルIIIと言われて久しいがようやく完全実施が近づいてきた。

国際合意上は、OTCデリバティブ取引の想定元本1000億ユーロ以下の金融機関は、CVAリスクについて簡便法の利用が可能だが、日本では国際基準行は簡便法は認められない。国内基準行は、CVAリスクの対象となるデリバティブ取引の元本合計が10兆円以下であれば簡便法が使える。少し古いもので基準が完全に一致しているかよく分からないが、以前公表された1兆円リスト上は40社しかなかった。10兆円というとかなりの大きさなのでほとんどの国内基準行は簡便法が使えるようになるように思う。資本賦課の水準はデリバティブ取引の信用リスク・アセットの額に12%を乗じて得た額となっている。

その他注目されるのばバンキング勘定とトレーディング勘定の厳格な分類を告示に規定する予定というコメントだ。これが従来より厳しくなるかどうかに注目が集まる。

そのほか株式や資本制商品のリスクウェイトの扱いについても記載がある。非上場株式のうち250%のリスクウェイトが適用されるものの範囲についてQ&Aで明確化が図られる予定だ。持ち合い株の扱いについてのリスクウェイトが焦点になろう。

SA-CCRの計算

バーゼルIIIの最終化がコロナによって1年延長されたものの、2023年1月のFRTB、信用リスクにかかる標準的手法、内部格付手法、CVAなどの適用まで2年を切った(本邦では2023年3月)。内部モデルによるRWAを標準法のRWAの72.5%を下限とするアウトプットフロアについても2023年1月からの段階適用となる(50%->55%->60%->65%->70%->72.5%)。

カウンターパーティークレジットリスク計測手法も、従来のカレントエクスポージャー方式からSA-CCRに変更になる。既にSA-CCRの導入を始めた邦銀も多いが、ROE重視の経営が盛んになる中、SA-CCRを巡る分析が今後活発になっていくものと思われる。SA-CCRは基本的に以下の6つの分野に影響を及ぼす。

  1. RWA
  2. Large Exposure Framework
  3. レバレッジ比率
  4. CCP向けエクスポージャー
  5. CVA
  6. アウトプットフロア

という訳で、若干SA-CCRについて整理してみる。デリバティブ取引はまず以下のリスクカテゴリに分けられる。

  1. コモディティ
  2. クレジット
  3. 株式
  4. 為替
  5. 金利
  6. その他

まずはカウンターパーティーのデフォルト時の時価であるるEAD(Exposure at Default)の計算が必要になる。要は取引相手がデフォルトするとき、どの程度のエクスポージャーを持っているかというものだ。これはいつもの通り以下の式で表記される。

EAD=α(RC+PFE)

αは当局指定のマジックナンバーである1.4、RCはReplacement Costの略、PFEはPotential Future Exposureの略である。RCはそのポジションを再構築したらどれくらいのコストがかかるかということでこのように呼ばれるのだろうが、要はその取引の時価(MtM)である。PFEはおなじみのVaRと似た概念で、エクスポージャーが潜在的にどれくらい動くかというものである。無担保の場合は1年間にどれくらい動くか、有担保の場合はMPORとかMPRと呼ばれる一定期間でどのくらい動くかを測るものである。OTCであれば、通常は2週間程度が使われることが多い。

PFEはそれぞれの資産クラスで計算したものを足し上げ、それに決められた掛け目(Multiplier)をかけて計算される。RCはISDAマスター契約などのネッティング契約の下にある取引をすべて足し上げる。この契約単位をネッティングセットという。

無担保の場合は以下の式で表される。

RC=max(CMV – NICA, 0)

CMVはCurrent Market Valueなので取引の時価(MtM)、NICAはNet Independent Collateral AmountなのでCSA契約で言う独立担保額、つまり当初証拠金と同義である。無担保なので要は取引の時価ということになる。ここでmaxがついているのでこの値はマイナスにならない。つまりA社でプラスの時価、B社でマイナスの時価だったとしてもそれらを相殺できない。

有担保の場合は以下の式となる。

RC=max(CMV-VM-NICA, TH+MTA-NICA,0)

