アジア通貨のヘッジ取引増加に向けて

BISのレポートで為替取引の増加を見ていると、CNYを筆頭にEM通貨の取引量が増えている。特に直近は、ドル金利の上昇に起因する金利差の関係で、フォワードポイントが稼げるので、ヘッジコストが安くなっているというのもあるだろう。ヘッジコストの低下を受け、事業会社がヘッジ比率を上げているという報道もあった。特にCNYについては、この2年間で金利差が完全に逆転し、+1900に近かったフォワードポイントが-1.5を下回ってきている。マーケットの動きが激しくなったため、ヘッジニーズが高まっているという事情もあろう。

当初は通貨スワップや為替フォワードによるヘッジが多かったのだが、最近ではNDFやオプション取引も増えてきているようだ。中国元のようなアジア通貨の場合はオンショア市場とオフショア市場が分かれているため、ヘッジも複雑になる。ディーラーとしてもCNYとCNHのようなベーシスリスクにリミットがあるため、オンショアでヘッジしなければならないニーズがある。しかし、フォワードでCNYを中国の銀行に売ると、誤方向リスクとなってしまうため、このような取引には制限がかかりやすい。特に欧米の経営層にとっては、地政学リスクを気にするために、このような取引に対するRisk Appetiteは極端に低くなっている。

IMでも取れればこうしたリスクを削減することができるのだが、Deliverable FX Fowardは証拠金規制(IM規制)の対象外になっているので、意味がない。NDFやオプションであればIMが取れるのだが、これだけだと、$50mmのIM Thresholdを超えないケースが多い。誤方向リスク削減のためにIMをリクエストしても、応じてくれるところはかなり少ない。担保のEnforcabilityの問題もあるので、一筋縄ではいかない。台湾では、質権設定方式でIMをとっても法的有効性に疑義があり、中国では国や地方の法律で担保拠出を禁じているところもある。

中国のNetting/Collateral Enforcabilityに関する法律が8月から施行されたのは大きな進歩だが、今は証拠金規制対応に追われているところが億、これを理由にAgressiveにリスクを増やそうというところは少ないのではないか。

いずれにしても来年以降も取引ニーズが高まっていくことは間違いないので、何らかの手当を検討していかないと、アジアの通貨ヘッジ取引市場の安定はおぼつかないと思う。

BISの為替、OTCデリバティブサーベイ公表

3年ごとに公表されているBISの為替取引に関するレポートが公表された。ここのところの増加ペースはやや緩んだものの、14%増の一日7.5兆ドルを超えるところまで増えてきた。各中央銀行の利上げやコモディティ価格の乱高下などの市場変動を考えると、思ったより伸び率が少ないイメージだ。スポット取引が若干減ってFX Swapのシェアが増えている。88%がドルとのペアなので、米ドルの地位は盤石だ。

EURが31%、JPYが17%、GBPが13%で続き、この辺りのシェアには大きな変動はない。目を引くのはCNYが4%から7%にシェアを伸ばしている点で、これでCNYはAUDやCADを抜いて、5大通貨の仲間入りを果たしている。

その他、Brexitの影響で為替取引や金利取引におけるロンドンの地位に変化がみられる。為替取引に占めるロンドンのシェアは前回の43%から38%へと低下している。EURの金利スワップについても英国からEUへのシフトが続いている。全般的に取引量が米国やシンガポールに確実に移り始めており、香港からシンガポールへのシフトも若干みられる。CNYのプレゼンス拡大や、HKD、KRWなどの取引量を考えると、今後の為替取引のメインはアジアにシフトしていくのかもしれない。

TONA先物は成功するか

10/5、TFXに続いてOSEがTONA先物の上場をアナウンスした。来年早々には取引可能になるが、米ドルのSOFR先物のような成功を収めるかに注目が集まる。米国では、SOFR先物に加え、ターム物SOFRの流動性も上がってきた。他にもBSBYのニーズも根強いようで、複数の金利商品が併存する形になっている。米金利の急上昇も重なっているからかもしれないが、さすがにドルの流動性は他通貨を凌駕している。欧州ではESTR先物に対するニーズもちらほら聞かれるようになってはいるものの、ドルとは比較にならない。

円については更にニーズが少なるなることが予想されるが、このような状況の中二つの先物が作られることになっている。日銀が政策変更をして円金利市場が活発になればもしかしたら取引が増えるかもしれないが、それが唯一の望みである。マーケットが現状のままであれば、統一して流動性を集中させた方が良いようにも思うが、競争促進という意味合いもあるのだろうか。

