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MACスワップとは

金利スワップの流動性向上のため、SIFMAの資産運用グループ(AMG)とISDAが2013年に提案した市場標準のスワップである。取引日、終了日、固定クーポンレートなどをあらかじめ決めておくことにより、先物取引のように取引流動性を向上させようというものである。 たとえば10年スワップといえば、すべて今年の6/15に始まり、10年後の6/15に終了日を迎える0.5%と固定金利と変動の交換ということになる。この日付はIMM Dateと呼ばれ、3,6,9,12月の第2水曜日とSIMFA公表のTerm Sheet上で定められている。固定クーポンはCMEのWeb上で定期的に公表されている。

このように条件を標準化すると、例えば6/1から始まるクーポン0.5%の10年金利スワップと、6/2から始まるクーポン0.51%の10年金利スワップのように複数の種類のスワップができることがなくなり、すべて6/15から始まる0.5%の金利スワップに統一でき、流動性が増すためb/oがタイトになるという効果がある。

また、解約、Novation、CCPへのバックロード等も容易になる。CDSではすでに25%、100%のように固定クーポン制をとっているが、これと同じことを金利スワップで行うことによってマーケットの標準化をしようという試みである。これをつきつめれば先物ということになるが、金利スワップについてはすべてが先物に移行するのはむずかしいと思われるため、MACスワップのような標準的取引が利用されている。日本円についても固定クーポンが定期的に更新されているが、日本の市場参加者間ではほとんど話題になっていない。しかし、海外投資家の中にはMAC Swapを好んで使い、IMM DateにRollをしてくる参加者も多い。

CDS取引などの場合は、無用なベーシスリスクを避けるため、当初のカウンターパーティーとの間で解約を行ったり、別の金融機関にポジションを移すことによって取引を完全に消滅させることが多いが、その他の商品においては、反対取引を入れることによってリスクを消すケースが多い。レバレッジ比率など、想定元本に係る規制が多くなっていることを考えると、今後はコンプレッションのみならず、解約が容易にできるような仕組みについての検討も必要である。CCPで清算されている取引の場合、既存取引のUnwind(解約)をするときは、一旦反対方向の取引を入れ、その日の終わりの相殺処理によって取引を消すという流れになる。MAC Swapであれば、必然的に相殺できる取引ペアが増えるため、想定元本削減が容易になる。

 顧客から解約依頼があったときに、こうしたリスクや担保条件、資金調達コストを考えながらどのような方法がベストかを計算しながら行っている金融機関と、単に申し出どおりに処理を行う金融機関とでは収益性に差が出たとしても不思議ではない。取引単位でみればたいした違いは出ないかもしれないが、日々膨大な取引を行う金融機関では無視できない収益差が生まれることもあるのである。

デリバティブ保証

ISDAマスターに対する保証

デリバティブ取引のカウンターパーティーリスク削減の一手法に保証がある。最も一般的なのは、ISDAマスター契約において、信用保証提供者(Credit Support Provider)として保証会社を指定し、保証状を提供して信用補完を行うものである。これにより、カウンターパーティーリスクが対子会社から対親会社へと移る。これは、Credit Substitutionと呼ばれることもあり、資本計算などにも影響を及ぼす。特に外資系金融機関が現地法人を通して取引をする場合などに使われてきた。

CVAの計算上も、その親会社のCDSスプレッドを使って行われることになる。しかし、近年のRRP(Recovery and Resolution Planning)などの規制環境変化により、現地法人単独で格付取得、資本増強等を行い、親会社保証なしに取引をするところも増えてきた。親会社の格付が子会社より下になることが多く、信用力に劣る親会社(持株会社)が保証提供するというのが意味をなさなくなってきたという事情もある。

他にも、例えば米国の親会社が保証を提供すると、日本法人との取引であっても米国規制の一部が適用されるため、親会社保証なしに取引をしたいというニーズもある。日本では、親会社というとグループで最も信用力が高いという印象が残っているためか、親会社保証を外すことに難色を示すところもあるが、各国規制が複雑に絡み合う状況を回避するために、保証を入れないケースも増え始めている。

CVAの計算上、以前は、親会社のスプレッドをタイトにすることもあったが、近年では、TLAC債の発行も進み、必ずしも親会社の方が信用スプレッドが低いとも言えなくなってきた。日本や米国では、持株会社発行のシニア債のみがTLAC債となるが、経営破綻時に元本毀損リスクがあるTLAC債は、格付けが低く設定されることが多いからだ。

親会社と子会社双方の信用スプレッドがマーケットで観測されればCVAの計算は容易だが、親会社のCDSしか取引されていない場合が多いので、子会社銀行との取引に係るCVAをどう計算するかという問題が発生する。ここでその信用力に差をつけ子会社単独の信用スプレッドを推定しCVAの計算を行うことになる。

もともとFSBが定めたTLACの仕組みは、公的資金注入がないことが前提になっているが、日本では、預金保険法の整備によって、予防的な公的資金注入が可能になっている。したがって、日本の場合は、実質的な政府保証があるため、持株会社と銀行子会社のスプレッドに差をつける必要がないのではないかという議論もある。

