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国債市場をめぐる規制の方向性は国によって異なる

決済期間短縮化、清算集中規制等、米国債の規制改革案が次々と最終化され、今後数年間の間に大きな変化が生じることとなる。また米国債の自己勘定取引を行う会社に対しても、ディーラーと同じような登録義務を課すという規制強化も議論されている。

決済期間短縮化に関しては、米国株や債券に投資する全世界の投資家が事務手続きの変更を余儀なくされるため、その影響は世界中に広がる。

特に為替取引を組み合わせて投資を行うアジアの投資家にとっては、時差の関係もあるため、事務負担はかなり大きくなる。ただ、その準備状況にはかなりばらつきがあるため、準備が遅れているところを中心に、かなりの混乱が起きるのではないかと危惧している。

米国がここまで国債市場に気を使うのは、2019年のレポショック、2020年3月の国債市場などの混乱時には、緊急介入を余儀なくされたことにあるのだろう。英国でも2022年秋にGilt Shockがあったが、やはりそのサイズからして米国債市場の混乱が与えるインパクトは他の追随を許さない。残高でみると英国債の残高は日本の半分以下である一方米国債残高は日本の4倍程度もある。

米国の場合は、金融規制によってディーラーのマーケットメークが困難になり、市場流動性が悪化したことが問題視されている。これを解決するために規制緩和が行われるのではないかという期待もあったが、結局は更に規制をかけることによって、CCPを使った流動性向上という方向性を目指すことになった。

日本では、米国ほどバランスシート制約やROEを気にするところが少ないので、ディーラーが引き続き流動性を提供している。その意味では日本の国債市場は、比較的安定していると言えよう。特に清算集中規制などの規制強化を行うという話も聞かれない。

米国では、清算集中機関の役割が今後ますます重要になってくることが予想される。現状では米国DTCCの重要性が増しているが、米国債市場ほどのサイズともなると、ある程度の競争が必要になるため、その他の清算機関の参入も予想される。CMEやIntercontinantal Exchangeなどがその候補になろう。

日本では東証/JSCCのほぼ独占状態だが、よほどの技術革新がない限り、新規参入があるようにも思えない。とは言え、他国の清算機関との比較やCPMI/IOSCOなど、海外からのプレッシャーが存在しないわけではないので、それなりに競争力を保ちつつ、技術革新への努力も続けられているように見える。

問題がない以上、規制強化をする必要性はないだろうから、たとえ米国で規制強化が進んでも、日本でJGBの清算集中規制が課されるようなことにはならないのだろうレポについては、清算集中規制を課さずともJSCCを通じた清算がすでにかなりのサイズで行われている。ヘアカットなしでレバレッジを掛けようとヘッジファンドが増えれば、何らかの議論が必要となるかもしれないが、現状ではそれほど大きな問題にはなっていない。

金融規制については世界的に歩調をそろえてレベルプレーイングフィールドを確保すべきという議論が持ち上がるが、国債周りの規制に関しては米国と日本では、異なる規制環境、オペレーションフローによって取引が続けられていくのだろう。

Nasdaq ClearingがEUR IRSの清算に参入

EURの金利スワップに関しては、Brexit後に何とか英国LCHからEurexにシェアを移したいということで政治的な駆け引きを続けてきたが、ここにNasdaqが参入してくることになった。Nasdaqといっても、欧州ビジネスを強化するためにスウェーデンのストックホルムに設立された清算機関なので、欧州当局からはサポートが得られやすい。

欧州ではEMIR 3.0策定が最終段階に入っており、EURスワップの一定割合を欧州域内のCCPでクリアすべきという規制が導入される。おそらくこの規制によって英国LCHから移さなければならなくなる取引を狙ってのことなのだろう。清算開始は今年の第二四半期をターゲットとしているとのことだ。

ESMAでは、商品ごとに一定の閾値を設け、想定元本60憶ユーロ超を保有する会社がその閾値を超えた場合は、最低6か月に1回の取引を大陸のCCPで清算することを義務付ける。1000億ユーロを超える会社の場合はこれが最低月に一回となる。

これまでは、欧州企業は想定元本が、クレジットと株式デリバティブで10億ユーロ、金利と外国為替で30億ユーロ、コモディティで40億ユーロを超えると、清算義務がかかっていた。現在これをどう変更するかの議論が続けられているようだが、かなり混乱しているようだ。

ここまで国境を越えて行き来する金融取引の流れを、規制によって止めようとするのが、本当にマーケットのためになるのかよくわからないところである。確かに欧州当局としては、自分の監督権限が及びにくい英国の清算機関で、自らの地域のメインであるユーロ金利スワップが取引されているのが懸念なのかもしれない。しかし、ここまでクリアリング業務が確立されてくると、流動性を分断させることのデメリットの方が大きいように思える。

日本円金利スワップでも、米国規制によって米国のファンドなどがJSCCにアクセスできなくなってるが、自分で自分の首を絞めているようにしか見えない。何かあった時に流動性が高い日本のCCPに参加できず、解約やヘッジができなくなるというのは、米国のファンドにとっては極めて不利だ。

その意味では今回のNasdaq Clearingの動きは、どこまで市場に受け入れられるか非常に不透明だ。既存のCCPよりも優れた仕組みを作るのは後発組には難しく、何より、IMを下げて顧客を獲得するという安売り競争ができない。北欧のいくつかの市場参加者が細々と使っていることになるのだろうか。もしかしたら見落としている何かがあるのかもしれないが、今一つ狙いが良くわからない。

何とか自国保護主義に走らず、全体としての流動性が向上できるように、国際協調はできないものなのだろうか。

レポのヘアカットに対する規制強化

レポ取引のヘアカットフロアについては長らく議論されてきたが、当初米国当局が思い描いたプラン通り、徐々に市場慣行に変化の兆しが見られ始めている。

ヘアカットフロアとは、簡単に言うとレポ取引の当初証拠金(IM)に最低所要額を決めるようなものであり、急激な市場変動時にカウンターパーティーリスクを減らすために拠出する追加担保に下限をセットするものである。担保である有価証券を、額面から一定金額カットして評価することからヘアカットと呼ばれる。

証拠金規制によってデリバティブ取引に対してはIMが義務付けられたが、レポ取引は対象外であるため、そのIM(ヘアカット)はリスク管理上の要請というよりは、市場慣行によって決まることも多かった。リーマンショック時に多くのファンドがレポで破綻したが、ここにメスが入っていなかったのは、確かに片手落ちではあった。

