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某米系外資系投資銀行にて長年規制・市場動向を追っています。

EONIA⇒ESTR変換が無事終了

先週末にEONIAからESTRへの変換作業が無事終了した。LCH、CME、Eurexの3CCPが同時変換作業を行ったため、正直うまくいくのか不安があったが、ふたを開けてみると非常にスムーズに作業が完了し、その後のマーケットも完全に落ち着いている。月曜日は何もなかったかのように淡々とESTRの取引が行われ、ESTRスワップの取引量は過去最大となった。

変換した取引の想定元本はLCHがほとんどだったが、それぞれのCCPで別途の作業が必要だったため、各社とも予行演習を含めて綿密な計画が練られたものと思う。LCHの変換手数料の€15を避けるため、事前にEONIAを減らす努力をしたところもあったかもしれない。

作業的にはほとんどシステム的な対応で終了し、人手を介する部分は本当に少なくなっている。今回の経験は、12/3の日本円LIBOR Swapや12/17のGBP LIBOR Swapを含めた大規模変換の良い予行演習になったと言えよう。12月の作業はサイズ的には約5倍程度という報道もされている。今回の変換作業を経験していないJSCCと日本の市場参加者の対応が気になるが、おそらく問題なく移行が行われるものと期待している。

それにしても金融は本当にシステム産業になったという印象だ。特にデリバティブ取引の世界では極力プロセスを標準化して、システム対応をするという方向になっている。今回の移行作業でもプロジェクトの主役はIT部門だった。

一方、日本の場合はお客様のきめ細かなニーズに応えて最高のサービスを提供するのが良しとされる。ホテルなどのサービスでこれは強みになるのかもしれないが、金融で例外処理ばかりを作るとシステム対応ができず、コストばかり上がって事故につながる。金融の日本が弱いのはここに原因があるのかもしれない。

海外から来た友人が、ラーメン屋で油の量、麵の硬さ、トッピングなどを矢継ぎ早に聞かれて戸惑っていたが、海外なら標準的なラーメンをさっと出してくるのだろう。お客様は神様文化もあり、日本の消費者はこうしたきめ細やかな対応を好む傾向があり、売る側がその努力をするのが当然という雰囲気もある。アメリカにもクレーマーは多いが、店側も結構強く出ている。

金融の場合、こうした例外処理が多いからか、システム構築コストをかけるよりは、人手をかけてマニュアル対応をすることが日本では多い気がする。人件費が安いからか、解雇が困難なため余剰人員が多いからなのかよく分からないが、システム投資にあまり積極的でない。そんな金のかかるシステムを作るなら、せっかくいる人を使って対応しようという話が良く聞かれる。

システム会社も少数の大手の独占か、関連のシステム会社を使うことが多く、新興IT企業が入り混じって競争している海外の会社の方が、効率が良くコストも安くなっている。システムコストが高く人件費が安いなら、当然手作業で対応しようということになり、システム化が遅れる。

こう考えると標準化の必要な金融は、日本の文化には向かないのだろうか。それでもテクノロジーやシステムの重要性、効率性・生産性向上が声高に叫ばれるようになってきたので、今後の展開に期待したい。

排出権デリバ市場

近年排出権がらみの話が盛んに出てくるが、色々と新しい用語が飛び交っていてわかりにくいのだが、備忘録的に整理しておく。

まずは、EU ETSだが、これはEUのEmissions Trading System、つまりEUの排出量取引制度。世界でもっとも歴史のある排出権取引制度で2005年にCap&Trade型の制度として導入された。Cap&Tradeというのは、排出権取引規制の一手法で、対象の施設から出せる排出量に上限を設定するものである。

期末時点で排出量に見合った排出枠をもっていなければならず、枠がなければ買ってこなければならない。逆に言うと、これを削減した企業は、その分の排出枠を売ることができる。EU ETSがここから始まったため、ETSというとCap&Tradeと言われることもある。

ということで、売買がなされるので、その価格が株価のように変動する。変動するのであればデリバティブでヘッジしようという動きが生まれる。金融機関はオークションで排出権を買って、排出枠を持たなければならない企業にフォワードや先物で売ったりする。排出権の流動性や資本コストの問題から、排出権を買うより、デリバティブの形で買う企業が出てくる。デリバティブ市場が出来上がると、フォワードの価格が明確になったり、プロジェクトにかかるコストの変動を抑えることができる。

ここで売買されるのはカーボン排出枠、Carbon allowanceとかCarbon Creditと呼ばれるものである。ETSのもとで政府が発行する取引可能な証明書で、これがあると1トンのCo2を排出する権利がもらえる。また、カーボンオフセットというと排出を減らす試みに与えられる証明書を指す。EUAは、European Union Allowanceの略で、欧州の排出権取引制度(EU ETS)における排出枠を指す。排出量を表す言葉として、GHG排出量という言葉が使われることもある。GHGはGreen House Gasで、Co2やメタンなど温室効果ガスの排出量を言う。

米国の取引所であるICEはこのEUAとCCA、RGGIの先物とオプションを上場している。CCAはCalifornia Carbon AllowanceでEUAのカリフォルニア版といったところか。RGGIはRegional Greenhouse Gas Initiativeの略で、地球温室効果ガスイニシアティブとでも訳すのだろうか、米国の10の州が参加するプログラムである。やはり1トンのCo2を排出する権利である。

ICEが扱う世界の取引所取引のほとんどを占めているので、現状ではほぼ独占状態だ。CCAやRGGIの先物オプションの取引量は2019年あたりから急速に増えている。EUA先物オプションは2017年後半からの伸びが大きい。他にもEEX(European Energy Exchange)、Nasdaq、CMEなどの先物オプションもある。

他にも上場されていない店頭デリバティブ(OTC)の取引も増えてきている。ISDAでもUS Emission Annex、EU Emission Annexなどをそろえており、最近ではFRTBでの扱いなど資本賦課についての議論も金融機関内では活発になってきた。

日本でもTokyo Cap&Tradeが2010に、Saitama ETSが2011年に作られている。全世界的な取引量でいうと、先行するEUが約8割を占め、残りはほとんどが北米になっている。そして、中国、ニュージーランド、韓国が続く。

最近のEU ETSの価格急騰がかなりの注目を集めているが、ここまでくるとさすがに金融取引も本格化してきそうだ。日本でも、15年以上前にISDAの排出権ワーキンググループで議論が行われたこともあったが、ここへきてまた機運が高まってきている。日本の場合、お勉強だけで終わって実際に取引が行われないというケースが多いが、今回はそれなりに進めようという動きがみられるので、今後の展開に期待したい。

第三四半期決算にみる米銀の行動

米銀の第三四半期決算発表の内容を見ていると、銀行行動に変化の兆しがみられる。FRBの債券購入プログラムの縮小を見越してか、資金を債券に振り向ける兆しが感じられる。

バンカメは、高利回りの債券を購入したことにより純金利収入が増えたというコメントしており、Citiも国債とMBSを増やしたと述べている。政府の景気刺激策などにより銀行の預金が増えているが、これを金利収入の得られる債券に振り向けられれば、銀行の収益底上げ要因になる。

一方JPMは、債券というよりは依然現金保有が多い。今後金利が上昇すると予想しているため、これを債券に投資してくる可能性は高い。金利が想定する水準に近づけば現金をもう少し投入する機会が見つかるかもしれないと述べている。

