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FCA高官がLIBORの終焉時期についてコメント

英国FCAのSchooling Latter氏からLIBORの終わりを告げる時期が今年の11月~12月になるかもしれないというコメントが出てちょっとした騒ぎになっている。昨日のRisk.netのイベントでの発言のようだが、こうした早めの移行に備えて市場参加者は準備をすべきだと述べている。

LIBORがDiscontinueされるアナウンスはFCAかICEのベンチマーク管理者から公表されると述べている。

センセーショナルな言い方にもかかわらず、一方で2021年を超えてもLIBORパネル行がレートの提供を続け、LIBORがしばらく生き残る可能性にも触れている。どちらのシナリオの確率が高いかについては、敢えて言及しないとのことなので真意は図りかねるが、極力早めの準備を促したかったということなのだろう。それと、やはりISDAのFallback Protocolの批准を強く勧めたいということかと思われる。タイミングとしても11月~12月というのは、プロトコル公表の直後となるので、想定される時間軸としては最も早い時期になるものと思われる。

ISDAのプロトコルは批准しない選択肢を選ぶ市場参加者もいるが、このLIBOR Fallback Protocolに関しては、この様子だと多くの批准が一気に進むような気がしている。日本においても早めの理解と準備が求められる。

XVAデスクの優劣が金融機関の命運を握る

CVAから始まった各種評価調整だが、今やFVA、KVA、MVAとその対象が広がり、XVAと総称されるようになった。これに応じてCVAデスクの役割が広がり、ファンディング、担保管理、コンプレッション、資本計算など、あらゆる業務において中心的役割を果たす様になってきている。そして各金融機関が自身のポートフォリオを最適化するため、リスク削減と資本効率化のためにあらゆる管理を行っている。

以前はCVAを計算していない銀行にリスクの大きな取引を押し付けるという逆選択の問題が生じたが、今や一見リスクがないような取引についても、ファンディング、資本のBenefitを求めて様々な取引が行われている。つまり、クレジットリスクではなく、ファンディングや資本効果において新たな「逆選択」の問題が起きているのである。こうした取引は普段から単純なNovationの形をとって現れ、リスクがないからといってトレーダーが経済的に見合わない取引を受けてしまうことが起きている。特にこうした計算ツールを持たない金融機関に望ましくないポジションが溜まってきてしまっている。

例えば、担保契約上の適格担保が異なればデリバティブのプライシングは当然違ってくる。担保に円現金を受けている場合と、JGBを受けている場合ではその取引時価が異なる。CVAの場合は、クレジットリスクを取るという意味でもう少し分かりやすかったのだが、JGBを担保に受けている時に、現金担保と同じ前提で取引を積み重ねてしまうと資本効率が悪くなり、ROEが下がる。効率性など気にせずにシェアだけを求めている銀行には関係ないのだろうが、デリバティブのプライシング慣行を歪めてしまう上、今後の資本規制のもとでは大きな問題となりかねない。

SA-CCRを適用した場合の資本コスト、欧州の事業会社に対するCVA資本賦課免除の行方など、不透明な部分は大きいが、こうした規制資本動向を全く考慮せずに日々の取引をプライシングしている銀行は、数年後にROEの低下に悩まされることになるだろう。

今後SA-CVAモデルに移行していくと、全てのSensitivityが考慮できるわけではないので、これをどうプライシングに反映させていくかは、やっかいな問題である。海外大手行はAdvancedモデルから単純なモデルへの変更となり、資本効率も悪くなってしまう。とは言え、今まで何もしていなかった銀行にとっては、先進的なCVAシステムがない中でSA-CVAに対応していくというのも困難が伴うものと予想される。BA-CVAという選択肢もあるが、資本効率を考えるとやはりSA-CVAを適用するというのが自然な考え方だろう。

そしてCVAモデルに対するガバナンス強化も重要になってくるため、システム投資も欠かせない。現在日本において、例えばCVAのベガのSensitivityを日々計算できるところがいくつあるのだろうか。CDSの流動性がない日本において、Proxy Spreadを構築するMethodologyを確立し、当局承認まで取っているところがどこまであるのだろうか。

更に今後はLIBOR改革が控えており、来月27日にはEURのCCP割引率が、10月にはUSDの割引率が変更になる。これに合わせて各種ポートフォリオの変更が行われることになるが、当然CVA、FVA、KVAにも影響が生じる。こうした詳細を把握することなくLIBORからの移行が進むと、いつのまにか損をしているということになりかねない。CSAの変更はおそらく今年から始まると思われるが、これに際してXVAを正確に考慮した上で契約変更をできるところはどれくらいあるのだろうか。またFVA計算に用いるスプレッドにLIBORが考慮されているところは、LIBOR改革によって大きなPLインパクトが発生する可能性がある。

そして、Phase 5の1年延期が決まったとは言え、証拠金規制の動向もMVAに影響を与える。一部ではMVAをプライシングに入れる動きが見られるが、水面下ではMVAの大きな取引を、他社に移管しておこうという動きも見られる。

こうしたXVAを巡る様々な変化と進化を考えると、高度なXVAデスクを持たない銀行は、竹やりで戦闘機に立ち向かっていくようなものである。CVAについてはようやく国内での認知度が高まっており、日本のクオンツ部門やXVA専門部門の方々の理解度は他国に比べてもかなり高い。違うのは、こうした人達の声が上層部まで届かず、組織内での重要性が広く認識されないということなのかもしれない。CVAだけにとどまらず、XVA全般的の進化を進めていかないと、日本はまた金融の進歩から取り残されてしまうのではないだろうか。

