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関係会社間取引の清算集中・証拠金規制

2週間前の11月17日、ISDAをはじめとする5つの業界団体が、欧州委員会および欧州監督当局に対し、関係会社間取引の清算集中・証拠金規制の一時的適用除外の延長を要求した。

欧州では、関係会社の一つが欧州域外にある場合は、清算集中規制と証拠金規制の対象としていたが、一時的措置として2022年6月30日までの免除が認められている。当然EMIRに基づいて、そのグループ企業の属する国で欧州規制との同等性が認められれば規制免除になるのだが、同等性が認められないと規制対象となってしまう。

この一時的免除の延長がなされないと、EU域内のデリバティブユーザーは、EU域外との関係会社との取引についてCCPにおける清算集中をするか、証拠金規制にもとづいて担保授受を行わなければならない。

既に関係会社間取引についてはVM CSAを締結して変動証拠金の授受を行っているところは多いと思うが、これがIMにも拡大されてしまうと、かなりのコスト高になる。CCPでの清算が義務付けられるとCCPのIM拠出の他、Operation面での手間も増える。

個人的には延長されることになると予想しているのだが、恒久的免除までは踏み込まないと思うので、常にこの議論が続いていくのだろう。そして欧州と英国等の関係が悪化した際にこの免除が打ち切られる可能性もある。

規制を強化する方ばかりに注目が集まり、流動性悪化に伴う、ユーザーの不利益やコスト増がないがしろにされているのが若干気になる。これが流動性に悪影響を与えないことを祈るのみである。

清算集中規制の変更について

いよいよLIBOR移行も大詰めを迎え12月6日からは円LIBORスワップの清算集中規制もTONA Swapに変更になる。金融庁BOEESMACFTCとそれぞれ市中協議を行っているが、日本は確定、英国もそろそろ正式発表となる。ESMAは11/18に、CFTCは11/18に公表されたばかりである。

ESMAについては、JPY LIBORスワップの清算集中義務はなくなるもののTONA Swapについては何も記述がない。CFTCは市中協議が始まったばかりのようだ。

金融庁のページでは、「LIBORの恒久的な公表停止に伴う「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第二条第一項及び第二項に規定する金融庁長官が指定するものを定める件」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」という表題で公表されている。見慣れている業界関係者には何のことはないのだが、これがLIBORからTONAへの清算集中義務の変更を指すものなのかがわかりにくいからか、いつも問い合わせがくる。きちんと改正の概要のところを見れば問題ないのだが、Googleサーチでも該当のアナウンスにたどり着けずに苦労している人も多い。

清算集中義務およびETP規制の対象をLIBORからTONAに変更する件といった具合にわかりやすくなれば良いのだろうが、法律の改正がからむので変更は難しいのだろう。海外の方が何についての市中協議なのかがわかりやすいのは事実である。

告示案についても、見慣れた人には問題ないものの、どこが変わったのかは素人目にはわかりにくいようだ。特に海外から日本に進出してくる市場参加者にとっては、これが参入障壁という人もいた。誰も規制違反をしたくないのでしっかりチェックしようと思うのだが、これは日本の規制の専門家ではなくては本当に分かりにくい。きちんと対応しようと思うとコンプライアンスオフィサーが必要になるのだが、バイリンガルのコンプライアンス担当はそれほど多くない。

その他TONA複利(後決め)で金銭の支払いの周期が1年のものとなっているが、では金利支払いが半年のものはどうなのかという問い合わせも多い。LIBORからFallbackしてしまったSwapなどは標準的なOISでないため、金利支払いが半年周期だったりするので、混乱が生じている。

告示を見る限り、明らかに金利支払い周期が一年ではないものは清算集中規制対象以外と読める。しかし全体が難しく見えるためか、顧客にそう言い切ってよいかというと、確かに一瞬ひるむ。後で問題になると訴えられる可能性もあるので、法的アドバイスはできませんと答えるのが常套手段なのだろうが、いかにも感じが悪い。

別途分かりやすい資料等を出していただいているので実際は問題ないのだが、市場参加者の多くが混乱しているのを考えると、少しアナウンスの仕方を見直しても良いのかもしれない。

G-SIBSのインパクトとCCPのエージェントモデル

今年もG-SIBsの発表があった。海外ではかなりの注目を集めており、今後バランスシート削減の動きが活発化し、市場にインパクトを与えるのではないかと懸念されている。これまでスコアの削減を進めてきたJPMが2.5%のカテゴリ4に上がり、他にもBNPがカテゴリ3に、GSがカテゴリ2に上がった。最近スコアが上昇してきた日中銀行にカテゴリの変化はなかった。邦銀ではMUFGがカテゴリ2、SMBCとMizuhoがカテゴリ1となっている。

G-SIBsというとグローバルなシステム上重要な銀行ということで、何やら名誉なことのように勘違いする人もいるが、単に破綻した時の影響が大きいので資本を多く積み増さなければならないというものであり、欧米行は必死でスコアの削減努力をしている。ここ数年のスコアを見る限り日中の銀行はこの辺りに無頓着なのか、スコアが上がってきている。カテゴリが一つ上がると最低自己資本比率が0.5%上昇するので、本来は全力で削減努力をした方が経営効率が高まる。