企業グループに対する与信枠

こうした保証とは異なるが、海外、特に米国では、連結決算に重きを置くのが通常であり、信用枠管理等もグループベースでみることが多い。Back to Back取引などでリスクを一定の法人に集中させ、グループとしての一体管理をするところが多いので、一法人だけのリスクを見ていても全体像がつかめないからだ。一方、日本や欧州の一部の銀行では、個別法人ごとに与信枠を設定している例も多い。当然資本効率やIM Thresholdの効率的利用から、取引をブックするBooking Entityを変えることはあるが、純粋に信用枠の観点から取引法人を指定する場合もある。

ただし、最近では同グループ間の取引であっても各法人間でCSAを提供し、日々担保授受を行うのが普通になった。当初証拠金まで入れているところは少ないが、少なくとも変動証拠金のやり取りは行っている。つまり、Back to Back取引でリスクを移転した上で、マージンコールをかけて変動証拠金のやり取りを行うため、完全ではないものの、ある程度他国法人の影響から遮断される。

日本における保証

日本においては、保証予約、経営指導念書など、保証の形態にもさまざまなものがあるが、デリバティブの契約においては、こうした保証に効力を認めて資本賦課を下げたり、CVAの削減効果を認めるケースは少ないものと思われる。

そのほか、担保の代わりにISDAマスター契約の債務を対象とした一定金額までの保証状を差し入れるケースもある。通常はその会社のメインバンク等がこのような保証を提供することが多いが、その効力に6カ月や1年といった期限を設けることが多いため、期日管理も重要になってくる。CVAやPFEの計算上こうした期限付きの保証をどのように扱うかが問題になるが、保証が毎回更新されるかどうかは明らかではないため、保証の期限までのエクスポージャーが保証されているという前提で計算する方法が最も保守的だろう。

あとは更新の確率に応じて、適宜調整を入れるという方法も考えられる。通常は会社全体の債務をカバーする保証が多いが、一部の債務に限定した保証も存在する。これはつまるところCDSと同じようなものである。海外であれば時価評価を逃れるためにCDSを保証形態にするというのは、規制の関係でむずかしいだろうが、時価評価を嫌う市場参加者が多い日本では、比較的広範囲に使われているようだ。Risk Participationという形で、CDSではなく、保証類似形態にして日々の時価評価を避けるというものも、一部では行われている。

LCによる保証

その他、特にコモディティ取引で多くみられるものに信用状がある。LC、L/C、LOC(Letter of Credit)と呼ばれる信用状を銀行が発行し、それを現金担保や国債担保の代わりに入れるというものである。通常はCSAの適格担保にLCを追加し、掛け目(Valuation Percentage)や適格LCの条件(格付、銀行の格付、期間)等を規定しておく。こうすることにより、たとえLCに期限が設定されていたとしても、期限後は更新されるか、現金等他の適格担保を提供してくるという前提でCVAやPFEの計算ができる。

問題は、LCの場合実際に現金が受領されないので、カウンターパーティーリスクやCVAの削減はできても、ファンディングコストやFVAは減らせない。資本規制上も現金でなければ時価と相殺することができないことが多いので、KVAの削減も限定的となる。2000年初めまでは、LCはカウンターパーティーリスクを減らせるためメリットが大きかったが、規制強化によってファンディング、資本賦課が重要になってくると、現金担保ほどのメリットが得られないということで敬遠されるようになってきた。それでも、豊富な現金を持たない事業会社等に対する取引においては、カウンターパーティーリスク削減は可能なため、今でも一部の取引で使われている。

カウンターパーティーリスクとは

カウンターパーティーリスクとは何なのか、信用リスクとの違いは何なのかと聞かれることが良くある。カウンターパーティーリスクとは、デリバティブの取引相手が契約満期前に金融債務に対してデフォルトを起こし、契約上定められた支払が行われないリスクのことである。

カウンターパーティーとは取引相手ということなので、簡単に言うと取引先の破綻リスクということになるのが、それでは融資先が破綻した場合はカウンターパーティーリスクというのだろうか。

銀行員としての経験からすると、融資先のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶ははく、これは単なる融資先の信用リスクである。社債のトレーディングをした経験からすると、社債発行体のリスクをカウンターパーティーリスクと呼んだ記憶はなく、これも単なる発行体の信用リスクである。というより、以前はカウンターパーティーリスクという言葉自体が使われなかったのだろう。

これが一般的になったのは、やはりCDSの影響が大きい。例えば、トヨタのCDSを売るとトヨタの信用リスクを持つことになるが、トヨタのCDSを銀行から買うと、この銀行のデフォルト時に損失が出るので、銀行に対するリスクも持つことになる。これを信用リスクというのもしっくりこなかったので、カウンターパーティーリスクという言葉を使い始めた。そしてCVAトレーダーになってこのリスクをヘッジするようになると、リーマン破綻もあり、急速にカウンターパーティーリスクという言葉が一般的になった。

ローンや社債に対する信用リスクをヘッジするためにCDSを銀行から買うと、銀行に対するカウンターパーティーリスクが発生するので、これをヘッジするのがCVAデスクの役割であった。

伝統的な銀行業務においては、信用リスクは、取引先がデフォルトしてはじめて実現するものとして管理されてきた。一方カウンターパーティーリスクは、取引先が格下げされたり、信用力が悪化すると、CVAを通じて損失が発生するので、デフォルトしなくても実現するリスクである。

