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コロナショックを受けた金融改革提言③

BCP Planへの本気度
海外のメディア情報を見ていると、海外大手金融機関のほとんどの従業員が自宅勤務となっている。進んでいるところは9割近くといっても良いだろう。同時にバックアップセンターや、複数拠点を使いながら、このマーケットの混乱の中でも何とか業務を継続している。当局も取引報告や電話の録音義務を一時的に緩和し、一般企業の従業員には自宅勤務を命ずる一方、金融機関の従業員には出社を認める通達を機動的に出してマーケットを支える努力をしている。自宅外取引の承認プロセスも確立しており、そのモニタリングについても一定のコントロールが効いている。

確かに大手外資系では、通常業務のほぼ100%が自宅でできるのは事実である。15年ほど前から、普通に会社のPCにリモートログインし、すべてのシステムが使え、おそらくアクセスできないものはほとんどないのではないだろうか。電話も支給され、家のルーターにつなぐとすぐに会社にいるのと全く同じ操作が可能である。さすがにトレーダーは少し苦労するだろうが、皆普段から休みの時にリモートログインをして仕事をすることが多い為、急に自宅勤務になったからといって、支障をきたす人は少ない。緊急連絡の手法も、会社メール→会社電話→インスタントメッセージ→携帯電話→自宅固定電話のように従業員が応答するまで追い続ける連絡システムが普通に使われており、数十年前の学校で使われていた緊急連絡網とは雲泥の差である。セキュリティ対策も常日頃から改善努力が続けられてきており、Zoom等を使って常時職場と接続し、自宅勤務をする際の注意事項から自宅勤務が長期化した社員のメンタルヘルスに関する気配りまでがなされていると海外では普通の様に報道されている。取引所やブローカー、ひいては当局までもが、バックアップサイトや自宅からの業務を普通に継続している。当然慣れないことであるので、様々なプロセスが遅れたりすることはあるが、おそらく100%が自宅勤務でも市場を開けることは可能だろう。余談にはなるが、海外ではリモートコンピューティングとか、リモートで仕事をすると言われ、テレワークは日本だけで聞かれる言葉のように思う。確かに電話も使うが、メインは会社のパソコンにリモートでログインして行う仕事が中心になるので、リモートで仕事をすると言う方がしっくりくる。おそらく日本の場合は会社のPCにログインすると言うよりは、電話で仕事をするのが中心だからなのかもしれない。

この点においては、さすがに日本の遅れをひしひしと感じる。専用端末という前近代的な仕組みが残っていたり、バックアップサイトを普段からテストをすることも少ないところがある。当然日本の大手はかなり進んでいるが、日本企業全体の危機対応となると、どこまでできているのか心もとない。そもそも、何があっても会社に出社するという前提で仕組みが作られているようにすら思える。確かに地震があっても台風が来ても皆満員電車に乗って必死に通勤しており、電車の本数を減らしたりといった対応は昨年の台風で初めて行われた対応である。だからこそ、社員の転勤問題、子育ての苦労等様々な障壁が日本のサラリーマンにはあった訳だが、リモートワークが進めば、実は日本が最も恩恵を受けるのではないだろうか。なぜなら、単身赴任で家族と離れ離れで過ごす人が多く、海外のように簡単に住み込みの家政婦を雇えず、職場への距離が遠く、満員電車の中で過ごす時間が長い日本にとっては、今後の伸びしろが、日本には最もあるということになるからである。

実はこうしたリモートワークのインフラはそれほど大がかりなものではなく、恐らく日本ではすぐに導入可能なものばかりである。今回のこのコロナショックを活かして、是非とも日本の金融業界の生産性を上げていきたいものである。そうすれば日本の金融の未来は極めて明るいと断言できる。

コロナショックを受けた金融改革提言②

CCPの相互接続
このマーケットの混乱の中で相変わらずCCPベーシスの乱高下が続いている。海外投資家がリスクオフになって固定金利を受け始めると、それにつれてLCHの金利が下がり、JSCCの金利が置いて行かれ、海外の金融緩和ニュースで金利が上昇すると海外からの払いでCCPベーシスが戻すといったことの繰り返しが起きている。以前であれば、海外の受けに対して国内の払いを当ててヘッジをするということが容易だったが、今では金利が二つ(厳密にはCMEやEurexもあるが)存在するために、円金利スワップ市場の流動性は極端に落ちている。本来であればCCPを一つにするのが簡単なのだろうが今となっては不可能だろう。となると残されるのはCCP間の相互接続である。今や多国間のスワップ協定なども行われているため、CCP間で定期的にポジションをフラットにする取引をしたり、すべての大手参加者が複数のCCPに接続できるよう規制を緩めたりして、このベーシスを無くす努力をしていかないとスワップ市場の機能不全が危機時に加速してしまう。

同時に日本にはLibor/Tiborベーシス、DTiborとZTiborのベーシス、Libor OISベーシス、6s3sベーシスなどがあるが、極力こうしたベーシスリスクを無くす努力をし、取引標準化を図ることが流動性向上につながるはずである。

想定元本主義からの脱却
規制資本計算に使われるカレントエクスポージャー方式に代表されるように、デリバティブ取引のリスクを計算する際に、想定元本に一定の掛け目をかけて計算することがあるが、完全にオフセットしている取引があった場合もリスクがあると見なされてしまう。100億円の受けと100億円の払いがあればリスクはゼロだが、元本は200億円となってしまうからである。銀行にもローン畑の人が多いからか、100億円の金利スワップを100億円のローンと同じように考えてしまう人が銀行の審査部には存在しているという話も聞かれる。100億円すべてを棄損する可能性のあるローンに比べ、クーポン1%の100億円の10年金利スワップの受けの場合は、将来の金利収入は最大10億円であるため(金利がマイナスになると話は別だが)、リスクは全く異なる。SA-CCRへの移行によりこれはリスクを考慮することが可能になるが、日本の証券自己資本や銀行のリスク管理において、元本をベースにした管理からの脱却を図ることにより、ネッティングを意識したり、本来のリスクを意識した取引ができるようになる。