とはいえ、なぜか米国以外からは、このヘアカットフロアを導入しようという声が盛り上がってこなかった。米国については、昨年2023年7月27日のバーゼルIII Endgameに、最低ヘアカットについての提案が含まれている。これは、何らかの資産を担保に、銀行が現金や、より信用力の高い証券を貸し出す取引についてヘアカットフロアを導入するというもので、レポのみならず、マージンローンなどのSFT(Security Financing Transactions)が対象となっている。

近年では、ヘッジファンドなどノンバンクセクターが、こうしたSFTによってレバレッジをかけることが問題視されるようになってきたため、米国外でもレポのヘアカットの問題が注目を集め始めたように思う。何らかの市場ストレス時に、こうしたノンバンクが一斉に取引を解約に走ることによって、金融市場に大きな混乱をもたらすことが懸念され始めたからだ。

このヘアカットフロアは、プロシクリカリティを防止するとともに、ヘッジファンドなどが過度にレバレッジを取ることに対する歯止めとなる。ヘアカットフロアを下回るヘアカットで取引をすると、それが無担保ローン扱いになるため、資本コストが格段に上がる。欧州では、ヘアカットフロアというよりは、ヘッジファンドのレバレッジ規制という観点の方が注目されやすいようにも思う。

米国外では、昨年8月に香港当局からもBasel III Endogameに関連したガイダンスが出された。この中にヘアカットフロアも含まれていると言われており、施行時期は2024年7月1日以降となっている。

FSBのペーパー(Implementation of G20 Non-Bank Financial Intermediation Reforms)によれば、4地域でヘアカットフロアのフレームワークが適用になっており、追加でさらに4地域で導入に向けた準備が行われていると書かれている。

英国からは、ヘアカットフロアをBasel III Endgameに含める予定ではないというアナウンスメントは出ていたが、Deal CRO Letterに見られるように、ヘアカットの厳格化を求める方向に舵を切っているように見える。

米国は、以前から欧州や英国には最低ヘアカットなどのレバレッジに制限をかける規制がない点を批判をしてきていた。米国でも米国債レポについて0%ヘアカットの事例は見られてきたが、今般レポの清算集中規制導入の方向性が固まったことから、さらに強く他国に働きかけをしてくることが予想される。こうなると、今後数年間の間に、レポ取引のコストや市場流動性に若干の影響が出てくることが予想される。

砂漠へ行こう

38915。バブル世代の金融マンには忘れることのできない数字であるが、ついにこの数字に日経平均が到達した。また、終値ベースの38915円のみならず、日中の最高値だった38957円も超えた。

ここまで来ると、乗り遅れる恐怖感からか、海外投資家からの問い合わせがひっきりなしに来るという証券マンの悲鳴が報道されている。各メディアとも景気の良い話のオンパレードだが、Wall Street Journal が若干冷静な分析をしている。

まず日経平均はダウ平均株価と同じように、単純平均で、225銘柄の株価合計を225で割ったものである。つまり1単元あたりの株価が高い値がさ株の値動きに影響を受けやすい。ダウ平均は30銘柄ということも重なり、米国では時価総額を加重平均したS&P500の方に注目する投資家が多い。

日経225には配当金が含まれておらず、インフレの影響も考慮されていないので、本来長期的な変化を図るにはあまり適切ではない。WSJでは日経平均はFlawed Measure(欠陥のある指標)とまで言い切っている。確かに株価は、発行する株式数によって変動するので、恣意的に決まるという側面がある。

とは言え、日経平均先物がより優れたTopix先物に比べてここまで広く取引されているので、誰も日経平均を無視することはできない。確かに問題のある指標をベースにここまでの資金が動くというのは不思議なものである。ではTopixで見るとどうかというと、まだ過去最高値の2884円からは8%程度低い。つまり日経平均が過去最高を超えたといってもそれは象徴的な意味しか持たない。

配当についても、50年前に100ドルを米株に投資していたら62倍になったが、配当の効果を含めると250倍になっていたとのことである。米国より配当性向の高い日本ではこの影響は大きくなる。この観点からは、日本株のリターンはもっと良かったということになる。

また、日本はデフレだったので、資産価値が他国より下がっていないという面がある一方、インフレ調整後でも日本株のパフォーマンスは海外より低い。通常デフレが引き起こす通貨高も起きず、むしろ円安が進んでいる。

とは言え、最後はデフレマインドからの脱却、企業ガバナンスの向上、企業収益の向上など、明るいニュースが多い中、今回の株高は素直に喜んで良いのだろうと結んでいる。確かにバブル期と比べてもPERもそれほど高いわけでもなく、とてつもなく割高とは思えない。今後も日本が変わったとみなして参入する海外投資家も増えてくるだろう。

資産運用特区に4都市が名乗りを上げた

資産運用特区の意見募集が締め切られたが、東京、大阪、札幌、福岡の4都市が手を挙げている。東京都の提案を見てみると、業界でも問題となっている点に踏み込んでいる。おそらく関係者にヒアリングを行って取りまとめたのだろう。とても良くまとまっていると思う。

組織体制の登録要件の厳しさは改善すべき点であり、特にコンプライアンスオフィサーを雇うのに苦戦している人も多く、参入障壁になっているという声が良く聞かれる。投信協会加入義務についても、撤廃までいかなくとも報告義務緩和が提案されている。家事使用人については、2021年の規制緩和でかなり使い勝手が良くなったが、東京都はさらなる緩和を求めている。親の帯同要件緩和までも提案に含まれている。

若干細かい点だが、海外からの投資収益についての免除期間を5年から延長するという要望は入っていないようだ。実際海外から日本に赴任してくる金融の高度人材は、5年間で帰国しようと考えている人も多い。

海外の人は通常海外証券会社で投資を行っており、日本に来たからといって、日本の証券会社にポジションを移す人は極めて少ない。海外証券会社は金融庁登録をしていないところが多いので、たとえ海外上場株を取引したとしても未上場株として確定申告をしなければならず、損益通算や損失の年度繰り越しが認められない。

海外の人にとっては、給与収入とともに投資収入に対する関心が高いので、5年を超えると全世界が所得税の対象となり、確定申告時に不利になるということがわかると、何とか5年以内に帰国しようという人が出てくる。ただし、最初からこれに気づいている人は少ない。