CDSの回収率低下が語るもの

デフォルトした企業の回収率低下がCDSのオークション結果に表れ始めた。CDSのデフォルト判定は、ISDAが招集するDetermination Committeeによって決定され、その後のオークションで回収率が決まる。CDSを100買っていて回収率が40だったらCDSの決済額は60となる。40という価格はオークションにおける最安の債券(Cheapest to Deliver Bonds)で決まる。

この回収率はリーマンブラザーズ証券のように10%を割ることもあればフレディマック、ファニーメイのように90%を超えるものもある。JALは20%程度だった。これまでは40%台前半というのが平均的な回収率だったが、今年に入ってからの平均はその半分くらいの20%代前半になっている。これは金融危機の時を含めてほぼ最低レベルなのではないだろうか。しかも一桁台の回収率が目立つ。

もともと苦境に陥っていた会社がコロナ感染拡大による影響によってデフォルトしただけなので、回収率は低くて当然という意見もあるようだが、やはり今後の先行きの見通しが立たないため、オークションで高いビッドを入れられなかっただけなのではないだろうか。株価はコロナの影響をものともせず上昇しているが、それより慎重な債券マーケットにおいては、もう少し高くリスクを見積もっているように思う。そしてCDS市場に織り込まれているリスクは、リーマンショック時を超えているということになる。

株式についても強気な投資家が多いというよりは、各国中銀がお金をつぎ込んでいるため、株価が人為的に上昇しており、それについて行かざるを得ないという雰囲気のように思える。

V字回復を予想するレポートなども出ているが、債券市場を見ていると、あまり楽観的になれないように思うのは自分だけなのだろうか。

貸し出しレートはリスクフリーレートになるか?

USD建てのデリバティブ取引については、LIBORからSOFRへの変更が進んでいくものと思われるが、ローンについては、いくつかのレートが複数使われるのではないかという話が活発に聞かれるようになった。SOFRはリスクフリーの金利なのだが、銀行の調達には信用コストがかかっているため、SOFRで貸付をすると逆ザヤになってしまうという懸念が根強いためだ。特に3月のような市場混乱時には、この銀行の調達コストとSOFRが乖離し、銀行の逆ザヤが拡大してしまう。この問題を解決するために、2月にARRCとは別にCSG(Credit Sensitivity Group)というものが設置され、本件について議論を進めている。

SOFR以外の候補としては先日紹介したAmeriborのほか、ICEが提供するBYI(Bank Yield Index)というものがあり、IHS MarkitもSOFRに上乗せするクレジットスプレッドアドオンをCDSデータ等に基づいて作成しようとしている。

確かに市場混乱期に銀行の調達コストが跳ね上がり、リスクフリーレートであるSOFRがそれに応じて上がらないということは容易に想像される。このような状況で経済を支える為に経済対策としてローンを出すことを銀行に奨励すると、それに真面目に答えた銀行が逆ザヤで財務状況を悪化させてしまうというのは望ましくない状況だろう。当局間でも意見が異なるのか、Fedはそんなことは気にしていないが、OCCはことをもう少し深刻に受け止めているようだ。Risk.netで報じられている通り、3月初めはSOFRの方がLIBORより高かったが、Fedが流動性供給を始めたころからこの関係が逆転し、3月末には1m LIBORの方が1m SOFRより32bp高くなっている。

おそらく大手行はデリバティブの取引量も多いだろうし、SOFRへの移行にそれ程抵抗はないのかもしれないが、中小銀行や地方銀行などは、リスクフリーレートで貸し出しをするというのは、極めて厳しいことと捉えているようである。日本でも同じような議論が起こるのだろうか。

インデックス連動ファンドの増加が月末の市場変動を増幅させる

野村BPIなどのインデックスに連動するパッシブファンドが増えてくると、それに合わせたヘッジ等が増える傾向がある。そして月末や四半期末のその日の引け値に合わせてヘッジをすることになるので、一定の時間の取引量が増え、それが市場変動を大きくしている。

特に3月末は感染拡大による市場混乱から流動性が低下し、為替のロールへの影響が懸念された。為替などは3ヶ月フォワード取引などをロールすることが多いが、3月は流動性低下を恐れて少し早めにこのヘッジをする動きがあったと報道されていたが、この6月にも同じことが起きるかに注目が集まる。今のところ3月のような混乱は生じておらず、通貨ベーシスマーケットも落ち着いている。

当然ロールのタイミングを早めると月末や四半期末時点の価格との差が生じ、トラッキングエラーを大きくなる。かといって、その時点での流動性が枯渇していてヘッジコストが大きくなるのであれば、それも問題だ。トラッキングエラーとヘッジコストと比較となると、市場混乱時にはトラッキングエラーを犠牲にしても流動性があるうちに取引をしてしまいたいというニーズもあるだろう。

3月のような早めのロールが大規模に起きるとは思いにくいが、今後は市場流動性を注意しながら取引をするファンドが増えてくるものと思われる。その意味では今週以降のマーケットに注目したい。

米国ドル供給オペレーションが日本に与える影響

米国FRBがドル供給オペレーションを始めて3ヶ月になるが、引き続きこのスワップラインが使われ続けるかどうかに世界的に注目が集まっている。確かに3月にドルの調達コストが跳ね上がった時に、日本を含む多数の市場参加者がこれを利用することによりマーケットは落ち着きを見せた。コロナ関係の緊急オペレーションの中で最も効果のあったオペレーションと言えるだろう。

ただし、現状のレベルだとわざわざこのオペレーションに頼るよりはマーケットから調達した方が得策だろう。所謂Stigma問題(本当に資金調達が苦しいと思われてしまう等のリスク)もあるので、極力自らの資金調達を模索するインセンティブが働くというのもある。