印鑑の廃止
今般の自宅勤務の進展において一つ話題になっているのが印鑑文化である。海外であれば、契約書をプリントアウトしてサインした後PDFにして送り返せば契約締結ができることが多いのだが、日本では誰かがオフィスに残って印鑑を押さなければならない。収入印紙を購入して貼り付けなければならないというのも日本独自の文化だ。電子納税は進み始めているが、印紙税の別納、電子署名等を進めていかないとスピードにおいて他国から取り残されてしまう。登記簿謄本は直近数ヶ月のもののみを受け付けるという慣習も、他国にはない日本独自のやり方である。これだけ電子化の世の中において、役所に登記簿謄本を取りに行ったり、確定日付を取りに行ったり、その紙を郵送したりといった方法では、今後対面のサービスが縮小し、電子的処理が進む金融実務にそぐわない。

コロナショックを受けた金融改革提言①

今回のコロナショックは、今後の金融のあり方を根底から変えてしまうだろう。特にニューヨークやロンドンといった金融の中心都市が、極端なストレス下で取引をしているため、海外の変化の方が早く進む可能性がある。日本も欧米に遅れないよう、早急に対応を進めていく必要がある。具体的には何をすればよいかはまだ完全には見えてこないが、単なる一個人の意見として、いくつか提言をしてみたい。

決済システムの高度化、オートメーション化
マージンコールから決済までにかかる時間が日本は最も長い。海外ではマージンコールがかかったら即日か翌日には着金が確認できるが、日本の場合は2日とか3日を要求する市場参加者が未だに多い。一日でこれだけ市場が動く時代にあって、リスクが出てから3日後に着金というのはあり得ない。銀行サイドもこれを長くすることによって顧客獲得競争をするところがあるが、人手を介して送金指示をしたり、担保を出すのに承認がいるというプロセスを止めるべきである。その辺の買い物でも一瞬で電子決済ができる時代に担保の送金に2日とか3日かかるというのはあり得ない。特に、海外が人手を介さない方向に進む中このままでは日本だけ取り残されてしまう。CLSを通じた決済やDVP決済が何故か進まないのも日本の特徴だ。

マーケットインフラへに対する国のサポート
これまでは、取引所やCCPはいざという時に中銀のサポートが得られるという前提でルール作りがされてこなかった。海外のCCPの中には銀行と同様の支援が得られるところがあったり、流動性サポートが得られるところもある。日本の場合は、いざとなったらこうしたサポートが得られると多くの人が思っているが、それを前提としたルール作りをしてほしくない、モラルハザードを防ぎたいということで中銀サポートは明文化されていない。したがって、いざとなったら市場参加者が流動性を拠出したり、一部損失負担をする仕組になっている。しかし、現状の資本規制、流動性規制のもとでは、こうした有事の流動性供給を約束している場合は、その分の流動性を常に確保し、資本も積んでおく必要がある。取引所やCCPは完全なマーケットインフラになっているため、参加者破綻時にCCPの流動性が枯渇した場合は中銀のサポートが得られることを明確化したらどうだろうか。そうすれば、銀行が無駄な資金を常に抱えておく必要がなくなり、もっと市場にお金が回るようになる。

同じようなことは、その他のストレス時対応にも言える。銀行は、例えば現在のようにドルが逼迫した時のために、ドル調達ができるよう、何らかの手当をしておかなければならない。ただし、実際に米ドルが調達困難になった場合は、日銀の米ドル供給オペレーションを使うのではないだろうか。それを見越してストレステスト計画を策定するのはおかしいという意見ももっともだが、米国では緊急時に米国債を現金に換えるということを前提として良いという方向に舵を切りつつある。こうしたルールの見直しができれば緊急時の流動性安定につながる。現在米国債で起きているような極度の流動性低下も避けられるかもしれない。なお、ドル供給オペレーションに関しては、年度末まで来週火曜の一回が残されるのみだが、ここに資金ニーズが集中しないよう、日次化を進めると良いと思う(と思ったら既に土曜に日程追加になってました…さすがです) そして、このオペレーションを使うこと自体が、自らドルが調達できないことを示すようなものであるため、使いたくても使えないということのないよう、利用を促進できれば望ましい。米国では大手が共同で連銀貸出を使う旨アナウンスしているが、同じようなアナウンスも効果あるかもしれない。

取引の自動化と20年国債先物の取引拡大
米国のように国債の電子取引等を日本でも進めていく必要があるが、そのためには自動的にプライスをQuoteし、自動ヘッジまで行うところまで、マーケットが進んでいくことになるものと思われる。自宅勤務でノートパソコンから一つ一つ顧客取引を捌いて取引をブックし、コンファメーションをメールで送るなどと言うのでは限界がある。おそらく欧米は今回の混乱を受けて、プロセスの自動化を図ることにより、自宅勤務であったとしてもスムーズに取引ができるような環境整備を進めていくだろう。

また、自動ヘッジに関しては現在7年近辺の国債先物しかないが、これだけで自動ヘッジは不可能である。やはり20年物など更なる年限拡大が今後の取引自動化には必要なのではないか。また銘柄間の価格差が無用な収益変動を生み出しているため、国債価格もっと細かい単位で評価できるようにしたり、回号を減らしたり、輪番でオフザラン銘柄を吸収したりと、流動性向上のための改善も求められる。

取引ライセンスの緩和
今回のウィルスのケースを含め、通常のオフィスでの取引執行が困難になる場合には、例えば香港やシンガポールといった別の地域からの取引執行を可能にすべきである。外務員資格の問題や海外から日本のブックで取引をするということに対する抵抗感があるのは理解できるが、東京のオフィスにいないと取引ができないということでは、今後発生するシナリオに対応できない。大地震、停電、交通機関のマヒなど、様々な理由で通常のオフィスに出勤できないことを想定して、場所に縛られない取引執行を可能にするプランを考えた方が良い。個人宅からの取引執行に抵抗があるのも当然だが、現実に今ニューヨークやロンドンでは、オフィスに出社できない人が多数おり、実際に自宅からの取引も行われつつある。電話の録音義務を免除したNo Action Letterなどはその最たる例だろう。セキュリティの問題もあるのだろうが、端末に依存しないネット経由の取引ができるよう、日銀ネット、ブローカー、銀行のシステム、フローを大幅に見直す必要がある。