日本人でも海外証券会社経由で外株の取引をしている人は多いと思うが、かなりの人が上場株として申請してしまっているのではないかと推測される。金融庁に登録のない外国証券会社を使って取引した場合の税金の扱いについての情報が少なく、税務署に聞いても直ぐには申告方法の詳細がわからないことが多いからだ。これが英語となると尚更だ。

細かい点はさておき、資産運用特区については、日本の金融の発展のためには、望ましいイニシアティブであることは間違いない。金融のみならずグローバル企業のトップになると、中国系やインド系は多くても日系人は極めて少ない。最近では中国以外のアジア各国出身者の重役就任も増えてきた。英語や自己主張に難があるのか日本人のプレゼンスはあまり上がってこない。

東京都のプランには、英語による生活・ビジネス環境整備の新たな試みが含まれているが、さらに進めて、English Town構想をぶち上げても良いのではないかと思う。インターナショナルスクール、海外の病院などを誘致し、行政もすべて英語対応を可能にする地域を作り、人を呼び込んではどうかと思う。

すでにニセコなどでは、公用語が英語なのではないかという状況になっている。時給も上がり英語も学べるので若い人がニセコにバイトに行ったりしているが、東京でEnglish Townができれば、海外の人を呼び込むだけでなく、子供に英語を習得させたいと思う日本人が集まってくる可能性もある。そこだけ収入が高くなり高級住宅街となれば、税収もあがり、その税金からさらなる都市機能強化が可能になる。

何とか日本のガラパゴス化を食い止めることができないか、特にグローバルなつながりが深い金融からそれができれば望ましいと思う。

為替取引のクリアリングシフトは起きるのか

為替の世界でSA-CCRの影響が大きく騒がれたのが、3年ほど前だった。米系がSA-CCRの先行適用を始めた際に大手行が資本コストをプライシングに入れ始め、一時的に為替マーケットの流動性が低下した。ただし、その後その影響が長く続くことはなく、最近ではあの時ほど大きな話題にはなっていない。

ただし、Basel III End Gameを控え、各行とも資本コストを気にする動きが出てきているという報道が多くなってきた。当時もSA-CCRで資本コストがかさむようになると、クリアリングへの移行が進むのではないかという話があったが、現実にはあまり大きな動きはなかったが、今回こそはという報道も見られる。

そもそも証拠金規制において現物決済為替と通貨スワップの元本交換部分についてIM規制がかからなかったことが、為替の世界でクリアリングが進まなかった最大の原因である。もし為替取引にIM規制がかかっていれば、今頃ほとんどの取引がクリアリングされていたことだろう。しかし、資本コストの制約が大きくなってくると、またクリアリングへの移行を検討するところが増えてきてもおかしくない。

クリアリングへの移行を後押しする要因としてはMPORの削減、STM、ネッティング効果の3つがある。MPORはMargin Period of Riskの略で、担保決済をしてから破綻によってポジションをクローズするまでの期間を指す。この間にマーケットが動いて時価変動が起きれば、その分の担保は入ってこない。通常相対取引では10日をフロアとしてマージンコールの頻度が週次だったりすると、これに調整が加えられる。

取引数が5000を超えたり、流動性の低い取引がネッティングセットに含まれている場合は、このMPORは20日に延びる。こうしたMPORの長い取引については、CCPに移行することによって、MPORが10日まで削減でき、資本賦課を減らすことができる。これとSTMの組み合わせで資本が半分まで削減できるという記事もあった。

そして、CEMでは限定的だったネッティング効果が認められるようになるので、全体で90%もの資本賦課の削減が可能になることがあるとも言われている。ただし、この削減効果は大手行にはメリットが大きいが、バイサイドの投資家には直接のメリットは少ない。ただし、銀行がプライシングに織り込む資本コストが少なくなるので、間接的にプライシング面での恩恵を受ける。

ここで注目されているのがLCHのSmart Clearingだ。これは、相対取引とCCPで清算された為替取引全体を分析し、資本コストが最小になるように最適化プログラムを走らせるというものである。CCPに移行するかどうかは、資本コストの削減幅と、CCPに移すことによる追加の担保コストを天秤にかけることになるが、これを常に最適化するようにCCPにおける取引量を調整できる。

特にすでにNDFの取引がある市場参加者にとっては更にメリットが大きくなる。Basel IIIの最終化の影響が明らかになってくるのが今年の夏ごろになるだろうが、そのあたりから、今度こそ為替取引のCCPへの移行が本格化するかもしれない。

台湾における清算集中規制

台湾の金利スワップの清算集中規制を控えて、台湾のTaifex(Taiwan Futures Exchange)のクリアリングブローカーが増えているとの報道があった。将来的には清算集中規制がNDFにも拡大するという声も聞かれる。清算集中規制は早ければ来年にもアナウンスがあるとのことだ。台湾のNDIRSはすでにLCHでクリアされているが、Derivalable IRSはTaifexのみの取り扱いとなっている。

Taifexはすでに欧州ESMAからティア1の域外CCPとして認証されており、日本でもCCPとしてのライセンス免除を受けている。USに対しては、JSCCと同じExempt DCOのStatusの申請を行っており、英国など他の国でも同様の認証や免除を取るべく準備を進めている。

これは当然歓迎される動きだが、やはり何といっても主戦場はNDFだろう。特に台湾では、生保を中心にかなりの米債を保有しており、そのヘッジのために短期の為替スワップによるヘッジ取引が活発に行われている。大手生保では、資産のうちの約7割が米債となっており、そのヘッジとしてオンショアの為替スワップとオフショアのNDFでヘッジをしている。グローバルバンクからすると、これはForwardでTWDを売る取引になるので、TWDに危機が発生すると、台湾企業の業績が悪化し、TWDが減価するため、Wrong Wayの取引となる。

特にロシアの例があってから、Capital Controlなどに対するリスクを精査する必要が生じ、米中関係が悪化する中、台湾に対するエクスポージャーにも注目が集まりやすい。ただし、これがCCPに移ったからと言って、台湾のCCPに対するForwardのTWD売りは、Wrong Wayとみなすところもあるものと予想されるため、どの程度の効果があるのかは定かではない。とは言え、相対でカウンターパーティーリスクを抱えるよりは対CCPに対するエクスポージャーの方がリスクが少ないとは言えよう。

最近こうした変化が急速に起きているため、今後の台湾の清算集中規制の動向にも注意が必要だ。

米国で銀行の支店が増え始めた?