まずは木曜に1000億ドル超が満期を迎えたが、今月末までに合計約3000億ドルが満期となる。Risk.netによれば、木曜の1000億ドルのうち300億ドルが日銀向けだったとされているので日本のシェアも大きい。全体では、日銀が2221億ドルで、世界全体の4469億ドルの約半分を占めている。欧州のECBを5割近く上回るというのはかなり大きい。

結局先週火曜の日銀オペレーションでは160億ドルと、初回の半分強だったので、利用額は減ったものの引き続き調達ニーズの強さが確認されることとなった。こうなるとFRBの今後の方針次第では日本の金融マーケットに大きな影響が及ぶのではないかと報道されている。裏を返せば、ドル資産に大きな投資を行っている日本勢が売りを浴びせれば米国市場に与える影響も大きくなるので、相互依存関係が強まっているとも言える。

個人的には160億ドルというのは思ったより多い印象だが、引き続き、日本企業にとってはドル資金調達というのは重要課題であり続けるのだろう。

GLOBALIZATIONからLOCALIZATIONへ

最近はグローバル化流れが終わり、自国第一主義への転換が進んでいる。ウィルス感染拡大により人の動きが制限され、国ごと週ごと地域ごとの政治運営が重要になってきているが、これは何もコロナによってのみもたらされたものではなく、数年前からの大きな流れだった。

移民排斥運動、英国のEUからの離脱、トランプ大統領の米国第一主義もそうだが、世界全体で協調していこうというよりは、自分の庭を守ろうという動きは世界中で見られる。日本でも〇〇ファーストとか、自分の周りを守ろうという動きは見られたが、各都道府県知事の動向がここまで注目されたことは過去になかったものと思われる。当時は不思議だった英国のEU離脱国民投票の結果も、実は時代を先取りしていたのかもしれず、コロナ後の世界においては他地域から隔離されている方がリスクも少ない。

本来であれば人類共生の方向に向かっていくのが望ましいはずなのだが、格差助長、貿易戦争、人種問題と、今まで溜っていたものが一気に噴き出した感じだ。私見(希望的観測?)ではあるが、こうした自国第一主義、自分さえ良ければという風潮は来年以降くらいからそろそろ終わりを迎えてくるように思う。

さてこのような流れの中金融でも当然国際協調は少なくなり、各地域で独自の規制を作る動きが出ている。CCPの自国主義もその一つだが、米国のクライアントは日本のCCPに参加できないし、海外CCPは日本で円CCPを手掛けることはできない。自国顧客を守るためには当然なのかもしれないが、例えばEUの顧客が米国のCCPで清算するのであれば、EUとしてはその米国CCPに、監督を含め様々な条件を課してくる。

今回はそのEUの流れに米国が待ったをかけた。Relariation(報復)という言葉で報道されているが、これを受けてEUも若干矛先を緩めた形だ。CMEやICEなどの米国CCPを細かく規制しようというなら、報復措置も辞さないということで、EUがESMAの提唱するCatch-allアプローチは断念することとなった。程度の差こそあれ米中貿易戦争と同じ構図だ。

また、Brexitによって英国がEUから離脱すると、当然EUとしては、EURのスワップが英国のCCPによって主に清算されるのは面白くないだろう。やはり国際協調というのは難しいものである。共通の目的を持っているはずのWHOでさえ、各国の意見調整が難しいのだから。

MiFID IIの修正はあるか

Research Unbundling ― 欧州で、トレーディングとリサーチサービスを切り離して、リサーチレポートを無料で受け取る代わりに取引をもらうという習慣が見直されたのは数年前のことになるが、Brexit後にこれがどう変わるかという論点が議論されるようになってきた。

2018年に導入されたMiFID IIの目玉として、市場の透明性を高めるために導入されたこの規制は、リサーチ業界を大きく変えた。ある程度予想されたことであったが、結局銀行が年間1万ドルといった固定サービスを提供するようになり、一つのレポートに2千ドルといった手数料をチャージする独立系調査会社が苦境に陥った。ファンドマネージャーはリサーチにかけるコストを削減し、結局手数料が半分になったという話もある。そしてカバー対象の企業も少なくなり、アナリストも人員削減の対象となり、リサーチ業界は縮小してしまった。

もともとはイギリスがこの規制の最大の支持者の一つだったが、Brexitで今後の動向が不透明になってきた。フランスやドイツなどは、どちらかというと規制変更を求めているという話もある。規制を完全になくすというところまではいかないだろうが、中小の調査会社に免除を与えるとか、ある程度の緩和が今年末までにも行われるという話になっているようだ。

もともと、リサーチレポートやマーケット情報などを定期的に提供する代わりに、その銀行に取引を持って行くということが、透明性と公平性の観点からは問題ということだったのだが、実はこれがそれほど大きな問題だったのか良くわからない。これを言い出すと、セミナー、接待を含む様々な顧客イベントを行うことも完全にアウトということになるのだろう。というよりリサーチより接待の方が問題なのではないかと思ってしまう。

Give and Takeというのはどこの世界でもあることで、いつも色々とお世話になっているから助けてあげるというのは人の世では普通のことである。もちろん、政治家の選挙の時のように、金品を配ってもらったから投票するということがあってはならないが、サービス業において、この線引きは非常に難しい。事務所開設祝いにお花を送るのも、海外コンプライアンス的には完全にNoであり、日本だけが特別に文化的に許されている。お花を送って数百円の図書カードやQuoカードが返礼されてくると、これは送り返さなければならない。お中元やお歳暮も同様に送り返すところが多くなってきている。

世知辛い世の中になってきたが、リサーチに関しては、しっかりした分析をするアナリストが激減して、中小企業の業務内容まで見る人が少なくなり、そうした企業が資本市場からの資金調達ができにくくなっているというのは、やはりどこかバランスがおかしいのではないか。法律事務所やコンサル会社でも、最初は無料でプレゼンをしたりすることがあるが、これを最初から手数料形式にしたら、コンサル会社は減ってしまうだろう。顧客訪問時に少し最新の市場動向の話をして、30分話をしたのだから1万円下さいと言ったら、顧客訪問はできなくなってしまう。

その意味で、欧州のMiFID IIの緩和がどこまで行われるかは注目である。

AMERIBOR?