欧米当局が矢継ぎ早に規制延期を表明

昨日金曜にイギリスも各種規制導入の一時延期を発表した。2020年のストレステストについては既に延期が決まっていたが、いくつかの規制について追加でしばしの延期が認められる。

それぞれの内容についてはあまり詳しくないが、当局への報告、システムの頑健性を確保するための要件、デフォルトのリスク評価といった分野での延期が主で、いずれも、重要度がそれほど高くないもののように見える。

それより大きいのはバーゼル資本規制の導入に関して柔軟な対応をする可能性があるというコメントをしたことだ。当然LIBOR改革についても何らかの延期があるのではないかという噂にもなっている。ISDAのLIBORフォールバックを巡るコメント期限も3/25から4/1へと若干延期になった。

更に、米国当局から木曜に出された声明文も今後のマーケットには重要である。金融危機後、銀行は資本や流動性バッファを積み増してきたが、そもそもこれらのバッファはこのような危機的状況に備えて積んできたものであるので、銀行が家計やビジネスを支えるためにそれを使うことはやぶさかではないという内容となっている。これは極めて全うな方針で、市場の安定に役立つ。

証拠金規制のIMフェーズ5は延期しないというコメントも併せて出ていたが、フェーズ6を設けたことにより一部延期済になっているので、こちらは予定通りの導入でもそれほど影響は大きくないだろう。

このように欧米当局から様々な情報発信が行われており、官民一丸となってこの危機に対応しようという雰囲気がみられる。これに乗じて金融機関サイドが勝手な行動を取らず、社会的役割を果たし、本来の規制の在り方を議論できるような素地が出来上がることが望まれる。

金融危機再来

グローバルマーケットは完全に2008年のようになってきた。日本だけが若干楽観視しているのも当時とそっくりだ。ほとんどの投資家がこの状況を救えるのはFEDしかないという雰囲気だ。銀行もなんとか市場を支えるべきなのだろうが、とてもリスクを取れる環境にはない。

先日、ローンに対する引当金の会計基準変更(CECL: Current Expected Credit Loss)について紹介したが、これを緩めるという方向にはなかなかならないようだ。もっともこの環境なので来週には変わっているかもしれないが。このようなルールの下では、銀行も自らを防衛するため、航空業界、ホテル業界などに融資をすることは不可能だろう。満期毎に融資を延長するロールもできなくなるだろうし、そうなるとかなり厳しいことになる。

米国ではCECL、欧州その他ではIFRS9がこれに該当するが、FASBやIFRS Foundationのメンバーからは、この会計ルールは想定した通りに効果を上げており、将来に損失が発生すると見込まれるのであればそれを正しく反映すべきという、もっともらしいコメントを出している。

1月1日からの導入を受けて米国では銀行の資本賦課が30%程度上昇すると言われているが、一応FEDからは、この資本に対するインパクトを3年間にわたって計上して良いという激変緩和策を認めている。このような状況になると、FEDが孤軍奮闘して市場を支えるだけでなく、インフラとしての銀行にも協力を求め、一部の規制条件緩和をするのが、市場安定のためには良いのではないだろうか。

このままでは、今後デフォルトの嵐になり、クレジット市場は崩壊してしまうという危険がある。2008年のように、少しマーケットが崩れたときに、ここぞとばかりに投資を増やす日本の投資家が出てこないことを望むばかりである。

緊急時に便利な米国NO ACTION LETTER

ここでNo Action Letterのことを書くのは久しぶりだが、今回3/17にCFTCがコロナ対策のNo Action Letterをいくつか出している。しかも長官のビデオメッセージ付きだ。No Action Lettterは規制の期限をいったん延期したり、規制上明白になっていない点について期限付で免除規定を加えたりするときに頻繁に使われてきた。法制化することなく柔軟に実施できるため、米国規制においては非常に便利なツールになっている。No Action、つまり規制を厳密に守れなくても当局として罰則することはないということなのだろうが、今回もコロナウィルスによって自宅勤務を余儀なくされる金融機関職員が出てきていることから、例えば自宅から取引執行を行う場合に、その会話の録音義務を免除するという内容が入っている。

日本にはこのように突然レターを出して規制の効力を簡単に変更するというツールがないため、おそらく個別のコミュニケーションがあるのだろうが、こうした内容が全業界に一律透明性高く周知されるという点で優れているように思う。

米国ではカリフォルニア州、ニューヨーク州などで感染状況がかなり悪化しており、外出禁止令や自宅待機令がこれからも拡大していく可能性がある。おそらく銀行業は病院等と同じく必須業務として免除されるのだろうが、それでも感染者が出た場合などを想定してかなりの人員が自宅勤務になっていると報道されている。特に今週はリーマンショックの初期のような市場混乱となっているが、自宅勤務がこの流動性低下に拍車をかけているように思われる。今回の危機はリーマン以上という意見も多い。少なくともリーマンショックの時はオフィスにいることができたのだから。

海外では、当局の柔軟な対応により、バックアップセンターや自宅勤務での業務継続が図られている。日本の場合は特に何ら指針が出ている訳ではないしニュースもないが、恐らく個別に対応しているのだろう。とは言え、金融危機以降のコンプラ意識の高まりで、トレーディング業務を自宅からとか、営業活動を家からというと社内コンプライアンス部門から反対されるのは目に見えている。バックアップセンターにしても、長期で使うなら支店登録をするとか、支店長やコンプライアンスオフィサーを置くとか、法廷帳簿を分けるべきだとか、様々な意見がきっと出てくるのだろう。こうした懸念を払しょくするにもNo Action Letterのような方法は極めて有効だと思われる。

危機時に規制緩和という裏技

このブログでは、規制によって金融機関の資本と流動性がかつてないほど高まった代わりに、銀行が市場を支えるためのバランスシートに制限がかかり、危機時には銀行は安全ではあるものの、そのユーザーが苦境に陥るということを幾度となく主張してきた。したがって、また同じことを言っていると思われそうだが、今回起きたことはまさにその通りのシナリオになっている。

