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SFT(Securities Financing Transaction)の基礎

SFTは、Securities Financing Transactionの略で証券金融取引と訳される。主にレポ取引と証券貸借取引からなる。

レポ取引

レポ取引は、簡単に言うと資産と現金の交換だ。海外では法的には売却の形を取るのが一般的であり、日本では現先取引がこれに当たる。現先は後で債券を売戻す(または買戻す)条件付での売買のことを言う。一方貸借取引は、売買ではなく貸借の形を取る。国債等を担保としてのお金を借り、一定期間後にそれを返す取引を言う。貸し借りか売却かの違いはあるものの、両者は経済的には同じものなので、両者を総称してレポ取引ということが多い。証券と証券を交換する取引(Collateral Switch、Collateral Upgrade)や現金担保なしに証券のみを貸し借りする(Unsecured Borrowing)なども行われる。実際売買なのだが、短期的に国債を貸し借りするというイメージの方が分かりやすいので、ここからは便宜的に貸す、借りるという言葉を使う。

お金を借りる時に国債を担保に出すと実はこれはレポとなるので、銀行の短期資金調達にも使われる。銀行では、自分がお金を借りる方向をレポ、お金を貸す方をリバースレポと言ったりもする。中銀が銀行から資金を借り入れるものをリバースレポというのだが、ややこしくなるので、自分が銀行として理解した方が金融機関の人はわかりやすいと思う。


レポ取引は通常、GMRA(Global Master Repurchase Agreement)(英国法)またはMRA(Master Repurchase Agreement)(ニューヨーク法)に基づいて行われる。GMRAはISDAマスターのレポ版である。ISDAマスターと同じようにあらかじめ決められた標準条項と当事者間で合意する付属書で構成されている。また、株式のレポ、代理人が本人に代わって行うレポ、英国債やイタリア国債のような特定の証券レポに関する追加条項等の附属書がある。ISDAと同じように全取引共通の項目はマスター契約であるGMRAに含まれているが、取引日やレートなどの個別取引に関する条項は当然含められないので、こちらはConfirmationで規定される。

レポ市場は、銀行が短期資金調達を行う重要な市場であるが、海外では中銀からの調達がメインとなっている。したがって、中央銀行がレポに関して行う政策変更は重要なマーケットインパクトを持つことも多い。

ストックローン

ストックローンとは株券貸借で、手数料を払って株式を借りる取引である。借り手は、要求に応じて、または決められた日に同等の株式を返却する義務がある。国債、社債など、あらゆる種類の有価証券を使用することができるが、最も一般的なのは株式である。
借り手は貸株料を支払い、現金や他の有価証券、信用状(LC: Letter of Credit)などの担保を提供する。借り手は空売りの決済やフェイルを避けるために株を借りたいというニーズがあり、貸し手は貸借料を受けて取りたいというニーズがある。この点で資金を借りたいというニーズが中心のレポとは若干性質が異なる。

ストックローンは、通常、GMSLA(Global Master Securities Lending Agreement)(英国法)またはMSLA(Master Securities Lending Agreement)(ニューヨーク法)が契約としては使われる。これらも、GMRA と同様マスター契約の一種であり、標準条項と補足条項に分かれている。個別取引の条件がConfirmationに記載されるのもレポと同じである。

SFTとデリバティブ取引

デリバティブ取引はあらゆる取引が作れるため、SFTと同じような取引をデリバティブで行うことは容易である。あるいは、デリバティブ取引のリスクをSFTでヘッジすることも可能である。このため、資本規制等の各種規制はデリバティブ取引とSFTをともにカバーするのが一般的になってきている。特にトータルリターンスワップを使えばレポやストックローンと同じことを経済的に実現することができる。アルケゴス破綻のきっかけとなったトータルリターンスワップであるが、SFTを使うよりトータルリターンスワップの形を取ったため、レバレッジが増やせたと言えるかもしれない。

銀行サイドも株式オプションを売った場合に、そのリスクをストックローンでヘッジすることもできる。実際このようなヘッジをしているデスクもあるだろうが、ヘッジをしているにも関わらずデリバティブ取引とストックローンがネッティングできないため、資本賦課は双方にかかってしまい使い勝手が悪い。デリバティブ取引とSFTのネッティングが可能になれば、市場の効率化に資することになる。