パウエルFRB議長からLIBORの後継金利についてAmeriborの可能性が示された。ブロックチェーン技術を活用した金利指標だということは報道されていたものの、まさか真剣にSOFRと並んで候補になるとは全く思っていなかった。ARRCのBest PracticesやSOFRの使用は強制ではないとまで言ってしまっている。

ただし、地方銀行や中小銀行向けという趣旨のコメントで、全ての市場参加者には適切ではないかもしれないと述べているので、SOFRに完全に取って代わる訳ではなく、共存していくというニュアンスなのだろう。

American Financial Exchangeからポストされているニュースレターに内容が詳しく掲載されているが、ARRC推奨のSOFRをサポートするものの、ARRCの推奨やSOFRの使用はあくまでもVoluntaryであり、市場参加者はそれぞれの状況に鑑み最も適切な移行方法を探るべきだとしている。これまでARRCのBest Practices等に従ってプランを作り上げてきている大手金融機関が計画を変更するとは思えないが、LIBOR改革準備を進めてきた身としては、かなり驚きのコメントという印象を持ってしまった。少し動向を追っていった方が良いのかもしれない。

ついに日本の当局もLIBOR改革の対応を強く求め始めた

ここのところ日本のLIBOR改革関連の進展が遅い点についてコメントし続けていたが、ついに日本の当局からも具体的なアナウンスが出た。欧米でも良く使われる金融機関トップ向けの「Dear CEO Letter」というものだが、その対応について具体的な資料提出を求める形になっている。今後必要な対応としては、

  • LIBOR移行に関して職員が顧客説明できなければならない。
  • フォールバック条項の導入
  • 新規取引停止の目標設定
  • 来年1月からシステム取り扱いを可能にする

そしてこれらを遂行するためのプランの提出が求められている。日本のガイダンスにしてはかなり詳細まで踏み込んだ印象だ。提出期限が7月10日なので結構時間がない。これで急速に後れを取り戻せるよう業界の動きが加速することが期待される。

規制と流動性の相関関係

予想通りではあるが、欧州の社債の電子取引市場が昨今の市場変動期に機能していなかったというICMAの分析結果が報道されている。ボラティリティの上昇と流動性の低下に対応して、セルサイドは電子取引を一旦停止し、ボイストレーディングに回帰したようだ。バイサイドからもプラットフォーム上のプライスは執行不可能なレベルであり、RFQ(Request for Quote)にも対応してくれないところが多かったとのことである。

一時的に電子取引が増えた日もあったようだが、全体としては、電子取引に比べたボイストレーディングの量はかなり増えたようである。RFQの場合は最低3社といった複数社にプライスを聞かなければならないというのが最良執行の観点から求められるが、3社もプライスを返してくれるところがない場合も散見された。ICMAの分析では、ほとんどのディーラーは流動性を提供し続けたものの、最もサービスが必要なボラティリティ急上昇時には、ディーラーサイドの執行能力にも制限がかかってしまったとしている。

資本規制の厳格化やバランスシート制約が関係したのはもちろんだろうが、ディーラーサイドのリスク許容度や経験のあるトレーダーが少なくなっていることも理由として考えられる。これまで技術革新による電子取引は急速に進んできたものの、今回の混乱はマーケットメーカーとしてのディーラーの重要性を再認識させることとなった。

更に今回明らかになったのは、市場混乱期には決済のフェイルが多発するこということである。ここで、記事では欧州のCSDR buy-in-regimeに対する疑問を投げかけている。もともとこれは決済のフェイルを少なくするための規制なのだが、これによって市場流動性が更に損なわれてしまうという懸念が強くなってきた。2021年初めにも導入されるこの規制についても、更なる議論が必要だろう。

規制で金融機関に対する縛りを厳しくすれば、当然金融機関のマーケットメークには影響が及び、供給できる流動性にも制限がかかる。これを全て国や中央銀行で補えれば良いのだが、それはあまりにも非効率である。常に流動性確保という市場の大命題を念頭において規制を考えていく必要があるのだろう。

市場の楽観論と現実の乖離

NYSEがトレーディングフロアを閉鎖してから2か月経ち、4人に1人ではあるが、人がフロアに戻り始めた。NYでは、交通量も増えレストランの予約も増え始めたようだ。3月後半以降の株価上昇は、このようなセンチメントを表しているのだろう。米銀の収益は今四半期も好調とのニュースが出始め、金融市場には楽観ムードが漂っている。

とは言え、今後企業倒産が増えることは確実であり、失業率も上昇し、旅行や映画などの娯楽がすぐに元の様に戻るとは思いにくいため、行き過ぎた楽観論が市場を支配しているような気がしてならない。周囲の市場う関係者もほぼ同じような警戒感を持っているため、この株価上昇はどこか心もとない。