ただし、一つだけ計算外だったのは、危機時に規制を一時的に緩めるというオプションを当局が持っているという点であった。通常期に多くの資本や流動性を確保させておき、いざ流動性危機が起きたときにはその規制を緩めて、実体経済に資金が回るようにする。これは確かに危機の増幅を抑えるショックアブソーバーとして働く。金融当局がこれを想定した上で規制強化を進めていたとしたら大したものだが、理にかなった行動かと思う。

今回米国FEDは、2019年末の銀行のティア1資本の19%にあたる資本、流動性バッファを利用して一般個人や企業に対して貸し出しをすることを促した。レバレッジ比率の方が制約となっている証券系投資銀行にはそれほど大きな影響はないかもしれないが、JPMやWells Fargo、Citibank、Bank of Americaのような銀行系にとっては、貸し出しを増やすことが可能になる。G-Sibs以外の中小金融機関にも同じしやすくなる。先週欧州が発表したように、Capital Conservation Bufferの要件を緩めるところまでは行かなかったが、それでも一定のインパクトがあるだろう。銀行サイドも自社株買いを一旦止め、実体経済にお金を回すことを約束している。

一方、今後何らかの危機が起きた時は、同様の措置を銀行が期待してしまうという効果も考えなければならなくなる。いざとなればどうせ当局が助けてくれるだろうと思ってしまうと、金融機関のリスク管理が緩んでしまう可能性が懸念される。これは護送船団方式のメカニズムと同様であり、お上の言うことにしたがっておけば、いざというときに助けてくれるだろうと日頃のコントロールを緩めてしまうという副作用である。

こうした手法が金融危機の回避にどう役立つか、今後の展開を見守りたい。

資本規制、担保規制、清算集中規制、電子取引への移行が市場変動を増幅させている

昨日と同様の規制のUnintended Consequenceの話を続ける。米国の国債先物と現物のスプレッド取引の大規模解約が起きているというニュースが出ている。こうした状況を改善するため、FRBもタームレポを増やしているが、引き続き流動性枯渇に対しては予断が許さない。直近に発行されたカレントのOn the runの国債と、少し前に発行されたOff the runの間のスプレッドは通常であれば非常にタイトなのだが、これが先週は10bpを超えるような以上な水準にまで拡大した。

株式暴落を受けて益出しが可能なもののを現金化するニーズと、急速に変化するポートフォリオ時価変動に対応したマージンコールに応えるために、Off the runの債券売りを誘発しているとの見方が多い。最も流動性があると言われている米国債ですらこのような状況なので、他の資産の流動性は更に激しく低下していることが予想される。

通常は、バランスシートコストがかかる現物保有より、先物やデリバティブの方が有利であるため、現物との価格差が発生する。この差を取る裁定取引が一般的には行われるのだが、マーケットがこのような状況になってくると、一般的な取引ストラテジーが通用しなくなる。

日本でも、先物とJGB、スワップ金利が全く別物のように動いており、理論価格をベースにした裁定取引は全くPeformしていない。米国債と同様On the run、Off the runのスプレッド差は拡大しているため、マーケットメークは非常に難しくなっているものと思われる。これにJSCC-LCHスプレッドも加わる上、日本にはTIBORとLIBORのベーシス、DTIBORとZTIBORのベーシス等、様々なリスクが存在している。ドル調達懸念からドル円ベーシス市場も激しく変動している。清算集中規制はカウンターパーティーリスク削減には寄与したが、増え続ける当初証拠金及び清算基金、日中緊急証拠金などの急変によって、市場流動性に圧力がかかり、市場変動は以前より大きくなっているような気がする。

時間が経って市場が落ち着けば、また以前のように裁定が効くようになっていくのだろうが、マージンコールによって解約を余儀なくされるポジションが増えてくると、この動きが加速してしまう。最近の動きを見ていると、かなりの解約が入っていても不思議ではない。解約に応じる金融機関のリスク許容度もほとんどなくなっているだろうから、市場変動が激しくなっており、アルゴ取引がその動きを加速させる。リーマンショックの時は、資本規制や流動性規制が今ほど厳しくなく、ストレステストなどの制約も少なかったため、銀行のリスク許容度はそこそこ大きかった。

今回は銀行が危機に陥っているわけではないが、顧客取引の解約に応じて規制比率を下げることは困難である。つまり、リーマンショックの時よりも市場変動が大きくなる可能性があり、ポジション清算もより困難になっていると言えるのではないだろうか。銀行リスクを減らすために銀行の金融仲介機能を規制で制限している中、レポ市場等を支えられるのは中央銀行しかない。

つまり、バーゼルなどの資本規制、欧米のバランスシート規制、清算集中規制、証拠金規制、ボルカールール、電子取引規制等は、市場からカウンターパーティーリスクを減らし、金融機関の連鎖倒産を防ぐという点で効果を発揮したのだが、皮肉なことに、それは市場変動リスクを高め、逆に投資家が被るリスクを高めてしまっているのではないだろうか。

金融規制によってリスクが銀行から利用者サイドに移った

今回の市場の混乱は、まさに911とリーマンショックを足したようなものになってきているが、金融機関の安定性に不安を覚える投資家がいると聞いて少し驚いた。確かにCDSも銀行銘柄のスプレッド拡大が大きい。個人的には、既に問題が発生している一部の欧州系銀行を除いて、G-SIBと言われるような大手金融機関の破綻はあり得ないと思っている。金融規制のおかげで、ここまで資本や流動性を厚く積んでいるのは史上初めてであり、銀行経営層のリスク許容度も極端に落ちている。つまり、顧客が取引を解約して流動性を確保しようと思っても、以前のように市場の流動性を銀行が支えることはできなくなっている。

となると結局危ないのはヘッジファンドや年金のような投資を行っているところで、顧客の資金引き出しの要求があって、取引を解約しようにも、極端な取引コストをかけて解約せざるを得なくなる。ここ一週間のBid offerは世界中で拡大しており、銀行も大きなリスクは取れない。金融危機を防ぐため銀行規制を極端なところまで厳格化させたおかげで、銀行の安全性は高まったものの、金融サービスを受けるファンド、年金基金や一般事業法人にそのリスクが移っただけになっている。