先物の取引が増えれば、それを日本円のターム物であるTORFの計算に加えることができるので、TORFの信頼性が上がる。もともとLIBOR改革は実取引に基づかない金利指標で操作されやすいという問題があったのだが、TORFも裏付けとなる実取引がない日があり、前日のデータをキャリーオーバーしている。1か月物では、このようなケースが全体の73.8%に上るというから驚きだ。

ただし、残念ながら長年円金利マーケットに携わっている人からすると、先物がいらないとまでは言わないものの、米国のように広く使われるようになると予想する人は少ないのではないだろうか。金利スワップとのクロスマージン、先物を使うことで所要資本が削減できるといった何らかのメリットがないと、取引量が爆発的に増えるとは思いにくい。マーケットができるには、まず短期の円金利市場が機能することが先決であり、その意味でもすべては日銀にかかっていると言えるのだろう。

米国レポ市場の安定性強化策

米国金融安定理事会(FSB)が、ストレス状況下での流動性アクセスの回復力を向上させるための政策をまとめた。予想通り、CCPや取引所のような多数の参加者が直接取引できるようなプラットフォームの活用が謳われている。マージンコールによって年金ファンドが資産売却を迫られたり、投資家の解約請求を受けたりすることが多くなる一方、銀行がバランスシート制約のため取引を受けられなくなっているため、米国債市場が幾度も混乱してきた。少なくともCCPで清算すればバランスシート制約からは一定程度解放されることになる。

FSBは、過去10年間に起きた国債市場の変化によって、ストレス下において流動性が極端に低下するようになったと認めている。そしてそういった状況において流動性を提供すべき金融機関が満足に仲介機能を果たせなかったと結論づけている。結局は銀行がその役割を果たせなかったので、中央銀行がそれを補完した形になっているというのは、個人的な感覚にも合う。

当然のことながら、かといって銀行規制を緩める方向に動く訳ではなく、今回はノンバンクによる仲介機能の拡充を訴えている。ノンバンクが参加してくるとなると、同時に市場監視、モニタリングなどを強化する必要がある。銀行に対するモニタリングはかなり厳格になったが、ノンバンクやその他のレポ市場への参加者に対しても同等の透明性を求めていく必要がある。

米国や英国では、過去10年間に債務債務が約2倍に膨らんでおり、英国でも1.5倍になっている。当然国債市場も大きくなるので、この透明性、流動性向上は急務となっている。そこで今回のCCP案が出てきた訳だが、CCPによる清算は参加者のコスト増から、清算集中義務を掛けない限りは取引が増えない可能性にも触れている。とはいえ、国債現物取引とレポに対して清算義務を課すのはおそらく現実的ではない。だが、個人的には資本規制を考えると銀行にとってはCCP清算にも一定のメリットがあると思っている。ノンバンクによるAll to Allプラットフォームについては、考え方としては正しいのだろうが、これが市場の主流になるにはかなりの労力と時間が必要だ。

それにしても、こうした市場の機能安定化のための検討が真剣に議論されているというのは称賛に値する。政府債務、国債市場の規模を考えると、日本でももっとこうした検討がなされても良いと思う。もちろん、日本でも有識者を集めた会議や検討は多数行われているが、CCP、新たなプラットフォーム、取引報告など、FSBが議論している詳細というよりは、もっと日本の国債マーケットはどうあるべきかといった大所高所にたった意見が中心であり、かなりハイレベルな印象がある。検討会に参加している委員の役職が高すぎて現場から離れているのからなのだろうか。もっと日々実務に携わる専門家が細かいところまで議論をする場があっても良いかもしれない。

銀行とIT

海外で銀行とFintechの提携が急増している。米国通貨当局(OCC)のMichael Hsu氏が先週コメントを出しているが、銀行とFintechの連携について懸念を表明している。指数関数的にこの連携が広がっているため、事務フローが複雑化しすぎており、このままのペースでいけば、何か大きなトラブルが発生するというのが主な懸念だ。ここまで複雑に責任分担が細分化してくると、ガバナンスや責任の所在が不明瞭になり、トラブル発生時にも責任の押し付け合いが発生するかもしれない。