また、G-SIBsスコアを下げるために、CCP向け取引の取り扱いを巡って業界を上げたロビー活動が行われている。通常CCPの清算方法にはPrincipalモデルとAgencyモデルの二種類がある。LCHなど欧州、英国ではPrincipalモデルが使われることが多いが、CMEなど米国ではAgencyモデルが使われている。

Principalモデルでは、CCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agencyモデルでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

先ほどのG-SIBsスコアの計算上は、規模に関する指標を計算する際に、Principalモデルの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agentモデルでは、このような二重計算はなくなる。このため、業界団体は、欧州のCCPに対して、米国と同じようなAgentモデルを使えるようルール変更ができないか模索している。どうやらPrincipalモデルからAgencyモデルへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているようだ。

いずれにしてもG-SIBsを理由にこのようなロビー活動が行われているということは、いかに銀行がG-SIBsスコアの削減を重視しているかということを示している。日本ではあまりこのような話は聞かれないが、欧州がAgencyモデルを使えるようになると、ますます日本の銀行がG-SIBs上不利になってしまうのではないか。

日本のCCPがどちらのモデルを使っているかはよく話題になるが、日本ではPrincipalモデルとAgencyモデルの中間のようなモデルになっている。日本語では、「代理」、「仲介」、「媒介」、「取次」といった形態があるのだが、Agencyモデルに当たる「代理」ではなく、「取次」の形が取られている。

解釈が分かれるところなのかもしれないが、「取次」の場合はAgencyモデルととらえることができず、二重計上の問題が発生すると考えるのが自然かと思われる。つまり、欧州CCPがAgencyモデルを採用すると、世界の主要CCPで取引が二重計上される手法を使うのは日本だけとなってしまうかもしれない。

いくら今は日本の銀行がこの辺のことを気にしないとはいっても、所要資本が上がればROEが下がり、経営効率が下がる。海外でロビー活動が進んでいるのであれば日本も何かしないと、世界からまた後れを取ってしまうのではないだろうか。

米国債市場改革の行方

米国債市場改革を巡る議論が活発になってきた。昨年3月にコロナウイルスのパンデミックに怯えた投資家が保有国債の一部を売却しようとした際に市場が混乱したのが直接のきっかけだろうが、実はその前から米国債市場は非常に脆弱な状況にある。何度もここで紹介してきたように、銀行のバランスシート規制、資本規制によるコスト増のため、銀行が国債を持つことができなくなっており、規制見直しを求める声も大きくなっている。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、バイデン政権の高官とともに、国債の取引や規制の方法を変える必要があると述べた。「昨年の春に見られたような、重要な金融市場の深刻な混乱は稀だが、次の大きなショックに耐えられるように、国債市場を補強する方法を考えなければならない」と語っている。

FRBは、既にある程度の措置を講じており、一定のレートで証券を現金と交換することを可能にする2つのプログラムを7月に恒久化したが、これだけでは不十分との意見が多い。

SECのゲンスラー委員長は、自己勘定取引を行っている企業にSECへの登録を求め透明性を高めるを提案している。これは裏を返せば銀行に対する規制を緩めて流動性を高めるというよりは、高頻度取引の会社等の新たな参加者を増やすことによって問題解決を図ろうとしているようにも見える。

ゲンスラー委員長は、CCPの必要性についても力説しているが、これには同感で、CCPで清算した部分について、銀行に課せられているバランスシート規制の対象外とするのが最も望ましいと思う。コスト増やCCPへのリスク集中を懸念する意見も出されたようだが、今の資本コストに比べればはるかに安くなる。銀行に対する規制緩和が望めない現状では、CCPによる清算拡大以外に道はないと思う。

当然実務家サイドは、資本規制の変更が主張している。本来これが最も流動性向上には有益なのだが、民主党政権のもとでこれが銀行規制緩和が行われる可能性は極めて低いと思わざるを得ない。政治というのは本当に難しい。

EUからのLCHアクセス期限が再延長

EUの金融サービス担当委員が、先週11/10に、EUの銀行がLCHなどの英国CCPでの取引清算を2022年6月の期限移行も継続できる見通しであるとコメントした。

EUはもともとはこの取引清算ビジネスを欧州域内に持っていきたいという強い意向も持っていると思われるが、その移行は遅々として進まない。ユーロ建ての金利スワップは未だ9割がLCHで清算されている。

今回のコメントは、北アイルランド議定書をめぐる英国とEUの関係悪化による影響を受けているという報道もあるが、金融の重要インフラであるCCPが政治紛争に巻き込まれているというのもおかしな話だ。

しかし、引き続き取引のEU移行圧力は継続すると思われるので、今回はまず時間の猶予が与えられただけと言える。本来このような取引市場のい分断は望ましくなく、本来であればすべてネッティングができた方が、リスクや資本コストの削減ができる。複数のCCPに清算基金を拠出したり、デフォルトマネジメントに参加したりする義務は、かなりの手間やコストになる。