一般事業会社も 一定期間内に借入、返済、再借入れができるrevolving credit facilitiesを使うケースが増えてきているが、こうした流動性確保に努める必要がある。ここまでのマーケットになってくると銀行が MAC条項( material adverse change clauses 、万が一の非常事態に契約通りの約束を実行しなくて良いとする条項)を使って資金供与を提供する前に資金確保を行おうという動きが出てきても不思議ではない。

こんな状況の中、今年の1月から米国で導入された新規制が更にこの状況の悪化に拍車をかけている。これは、今までのように顧客が実際に返済不能に陥る前に、早めに引当金を積み増すという内容であり、欧州でも似たような規制が導入される予定になっている。この影響で銀行アナリストは銀行の決算見通しを引き下げている。確かに今後は航空会社、旅行業界等様々な業界で信用リスクが高まり、銀行の貸出損失が増えるという連想からから銀行株が売られている。

こうした、損失を早めに決算に反映させるという手法は、デリバティブのCVAと同じような考え方で、特に問題がある訳ではないのだが、銀行ローンの場合は、社債やCDSでヘッジのできるケースが多いCVAと異なり、ヘッジ手段に制限がかかり、銀行収益の変動が激しくなる。

米国では中銀による更なる流動性供給、ECBもストレステストの延期等を決めているが、そもそも行き過ぎた金融規制は、市場の流動性を損ねるだけという事実により多くの政治家が気づいてくれることが切に望まれる。今後ヘッジファンドやバイサイドの流動性危機が起きないことを願うばかりである。

LIBOR利用状況調査結果が金融庁、日銀から公表された

昨日LIBOR利用状況調査結果の概要が金融庁、日銀から公表された。デリバティブ取引に関しては想定元本ベースでの調査となっており、残高は6300兆円となっている。そのうち約半数が2021年末を超えるもので、特に対処が必要なものとなる。貸出等の運用が164兆円、預金、債券等の調達が97兆円であった。

ぼ全ての先が、LIBOR参照契約の規模を継続的に把握できる体制を構築済みとされている。しかし、一言でLIBOR参照契約といっても様々なものがあり、それが各金融機関でどのように把握されているか、個人的にはもう少し知りたいところである。単純に契約上LIBORが使われているものの特定はそれほど難しくない、しかし、LIBORが変わることによって時価が変わる取引はそれ以外にもたくさんある。

つまり、LIBOR Discountを行っている取引などは、時価計算時の割引率にLIBORが使われているので、厳密にはLIBORの変更による影響を受ける。つまり、ドル金利スワップであったとしても、それに対するISDAのCSA上の担保が円現金であったら、一部でLIBOR割引をしているところもある(通常は翌日物無担保金利だろうが)。こうなると例えばLIBORと全く関係ないと思われているようなCDSなどのような取引でもLIBOR変更による影響を受ける。

海外当局はこれをContractual、Non Contractualとして区分し、データ提出を求めているところもあるようだが、この結果を見ると、日本の場合は単純に想定元本のみで集計されている。資本計算の標準法を見てもそうだが、日本はやはりローンの文化で、デリバティブのリスク管理も想定元本で行う慣行が続いている。1000億円の1年スワップと同額の30年スワップでは、Discountを無視すれば30倍近くになり、これを想定元本でくくってしまうというのは、デリバティブに携わる人にとっては違和感があるのだろうが、ローンの価格を現在価値を考慮して管理していなければ、ローンの世界では貸出元本は変わらない。

もう一つ驚いたのが、 フォールバック条項の手当がある契約が一部を除いてほぼ皆無であったという記述である。LIBORがなくなった時に、どの金利に移行するのか相対で一つ一つ交渉するのは困難であるため、早急にフォールバックを決める必要がある。デリバティブ取引についてはISDAの検討に乗っかればよいだろうが、相対のローンや仕組債については、かなり面倒なことになる可能性がある。

この報告書は、最後にこう締めくくられている。「金融庁及び日本銀行は、2021年末という時限を意識し、金融機関に求められる今後の対応が適切に 行われているか、モニタリングを実施していく。その際、今後の各金融機関における移行状況を踏まえ、より具体的なマイルス トーンを設定することやオンサイトモニタリングの実施についても検討していく。 」

今のところ英国のように以降の期限を当局が決めたり、前述した担保ヘアカットを変更したりといった手段を使うより、金融庁検査や日銀考査といったツールを使っていくという方針のようだ。もっとも日本の場合はその方法で十分に効果があるのかもしれないが。今後は他行の状況などを睨みながら、自分だけが後れを取って当局に指摘されると言うことを避けるために、神経質な横並び情報の収集が行われることになるのだろう。おそらくどこかの銀行が非常に進んで対応しているということがニュースになると、うちも早く対応しなければという焦りが生まれ、それが移行を加速させるというパターンになるものと思われる。

LIBOR移行が遅れることによるペナルティ

英国中銀が中銀貸出の担保にLIBOR参照資産を使っている場合はヘアカットを上げるというアナウンスをした。これまでは、移行を促すコメントが主体で、実際の取引に影響のある目立った施策はなかったが、これにより、コストに影響が出始めるため、更に英国での移行が加速することになることは間違いない。

担保のヘアカットとは、通常その担保の信用力が低いから、担保価格の変動が大きいからという理由で、例えば100円の担保を出したとしても90円しか借りられないというもので、この例では10%のヘアカットが適用されているということなる。ISDAの世界で言うValuation Percentageと同じだが、Haircut=1-Valuation %となる。通常このヘアカットは、2週間99%といったVaRの計算等によって求めているところが多いものと思われる。日銀担保にもこの価格が適格担保要領で定められており、JGB担保にも一定のヘアカットが適用されている。

以下の様に記載されている為、10月1日以降にLIBOR参照担保を使う場合は通常のヘアカットに10%を足して担保価値を計算することになる。その後来年の6月1日以降はこれが40%、来年末以降は100%、つまり無価値ということになる。

The haircut add-on will be 10 percentage points from 1 October 2020, 40 percentage points from 1 June 2021 and 100 percentage points from 31 December 2021. For the avoidance of doubt, haircuts will be capped at 100 percent.