厳密にいうと、ローンの場合も、要管理先、破綻懸念先といった分類に区分された段階で引当金を積み増したので、損失がその時点で(あるいは決算時点で)発生した。しかし、デリバティブのカウンターパーティーリスクは、取引先の信用力のみならず、金利や為替の変動によっても増減する。極端な話、取引先が格上げされたにもかかわらず、急激な円高によって通貨スワップの含み益が増えれば、カウンターパーティーリスクが逆に増えるということもある。

また、引当金が決算期に積み増すものであるのに対し、CVA損益は日々変動する。したがって、ヘッジも日々行っていく必要がある。

稀に誤解される点ではあるが、カウンターパーティーリスクは自社が勝ちポジション、つまり含み益をもっているときに発生する。トレーダーの観点からみると、取引時価がプラスになり、勝ちポジションがふえていくことは望ましいことかもしれないが、カウンターパーティーリスクを管理する立場からみると、これはリスクが増えるので望ましくない。カウンターパーティーが破綻すればその勝ちポジションが消えてしまうからだ。

したがって、金利スワップを行ったとき、金利のトレーダーのヘッジとCVAトレーダーのヘッジとは逆方向になる。CVAトレーダーのヘッジを含めて考えると、10億円の金利スワップを行う場合、マーケットに出てヘッジしなければならないのは、10億円ではなく9億5千万円だったりする。

一方負けポジションを抱えているときにカウンターパーティーがデフォルトしても損失は発生しない。したがって、カウンターパーティーリスクの観点からみると、自社がデリバティブ取引から収益を出しているときがリスクであり、損失を抱えているときにはリスクがないのである。ローンの場合は銀行がいつも信用リスクの抱える側になるが、デリバティブ取引の場合は、取引相手が自分のリスクを持つことがあるのもカウンターパーティーリスクの特徴の一つである。ローンの信用リスクは一方向であるのに対し、デリバティブ取引のカウンターパーティーリスクは双方向性を持っているのである。

社債やCDSの取引時には、暗黙のうちに信用リスクが価格に織り込まれている。しかし、金利スワップの場合も、金利の交換と同時にカウンターパーティーの信用リスクを取引している。社債の発行体に信用不安が起これば社債価格が暴落し、CDSの時価が大きく変化するのと同様に、スワップカウンターパーティーの信用力が悪化すれば、スワップの価値も減価するのは当然のことである。

CDSを例に考えると、ある証券会社からプロテクションを買った場合、参照企業のデフォルト時に、その証券会社もデフォルトしていれば、プロテクションは無価値になってしまう。したがって、AAA格の銀行から購入したCDSは、B格の銀行から購入したCDSよりも価値が高い。この場合のカウンターパーティーリスクのプライシングは、参照企業とプロテクションの売手の信用リスクの相関を考慮して行うことになる。

たとえば、自分がある証券会社とスワップ取引を行うということは、その証券会社にデフォルトするオプションを与えている、つまりスワップの時価を元本としたクレジットプロテクションを売っているのと同じと解釈することもできる。同時に自分がデフォルトするオプションも買っているともいえる。

したがって、厳密な意味ではプレーンバニラスワップというものは存在せず、理論的にはすべてのスワップがデフォルトオプション付のスワップといえる。特に信用力に劣るカウンターパーティーとの取引においては、カウンターパーティーリスクの時価は取引のビッドオファーを大きく上回る。こうした取引は単なるスワップではなく、信用リスクを内包したクレジットハイブリッド商品ともいえる。

CCPのCF/IM比率

参加者破綻によるシステミックリスクを避けるため、CCPは参加者から当初証拠金(IM)と清算基金の拠出を求める。清算基金は英語ではGuarantee FundまたはClearing Fundと呼ばれるものであり、参加者が皆でCCP破綻に備えて基金を積み立てておきましょうというものだ。

当初証拠金が増えれば必要証拠金が少なくなり、破綻者が自己責任で負担する部分が増えるので、モラルハザード防止につながる。参加者としては、自分が拠出する当初証拠金が少ない方が望ましいだろうが、その分相互負担分の清算基金が増え、他社が破綻した時の負担が増えてしまう。したがって、本来は各参加者とも、当初証拠金が高いと文句を言うよりは、全体的なリスク負担を考えたうえで、適切な当初証拠金と清算基金のバランスを保つ必要がある。

JSCCのホームページによると2021年6月末時点の清算基金は1,967億円、当初証拠金は11,007億円となっている。IMに占めるCFの割合は約18%ということになる。この比率はCCPの性質によって、また商品によっても変わってくる。CDSのようにテイルリスクが大きな商品になるとCFに頼らざるを得ない部分もあるので、CF/IM比率が高くなる。金利スワップの場合は10%前後が標準的ではないかと思われるのだが、円金利のように普段はほとんど動かないものの、突発的に急変する通貨の場合は若干高くなっても仕方ないのかもしれない。

なぜこのCF/IM比率が重要かというと、先述のモラルハザードの問題に加えて、クライアントクリアリングの手数料計算にも影響があるからである。IMは当然クライアントが自らの取るリスク量に応じて拠出する。しかし、通常クライアントは清算基金は拠出せず、クリアリングブローカーが出すことになる。