オンラインでの取引が増える中、銀行が支店を減らし続けていると思っていたら、米国ではJPMやバンカメが支店を増やし始めている。

今般JPMが今後3年間で500支店増やすと発表した。懐疑派が多い中、2018年頃から支店新設のプランを掲げテストしてきたが、その間に支店を650増やし、期待以上の成果を上げているとのことで、さらなる支店新設を計画している。そして現在全米約12%の預金シェアを20%にまで高めるとのことだ。

ただし、同時に不採算支店の統廃合や非効率な店舗の閉鎖も行っている。新規出店は、これまでカバーできていなかった州や地域への進出が中心になっているようだ。バンカメも同じような目標を掲げていることから、今後は支店の重要性が見直されていくのかもしれない。

確かに預金、支払い、送金などは全てオンラインで完結するので、こうした事務取引のために支店を訪れるメリットは少ないだろう。今後は、JPMが言うようにTransactionからGuidanceへという標語がキーになると思う。特に法人はやはり支店が近くにあることが重要になっている。また富裕層向けにウェルスマネジメントサービスを行うには、支店が近くにあった方がきめ細やかなアドバイスができる。

日本では法人を設立するときにメインバンクを選ぶには、やはり近くに支店があるということが重要になってくる。特に日本では法人営業と個人営業が分かれているため、法人の場合はどこの支店でも取引ができるという訳ではない。最近では法人専用支店が統廃合されたりして、かなり不便になってきている。

NISAでも、慣れた人ならネットで完結するが、初めての投資家などは支店である程度のガイダンスを受けた方が安心できるだろう。

当然こうしたサービスは付加価値が高く、単なるTransactionに比べると銀行にとっても収益が大きい。個人だと振込手数料などは無料だが、法人だと結構取れる。法人の場合は、手数料が高くても決算や税務処理の関係でその銀行口座から取引をすることが多い。個人事業主や小規模法人て副業的にビジネスを行う人も増えてきていることから、日本でも支店の意義というのを見直しても良いのかもしれない。

米国債市場の規制強化が進む

今週はSECから矢継ぎ早に規制改革案が出ているが、いずれもゲンスラー委員長らしい内容である。CFTC長官時代にデリバティブ取引に対して行ったことと同じことを米国債市場にも適用しようとしている感がある。

まずは、Proprietary Tradingを行う会社に対して、ブローカーディーラー登録を義務付け、大手行並みの規制をかける方針が示された。SECの5人の委員のうち共和党の2人を除く5対3での可決のようだ。この辺りの力関係を見ていると、トランプ大統領となれば規制緩和に舵を切るかもしれないことを示唆しているようにも見える。私募ファンドや投資アドバイザーに対して取引報告を義務付けることとしている。

とは言え、Citadelなどの新たなプレーヤーが米国債市場において急速に存在感を高める中、さすがにこのセクターを無視し続けることはできないというのも一理ある。

では、誰が登録義務を負うかというと、基本的に取引量によって対象が決まる。過去6か月のうちに$25bnを超える取引をしている場合に登録義務が発生する。現状だと43社が対象に含まれるようだ。業界では、これが生保や年金などのリアルマネーにまで対象が広がってしまうのではないかという懸念が広がっている。

確かにこの$25bnという閾値を超えないよう取引を控えるところが出てくると、米国債市場の流動性低下につながるかもしれない。

これとは別に、CFTCのリアルタイムレポーティングと同様、米国債取引に対しても取引報告を求める規制案が2/7に公表された。カレント銘柄のみではあるが、取引時間、価格、売り買いの別、出来高がすべて公表されることになる。デリバティブ取引のリアルタイムレポーティングと同じように、サイズの大きなブロック取引や、サイズをXXドル以上として公表するなどの免除措置はあるようだ。

当面はリアルタイムでの報告は行わず、End of Dayでの公表となるが、将来的にはこれをIntradayに変更し、Off the runの銘柄にも対象を広げたいとのことだ。

米国債市場については、決済期間短縮、清算集中、登録義務、報告義務と矢継ぎ早に規制強化が行われている。デリバティブ取引で起きたように日本国債についても変更が起きるのだろうか。

米国不動産ローン危機はさらに拡大するか

入居率低下と金利上昇圧力にさらされている米国の商業用不動産市場の低迷に対する懸念が再燃した。これは昨年の地銀ショックに続く危機になるのだろうか。

Covid19による在宅勤務が進み、オフィス需要が減退するとともに、金利上昇による借入コスト上昇が追い打ちをかけた。ほとんど通常勤務に戻りつつある日本やその他のアジアとは異なり、欧米では在宅勤務がそれだけ定着したということなのだろう。オフィスの入居率が戻ってきた日本とは大きな違いである。

今年は、これまである程度の猶予があったコロナ関連融資の延長が終了するので、新たに資金調達をするか、物件売却を余儀なくされるかもしれない。価格が急落した時に資産を売れば、昨年の国債売却と同じような状況になる。特にNYCBはわずか2件の不動産融資から$185mmの損失を出し、貸倒引当金を$500mm以上積み立てている。

こうした危機時には安全資産である国債に資金が向かうので、金利が下がるのが一般的だが、雇用統計発表までは、パウエル議長のコメントにもかかわらず金利低下が続いていた。ここで注目されるのが、FEDが流動性供給プログラムを用意するかどうかである。

昨年3月はリスク管理者にとっては極めて忙しかったが、今のところ昨年ほどにはならないという空気が流れている。ただ、どこから第二のNYCBが出てくるかわからないので油断はできない。米国のマスコミはあおぞらとドイツ銀の損失にも触れているが、若干性質が違うように思う。とはいえ、米国でもこの問題はNYCB特有という見方をする人が多くなってきているようだ。

ここで危機がそれほど大したものではないということになると、米金金利が上昇し、また1ドル150円に向けた円安が進むのだろうか。

米地銀ショック第二幕と日本への影響

米国NYCBの株価が最終赤字を受けて38%下落し、米国では地銀懸念が再燃している。その主因は商業用不動産向け融資であり、引当金を前年同期4倍に引き上げ処理を行っている。前回の危機は米金利の上昇による債券含み損によるものだったが、今回は商業用不動産の価格下落によるものだ。

大手行に対する規制をあれだけ強化した一方、中小金融機関に対する規制強化は緩やかなものにとどまっていたが、今後はさらなる粛清が予想される。

こうしてグローバルで中小金融機関に対する懸念が高まった矢先に日本のあおぞら銀行のニュースが出たものだから厄介だ。日本の状況は米国とは全く異なると思うのだが、海外のリスクマネージャーにとっては、日本もついに危ないかと思ってしまうのだろう。日本の金融機関全体へ影響が波及することを恐れている向きまであるようで、一部の保険株にも影響が出始めた。

