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アジアの金融ハブはどこになるか

この2月に香港を脱出した人が7万人を超えたと報道されている。人口の1%に相当するのでかなりの人数だ。一時的な退避も含まれているだろうが、シンガポールの学校への問い合わせが増えているとのことなので、長期の移住を視野に入れている人も多そうだ。やはり感染時に子供から引き離されるというのは辛い。EU籍に限って言うと既に10%が出国したとのことだ。

行先としてシンガポールが多いのは当然だが、ドバイ、ポルトガル、スペイン、南イタリア、タイへ移動する人も多いと報じられている。その他、オーストラリア、イギリス、アメリカ、カナダという候補も上がっているが、なぜか日本がない。

普通に考えるとシンガポールがアジアのハブとして発展するだろうというのが自然な考え方だが、シンガポールも安泰というわけではなく、色々と問題は出てきているようだ。Expat向けのサーベイでもかなりランクが低くなっている。シンガポールが力を入れてきたのはヘッジファンドマネジャーのような富裕層である。ビザの取得はますます難しくなり、帯同する配偶者がWork Visaを取って仕事を見つけるのも困難だ。確かに富裕層を呼び込めば金融が栄え、それに付随するシステムや各種サービスが必要になる。それが全体としての産業を盛り上げていくという狙いなのだろう。

ドバイも同じような戦略で、何と言っても税金がかからないというのは魅力だろう。他にもリモートワーキングビザの発給といった政策によって人を惹きつけようとしている。ビジネス的にも規制がそれほど厳しいわけではないので、アセマネファンドが一部移っている。とは言え、ドバイにおけるビジネスを求めてと言うよりは、ビジネスのやりやすい環境を求めて人が流入しているだけで、長期的にハブとなり得るかはよくわからない。

ヨーロッパでもポルトガルやイタリアでは当初数年間は外国からの収入を無税にするといったインセンティブを設けている。ポルトガルの人口の7%が海外からということだ。

香港の人に聞いてみると、海外から入ってきたExpatを除くと、実は香港にとどまりたいという人が多い。特に中国とのビジネスを考えればシンガポールは考えにくいという答えが返ってくる。日本は?と聞いてみると、治安も良くて食べ物もおいしいから良い国だよね。といわれるが、移住しようとまでいう人は皆無に等しい。一部日本に移ってくる人もいるが、配偶者が日本人だったり、以前日本に住んでいたりと何らかのつながりがある人に限られる。逆に言うと、日本のことをよく知っている人からすると、日本が最大の候補になる。知らないからこそ敬遠されているような気もする。

もう少し突っ込んで聞いてみると、言語の問題はさておき、あまり外国人が歓迎されない雰囲気があるとのことだ。規制もよく分からないものが多く、手続きも非効率で、家探し、学校探しができるとは思えないとのことだ。実はそんなに大変なことではないのだが、確かに役所に印鑑証明を取りに行ったり、家を借りる時に住民票を提出したり、彼らにとっては不可能なタスクに思えるようだ。日本で携帯一つ買うのにも様々な複雑なプランがあり、理解するだけで精いっぱいになってしまう。よほど現地の人の助けを借りないと一人ですべてのセットアップをするのは無理だと思い込んでいる。しかも税金はかなり高くなるのであまり日本に移住しようというインセンティブはない。

国際金融都市構想が叫ばれて久しく、様々な分野で改善が見られ始めている。しかし、やはり日本に来るかといわれると、躊躇してしまう人がほとんどのようだ。

資本フロアによる地域分断

EUで資本フロアをエンティティ毎に導入するという話が出ている。各国の現地法人ごとにフロアを設定することになるので、実施されれば、大手銀行のグローバルブッキングモデルに大きな影響がある。

バーゼル3のフロアは72.5%だが、米国は実質的に100%フロアなので、米銀では内部モデルを改善させてリスクに応じた資本を積むというインセンティブはなくなり、標準法だけが自己資本比率に影響する。内部モデルを完全に無視しているわけではないだろうが、いくら時間とコストをかけてもROEに影響はない。欧州ではグループ毎にフロアがあるので、ある程度のグループ間の最適化が行えた。これがエンティティ毎になると、リスク移転は難しくなる。

多数の国にまたがる国際的大銀行に比べ、現地の中小銀行にとってはほとんど影響がないため、当然中小国からはこれを支持する声が大きい。確かにある国でリスクの高い取引を行い、別の国で安全なビジネスを行っているような場合、リスク移転をすれば全体として最適化が図れる。その国の当局にしてみれば自分のところの安全なビジネスがリスクの高い他国のビジネスを支えているということになってしまうのだろう。

以前はEUなどでも、極力広域連携を行い効率性を上げようということだったのだが、自分の庭はきれいにしたいという自国主義が台頭するようになってきた。ここまで国境を越え始めた金融ビジネスを円滑に運営させるためには、規制を統一して世界が共通のルールで動くようになるのが望ましいのだが、地政学リスクやEU脱退などもあり、なかなか理想には近づけない。もともとEUも全体として資本フロアを設定しようという意見が強かったと思うのだが、昨今の政治情勢では仕方ないということなのだろうか。

ロシアリスクが金融に与える影響

ここ数週間はロシアリスクの分析ばかりだったリスクマネージャーが多いだろうが、やはり想定外の事象というのはいつでも起きるものである。

巨額損失が出たという話はまだ聞かれないが、価格変動という意味ではやはりコモディティが大きい。一日にして巨額のマージンコールがかかっているところも多いのではないだろうか。特に天然ガス市場などは、一気に50%近く急上昇した。個別株ならこれくらいの動きがみられることはあるが、為替などで一ドル100円が一日で50円になることはないだろうからコモディティ価格の動きは他に例を見ない。