SFTと担保管理

CCPによる清算集中、証拠金規制による当初証拠金、変動証拠金の授受が一般的になるにつれ、適切な担保管理が重要になってきた。各CCPに対する担保拠出、相対取引の証拠金などのニーズが年々高まっている。こうした担保拠出ニーズに対しては、それぞれの契約の適格担保、担保のヘアカットなどを考慮し、在庫として保有している債券、現金、または取引相手方から受け取っている担保を最適化して充てていく必要がある。この巧拙によって資金効率が変わり、収益性にも影響を及ぼす。SLR、LCR、NSFR等の規制制約に照らして、資本コストの最適化も行う必要がある。SFTを使えば、適格担保を調達したり、余った担保を貸し出して運用することが可能になる。


複数商品をカバーするマスターネッティング契約の行方

ISDAで複数商品のネッティングを可能にするマスター契約を検討するワーキンググループが立ち上がった。従来のデリバティブ取引にレポや証券貸借取引を加えてネッティングを可能にする契約を検討するとのことである。コンセプトとしては特に新しいものではなく、古くから各金融機関で独自契約で同じことを実現する契約は存在していたと認識している。昨年にはISDAからホワイトペーパーも出されている。

日本においても、昔から円金利スワップとレポ取引を同時に行った時に、リスクがオフセットするのだから当初証拠金を引き下げてほしいという要望は、特にヘッジファンドを中心に頻繁に聞かれたが、オフセットするとしてもネッティングができない以上別々に当初証拠金を徴求するのが常だった。だが、CCPにおいては、国債先物と金利スワップのクロスマージンがJSCCでも行われ、海外CCPでも同様のクロスマージンは一般的となっている。

これが可能になると、マージンコールが一本化され、オペレーション、資本賦課においてコスト削減が実現できる。Risk.netの記事では、契約が複雑でニーズも少ないことから懐疑的な意見も紹介されている。確かにニーズは少ないのかもしれないが、先述したようなレポと金利スワップについては一定のニーズがあるものと思われる。Equity Swapと株券貸借取引等においても同様である。

ISDAの他、ICMA(International Capital Market Association)、ISLA(International Securities Lending Association)とそれぞれの業界団体の強力が必要になる。クローズアウトネッティングの法的有効性、各国法制との整合性等、かなりの分析が必要になるのも確かである。

ISDAからは、既存のISDAマスター契約にSFT(レポや株式貸借のような証券金融取引)のDefinitionを追加するという案が出されている。これによってISDA Createによる契約交渉が可能になる。契約交渉が複雑になることを恐れてか、否定的な意見が目立つようだが、個人的にはレポとデリバティブのネッティングは長年議論されているため、個社レベルでは一定の分析も終わっているところが多いと思う。既にこれを実現しているEMA(European Master Agreement)の例も応用できる。

確かにForce Majeureのようなコンセプト、クローズアウトまでの猶予期間の違い等、様々な違いが存在するのは確かだが、金融取引としては同じ性質を持っているので、これを機に極力統一かしていってはどうだろうか。資本規制、会計規則、当局承認等も極力スタンダードなものにしていった方が金融業界全体のためになると思う。

その意味ではシングルネームのCDSはSEC、インデックスCDSはCFTCのような重複も避けるべきなので、当局の統合が必要だろうし、業界団体の統合も起きるのかもしれない。システムも別々に開発する必要がなくなるため、複数商品をカバーできるものにしていかなければならない。契約交渉担当やシステム部門の統合まで議論の俎上に上るだろう。

システムも複数商品をカバーできるものにしていかなければならないだろうし、少なくとも、マスター契約の情報は各商品のシステムに流れていかなければならない。どうしてもこうなると人の職がかかってくるので一筋縄では行かないが、これは各企業で起きていることと同じである。

つくづく今後の金融にとってサイロは極力少ない方が良いと思う。政治闘争を続けている会社はすぐに環境変化についていけなくなるだろう。サイロは一度作ってしまうと、よほどの外圧がない限り自ら統合しようというインセンティブが働きにくい。誰も自分のポジションを無くすようには動かないし、自分の部署を他と統合したいというマネジメントも少ない。

このクロスプロダクトネッティングの実現には、技術的な問題よりも、こうしたサイロメンタリティが最大の障害になってくるのではないだろうか。