とは言っても、あおぞら銀行の米国オフィス向けノンリコースローンの話は特に目新しいことではなく、常に話題に上がってきており、昨年末に格下げも行われたばかりだ。2023年の中間決算資料でも残高$1.87bnに対する引当率が4.7%であり、いずれ引当の積み増しが行われるのは明らかだったはずである。

確かにLTVが100%を超える案件の割合が今回の決算で急増したのには少し驚いたが、全貸出に占める割合が6.6%であり、引当率が18.8%に上がったことを考えると、海外が騒ぐようなデフォルトリスクがあるとは思えない。それでも株価が急落しているということは、リスクが認識されていなかったのだろうと言われるかもしれないが、まだまだ最近1年の上げを失ったに過ぎない。

むしろ米国不動産価格の下落が明らかになったころから空売りしていた投資家は多いのではないかと思う。そう考えると今回の売りは、状況が良くわからず米国の連想で空売りを仕掛けた、海外勢によるものなのだろうか。そうするとどこかで反発してくるのだろうか。

中国投資家の動向と日経平均

株価の急落を受けて中国の資本規制が厳しくなってきた。中国の個人投資家はファンドを通じて海外資産にも投資ができるのだが、最近こうした海外投資を行うファンドに対して追加投資を停止させたり、上限を設けるようなInformalな通知があったとFTに報じられている。もともとファンドごとに上限が設定されていたのだが、その枠を使い切るところが増えてきているうえに、枠が残っている場合でもそれを減らすような通達があったとのことだ。

背景には中国株の下落の他、海外投資のニーズが急速に増えたこともあるようだ。日本株への資金が多く流れたという報道も頻繁になされているが、この海外投資の中には日本株も含まれる。

中国にはQDII(Qualified Domestic Institutional Investor)スキームというものがあり、これによって銀行、証券会社、資産運用会社は、中国の厳しい資本規制の枠の外で取引が可能になっている。これは中国の個人投資家にとっては海外資産にアクセスできる唯一の方法である。

公表書類によると、中国のQDIIファンドは79本が個人投資家への販売を停止し、53本が上限を設定している。これらは、海外市場を対象とするQDIIファンド全体の約30%を占める。

FTの記事では、QDIIスキームを通じて個人投資家にファンドを販売している中国の複数の証券会社が、規制当局が外国株式に投資する上場投資信託の「異常取引」を取り締まっていることを明らかにしたとのことだ。特に、MSCI USA 50、ナスダック100、日本のNikkei225に連動するETFの取引停止を要請したという。

別途日本の新聞紙上でも紹介されたが、日経平均連動型のETFの売買は数日間停止された。売買過熱で価格が基準価格を大幅に上回り、投資家に損失リスクがあるためとのことだ。

とは言え、中国上海市場で上場している日経平均連動のETFは最大のものでも135億円程度なので、巷で言われているように、中国投資家のニーズが日経平均を押し上げたというのは何となく直感に合わない。むしろQDIIの制約があるため、それほど大きな資金が日本に流れているとも思いにくい。ただし、香港経由やその他何らかの方法で資金が流れている可能性は否定できない。

翻って日本の状況を見ると、新NISAに流入した資金が流れている投信を見てみるといわゆるオルカン(All Country)と米国がかなりの割合を占めている。日本株に対するインセンティブを付与するということもなく、海外への資金流出にも何の制限もない。極めて自由な国という点では喜ばしいのだが、もう少し日本への投資が増えてくれれば良いのだが。。。

CDSマーケットは復活するか

昨年3月のSVBショック時に一時的にCDS市場が活発になったが、その後はまた取引量が落ち着いてきてしまった。やはり何か危機が起きると一時的に取引量が増えるが、平常時にはあまり取引が行われないという状況には変わりないようだ。

そう考えると、金融危機前のCDOの需要はすさまじかった。CDO組成に伴いシングルネームCDSの取引量が拡大し、取引残高は今の6倍ほどに達していた。個人的にもあの頃は頻繁に取引を行い、CDSのオプションなどの取引を検討したりして、将来のCDS市場が大きく膨らんでいくことを期待していたものだ。

規制改革によりCDO組成が難しくなると同時に、急速にCDSの流動性が低下し、取引量が急減していった。その後取引量が増えたのは2020年のコロナショック時と、2023年の米地銀ショックだ。地銀ショック時の第一四半期には、取引量が$1.1tnを超え、過去5年で最大となった。その意味では、通常期はニーズが少なかったといっても、危機時にはリスクを適切にヘッジするために、CDSはやはり重要だということだ。

だが、一日に10回以上取引されるシングルネームCDSは、グローバルで通常期で一桁程度のことが多い。これは全体の3%に満たない。ISDAのマーケットアップデートによると、過去5年、四半期に最低一回取引された銘柄は1169しかない。

これが日本となると更に流動性が低くなる。BISの統計とJSCCの統計情報を比べてみると、日本のJSCCの取引量はグローバルの1%にも満たない。当然OTCのものもあるから日本のシェアはもう少し多いだろうが、それでも流動性が低下するグローバルの中でのシェアは極めて少ない。

また、一銘柄をカバーできるディーラー数もかなり落ち込んでいる。DTCCのカバーする銘柄をカバーするディーラー数は平均4.7社と、以前よりかなり少なくなっている。92%の銘柄が10社以下のディーラーカバー、約半数が5社以下となっている。流動性を提供できるディーラーが減るとb/oコストがかさみ、ヘッジコストが増え、収益が減る。とはいえ、ここまで資本規制が強化されると、ディーラーだけを責めるのも酷ではある。

例えば、トヨタなどのCDSを買っても、せいぜい100bpを超えるほどにワイドニングすれば良い方で、b/oを払った後で収益が残ることは少ない。そうすると思い切ってCDSを売り、満期まで保有しプレミアムを稼ぐしかなくなる。やはり400とか500bpまで動くような銘柄でないと、株式のようにトレーダーが利益を上げるのが難しい。それだけならIndexで十分である。資本賦課を減らす効果が認められたこともあり、シングルネームよりもIndexの方が取引量が増えている。特に流動性の低い日本ではこの傾向が顕著だ。