ここまでくると変動証拠金を取っているだけで安心はできず、当初証拠金が必要になる。とは言え30%とか50%を超えるようなIMを取るのは結構難しい。事業ヘッジのはずが、マージンコールが問題になってしまうユーザーが出てくることも容易に予想ができる。

金融業界ではやはりロシアをSWIFTから締め出すかどうかが最も注目を集めている。当初はまさかと思っていたが、少しずつ現実味を帯びてきているようにも思える。(2/26追記:と思ったらあっという間にロシア排除の米欧合意が公表された)他にも適格担保からロシアの債券を外したり、クリアリングから締め出したり、送金を止めるという動きが活発に議論をされている。ロシアとウクライナの格下げニュースも相次ぎ、S&Pはロシアを非適格等級であるBB+まで下げた。クレジットスプレッドが3000bp近くまで跳ね上がるのを見るのは久しぶりだ。大手資産運用会社がドル建てロシア国債で時価総額の45%を失ったとも報じられている。

今度は台湾有事のシナリオ分析をすべきではないかという声も出てきているので、リスクマネージャーにとっては試練の年になっている。新規の取引に慎重になるところも増えてくるかもしれない。

ストレスキャピタルバッファが資本規制の中心に

GSの投資家向けプレゼンテーションが公表されているが、資本コストにかなりのフォーカスを置いている点が印象的だ。当然部門ごとのビジネス戦略にも触れているのだが、効率性を追求し、資本コストを抑えながら経営をしていくという方向性が明確に伝わってくる。資本や効率性がAppendixのような扱いを受けている日本とは対照的だ。

P14において、最近導入されたSCB(Stress Capital Buffer)を現状の6.4%から5%に減らすというプランが示されている。G-SIBチャージが2.5%から3%、3.5%と上がっていくのに備えるということだろうか。既に自己資本比率規制への対応策が様変わりしてしまったような印象を受ける。驚くべきはこうした資本要件の厳格化にもかかわらず14-16%のROEが達成できているという点だ。

FRBが公表している米銀の資本状況を見ると、SCBは最低の2.5%から7.5%までと幅広い。バーゼルで定められたCCB(Capital Conservation Buffer)の2.5%に比べると3倍以上になっているところもあるということである。これに最低水準である4.5%を加え、大手銀の場合はさらにG-SIB Surchargeが加わり、合計で10%を超える自己資本が求められる。そしてこの資本に応じてROEを上げていく必要があるので、ビジネスのあり方がかなり変わってくる。

SCBはストレステストに基づく指標なので、市場に大きなショックが起きたときにも耐えられるということが重要である。当然ながら市場のショックが起きた時に損失が出るビジネスを減らしていかないと、ROEが低下してしまう。資本要件を満たせないと配当やボーナス支払いに制限が加わるので、真剣にコントロールせざるを得ない。

それにしても海外ではSCB、CCB、CCyBなどの話題で持ちきりなのだが、日本ではあまりこうしたことを話している人は、一部の専門家を除くと極めて少ない。今後は日本も同様の基準を重視していくようになるのだろうか。

米国債の清算集中ISDAアンケート

ISDAが米国債の現物及びレポのクリアリングに関してサーベイを行っている。バランスシート規制やレバレッジ比率などの制約によって、銀行が米国債を積極的に取引ができなくなり、流動性が低下しているという指摘がなされているなか、今後の方向性が注目される。

今回のアンケート調査は、米国債の清算集中に関する法的面、オペレーション面、資本規制を含む規制面の影響にフォーカスを当てている。回答期限は3/18だが、米国債の活発な取引主体である日本の機関投資家からも積極的な問題提起が望まれる。

個人的にはこれで取引時の制約が緩和されるのであれば、ぜひ進めていった方が良いと思う。証拠金等若干のコストがかかるかもしれないが、市場の安定性という観点からはCCPによるクリアリングの効果は大きい。オペレーションが面倒、証拠金負担を避けたい、システム開発コストがかかるといった意見も出るだろうが、それらのコストを上回るベネフィットがあると思っている。

昨年感染拡大によって国債をレバレッジ比率の計算から一時的に除外することが認められたが、期限付免除だったため、将来的に元に戻ることを考えると、思い切ってポジションを増やそうという動きにはならなかったと感じている。期限が切れる直前には、免除期間が延長されるかどうかを巡ってマーケットも神経質な動きを見せていた。結局延長が認められず、それほど大きな混乱はなかったように思うが、それも市場参加者がある程度もとに戻ることを想定して、取引を抑えていたからではないだろうか。

そもそも規制の影響で四半期末にバランスシートを縮小するために、今や最も重要になったSOFRが動いてしまうのは、市場の安定化の観点から望ましくない。リスクを軽減する集中清算の仕組みを使って、清算取引に関しては資本賦課を減らすか、集中清算義務を課すようにするのが本筋のように思う。

通貨スワップのSOFRシフトが急速に進展

Clarusのブログを見ると、通貨スワップのSOFRシフトがほぼ完了したように見える。EURなどは、Euriborが存続することからどちらの方向に向かうか昨年秋ごろはよくわからない状態だったが、今ではほぼ100%がSOFR vs ESTRになっている。当然JPY、GBPもRFRシフトがほぼ完了しているので、主要通貨に関してはLIBOR移行は完全に終わった形だ。