また、現状プライマリーディーラーである20数行程度に限定されているFRBのStanding Repoを、他の銀行にも拡大して提供するというアナウンスメントもあった。すでにいくつかの銀行が申請を行っているとのことである。

今後は銀行にある現金が別のところに回っていくようになるのかもしれない。

LIBOR移行が最終段階に

10/16の週末のCCPによるEONIAからESTRへのシフトが近づいてきた。CME、LCH、Eurexの主要CCPが一斉に新レートへ移行する。100兆ユーロ超の金融資産を支えてきたベンチマークの切り替えはLIBOR移行の試金石となる。既にメンバーテストも終わっているので、大きな混乱は起きないものと思われるが、現場ではそれなりに緊張が走る。

EURの場合はEuriborも残っているので若干ややこしい。9/21のRFR Firstにより、GBP、JPY、CHFについてはスムーズに新レートに移行した。一方、EURについては、マーケットの状況を見ながらということになっており、特に移行が強く勧められたわけではない。とは言え9/21以降ESTR vs SOFRの通貨スワップの取引量が増えており、SDRで見る限りESTR/EURの取引数がEuribor/USDLIBORを上回った日もあった。個人的にはもっと移行が進んでも良いと思っていたのだが、今のところEuriborもしぶとく取引が続けられている。

USDLIBORが18か月延長になったとは言え、今後徐々に新規取引が困難になっていくことが予想され、こちらもESTR/SOFRにシフトしていくのだろう。日本の市場参加者がEUR債を発行するときなどはEURの固定レートを円の固定レートに変換するためには、Euribor、通貨ベーシススワップ、6s3sなど様々なヘッジ取引が必要になっていたが、これがシンプルになる。

日銀のウェブサイトに掲載されている日本円金利指標に関する検討委員会のアナウンスにもあるように、昨日10/1からは、新規の円LIBOR金利スワップ、スワップション等が禁止となっており、ここからはLIBORスワップの流動性が低下していくことになろう。このアナウンスによると、リスク管理目的等での新規取引が除外になっており、顧客に取引目的の確認までを求めるものではないと書かれている。

仕組債などの移行もようやく最終顧客が真剣に検討を始めた感もあり、何とかLIBOR移行も参集段階に入ってきたようだ。

RFR First UPDATE

通貨スワップのLIBORからRFRへの移行ターゲットである9/21を通過し、RFRへのシフトが着実に進み始めた。先週まではRFRの通貨スワップはほとんど見られずどうなることかと思っていたが、いざ始まってみると特に大きな問題なく移行が進んでいるようである。

初日のSDRには東京時間に3件のUSDJPYの通貨スワップが観測されたが、すべてRFRベースだった。先スタートの1年スワップと13年、20年の通貨スワップだったが、すべてTONA vs SOFRになっている。その後ロンドン時間に入って行われた2件もRFRだった。別の日にはTONA vs USDLIBORが見えるようだが、例外的なものと願いたい。

その他の通貨も順調にRFR取引が行われた。RFR Firstは大成功といった形だろう。前にも書いたが、このベンチマークの移行というのは徐々に起きるというよりは一気に起きるようだ。特に日本でこの傾向が強い。前もって一応準備しておくが、何かきっかけがあるまではなかなか動けないのだが、一度動き出すと一気に移行が進む。

一つ注目なのはEURだ。欧州のワーキンググループでは、USD、GBP、JPY、CHFについての移行を推奨していたものの、EURレグについては、Continue to monitor the development of market liquidity and demand from end usersと書かれており、市場の流動性を見ながら当面モニタリングとなっている。実際初日ロンドン時間ではEuribor vs Liborが多かった。米国時間になるとESTR vs SOFRもみられ始めたが、まだマーケットは完全に方向感がつかめていないようだ。

欧州系はEuribor、米系はESTRということなのかもしれない。まだ一週目なので何とも言えないが、ESTR vs SOFRの取引が一定程度増えてきたので来週以降の動向に注目が集まる。

非公開情報とCVAヘッジ

デリバティブカウンターパーティーリスクをヘッジする際について回るのが、MNPIの問題である。これはMaterial Non Pubic Informationの略で、日本語では内部情報と呼ばれる。内部情報は秘密情報であり、株価や債券価格などに重大な影響を及ぼす可能性のあるすべての非公開情報が含まれる。

この内部情報の管理手法には、各社でかなりばらつきがあり、あまり表に出てこない情報であるが、2020年から始められた金融庁の市場制度ワーキンググループの資料が参考になる。特に第8回では外資系金融機関に対するヒアリング結果が公表されており、各社がどのようにMNPIを管理しているかの一端をうかがうことができる。ここで述べられているように、海外では、情報共有を法律で禁じるというよりは、内部コントロールを聞かせることによって情報の遮断を行っている。一方本邦では、ファイアーウォールによって長らく銀証分離が行われてきた。

日本では、伝統的に「ルールベースの監督」が行われてきたが、外資系金融機関においては、「プリンシプルベースの監督」が主流であった。法律で禁じるというよりは、顧客利便性と内部管理のバランスを取りながら、各金融機関が内部コントロールを行い、個社のガイドラインに基づいて情報共有が行うという手法である。監督当局は法律違反をチェックするのではなく、内部管理体制がきちんと構築されているかを検査するという形になる。

ある程度自由度が増すのは確かだが、自己責任原則に基づいてかなり厳格な管理が行われるのが一般的である。法律に書いていないから良いではないかということではなく、常識に照らして自分で判断しなければならない。最近は日本でもプリンシパルベースへの移行を進めているように見受けられる。

いずれにしても金融機関経営はめまぐるしく変化をしており、極めて専門性が高い。完璧な法律を作ってがんじがらめにすれば利便性が損なわれ、法律の穴をかいくぐる行為が増えてしまう。プリンシパルベースにすれば、法律には書いていないものの、常識的に不正に当たりそうだという行為ができなくなる。ワーキンググループの議事録にもあるように、海外では「Need to Know」原則が貫かれている。業務遂行上知らなければならない人のみに情報共有が認められるという考え方だ。マニュアルが存在しない代わり、組織の良識が試される。

カウンターパーティーリスク管理においてこの内部情報が関係してくるのは、社債発行やM&Aに関係したスワップ取引についてである。先のヒアリング結果を見ると、「MNPIには、一定規模以上の債券が含まれる」という回答がある。また、「債券の発行について日本では原則MNPIとしていないが、グローバルでは基本的にMNPIとしている。」との不思議な回答もみられる。なぜ日本ではOKなのだろう。サイズが小さいからということなのかもしれないが。

カウンターパーティーリスク管理の性質上、新規取引を行うと同時にそのカウンターパーティーリスクをヘッジするのが一般的であるが、新規取引が債券発行に関するものであったり、会社の合併、事業再構築に関連していたりする場合は、その情報が公になっていなければインサイダー取引とみなされてしまう可能性も否定できない。したがって、こうした重要な非公開情報を入手してしまった場合は、適切なヘッジができなくなってしまうこともある。

通常は、適切なウォールを設けることにより情報管理体制が確立されているが、この体制は各社で独自に構築する必要がある。CVAの計算自体は取引のプライシングに関係しているため、きわめて早い段階でXVAデスクに問合せが入ることが多い。しかし、CVAの場合は、カウンターパーティーがわからないとCVAの計算ができない。Indicationを提示する段階では、A格程度の事業会社などと仮定して計算を行い、取引が近くなってからWall Crossを行い、厳密なプライシングを行う。あるいは、スプレッドを5年で100bp、10年で150bpのように仮定して計算を依頼することもある。

