IFRS9 を巡る懸念

昨日引当金についての記事を書いたが、似たような話がニュースにも出ている。IFRS9はより複雑、不透明で、操作できてしまうという批判だ。Barclaysは英国GDPの8%の減少と6.7%の失業率を見込んでいるが、Lloydsは5%の減少と5.9%の失業率をベースとしている。それほど大きな違いではないが、実際の引当額はBarclaysのGBP2.12bnに対しLloydsのそれはGBP1.4bnとなっており、なぜこのような差が生じるのが分かりにくい。

米国会計の下では、ローンの期待損失を満期までの期間を通じて実現させていく一方、欧州IFRS9では、時期による違いを許容しており、こうした違いが銀行の引当金が十分かどうかを判断するのを難しくしている。

どの程度の引当金を積むかによって、銀行決算がここまで異なってくると、そのモデルについて注目が集まるのは当然であるが、どの公表資料を見ても、この内容について詳細なディスクローズはされていないように見える。ロイターの記事が示す通り、引当金計算はScienceというよりはArtの世界なのかもしれない。

引当金の計算があまりにも保守的だとProcyclicalityの懸念が発生し、過度の引当金は、収益の先送り、節税等の懸念を招きかねない。その意味では、以前の日本の引当金の方がよっぽど実態を表しているようにさえ思える。

欧米の金融機関では、かなりの人を雇って経済予測やモデル構築を行い、引当金計算やストレステストには膨大な人手とコストがかかっているが、これが本当に金融機関の安定、経済の安定に資するものなのかは今一つわからない。そもそも銀行によってGDPや失業率の予測すら異なり、それに応じて株価や金利がどのように変化するかもArtの世界であり、また、そのような市場環境でトレーディング収益がどうなるかを、膨大な時間をかけて議論することにどれくらい意味があるのだろうか。

特に自己ポジションを持てずマーケットメークに徹している金融機関のトレーダーに、金利が急上昇したらどのくらいの損失になるか聞いてみても、自信を持って答えるトレーダーは皆無だろうし、適当な前提条件のもとで若干の損失額を見積もるのがせいぜいだろう。

その時金利上昇を見込んだポジションを持っていれば収益が出るし、そもそも3月が示したように市場変動が激しくなれば顧客フローが増える為収益が上がるだろうし、Volatilityをロングしているトレーダーにとっては、またとない収益機会になりうる。

実際ストレスシナリオを作成して、トレーダーに意見を聞きに行くと、8割方のトレーダーが、その環境下ならおそらく利益が出ると答える。でもそれではストレステストの意味がなくなってしまうので、何とか損失が出るような形に持って行く。もしかしたらこんなことが行われているのではないかとすら思ってしまう。

いずれにしても、引当が決算に与える影響がここまで大きくなってくると、もう少しやり方を見直した方が良いだろうし、コンサルやモデルの専門家を雇って業界全体であまり目立たないような数字を作り上げていっているようにしか思えない現状は、理想とは程遠いような気がする。

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