FTに紹介されていたエコノミストの予想によれば、航空業、ホテル、娯楽施設は以前の50%-65%の稼働率と予測しているが、不動産、ヘルスケア、建設、いわゆる士業と言われるプロフェッショナルサービスなどは100%戻るとのことである。たが、この数か月間レストランに行かなかったとは言えそれを補うほどに食べまくることはできないし、長らくしていなかった散髪をこれから週に一回にするということは起きないだろうから、全てのサービス業が戻るとは思えないし、レストランなどはかなりの数が廃業に追い込まれるだろう。

また、過去の疫病の事例を見てみると、一度で終わったことはあまりなく、第二波、第三波が来るのが普通である。そして第二波が毒性が強くなることも多いため、まだまだ完全に楽観できる状況にはないと思う。それよりか、リモートワークの拡大やオフィススペースの減少など、産業構造を変えてしまうような変化が起きることになり、以前に戻るというよりは違う世界が来るということになるのだろう。

このようなセンチメントが支配的な時には、何らかのニュースをきっかけに市場が大きく変動することが多い。引き続き注意深く市場を見守る必要がありそうだ。

ARRCのLIBOR改革BEST PRACTICESガイドライン公表

昨日ARRCから公表されたLIBOR改革のBest Practicesガイドラインが注目を集めている。今後の具体的なスケジュールが細かく設定されており、これからはこのタイムラインに向けて業界が動いていくことになりそうだ。

米国のGDPの10倍の200兆ドルにものぼる巨額のLIBOR参照資産の移行に支障が生じると、市場混乱につながるため、早急に準備を進めるべきという趣旨になっている。このガイドラインはあくまでも規制で定めたルールではなく、市場参加者が自らの規模やビジネス特性に応じて、自主的に利用すべきものとされているものの、ARRCメンバーには、当局関係者も含まれており、単なるガイドラインよりは強い意味合いを持つのではないかと予想される。日本においてもこのタイムラインは意識しておく必要があるだろう。

主な論点として以下の4点が強調されている。

  • 新たなUSDLIBORのCash ProductsについてはARRCが推奨したFallbackの文言を入れるべき
  • LIBORからの移行に関するベンダーはSOFRをサポートするための準備を年末までに完了させるべき
  • 商品毎に定められた期日以降は、新たなUSDLIBORの使用をストップさせるべき
  • LIBOR消滅後に代替レートを相対で決める場合は、適用半年前までには、選択する代替レートを公表すべき

商品別には例えばデリバティブ取引に関するものを抜粋すると、以下のようなガイドラインとなっている。

  • ISDAのFallbackプロトコルが公表されてから4か月以内に批准
  • ディーラーはSOFRデリバティブに対する流動性を顧客に提供する様努力する。
    • 今年9/30までにSOFRスワップの電子によるマーケットメークを提供
    • 年末までに担保金利をSOFRにするCSAの修正
    • 年末までにSOFRリンクの金利オプション取引を提供
    • 来年末までにUSDのデリバティブ取引をQuoteする際のMarket ConventionをSOFRに変更

他にもビジネスローンについては、来年の6/30移行は新規USDLIBOR参照ローン(満期が2021年末を超えるもの)の提供をストップ、Closed-endの住宅ローンについては、今年の9/30が期限になっている。

ここまではっきりとしたタイムラインが決められると、業界全体で努力を継続しようという機運が高まるため、今後は移行準備が加速することになるだろう。2021年を超える満期の住宅ローンが9/30以降全てSOFRベースになり、USDの金利スワップなども来年6/30以降はSOFRだけになったりと、あまり時間がない。CSAの変更も年内に終わらせる必要がある。ここまでくると、日本の遅れが世界的にも目立ってきており、個人的には大きな危機感を抱いている。

ドルの覇権がさらに強固になってきた

基軸通貨としてのドルの役割は、EURや中国の台頭にも拘わらず盤石であり、それがこのコロナショックで更に強固なものになっているという社説がFTに出ていた。まさに同じことを常々考えていたため、この内容には激しく同意したい。

もともと各国とのスワップラインは、ECB、スイス中銀、日銀、英国中銀、カナダ中銀と締結されていたのだが、今回メキシコやブラジルなどの9か国が追加になっている。リーマンショック後には特に欧州でドルファンディングに苦しむ金融機関が増えたため、このプログラムのメインユーザーは欧州だったのだが、今回それが日本へと変わっている。FTで紹介されている数字を拾ってみると、スワップラインのある14か国のうち10か国が$446bnのドル調達を行っている。これによって各種通貨ベーシスが急速に縮小したのは記憶に新しい。

まさに今回のFEDの危機対応で最も効果があったのはこのドル供給なのではないかというFTの記者の意見も、日本の市場関係者の意見を聞いていると、あながち言い過ぎとも言えないだろう。2月に日銀が$224bnのドル調達を行ったと報じられているが、これはECBの$143bnを大きく上回っている。日本の生保の短期為替スワップによるドル資金ニーズは$1tnに上るだろうというコメントも紹介されており、生保以外では、日本の系統金融機関、地銀の具体名まで報道されている。

これは日銀のレポートやIMFのレポート等でも何度も紹介されている点なので特に驚きではないが、ここまで日本の投資家の動向が注目を集めているというのが興味深い。日本ではそれほどまでに投資するものがないため、海外資産に流れているという姿が国際的な金融業界の常識となっている。

こうしたドル供給プログラムは、基軸通貨としてのドルの地位を更に盤石なものとしている。各国中銀がFEDの支店のような動きをさせており、米国支配が各国に及んでいるのではないかという記者の意見は最もである。