また、清算業務をEUで行うことを奨励するための方策を年内に発表するとも報じられている。引き続き英国とEUの綱引きは続くが、大手のデリバティブユーザーが大規模ポートフォリオ移管を行うとはなかなか思いにくい。ひょっとしたら永遠に今の状況が続くのかもしれない。

BSBYスワップのクリアリング開始

CMEによるBSBYスワップのクリアリングが来週月曜の11/15から開始される。BSBYはBloombergが作成したクレジットスプレッドを含んだCSR(Credit Sensitive Rate)である。そんな中、LCHからもBSBYのクリアリングを年内、クリスマスまでには開始すると報道された。

当局サイドからは充分な実取引データに基づかない金利指標はLIBORと同じような市場操作の問題があるとして否定的な意見が矢継ぎ早に出されているが、金融市場は着実に変化している。英国のベンチマーク規制には準拠していないため、英銀はまだ使えないようだが、今後は一定の取引が見込まれるようになりそうだ。

なぜ日本はシステムで海外に後れを取ってしまうのか

CMEが、Googleから10億ドルの投資を受け、データおよびクリアリングサービスをGoogle Cloudへ移行すると報じられている。データ移行は、来年から開始し、今後10年間ですべてのデータを移行する予定のようだ。自動化を進め、市場インフラの安定性を高めたいという狙いのようだが、分析ツールやリスク削減ツールなどの新商品開発も共同で行うとのことだ。さすがにCMEはいつもこうした行動が早い。

旧来型のインフラ依存度が高い取引所が多い中、今回の提携はクラウド移行に向けた第一歩になるかもしれない。各国の取引所は、巨大で効果な物理的なデータセンターを持つことが多く、規制やセキュリティの観点からクラウド移行には懐疑的な意見が多かったように思う。特に、日本の金融はセキュリティ第一であり、コロナ禍においても、リモートアクセスを進めるよりは、物理的なPCを支給するという方向が主流だった。国債入札の手続きなども未だ専用端末を使うのが主流だ。

当初Zoomのセキュリティに難があるなどという報道があったためか、日本の大手企業ではビデオ会議システムにZoomを使えるところが少なかったというのもその一例なのだろう。

おそらく銀行のシステムなども、システムの安定性、セキュリティに対する不安から、日本でクラウド移行など提案しても即刻却下されそうだが、巨大でコストのかかる複雑な既存システムをメンテナンスしていくのも予想以上に困難である。本来であれば、安価で柔軟性の高い最新のシステムに移行するのが筋なのだが、既存システムベンダーやグループ内システム子会社との関係等もあり、がんじがらめになっているのだろう。結果的にシステムトラブルが頻発したり、責任の所在があいまいになってしまっては本末転倒である。

シンガポールの取引所もAmazonとデータ移行のテストを進めているとの報道もあった。日本では関西にバックアップ拠点を置くという報道がなされ準備も進んでいるのだろうが、地震の多い日本においてこそ、データセンターのクラウド移行は適しているように思うのだが。

英国のバーゼルIIIのタイミング

予想通り英国もバーゼルIIIの延期を昨日発表したが、EUのような2年ではなく、単に2023年3月以降としているだけで明確なタイミングは示されていない。特に無格付事業会社のデフォルトに対する資本賦課のように明確になっていない部分が多いため、資本に対する影響度が測りがたい。

もともと英国はバーゼルIIIの早期適用に積極的なコメントをしていたと思われるので、EUよりタイミングが早まる可能性は残されている。とは言え、米国やEUよりも極端に早いタイミングで先行適用するとも考えにくい。両者の影響を見ながらそれより少し早いタイミングを狙ってくるのだろうか。

こうなると日本はどのようなタイミングになるのか、それをいつアナウンスするのかに注目が集まる。ここのところ各国からアナウンスが相次いでいることを考えると、そろそろ何か出てくるのだろうか。

バーゼル3本格施行延期の観測が強くなってきた

米国、欧州も延期のうわさが絶えないが、今般オーストラリアのAPRAからもIRRBB、FRTB、CVAフレームワークの導入の一年延期のアナウンスメントが出ている。一体国際公約とは何だったのだろうかとも思えるが、海外は結構こういった無邪気な延期が良く行われる。

バーゼルからはバーゼルIII進捗状況に関するレポートが出ているが、2023年1月が期限となっているものが多い。ただし、draft regulation not publishedというステータスになっている。

この流れからすると、自国だけが先行導入して不利益を被るのを避けようという動きが出てくるのが当然だと思われるので、一斉に延期という方向になるのだろうか。日本は比較的期限を守ろうとする方なのだが、ここまでになるとさすがにグローバルに歩調を合わせることになるのかもしれない。

アジアの金融ハブ

Wall Street Journalに香港のコロナ政策によって金融機関が拠点を移しているというニュースが出ている。ゼロコロナポリシーを取っていることから、入国者には、自費出費で、ホテルでの3週間隔離を義務付けているが、これに対して金融機関代表が制限緩和要求を出している。にもかかわらず、香港政府サイドはさらに制限を強化しようという勢いとのことだ。

