EUR IRSの割引率変更の延期決定

LCHにおけるEUR金利スワップのディスカウントレート変更(EONIA→€STR)の日程延長が昨日決定した。コロナウィルスを受けたリモートワークの拡大を受けて、当初予定の6月22日から7月27日へと5週間延期されている。

CCP間で調整があった模様で、EurexとCMEも同様の延期を予定している。リスクフリーレートへの変更はまだ先のことだが、クリアリングされたスワップの価値が一気に変更されるため、割引率変更のインパクトは無視できない。

4月7日のECBのワーキンググループではコンセンサスが得られなかったためどうなるかと思っていたのだが、5週間という短期間の延期ということで、何とか決着を見た形だ。今のところドル金利スワップについては、10月17、18日で変更はなさそうだ。

一つだけ気になるのは先にポストしたように、6月に変更されるという前提で行われた取引へのインパクトだが、5週間程度であれば影響はそれほど大きくないとは思うものの、やはりこれによって得をする人と損をする人が出てくるのは否めない。

DVA効果はFVAによって相殺されるようになった

リーマンショック時に自らのクレジットスプレッドが拡大したことにより利益が上がったというニュースが注目を集めたが、今回はなぜこれが起きなかったのかということに興味を持った方が多かったようだ。ちょっとテクニカルになるが簡単にまとめてみたい。

デリバティブの信用評価調整であるCVAは双方向CVA計算をしている限り、カウンターパーティーの信用力に応じて変化するCVAと自らの信用力に応じて変化するDVAの合計となる。カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大すればCVAが増加(つまり損失拡大)するが同時に自らの信用スプレッドが拡大すればDVAが増加(収益拡大)となる。

最近ではCVAというとこのCVAとDVAの合計を指すことが多く、DVAという言葉はあまり聞かれなくなった。一方金融危機時と今回の最大の違いは、この間にFVAが導入されたという点である。FVAはファンディングコストなのでこちらも自らの信用スプレッドが拡大すれば収益悪化要因となる。したがって、信用スプレッドが軒並み拡大しているときは、DVAの収益とFVAの損失が相殺するため、以前のようにDVAからの利益拡大が目立つことにはなりにくい。

今後は2008-9年のように、自分の信用力が悪化したために利益が上がるということは少なくなっていくものと思われる。ただし、FVAの会計上の導入が終わっていない邦銀など、一部の銀行決算上はこうした影響が出てくる可能性はある。

今回はJPMが$951mmのXVA損失を計上しているが、funding spread widening on derivativesに起因すると書かれているのでおそらくFVA損失だろう。バンカメはcertain valuation adjustmentsによって$492mmの損失が発表しているが、これにはFVAが含まれていると報道されている。GSも約$500mmの損失を公表しており、おそらくFVAの影響が大きいものと思われる。

米銀大手の第一四半期決算は、ローンに対する引当金に加え、こうした評価調整によって収益が引き下げられたが、今やFVAがショックアブソーバーの役割をし始めているように感じている。以前は、収益低下をDVA利益が補うというショックアブソーバーだったのが、全く逆の形になっているのは皮肉なものである。

デリバティブ取引からの収益は各行とも好調で、もしこれらのVAがなければかなりの好決算になっていただろう。その場合、こんな状況で最高益を上げるなんてとんでもないという批判が巻き起こっていたかもしれない。今回はトレーディング収益が好調だったから良かったが、トレーディングが低調な上にFVA損失が重なれば目も当てられない。そうなると、今後の金融機関の業務としては、クレジット物など、あまり在庫を抱えるビジネスはやりにくいということになるのかもしれない。これを誰が支えるかというとやはり中央銀行ということになる。つまり規制を強化して金融機関のリスクテイクを減らし、それを中央銀行が補うというのがこれからのニューノーマルになるのだろう。