クリアリングブローカーとしては、クラインとのために追加資金拠出をしており、しかも他社破綻時にはそれが使われてしまう性質のものであるために、リスクとコストに見合ったリターンを求めるのが自然である。これがクリアリングブローカー契約の手数料に反映されてくるのだが、この手数料はそれほど頻繁に変更するわけにはいかない。したがって、例えばIMに対するCFの比率が18%程度と仮定して手数料水準を決めていた場合に、突然この比率が30%、40%と上昇してしまうと採算割れになってしまう。

これが変化するかどうかは当初証拠金モデル、清算基金モデルによって決まるのだが、マーケットが静かになって金利変動が少ない時期が長く続くと、ヒストリカルVaRが下がるため、当初証拠金が少なくなってしまうことが往々にしてある。これを避けるため、各CCPでは、当初証拠金や各種パラメーターにフロアを設けたり、過去の極端なストレスシナリオ、架空のシナリオ等を入れることによって、当初証拠金が大きく変化しないような仕組みを導入している。

最新のJSCCの当初証拠金はJSCCのホームページで開示されているが、想定元本に占めるIMの割合は、固定受けの30年で5.18%、固定払いで6.33%となっている。更なる金利低下より金利上昇幅の方が大きいというモデルになっているため、固定払いの方がIMが大きい。

JSCCでは過去5年間のヒストリカルデータに基づく、保有期間5日、信頼区間99%の期待ショートフォール方式を採っている。つまり損失分布上位1%の平均値が当初証拠金額となっており、これに直近の金利変動に重みをつけたり、過去の大きなストレスイベントを考慮したりして、若干の調整を行っている。クライアントのポジションに関しては、クローズアウトまでの日数がかかることから、保有期間を5日から7日に延ばすことにより、当初証拠金を増額している。

リーマン破綻時には、当初証拠金の約35%が費消され、清算基金に損失が食い込むことはなかった。しかし、その後韓国の取引所、NASDAQクリアリング等、清算基金が使われるデフォルトがいくつか発生し、このCF/IMのバランスについては、常に議論が行われている。モラルハザードを防ぎ、あくまでも自己責任原則を貫くためには、適切な当初証拠金の徴求が不可欠である。個々の参加者にとっては担保が増えるのは望ましくないのだが、全体を考えたバランスの取れた議論が必要だろう。

CVAの会計

デリバティブ取引は、公正価値会計が原則とされ、米国ではASC820等において、会計上の報告の要件が定められている。この価値評価に際しては、カウンターパーティー及び自社の信用リスクを反映させることが求められる。自社のリスクであるDVAの計上も求められるため、金融危機時には自社の信用力悪化によって大手米銀が利益を上げたことが話題となった。

欧州では2013年にIFRS13によって米国同様の公正価値評価が原則となり、米国同様CVAとDVAの双方の計上が求められるようになった。

日本においては、本年2021年4月以降の連結会計年度期首から「時価の算定に関する会計基準」が適用になった。IFRS13同様、カウンターパーティーリスクをデリバティブ時価に含める旨の記述がある。本文書の中ではどこにもCVA、DVAといった言葉が使われていないのでわかりにくいのだが、決められた要件のすべてを満たす場合には、「特定の取引相手先の信用リスクに関して金融資産および金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができる」と書かれている。

なぜか日本語にすると逆に難しくなってしまうのだが、要はISDAマスターの下で行われる取引について、ポートフォリオベースでCVA計算をうことができるという意味である。IFRS13号の定めを基本的にすべて取り入れることとしたと書かれているので、IFRS13を理解した方が早いかもしれない。その意味ではCVAのみならずDVAも考慮できるということになる。

もともとデリバティブ取引の時価評価に関しては、金融商品会計に関する実務指針が存在しており、割引現在価値によるスワップの時価評価に関して、割引に用いる利子率をリスク要因で補正するとされていた。293項の時価評価の留意事項には、自らの信用リスクを加味した時価算定を行うことが原則として必要であると書かれている。そして、相手先の信用リスクは、評価益の回収可能性に係るリスクであるため、時価の算定に加味することが望ましいとされていた。

その意味では、CVA、DVAはかなり前から会計上加味するべきということだったのだが、今回それがグループ単位の時価計算という表現によって、CVAの実務慣行と一致したということになる。税金上の損金算入も認められるため、今年の会計年度から何らかの変更がみられるようになるのか注目が集まる。

Mutual Putとは

カウンターパーティーリスク削減のため、スワップの中途解約条項(Break Clause、Mutual Put、Mandatory Break等と呼ばれる)が古くから使われてきた。Breakには一定の期日がきたら必ず解約されるMandatory Breakと、期日に解約権が発生するOptionalの二種類が存在している。例えば10年債発行までの半年間の金利リスクをヘッジするといった場合等には、これをMandatory Breakにするケースもあるが、ほとんどは両者にオプションを与えるOptional Breakである。Breakの権利は双方が持つことが多いが、銀行だけに行使権がある場合もある。解約の価格はミッドが多いが、行使する側がビッドオファーを払うExecisers Payも良く見られる。

ヘッジファンド向けが多かったが、例えば30年スワップの場合、10年目及びそれ以降毎年、スワップを解約できるオプションを付与するという条件が多かった。信用力が高いカウンターパーティーの場合は10年以降5年ごとという形で行使のタイミングが少なくなったりもした。しかし、特に金利スワップについては、CCPにおける清算集中が一般的になった今では、このBreak Clauseは意味をなさくなった。相対で取引された一瞬だけはBreak Clauseが生きているが、その後クリアされるとその条件が消えてしまうからである。