海外では最近Skew取引とBondとCDSのベーシスがそこそこに盛り上がっている。SkewはiTraxxのようなインデックスとその構成銘柄をすべて取引するパッケージとのスプレッド差を取りに行く取引であるが、かなりのレバレッジをかけることが多いので、取引サイズは大きくなる。

日本では、そもそも社債マーケットが大きくないので、社債とCDSのベーシス取引が行いにくい上、インデックス構成銘柄の中にほとんど取引されないものが多いため、Skewの取引もあまり見られない。そう考えると、日本においてはCDS市場のみを盛り上げようとしてもダメで、社債市場の活性化が先に来なければならない。通常CDS市場で活発に取引されるのはハイイールド銘柄だ。日本では楽天やソフトバンクがこのセクターに該当するのかもしれないが、海外ではこの辺りのスプレッドの銘柄は非常に多い。

また日本では新NISAのマーケットインパクトが注目されているが、投資先は株式投信ばかりで、日本では債券ファンドを考える人はあまり聞いたことがない。海外ではCDSのメインプレーヤーがPimcoとPGIMであることはよく知られた事実であるが、社債市場の厚みと、それを組み入れたファンドの発展がCDSの発展のカギとなるのだろう。そして、超優良企業だけでなく、ミドルリスク、ハイリスクのスプレッドを提供できる企業の社債発行が増えてくる必要があろう。

CCPの清算基金が上昇している?

Risk.netに、最近CCPがVaRモデルに移行したため、清算基金(GF:Guarantee Fund)が上昇しているという記事が出ている。VaRモデル移行に伴って当初証拠金(IM:Initial Margi)が減ったため、GFが上がったという趣旨だ。若干個人的な直観に反するが、もしかしたら自分がみている日本の市場では起きていないが、海外ではこうした動きが加速しているのかもしれない。大手金融機関のGF拠出額は昨年前半に14.2%、約$14bn増えたとのことだ。

IMが増えると、Defaulters Payといってデフォルトした参加者の当初証拠金で損失の多くが賄われるので、不足分を全員で負担し合うGFが減る。逆にIMが減るとGFが増える。自己責任原則からすると、すべてをIMで賄った方がフェアではある。

しかし、IMが増えれば、これが極端に増えないよう、参加者がポジションを自主的に減らそうというインセンティブが生まれる。CCPでは極端にポジションが偏った場合、ポジションが巨大になった場合は、IMを徐々に増やすConcentration Chargeを導入している。

デフォルトしたとしても、自分の出した担保ではなく、銀行が代わりに出してくれたお金で処理できるとなると、クライアントクリアリングの顧客がどんどんリスクを増やしてしまうというモラルハザードが起きる。

そもそもSpanマージンからVaRへの移行は当初証拠金を減らすために行われた訳ではないはずなので、これによってIMが急減してGFが増えたというのは若干不思議ではある。大手ディーラーも、特にクライアントクリアリングビジネスを行っていれば、このIMとGFのバランスにはかなりセンシティブなはずである。

このIMとGFの比率はIM・GFまたはIM・CF比率などと言われ、リスク負担を議論する際には頻繁に参照される指標である(CFはClearing Fundの略)。個人的には通常の金利商品であれば、IMに対するGFは10%以下、できれば一桁台に抑えるべきだと思っているが、テイルの大きな商品の場合はある程度GFに以降しないと、証拠金負担が持続不可能なくらいに増加したり、プロシクリカリティを招いたりしてしまう。

適当なGuessではあるが、何となく金利スワップなら5%で良いが、為替なら10%、CDSなら20-40%といった感じだろうか。こう考えるとSwaptionなどはテイルが大きくなるのでCCPでの清算は極めて難しく、CDSも本来ならかなり困難な商品なのではないかと思う。これにCCPの負担分が加わり、3者でどうやって負担を分担するかが焦点となる。

この分担は誰がリスクをどのくらい負担するかという問題の他に、どのくらいのIMまでなら妥当なのかという問題が加わる。いくら自己負担原則が良いといっても、取引想定元本の半分の証拠金が必要などと言われたら、ヘッジなどしない方が良いということになってしまい、逆に金融市場が不安定になる。その意味ではクリアリングをしない方が良い商品というものも存在する。新たなToo big to failを作っても意味がないからだ。

昨今の金利や為替変動なら、市場の安定性を損なわず証拠金を集めてクリアリングするのが可能な範囲となっている。特に円に関してはそうだが、一時の米金利や英金利のような動きが常態化するとこれが難しくなってくる。リスク管理が重要だからといって極端に保守的な市場変動に備えるためにIMを増やし続けると、逆に市場流動性に支障が生じる。為替も何とかクリアリングできると思うのだが、大きな資金決済が発生するため決済リスクをどうするかが問題となる。CDSは、一たび危機が発生すると、IMでカバーできなくなる可能性が高いので、IMを上げるか、普段からGFを多めに取っておく必要がある。

現状の仕組みでは、IMはリスクを取る参加者自らが負担するが、GFはディーラーが拠出することになっている。したがって、その分IMに対するGFの比率が高いCDSのような商品はクリアリングブローカーが顧客に課すクリアリングフィーが高くなるべきであろう。ただし、市場変動やポジションの集中度合いなどによりIM・GF比率が変動すると、クリアリングフィーを調整する必要があるが、これは現実には困難である。

したがって、IM・GF比率の変動が激しい商品は、クリアリングブローカーにとっては、非常に扱いが難しい商品となってしまう。この辺りを国の保証、保険などによって損失負担ができれば、市場流動性に悪影響が及ぶほどIMやGFを増やさずに、クリアリングが可能になるのかもしれない。

クロスマージンスキームの対象範囲が拡がってきた

米国債の清算集中規制導入を来年末に控えて、米国CCPであるCMEとFICCの複数商品にわたる拡張版クロスマージンスキームが今度の月曜日から始まる。あらゆる取引のCCPへの移行が進むと、当然証拠金所要額が大きくなるが、クロスマージンはその効果を和らげる重要なツールとなる。

国債を買ってそれを先物でヘッジしているような場合、クロスマージンができると必要証拠金が大きく減ることになる。つまり、クロスマージンを提供できるCCPの競争力が格段に上がり、参加者としては、当然マージンのオフセットが大きいところで清算したいと思うので、CCPにとってはなくてはならないツールになりつつある。そして、自らオフセットする商品をすべてカバーできていない場合などは、今回のような複数のCCPにまたがるクロスマージンが効力を発揮する。。中国と香港のCCPが一部マージンを融通しあうスキームを始めたが、今後も複数のCCPにまたがるこういった取り組みは増えていくものと思われる。