銀行に対しては様々な規制がかけられているが、Fintechとの役割分担を前提とした規制にはなっていない。どの当局が何をカバーすべきかも明確になっていない。最近では銀行が出資するFintechがかなり多くなっている。Upsideを取るために何でもかんでも投資しているような印象すら受ける。

日本では、一部IT企業との連携がニュースに出るくらいで、海外のようなスタートアップ的なFintechとの連携はあまり聞かれないので問題になっていないが、逆に海外との差がどんどん拡大しているように思える。

確かに今後の金融業はFintechとの共同なしにはやっていけない。金融機関内部のIT部門では、自社に必要なテクノロジーの開発には熱心だが、業界全体のプラットフォームを作ろうという話にはならない。日本でこのようなプラットフォームを立ち上げようというFintech企業が出てこないのは淋しい限りである。こうした企業はほとんどが大手銀行を飛び出した人材によってつくられている。終身雇用のもとでは、なかなかこういった技術革新は起きにくいのかもしれない。また立ち上げたとしても、人を採用するのに苦労し、解雇すらできないので海外で起業した方が格段に楽である。

もう一つHsu氏の指摘で面白いのは、各当局があまりにもCryptoに注目しすぎて他の重要な規制がおろそかになっているというものだ。はやりではあるし、人目を惹きやすいからなのだろうが、確かに欧米の規制ではCryptoをどうするかという話が良く聞かれるが、銀行内部の人間からすると、どこか関係のない世界のように思えてくる。確かに将来的に極めて重要なテーマにはなってくるのだろうが、それにここまで時間を使うよりは、喫緊の課題に対処すべく、時間を使った方が良いというのは正しい指摘なのだろう。

Dirty CSAは主流になるか

先週も書いたが、英国債の価格変動を受けてDirty CSAがにわかにマーケットで話題になり始めた。FTなど各種メディアで報道されているからか、問い合わせも増えてきている。適格担保に現金以外の社債等を含めるDirty CSAを使うと、CTDVA等の評価調整が必要となり、取引の時価に影響を与えることから、通常であれば望ましくない。ただ、今回の財政支出に端を発する市場変動に備えるため、適格担保を広げたいというニーズが急速に高まった。

ただし、既存の契約を完全に変更してしまうというよりは、緊急避難的に英国債や社債を一時的に適格とするといった、時限措置を取るところが多そうだ。ニッケルや天然ガスでも見られたことだが、コモディティの世界では、あまりDirty CSAを気にせず、適格担保を広げたり、CCPから相対に移したり、無担保取引を増やしたりという動きがみられたのだが、金利の世界では、極力プライシングをSharpにするために、あくまでも一時的措置という位置づけになっているのが興味深い。それでも1年から5年の時限措置と報じているところもあり、思ったより長い期間にわたる措置といった印象だ。おそらくこの期間に応じてかなりの手数料を支払っているのだろう。銀行にとってもこれを簡単に受け入れてしまうと、ROE低下につながるので対価が必要んになる。

今回は、急速な金利上昇により年金基金が苦境に陥り、何とかしてほしいという声を受けて国債買い入れに踏み切った印象だが、これを永遠に続けることはできない。結局金利変動が激しくなってしまっている。問題は担保にある訳だから、本来であれば、中銀がレポファシリティを設けるといった措置を取ることはできなかったのだろうか。あるいは、レバレッジ比率規制やNSFRといったバランスシート規制を緩めて、銀行がCollateral Transformation Serivceをやりやすくするといった方法も考えられる。そうすれば、Dirty CSAなどを使わなくても、手持ちの債券を現金に変換することができる。

また、そもそもDirty CSAであってもレバレッジ比率やNSFRといった指標に影響しないので、銀行もDirty CSAを受け入れやすくなる。あとは、前回も提案したマージンコール向け融資(またはLC)を銀行が提供するという方法もある。

やはり、金利やインフレーションが変動するたびに、マージンコールに応えるために資産売却が起きると、市場変動をさらに加速させてしまう。そもそもマージンコールはカウンターパーティーリスクを減らすためのものなので、何らかの解決策が求められる。