他にもCS/アルケゴスのペーパーに記述がみられたような、スワップをいつでも解約できる権利、当初証拠金を引き上げることができる権利など、様々な権利が契約上追加されることがある。CSの場合、こうした権利があるからと通常の証拠金を低く抑えていたが、結局これが損失を拡大させた。

しかし、Mandatory Breakや一定の指標をトリガーとする解約以外の解約権はほとんど意味がないというのが、リスク管理の世界ではよく言われることである。確かに相手が破綻寸前になった場合に行使されたケースはあるが、そうでない限り行使が極めて困難だからである。当然使われることのない権利なのでCVA計算に入れたり、PEやRWA計算上考慮したりするのは正しくないと思われるが、銀行によってはこうした効果を織り込んでいるところがあったようだ。スイスの当局がBreak Clauseを資本計算上の考慮を認めるという話も聞かれた。とは言え、いつでも解約ができるならそのオプション性をきちんと時価評価に入れるべきではないかという議論もあり、一般的にはMandatory Break以外は行使できないものとして処理をするのが正しいと思われる。

一方Mandatory Breakの場合は、先スタートの通貨スワップ等ではよく使われている。これは、5年先5年の通貨スワップ等を行うと、10年間スワップが存続するという前提でPEやRWA等の計算が行われてしまう。また、5年後と10年後に元本交換が発生してしまうが、通貨ベーシスの動きだけに注目するヘッジファンドなどは、大きな元本を決済するのを嫌う傾向がある。証拠金規制上は元本交換部分は当初証拠金の対象外ではあるが、通常銀行では為替リスクも加味して当初証拠金を徴求する。したがって、当初元本交換のある5年より少し前にMandatory Breakを入れておけば、お互いに好都合ということになる。この場合、PE計算やRWA計算上も5年より短いスワップとして扱うという整理が可能になる。

一時期、デリバティブの勝ちポジションを抱えること自体が大きなコストになってきたときに、この権利を行使することによってRWAの削減を行っているところがあると話題になった。XVAデスクでもMutual Putを行使してポートフォリオ最適化を図るべきということが、海外のXVA関連の書籍で紹介されていたが、個人的にはここまで自由に行使ができるものではなく、理論上の話の域を出ないと思っている。確かに巨額のIn the moneyポジションを解約すると、CVAがリリースされる上、Funding Charge、BaselのCapital Chargeから解放される。ただし、それが全体に広がることはなく、そのうち清算集中が進んでいったので、最近ではあまり聞かれなくなった。そのうちMandatory以外のMutual Putは下火になっていくのではないだろうか。

G-SIBsとは

G-SIBsとはGlobal Systemically Important Banksの略で、「グローバルなシステム上重要な銀行」と訳される。ジーシブ、ジーシブズなどと発音される。世界経済の金融システム上の重要度が大きい銀行がG-SIBsとして認定され、追加の資本積み立てを求められる。なお、国内のシステム上重要な銀行はD-SIBs(Domestic Systemically Important Banks)と呼ばれる。

G-SIBsのリストは、FSB(金融安定理事会)が毎年公開するが、2020年版では、重要度の高いバケット5とバケット4に区分される銀行はゼロとなっている。このG-SIBsが実務上なぜ重要かというと、G-SIBsスコアが高くシステム上重要と見なされると、追加資本が要求されるからである。追加資本が必要になるということは、極力G-SIBsスコアを下げるインセンティブが働くため、スコアの上がりやすい取引に制限がかかり、市場流動性が逼迫する可能性があるということである。特にG-SIBsスコアの計算時点付近では銀行が取引を縮小するということが問題視されたこともあった。

2020年のG-SIBsスコアは以下の通りで、上位3社がスコア330点以上ということでバケット3に分類されている。追加の資本バッファは2.0%となる。バケット2は230点以上330点未満で、邦銀1行を含む8行が入っている。追加資本バッファは1.5%である。その下の230点未満はバケット1で追加資本バッファは1.0%である。230点、330点といった閾値を若干上回っている銀行には、スコアを下げてバケットを一つ下げようというインセンティブが働くためか、閾値をぎりぎり上回る銀行が少なくなる傾向がある。

https://www.financialresearch.gov/bank-systemic-risk-monitor/

G-SIBsスコアの変化を見るとここ数年の間に欧米行がスコアを下げている一方、日本と中国の銀行がスコアを上げている。これは、単純にこうした銀行のプレゼンスが大きくなっているという理由の他に、欧米銀行がスコアの削減努力を続けているのも大きいものと思われる。デリバティブ取引のコンプレッションにしても欧米の方が熱心である。JPM、HSBC、BNP、Barclays、Deutscheなどは軒並み1ランク下のバケットに下がっている。

https://www.financialresearch.gov/bank-systemic-risk-monitor/

2019年のデータではあるが、スコアの構成を見てみると、Sizeにおいて欧米行のスコア削減が目立つ。時系列に見ても、欧米行が横ばいを維持する中、日本と中国の銀行の規模スコアが急激に上昇している。

https://www.bis.org/bcbs/gsib/index.htm

もう一つ注意が必要なのは、このスコアは相対的なものということである。つまり自分がエクスポージャーを増やさなかったとしても、他行がリスク削減を進めれば、自らのスコアが相対的に上昇してしまうということである。欧米行がバランスシート削減を進めているために、日本や中国の銀行のスコアが上がってしまっているということもあるのかもしれない。

