欧州で適格担保を広げる動きが拡大している。昨年のGiltショックを受けて社債担保を適格担保に入れて欲しいという要望が多い。適格担保に社債が入るとデリバティブ取引のプライシングが変わってしまうので本来は望ましくないが、手持ち債券を売却して現金化を迫られた経験から、極力適格担保を広げるニーズがさらに高まっている。
現金担保のみでプライシングへの影響がなく、極力標準的な条件にしたCSAをClean CSAというのに対し、社債を担保に取ったり、非標準的な条件が入ったCSAをDirty CSAと呼ぶが、こうしたDirty CSAのもとで行う取引は、プライシングや価格評価の方法が不透明になってしまう。
ディーラーによってプライシングが異なるので、Novationや解約時に問題が発生することも多い。社債が入ることによってディスカウントカーブが変わるという影響のみならず、レバレッジ比率規制などによる資本コストも取引に織り込む必要もあるので、さらに透明性が低くなる。
社債のディスカウントカーブについては、Forwardのレポスプレッドを考慮してCheapest to Deliverの担保を決めるという手法を取るところも多い。つまり5年までは円がCheapestだが、それ以降はEURというように、フォワードカーブによって複合的なカーブを引くところが、主流ではないかと思う。
ディスカウントだけを見ても、長期のフォワードのレポ市場の動きを考慮して社債のファンディングカーブを引くのは極めて難しい。せいぜい手前の数カ月くらいのマーケットは観測可能だが、それ以降の長期になると、ある程度の前提を置いた上でカーブを引くしかない。特に日本などは社債のレポ市場がほぼ存在していない。
日本の場合は、取引の時価にあたる変動証拠金(VM)に対しても債券が出せることになっており、VMが現金のみに限定されている海外とは事情が異なるが、これまではプライシング上の差が大きな問題になることはなかった。というより、そこまで精緻にプライシングする人が少ないということなのだろう。
通常年金ファンドは固定金利を受けることになるので、ディーラーとしては金利上昇にReceivableが経ちエクスポージャーが増える。これを銀行間やCCPとヘッジをすることになるのだが、このヘッジに対してはVMとIMを拠出する必要がある。海外ではVMは現金のみなので、社債を受け取ってしまったディーラーは、それをレポに出して資金調達をする必要がある。そして顧客向けと銀行間のヘッジに対して資本コストがかかることになる。顧客の方でレポを行って現金担保を拠出しても良いのだが、レポ市場へのアクセスが限られているとこれが難しい。
また、通常社債担保については、信用力やテナーを考慮したヘアカットが科されるのが一般的である。ヘアカットが10%であれば、社債をレポ市場に出しても90%しかファンディングできない。昨今では当局サイドで最低ヘアカットを決めようという動きもある。
こうした様々なコストを反映させると、スワップの価格が5-10bpずれることも頻繁に起きる。日本でもようやく金利が上昇しつつあるため、ディスカウントカーブが重要になってくるのではないだろうか。欧州の議論を見ていると、そろそろ精緻なプライシングについて検討を始めた方が良い気がする。