例えばこうした年金ファンドが銀行やCCPに固定金利を払って、Dirty CSAのカウンターパーティーから固定を受けるBack to Back取引を行っておけば、金利上昇時には銀行やCCPから現金担保を受け取れる。そして反対再度のDirty CSAのカウンターパーティーに債券を担保として拠出すればよい。こうしておけば、金利上昇時に現金を得るというオプション取引が完成する。もちろん金利低下時には逆のことが起きるが、逆に金利低下時には所要担保は減っているはずなので問題ないはずである。または単純に銀行と金利キャップやスワップションの取引を行っておき、金利上昇時に現金担保を受け取れるようにしても良い。

いずれにしても、考えれば色々なことができると思う。こうした動きが出てこないのは、トレーディング部門と担保管理部門が完全に分断されてしまっているからなのだろうか。それともカウンターパーティーリスクやバランスシート規制の制約なのかもしれない。しかし、一時的Dirty CSAを使って多額のFeeを払うよりは、ましな取引もあるように思う。

Level Playing Fieldは達成不可能なのか

米国SA-CCRでは、事業会社向け取引が有利だが、欧州は金融機関向け取引に有利になりそうだ。各国の差については、Risk.netにまとめられている。今回フォーカスになっているのはいわゆるAlpha Factorだが、これは、計算された結果を保守的にするために加えられる掛け目であり、通常1.4である。

米国では、事業会社向け取引について、リスクベースの資本計算、レバレッジ比率、Large Exposureの計算において、1.4ではなく1を使うことが認められている。

欧州では、資本アウトプットフロアを計算する際に、事業会社だけでなく全ての取引に1を使うことができる。アウトプットフロアの適用は2025年からだが、内部モデル方式で計算された所要資本について、標準法×72.5%が下限となる。米国はCollins Floorがあるので標準法×100%だが、オペレーショナルリスクやカウンターパーティーリスク資本については除外されているので一概に比較はできない。そもそも欧州はCVA資本賦課の対象から事業会社を除いている。

オーストラリアなどは内部モデルが使えないため、アウトプットフロアは無意味となる。資本計算が各国で大きく異なるものになってきているため、Level Playing Fieldが空しい掛け声となってしまっている。日本はすべて1.4のAlphaを使うことになっている。いつも思うのだが、どうしてBaselで共通の指標を作ったのに、わざわざすべての国が異なるパラメーターを使うのだろうか。国の金融市場の特徴に併せて微調整をするというのならわかるが、特にローカルマーケットの特徴に併せて調整しているように思えないケースも多々ある。更にこうした規制の適用開始時期も国によって異なる。

各国の状況をみながら極端に触れず中道を行く日本が最もバランスが取れているようにも見えるが、もう少し日本が世界の議論を引っ張っていけるようになればと思う。

マージンコールを中銀が支える構造になってきた

英国のペンションファンドが、10/14の英国の緊急国債買い入れプログラム終了に備えて、2%-3% もの金利上昇に備えて担保資産を増やしていると報道されている。これまで1%~1.5%くらいの金利上昇に備えていたものがほぼ倍になった格好だ。そのために、多額の現金を保有しておく必要があり、そのための資産売却も加速している。金利上昇時に資産を売却して現金比率を高めるオペレーションを行うと、更なる金利上昇を招くことになるので、プロシクリカリティを助長する。

マージン規制導入前にはそれほど意識されなかったことかもしれないが、昨今の規制強化によって、これが新たなリスクとして浮上してきた。以前であれば、レポによって資金調達をすることができたが、こちらは銀行に対する資本規制のために、困難になっている。

英国の30年国債金利は5%近くまで約1%急上昇した後、英国中銀のサポートによって一気に戻った。しかしその後は更に金利上昇圧力がかかり、4.3%程度にまで上昇してきている。金利急上昇時には多くの年金ファンドがマージンコールに充てるために、多くの資産を売却したことが予想される。これは年金基金のリターンが悪化する方向に働く。

これを防ぐには、CSAの適格担保を広げるか、レポによって資産を現金化するしかない。ここ10年程度の間にCSAをできるだけ標準化し、いわゆるDirty CSAを減らそうという試みが続けられてきた。これによってプライシングの透明性が増し、取引コストが下がるというメリットもあった。これを完全に元に戻すということは得策ではないと思うのだが、生命保険会社と同じように年金基金も適格担保拡大に動く可能性は高い。適格担保を広げて追加担保に応えられるようにするメリットが、Dirty CSAのもとでプライシングが悪化するデメリットを上回りつつあるようだ。