早く移行を促すコメントを出し続けるよりは、このようなコストに影響を与える変更は本当に効果があると思う。ほかにもLIBOR参照商品の多い銀行に対してはそれに応じて資本賦課をかける等、様々な手法が考えられるが、今後は口先介入から具体策に移っていくのだろう。日本でも同じことをする可能性はあるが、日本の場合は通常の当局検査でも一定の効果が出るものと思われる。

米国当局が新資本規制案を最終化

先週水曜に米国当局が大規模銀行に対する新たな資本規制案を最終化させた。これによってシステム的に重要な大規模銀行に対する所要資本が$46bn増えると報道されているが、Quarles FRB副議長が支持して話題になっていたCountercyclical Capital Bufferの導入は見送られたようだ。Stress Leverage Buffer導入も見送られている。

FEDによるとこの新規制により大規模銀行に対する資本賦課は平均的に7%増えるものの、小規模銀行の負担は軽くなり、10%程度の所要資本削減が見込めるとのことである。今年のストレステストは34行に対して行われ、結果は6月30日に公表されることになっている。

一見大銀行に対しては資本規制の強化のように見えるが、規制項目の簡素化等も行われているようであり、基準さえ満たしていれば、FEDの承認なしに配当を上げる等の柔軟な対応が可能になっているようである。

最近はこのように規制緩和なのか強化なのかよくわからないような変更が多い。もしかしたら、銀行に対する規制緩和というと議員や一般国民の受けが良くないため、ヘッドラインとしては厳格化させるように見せておいて、実質的には行き過ぎた規制の修正を進めているのかもしれない。

コロナが変える金融業界

ここまでくるとさすがにコロナについても言及したくなるが、金融業界にとってもかなりのゲームチェンジャーになる可能性が高い。大手グローバルバンクは家から会社のシステムにほぼアクセスでき、家で会社の電話と同等のセットアップをすることも簡単あろうから、モニターさえあれば何とかなるものと思われるが、それでもセールストレーディング業務は自宅勤務が長引くとかなり厳しいという話が業界では聞かれる。

JPM等大手がオフィスを複数に分ける話がニュースに出ているが、今後は一か所ではなく数か所で分散して仕事をするのが一般的になっていく。そして狭いスペースに人を詰め込むのではなく、階を分散したり、近隣にオフィスを分散することになるかもしれない。ミーティングスペースも10人程度が入る密閉された会議室より、個室や少人数の部屋が好まれたり、またはオープンスペースの会議が増えることになるのだろうか。

テレワークは増えると思うものの、それを恒常的に行うのが難しい業界の場合は、オフィススペースが足りなくなる。空調を外気を入れられるようなものに変えたり、エレベーターを分けたりという工夫もビルによっては必要になる。人と人とのスペースを取り、狭い部屋に大人数を入れることを避けるところも出てくるだろうし、ジム併設などを売りにするメリットもなくなる。喫煙ルームの運命もどうなるかわからないので、やはり禁煙がベストか。居住スペースについても、テレワーク支援対策の整った物件が人気を博すかもしれない。

取引プロセスもなるべく人手を介さない方向にシフトする動きが加速するだろうし、オートメーション、STP化は急務である。日銀やブローカーから指定された端末を使うという慣行は見直されるだろうし、郵送が減り、印鑑文化も根底から覆る可能性がある。オフィスが閉鎖になったら担当者が印鑑を抱えて出るようになどというのは滑稽でしかない。

働き方改革も自宅勤務を踏まえて労務管理を見直す必要がある。銀行窓口もさらに減るだろうし、通帳記入のためにわざわざ銀行に出向くというのもばからしくなってきている。金融商品販売についても、支店で説明というよりは、ビデオ会議のようなやり方が増える動きも出てくるだろうが、顧客者保護とのバランスが問題になる。

この騒動が一時的に収束したとしても、また寒くなれば流行の時期を迎える可能性が高いので、一過性のものというよりは、今後の金融のあり方を大きく変えるものになる可能性がある。

危機時に中銀サポートを前提とすることが容認され始めた?

ECBがCCPに対して銀行免許なしに流動性サポートを供給する可能性に言及した。あくまでもCCPは自らのリスク管理体制を強化すべきであり、中銀や当局に頼るべきではないというのが当初の考え方だったが、CCPでの清算が義務化され、ここまで金融インフラとして確立してくると、こうした動きは歓迎すべきだと思う。現時点で銀行免許を持っているのはEurexとLCHのフランス現法だけだが、これが欧州の他のCCPにも拡げられる可能性がでてきた。

米国でも重要性の高いCCPに対しては、かなりの制限はついているものの、中銀アクセスは可能な建付けになっており、この条件緩和の議論が継続中である。当然マーケットにとっては、これによってCCPの管理監督が強化されようとも、その代わりにCCPへの中銀アクセスが認められるのなら、市場安定に資するものと思われる。

欧米がこのような流れになっている中、日本のCCPに対しても同様の議論が巻き起こるかに注目が集まる。おそらく、現在JSCCに参加しているような大規模金融機関が破たんした場合には、市場の崩壊を避けるため、日銀から何らかのサポートが得られる可能性が高いと考えている市場参加者は多いようだ。ただし、それを最初から当てにして仕組みを構築するのと、本当に危機が発生したときに金融対応をするというのは、似て非なることである。

とは言え、グローバル規制の考え方は、こうした本当の危機に備えて資本や流動性を常日頃から確保しなさいという方向になっている。つまり、欧米のように最初から一定の条件で中銀の流動性に頼れるということになれば、無駄な資本、流動性確保を日々行う必要性から解放される。おそらく日本の参加者破綻などの危機時に流動性提供を約束している欧米金融機関の多くは、その資金額に対して資本手当てをしているところがほとんどだと思われるが、この負担がなくなる。

これまでは、こうした点も含めて保守的な対応がなされてきたのだが、米国短期市場の混乱等により、欧米当局の考え方が少しずつ変化してきているように思う。先日ここでも書いた米国FRBの連銀貸出の話も同様である。