外国に頼らないよう食料自給率を高めるべきだという意見は必ず聞かれるが、米国FEDに頼らないよう自らドル資金調達能力を高めるべきという議論はあまり聞かれない。しかし、根底にあるのは同じような考え方であり、ドル資金を完全に海外に頼ってしまうのが得策なのかはよくわからない。今回のコロナショックでも、FEDがこのドル供給を行わなかったら、日本の市場は大変なことになっていただろう。やはり海外資産への投資を行う投資家あるいはそれをサポートする金融機関は、何とかドルを安定調達できるような準備を整えていくことが重要なのだろう。

日本の金融にテレワークは根付くか

今回の感染拡大を受けて、各社ともテレワークを促進させるかと思いきや、いずれはオフィスに戻るというプランがメインで、海外のように在宅勤務継続を考えているところが少ない様に思える。

やはり、コンプラ意識の高い日本の金融機関の場合は、家から取引をするというコンセプト自体がなじまないのかもしれない。そもそも、資料を社外に持ち出すことが固く禁じられ、職場に入る時には携帯電話を預けたり、メールは全て上司の承認なく外部に送れないというところもあると聞くが、こうした厳格なコンプライアンスポリシーを採用するところが、在宅勤務を容認するとはあまり思いにくい。したがって、在宅勤務というよりは、自宅待機になっているのではないだろうか。

海外大手銀行の状況についての記事を見てみると、郊外オフィス設立や在宅を永続的に組み合わせると考えてるところが多そうだ。JPMは当面の間オフィスは半分程度の密度に抑え、自分の席とは異なる離れた席、異なる階のデスクを使えるようにしているようだ。GSはパリのオフィスは20%を上限としており、フランクフルト郊外に二つのオフィスを用意し、それらのオフィスと在宅の3チームに分けてローテーションをしており、その他のオフィスも既に安全面での対策を施して会社に戻れる準備をしている。CITIはNew Jersey、Westchester、Long Islandといった郊外のオフィスを借りる報じられている。日本より密度は低いはずだが、通勤リスクに対する懸念への対応を行おうとしている。人の動線を一方通行にしたり、エレベーターの最大人数を6人にしたりという対策が一般的のようだ。

確かに郊外にオフィスを構え、人を分散させるのは、コスト面でも通勤面でもプラスが大きい。NY郊外ではこうした不動産に対するニーズが急速に高まっている。満員電車の問題が大きい日本でもこういった動きが加速すると良いのだが、未だ大きな動きは見られない。

やはり役所が率先して地域分散を図るとか、オフィス分散を促すインセンティブを与えないと日本は大きくは変わらないのかもしれない。

金融におけるガラパゴス

コロナショックにより人の移動は少なくなるものの、お金の動きなど金融に関しては引き続き世界とのつながりが深くなっていく。特にデジタルエコノミー、電子マネー、即時決済等、今後の金融は極力標準的であった方が有利である。

その意味で、昨日コメントしたようなレポなど、やはり極力標準的なやり方に揃えていかないと資金が日本に流れてこない。日本には日本のやり方があるため、それは極力大事にすべきという論調もある程度理解できるのだが、こと金融に関しては、これが裏目に出ているケースが多い。本来はJust in timeなど、日本で優れたやり方を開発してそれを海外に広げれば良いのだが、残念ながら金融に関してはお世辞にもうまくいっているとは言えない。以下いくつか例を挙げてみる。

税制
レポについての記事でも書いたが、税金の扱いが異なることによって日本からビジネスが逃げているものが多い。例えば、危機に瀕した海外銀行が、ローンやデリバティブポートフォリオを二束三文で売り出した時、日本の金融機関がこれを買うのは難しい。海外では1億円の不良債権化したようなデリバティブポートフォリオを1千万円で買えば、そこにXVAなどのリザーブを引いたその時の想定利益に対して税金がかかるが、単純化していうと9千万円に税金がかかってしまっていた。当然CVAの導入に合わせてこれを変更しようという努力は続いているため、将来的には問題なくなるだろうが、不良債権処理が進みにくい理由の一つになっている。

選択権付債券売買取引
これはグローバルではBond Optionなのだが、日本では全く別の形態で取引が続けられている。実態としてはBond Optionというオプション取引なのに、日本では債券売買として扱うため、外資系の日本法人の帳簿管理上非常に面倒な処理が入る。そして、これはほとんど無担保で行われるので、証拠金規制の対象にもならないため、担保を避けるためにも使われてしまう。ほかのデリバティブ取引とのネッティングもできず、システム上もデリバティブとしてブックされないよう、グローバルシステムに特殊な変更を入れる必要がある。

着地取引
これも日本独特のルールがあるため、海外からBond Foward取引が来た時も、着地取引に該当する可能性があるからと、コンプライアンス部門が保守的なところでは、様々な制限をかけられてしまうこともあると聞く。選択権付債券売買と同じく、これも無担保でISDA上のネッティングができないためにリスクが大きくなるのだが、日本だけ特殊な扱いになっている。米国でも決済までの期間が長いものについては無担保であった時期があったが、現状はMSFTA(Master Securities Forward Transaction Agreement)によって標準的な取引方法が確立しつつある。
ひょっとしたらこうした取引にすれば取引の時価評価をしなくても良いというルールを作れるところもあって、期間損益を自由に操作できるということもあるのだろうか。証拠金規制や各種デリバティブ規制が入ってきたにも拘わらず、なかなかこれらの取引がなくなる気配がない。ISDAマスター契約がここまで標準的になり、各種規制もこれを前提に作られているので、こうした日本独自の取引形態は極力グローバル標準に近づけていった方が望ましいと思われる。