ASIFMAのサーベイでは48%の会社が香港からオペレーションを移すと回答しているようだ。人を雇ったり引き止めたりするのも苦戦しているとのことだ。なかなか家族を呼べないというのも一つの理由とされている。欧米諸国はワクチン証明等による正常化を図っているが、アジアでは厳格な入国管理が続く。シンガポールも徐々に正常化に向けた動きが続いている。日本はその中間かもしれないが、新規ビザの発給は事実上止まっているとも聞く。

ここ最近の動きを見ていると、やはり香港から拠点を移そうという動きは今後も強くなっていくように思える。おそらくシンガポールが最強の候補になるのだろうが、日本を検討する意見も聞かれる。ただし、今回の金融課税の話でやはり日本の政策リスクを感じてしまった海外投資家は多かったようだ。

海外からすると、英語の問題を無視すれば、日本の労働力が優秀だというのは広く認識されている。しかも賃金がアジアでもかなり安い方になっているので、日本で拠点を作りたいというインセンティブは強い。解雇が難しいという点がネックだという意見も聞かれるが、この辺りの慣行を変えていけば、日本をアジアの拠点とし、それが日本の賃金や経済の発展を促す可能性もあると思うのだが。

欧州委員会がEURスワップのクリアリングを欧州域内へ誘導

EURの金利スワップの一定量を欧州域内のCCPで清算するよう義務付けることを欧州委員会が検討しているとの報道が出ている。金利スワップに関してはLCHが圧倒的地位を保っているが、これをEurexに移そうという動きである(現在Eurexのシェアは15%程度)。Brexitによって英国がEUから離脱してから、欧州域内に金融の中心を移そうという動きの一環である。

現在は、規制の同等性の観点から、英国のCCPを使うことが一時的に認められているが、この免除が今度の6/28に期限切れとなる。どうやらこの免除継続の条件として一定量を欧州に移すことを条件にしようとしているようだ。

当然スワップポートフォリオを分けなければならないバイサイドや銀行からは批判の声があげられている。これによって欧州の市場参加者のコストが大きくなるという意見もある。

どこの地域でも自国に産業を呼び込むため、自国企業を保護するためにこのような規制が導入したいというインセンティブはあるが、金融に関してはこれが逆にコスト増や流動性の分断につながったりする。

日本円でもこの分断は起きており、LCHとJSCCの金利差であるCCPベーシスは金融機関のリスク管理上頭の痛い状況になっている。特に先週はこのCCPベーシスが突然動き、既に二つの金利を分けて管理している金融機関において一時的な損益が発生しているものと思われる。どうしても海外金利が上がると、それにつられてLCHで清算する海外勢が他通貨対比で固定金利を払ってくる。一方イールドカーブコントロールのもとで海外金利にはついていかないだろうと想定する国内勢は特に動かないため、LCHの金利だけが上がり、JSCCの金利が動かない。そしてCCPベーシスが広がっていく。

ここで損失が出ると、リスクを減らすように圧力がかかるのだろうが、反対方向の取引がLCHでない以上はポジションを減らすこともままならない。そうするとそんな流動性のないポジションを増やすなということになり、マーケットメイクすら困難になる。もともと昨今の金融緩和の中で金利マーケットの流動性が極端に落ちているので、非常に扱いにくいマーケットになってしまっている。

以前は日本円金利でポジションを取るヘッジファンドも多かったが、金利が動かないのと、流動性がないことから、日本で活動するファンドは徐々に少なくなってきている。国際金融都市というが、まずは金利機能を復活させて流動性を上げていかないと、誰も日本に興味を持たなくなるばかりか、撤退を余儀なくされるところも増えてくるだろう。

金利調整機能が復活し流動性が上がればCCPベーシスが存在してもある程度市場は機能するだろうが、この流動性ではCCPベーシスやTIBOR vs OISのような各種ベーシスの管理は極めて難しくなる。金利の低位安定は国の財政上は望ましいのかもしれないが、そろそろ健全な金利市場についての議論をすべきなのではないだろうか。

EONIA⇒ESTR変換が無事終了

先週末にEONIAからESTRへの変換作業が無事終了した。LCH、CME、Eurexの3CCPが同時変換作業を行ったため、正直うまくいくのか不安があったが、ふたを開けてみると非常にスムーズに作業が完了し、その後のマーケットも完全に落ち着いている。月曜日は何もなかったかのように淡々とESTRの取引が行われ、ESTRスワップの取引量は過去最大となった。

変換した取引の想定元本はLCHがほとんどだったが、それぞれのCCPで別途の作業が必要だったため、各社とも予行演習を含めて綿密な計画が練られたものと思う。LCHの変換手数料の€15を避けるため、事前にEONIAを減らす努力をしたところもあったかもしれない。