本来はマーケットのボラティリティを落ち着かせるのが一番で、資本規制を最適化して銀行が流動性を提供できるようにするのが二番目に望ましい。ただし、市場変動を抑えるのは不可能で、規制緩和も難しいだろうから、結局は中銀が流動性をサポートするしかない。こうなったら中銀がレポファシリティを提供してマージンコールのための現金を市場に放出する他ないのかもしれない。あるいは商業銀行がマージンコール向け融資プログラムを拡大するという流れも出てくるだろう。

ちなみに、英国でこのような金利の混乱が発生したことを受けて、次はどうこかという議論が大きくなってきている。海外からすると最初のターゲットとしてみられるのは当然日本ということになる。おそらく様々な金融機関で円金利が1%上昇したらというシナリオ分析をしているものと思われる。

今回ばかりはそんなことは起きないと、海外からの懸念を突っぱねることはできないような雰囲気になっている。日本人と海外の認識のギャップも大きくなっており、市場も神経質な動きが続くだろう。国債と先物、CCPベーシスなど、国内と海外のViewの違いによって動く市場が壊れないかという懸念もつきまとう。あと半年の間に、日本の市場にも大きな混乱が生じるかもしれない。

CSがクリアリングビジネスを急速に縮小

CSのクライアントクリアリングサービス部門が、急速に業務を縮小しているようだ。通常は顧客のためにクリアリングした場合に、その顧客分の証拠金によってクリアリングビジネスの規模を測ることが多いが、このクライアントマージンが$25mmにまで縮小したと報道されている。$25mmというとほぼ撤退に近い水準だ。

昨年であればスワップで$14bn、先物オプションで$9bnあったクライアントマージンが$0.025bnになったというのだから驚きだ。アルケゴス、グリーンシル等の問題があったのは確かだが、こうした事例を見ていると、一つのミスが銀行全体の屋台骨を揺るがしてしまうということが明らかになってきている。

いくら他のビジネスで収益が上がっていても、こうしたリスク管理の失敗に対する当局や世間の目は非常に厳しくなっている。せっかく収益を上げても、こうした事件はその影響を一気に吹き飛ばしてしまう。こうなってくると、セールスアンドトレーディングとともにリスクマネジャーの重要性が高まる。また、セールスアンドトレーディングのヘッドにもリスク管理感覚が求められるようになってきている。

マージンコールが市場の最大の関心事になってきた

英金利が100bp乱高下し、マージンコールで混乱が生じた。さすがに1%を超える金利上昇が起きると、昨今の証拠金規制下では、巨額のマージンコールが起きる。変動証拠金のみならず当初証拠金も増えるので、その影響は以前にもまして大きくなる。英国の年金基金などは、金利上昇時に一部ヘッジを閉じなければならなかったようだ。実際マージンコールに応えられなくなるところが続出したために、英国当局が国債を購入し混乱を抑えにかかったという報道もある。

金利が急上昇してヘッジを外し、その後金利が急低下して下にもどったため、ヘッジされていないポジションから損失が発生しているところもあるようだ。日本の当局が良く使う「急速な市場変動は望ましくない」という言葉はある意味正しいのかもしれない。

今年はニッケル、天然ガスなど急速な市場変動が多かったが、その時にいつも問題になるのはマージンコールである。CCPや相対のカウンターパーティーに拠出するVM/IMが巨額になり、金融の安定を揺るがしている。そもそも清算集中規制や証拠金規制が市場の安定のために導入されたのだが、それが逆に市場変動を生み出しているという皮肉な状況に陥っている。こうなると、当然円金利も突然100bpとか動くのではないかという意見が海外では急速に強くなる。そのうち銀行がマージンコール向けの貸出にフォーカスし出すかもしれない。また、政府系金融機関が融資プログラムである政策科目の一項目にマージンコールを入れたりするかもしれない。

取引所取引の場合はサーキットブレーカーを発動させたり、日中の変動幅を制限することができるが、為替や金利となると、介入や資産購入が行われることになる。為替市場のように、多数の参加者があり流動性が高い市場においては、マーケットが行き過ぎれば逆をとる動きが出てくるので、G10通貨についてはある程度の抑えは効く。ただし、金利になると、バランスシート規制や資本規制のおかげで、反対方向を取れる市場参加者が限られてくるため、結局政府が何とかするしかない。

おそらく今後は、流動性を高める方向に注力し、それができないマーケットについては、サーキットブレーカーのような価格制限に頼るという方向性になっていくのかもしれない。