通常のトレーディングデスクであれば、こうした情報を得てしまった場合は取引を控えるという対応が可能かもしれないが、XVAデスクの場合は、取引ができなくなると会社としてリスクを抱えたままにしておかなければならないということになるので、情報管理は厳しく徹底する必要がある。

また、社債の発行金額があまりにも大きかった場合などは、MNPIに該当せずとも、市場に与える影響が甚大であるため、その情報を利用した取引をすべきでないという判断もあるかもしれない。この辺りは、各社であるべきコントロールを入れ、当局に説明できるようにしておく必要があろう。

通貨スワップのRFR移行はいつか

通貨スワップのRFR移行のターゲットは来週9月21日(RFR First)なのだが、未だ日本市場では本格的に移行する兆しがみられない。金利スワップがTONA Firstで一気に移行したのとは対照的である。今回は、米ドル、英ポンド、スイスフラン、日本円の4つの通貨間の取引でLiborの使用を停止するという目標だったが、日本円以外はある程度流動性が上がっているので、日本円が最も遅れている。

7月末は他の通貨も含めて95%でLIBOR/LIBORだったが、インターバンクでは、RFR/RFRへの移行が進んできた。円LIBORが年末に公表停止になるので当然の動きなのだが、海外に比べて当局のPushが少ないからなのか、市場参加者の認識は低い。ドルLIBORの公表停止が延長されたことも影響しているのかもしれないが、このような市場慣行変更は、銀行サイドが顧客に広報するだけでは限界があるのかもしれない。

LIBOR/RFRのように通貨ごとに移行をずらすことは技術的には可能だが、決済日がずれることになるのでできれば避けたい。金利スワップのTONA移行が急激に行われたのを見ると、今回も移るときは一気に移るのだろう。しかしそれは、9/21ではなく10月になるのかもしれない。

MACスワップとは

金利スワップの流動性向上のため、SIFMAの資産運用グループ(AMG)とISDAが2013年に提案した市場標準のスワップである。取引日、終了日、固定クーポンレートなどをあらかじめ決めておくことにより、先物取引のように取引流動性を向上させようというものである。 たとえば10年スワップといえば、すべて今年の6/15に始まり、10年後の6/15に終了日を迎える0.5%と固定金利と変動の交換ということになる。この日付はIMM Dateと呼ばれ、3,6,9,12月の第2水曜日とSIMFA公表のTerm Sheet上で定められている。固定クーポンはCMEのWeb上で定期的に公表されている。

このように条件を標準化すると、例えば6/1から始まるクーポン0.5%の10年金利スワップと、6/2から始まるクーポン0.51%の10年金利スワップのように複数の種類のスワップができることがなくなり、すべて6/15から始まる0.5%の金利スワップに統一でき、流動性が増すためb/oがタイトになるという効果がある。

また、解約、Novation、CCPへのバックロード等も容易になる。CDSではすでに25%、100%のように固定クーポン制をとっているが、これと同じことを金利スワップで行うことによってマーケットの標準化をしようという試みである。これをつきつめれば先物ということになるが、金利スワップについてはすべてが先物に移行するのはむずかしいと思われるため、MACスワップのような標準的取引が利用されている。日本円についても固定クーポンが定期的に更新されているが、日本の市場参加者間ではほとんど話題になっていない。しかし、海外投資家の中にはMAC Swapを好んで使い、IMM DateにRollをしてくる参加者も多い。

CDS取引などの場合は、無用なベーシスリスクを避けるため、当初のカウンターパーティーとの間で解約を行ったり、別の金融機関にポジションを移すことによって取引を完全に消滅させることが多いが、その他の商品においては、反対取引を入れることによってリスクを消すケースが多い。レバレッジ比率など、想定元本に係る規制が多くなっていることを考えると、今後はコンプレッションのみならず、解約が容易にできるような仕組みについての検討も必要である。CCPで清算されている取引の場合、既存取引のUnwind(解約)をするときは、一旦反対方向の取引を入れ、その日の終わりの相殺処理によって取引を消すという流れになる。MAC Swapであれば、必然的に相殺できる取引ペアが増えるため、想定元本削減が容易になる。

 顧客から解約依頼があったときに、こうしたリスクや担保条件、資金調達コストを考えながらどのような方法がベストかを計算しながら行っている金融機関と、単に申し出どおりに処理を行う金融機関とでは収益性に差が出たとしても不思議ではない。取引単位でみればたいした違いは出ないかもしれないが、日々膨大な取引を行う金融機関では無視できない収益差が生まれることもあるのである。

SA-CCR適用行

SA-CCRは現状任意適用だが、2021年3月時点での大手行の適用状況をざっと調べてみた。各社のリスク・アセットの概要の開示部分を拾ってみると、メガバンクはSA-CCR適用分の開示がなく、カレントエクスポージャー方式が中心となっている。しかし、みずほだけは期待エクスポージャー方式適用分の開示がある。

大手では野村、大和、農中がSA-CCR適用分に数字がみられるが、野村は期待エクスポージャー方式適用分の欄にも数字が入っている。カウンターパーティー信用リスクの数字を見るとMUFGが9兆円程度で飛びぬけており、SMBCMizuhoSMTB野村がその半分程度のところにある。大和は1兆円程度、農中は5000億円程度となっている。

過去からの数字をざっと見ても、SA-CCRに変更することによってリスクアセットが急減したようには見えない。

CVAリスクについてみてみると、MUFG、SMFG、Mizuhoの順で続くが、意外とSMTBのリスク量が大きくみずほを超えている。全体に占めるCVAリスクの割合が最も高いのもSMTBとなっている。野村と大和のCVAリスクはそれほど大きくない。やはり証券会社の方が有担保取引が多いのかもしれない。

その他地銀もSA-CCRに移行しているところは少なそうなので、日本では証券大手がSA-CCR適用済、銀行系でSA-CCRを適用しているのは農中など一部の銀行に限られているようである。ただし、来年以降は順次SA-CCRへの移行が進むので、今後のリスク・アセットの変化に注目したい。

入力ミスもあるかもしれないが、数字をまとめておく(単位10億円)。

デリバティブ保証

ISDAマスターに対する保証

デリバティブ取引のカウンターパーティーリスク削減の一手法に保証がある。最も一般的なのは、ISDAマスター契約において、信用保証提供者(Credit Support Provider)として保証会社を指定し、保証状を提供して信用補完を行うものである。これにより、カウンターパーティーリスクが対子会社から対親会社へと移る。これは、Credit Substitutionと呼ばれることもあり、資本計算などにも影響を及ぼす。特に外資系金融機関が現地法人を通して取引をする場合などに使われてきた。

CVAの計算上も、その親会社のCDSスプレッドを使って行われることになる。しかし、近年のRRP(Recovery and Resolution Planning)などの規制環境変化により、現地法人単独で格付取得、資本増強等を行い、親会社保証なしに取引をするところも増えてきた。親会社の格付が子会社より下になることが多く、信用力に劣る親会社(持株会社)が保証提供するというのが意味をなさなくなってきたという事情もある。

他にも、例えば米国の親会社が保証を提供すると、日本法人との取引であっても米国規制の一部が適用されるため、親会社保証なしに取引をしたいというニーズもある。日本では、親会社というとグループで最も信用力が高いという印象が残っているためか、親会社保証を外すことに難色を示すところもあるが、各国規制が複雑に絡み合う状況を回避するために、保証を入れないケースも増え始めている。