ただし、米国の場合はバーゼルのMethod 1に加えて、FEDのMethod 2による評価が加わる。そしてMethod 1と2の高い方のスコアが最終的に適用される。Method 1は相対指標であるのに対し、Method2は絶対指標である。つまり、すべての銀行が規模を増やせばMethod 1のスコアは一定であるのに対し、Method 2ではスコアが全員上昇してしまう。そして、このMethod 2のスコアは四半期末に計算されているが、追加資本の判定においては12月31日の値のみが使われるため、銀行が年末にバランスシートを縮小させるインセンティブにもつながっている。これを、これを一時点ではなく四半期の平均に変更するという検討も続けられている。

グローバルで重要な銀行などに認定されるのは、実は名誉なことでも何でもなく、リスクが高い銀行として資本の積み増しが求められることを考えると、このスコアを意識した経営も今後は重要になってくるだろう。

SLRとは

米系金融機関ではSLRという言葉で通っているが、日本語では補完的レバレッジ比率と訳される。金融危機時に、リスクベースの内部モデル方式のもとで、レバレッジを積み上げる金融機関が苦境に陥ったことから、バーゼルIIIでバックストップとしてレバレッジ比率規制が導入された。バーゼル基準では最低3%が求められていたが、米国SLRでは大手の銀行持株会社に対して5%、預金取扱銀行に対して6%の最低基準維持が求められている。

バックストップということなので、あくまでもリスクベースの自己資本比率がメインであり、モデルを変えることによって銀行がひそかにレバレッジを積み上げるのを防ぐために作られたはずなのだが、このSLRがビジネスを縛る最大の制約(Binding Constraints)になっていると批判する声が頻繁に聞かれた。リスクベースとは、簡単に言うと、国債のような低リスク資産とジャンク債のような高リスク資産の区別をするということである。レバレッジ比率はリスクに関係なく同じ扱いになるので、非リスクベースの指標とも言われる。

コロナショックを受けて2020年3月に、米国債と準備預金をレバレッジエクスポージャーから除外するという1年間の条件緩和が行われたが、この時限措置が延長されるるかどうかが、マーケットでかなりの注目を集めた。この時限措置は銀行の融資や国債保有に対するスタンスを変えたと評価されており、SLRがいかにビジネスの制約となっていたかということが証明された。結局この時限措置は延長されず終了したが、大手銀行はこれによってSLRが1%弱低下した。逆に言うと、ルールを若干変更することによって金融機関の行動や市場の流れを変えることができるということでもある。

日本においてもレバレッジ比率の計算から日銀準備預金が一時的に除外され、2021年3月には更に一年延長された。バーゼルの分析によると、日本と米国においては、この一時的条件緩和が銀行のレバレッジ比率を1%程度押し上げたとのことだ。バーゼルもレバレッジ比率規制が危機時にビジネス制約となることを認めており、一時的な条件緩和に一定の効果があったと評価している。

計算式はティア1資本をレバレッジエクスポージャー額で割ったものである。レバレッジエクスポージャーは、ローン、国債や社債、デリバティブやPFEのエクスポージャーから構成される。デリバティブやSFTに限って言うと、取引の時価がプラスであればそれがオンバランス項目に含まれるが、現金担保を受け取っていればその分がオフセットされる。ただし、JGBを担保に受け取っていたり、受け入れた担保を信託銀行等に分別管理しているとオフセットが認められない。将来的にプライスが悪くなることがあるので、これらの条件はCSA締結時に考慮しておかなければならない。プライシングと切り離して契約条件だけを有利なものにしようとすると後で不利になる。オフバランスのデリバティブPFEは想定元本に一定の掛け目を掛けたものとなる。

デリバティブのエクスポージャーはカレントエクスポージャーに倣って計算されるため、RC+PFEとなっているRCはReplacement Cost、つまり再構築コストとなり、取引の時価と同義になる。PFEはカレントエクスポージャー方式の計算と同様想定元本に一定の掛け目を掛けたものになる。掛け目はAdd-on Factorと呼ばれ、以下のように決められている。

IRSFX/GoldEquity金以外の貴金属その他コモディティ
1年未満0.0%1.0%6.0%7.0%10.0%
1年超5年未満0.5%5.0%8.0%7.0%12.0%
5年超1.5%7.5%10.0%8.0%15.0%

SLRの最低基準を満たすため、銀行は米国債の保有額を増やさないようにしていたが、コロナ禍の条件緩和後は一時的に米国債保有を増やした。しかし、一時的条件緩和の打ち切り後は、思ったほど米国債は売られず、逆に国債利回りは低下した。銀行サイドの準備ができていたことと、同時にアナウンスされたSLRのルール見直し着手に対する期待もあったようだ。

通常自己資本比率というと、銀行の財務部門等が集中的に管理することが多いが、このSLRは、現場のトレーダーですらある程度プライシング時に考慮を入れる指標になっており、それだけマーケットインパクトが大きい。SLRの見直しや条件緩和が大きな話題になることから、引き続き重要な指標の一つであり続けるだろう。