作業的にはほとんどシステム的な対応で終了し、人手を介する部分は本当に少なくなっている。今回の経験は、12/3の日本円LIBOR Swapや12/17のGBP LIBOR Swapを含めた大規模変換の良い予行演習になったと言えよう。12月の作業はサイズ的には約5倍程度という報道もされている。今回の変換作業を経験していないJSCCと日本の市場参加者の対応が気になるが、おそらく問題なく移行が行われるものと期待している。

それにしても金融は本当にシステム産業になったという印象だ。特にデリバティブ取引の世界では極力プロセスを標準化して、システム対応をするという方向になっている。今回の移行作業でもプロジェクトの主役はIT部門だった。

一方、日本の場合はお客様のきめ細かなニーズに応えて最高のサービスを提供するのが良しとされる。ホテルなどのサービスでこれは強みになるのかもしれないが、金融で例外処理ばかりを作るとシステム対応ができず、コストばかり上がって事故につながる。金融の日本が弱いのはここに原因があるのかもしれない。

海外から来た友人が、ラーメン屋で油の量、麵の硬さ、トッピングなどを矢継ぎ早に聞かれて戸惑っていたが、海外なら標準的なラーメンをさっと出してくるのだろう。お客様は神様文化もあり、日本の消費者はこうしたきめ細やかな対応を好む傾向があり、売る側がその努力をするのが当然という雰囲気もある。アメリカにもクレーマーは多いが、店側も結構強く出ている。

金融の場合、こうした例外処理が多いからか、システム構築コストをかけるよりは、人手をかけてマニュアル対応をすることが日本では多い気がする。人件費が安いからか、解雇が困難なため余剰人員が多いからなのかよく分からないが、システム投資にあまり積極的でない。そんな金のかかるシステムを作るなら、せっかくいる人を使って対応しようという話が良く聞かれる。

システム会社も少数の大手の独占か、関連のシステム会社を使うことが多く、新興IT企業が入り混じって競争している海外の会社の方が、効率が良くコストも安くなっている。システムコストが高く人件費が安いなら、当然手作業で対応しようということになり、システム化が遅れる。

こう考えると標準化の必要な金融は、日本の文化には向かないのだろうか。それでもテクノロジーやシステムの重要性、効率性・生産性向上が声高に叫ばれるようになってきたので、今後の展開に期待したい。

排出権デリバ市場

近年排出権がらみの話が盛んに出てくるが、色々と新しい用語が飛び交っていてわかりにくいのだが、備忘録的に整理しておく。

まずは、EU ETSだが、これはEUのEmissions Trading System、つまりEUの排出量取引制度。世界でもっとも歴史のある排出権取引制度で2005年にCap&Trade型の制度として導入された。Cap&Tradeというのは、排出権取引規制の一手法で、対象の施設から出せる排出量に上限を設定するものである。

期末時点で排出量に見合った排出枠をもっていなければならず、枠がなければ買ってこなければならない。逆に言うと、これを削減した企業は、その分の排出枠を売ることができる。EU ETSがここから始まったため、ETSというとCap&Tradeと言われることもある。

ということで、売買がなされるので、その価格が株価のように変動する。変動するのであればデリバティブでヘッジしようという動きが生まれる。金融機関はオークションで排出権を買って、排出枠を持たなければならない企業にフォワードや先物で売ったりする。排出権の流動性や資本コストの問題から、排出権を買うより、デリバティブの形で買う企業が出てくる。デリバティブ市場が出来上がると、フォワードの価格が明確になったり、プロジェクトにかかるコストの変動を抑えることができる。

ここで売買されるのはカーボン排出枠、Carbon allowanceとかCarbon Creditと呼ばれるものである。ETSのもとで政府が発行する取引可能な証明書で、これがあると1トンのCo2を排出する権利がもらえる。また、カーボンオフセットというと排出を減らす試みに与えられる証明書を指す。EUAは、European Union Allowanceの略で、欧州の排出権取引制度(EU ETS)における排出枠を指す。排出量を表す言葉として、GHG排出量という言葉が使われることもある。GHGはGreen House Gasで、Co2やメタンなど温室効果ガスの排出量を言う。

米国の取引所であるICEはこのEUAとCCA、RGGIの先物とオプションを上場している。CCAはCalifornia Carbon AllowanceでEUAのカリフォルニア版といったところか。RGGIはRegional Greenhouse Gas Initiativeの略で、地球温室効果ガスイニシアティブとでも訳すのだろうか、米国の10の州が参加するプログラムである。やはり1トンのCo2を排出する権利である。

ICEが扱う世界の取引所取引のほとんどを占めているので、現状ではほぼ独占状態だ。CCAやRGGIの先物オプションの取引量は2019年あたりから急速に増えている。EUA先物オプションは2017年後半からの伸びが大きい。他にもEEX(European Energy Exchange)、Nasdaq、CMEなどの先物オプションもある。

他にも上場されていない店頭デリバティブ(OTC)の取引も増えてきている。ISDAでもUS Emission Annex、EU Emission Annexなどをそろえており、最近ではFRTBでの扱いなど資本賦課についての議論も金融機関内では活発になってきた。

