XVAトレーダーの未来

XVAトレーダーという職種についての質問を頂いたので、こちらで返答しておきます。

昨今アルケゴスレポートにおいても指摘されていた通りXVAデスクの重要性があらゆるところで指摘されている。このため依然XVAデスクが今後も金融機関の重要なFunctionの一つであり続けることは間違いないと思っている。ただし、その業務内容はここ10年で大きく変わり、今後も激しく変化していくものと予想される。CVA黎明期は、FVAやKVAが存在せず、無担保取引も多かったことから、個々の取引のCVAプライシングとそのヘッジが主要業務であった。しかし、昨今では、金融機関によって差はあるものの、ファンディング、資本、当初証拠金の最適化、マイナス金利フロアや担保選択オプションのプライシング、コンプレッションなど、様々な分野に広がっている。確かにCCPにおける清算集中義務や証拠金規制によってCVAを計算する機会はかなり減ったのは事実であるが、それ以外の業務範囲が大きく拡大している。

また、アルケゴス破綻により、First Lineのリスク管理者としてXVAデスクの積極的な関与が求められるようになってきている。適切な当初証拠金水準を計算したり、CCPのクライアントクリアリングの顧客リスクを分析したり、アルケゴスのような、有担保でありながらギャップリスクが大きいリスクの管理を担当したりといった、リスクマネージャーとしての役割が大きくなりつつある。

したがって、XVAデスクの役割は広がりこそすれ、ポジションが消失することはないと思っているが、その内容な常に変化していくだろう。とは言え、もともとXVAトレーダーの絶対数がそれほど多くないこともあり、転職市場でXVAトレーダーの職に就くチャンスは限られているのも事実である。XVAトレーダーを募集しても、たまたま経験者が見つかればベストであるが、絶対数が少ないため、そういう人が取れるケースは少ない。逆にXVAトレーダーの職を求めている経験者がいたとしても、その時大手銀行がXVAトレーダーを募集していなければ、転職も難しい。という訳で、XVAトレーダーの採用は審査担当、クレジットトレーダー、Structurer、クオンツといった社内の別部門から採用することも多く、逆にXVAトレーダー経験者が市場リスク管理部やフロントのリスクマネージャーに転職するというケースも多くみられる。

ただし、採用インタビューにおいてXVAトレーダーの経験が一目置かれるのは確かである。XVA経験者であれば、一定のトレーディング経験があり、契約や法的面にも詳しく、モデルやリスクの見方にも明るい。金融規制の他担保管理や資本計算などについても知識を持っている。XVAトレーダーとして職が見つからなくてもあらゆる分野でその知識が応用できる。破綻した会社の債権回収やポジションのクローズアウトの手続きにも通じており、例えば経済制裁があったときはどのようにリスクを減らすかといった経験もできる。特に最近はこれまで起きたこともないようなことが起きるので、その際に適切な担当者が見つからず、幅広い知識を持っているXVAトレーダーに話が回ってくることが多い。そして更に知識を拡大させて、新しい分野を切り開いていくことができる。XVAトレーダーの醍醐味はこんなところにあるのではないかと考えている。

最後に銀行と証券の違いであるが、海外の場合JPMやCITIのような銀行であっても証券業務を行っているので、XVAデスクの業務内容は似通っている。ただし、銀行のポートフォリオだけのXVA管理を行うこともあるので、若干内容が異なることもある。とは言え、日本の銀行で行っているXVA管理よりはかなり証券寄りになっているものと推測される。特にエクスポージャーが日々変動しないローンのリスクの場合は、日々XVAを計算してダイナミックにヘッジしていく必要性が少なくなるので、トレーディング要素が減り、引当金を計算しているようなイメージになってしまう。本来であればデリバティブ取引のXVAヘッジの方が世界に通用する知識が吸収できると思う。

以上、XVAトレーダーというのは常に仕事の内容が変わっていくので、変化の速い環境で常に新しいことにチャレンジしたいという人にとっては非常に興味深い仕事だろう。何をもってXVAデスクの仕事かというのが定義されていないため、自分で仕事の範囲を広げることもできる。常に新しいことにチャレンジしたい人にとってはまたとない仕事と言えよう。