LIBOR改革がもたらす時価評価変更

LIBOR改革の一時的延期を求める声が大きくなる中、唯一延期を望まない声が大きいのが割引率の変更である。ユーロのスワップに関しては、CCPで清算された取引について、EONIAから€STRへのディスカウントレートの変更が6月19日から22日の間に予定されているが、これにより既存のCleared Swapの価値が変更になる。これに併せてCCPで清算されることが決まっているスワップションについても同様の変更が発生すると思わているのだが、LIBOR改革が延期になると、これまでの前提が崩れてしまう。

Risk.netによれば、8割方のスワップションが割引率変更を前提としてプライシングされており、これが延期になると無用な混乱を招いてしまうからだ。ユーロのリスクフリーレート検討ワーキンググループでは、相対のスワップション取引の割引率変更をどう進めるかについて意見募集を行っているが、コメント期限が4月17日まで延期されている。

一部の市場参加者は既に6月22日に割引率を変更する契約交渉に入っているようであり、確かにこの方がCCPで清算された取引と相対取引の割引率が一致するため、ミスマッチも少なく、不確定要素もなくなる。

前回のOISディスカウントの変更時もそうだったが、こうしたスワップの時価評価に影響のある変更の場合、単純に時期をずらすのは非常に難しい。なぜなら既存の日程をベースにプライシングされた取引が多く、日付を変更すれば、得をする人と損をする人が出てきてしまうためである。

おそらくLIBOR改革に関しては何等かの延期措置が取られる可能性があるが、こうしたプライシングに影響があるものについては、当初の予定通り進めておいた方が良いのだろう。他国が先行しているため、日本はそこから学ぶことができるが、日本円については、こうした他の通貨のスワップの状況を見ながら最善のスケジュールを立てていく必要がある。

コロナによる格下げはプロシクリカリティを引き起こすのか

欧州証券市場監督局(ESMA)のMaijoor議長が、格付機関は今回のコロナショックによる拙速な格下げを避けるべきとコメントしているとの報道があった。すでに格付機関との対話も行っているようだ。今回の危機は企業や国にとっては不可抗力のようなもので、一旦状況が落ち着けば急速に回復するからとのことのようだ。格下げ自体が問題というよりもそのタイミングが重要とのことだ。

イギリスが3月にFitchによって格下げされ、イタリアも投機的等級に下げられそうになってきている。確かにウィルス広がりを受けて経済的な影響も出始めており、デフォルト件数も増えてきているので、企業の倒産確率を表す格付が下がるのは致し方ないとも思えるが、格下げによって自動的にその会社の社債を売却せざるを得なくなる年金基金やファンドも多く、格付会社が危機を増幅してPro Cyclicalityを引き起こしているという意見も完全には否定できない。

リーマンショック、欧州危機の時にも散々話題になったが、結局状況はあまり変わっていない。株価急落に際してはサーキットブレーカー制度があり、一時的に取引がストップされるが、これも急激な価格変動を避ける手段の一つである。格下げをストップさせるダウングレードブレーカーのようなものが議論されるようになるのかもしれない。

金融取引においては、格下げによって取引を解約するダウングレードトリガーはかなり少なくなってきた。ファンドについてはNAVトリガーもあるが、これも1ヶ月にNAVが2割とか3割減少したからといって、いきなりトリガーを引くかという問題も起きている。

ローンについては、財務制限条項とかこうしたトリガーをむやみに引かないようにとのお達しがあったが、デリバティブ取引についても心情的には同じような対応をすべきという声もある。一方で、実際に資金不足によってデフォルトするファンドもあるので判断がむずかしい。

そう考えるとプロシクリカリティは避けられないのかもしれないが、デリバティブの世界で起きたようなダウングレードトリガーによって機械的な取引解約するようなことを避けるのは有効なのだろう。ファンドも格下げされたら自動的にポートフォリオから外すという厳格なルールを外して、状況を見ながら判断するのが最も良いのかもしれない。