日本でもTokyo Cap&Tradeが2010に、Saitama ETSが2011年に作られている。全世界的な取引量でいうと、先行するEUが約8割を占め、残りはほとんどが北米になっている。そして、中国、ニュージーランド、韓国が続く。

最近のEU ETSの価格急騰がかなりの注目を集めているが、ここまでくるとさすがに金融取引も本格化してきそうだ。日本でも、15年以上前にISDAの排出権ワーキンググループで議論が行われたこともあったが、ここへきてまた機運が高まってきている。日本の場合、お勉強だけで終わって実際に取引が行われないというケースが多いが、今回はそれなりに進めようという動きがみられるので、今後の展開に期待したい。

第三四半期決算にみる米銀の行動

米銀の第三四半期決算発表の内容を見ていると、銀行行動に変化の兆しがみられる。FRBの債券購入プログラムの縮小を見越してか、資金を債券に振り向ける兆しが感じられる。

バンカメは、高利回りの債券を購入したことにより純金利収入が増えたというコメントしており、Citiも国債とMBSを増やしたと述べている。政府の景気刺激策などにより銀行の預金が増えているが、これを金利収入の得られる債券に振り向けられれば、銀行の収益底上げ要因になる。

一方JPMは、債券というよりは依然現金保有が多い。今後金利が上昇すると予想しているため、これを債券に投資してくる可能性は高い。金利が想定する水準に近づけば現金をもう少し投入する機会が見つかるかもしれないと述べている。

また、現状プライマリーディーラーである20数行程度に限定されているFRBのStanding Repoを、他の銀行にも拡大して提供するというアナウンスメントもあった。すでにいくつかの銀行が申請を行っているとのことである。

今後は銀行にある現金が別のところに回っていくようになるのかもしれない。

LIBOR移行が最終段階に

10/16の週末のCCPによるEONIAからESTRへのシフトが近づいてきた。CME、LCH、Eurexの主要CCPが一斉に新レートへ移行する。100兆ユーロ超の金融資産を支えてきたベンチマークの切り替えはLIBOR移行の試金石となる。既にメンバーテストも終わっているので、大きな混乱は起きないものと思われるが、現場ではそれなりに緊張が走る。

EURの場合はEuriborも残っているので若干ややこしい。9/21のRFR Firstにより、GBP、JPY、CHFについてはスムーズに新レートに移行した。一方、EURについては、マーケットの状況を見ながらということになっており、特に移行が強く勧められたわけではない。とは言え9/21以降ESTR vs SOFRの通貨スワップの取引量が増えており、SDRで見る限りESTR/EURの取引数がEuribor/USDLIBORを上回った日もあった。個人的にはもっと移行が進んでも良いと思っていたのだが、今のところEuriborもしぶとく取引が続けられている。

USDLIBORが18か月延長になったとは言え、今後徐々に新規取引が困難になっていくことが予想され、こちらもESTR/SOFRにシフトしていくのだろう。日本の市場参加者がEUR債を発行するときなどはEURの固定レートを円の固定レートに変換するためには、Euribor、通貨ベーシススワップ、6s3sなど様々なヘッジ取引が必要になっていたが、これがシンプルになる。

日銀のウェブサイトに掲載されている日本円金利指標に関する検討委員会のアナウンスにもあるように、昨日10/1からは、新規の円LIBOR金利スワップ、スワップション等が禁止となっており、ここからはLIBORスワップの流動性が低下していくことになろう。このアナウンスによると、リスク管理目的等での新規取引が除外になっており、顧客に取引目的の確認までを求めるものではないと書かれている。

仕組債などの移行もようやく最終顧客が真剣に検討を始めた感もあり、何とかLIBOR移行も参集段階に入ってきたようだ。

RFR First UPDATE

通貨スワップのLIBORからRFRへの移行ターゲットである9/21を通過し、RFRへのシフトが着実に進み始めた。先週まではRFRの通貨スワップはほとんど見られずどうなることかと思っていたが、いざ始まってみると特に大きな問題なく移行が進んでいるようである。

初日のSDRには東京時間に3件のUSDJPYの通貨スワップが観測されたが、すべてRFRベースだった。先スタートの1年スワップと13年、20年の通貨スワップだったが、すべてTONA vs SOFRになっている。その後ロンドン時間に入って行われた2件もRFRだった。別の日にはTONA vs USDLIBORが見えるようだが、例外的なものと願いたい。

その他の通貨も順調にRFR取引が行われた。RFR Firstは大成功といった形だろう。前にも書いたが、このベンチマークの移行というのは徐々に起きるというよりは一気に起きるようだ。特に日本でこの傾向が強い。前もって一応準備しておくが、何かきっかけがあるまではなかなか動けないのだが、一度動き出すと一気に移行が進む。

一つ注目なのはEURだ。欧州のワーキンググループでは、USD、GBP、JPY、CHFについての移行を推奨していたものの、EURレグについては、Continue to monitor the development of market liquidity and demand from end usersと書かれており、市場の流動性を見ながら当面モニタリングとなっている。実際初日ロンドン時間ではEuribor vs Liborが多かった。米国時間になるとESTR vs SOFRもみられ始めたが、まだマーケットは完全に方向感がつかめていないようだ。

