米銀大手行の第三四半期のG-SIBスコアが公表されてきているが、やはりどこもスコアを抑制しているのがわかる。ヘッジニーズが高まりデリバティブ取引が盛んになっているにも関わらず、デリバティブ取引の想定元本は第三四半期に減っている。JPMなどは債券のInventoryも減らしており、何とか今のBucketに留まろうとしているように見える。
マーケットでもG-SIB削減取引が頻繁にみられるようになってきているので、第四四半期にはさらなるスコア削減が予想される。
国別にスコアを見ていくとスコア上位には中国の銀行が並ぶようになってきた。同時に興味深いのは、欧米銀がスコア削減努力を続ける中、中国とともにスコアを伸ばしてきた邦銀勢のスコアが抑制されつつある点だ。邦銀も遅ればせながらコンプレッションなどを進め、スコア削減に取り組んでいるように見える。メガバンク3行とも、特に2022年の削減幅が大きい。中国の銀行は特に気にせずこれまで通り右肩上がりにスコアが上がっている。フランスの銀行があまり削減に熱心ではない点も興味深い。
これらはその国の規制を反映しているところもあるが、バーゼルなどの共通ルールで業務を行っている限りは、もはや大きいことは良いことではないのは明らかなので、極力効率的に業務を行っていく必要があるのは間違いない。
その意味では邦銀がようやく本気になっているように見えるのは心強い。なぜなら、市場でここまでG-SIB削減取引が出てくる環境においては、これをうまくコントロールしていかないと、余計なリスクを押し付けられてしまう可能性があるからである。一時期CVAやFVAでリスクを押し付けようとした市場参加者がいたのは事実なので、こうした動きに敏感になっておくのは極めて重要であろう。
SECが米国債の清算集中義務化の議論を延期するという記事が出た。個人的にはCCPでの清算は望ましいと思っているのだが、これはデリバティブ取引やレポ取引のようなカウンターパーティーリスクを取る取引に関してのもので、国債のキャッシュ商品の売買に関して清算を義務付けるのが、市場の安定性と効率化につながるのかよくわからない。どちらかというとマージンや清算基金のコストが高すぎて全体としての効率が悪くなってしまうのではないかと思う。
年内には詳細がまとまると言われていた米国債の市場改革プランであるが、各方面から異論が噴出しているため、来年第一四半期に結論を先送りすることになったようだ。もともとのプランとしては、過去6か月のうち4か月において、米国債の取引量が$25bnを超えた場合は、一連の資本規制と報告規制をかけるというものだった。ある程度の取引を行うヘッジファンドなどが対象となるため、そうした会社が$25bn以内に取引を抑えようとすることにより、市場流動性に悪影響が及ぶと懸念されていた。
個人的にもこの懸念はもっともだと思っており、規制が強化されるのなら取引量を抑えようというのは当然の行動である。昨今はカウンターパーティーリスクや資本不足の懸念よりも、市場流動性が枯渇してることが最大のリスクだと思う。この状況下でさらに流動性を悪化するような規制は極力避けないと、米国債市場の価格変動がさらに大きなものになる可能性がある。昨今の価格急変はSVBショックを引き起こし、米国債の取引量の多い日本の機関投資家も痛手を被ったところが多いので、日本としても無視できない。
昨今の流れだと来年の第一四半期にルールの最終化ができるとは思えず、いったん仕切り直しになる可能性も高いと思っている。
2012年から金融規制・市場最新動向をお届けしてきました。今般アメブロから引っ越してきました。