他の通貨についてもSEKUSDはSTIBOR vs SOFR、NOKUSDはNIBOR vs SOFRに移っている。注目は前回も書いたAUD、NZD、CADだが、ついにこれらの通貨にも変化が起きた模様だ。AUDはBBSW vs SOFRが標準にNZDもBBR FRA vs SOFRにシフトしている。CADについては、ほとんどがCAD CDOR vs SOFRになっているが、CORRA vs SOFRはまだ使われていないようだ。いずれにしてもUSDLIBORレグの入った取引は着実に減っている。

他の通貨も急速にSOFRベースに変わっており、流動性というのは一旦移り始めると急速に市場標準が変わるということが明らかになった。その意味では当局や業界団体が標準を決めて市場の変化を促せば、簡単に市場標準が変わるということだ。

金融に関しては、顧客のニーズに合わせて複雑なカスタマイズをするのが必ずしも顧客のためになるとは言えない。これは、個人の嗜好に合わせて究極まで特別なサービスをする日本のサービス業の文化には合わないのかもしれない。なぜなら、そのようなカスタマイズをやりすぎると流動性が落ち、結局はコストに跳ね返ってしまうからである。

日本でローンを出しており、TIBORを基準にしているため、社内レートをTIBORに統一したい。そしてデリバティブ取引の割引率もTIBORにしたいというところもあるかもしれないが、そうするとそのヘッジ取引に余計なコストがかかる。現状ではどう考えてもTIBORよりTONAの方が流動性が高い。TIBOR vs SOFRの通貨スワップも相対ならできないことはないだろうが、ディーラーサイドは、TIBOR vs TONA、TONA vs SOFRと二つのスワップでヘッジをする必要があるので、結局コスト増になってしまう。

油の量、麺の硬さ、トッピング等、個人の好みに合わせたあらゆるオプションを与えることはラーメン屋では可能かもしれない。だが、金融では、あくまでもシンプルに、皆が取引をしているものを使うのが望ましい。個人の嗜好に極限まで合わせた注文住宅が売る時になって苦労するというのと同じなのだろう。

こうした流れから、通貨スワップについても円担保でドル円通貨スワップを行うとコストがかかってしまう。とは言え担保は円を出したいというニーズがあるので仕方がない。この辺りもSwapAgentなどを使ったりして、標準的な条件で取引をできるように市場を変えることが望ましいのだろう。これを突き詰めれば先物になるのだが、通貨ベーシスのリスクをヘッジするための先物は作れないのだろうか。また、ヘッジ会計の要件を緩めるだけでも市場流動性には大きな影響があると思うのだが。

金融取引処理の自動化と標準化

金融の世界ではコスト削減と透明性向上のために、様々な標準化の努力が続けられている。日本にいるとあまり目立たない動きのように感じてしまうが、海外では、業務プロセスが毎年のように変更されていく。デリバティブ取引のISDAの契約交渉は電子的に交渉をサポートするISDA Createがあり、データの標準化にはCDM(Common Domain Model)がある。そして昨年この両者の統合が可能になったことにより、契約と業務処理がシームレスにつながり、さらなる自動化が可能になった。

契約交渉の過程で合意された条件を、リスク管理システムや取引データ管理システムにそのまま流し、自動的にデータ処理ができるようになる。以前は、ISDA契約を一つ一つ読み込み、Threshold、適格担保などのデータをシステムに手入力していた。そして、このデータが間違っていると、XVAのプライシングミスが発生して損失につながることもあった。個人的にもこのデータ入力と確認作業を担当したことがあったが、間違いのないよう複数のチェックを入れたり、外部弁護士にレビューを依頼したりとかなりのコストをかけてデータ化したのを記憶している。

これらの自動化により、Archadie Softなどの担保管理やその他のサービスプロバイダーは、ISDA Createによって交渉が行われた契約条件を簡単に取り込むことができる。オンライン上で契約交渉を行うと、そのデータが自動的に取得、保存され、あらゆる目的に使用できるようになる。特に一つのISDAマスター契約にファンドを追加していく海外アセマネの取引に関しては、事務効率がかなり向上した。

これらのデータを標準化しておけば、当局向け取引報告、IM最適化、コンプレッション、Novationなど様々なポストトレード処理の効率性が高まるだろう。特に資本やファンディングコストなどの効率性を意識しながら金融取引を行うことが重要になっている昨今においては、こうした流れに後れないようにしておくことは非常に意味があることである。

これまではこうした動きに国内勢が後れを取ることが多かったが、金融機関がますますシステム産業化していく中、これを避けて通ることはできないだろう。

TIBOR公表停止

TIBORがなくなるのかという問い合わせが突然複数入ってきたので何かと思ったらTIBORのTSRについての話だった。パネル行5行のうち2行が離脱し、残り3社となっていたが、うち一行は今月末でレート提供を終了するので2月1日からはTIBOR参照のTSRの公表停止が提案されている。

以前は上下二社のクォートを除外して平均をとっていたが、2社しかないとレートが信ぴょう性に欠けるものになり、市場操作の可能性が高くなってしまう。もはや銀行がレートを提供してインデックスを作成するというのは困難になったと言えよう。後継金利は、おそらくTONA+スプレッドという形になるのだろう。

とはいえ、TIBOR参照のTSRを使った取引は極めて少なく影響は限定的だと思われる。TIBOR自体は残るものの、ZTIBORは2024年12月末の公表停止が既に既定路線になっている。流動性もTONAの方がかなり高くなっているのでTIBOR取引をするには余計にコストがかかるようになってきている。こうなると、コストを気にする市場参加者のTIBORの使用はますます限定的になっていくのではないだろうか。