欧州系はEuribor、米系はESTRということなのかもしれない。まだ一週目なので何とも言えないが、ESTR vs SOFRの取引が一定程度増えてきたので来週以降の動向に注目が集まる。

非公開情報とCVAヘッジ

デリバティブカウンターパーティーリスクをヘッジする際について回るのが、MNPIの問題である。これはMaterial Non Pubic Informationの略で、日本語では内部情報と呼ばれる。内部情報は秘密情報であり、株価や債券価格などに重大な影響を及ぼす可能性のあるすべての非公開情報が含まれる。

この内部情報の管理手法には、各社でかなりばらつきがあり、あまり表に出てこない情報であるが、2020年から始められた金融庁の市場制度ワーキンググループの資料が参考になる。特に第8回では外資系金融機関に対するヒアリング結果が公表されており、各社がどのようにMNPIを管理しているかの一端をうかがうことができる。ここで述べられているように、海外では、情報共有を法律で禁じるというよりは、内部コントロールを聞かせることによって情報の遮断を行っている。一方本邦では、ファイアーウォールによって長らく銀証分離が行われてきた。

日本では、伝統的に「ルールベースの監督」が行われてきたが、外資系金融機関においては、「プリンシプルベースの監督」が主流であった。法律で禁じるというよりは、顧客利便性と内部管理のバランスを取りながら、各金融機関が内部コントロールを行い、個社のガイドラインに基づいて情報共有が行うという手法である。監督当局は法律違反をチェックするのではなく、内部管理体制がきちんと構築されているかを検査するという形になる。

ある程度自由度が増すのは確かだが、自己責任原則に基づいてかなり厳格な管理が行われるのが一般的である。法律に書いていないから良いではないかということではなく、常識に照らして自分で判断しなければならない。最近は日本でもプリンシパルベースへの移行を進めているように見受けられる。

いずれにしても金融機関経営はめまぐるしく変化をしており、極めて専門性が高い。完璧な法律を作ってがんじがらめにすれば利便性が損なわれ、法律の穴をかいくぐる行為が増えてしまう。プリンシパルベースにすれば、法律には書いていないものの、常識的に不正に当たりそうだという行為ができなくなる。ワーキンググループの議事録にもあるように、海外では「Need to Know」原則が貫かれている。業務遂行上知らなければならない人のみに情報共有が認められるという考え方だ。マニュアルが存在しない代わり、組織の良識が試される。

カウンターパーティーリスク管理においてこの内部情報が関係してくるのは、社債発行やM&Aに関係したスワップ取引についてである。先のヒアリング結果を見ると、「MNPIには、一定規模以上の債券が含まれる」という回答がある。また、「債券の発行について日本では原則MNPIとしていないが、グローバルでは基本的にMNPIとしている。」との不思議な回答もみられる。なぜ日本ではOKなのだろう。サイズが小さいからということなのかもしれないが。

カウンターパーティーリスク管理の性質上、新規取引を行うと同時にそのカウンターパーティーリスクをヘッジするのが一般的であるが、新規取引が債券発行に関するものであったり、会社の合併、事業再構築に関連していたりする場合は、その情報が公になっていなければインサイダー取引とみなされてしまう可能性も否定できない。したがって、こうした重要な非公開情報を入手してしまった場合は、適切なヘッジができなくなってしまうこともある。

通常は、適切なウォールを設けることにより情報管理体制が確立されているが、この体制は各社で独自に構築する必要がある。CVAの計算自体は取引のプライシングに関係しているため、きわめて早い段階でXVAデスクに問合せが入ることが多い。しかし、CVAの場合は、カウンターパーティーがわからないとCVAの計算ができない。Indicationを提示する段階では、A格程度の事業会社などと仮定して計算を行い、取引が近くなってからWall Crossを行い、厳密なプライシングを行う。あるいは、スプレッドを5年で100bp、10年で150bpのように仮定して計算を依頼することもある。

通常のトレーディングデスクであれば、こうした情報を得てしまった場合は取引を控えるという対応が可能かもしれないが、XVAデスクの場合は、取引ができなくなると会社としてリスクを抱えたままにしておかなければならないということになるので、情報管理は厳しく徹底する必要がある。

また、社債の発行金額があまりにも大きかった場合などは、MNPIに該当せずとも、市場に与える影響が甚大であるため、その情報を利用した取引をすべきでないという判断もあるかもしれない。この辺りは、各社であるべきコントロールを入れ、当局に説明できるようにしておく必要があろう。

通貨スワップのRFR移行はいつか

通貨スワップのRFR移行のターゲットは来週9月21日(RFR First)なのだが、未だ日本市場では本格的に移行する兆しがみられない。金利スワップがTONA Firstで一気に移行したのとは対照的である。今回は、米ドル、英ポンド、スイスフラン、日本円の4つの通貨間の取引でLiborの使用を停止するという目標だったが、日本円以外はある程度流動性が上がっているので、日本円が最も遅れている。