CVAの計算上、以前は、親会社のスプレッドをタイトにすることもあったが、近年では、TLAC債の発行も進み、必ずしも親会社の方が信用スプレッドが低いとも言えなくなってきた。日本や米国では、持株会社発行のシニア債のみがTLAC債となるが、経営破綻時に元本毀損リスクがあるTLAC債は、格付けが低く設定されることが多いからだ。

親会社と子会社双方の信用スプレッドがマーケットで観測されればCVAの計算は容易だが、親会社のCDSしか取引されていない場合が多いので、子会社銀行との取引に係るCVAをどう計算するかという問題が発生する。ここでその信用力に差をつけ子会社単独の信用スプレッドを推定しCVAの計算を行うことになる。

もともとFSBが定めたTLACの仕組みは、公的資金注入がないことが前提になっているが、日本では、預金保険法の整備によって、予防的な公的資金注入が可能になっている。したがって、日本の場合は、実質的な政府保証があるため、持株会社と銀行子会社のスプレッドに差をつける必要がないのではないかという議論もある。

企業グループに対する与信枠

こうした保証とは異なるが、海外、特に米国では、連結決算に重きを置くのが通常であり、信用枠管理等もグループベースでみることが多い。Back to Back取引などでリスクを一定の法人に集中させ、グループとしての一体管理をするところが多いので、一法人だけのリスクを見ていても全体像がつかめないからだ。一方、日本や欧州の一部の銀行では、個別法人ごとに与信枠を設定している例も多い。当然資本効率やIM Thresholdの効率的利用から、取引をブックするBooking Entityを変えることはあるが、純粋に信用枠の観点から取引法人を指定する場合もある。

ただし、最近では同グループ間の取引であっても各法人間でCSAを提供し、日々担保授受を行うのが普通になった。当初証拠金まで入れているところは少ないが、少なくとも変動証拠金のやり取りは行っている。つまり、Back to Back取引でリスクを移転した上で、マージンコールをかけて変動証拠金のやり取りを行うため、完全ではないものの、ある程度他国法人の影響から遮断される。

日本における保証

日本においては、保証予約、経営指導念書など、保証の形態にもさまざまなものがあるが、デリバティブの契約においては、こうした保証に効力を認めて資本賦課を下げたり、CVAの削減効果を認めるケースは少ないものと思われる。

そのほか、担保の代わりにISDAマスター契約の債務を対象とした一定金額までの保証状を差し入れるケースもある。通常はその会社のメインバンク等がこのような保証を提供することが多いが、その効力に6カ月や1年といった期限を設けることが多いため、期日管理も重要になってくる。CVAやPFEの計算上こうした期限付きの保証をどのように扱うかが問題になるが、保証が毎回更新されるかどうかは明らかではないため、保証の期限までのエクスポージャーが保証されているという前提で計算する方法が最も保守的だろう。

あとは更新の確率に応じて、適宜調整を入れるという方法も考えられる。通常は会社全体の債務をカバーする保証が多いが、一部の債務に限定した保証も存在する。これはつまるところCDSと同じようなものである。海外であれば時価評価を逃れるためにCDSを保証形態にするというのは、規制の関係でむずかしいだろうが、時価評価を嫌う市場参加者が多い日本では、比較的広範囲に使われているようだ。Risk Participationという形で、CDSではなく、保証類似形態にして日々の時価評価を避けるというものも、一部では行われている。

LCによる保証

その他、特にコモディティ取引で多くみられるものに信用状がある。LC、L/C、LOC(Letter of Credit)と呼ばれる信用状を銀行が発行し、それを現金担保や国債担保の代わりに入れるというものである。通常はCSAの適格担保にLCを追加し、掛け目(Valuation Percentage)や適格LCの条件(格付、銀行の格付、期間)等を規定しておく。こうすることにより、たとえLCに期限が設定されていたとしても、期限後は更新されるか、現金等他の適格担保を提供してくるという前提でCVAやPFEの計算ができる。

問題は、LCの場合実際に現金が受領されないので、カウンターパーティーリスクやCVAの削減はできても、ファンディングコストやFVAは減らせない。資本規制上も現金でなければ時価と相殺することができないことが多いので、KVAの削減も限定的となる。2000年初めまでは、LCはカウンターパーティーリスクを減らせるためメリットが大きかったが、規制強化によってファンディング、資本賦課が重要になってくると、現金担保ほどのメリットが得られないということで敬遠されるようになってきた。それでも、豊富な現金を持たない事業会社等に対する取引においては、カウンターパーティーリスク削減は可能なため、今でも一部の取引で使われている。

SOFR以外のベンチマークに対するIOSCOの懸念

以前から言われていたことであるが、十分な流動性に裏付けされていない金利指標を使うと、結局LIBORと同じような市場操作の懸念がある。BSBYやAmeriborのような信用リスクを含んだCredit Sensitive Ratesが一定程度使われ始めているが、9/8付にIOSCOからアナウンスが出され、こうした新ベンチマーク利用についての懸念が改めて表明されている。

ベンチマークに関しては、IOSCO準拠という基準がある。IOSCO Compliantかどうかということが現場ではよく言われる。今回はこの原則6、7について特に強調している。訳すとわかりにくくなるのだが、極端に簡略化すると、原則6は充分な流動性に裏付けされているか、原則7は充分なデータがあるかということになる。

文書の中で言われているいわゆる逆三角形問題(Inverted Pyramid Problem)とは、まさに充分な参照資産の流動性があって初めてそれを代表する指標が作れるという通常の三角形の逆が起きているというという懸念である。

そうなると実取引に基づかない金利指標となり、市場操作のリスクが高まりLIBORの二の舞になるということである。これは米国で英国の当局が主張してきたことであると書かれている。日本が入っていないが、日本の当局からこれに類するコメントはあまり聞かれないからなのだろうか。

TONAの流動性が上がる前にTORFを使うと同じような状況になるので、当然日本にも同じことが当てはまる。海外からはなぜTIBORがOKなのかといつも聞かれるが、TIBORはIOSCO Compliantになるよう、各種改善を行っていると返答している。なかなか納得してもらえないのが苦しいところであるが。

デリバティブ取引の割引率

以前はデリバティブ取引の割引率(ディスカウントレート)と言えばLIBORを使うのが一般的だった。邦銀であれば円LIBOR、米銀であればドルLIBORが使われていたと思われる。当初、LIBORはリスクフリーレートのProxy、つまり代替指標として使われていた。

デリバティブプライシングにおいては、リスクフリーの金利期間構造が不可欠であったため、AA格程度の銀行の短期の借り入れコストを表すLIBORが、リスクフレートとして便宜的に使われた。あくまでもリスクフリーレートの代替であり、銀行のリスクを含んだRisky Rateとしての扱いではなかったように記憶している。金利スワップの変動金利がLIBORで、ディスカウントレートもLIBORだったので、プライシング上便利という理由もあったのだろう。

2000年初めに良く行われた議論は、有担保取引の担保金利は翌日物金利であるOISだったので、OISディスカウントをすべきだというものだった。デリバティブ取引の担保契約であるCSA上では、現金担保に対する金利は米ドルであればFFレートであり、日本円であればTONATであった。

当時はTONATと言ったのだが、今ではTONAと言われることが多い。Tokyo Overnight Weighted Average RatesだからTONAとかTONARなのだが、ロイター社テレレートのTONATページにレートが表示されていたからTONATと呼んでいたのだろう。