日本の場合はこうした資本コストが高いため、他国のCCPで清算するようなインセンティブが働かないよう、日本でも同様の議論が盛り上がることが期待される。

CCPの参加者破綻時の損失補償はどうあるべきか

Eurexが27日の金曜に主催したセミナーでCCPの損失補償について議論になったという記事が出ている。顧客資産を預かるアセマネやディーラーサイドからは、参加者破綻によって非デフォルト参加者の精算基金やVMGH(Valuation Margin Gains Haircutting)が使われた場合には、後々それが返還されるべきという意見が出されている。これに対し、CMEやEurexは当然反対の立場を取っている。

EUの議会でも話題になっているようだが、こうした事態が起きたときには管財人が公平に回収した資金を返却すべきというのはもっともらしい主張にも思えるが、今一つ府に落ちない。そもそも参加者破たん時には、その参加者のIMやGF(Guarantee Fund)が使われ、それでも足りなければ非デフォルト参加者のGFや勝ち分を諦めるVMGHへと進んでいく訳だが、CMEが述べているように、破綻参加者から後に回収があった場合は、当然それがCCPに返却され、それを一定の割当方法に基づいて非デフォルト参加者や顧客に返却するプロセスは現状の規則でも確立されている。ただし、それが不十分だったとしても、CCPの将来的な利益をもってさらに返却させるような仕組みにはなっていない。個人的には一旦破綻管理プロセスが終わった後は、破綻参加者の回収額を超えてCCPが補填するのは行き過ぎだと思うのだが、この点について意見が分かれているようである。

またIM Haircutについても意見が分かれているようだが、さすがに非デフォルト参加者のIMを破綻処理に組み込むのは個人的には反対である。IMは自分の破綻時に使われるのは構わないが、他社の破綻時にまで使われるものとなると、会計上、資本規制上の扱いも変わってきてしまうのではないか。

これらの点については、議会やこうしたセミナーでも意見集約ができていないので、様々な考え方があるのだろうが、マーケットインフラストラクチャーとしてのCCPの重要性と、参加者負担のバランスが崩れないように活発な議論が望まれる。

LIBOR改革の進捗についての海外当局の動きが加速

英国当局のFCAからアセマネ会社のCEO宛にLIBORからの移行を促すレターが先週木曜に送られたとFTが報じている。顧客からの要望を待つのではなく、自ら積極的にLIBORの使用を止めるようにとの通達だ。

LIBORからの移行が遅い銀行には中銀貸出の条件を厳格化するという話もある。2021年以降に満期を迎えるローンや債券も9月以降は新規で取り組むべきことは実質的にできなくなる模様だ。

記事にもあるように、FCAがここまで踏み込むのは異例とのことだが、さらに進めて責任者を指名させることもできると結ばれている。これはおそらく他の規制と同じように責任者を任命して、目標が達成できなかった際には、その個人が責めを負うということなのだろう。

確かに英国では、何か重大な問題があったときには責任者の個人資産の差し押さえをするという規制変更があってから、突然様々なプロセスが保守的になった。現在でも、英国法人が絡む意思決定だけは極端にConservativeと業界では言われているが、この個人責任の原則が関係しているものと予想される。

日本ではここまでする例は少ないが鉄道会社の事故で役員が裁判にかけられたりすることはあるので、全く新しい考えという訳ではない。いずれにしても、当局が業界に任せておいてはLIBOR移行は間に合わないと思ったのだろう。日本では、移行を急ぐようにとの発言が聞かれるくらいだと思うが、今後は同様の動きが加速していく可能性は高まっているものと思われる。

LIBOR改革による割引率変更でスワップション決済時に混乱が起きるか

2/16にも書いたが、10月からLCHやCMEといったCCPで適用されるEURやUSDスワップの割引率が変更になるのに伴い、スワップションの時価変更をどのように決済するかという議論が盛り上がっている。CCPで清算される取引は権利行使後にCCPで清算され、自動的に時価が変更になり、CCPを通じて変動した時価分の精算が行われると思われるが、清算集中規制がかからずCCPでクリアしない取引については不透明性が残る。

各業界団体が混乱を避けるために何らかのプロセスを確立しようとしているが、それも合意ができた後の新規取引からの適用となるようで、既存の取引の決済については当事者同士の合意に委ねられることになる。ここで自分が得をする取引だけ割引率変更を行い、損をする取引については元の割引率を使い決済しないという参加者が出てくるのではないかという懸念が出ている。

確かに過去にOISディスカウントへの変更が起きたときには、これに乗じて利益を出した参加者は多く、大手ディーラーでもこれに乗じたところがあったので、その記憶があるのだろう。

とは言え、今回のLIBOR改革に乗じて自分だけが得をしようという行動を取る参加者は少ないのではないだろうか。前回のOISディスカウントへの変更とは異なり、当局も交えた議論になっているため、ディーラーサイドでこうした行動を取るところは皆無だと思われるし、当局がこうした行動は慎むようにとのコメントを一言でも出せば、混乱は避けられるように思う。当然あらゆる可能性を想定して対応を検討すべきではあるため、予断は許さないのは確かではあるが。

円の場合は既にOISディスカウントなので時価変更自体はUSDやEURほどの問題にならないと思われるが、ARRCやEUの代替金利関連の委員会で議論されているように、決済のやり方等に何らかの業界標準の方法が確立されれば、オペレーション面での変更が起きるかもしれない。

CEMからSA-CCRへの移行は進むか

米国当局は資本計算において従来のCEMからSA-CCRへの移行を、2022年1月1日の期限を待たずに、早ければ今年の4月には認めたが、日本や欧州の銀行はしばらくはCEMを使い続ける模様だ。CEMはいわゆる標準法のようなもので、想定元本に一定の掛け目を適用し、取引同士のネッティングを一定程度簡便法によって認めるものであるが、よりリスクを反映したSA-CCRよりは資本賦課が大きいことが多い。

欧州では早期適用を認める発言は聞かれていないため、米国が最初に資本削減の恩恵を被ることになる。顧客から受け取った担保と特にエクスポージャーの相殺ができるようになるため、特にクリアリング業務に対するインパクトは大きいものと予想される。とは言え、実際の計算をしてみるとそれほど効果は大きくなかったという声も聞かれるため、商品やポートフォリオによっては早期適用をしない方が良いということもあるようだ。

