米国のクリアリングビジネスに起きている矛盾

Basel III endgameに対する批判の一つにFootnote428があるが、これはクライアントクリアリングのポジションに対してCVAを計算し、資本賦課を行うという提案である。通常米国はエージェントモデルを採用しているため、クライアントとCCPの間に立って取引の相手方になるわけではなく、CCPとクライアントの取引をエージェントとして仲介しているという整理になる。当局からするとクライアントがデフォルトした場合にはCCPにその履行を保証しなければならないので、リスクを取っているという理論なのだろう。

しかし、クライアントが破綻したとしても、クライアントが拠出したIMがあるため、CVAを計算したとしても、それほど大きなリスクになるとは思えない。ただし、資本計算は本来のリスクを見るというよりは、保守的な標準法を適用するところが多くなってきているため、リスクと資本賦課が一致しなくなってきている。これまでは標準法ではCVAが除外されていたのだが、Basel III Endgameではこれをenhanced risk-based アプローチの中で捕捉しようとしている。

そもそも通常の保証であればオフバランスで注記のみの対応となるのに、CVAだけに資本賦課をかけるのは、若干不思議ではある。しかもクライアントのデフォルトリスクは、すでに信用リスク資本として資本賦課が行われている。今回のEndgame見直しではここがどうなるかに注目している。もしCVA資本賦課が必要なら、各銀行でクライアントクリアリングビジネスからの撤退議論が盛り上がることになるだろう。

以前であれば、リーマンブラザーズ証券破綻時にクリアリングのポジションを引き受けようという金融機関があったかもしれないが、新しい資本規制のもとで新たな破綻が起きた場合は、資本コスト増を伴う他社ポジションの引き受けは難しくなると思う。そうなると金融機関破綻後直ちにポジションの解消へと進み、市場変動を更に激しくすることになる。清算集中規制によって、クリアリングのポジションが以前とは比べ物にならないほどに拡大している一方、クリアリングブローカーが減っているため、更に危機に拍車がかかるだろう。

欧州やアジアの当局からはここまでの提案が聞こえてこないが、米国はなぜかクリアリングを推進一方でクリアリングブローカーの負担増を図っており、ブレーキとアクセルを両方同時に踏んでいる。ただ、裏を返せば欧州や日本の金融機関にとってはチャンスなのかもしれない。