しかし、リーマンショック時に銀行の信用リスクが顕在化すると、LIBORをリスクフリーレートとすることに対して疑問が呈されるようになった。ここで翌日物金利をベースにしたOISディスカウントへ移行しようという話になるのだが、先ほど述べたように、OISディスカウントの話は金融危機前から出ており、一部の海外大手銀行は、金融危機には既に移行を終えていたところもあったはずである。システム的な変更は終えていなかったとしても、将来的なOISディスカウントへの移行をにらんでプライシングを変えていたところが多かった。

プライシングの変更を早くから進めていたことににより、こうした大手行は、金融危機時の収益悪化をある程度緩和することができたものと思われる。金融危機以前にOISディスカウントの重要性について認識し、プライシングを変えていた銀行には、先見の明があったと言えよう。CCPでもLCHが2012年にOISディスカウントに移行し、有担保取引の割引率は完全にOISディスカウントに移行していった。

この頃から、LIBORはリスクフリーレートの代替ではなく、銀行の信用リスクを含んだものと言われるようになった。そもそもファイナンスの世界では、投資評価はその投資のリスクに応じて決まるものであり、それをどうファイナンスするかは関係ないというのが定説があったため、このディスカウントレートの変更に際しては、業界をあげた大きな議論になっていた。

プロジェクトファイナンス等で将来キャッシュフローを割り引く際には、無リスク金利に投資のリスクプレミアムを加えて現在価値を計算することが多い。しかし、その投資資金をいくらで調達するかは関係ない。しかし、デリバティブ取引においては、この頃からCVA、DVA、FVAといったXVAの導入が進み、どうファンディングするかというのがプライシングに考慮されていくようになる。当時あれほど、クオンツ部門と喧々諤々の議論をしたのだが、今では、こうした評価調整は所与のものとして話が進んでいる。

さて、話を2021年に進めると、今度はLIBOR改革でLIBORがなくなることになった。おそらく外資系であれば、有担保取引はFFディスカウントからSOFRディスカウントへ変更されているものと思われる。同時に、無担保取引についてもLIBORディスカウントからSOFRディスカウントに変更しているところが多いものと推測される。そうすると、有担も無担も同じSOFRディスカウントでよいのかという疑問が生じる。邦銀であればTONATとか、TIBORディスカウントに移行しているのかもしれない。あとは有担保と無担保の違いは、FVAで調整しているということになるのか。この辺りはまた時間のあるときに。

LIBOR移行Update

月初なのでJSCCの月次データを見てみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei.html

予想通り8月にOIS移行が一気に進み、想定元本の半分を占めている。LIBORの割合は23%と7月に続いて一気に減少した。TONA Firstの後押しもあったが、まさにワクチン接種率と同様、日本という国は進みだすと早い。現場の雰囲気も既に金利スワップと言えばTONAが主流で、LIBORの場合はわざわざLIBORでと言わなければならない。

一つ注目すべきなのはTIBORが引き続き27%を占めている点だ。以前は10%未満だったので、LIBOR改革とは、LIBORがOISに変わるだけでなく、TIBORの増加を意味するのだろうか。初期の頃からTIBORが増えているのを見ると、ヘッジ会計やシステム整備の関連で一時的にTIBORへのシフトが進んだという見方もできようが、恒久的にTIBORが増えていくのかもしれない。もっとも、日本の場合は会計が極端に保守的なので、単にヘッジ会計の整理がまだ終わっていないというだけという可能性も捨てきれないので、今後の展開に注目したい。

日次の統計も確認してみる。

こちらも全般的には同じ流れだが、日によってLIBORやTIBORが増えている。クリアリング取引の場合は、取引のアンワインドができず、反対方向の取引を入れたうえで消すので、既存のLIBOR移行関連の取引も含まれているのだろう。

一応LCHの月次データも見てみる。本当はシェアを出せると良いのだが、データ集計が面倒なので取引量($bn)で示す。

https://www.lch.com/services/swapclear/volumes/rfr-volumes

不思議とあまり取引量に変化がみられない。LCHの場合は、tpMatchなと短期の取引が全体をゆがめる傾向があるので、長期の流れがつかみにくい。また、全体の取引量が細っているのも影響している。とは言え、以下のようにSOFRを見てみると取引量が着実に増えているので、TONAのグラフは若干の違和感がある。新しく開示され始めたデータでもあるので、少し精査をしてみる必要がありそうだ。

SOFR Term Rateはインターバンクで取引不可?

やはり金利指標の流動性というのは、徐々に変化するというよりは一気に進むものなのだろう。日本円の金利スワップについては、あっという間にLIBORからTONAにシフトした。ボールを一押しすればあっという間に転がると以前も書いたと思うが、転がるスピードは一気に加速した。


TONAだけでなく少し遅れていたUSDについてもSOFRの取引量が急上昇し、8月最終週の取引量は7月末に比べると56%上昇したと報道されている。

一方ARRCからはターム物RFRの利用についてのFAQが公表されている。以前CMEのターム物が正式に支持されたが、今回はそのターム物については、エンドユーザーの使用にとどめるべきであり、ディーラー間では使用が推奨されないと書かれている。原文を引用しよう。

The ARRC, however, does not support the use of the SOFR Term Rate for the vast majority of the derivatives markets. The ARRC does not recommend the trading of SOFR Term Rate derivatives in the
interdealer market because such activity could undermine trading activity in the underlying overnight SOFR derivatives that are needed to construct the SOFR term rate itself and could, thereby, compromise
the robustness of the rate and its corresponding utility to market participants.

デリバティブ市場における広範な利用が支持されておらず、特にインターバンクでは利用を控えるようにとのことだ。オーバーナイトSOFRよりターム物の取引が増えてしまうと、ターム物の裏付けとなっているオーバーナイトのSOFRの頑健性を損ねてしまうという、以前からの主張を繰り返している。

こうなるとローン、社債等の原資産をヘッジするためにエンドユーザーがターム物のIRSを行った場合、ディーラーはそのリスクをそのまま抱え込むことになる。確かにターム物とオーバーナイトの差はそれほど大きくなるのは不思議なので、これでもよいのかもしれないが、果たしてすべての通貨でこのやり方が通用するのかは定かでない。TORFについて同じようなRecommendationが出るとは若干思いにくいが、きっと議論にはなるだろう。

インターバンク市場が存在しなければ、後決め複利のSOFRとTerm SOFRのベーシスリスクが存在しなくなる?また、ブローカースクリーンもできないということになるのだろうか。であればベーシスが開いて損失がでることもなくなるので、ベーシスリスクの管理が必要なくなる。もしかしてARRCはそれを狙っているのかもしれない。でもこのベーシスマーケットができた方が流動性が上ががるような気もするのだがよくわからない。

日本でTORFをインターバンクで取引しないようにと言われたら、Quick社は困ってしまうのではないだろうか。当局も制限しようとまでは考えていなかったように思うが、ARRC推奨なので今後の議論に注目したい。しかし、日本でこれをやると、じゃあTIBORで良いやということになってしまわないだろうか。もう少し考えてみる必要がありそうだが、今晩はここまで。

カウンターパーティーリスクとは

カウンターパーティーリスクとは何なのか、信用リスクとの違いは何なのかと聞かれることが良くある。カウンターパーティーリスクとは、デリバティブの取引相手が契約満期前に金融債務に対してデフォルトを起こし、契約上定められた支払が行われないリスクのことである。