一部TIBORの使用を継続したいというニーズは残るのだろうが、それは取引コストとの引き換えになるかもしれないということを念頭に置いておく必要があろう。

債券の電子取引は日本よりアジアが先行

Coalitionの分析で、アジアにおける債券の電子取引が急増しているという報道があった。しかも従来から増えていたドルやユーロなどの流動性の高い債券のみならず、アジア通貨建て債券の電子取引が増えているとのことである。

2016年の調査ではバイサイドが取引する債券の14%が電子だったが、2020年末には1/3を占めるまでになっている。バイサイド同士の取引やディーラーがRFQ(Request for Quote)を送るケースも出てきている。このペースで行くとかなりの取引が電子化していくことになるだろう。

いまだ大きなうねりにはなっていないものの、日本でも日本国債の取引が徐々に電子に移行しているのを感じている。それでも日本の電子化への移行は他国に比べ後れを取っている。画面に表示されたストリーミングプライスによって取引を執行できるのは楽だと思うのだが、日本の投資家は、海外に比べVoiceでの取引を選好するところが多い。これが日本はビジネスを行うにはコストがかかる理由の一つになっている。

それにしてもここ数年でかなりの業務が人手を介さない方向にシフトしている。逆にシステムにトラブルがあった時や、特殊な処理を依頼したときの例外プロセスを作るのに多大なコストがかかるようになっているが、標準的な取引をするだけであれば、ほとんど人手を介さずに多くの業務が完了するようになった。

取引報告一つとっても、取引後たたちにパブリックに報告をしなければならないという米国規制に従うには、もはや手作業では間に合わない。一方システムが止まると規制報告ができないから取引を止めるということも発生する。日本の場合は、システム化を前提にした規制が海外より多くないので何とか手作業で対応できてしまうのだが、ここを改善していかないと、効率性において世界にどんどん後れを取ってしまうのではないだろうかと心配になる。

SA-CCR適用による自己資本比率へのインパクト

大手米銀の決算が公表されたが、各行ともSA-CCRの影響に言及している。

MSは12月1日から若干の早期適用をしたが、12月31日時点では、SA-CCRの適用により標準法におけるRWAが$23bn増加したと発表している。これによる自己資本比率(CET1)は0.82%低下した。前回決算発表時の予測が1.2%低下だったので、若干改善されている。

GSも同じく第四四半期にSA-CCRを早期適用しているが、こちらはRWAが約$15bn増加と発表している。これによって内部モデルが意味をなさなくなCollins Floorをヒットした。おそらくこれで米銀大手8行すべてがこのフロアにヒットしたことになる。

JPMは、SA-CCR適用によってRWAが$40bn増加、自己資本比率は0.3%の減少と質疑応答で答えている。

CitiはSA-CCRへのシフトで一旦資本比率を悪化させたが、最近の削減努力が実り、第四四半期に$60bnものRWAの削減を実現したようだ。12%のROWターゲットに向けかなりの努力をしたのが伺われる。

このように米銀トップは常にROEを重視して経営を行っており、その努力は数字に表れてくる。資本コストの高いビジネスからの撤退も続いており、RWAが増えればそれを減らすための努力も継続している。当然ながら、日々の取引についても資本コストを計算しながら案件に取り組むかの判断をしている。

昨今では、CVAやFVAなどの評価調整よりもKVAの方が取引制約になってきているという声も多い。こうなると、資本コストをそれほど気にかけない銀行が多い日本でのビジネスはなかなか難しくなってくる。

IT投資の差が金融機関の将来を決める

JPMが競争力強化のためシステム投資と人材投資を大幅に増やすとのことだ。これにより経費を8%増の$77bnに増やすという。これまでコスト管理にうるさかったJPMが、収益性をある程度犠牲にしてでも、新規投資を含めて資金を振り向けるという。確かJPMのIT投資は大体純利益の4割程度だったと思うが、そのうち半分にまで達するのではないだろうか。

これによって目標株価を下げたアナリストもおり、実際に株価は金曜に下落したが、おそらくそれだけ競争が激しくなっているのを意識しているのだろう。Citiなど他の銀行も、Thechnology投資を最重要分野として、システム投資を増やしている。

確かに最近の米銀システム投資コストは尋常ではない。毎年巨額の予算が振り向けられあらゆるプロセスが急速に変化している。ただ、目に見えるくらいその効果は出ており、人手を介さない業務がどんどん増えている。同じ業務に必要だった人員もかなり少なくなってきた。人為ミスも減っている。その代わりシステムが一旦止まるとすべてが止まるので、巨額の投資を続ける必要もある。

この辺りは日本とは雲泥の差があるように思う。確かにここまでのコストを掛けるのなら、人がマニュアル作業をした方が安くつくのも確かだ。特に非常に細かい顧客サービスが求められる日本では、人手で解決する方向に行きがちだ。終身雇用のもとで抱えた余剰人員で対応するのも簡単だ。傘下のシステム子会社がOBの行き先になっているという事情もある。

20年ほど前は日本と言えばテクノロジーでは最先端と言われたのが、今は全く海外からの目が変わってしまった。米国のようにFinTechなど新興企業が金融業界を揺るがすようになれば危機感も出てくるのだろうが、起業が少なくオーバーバンキングの日本ではこうした動きも鈍い。メガバンクですら年間のシステム投資額は2000億円に満たないと思うが、このままでは世界との差はますます開いてしまうのではないだろうか。