Derivatives Discount
通常デリバティブ取引は、適切な割引率で時価計算が行われる。円担保であれば翌日物無担金利、ドル担保であればFF等市場標準ができているが、日本ではこうした変更が追い付いていないところがあり、必要担保額の計算で未だに金額が合意できない。未だに無担保も有担保も同じ割引率を使っているところすらあるかもしれない。LIBOR改革でEURとUSDの割引率変更がもうすぐ起きるため、海外では急ピッチでシステム改訂が行われているが、日本であまり話題にならないのは割引率が適当だからなのだろうか。さすがに今はないだろうが、支店によってシステムが違うため割引率が違う事があるという話を昔聞いたことがある。割引率が違うということはデリバティブ取引の時価が違うということであり、財務諸表が正しくないということになるため、海外ではかなり神経質にチェックされるのだが、LIBOR改革もあるので、日本も海外並みに厳格化していく必要がある。

印鑑文化
コロナショックが起きて真っ先に3/8にこのブログで書いたのが印鑑文化の見直しであるが、その後各種メディアでも大きく取り上げられるようになり、一気に見直し機運が高まった。ただ、今でも郵送以外を正式な書類としては受け付けないところ、マージンコールもメールだと気づかないので、FAXか電話を要求するところなど、自動化に逆行するリクエストは多い。口座開設にしても印鑑証明書という独自文化は海外投資家には理解不能で、逆に部長印などを押されても、そんなものは誰でも押せるではないか、きちんと権限のある人が押しているのかと疑われる。印鑑証明書等の各種証明書類も役所に取りにいかなければならず、契約交渉が長引くうちに6ヶ月の期限切れになり、新しいものを依頼したら、面倒だからもう諦めると言われたこともある。この状況ではとてもでないが、海外投資家を国内に呼び込むのは難しい。収入印紙も実物を貼って印鑑を押したりするのはあまりにも面倒だ。

他にも多数あるが、残りはまた別の機会に書き足したい。

レポ取引の国際化

金融のあり方は各国で異なる進化を遂げたため、国によって異なる制度があるのは当然であるが、国境のない金融においてはグローバルスタンダードというものが出来上がりつつあり、バーゼル等の規制がその方向に沿って作られるため、そこから外れると金融の進化に取り残されてしまう。

一つの例としてレポ取引がある。レポ取引とは、債券を後で買い(売り)戻すことを条件にした売買であるが、日本では、現金担保付きの債券貸借取引が1996年に始められた。細かいことは省略するが、海外では売買として扱われることが多いのに比べ、日本では貸借という印象があったが、現先取引は売買形態である。

やはり日本はローンの世界が中心だったからか、レポ取引は国債を担保として貸付として始まったように思う。ここで、日本独自の問題、いわゆるレポ取引事件が起きた訳であるが、詳しくはWebで。

ここで税金がかかる(レポ金利が貸付金の利子となるため源泉税の対象となる)ということから、海外投資家などは日本国債レポ取引を行いたくても日本の金融機関とは取引ができず、わざわざ、海外法人か日本の金融機関の海外現地法人と取引を続けてきた。日本のビジネスが海外と異なる税金の扱いにより海外に流れるという典型例である。

それでも、特に大きな問題なく取引が続いていたのだが、今度は英国がこの取引に対して税金をかけ始め窮地に陥ったのが、5年ほど前である(正確には税金をかけ始めたというよりは、日本国債の格下げによりUK Levyの税金免除規定から外れてしまった)。

本来であれば海外同様、レポ金利を貸付金の利子としての源泉税の対象とすることを止めれば良いのだが、これには深い歴史上の経緯があるためなかなか難しい。あとは、海外投資家を日本の登録金融機関や外国金融機関等の定義に入れるか何かして、源泉税の対象から外すしかなかった。

日本の当局も手をこまねいていたわけではなく、税制改正を行い、時限措置ではあるものの、海外投資家に対して実質的に源泉税がかからない措置を導入することに成功した。過去のしがらみからか、正攻法で国際的なスタンダードに合わせるところまではいかなかったが、それでも海外ファンドとの日本国債のレポ取引が源泉税無しにできることとなった。

しかし、今度は日本の金融機関と口座開設するには、日本独自の慣行(必要書類の多さ、印鑑証明、パスポートコピーなどなど)がネックとなり、結局あまり口座開設が進んでいないという話も聞く。

今回マイナンバーを使った10万円給付金支給申請を巡る混乱を見ていて、ある意味当然と思ってしまったのは、こうした日本の金融取引で、手続きが滞るのを数多くみてきたからかもしれない。しかし、こうした面倒な手続きを改善すべく要望を上げてこなかった金融機関側の責任もあるのだろう。

金融業界に在宅勤務は根付くか

各社ともオフィス復帰に向けたプランの策定を行っていると思うが、海外に比べると日本の計画はかなりスムーズだ。なぜかというと、海外では職場に戻りたくないという意見が多い一方で、日本の場合は戻ることに抵抗のない人が多いからだ(というかそう言えない雰囲気があるのかもしれないが)。もちろん、感染者数や死者数が少ないという事情もあるとは思うが、会社が戻ると決めればほとんどの社員が満員電車で通勤を始めることになるだろう。

オフィスの安全対策に関しても、中国やシンガポールのように当局からの立ち入り検査で検温やデスクの距離等を測ることが義務付けられているところもある。日本の場合は各社の判断に任されるところが多い。経団連がある程度のガイドラインを公表しているが、海外は米国CDC英国政府などが詳細なガイドラインを公表している。

本当は家に妊婦がいたり、喘息持ちのお子さんがいたり、基礎疾患のある両親と同居していたりと、できれば在宅勤務を続けたいと心の中では思っていても、実際には言い出せないという人達のケアが日本では最大の問題となっているように思う。