カウンターパーティーとは取引相手ということなので、簡単に言うと取引先の破綻リスクということになるのが、それでは融資先が破綻した場合はカウンターパーティーリスクというのだろうか。

銀行員としての経験からすると、融資先のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶ははく、これは単なる融資先の信用リスクである。社債のトレーディングをした経験からすると、社債発行体のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶はなく、これも単なる発行体の信用リスクである。というより、以前はカウンターパーティーリスクという言葉自体が使われなかったのだろう。

これが一般的になったのは、やはりCDSの影響が大きい。例えば、トヨタのCDSを売るとトヨタの信用リスクを持つことになるが、トヨタのCDSを銀行から買うと、この銀行のデフォルト時に損失が出るので、銀行に対するリスクも持つことになる。これを信用リスクというのもしっくりこなかったので、カウンターパーティーリスクという言葉を使い始めた。そしてCVAトレーダーになってこのリスクをヘッジするようになると、リーマン破綻もあり、急速にカウンターパーティーリスクという言葉が一般的になった。

ローンや社債に対する信用リスクをヘッジするためにCDSを銀行から買うと、銀行に対するカウンターパーティーリスクが発生するので、これをヘッジするのがCVAデスクの役割であった。

伝統的な銀行業務においては、信用リスクは、取引先がデフォルトしてはじめて実現するものとして管理されてきた。一方カウンターパーティーリスクは、取引先が格下げされたり、信用力が悪化すると、CVAを通じて損失が発生するので、デフォルトしなくても実現するリスクである。

厳密にいうと、ローンの場合も、要管理先、破綻懸念先といった分類に区分された段階で引当金を積み増したので、損失がその時点で(あるいは決算時点で)発生した。しかし、デリバティブのカウンターパーティーリスクは、取引先の信用力のみならず、金利や為替の変動によっても増減する。極端な話、取引先が格上げされたにもかかわらず、急激な円高によって通貨スワップの含み益が増えれば、カウンターパーティーリスクが逆に増えるということもある。

また、引当金が決算期に積み増すものであるのに対し、CVA損益は日々変動する。したがって、ヘッジも日々行っていく必要がある。

稀に誤解される点ではあるが、カウンターパーティーリスクは自社が勝ちポジション、つまり含み益をもっているときに発生する。トレーダーの観点からみると、取引時価がプラスになり、勝ちポジションがふえていくことは望ましいことかもしれないが、カウンターパーティーリスクを管理する立場からみると、これはリスクが増えるので望ましくない。カウンターパーティーが破綻すればその勝ちポジションが消えてしまうからだ。

したがって、金利スワップを行ったとき、金利のトレーダーのヘッジとCVAトレーダーのヘッジとは逆方向になる。CVAトレーダーのヘッジを含めて考えると、10億円の金利スワップを行う場合、マーケットに出てヘッジしなければならないのは、10億円ではなく9億5千万円だったりする。

一方負けポジションを抱えているときにカウンターパーティーがデフォルトしても損失は発生しない。したがって、カウンターパーティーリスクの観点からみると、自社がデリバティブ取引から収益を出しているときがリスクであり、損失を抱えているときにはリスクがないのである。ローンの場合は銀行がいつも信用リスクの抱える側になるが、デリバティブ取引の場合は、取引相手が自分のリスクを持つことがあるのもカウンターパーティーリスクの特徴の一つである。ローンの信用リスクは一方向であるのに対し、デリバティブ取引のカウンターパーティーリスクは双方向性を持っているのである。

社債やCDSの取引時には、暗黙のうちに信用リスクが価格に織り込まれている。しかし、金利スワップの場合も、金利の交換と同時にカウンターパーティーの信用リスクを取引している。社債の発行体に信用不安が起これば社債価格が暴落し、CDSの時価が大きく変化するのと同様に、スワップカウンターパーティーの信用力が悪化すれば、スワップの価値も減価するのは当然のことである。

CDSを例に考えると、ある証券会社からプロテクションを買った場合、参照企業のデフォルト時に、その証券会社もデフォルトしていれば、プロテクションは無価値になってしまう。したがって、AAA格の銀行から購入したCDSは、B格の銀行から購入したCDSよりも価値が高い。この場合のカウンターパーティーリスクのプライシングは、参照企業とプロテクションの売手の信用リスクの相関を考慮して行うことになる。

たとえば、自分がある証券会社とスワップ取引を行うということは、その証券会社にデフォルトするオプションを与えている、つまりスワップの時価を元本としたクレジットプロテクションを売っているのと同じと解釈することもできる。同時に自分がデフォルトするオプションも買っているともいえる。

したがって、厳密な意味ではプレーンバニラスワップというものは存在せず、理論的にはすべてのスワップがデフォルトオプション付のスワップといえる。特に信用力に劣るカウンターパーティーとの取引においては、カウンターパーティーリスクの時価は取引のビッドオファーを大きく上回る。こうした取引は単なるスワップではなく、信用リスクを内包したクレジットハイブリッド商品ともいえる。

CCPのCF/IM比率

参加者破綻によるシステミックリスクを避けるため、CCPは参加者から当初証拠金(IM)と清算基金の拠出を求める。清算基金は英語ではGuarantee FundまたはClearing Fundと呼ばれるものであり、参加者が皆でCCP破綻に備えて基金を積み立てておきましょうというものだ。

当初証拠金が増えれば必要証拠金が少なくなり、破綻者が自己責任で負担する部分が増えるので、モラルハザード防止につながる。参加者としては、自分が拠出する当初証拠金が少ない方が望ましいだろうが、その分相互負担分の清算基金が増え、他社が破綻した時の負担が増えてしまう。したがって、本来は各参加者とも、当初証拠金が高いと文句を言うよりは、全体的なリスク負担を考えたうえで、適切な当初証拠金と清算基金のバランスを保つ必要がある。

JSCCのホームページによると2021年6月末時点の清算基金は1,967億円、当初証拠金は11,007億円となっている。IMに占めるCFの割合は約18%ということになる。この比率はCCPの性質によって、また商品によっても変わってくる。CDSのようにテイルリスクが大きな商品になるとCFに頼らざるを得ない部分もあるので、CF/IM比率が高くなる。金利スワップの場合は10%前後が標準的ではないかと思われるのだが、円金利のように普段はほとんど動かないものの、突発的に急変する通貨の場合は若干高くなっても仕方ないのかもしれない。

なぜこのCF/IM比率が重要かというと、先述のモラルハザードの問題に加えて、クライアントクリアリングの手数料計算にも影響があるからである。IMは当然クライアントが自らの取るリスク量に応じて拠出する。しかし、通常クライアントは清算基金は拠出せず、クリアリングブローカーが出すことになる。

クリアリングブローカーとしては、クラインとのために追加資金拠出をしており、しかも他社破綻時にはそれが使われてしまう性質のものであるために、リスクとコストに見合ったリターンを求めるのが自然である。これがクリアリングブローカー契約の手数料に反映されてくるのだが、この手数料はそれほど頻繁に変更するわけにはいかない。したがって、例えばIMに対するCFの比率が18%程度と仮定して手数料水準を決めていた場合に、突然この比率が30%、40%と上昇してしまうと採算割れになってしまう。

これが変化するかどうかは当初証拠金モデル、清算基金モデルによって決まるのだが、マーケットが静かになって金利変動が少ない時期が長く続くと、ヒストリカルVaRが下がるため、当初証拠金が少なくなってしまうことが往々にしてある。これを避けるため、各CCPでは、当初証拠金や各種パラメーターにフロアを設けたり、過去の極端なストレスシナリオ、架空のシナリオ等を入れることによって、当初証拠金が大きく変化しないような仕組みを導入している。