LIBOR改革後の金利指標

EUR/USDの通貨スワップについては、SOFR/ESTRとusdlibor/euriborの二つの選択肢があったため、昨年のRFR Firstからデータを追っていたのだが、12月後半になってほとんどがSOFR/ESTRになった。11月時点では半々くらいだったので、急速に新レートへのシフトが起きた格好だ。特に規制や当局ガイダンスがなくても移る時には移るというのがはっきりした。

あとはCAD、AUD、NZDがどうなるかに注目が集まる。カナダでは日本のTIBORと同じように銀行から提出されたデータに基づくレートであるCDORが使われている。TIBOR同様、透明性を高めるための改革が行われているが、長い目で見ればRFRであるSOFR/Corraに移っていくのではないだろうか。あとはCorraの流動性次第だが、一連のLIBOR改革の経験からすると、当局のガイダンスやディーラーの協力があれば、流動性をシフトさせるのは不可能ではないと思う。

とは言え、金利スワップに関してはTIBORやEuriborは引き続き存在感を維持しており、今後これを大きく変えるというきっかけはなさそうだ。エンドユーザーはおそらくこうしたレートを使い続けるだろうし、リクエストがあればディーラーは応じるしかない。おそらく流動性に見合ったコストをチャージすることになるので、エンドユーザーのコストは上がる。しかしこのコストが上がっているということには、あまりユーザーとしては気づきづらい。また、ディーラー間の競争が激しいので、コストを転嫁できていないのかもしれない。

ただ、ディーラーとしては取引をするベーシスが増えればそれが収益機会にもなる。一方で、リスク管理者としては、管理対象のリスクが増えるので全体としてのコストは確実に上がっている。

とは言え、全体としてみればLIBOR改革によってかなりすっきりしてきた。今まで管理をしていたTIBOR vs LIBOR、LIBOR6m vs 3m、LIBOR vs OISなどのベーシスが少なくなったからだ。日本ではDTIBOR vs ZTIBOR、DTIBOR6m vs 3m、ZTIBOR vs OISなどまだまだベーシスは多いが、最近はこの動きも落ち着いてきている。新年に入って海外から日本の円金利市場に関心が集まっているのをひしひしと感じているが、あまり複雑にしない方が流動性が上がるの。既に計画はあるのだが、DTIBORとZTIBORの共存という現在の形には早めに終止符を打ってほしいものだ。

LIBOR改革が市場の標準化を加速させる

LIBOR改革にともないユーロのEONIAが公表停止となった。EURを適格担保にしているCSAについては、昨年以来EONIAをESTRに変更する交渉が行われてきた。CCPにおいても2021年7月にこの変更が終了しており、既にESTRフラットでの割引が行われている。この交渉を行っていなかった市場参加者は、EONIAがなくなったためESTR+8.5bpにフォールバックしてしまった。

EONIA=ESTR+8.5bpに設定されているが、CCPと異なるESTR+8.5bpにするのも面倒なので、本来であれば、担保金利をCCP同様ESTRフラットにするのが最も望ましい。しかし、この場合割引率が異なることからスワップの時価が変動し、勝ち負けを現金決済する必要がある。この金額について取引当事者が合意することが難しいので、既存取引はESTR+8.5bpとした契約が多かった。また、新規取引はESTRフラットにしておき、古くから残るレガシースワップのみESTR+8.5bpとしているケースも見られる。

最も面倒なのは国債や社債など、現金以外の担保が適格とされているCSAだ。業界ではこうした非標準のCSAをDirty CSAと呼んでいる。これには、調達コストが安い担保を選んで拠出できるため、CTDVAがかかっている。CTDVAはCheapest to Deliver VAの略で、複数の担保を選択できるオプションの価値(評価調整)である。債券担保の場合の割引率は債券のレポレートによって計算するが、長期のレポのタームレートは存在しないため、このオプションの価値を当事者同士が完全に合意するのはかなり難しい。

ここまでくると、CSAを極力標準的なものにして、CCPと条件を合わせていきたいという市場参加者が増えてくる。おそらく市場の流動性向上のためにはこれが最も望ましい。あるいは、LCHのSwapAgentを利用して標準的な割引率を利用するのも検討に値する。今後は取引相手毎に個別に契約をカスタマイズするのではなく、極力市場標準に合わせていく方が望ましい。これは日本が一番不得意とするところであるが。

日本のビジネス慣行

元旦から世界食糧争奪戦の現場というニュースを見た。円安等の問題はさておき、日本が商売相手として面倒くさいのが問題と書かれていた。ものを欲しがるくせに金をケチる。要求が度を越している。ちょっとでも瑕疵があれば報告書を出せ、改善計画書を出せと居丈高に要求すると。それならつべこべ言わず金を出してくれる中国に売るということで、食料がかなり中国に流れてしまっているとのことだ。

金融業界では常に言われてきたことだが、これはどうやらあらゆる業界で言われている日本の特徴なのかもしれない。金融では改善計画書ならぬ「経緯書」という名前で呼ばれるが、今では海外でもKeiishoと言えば通じることが多くなった。海外ではこんなものを出すよう要求する人はまれだが、日本では必須である。

例えばフェイルというのは有価証券の引き渡しが遅れた場合には次の日に繰り越されるという市場慣行だが、日本では事務ミスと認識して出禁にするところがある。あまり海外では聞いたことがない。

国際的な契約社会においては、書面で約束することに対して慎重になるため、なかなか具体的な内容に踏み込めないのだが、four eyes check(4つの目、つまり2人でダブルチェックをすること)を徹底するなどと書かれたものが多いようだ。更にミスが起きると6 eyes checkにするなどという冗談みたいな話も聞かれる。内容というよりは書面で詫びるというプロセスが大事という側面もあるのだろう。