日本においては、元本に掛け目をかけるという方法は、そのシンプルさゆえかかなり広く使われており、資本計算のみならず銀行のリスク管理に使っているところもある。これによって一定の取引がかなり難しくなっており市場を歪めているのは明白なのだが、これを改善しようという声はあまり聞かれない。どんなに優良企業であっても外部格付がないために資本賦課が大きく取引ができなかったり、証券化関連の取引困難になったりという影響もあるのだが、取引毎に資本対比の収益性を考えるという慣行は、日本ではあまり一般的ではない。こうしたことの積み重ねが日本のROEの低さにつながっているような気がしてならない。

円は安全資産ではなくなった

ここのところの円安で、マーケットでは円は既に以前のような安全資産ではなくなったという声が大きくなってきた。これまで何かリスク回避的な事象が発生すると円が買われ円高になるというのが定石だったので、リスクオフに備えたヘッジとしてドル円ショート(円買い)を持っている投資家が多かったのだが、今回はこうした投資家は損失を被っており、損切に動いているように見える。

このブログでも従来のような円高が起きなくなっているという指摘を昨年からしてきたが、ユーロなど円以外のキャリー通貨が生まれてきたからという理由によるものだったのだが、今回の円安はやはり日本に対する不安という面が大きいように思う。それを裏付けるように、 今回の円安を引き起こしたフローは東京時間というよりはNY時間、LN時間で起きている。

FTにも書かれていたが、ウィルスの広がりとGDPの下落等の経済指標の悪化が円安を誘発しているという分析が支配的になっている。この状況下では日銀の更なる金融緩和の可能性もあるので、それが円安を加速させるという事情もあるだろう。日銀としては、長期金利は下げたくないものの、緩和をしなければならないということで難しいかじ取りが迫られる。これもあって黒田総裁の金曜のコメント(金利のターゲットの短期化)という発言につながったのかもしれない。そうすると10年をゼロとしていた金利のターゲットが例えば5年でゼロあるいはマイナス10bpとかになるのだろうか。

あとはFTが指摘しているように世界中の投資家が3月の年度末に向けたGPIFのリバランスに注目している。信託勘定が1月に2兆円の外債を買い越しているというデータも話題になったが、GPIFのリバランスを受けて他の投資家も外債投資に流れているという説だ。

クレディ・スイスの世界の富に関する報告書も注目を集めたが、2000年末から昨年半ばまでの間に世界の成人1人当たりの資産保有額は2.3倍になったのに対し、日本はわずか1.2倍となっている。このままではますます日本のプレゼンスは低くなってしまう。円安になればさらにこの差は広がるが、未だに円高は悪という意識がはびこっている。確かに自動車会社等の輸出企業にとって円高は厳しいのかもしれないが、本当に円高が悪なのかどうかはしっかりと分析をしてみる必要があるだろう。

担保需要の高まりと資金融通プロセスのオートメーション化

担保として拠出しなければならない流動資産に対するニーズが高まっているというペーパーがCapcoから出されている。今回の分析では推定$100bnを銀行やバイサイドの投資家が調達しなければならないという結果になっている。証拠金規制で当初証拠金の対象となる会社が今年の9月と来年の9月に増えていくことから、相対取引のIMニーズが高まり、清算された取引についてCCPに拠出するIMや清算基金ニーズも高まる一方である。

このコスト増により一定の方向の取引が困難になり、取引流動性が悪化するという事象も発生している。こうした流動性ニーズの高まりも米国短期金融市場の混乱につながっているのだろう。これ以外にも銀行はストレステストに備えて十分な流動性を確保しておかなくてはならず、何も使う必要もないが手元に置いておかなければならない。しかも国債ではなく現金が必要だったり、いざとなれば中央銀行貸出があるにもかかわらず、こうした貸出に頼る形にストレステストプランは認められない。もっとも米国で今月話題になっているFRBの方針転換(米国債を連銀準備預金と同等に扱うよう検討)は大きな前進である。

担保拠出の期限も以前は日本では3日の猶予があったが、最近は1日が普通になってきており、海外ではその日のうちに担保をやり取りするT+0決済も増えてきている。この負担を嫌うがために無担保にして取引をするバイサイドもある。日本の証券自己資本比率は海外に比べるとリスクに応じたものになっていないため、特にファンドとの取引を信託銀行経由で行う場合などは資本コストが大きくなり、バランスシートコストもかかる。通常はこうした取引を銀行間でヘッジするが、そちらは有担保かつ短期間でに担保授受となるため、厳密に計算すると全く割に合わないが、日本ではこうしたコストまで細かくプライスに反映させる慣行がないため、金融機関が腹切りで赤字を垂れ流しながら取引をするということになる。

また、担保決済や時価情報、その他様々な顧客要望に応えるコストもあるので、日本のオペレーションの負担は世界で類を見ないほど高く自動化も困難である。海外にオペレーションを移すのも日本語サービスの問題で限界がある。こうしてなるべく日本から撤退したいという本国の意向と日本で継続したい日本の支店、現法との闘いが永遠に続く。おそらくこれは過剰サービスを続ける金融機関が倒産し、数が少なくなるまで消耗戦が続くのだろう。

paypayなど即時決済ができるこの時代に、担保授受に2日欲しいとか3日かかるというのも理解に苦しむが、この決済のところを改善すれば、もっと効率的な取引が促進され、取引流動性も上がるのではないだろうか。為替の世界でもドルは通常NY時間での決済なのだが、日本時間にドルが欲しいとか言われると、数時間のファンディングが必要になる。これくらい何でもないと思われているのかもしれないが、厳密にここにもファンディングコストがかかる。CLS等の決済ができれば問題ないのだろうが、日本ではこれも遅れている。

あらゆるコストを犠牲にしてまで顧客サービスを充実させるというおもてなしの文化も良いが、このままでは海外との競争についていくことはできない。手数料競争激化もあり自動化を海外並みに進めていく必要性は誰もが理解しているのだが、すべてに完璧を要求する「お客様は神様」文化も変えていかなければならないのかもしれない。ただ、一部には、あまりにも日本の給料が安くなってきている上、サービスの質も高いので、機械化するよりは日本の安い労働力を活かしたらどうかという議論まで出ているのは皮肉ではあるが。