最新のJSCCの当初証拠金はJSCCのホームページで開示されているが、想定元本に占めるIMの割合は、固定受けの30年で5.18%、固定払いで6.33%となっている。更なる金利低下より金利上昇幅の方が大きいというモデルになっているため、固定払いの方がIMが大きい。

JSCCでは過去5年間のヒストリカルデータに基づく、保有期間5日、信頼区間99%の期待ショートフォール方式を採っている。つまり損失分布上位1%の平均値が当初証拠金額となっており、これに直近の金利変動に重みをつけたり、過去の大きなストレスイベントを考慮したりして、若干の調整を行っている。クライアントのポジションに関しては、クローズアウトまでの日数がかかることから、保有期間を5日から7日に延ばすことにより、当初証拠金を増額している。

リーマン破綻時には、当初証拠金の約35%が費消され、清算基金に損失が食い込むことはなかった。しかし、その後韓国の取引所、NASDAQクリアリング等、清算基金が使われるデフォルトがいくつか発生し、このCF/IMのバランスについては、常に議論が行われている。モラルハザードを防ぎ、あくまでも自己責任原則を貫くためには、適切な当初証拠金の徴求が不可欠である。個々の参加者にとっては担保が増えるのは望ましくないのだが、全体を考えたバランスの取れた議論が必要だろう。

DVAとFBAの二重計上問題

DVAとFBAの二重計上についてよく質問される。FBAはFVAのうちFunding上のBenefitとなる部分であり、FCAがCostに当たる。

FVA = FBA + FCA

金融危機の頃までは、CVAとDVAしかチャージしておらず、その後にFVAをプライシングに含めたあたりから個人的にも混乱したのを覚えている。当然日本で取引をしている以上突然FVAを入れたころは、外資はほぼ無担保取引から撤退という雰囲気だった。特に信用スプレッドがワイドな銀行にとっては、一つのビジネスの終わりを示しているようにさえ思えた。

ただし、CVAとDVAだけだった頃からも、DVAの大きな取引についてかなり業界でも議論があった。DVAの大きなPayable取引を行うとそれだけで会計上の利益が出るため、それによって利益を計上したCVAデスクも多かった。ただし、自分のCDSを売ることができない以上DVAの利益を実現させることはできず(外資ではこれをマネタイズすると言っていた)、その利益を積み重ねるのが本当に企業価値を上げるかどうかという議論だ。

DVAが大きくなるとそのSensitivityも大きくなり、金利や為替のヘッジも頻繁に必要になる。おそらくどんなカウンターパーティーのCVAよりも、最も大きいリスクは自社のスプレッドということになってしまう。実はCVAトレーダーとして最もヘッジをしていたのはDVAに関するヘッジだったのかもしれない。

そうこうしているうちにFVAが登場し、DVAの代わりにFBAをチャージすると、こうしたPayable取引をため込むことがなくなった。FCAの大きな取引はほとんど不可能になったが、FBAの大きな取引のみは取引可能ということで、外資系が細々と取引を継続していた。

クレジットファンディング
デリバティブ資産CVAFCA
デリバティブ負債DVAFBA

当初はDVAをチャージせず、CVA+FBA+FCAをプライシングに入れるところが多かったと思う。そのうちFVAの最適なスプレッドは何かという議論につながっていった。また、FAS157/IFRS13によってDVAの会計計上が必要とされたため、DVAをFBAに置き換えることの是非も議論された。

DVAについては、自社のデフォルトリスクに関するものなので、CVAと同様CDSのスプレッドからカーブを構築するところが多い。FBAはクレジットではなくファンディングなので、自社の資金調達コストをベースにカーブを作る。しかし、会計上の出口価格という議論になると、業界平均のようなマーケット標準のスプレッドでFVAを計上するというところも増えてきた。

FVAについては、銀行がどのような手法によってプライシングをしているかが競合他社に漏れてしまうと、コンペにおいて不利になる。したがって、自らその手法を広く知らしめることはしないため、統一した手法がある訳でなく、今後も統一されるとは思えない。また、CVAトレーダーの現場のプライシングと、会計上のCVA、FVAの計上が異なる銀行も多い。管理会計と財務会計の乖離である。

一般的に主流になっている議論としては、FBA、クレジット部分(DVA)と純粋なマーケットレベルのファンディング部分(FBA*)からなるとするものがある。FBA*の計算に使われるスプレッドはLIBORだったり、先述の業界平均スプレッドだったりする。

FBAは全社レベルでFCAとオフセットすることができ、会社全体のファンディングに加えることもできる。通常デリバティブの含み益がある時は、それに社内の仕切りレートを掛けて日々トレーディングデスクからコストを徴求しているところもある。こうした銀行では、トレーダーとしてもFBAの大きな取引を増やすインセンティブが生まれ、FCAの大きい取引はその分をチャージしたくなる。XVAデスクで集中管理をしている場合は、この部分も含めて管理を行っており、トレーダーはこうしたコストを気にしなくてよくなる。

本来はこうしたファンディングを集中的に管理し、自社のバランスシートの最適化を図るのが望ましい。しかし、今度はこれに資本コストが加わってくる。FCAの大きな取引はバランスシートに乗るため、資本コストも高くなる。FBAの大きな取引が入ってくればFCAを減らすことができるので、この効果は大きい。したがって、CVA、FVA、資本コストをすべて管理する部門が必要であり、その部門が日々の取引に関与することによって適切なリソース管理を行う必要がある。

CVAと格付推移

CVAの計算においては、格付推移を考慮することが多い。最近では少なくなったが、格下げ時にCSAのThresholdを段階的に下げ、BBB-格を下回った時点でThresholdをゼロに、更に格下された場合に当初証拠金に相当するIA(Independent Amount)を入れるという契約は日本でも標準的に使われていた。CSAの他にもISDAマスターでATE(
Additional Termination Event)を設定しておき、格下げ時に解約をするという契約もある。

CSA上のThresholdを段階的に下げる契約では、格下げ後直ちにThreshold変更が行われるのが一般的だが、ATEの場合は解約する権利が発生するだけなので、すぐに解約しないことが多い。意図せざるタイミングで取引を解約すると、ヘッジが突然消滅したり、ヘッジ会計上が適用できなくなったり、期間収益や税金に影響が及んだりするためだ。その場合は担保拠出によって解約を回避するなどの交渉が始まる。

個人的には、ATEよりもThreshold変更の方がリスク管理上の効力は高いと思っている。例えばATE回避のために担保を出すといっても、CSAの交渉に一定の日数がかかってしまう。これを避けるために、格下げ時に担保を出すという取り決めをする際に、CSAを締結しておき、ThresholdをInfinityにしておく。そしてBB+格以下の場合にはThresholdをゼロと記載しておく。こうすれば、格下げ時に契約を一から交渉する必要はなく、直ちに担保徴求が可能になる。イメージとしては以下のような形になる。

RatingThresholdIndependent Amount
BBB – or aboveInfinityNot Applicable
BB+ or lowerZeroNot Applicable
B+ or lowerZero5% of Notional