それでも日本だけは特殊だからと必死で対応してきたが、そろそろ日本切り捨て論が強くなっているのをひしひしと感じる。同じことは金融だけでなくあらゆるところで起きているようだ。

やはりミスや失敗を許さない文化というのがあるのだろうか。日本に経済力があった時は問題なかったが、ここまで国際的なプレゼンスが落ちてくると、いつまで過剰サービス対応を貫けるのだろうか。

NDFのクリアリングが加速

証拠金規制最終フェーズを来年に控え、LCHやEurexといったCCPにおけるNDFのクリアリングが増加している。特に取引が一方向になりがちなバイサイドにとっては、当初証拠金の負担増を避けるため、CCPにおいて清算するインセンティブがある。INR、KRW、TWDといったアジア通貨のクリアリングも増えているようだ。OTCでも証拠金が必要になれば、上場商品と何ら変わりがなくなるため、上場デリバティブへのシフトも進むかもしれない。

こうした通貨は当然アジアのバイサイドからの取引ニーズが大きいので、アジアの参加者のクリアリングシフトが起きている。日本でもEM通貨を扱う投資信託等はあるので、一定のクリアリングニーズはあるはずなのだが、どうも日本は担保拠出と担保オペレーションに対するアレルギーがあるのか、ほとんどクリアリングが使われていない。

個人的な印象だけなのかもしれないが、日本では当初証拠金、規制資本等の最適化を進めようという動きが鈍い。未だに効率性よりシェアを重視しているわけではないだろうが、ROEは依然低く、当初証拠金を減らそうという動きも鈍い。海外CCP、CLSなどの海外標準サービスの採用ペースも遅い。

最近ではあらゆる標準システムが、こうしたフローを中心に作られているので、海外で進む自動化、標準化の流れについていかないと、世界から取り残されてしまうのではないだろうか。外資系では、金融は完全にシステム産業化していると言われ、毎年莫大なシステム投資を続けている。商品に差がつけ難くなってきた今、サービスの差別化をシステム化で図ろうとしている。お金ばかりかければ良いという訳ではないので注意が必要だが、テクノロジーの重要性は今後の金融機関経営の最重要課題となっていくだろう。

欧州300億円規制は邦銀に影響を与えるか

10月末にアナウンスされたEUの資本規制改正案が邦銀の海外戦略に影響を与えるとRisk.netで報道されている。EU域内に支店を持つ銀行の資産が300憶ユーロを超えた場合、EU市場にシステミックリスクがあると判断されれば、事業再編を迫られ、必要な場合は現法設立が求められるというものだ。また、資産50憶ユーロ以上の場合、LCRを含む追加的な流動性要件に従う必要があるという。

300億ユーロを超えているのはSMBCだけとのことだが、その他の銀行はこの300億を意識して事業展開をせざるを得ないという報道内容となっている。

ただ細かくないようを見ていくと、それほど負担が増えるようなものには見えない。EUの専門家からも、それほど大きなインパクトがはないだろうというコメントも出ている。何となく面倒だからEUでのビジネス拡大を躊躇するという影響はあるだろうが、自国に進出する金融機関に追加規制をかけるのはどこでも同じである。米国はもちろん、アジアの国々でも現地通貨建ての流動性確保の要件など、追加規制は珍しくない。

日本で活動している海外金融機関を見ても、ほとんどが現地法人を設立し、登録金融機関または金商業者として登録し業務を行っている。以前は便利だった支店形態は、規制強化によってどんどん困難になっている。米国にもSMBC CapitalやMizuho Capitalいった現法は既に存在しているので、今後は現法による海外展開というのが中心になっていくのだろう。

ポストトレード処理

以前は、デリバティブ取引を執行した後は、システムにブックしてコンファメーションを送れば処理が完了した。しかし、近年は、規制強化に伴って、取引後の処理が重要になってきた。取引照合、SEFやETPにおける執行、CCPにおける清算、即時報告(リアルタイムレポーティング)、当局への報告、マージンコール、担保決済、分別管理など、ポストトレードサービスは、取引が行われた後に発生する、取引のライフサイクルにおけるミドルオフィスとバックオフィスのあらゆる処理をカバーする。

更に、その取引に関するファンディングコスト、資本コストがかかり続けるため、それをいかに最適化していくかということも重要になる。この代表例がコンプレッションであるが、オフセットする取引を削減し、バランスシートにのっている取引量を減らすことにより、資本効率を向上させることができる。また、所要当初証拠金額の削減、ベーシスポジションの解消、SA-CCR上の資本賦課の削減、XVAの削減まで、様々な最適化が可能である。つまり、各種取引の結果できあがったポートフォリオを常に最適化し管理していくことが重要になってきたのである。

金融業界は規制強化、競争激化、低成長化、低収益化が起きており、それに対応するためテクノロジーを使ったコスト削減によるROE向上が急務になっている。その中心となるのがポストトレード処理である。

取引報告

まずは、ポストトレード処理の最初の段階に取引報告がある。単に取引した内容を報告するだけかと思ったら大間違いで、これを適切に行わないと巨額の罰金を科せられる。ここまで取引量が増えてくると、手作業で報告をするのは不可能で、システム対応によるオートメーションが不可欠となる。システム障害が発生した時は、取引が報告できないという理由で新規取引を止めたりもする。近年、規制当局は取引報告の一貫性と正確性を高める必要性を認識し、世界的に調和したデータ要素の採用を目指して、規則の見直しに着手している。こうした規則の変更に対応するには、その要件を解釈し、変更をシステムに組み込まなければならない。米国、EU、日本と規則が異なるが、共通の分類法や技術を使用して、より費用対効果の高いシステムを作り上げる必要がある。