CCARとは

Comprehensive Capital Analysis and Reviewの略で、日本語では包括的資本分析およびレビューと訳される。通常シーカーと発音する。米国の大手銀行を対象としたストレステスト制度で、金融機関が深刻な経済ショックに対処するのに十分な資本を持っているか、資本計画に実効性があるかをレビューする。

連結総資産 500 億ドル以上の 銀行持ち株会社(BHC) を対象に、年 1 回実施されている。これで資本が不十分と評価されると、資本の積み増しが要求されるほか、資本計画が承認されないと、配当の支払いや自社株買いなどが制限されるので、各金融機関ともかなりのコストをかけて準備をしている。

CCARでは、規制当局が設定した3つのシナリオに基づいて、自己資本の充分性を検証することが求められる。シナリオは、毎年FRBが公表するBaseline、Adverse、Severely Adverseの3種である。これらのシナリオに加え、各銀行が独自に作成したシナリオに基づく収益、損失、引当金、自己資本比率の予測を含む分析結果をFRBに提出し、その結果は6月末までに公表される。

デリバティブポートフォリオの場合、極端にストレスのかかったSeverely Adverseシナリオと言うと、株価が大幅に下落し、金利、為替が急変動し、ボラティリティが急上昇するようなシナリオが想定されることが多い。しかし、このようなシナリオ下で本当に損失が出るのだろうか。特にマーケットメイクを主体とする証券会社では、リスクを一方向に傾けることは少なく、単にいつも株式や国債を抱えているわけではない。当然マーケットが急変すればヘッジ取引もする。通常オプションの買いポジションを持つことが多いオプショントレーダーなどは、市場変動が激しくなれば巨額の利益を出すことも多い。

デリバティブポジションのCCARの計算は、一定の基準日時点のポートフォリオをベースに行われる。通常10月とか11月に基準日が決められることが多いので、その基準日時点ではあまり大きなリスクを持ちたくないというインセンティブも働く。

そして、実際の取引に最も影響のあるのがカウンターパーティーデフォルトシナリオだろう。デリバティブポジションにレポや証券貸借のポジションを加え、最大の損失を発生させるカウンターパーティーの潜在的なデフォルト損失を報告しなければならない。この最大損失を発生させるカウンターパーティーは、ネッティング、担保を考慮した上で、基準日時点のマーケットショックを適用した場合の損失額によって決められる。

したがって、例えば10月18日に基準日が設定された場合は、10月18日にカウンターパーティーがデフォルトしたという前提で、10月18日のポジションにストレスをかけて損失額を計算する。当然一方向にポジションが偏ったカウンターパーティーが最大損失を発生させることが多く、生保などのリアルマネーやポジションの大きな銀行が入ってくる可能性が高い。一方向という意味では日本のカウンターパーティーが入る可能性もゼロとは言えない。

このシナリオは毎年変わる上、方向すら変わることがある。つまり、ある年は為替が円高方向に10%動くというシナリオだったものが、次の年には円安方向に20%動くというシナリオに変わることだってある。また、シナリオも金融機関で独自に設定するものもあるため、単にFRBのシナリオだけに対応すればよいという訳ではない。

したがって、金融危機時には円高になることが多いからと、円高時にエクスポージャーが大きくなるようなポジションを減らせばよいかというとそうでもなく、極力バランスの取れたポートフォリオを持っておく必要がある。おそらくアルケゴスのような偏ったポジションを持っている場合は、ここで最大のエクスポージャー先になる可能性が高く、その意味では、リスクの集中を避ける一つの規制上のツールということもできる。いくら有担保取引とは言え、あまりに偏ったポジションを一社に対して持つ抑止力になるということである。

ストレステストは単なる規制対策というよりは、このように日々のトレーディング業務に大きな影響を与え始めている。CCARを計算する専門部隊だけではなく、現場のトレーダーですら、CCARを気にしながら取引をする必要がある。

CVAとは

信用評価調整などと訳されると何が何だか分かりにくくなるのだが、よく質問を頂くので実務家の観点からCVA(Credit Valuation Adjustments)の説明を。

今まで15年以上様々な説明を試みてきたが、日本ではローンの引当金のデリバティブ版というと、あーなるほどという反応が返ってくることが多い。

CVAはデリバティブの引当金?

ローンを出した後に会社が潰れそうになると、会計上引当金を積まなければならないので、そのローン自体の価値が下がる。これと同じことがデリバティブでも起きているだけだ。

同じ会社に10億円のローンと10億円のスワップの勝ちポジションがあった場合、ローンの方は50%の引当金を積んでいるので5億円の価値なのに、スワップは10億円の価値があると報告するのはおかしいでしょうという話だ。

CVAを計上していれば、CVAが5億円なのでスワップの価値は5億円に減るが、CVAがなければこの価値は10億円だ。

ならば、このスワップを5億円で買って来れば良い。引当50%の危ない会社の債権だったら相手も喜んで売って(Novation)してくれるだろう。そして10億円の価値のスワップを5億円で買ったということで、自分は会計上5億円の利益を計上できる。