日本ではほとんどすべての商品がJPX傘下のJSCCで行われているので、それほどフォーカスにはならないかもしれないが、スワップと国債先物のクロスマージンは実現できているものの、確かレポが対象になっていなかったと思うので、今後はここが課題になるかもしれない。特に英国中銀のDear CROレター移行レポのヘアカットを上げる動きが見られ始めているので、クロスマージンのニーズは高まっている。といっても実際に危機が起きた時は相関関係が大きく崩れ、思ったよりリスクのオフセットが得られないことも多いので、制度設計は慎重に行うべきである。

一方、こうしたクロスマージンは多くの商品を大規模に取引するディーラーに有利であり、一方向のポジションしか持たない中小規模の参加者に対するメリットが少なくなる傾向があるので注意が必要である。また、ヘッジファンドなどは国債、先物、レポのみならず、金利スワップを多用するので、CMEとFICCもSwapをどう取り込んでいくかが課題となる。

CMEのプレゼンテーションによると、CME Cleared Swapについても将来的なMargin Optimizationの対象となっている。こうなるとLCHからSwapをCMEに移す参加者も出てくるかもしれない。また、Approximately 30 Membersが対象となると書かれているが、30となるとほぼ大手の金融機関に限られているようだ。米国では分散化されたポートフォリオを持つファンドも多いことから、これをいかに顧客ポジションに拡大していくかが重要になる。日本では、ヘッジファンドが少なく一方向に傾いたポートフォリオを持つ顧客が多いと思われることから、海外よりはクロスマージンの効果は限られてしまうかもしれない。

日本で最もクロスマージンの効果があるのは、JSCC-LCHベーシスだろう。JSCCとLCHでオフセットしあう取引を持っていると、両CCPに対してマージンを払う必要があるが、リスク自体は極めて小さい。JSCCとLCHが共同してクロスマージンなんてことになると、かなり大きなニュースになるのは間違いない。しかし、現状では両CCPに参加できる海外参加者のみがメリットを受けるので、LCHに日本の参加者に対する円金利スワップが開放されてからの話になるのだろう。

G30の連銀窓口貸出改革提案

前ニューヨーク連銀総裁のWilliam Dudley氏を中心としたGroup of 30から、銀行破綻時の最後の貸し手機能の改善策についてのレポートが出ている。最後の貸し手とは、Lender of last resortの訳だが、頭文字をとってLoLRと呼ばれている。SVBが連銀のDiscount Windowに迅速にアクセスできずに破綻したことは別記事に書いたが、これを防ぐため、事前に担保拠出をしてはどうかという提案がメインとなっている。

確かにこの方法であれば、担保拠出などの手続きに時間がかかって資金が得られないという事態は避けることができる。また、普段からリスクに応じて担保を積み増すことになるので、SVBのように大きなリスクを抱える前に、何らかのストップがかけられた可能性もある。

その他、貸し出しのコスト引き下げ、ローンの期間延長、Discount Windowの利用を24/7にするという提案も含まれている。24/7とは24時間7日間ということで、つまり、365日いつでも利用可能ということになる。

当然預金保険の対象拡大や、LCRのパラメーター変更なども議論されているが、担保の事前拠出の方が効果が大きいと主張している。

米国債のクリアリング義務化の方向性も決まったばかりだが、レポについては、相対からクリアリングに移行すれば、カウンターパーティーリスクが少なくなり必要担保も減る。もしかしたら、これでクリアリングへのインセンティブを上げようということなのかもしれない。

また、リスクが増えた時に迅速に担保を動かす必要があるため、連銀サイドでのシステム変更も必要になる。そして、連銀が対応すれば、すべての金融機関に対してもシステムの高度化プレッシャーが強くかかってくることになる。金融がますます装置産業化していく中、日本でもそろそろシステムコストを渋らず、思い切った投資をしていく必要性が高まっている。

最後の貸し手論争

シリコンバレーバンク(以下SVB)破綻を受けて、規制当局の間では、様々な議論が行われている。最後の貸し手である中銀がもっと積極的に介入すべきという意見もあるが、それでもまずはそのような事態に陥らないように銀行の監督を厳しくするという論調が多い。

確かに危機時には中銀の窓口貸出(以下Discoujnt Window)によって資金提供をするという制度はあるのだが、これに手を付けてしまうと「危ない銀行」とみなされるリスクがあるので、その利用をためらう銀行が多い。これはいわゆるStigma問題と言われ、古くから起きている問題である。Stigmaは、「烙印」、「汚名」、「不名誉の印」などと辞書上では訳されているが、金融の世界においては、つぶれそうになった時に政府や中銀に泣きつくことが、信用不安を煽ることになるため、なかなか使えないという状況でよく使われる。

日本でもコロナショックにおいて、ドル供給のプログラムができたが、このStigma問題のため、本当に使ってよいのかという疑念が各行で渦巻いていたと報じられていた。

米国SVBもこの利用を躊躇したのか、Discoujnt Windowの申請をしたのは破綻の前日であった。これとは他に米国ではBTFP(Bank Term Funding Program)という銀行緊急借入制度がある。SVBショックもあり昨年新設された制度であるが、米国債や政府機関債を担保に最長1年まで借り入れをすることができる。金利は直近でOIS+10bpとなっており、Discoujnt Windowよりも安い上、Stigma問題も小さいため、その利用が急激に伸びている。担保にかかるヘアカットもゼロなので、かなりお得な資金調達である。特に満期保有で国債を保有していた地銀にとっては、国債を売却せずに資金を得られるので、まさに銀行危機時に効果を発揮するプログラムとなっている。

他にも、昨年破綻した米地銀の多くは、FHLB
Federal Home Loan Bank)からの資金を借り入れていたが、これには資産の30%までという上限がついている。SVBはこの上限に達していた。FICCのSponsored Repoも使えるが、地銀の間ではこのセットアップができているところが少なかったようである。この辺りは米国債の清算集中規制導入によって変わってくるかもしれない。

昨年の経験を踏まえると、Discount Windowは、やはりStigma問題がかなり大きな要素になっているように感じる。一方、BTFPを使ったとしてもすぐにそれが表に出ることはない。最長1年のローン終了後から1年後の公表なので約2年程度の猶予がある。もちろん、Discount Windowでは、商業ローンなどの流動性に劣る資産も担保として使えるというメリットがあり、BTFPでは対象外となっている地方債も使える。