ISDAでは、デジタル・レギュラトリー・レポーティング(DRR)イニシアチブの下で、共通ドメインモデル(CDM)を使って、一連の規則を共通の認識で解釈できるように努めている。将来的に規制が変更になった場合も、DRRを使用するすべての企業に迅速かつ一貫した形で展開することができ、監督当局に対して透明性を確保することができる。CDMの利用により、ポストトレードに関わるコストを業界全体で50-80%削減することが可能という研究結果もある。

当初証拠金最適化

ポストトレードのもう一つの柱に当初証拠金計算と最適化がある。証拠金規制によって、より多くの市場参加者が当初証拠金を計算、モニタリング、拠出するようになり、カストディアンにおける分別管理を行うようになった。カストディアンと口座管理契約の交渉と日々のやり取りは、証拠金規制によって新たに生まれたプロセスである。

ISDAの標準モデルであるSIMMの導入も不可欠となり、このSIMMで計算された当初証拠金額が証拠金規制のThresholdを超えていないかどうかの確認も必要となった。取引の収益マージンが縮小していく中、これらのすべてのプロセスを手作業が行っていると、オペレーションコストがかさんでしまうので、極力人手を介さずに効率的に処理を行うことが金融機関の競争力の源泉となってきた。残念ながら、これは日本の金融機関が最も不得手とする分野である。

取引量の圧縮(コンプレッション)

カウンターパーティーリスク管理の観点からは、CCPと並んでTriOptima社やQuantile Technologies社のような会社が提供するサービスの重要性も高まってきている。特に近年では、レバレッジ比率規制等想定元本で縛りをかける規制がふえてきたことから、元本を減らすコンプレッションはきわめて重要になってきている。これは、既存の取引について、参加者間でオフセットできる取引を一斉にキャンセルし、取引量を圧縮するというものである(Compression、Tear-upとも呼ばれる)。これにより、エクスポージャーや資本コストを削減すると同時に、取引管理業務からも解放される。

市場参加者は、キャンセルを希望する取引明細を同社のWeb上にアップロードすると同時に、キャンセルによって生じうる与信やリスク量の変化について、自身の許容量を提示する。TriOptimaでは、各社のキャンセル候補案件を組み合わせ、すべての参加者の許容範囲内でキャンセルできるような最適な取引の組合せを探し出し、参加者の合意が得られれば取引を一斉にキャンセルする。CDS等の想定元本残高が近年減少しているが、単純に取引が減ったというよりは、こうした残高圧縮の動きが活発化していることも、その理由の一つである。

バーゼルIに始まった資本規制は、内部格付、内部モデル等を使ったリスクに応じた計算にシフトしてきたが、2008年の金融危機を受けて、各金融機関が独自に計算したリスク指標は信用できないという方向に180度転換した。取引の想定元本で規制をかけるというレバレッジ比率規制がその最たるものであるが、リスクという観点からは完全にオフセットしている二つの取引であったとして、取引が残っている以上は取引に制約条件を加えなければならなくなった。これを受けて、金融機関サイドでは、本来のリスクのみならず想定元本も管理しなければならなくなり、リスクベースではない指標の管理も重要になってきた。

これはCCPに対する取引も同様で、各CCPでは、定期的に取引圧縮を行っている。このため、今後はコンプレッションが容易な取引のニーズが高まり、一部でMACスワップのような取引の標準化が進んだ。同時に各金融機関、CCPともに、想定元本をふくらませずに取引をブックし、キャンセルしていくような仕組みを構築していかなければならない。

 たとえば、想定元本10億円のスワップを銀行と行った後、これを解約する場合、同じ銀行と解約すれば取引が完全に消える。しかし、別の銀行のプライスが良かった場合は、反対取引を新規で入れることになる。この場合、二つの取引は完全にオフセットしているため、マーケットリスクはない。しかし、二つの銀行に対するカウンターパーティーリスクを負っていると同時に、想定元本も20億円になってしまう。このようなケースではアサインメントといって、当初の取引を新しい銀行に譲渡するやり方をとれば想定元本はふえない。なお、CCPで取引をしていればオフセットする取引はその後消えていくことになる。

さらにこうした完全にオフセットする取引でなくても、満期やクーポンが若干異なるためにコンプレッションができない場合にも、取引の内容を若干変えてでも想定元本を減らせるような仕組みも考えていく必要がある。CCPでは既にクーポンブレンディングやリスキーコンプレッションといってリスク量が若干変化するのを許容するコンプレッションも行われている。このような努力を続けていけば、想定元本を減らすのみならず、万が一参加者破綻が起きた場合でもオークションポートフォリオを簡素化できる。

SwapAgentとは

SwapAgentは、英国のCCPであるLCHのサービスで、清算はしないものの、相対取引の執行、証拠金授受、決済などを簡素化するためのサービスである。クリアリング業務で培った経験を、非清算取引に拡大し、標準化、効率化、簡素化を進めようというものである。取引自体は清算されていないが、集中取引処理、時価評価、証拠金計算、リスク計算、ポートフォリオ最適化などが、清算取引と似たようなプロセスで行われる。

通常のマージンコールにおいては、双方の時価が異なることによるDisputeが発生するが、SwapAgentでは、LCHが時価評価をすることによりDisputeがなくなる。担保決済も清算取引と同じように行われるため、標準化が可能になる。リスクファクターの計算も標準化されるため、SIMMの計算も容易になり、計算結果の違いも少なくなる。

