Diversityが金融の進化を促す

海外銀行では、10年くらい前からテクノロジー企業との人材交流が増え、辞めた同僚がAmazonやGoogleに転職したり、逆にこうしたGAFAMのような企業から銀行に入ってくる人も増えた。もともと法律事務所や会計事務所から銀行に来る人は多かったが、こうした異業種からの人材が金融サービスに革新を起こすことも多い。

既存の考え方に慣れきっている古参の社員からは、突拍子もない意見、革新的な意見が出てくることが少ないが、こうした制約を持たない外部人材を議論に加えると思わぬ化学変化を起こすことが多い。会議を招集する時に同じような人を集めるだけでなく、敢えて素人とも取れる人を入れることがある。同じようなグループで集まると、既存サービスの延長の議論になることが多く、全く新しいアイデアが生まれてこないからである。ロケットの材料費が全体の2%と知って、素人ながら「これだったら自分でもつくれるんじゃね?」と思ったイーロンマスクのような例もある。

だいぶ前に読んでなるほどと思った「多様性の科学」がKindle Unlimitedになっているが、巷でよく言われるDiversityの利点をうまく説明している。

日本でDiversityというとGenderの話が中心になってしまうが、本来は異なるバックグランドを持つ、多様な考え方を持つ人を集めることによって生まれる相乗効果が重要である。日本では単なる数合わせのようになっており、Diversityを確保することに効果があると信じている人が少ないような印象を受けるが、この本はそうした考え方を変えてくれる良書だと思う。

この観点からすると、終身雇用で同じようなバックグランドを集めてしまうとこうした化学変化が起きにくい。楽天銀行の上場があったが、こうした異業種からの銀行参入はそれなりに金融の進歩に貢献しているように思う。

海外の人に良く言われるのだが、日本の会議はその点では異質で、どうしてもプレゼンが一方的になり、意見交換が少なくなってしまう。「議論が盛り上がる」イコール「会議の成功」と捉える人が海外には多いので、「どこがいけなかったんだろう」と会議の後で聞かれることが多い。海外の会議では一言も発しないと逆に気まずいので、日本人にとってはかなりハードルが高くなる。英語が完璧な人でもこれは大変なことらしいので、日本の文化や教育によるものなのだろう。

最近では日本でも中途採用の増加、異業種からの参入、副業の許容といった、本当の意味での意見のDiversityが起き始めている。金融のようなサービス業ではこうした多様性による意見の化学反応は今後も重要になってくると思う。