また、高い格付の状態から一気にデフォルトするJump to Defaultと、徐々に格下げされて最終的にデフォルトするTransition to Defaultがある。リーマンブラザーズ証券のように、デフォルト直前までA格だっったような会社はJump to Defaultの一例と言えよう。通常は徐々に格下げが行われ、最終的にデフォルトに至るケースが多い。その場合には、デフォルト時にはZero Thresholdで十分な担保を受け取っている可能性があるため、デフォルト時の損失は極めて限定的となり、CVAも小さくなる。とは言え、リーマンのように格付が高いままデフォルトするケースもあるので、CVAがゼロとは言えない。

CSAのThreshold変更には一定の拘束力が認められるため、通常
のCVA計算において考慮すべきなので、格付推移のモデルが必要になる。格付機関は過去のデータから1年間の格付推移行列を公開しているので、行列×行列を何度か行うことによって、将来のデフォルト確率を導き出せる。しかしこれは過去のデータに基づくものであり、マーケットからImplyされるリスク中立確率とは異なる。修士論文でもお世話になったが、この整合性を取るためにはJarrow, Lando and Turnbull(1995)のマルコフ連鎖モデルなどいくつかの方法がある。いずれにしても、CVAの計算はモンテカルロシミュレーションで行われるので、これに格付推移を加えて実装するのはそう難しくはないだろう。

当然自社の格付推移も考慮してFVAの計算もする必要があるが、FVAやその他のVAまですべて組み込んだ完璧なモデルを必要とするほどデリバティブポートフォリオを持つ金融機関はそれほど多くないだろう。日本は海外に比べてリスク管理やQuantsに優秀な人材が集まるためか、知識レベルは高く複雑なモデルを作ることはできるのだが、それが実務にうまく活かせない例もみられる。最初から誰にも負けないモデルを作るよりも、まずは簡単なものから始めて、実務に合わせて徐々に高度化を進めていく方が望ましいだろう。

CVAの会計

デリバティブ取引は、公正価値会計が原則とされ、米国ではASC820等において、会計上の報告の要件が定められている。この価値評価に際しては、カウンターパーティー及び自社の信用リスクを反映させることが求められる。自社のリスクであるDVAの計上も求められるため、金融危機時には自社の信用力悪化によって大手米銀が利益を上げたことが話題となった。

欧州では2013年にIFRS13によって米国同様の公正価値評価が原則となり、米国同様CVAとDVAの双方の計上が求められるようになった。

日本においては、本年2021年4月以降の連結会計年度期首から「時価の算定に関する会計基準」が適用になった。IFRS13同様、カウンターパーティーリスクをデリバティブ時価に含める旨の記述がある。本文書の中ではどこにもCVA、DVAといった言葉が使われていないのでわかりにくいのだが、決められた要件のすべてを満たす場合には、「特定の取引相手先の信用リスクに関して金融資産および金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる」と書かれている。

なぜか日本語にすると逆に難しくなってしまうのだが、要はISDAマスターの下で行われる取引について、ポートフォリオベースでCVA計算をうことができるという意味である。IFRS13号の定めを基本的にすべて取り入れることとしたと書かれているので、IFRS13を理解した方が早いかもしれない。その意味ではCVAのみならずDVAも考慮できるということになる。

もともとデリバティブ取引の時価評価に関しては、金融商品会計に関する実務指針が存在しており、割引現在価値によるスワップの時価評価に関して、割引に用いる利子率をリスク要因で補正するとされていた。293項の時価評価の留意事項には、自らの信用リスクを加味した時価算定を行うことが原則として必要であると書かれている。そして、相手先の信用リスクは、評価益の回収可能性に係るリスクであるため、時価の算定に加味することが望ましいとされていた。

その意味では、CVA、DVAはかなり前から会計上加味するべきということだったのだが、今回それがグループ単位の時価計算という表現によって、CVAの実務慣行と一致したということになる。税金上の損金算入も認められるため、今年の会計年度から何らかの変更がみられるようになるのか注目が集まる。

Mutual Putとは

カウンターパーティーリスク削減のため、スワップの中途解約条項(Break Clause、Mutual Put、Mandatory Break等と呼ばれる)が古くから使われてきた。Breakには一定の期日がきたら必ず解約されるMandatory Breakと、期日に解約権が発生するOptionalの二種類が存在している。例えば10年債発行までの半年間の金利リスクをヘッジするといった場合等には、これをMandatory Breakにするケースもあるが、ほとんどは両者にオプションを与えるOptional Breakである。Breakの権利は双方が持つことが多いが、銀行だけに行使権がある場合もある。解約の価格はミッドが多いが、行使する側がビッドオファーを払うExecisers Payも良く見られる。

ヘッジファンド向けが多かったが、例えば30年スワップの場合、10年目及びそれ以降毎年、スワップを解約できるオプションを付与するという条件が多かった。信用力が高いカウンターパーティーの場合は10年以降5年ごとという形で行使のタイミングが少なくなったりもした。しかし、特に金利スワップについては、CCPにおける清算集中が一般的になった今では、このBreak Clauseは意味をなさくなった。相対で取引された一瞬だけはBreak Clauseが生きているが、その後クリアされるとその条件が消えてしまうからである。

他にもCS/アルケゴスのペーパーに記述がみられたような、スワップをいつでも解約できる権利、当初証拠金を引き上げることができる権利など、様々な権利が契約上追加されることがある。CSの場合、こうした権利があるからと通常の証拠金を低く抑えていたが、結局これが損失を拡大させた。

しかし、Mandatory Breakや一定の指標をトリガーとする解約以外の解約権はほとんど意味がないというのが、リスク管理の世界ではよく言われることである。確かに相手が破綻寸前になった場合に行使されたケースはあるが、そうでない限り行使が極めて困難だからである。当然使われることのない権利なのでCVA計算に入れたり、PEやRWA計算上考慮したりするのは正しくないと思われるが、銀行によってはこうした効果を織り込んでいるところがあったようだ。スイスの当局がBreak Clauseを資本計算上の考慮を認めるという話も聞かれた。とは言え、いつでも解約ができるならそのオプション性をきちんと時価評価に入れるべきではないかという議論もあり、一般的にはMandatory Break以外は行使できないものとして処理をするのが正しいと思われる。

一方Mandatory Breakの場合は、先スタートの通貨スワップ等ではよく使われている。これは、5年先5年の通貨スワップ等を行うと、10年間スワップが存続するという前提でPEやRWA等の計算が行われてしまう。また、5年後と10年後に元本交換が発生してしまうが、通貨ベーシスの動きだけに注目するヘッジファンドなどは、大きな元本を決済するのを嫌う傾向がある。証拠金規制上は元本交換部分は当初証拠金の対象外ではあるが、通常銀行では為替リスクも加味して当初証拠金を徴求する。したがって、当初元本交換のある5年より少し前にMandatory Breakを入れておけば、お互いに好都合ということになる。この場合、PE計算やRWA計算上も5年より短いスワップとして扱うという整理が可能になる。

一時期、デリバティブの勝ちポジションを抱えること自体が大きなコストになってきたときに、この権利を行使することによってRWAの削減を行っているところがあると話題になった。XVAデスクでもMutual Putを行使してポートフォリオ最適化を図るべきということが、海外のXVA関連の書籍で紹介されていたが、個人的にはここまで自由に行使ができるものではなく、理論上の話の域を出ないと思っている。確かに巨額のIn the moneyポジションを解約すると、CVAがリリースされる上、Funding Charge、BaselのCapital Chargeから解放される。ただし、それが全体に広がることはなく、そのうち清算集中が進んでいったので、最近ではあまり聞かれなくなった。そのうちMandatory以外のMutual Putは下火になっていくのではないだろうか。