そして、SwapAgentと非SwapAgent取引を含めたポートフォリオについて、TriOptimaなどのコンプレッションが容易に適用できるため、取引量の圧縮も可能になる。

また、何と言っても割引率が統一されるのが大きい。例えば、ドル円通貨スワップについては、CSAの適格担保の通貨によって、割引率が円のものとドルのものが混在している。一般的に通貨スワップについてはドルディスカウントを行う市場参加者が多いので、ドル担保のCSAを別途締結するところもある、追加のCSA契約締結等手間が多い。これが、SwapAgentに参加すると、すべて標準のドルディスカウントが行えるようになる。

LIBOR改革においても清算取引と同様の指標変更が行えるため、相対で交渉する手間が省けた。今後は逆にSwapAgentに参加していないとチャージをされるようなことが増えてくるものと思われる。

SA-CCRが小規模金融機関に与えるインパクト

スペインの地銀の2021年上半期のCVA資本チャージが、SA-CCRへの移行に伴い€29mmから€1bn超へと、30倍に膨らんだとの記事が出ている。この程度の規模の地銀でこれだけの資本コストの上昇は尋常でないが、地銀でもCVAを無視できない時代に突入したということなのだろう。

こうなると、CVAをきちんと把握してそのヘッジを行おうというインセンティブが高まる。おそらく簡便法が最も簡単なのだが、少なくともBA-CVAを適用しようという銀行も増えてくるかもしれない。

日本の地銀においては、2023年3月期からバーゼルIII第3の柱に基づく開示全般について、新様式の利用を予定しているところが多いものと思われる。どうせ必要なら充分に研究して先進的なCVA計算手法を入れ、資本の効率化を向上させようとする銀行が出てきても良いのではないか。デリバティブを毛嫌いするだけでなく、うまく使えばリスク管理にもなるし、ROE向上にもつながる。

計算だけなら数人のチームを作ってとことん勉強させれば、何とか先進的な手法を導入するのは可能だと思う。あるいは複数地銀で集まって、CVA導入を目指しても良いのではないだろうか。日本では大手銀行でも資本効率が海外に比べて極端に低いので、中小金融機関でも高ROEを達成することができるのではないか。組織が硬直的でない分小規模金融機関の方が小回りが利いて、新しいことが進めやすいと思う。

金融の生産性を向上するには

日本の生産性が問題視されるようになって久しいが、確かに完璧を求め生産性を犠牲にする文化があるのかもしれない。既存のプロセスを変更するときや前例のない新しいことを始めるのが非常に困難だ。

メールのやり取り一つとっても英語より極端に時間がかかる。まず相手の会社名、部署名、役職を記入し、漢字に間違いがないか確認しながら名前を書く。そして、「いつもお世話…」にという常套文句を書き、ようやく要件に入れる。複数人宛の場合は誰を最初に書くべきかの確認も必須だ。役職も参事役と部長補佐はどちらが偉いんだなどと考えながら、内容を書くまでに意外と時間がかかってしまう。

メールの返信を書く時まで、その都度会社名とお世話に…を入れる場合もあるが、英語メールの場合は、複数のやり取りが続くと名前すら省略することがあるが、慣れてくるとメールのやりとりは、英語の方が圧倒的に早い。プロ野球で「そうですね」廃止が話題になっているが、メールでも「いつもお世話に」を禁止したいものだ。

会食時にも、手土産やタクシーを手配し、座る場所、会計、見送りに気を配り、次の日の朝にはお礼状、お礼メールを送る。慣れてしまったので何のことはないのだが、余分に時間はかかる。外資系では手土産などは送る方ももらう方も申請が必要なので、その申請も出さなければならない。コンプライアンスから追加質問がくる場合もある。古き良き伝統なのかもしれないが、少なくともこのご時世、接待の手土産は禁止にして欲しい。通常物を贈るのは禁止というのがグローバル金融機関の常識なのだが、手土産の他、事務所移転等で花を贈ったりする日本においては、各社とも特殊ルールを設けている。

このような他愛もないこと以外にも、金融ではフェイルやレポート提出の遅れ、非常に細かい事務ミスが許容されないので、そのために人海戦術で対応するしかない。こうして現場は多忙を極める割に収益にはつながらないため、生産性が下がる。95%の正確性で収益を上げるより、コストを引いた後の収益がマイナスでも100の正確性を求めている。

その割にシステム投資を抑えるため大きなミスが起きてしまう。フェイルやその他事務ミスについては、人手をかけて二重チェックをすれば防げるが、システム障害は人海戦術では防げない。製造業であれだけ費用対効果を極限まで最大化する努力ができたのだから、サービス業でも若干は効率性を考えなければならない。1円帳尻が合うまで支店の全員が残っていたというエピソードがあったが、日本のビジネス環境をよく表している。

しかし一方で、黒船、地震、コロナ等があると、急に危機感が芽生えて常識が変わる。テレワークはコロナがなければ絶対に進まなかっただろう。海外企業は、コロナ前から金曜だけはフロリダからテレワークという人もいたくらいなので、在宅勤務への移行は直ちに実行できた。つまり、何か天変地異のようなものがなくても変化が起きていたということだ。

しかし、コロナのような大きな変化が起きると、これまでのしがらみを捨てて変化できるというのも日本の良さなので、これからはチャンスが出てくるかもしれない。規制業種になってしまったので以前より難しくはなってきたが、常に新しいことにチャレンジする精神を持っていきたいものである。