ターム物RFRではなくオーバーナイトRFR

6/2にFSBからもう一つ「金利指標改革:オーバーナイト物リスク・フリー・レート及びターム物レート」が公表されている。2018年7月の文書を改訂したものだが、オーバーナイトのRFRへの移行が金融の安定性のために重要としている。主にデリバティブ市場について触れられている箇所が多い。

ターム物金利についても言及があるが、it is important that transition away from IBORs is to the new overnight RFRs rather than to these types of term rates.と書かれており、ターム物ではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。IBORsはDeep/Liquid Underlying Marketに欠けるため脆弱だとしているが、内容的にはこのIBORsにはTIBORも入るように思うのは私だけだろうか。

また、以下のように、ターム物RFRを広範に使うことは、利益相反にもなりかねないと明確に述べている。

widespread use of term RFRs in derivatives would create the potential for actual or perceived conflicts of interest for market participants.

FSBもターム物に一定の役割があるとは認めつつも、その利用は限定的なものになるとしている。一方オーバーナイトRFRの利点として、中央銀行の政策金利に連動しやすく、銀行に対する信用懸念によって市場が歪められる可能性も低いという点を挙げている。そしてターム物の流動性向上を待つのではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。

英国では、ターム物SONIAの導入にも関わらず、変動利付債や証券化商品の発行において、後決めSONIAが広く使われるようになっている。スイスではターム物金利が存在しないこともあり、住宅ローンや企業向けローンで後決め複利のSARONが一般的となっている。米国の変動利付債も後決めSOFRが一般的となり、消費者ローンは前決めSOFRになっていることなどが紹介されている。日本についての言及はない。

以下のようにFSBとしては、ターム物がオーバーナイトRFRほど頑健性を持つようになるとは予想しておらず、その使用は限定的なものであるべきと言い切っている。そしてターム物の方が変動も激しいことが予想されるので、金融の安定には望ましくないとしている。

because the FSB does not expect such RFR-derived term rates to be as robust as the overnight RFRs themselves, they should be used only where necessary.

また、どうしても金利を先に確定させたいローンなどについては、前決めRFRやIBORと同じNotice、決済を行うRFRの可能性にも触れている。ヘッジツールとしても、一部の債券のヘッジ以外はオーバーナイトRFRを使うのが効果的と述べられている。全般的にターム物の利用は限定的にすべきであり、特にデリバティブ取引については、オーバーナイトRFRをメインとすべきという強いメッセージがあちこちにちりばめられている。そしてターム物を使ったとしても、流動性がなくなる場合に備えてフォールバックの文言を準備すべきとまで言っている。

ターム物のTORFに対する期待感が強く、足下でTIBORへのシフトがみられる日本は大丈夫なのだろうか。

JPY LIBORの移行状況

TIBORの盛り上がりについて書いたが、実際のデータを確認してみたくなった。米国のようなSDRが充実していない日本では、公開されている情報としてはJSCCのデータが最も充実している。早速各指標のシェアを見るグラフを作ってみたところ以下のような結果となった。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

データの略称は以下の通り

  • L: LIBOR(含むLIBOR6/3)
  • Z: ZTIBOR
  • D: DTIBOR
  • LZ: LIBOR vs ZTIBOR
  • DZ: DTIBOR vs ZTIBOR

これだけ見ると、Lの部分がここ数か月急速にシェアを落としており、実はLIBORからの移行が進んでいるように見える。特に5月のOISは昨年の秋を超えて、13%のシェアとなっている。そしてTL(グラフのLZ)が8%へと増えている。4月以降LZが増えているが、同時にDの割合も増え、これまであまり見られなかったDZがみられるようになった。これまでほぼ同じものとされていたところ、あまりに動くのでヘッジのフローが入っているのかもしれない。

4月はOISというよりはTIBOR移行の様相を呈していたが、5月にOISが巻き返しを見せている。Quoting Conventionも来月には変わるので、ようやく動きが見えてきたということか。

全体の取引量を見てみると以下のようになる(単位:百万円)。4、5月は取引量自体が極めて少なかったが、四半期末にあたる6月には少しは取引量が戻るだろうから、6月のデータに注目したい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

日本全体では固定受けニーズが強いというのはよく言われることである。そうするとここ最近のTLベーシスの縮小はLからDまたはZへの移行の結果なのかもしれないが、今度はOISに移るとなると、TLが反転し、今度はOISが下がるということになるのだろうか。