だんだんややこしくなってきたが、VMは受け入れた変動証拠金、THは担保のThreshold、MTAは最低受渡金額(Minimum Transfer Amount)である。昨今ではThresholdは証拠金規制でほぼゼロになり、MTAもほぼ無視できるので、結局は担保でカバーされていない時価ということになる。ここでもmaxで0以下にならないので、異なるネッティングセット間で勝ち負けを相殺することはできない。

ハイブリッド取引のようにどこの資産クラスに入れるか明らかでない場合は、センシティビティの最も大きなリスクファクターなどによって分類する。年限毎のオフセット等その他詳細についてはまたの機会に。

日本の金融オペレーションはなぜ世界に後れを取ったか

あくまでも私見だが、日本のスワップ事務処理が世界に後れを取った理由の一つに、STPガイダンスがなかったことがあるのかもしれない。米国では2013年にSTPガイダンスが出され、欧州でも2015年に似たようなガイダンスが出された。要はクレジットリミットのチェックを瞬時に行い、その後のプロセスも極力自動化せよというものだが、これがSEF(Swap Execution Facility)、リアルタイムレポーティング等につながっている。

これにより、システム開発が行われ、一連の自動化プロセスが確立した。主にSEF上で執行されクリアリングされるような取引に対するプロセスなので、今回のArchegosのような事件には対応できないだろうが、一定程度のリスクコントロールも可能になる。

欧米ではClearing Certaintyという概念があり、執行前にクリアリングブローカーであるFCMとCCPが、取引がCCPで清算されることを事前にコミットする。CCPのブローカーに対するリミット、FCMが各顧客に対して持つリミットがあり、取引前にこれらのクレジットチェックが行われる。

なぜこんなことをするかというと、クリアされた取引と相対取引は資本コストやIMコスト、ディスカウントレートが異なるため、プライスが異なってしまうからである。クリア前提で取引を行い、その後にクリアリングできなかったとなると一方が損をしてしまう。清算集中義務規制が広がった今ではあまり問題にならないかもしれないが、当時はクリアリング前提の取引が急にOTCになってしまうとかなりの混乱を招いた。

通常はExecution Agreementでこうした場合にどのような対応をするかが取り決められている。STPガイダンスでは、Void Ab Initioという概念があり、あたかも取引がもともとなかったかのように無効になる。遡及的無効とでも訳すのだろうか。欧州ESMAのガイダンス上も取引がVoidになるとされているので、同じような対応となっている。

これを避けるためには取引前にリミットチェック等を瞬時に行う必要があり、これを確保するのがClearing Certaintyだ。クリアリングブローカーが顧客やSEFにリミットをあらかじめ伝えておき、これを超える場合には取引が瞬時にVoidとなる。取引の再提出は基本的には認められないが、ESMAの場合はシステム障害等による場合のみ例外が認められている。とは言え再提出の期限は10秒以内だったと思うので、システム的に対応していないと不可能だ。

欧米ともこの一連のプロセスにかなり厳格なタイムフレームを設けており、1分以内とか10秒以内とか細かく決められている。つまり、2013年くらいから、欧米金融機関はシステム開発にかなりのコストをかけ、ほとんどのプロセスの自動化することに注力してきた。

システム開発は不思議なもので、よほどのトップダウンの指示がない限り巨額投資が行われないという性質がある。特に従業員の雇用を守るという視点が入ってくると、自動化に対する抵抗力まで生まれてくる。規制で決められているのでやるというのが最も簡単だ。

日本の金融のオートメーション化が進まなかったのは、文化的な要素もあるのだろうが、このSTPガイダンスのような規制の後押しがなかったからなのかもしれない。STPプロセスの場合は、途中でそれを止めることができず、例えばBookingを間違えると、それがそのままConfirmationに反映され、SDRレポーティングまで行ってしまう。

事務ミスに対する許容度の低い日本では、きちんと人の目でチェックして顧客に送る書類には絶対にミスがないように気を配る。送ってから間違いがあれば直すという海外とは文化が異なる。ただ、昨今の自動化の流れの中では、人海戦術でミスを極限まで減らすという戦略には限界がある。不完全ではありながらも自動化の努力を進め、AIを駆使してそのプロセスを日々改善している海外とは、早晩戦えなくなってしまうのではないだろうか。