Level Playing Fieldは達成不可能なのか

米国SA-CCRでは、事業会社向け取引が有利だが、欧州は金融機関向け取引に有利になりそうだ。各国の差については、Risk.netにまとめられている。今回フォーカスになっているのはいわゆるAlpha Factorだが、これは、計算された結果を保守的にするために加えられる掛け目であり、通常1.4である。

米国では、事業会社向け取引について、リスクベースの資本計算、レバレッジ比率、Large Exposureの計算において、1.4ではなく1を使うことが認められている。

欧州では、資本アウトプットフロアを計算する際に、事業会社だけでなく全ての取引に1を使うことができる。アウトプットフロアの適用は2025年からだが、内部モデル方式で計算された所要資本について、標準法×72.5%が下限となる。米国はCollins Floorがあるので標準法×100%だが、オペレーショナルリスクやカウンターパーティーリスク資本については除外されているので一概に比較はできない。そもそも欧州はCVA資本賦課の対象から事業会社を除いている。

オーストラリアなどは内部モデルが使えないため、アウトプットフロアは無意味となる。資本計算が各国で大きく異なるものになってきているため、Level Playing Fieldが空しい掛け声となってしまっている。日本はすべて1.4のAlphaを使うことになっている。いつも思うのだが、どうしてBaselで共通の指標を作ったのに、わざわざすべての国が異なるパラメーターを使うのだろうか。国の金融市場の特徴に併せて微調整をするというのならわかるが、特にローカルマーケットの特徴に併せて調整しているように思えないケースも多々ある。更にこうした規制の適用開始時期も国によって異なる。

各国の状況をみながら極端に触れず中道を行く日本が最もバランスが取れているようにも見えるが、もう少し日本が世界の議論を引っ張っていけるようになればと思う。

マージンコールを中銀が支える構造になってきた

英国のペンションファンドが、10/14の英国の緊急国債買い入れプログラム終了に備えて、2%-3% もの金利上昇に備えて担保資産を増やしていると報道されている。これまで1%~1.5%くらいの金利上昇に備えていたものがほぼ倍になった格好だ。そのために、多額の現金を保有しておく必要があり、そのための資産売却も加速している。金利上昇時に資産を売却して現金比率を高めるオペレーションを行うと、更なる金利上昇を招くことになるので、プロシクリカリティを助長する。

マージン規制導入前にはそれほど意識されなかったことかもしれないが、昨今の規制強化によって、これが新たなリスクとして浮上してきた。以前であれば、レポによって資金調達をすることができたが、こちらは銀行に対する資本規制のために、困難になっている。

英国の30年国債金利は5%近くまで約1%急上昇した後、英国中銀のサポートによって一気に戻った。しかしその後は更に金利上昇圧力がかかり、4.3%程度にまで上昇してきている。金利急上昇時には多くの年金ファンドがマージンコールに充てるために、多くの資産を売却したことが予想される。これは年金基金のリターンが悪化する方向に働く。

これを防ぐには、CSAの適格担保を広げるか、レポによって資産を現金化するしかない。ここ10年程度の間にCSAをできるだけ標準化し、いわゆるDirty CSAを減らそうという試みが続けられてきた。これによってプライシングの透明性が増し、取引コストが下がるというメリットもあった。これを完全に元に戻すということは得策ではないと思うのだが、生命保険会社と同じように年金基金も適格担保拡大に動く可能性は高い。適格担保を広げて追加担保に応えられるようにするメリットが、Dirty CSAのもとでプライシングが悪化するデメリットを上回りつつあるようだ。

本来はマーケットのボラティリティを落ち着かせるのが一番で、資本規制を最適化して銀行が流動性を提供できるようにするのが二番目に望ましい。ただし、市場変動を抑えるのは不可能で、規制緩和も難しいだろうから、結局は中銀が流動性をサポートするしかない。こうなったら中銀がレポファシリティを提供してマージンコールのための現金を市場に放出する他ないのかもしれない。あるいは商業銀行がマージンコール向け融資プログラムを拡大するという流れも出てくるだろう。

ちなみに、英国でこのような金利の混乱が発生したことを受けて、次はどうこかという議論が大きくなってきている。海外からすると最初のターゲットとしてみられるのは当然日本ということになる。おそらく様々な金融機関で円金利が1%上昇したらというシナリオ分析をしているものと思われる。

今回ばかりはそんなことは起きないと、海外からの懸念を突っぱねることはできないような雰囲気になっている。日本人と海外の認識のギャップも大きくなっており、市場も神経質な動きが続くだろう。国債と先物、CCPベーシスなど、国内と海外のViewの違いによって動く市場が壊れないかという懸念もつきまとう。あと半年の間に、日本の市場にも大きな混乱が生じるかもしれない。