CVAによる逆選択問題

変な話だが、こんなことはずっと行われてきたし、今も多かれ少なかれ起きている話だと思う。こうして危ない会社向けのスワップを買いまくれば、巨額の利益が上げられるという寸法だ。いわゆる逆選択の典型例である。このからくりを知っているトレーダーがこの方法で利益を上げたという話は海外でも報じられていた。そのトレーダーが退職した後、当該銀行にはデリバティブの不良債権が溜まってしまい、後年CVAを導入した際に巨額の損失を計上していた。

CVAヘッジ

ローンの引当金は決算期毎に更新すれば良いかもしれないが、CVAの場合は基本的には毎日計算してヘッジもするのが海外では一般的だ。ローンのように元本が固定されている訳ではなく、スワップの勝ち負けは、金利や為替などの市場の変化によって日々変動するため、CDSだけでなく金利ヘッジなども必要となる。

もう一つ引当金と異なるのは、会社の信用力を測る際にCDSなどの市場で観測されるスプレッドを使うという点だ。自社で計算する想定デフォルト率ではなく、市場で取引されている信用スプレッドを使うというのが引当金との違いとなる。

DVAとは

難しいのは、いつも銀行がリスクを取っているローンとは異なり、デリバティブ取引はエンドユーザーが銀行のリスクを取ることもあるということだ。この場合はCVAを減らす効果を持つが、これをDVA(Debt Valuation Adjustments)という。

ただし、カウンターパーティーの信用スプレッドが拡大した時にCVAが増加するのと同様に、銀行自身の信用スプレッドが拡大した時にDVAも増加する。つまり引当金が減る=利益が出るということになる。銀行が破綻しそうになるとDVAから利益が上がるという不思議なことになるので、一部DVAは入れるべきでないという批判もあった。

DVAを入れないCVAを一方向CVA、DVAを入れるものを双方向CVAという。

CVAの計算方法

エクスポージャーの計算

まずは既存ポートフォリオが将来どのようなエクスポージャーになるかを計算する。これは同じISDAマスター契約の下で存在しているすべての取引についてポートフォリオベースで行い、担保条件等も反映させる。

CVAの計算にあたっては、あらかじめ決められた将来の時点ごとに、リスクファクターのシミュレーションが必要になる。将来の期待エクスポージャーを求める際には、あらゆる取引、あらゆるプライシング手法に対しても柔軟に対応できるため、モンテカルロシミュレーションを行うのが一般的である。

そして、時点ごとに、ポートフォリオの中の全取引を評価する。そしてその値が正(つまり銀行にとって勝ちポジション、つまり相手方のリスクを負っているとき)の値の平均を取ってこれをEPE(Expected Positive Expsoure)とする。負の値についても同様に平均を取り、これをENE(Expected Negative Expsoure)とする。

デフォルト確率の計算

カウンターパーティーのCDSスプレッドから将来のデフォルト確率を計算する。CDSがない場合は社債のスプレッドや同業種や信用力の近い会社の信用スプレッドから市場の信用スプレッドを推定する。過去のデフォルト確率から計算してはならない。回収率は40%とか35%といったCDSの回収率に合わせるのが一般的である。

そして、EPEに相手方のデフォルト確率を掛け合わせCVA(一方向CVA)を計算し、ENEに自行のデフォルト確率を掛けてDVAを計算し、差額が双方向CVAとなる。

CVAの会計

海外では、デリバティブ取引の時価評価にはカウンターパーティーリスクを反映させなければならないことになっているので、もはやCVAは必須と言っても良い。

日本の会計規則上も似たような記述があるものの、その手法については決まったやり方はなく、若干の引当金を積むだけでも問題ないとされてしまうケースも多い。それでも海外大手会計事務所を中心にCVA導入の機運は高まっている。

CVAの計算上はMarket Implied、つまりCDSのスプレッドをベースにしたCVA計算がグローバルスタンダードである。銀行の独自デフォルトデータに基づいて計算すると、金利減免、元本猶予等の行われてきた日本におけるデフォルト率は極めて低いため、CVA自体が形骸化してしまう恐れもある。

とは言え、CDSの流動性に難のある日本のマーケットでは、どうやってCVAの時価評価をするかという問題はいつもつきまとう。現実的には、同じ業種、格付等でマトリクスを作って、iTraxx Japanに連動させるようなProxy Spreadを作成して時価評価するのが一般的ではないかと思われる。

CVAの税務


CVAを導入すると、その分利益が少なくなり、引当金が増える。つまり収める税金が少なくなるため、税務当局の注目度も高い。以前米国で銀行がCVAを導入したところ、米国内国歳入庁(IRS)がこれを利益の繰延べに当たるとして否認し、裁判になったこともある。当然銀行側が勝利し、これからCVAの発展が進むことになるが、日本でもこうした評価調整が税金控除になるかどうかという議論が続いてきた。

不良債権化したデリバティブ取引を売買しようとしたとき、引当金に相当するCVA部分を利益として納税するということになると、こうした債権の流動化は全く進まない。

全銀協主導で行われた「デリバティブの CVA 管理のあり方に関する研究会」の報告書が公開されているが、ここでもCVAの損金算入について検討が進める重要性について触れられている。

これを受けて平成31年度税制改正に関する要望の3(5)に、「デリバティブ取引に係るCVA等の税務上の取扱いの明確化」が含まれた。こうして、日本でも着々と海外のように正しくCVAを認識するインセンティブが高まっている。