7月末は他の通貨も含めて95%でLIBOR/LIBORだったが、インターバンクでは、RFR/RFRへの移行が進んできた。円LIBORが年末に公表停止になるので当然の動きなのだが、海外に比べて当局のPushが少ないからなのか、市場参加者の認識は低い。ドルLIBORの公表停止が延長されたことも影響しているのかもしれないが、このような市場慣行変更は、銀行サイドが顧客に広報するだけでは限界があるのかもしれない。

LIBOR/RFRのように通貨ごとに移行をずらすことは技術的には可能だが、決済日がずれることになるのでできれば避けたい。金利スワップのTONA移行が急激に行われたのを見ると、今回も移るときは一気に移るのだろう。しかしそれは、9/21ではなく10月になるのかもしれない。

MACスワップとは

金利スワップの流動性向上のため、SIFMAの資産運用グループ(AMG)とISDAが2013年に提案した市場標準のスワップである。取引日、終了日、固定クーポンレートなどをあらかじめ決めておくことにより、先物取引のように取引流動性を向上させようというものである。 たとえば10年スワップといえば、すべて今年の6/15に始まり、10年後の6/15に終了日を迎える0.5%と固定金利と変動の交換ということになる。この日付はIMM Dateと呼ばれ、3,6,9,12月の第2水曜日とSIMFA公表のTerm Sheet上で定められている。固定クーポンはCMEのWeb上で定期的に公表されている。

このように条件を標準化すると、例えば6/1から始まるクーポン0.5%の10年金利スワップと、6/2から始まるクーポン0.51%の10年金利スワップのように複数の種類のスワップができることがなくなり、すべて6/15から始まる0.5%の金利スワップに統一でき、流動性が増すためb/oがタイトになるという効果がある。

また、解約、Novation、CCPへのバックロード等も容易になる。CDSではすでに25%、100%のように固定クーポン制をとっているが、これと同じことを金利スワップで行うことによってマーケットの標準化をしようという試みである。これをつきつめれば先物ということになるが、金利スワップについてはすべてが先物に移行するのはむずかしいと思われるため、MACスワップのような標準的取引が利用されている。日本円についても固定クーポンが定期的に更新されているが、日本の市場参加者間ではほとんど話題になっていない。しかし、海外投資家の中にはMAC Swapを好んで使い、IMM DateにRollをしてくる参加者も多い。

CDS取引などの場合は、無用なベーシスリスクを避けるため、当初のカウンターパーティーとの間で解約を行ったり、別の金融機関にポジションを移すことによって取引を完全に消滅させることが多いが、その他の商品においては、反対取引を入れることによってリスクを消すケースが多い。レバレッジ比率など、想定元本に係る規制が多くなっていることを考えると、今後はコンプレッションのみならず、解約が容易にできるような仕組みについての検討も必要である。CCPで清算されている取引の場合、既存取引のUnwind(解約)をするときは、一旦反対方向の取引を入れ、その日の終わりの相殺処理によって取引を消すという流れになる。MAC Swapであれば、必然的に相殺できる取引ペアが増えるため、想定元本削減が容易になる。

 顧客から解約依頼があったときに、こうしたリスクや担保条件、資金調達コストを考えながらどのような方法がベストかを計算しながら行っている金融機関と、単に申し出どおりに処理を行う金融機関とでは収益性に差が出たとしても不思議ではない。取引単位でみればたいした違いは出ないかもしれないが、日々膨大な取引を行う金融機関では無視できない収益差が生まれることもあるのである。

SA-CCR適用行

SA-CCRは現状任意適用だが、2021年3月時点での大手行の適用状況をざっと調べてみた。各社のリスク・アセットの概要の開示部分を拾ってみると、メガバンクはSA-CCR適用分の開示がなく、カレントエクスポージャー方式が中心となっている。しかし、みずほだけは期待エクスポージャー方式適用分の開示がある。

大手では野村、大和、農中がSA-CCR適用分に数字がみられるが、野村は期待エクスポージャー方式適用分の欄にも数字が入っている。カウンターパーティー信用リスクの数字を見るとMUFGが9兆円程度で飛びぬけており、SMBCMizuhoSMTB野村がその半分程度のところにある。大和は1兆円程度、農中は5000億円程度となっている。

過去からの数字をざっと見ても、SA-CCRに変更することによってリスクアセットが急減したようには見えない。

CVAリスクについてみてみると、MUFG、SMFG、Mizuhoの順で続くが、意外とSMTBのリスク量が大きくみずほを超えている。全体に占めるCVAリスクの割合が最も高いのもSMTBとなっている。野村と大和のCVAリスクはそれほど大きくない。やはり証券会社の方が有担保取引が多いのかもしれない。

その他地銀もSA-CCRに移行しているところは少なそうなので、日本では証券大手がSA-CCR適用済、銀行系でSA-CCRを適用しているのは農中など一部の銀行に限られているようである。ただし、来年以降は順次SA-CCRへの移行が進むので、今後のリスク・アセットの変化に注目したい。

入力ミスもあるかもしれないが、数字をまとめておく(単位10億円)。