ただし今の制度では、その利用をためらう銀行が多く、何らかの制度改革が必要なのだろう。Group of 30 からもDiscount Windowの改革案についての提案が出されているが、昨年成功したBTFPからも学べることは多いだろう。信用危機時にこうしたプログラムが市場に与えるインパクトも大きいため、一応注目しておいた方が良さそうだ。

米国債の清算集中規制への準備

年末に米国債とレポ取引の清算集中規制の最終案が出たが、そろそろ金融機関サイドの準備が始まりつつある。レポについては対象先が広いが、米国債の売買については例外規定があり、対象外となるところも多い。特にヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、プライムブローカークライアントとの取引が対象外になっているのが興味深い。ただし、トレーディングプラットフォームを使って売り手と買い手を結び付けた場合は対象となっている。

レポについては、CCPの直接参加者によって取引されたレポがすべて対象となっているため、大手の金融機関の取引についてはかなりの割合がカバーされることになる。現状CCPはFICCのみが対象だが、今後増えていく可能性もある。

ここからのスケジュールとしては、まず今年の5月下旬から6月上旬にCCPがルールブックの改正が行われることになっている。内容的には概ね予想ができるため今からでも準備は可能だが、現状では担当者を決めてプロジェクトの計画を策定し、本格的な作業はおそらく6月くらいからということになろう。

そしてこの変更に基づいてディーラーの自己ポジションと顧客ポジションの分割などを完了させるのが来年3月末までくらいとなろう。実際の規制施行は米国債売買が来年末(2025年12月末)、レポが再来年2026年6月末となる。

資本規制やネッティング効率を考えると、早めにCCPに移行しておく方が望ましいことから、海外大手金融機関は今年から徐々にポジションをCCPに移していくことになるかもしれない。内部取引に関する適用除外規定もかなり限定的に読めるので、遅れないように準備を進めておく必要がある。

こうしてCCP取引が標準となってくると、CCPを介さない取引のプライスが悪くなったり、取引量に制限がかかる可能性があるので、米国債を取引する日本の市場参加者はある程度の準備をしておく必要があるだろう。特にCCPへのOpen Accessを確保するよう求めらていることから、多くの市場参加者がCCPに参加していくことが予想される。ある程度の取引量があるのなら、直接参加も検討に値するのかもしれない。

規制強化が市場変動を激しくする

お金が回らなくなると経済活動が停滞するというのが個人的な経験測だが、米国でも資金の流れが悪くなってきているように感じる。日本では、個人が銀行預金にお金を回し、銀行が重厚長大産業にその資金を回していたころは良かったが、国債や外債に回り始めてから経済が停滞した。

一方、米国では、商業銀行の資産に占める現金の割合は約10%程度であったが、最近では15%を超えるようになってきている。通常金融危機やコロナショック時には現金を潤沢に準備しようという意識が働くのでこれが高くなるのは当然なのだが、シリコンバレーバンクなどの危機が去った今でも現金比率が高止まっている。規制強化もあり、現金がないと不安という心理が働いているように感じる。

12月末に短期金融市場でSOFRが急上昇して市場を驚かせた。期末に資金がひっ迫するのは珍しいことではないが、それでも今回の上昇幅には危機感を覚えた人も多かったものと思われる。何もイベントがなくてもここまでマーケットが動きうるというのは、何か構造的な問題があるように思えてならない。

これで米国債の清算集中規制が始まると、さらに証拠金ニーズが高まり、現金がひっ迫する可能性も高まるため、引き続き注視しておく必要があるだろう。米国債の発行も増え、銀行が手元にリザーブしておく現金も増え、規制により証拠金が増えると、現金が経済活動に回らず、カストディアンやFEDに滞留するということが起きる。国債に回った資金が成長資金に回ればまだましだが、この資金がどこまでうまく使われるかは政府にかかっている。

いずれにしても銀行サイドは、貸出に慎重な姿勢を続けることが予想される。資金を集めるために、預金金利を高めに保とうとするところも出てくるだろう。投資面でも極力現金比率を上げようとするため、マーケットメークにも消極的になるかもしれない。そうすると当然市場のボラティリティが上がる。

急激な市場変動は昨今あちこちで起きているが、今年も何らかのきっかけで市場がクラッシュする可能性は高いと考えた方がよさそうだ。

日本円金利スワップの躍進

日銀政策変更を期待する海外勢の取引増もあり、日本円金利スワップの取引量が急増している。現場の感覚としても昨年はかなり取引が活発だった印象があるが、
JSCCの統計で確認してみる。月次の債務負担金額をグラフにしてみると以下のように一目瞭然だ。個人的にも、グラフを描くまでは、ここまではっきり出るとは思っていなかった。

当初は月50兆円程度だった債務負担金額は、たまに100兆円まで届くようなこともあったが、LIBOR改革の辺りで若干取引が減っていた。LIBORからOISに移行した後は順調に取引量が増え始め、昨年一気に急増し、月間200兆円を超えるようなレベルになっている。

これは単なる想定元本なので、短期の取引が増えれば元本が増えるのだが、特に短期シフトが起きているわけではなさそうだ。昨年11月と12月は2年未満の取引が増えており、若干元本の増加に寄与しているが、それでも全体のトレンドは変わらない。

もう一つの要因としては、LCHからのシフトであるが、現状の債務負担残高がJSCCが61%を占めている。以前見た時は50%程度で拮抗していたと思うのでJSCCへのシフトは確実に起きているようだ。これまでの蓄積である残高でみて61%なので、最近の取引だけを見れば70%を超えているときも多いだろう。

外資系証券の取引量が増えているというニュースもあったことから、やはり海外勢の円金利スワップの取引量が増えているのだろう。これまで、日本円金利スワップの取引量は他通貨に比べてあまり増えてこなかったが、ここへ来て一気に盛り返している感がある。

日本円の金利にはCCPベーシスがあるので、LCH金利とJSCC金利が存在しているが、最近ではJSCC金利を使って取引をしたいというところがほとんどになっている。通貨スワップのディスカウントなどもJSCCを好む人が表れているので、市場慣行としてはJSCC金利が円金利スワップの標準になったといっても過言ではないだろう。

いずれにしても日本円においても、遅ればせながら他通貨並みに金利スワップの利用が増えてきた。これからますますデリバティブ取引の重要性は日本でも高まっていくことになるのだろう。海外に比べて遅れているデリバティブリスク管理に通じた人材の育成も急務である。