その中でも不思議なのは、特に金融機関においては、在宅でトレーディング業務を行ったり、決済の業務を行うのは当局が許さないから、オフィスに来ざるを得ないという意見があるという点だ。おそらく日本の当局もそんなに理不尽ではないし、密を避けるためにトレーディング業務に関係する人達には出勤を義務付けるということはしないと思うのだが、コンプライアンスの強い日本では、お上に忖度して必死で出社を続けるというのが常態化しているように思える。中には、他社とは異なり自分たちは皆出社して顧客サポートをしていることを売りにしているところもあるかもしれない。

確かにトレーディング拠点として登録もしていない家から取引執行をするのは常識的にあり得ないというのももっともなのだが、今後は場所がそれほど意味をなさなくなるのではないだろうか。例えば自宅から会社のPCにリモートログインして取引執行した場合は、オフィスからの執行という整理はできるのだろうか。でもこうなると、例えばハワイから日本のオフィスのPCにログインして取引した場合、取引拠点は本当に日本なのかなどという議論が巻き起こる。税金上の拠点や準拠法等整理しなければならない点も多いのかもしれないが、海外では普通に在宅からのトレーディングが一般的になっている。

日本のコンプライアンス的には、その場合拠点登録が必要だとか、法廷帳簿上の届け出はどうするのかと至極全うな意見が主流になる。そうなると、全員出社が原則になるが、出社人数を減らすという政府方針に従うためには、取引を抑えるというのが唯一の解決法になる。JSCCの取引件数や金額を見ていると、確かに3月以降急速に取引が細っている。一方LCHの円金利スワップの取引量は減っていない。海外当局が緊急対応のために録音義務を緩和したりと様々なアナウンスを出しているのとは対象的に、日本ではおそらく当局の意思に反して取引量を抑える方向に行ってしまっているのではないだろうか。こうした文化は本当に当局から何らかのガイダンスが出ない限りきっと変わらないのだろう。

米国金利はマイナスになるか

先週木曜日にFed fund futuresの動きが示したように、米国金利がマイナス金利を初めて織り込み始めた。FRBは長らくマイナス金利政策に反対してきたが、今後他国のようにマイナス金利政策に突入するかに注目が集まる。

ただし、これまでの様々な中央銀行関係者のコメントを見ていると、マイナス金利政策を支持する声は極端に少ないので、このままマイナス金利に突入するとは予想しにくい。日本を含む他国の例をみても、これが経済にとってプラスの影響を与えるとは結論付け難いということなのだろう。

日本の場合は、マイナス金利といってもTIBORや、個人の住宅ローンの変動金利は短プラ連動ということでプラスに保たれている。つまり、ある程度の銀行の利ザヤが確保されている形になっているのだが、米国だとこのような金利政策は困難だろう。そうなると、銀行に対する副作用は日本より大きなものになるのは間違いない。とは言え、米国でも昨今の金利低下にも拘わらず住宅ローン金利が下がっていないというニュースがあったので、日本と同じような金利構造になる可能性はあるが。

今回のコロナショックに際して、銀行はやはり完全な営利企業というよりは、経済を支える公の役割があるということがはっきりした。破綻をする営利企業でありながら、経済合理性だけで企業運営ができる訳ではなく、政府の意向を受けながら経済を支えるという役割を持っており、特に日本ではこの傾向が強いように思う。

したがって、欧米のように規制を緩和したり資本規制を一時的に緩和してローンを出しやすくするような方策は必要なく、当局がある程度何らかの形で意向を伝えれば、銀行が必要な行動が取れるようになっているのではないか。あるいは、意向を伝える必要すら必要ないのかもしれない。

英国が金融を引っ張り始めた

英国当局が各種規制導入時期についてのロードマップを木曜に公表した。Brexitへの準備、新資本規制等、一年以内に施行予定だった規制の約2/3が延期となっている。特に7月までに大きな作業が必要な項目がかなり少なくなっている。一方で、延期されてない項目も多数あり、これらが重点項目として認識されているのがわかる。

金融のEUからの離脱に関するものや、国際金融機関の支店に対する監督等、自国内の金融を守るための政策は引き続き進めたいということなのだろう。今後国と国とをまたぐ取引、移動等が少なくなっていくことを考えるとBrexitは時代の先を行っていたと言えるのかもしれない。お金には国境がないため、物流の様に資金移動が止まることはないだろうが、それでも国境をまたぐM&Aや輸出入にかかる資金取引が細ることが予想され、金融取引にも何らかの影響が出てくることが予想される。イギリスのように、EUから離れて自国の政策を考える国の方が、小回りも効き、今回のように迅速で柔軟な対応ができるというのは今後大きな強みなのかもしれない。

さて、その他注目規制アジェンダとしては、Basel IIIとLIBOR改革があるが、こちらは若干の微修正はあったものの、予定通りのスケジュールとなっている。

いずれにしても、最近はイギリス当局の積極的な動きが目立つ。EUという足かせがなくなったことも関係しているかもしれないが、調整が必要でかつ独仏に頼ってしまう傾向のある欧州に比べて、矢継ぎ早に政策修正を行っているように見える。LIBOR改革も英国当局が引っ張っているような印象さえ受ける。

同じ島国で足かせもないのだが、やはり金融に関しては日本が世界を引っ張るというのは難しいのだろうか。行き過ぎた金融規制に関する金融庁高官からの数年前のコメントは海外でもかなり注目されたが、欧米から離れた日本も何か金融に貢献できることがないわけではない。人材はいるのだから金融関連の政策を検討する専門集団でも作れないのだろうか。