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LIBORベースのUSDJPY通貨スワップが終わる日

SOFR First等金利スワップのLIBOR移行は順調に進んでいるが、通貨スワップはどうなるのかという質問が多い。当初はUSD LIBORの新規IRSが停止となる7月から通貨スワップについても同様というガイドラインもあったが、マーケットの状況から、実際にこれは困難となっている。

英国の検討体からは2/Q3というタイムラインが示され、FSBからも同様のコメントが出ていたことから、おそらく9月以降だろうという意見が強くなっている。

恥ずかしながら気づいていなかったのだが、CFTCのMRAC(Market Risk Advisory Committee)のSOFR Firstの推奨ペーパーを見ると、Expected Timingという但し書き付だが、9/21が移行の日と書かれている。CHF、GBP、JPYとUSDの通貨ペアが対象となっている。

この文書によると、これまでアナウンスされていた通り、線形商品が7/26にQuoting Convention変更を行うことになっている。そして10/22にはインターディーラーのBroker Screenが使えなくなる。第二ステップは通貨スワップ、第三ステップがスワップション、Cap、Floorなどの非線形商品となっている。第三ステップについては日程が示されておらず、SubcommiteeでConfirmされる予定となっている。そして第四ステップがExchange Traded Derivativesその他となっている。こちらも日程は未確定である。

若干思っていたより通貨スワップが早いという印象だ。9月21日以降、新規のドル円の通貨スワップがRFRにすべて移行するのだろうか。動き出したら早いので意外と問題ないのかもしれないが、現時点だと若干Agressiveに感じてしまう。とは言え足下の移行は進み始めているので、引き続き移行努力を継続するしかないのだろう。

Back to Back取引とポジションの集中管理が重要になってきた

ECBが今般市中協議を行っているoptions and discretions policiesの修正が、Brexit後の金融機関の内部取引慣行に変化をもたらすことが懸念されている。焦点は、金融システミックリスクを防ぐために設けられたLarge Exposure Limitの対象から内部取引を外すかどうかだ。

Brexit後の激変緩和措置として、英国法人とEU法人の間でリスク移転のための内部取引を行ったとしても、これまではリミットの対象外だったが、この免除措置を巡って議論が続いているようだ。ECBが英国締め出しのためにこのような変更を画策しているかどうかは定かではないが、内部取引がリミットの対象になると、英国法人とEU法人との間の取引が困難になり、事実上英国が締め出されることになってしまう。

EUの資本規制であるCRR IIの下では、一取引先に対するエクスポージャーは、ティア1資本の25%内にすべきとされている。またG-Sibs同士では15%がリミットだ。ケースバイケースでの免除も可能となっているため、急に取引が止められる可能性は低いと思われるが、いつでもその準備があるということは、EUが交渉上一枚カードを握ったことになる。そしてその裁量権はかなり大きい。こうなるとロンドンからリスク管理を行っている場合は、それをEUに移す検討を始める必要があるかもしれない。

特にリスクの少ないCCPとの取引や、当初証拠金を取った上で行っている有担保取引などは、厳格なリスク管理を行っているという理由で免除が継続される可能性が高くなる。問題は無担保で行っているデリバティブや、流動性の少ない長期のインフレスワップ等ではないだろうか。

リスク移転を行う内部取引はBack to Back Swapとも呼ばれ、金融機関のリスク管理の中心となっている。例えば日本法人が日本の顧客とGBP IRSを行った場合は、裏で日本法人と英国法人との間でBack to Back Swapを入れることにより、日本法人はGBPの金利リスクから解放される。

そして世界中から集められたGBP金利のリスクはマザーマーケットである英国で管理される。日本法人にはクレジットリスク、カウンターパーティーリスクは残るもののマーケットリスクは存在せず、市場リスク資本もかからない。カウンターパーティーリスクを移転することも可能である。

メリットはこれだけにとどまらない。様々なトレーダー、部署が行った取引をBack to Backによって集約すると、コンプレッションや当初証拠金の最適化、資本の最適化までが容易に行えるようになる。Back to Back Swapは、今や金融機関のリソース管理の中心となっている。ポジション集約が効率的に行われているからLIBOR改革やCSA変更などを行う際にも話が早い。

翻って本邦では、海外エクスポージャーが少ないというのもあるが、一部の先進行を除いて、あまりこうしたことは行われていないようである。したがって、部署が異なるとそのポジションには触ることすらできなくなり、同じネッティングセットの中にあるにもかかわらず、全体最適を考えるのが困難になる。人の部署のポジションには触れないし、中央で管理する部門もない。あったとしても現場に気を使うためか、アクティブなポジション管理は難しい。海外とのBack to Backまでは必要ないかもしれないが、あらゆる部署のポジションの全体最適を考える部門は必須である。

昨今の資本規制、流動性規制強化の流れの中で、こうしたポジション管理はますますその重要性を増していく。これを変えるだけで英国とEUの金融規制が大きく影響を受けるようにすらなっている。日本でも、高度なポジションの集中管理を進めないと世界から取り残されてしまうことが懸念される。

OISへの移行状況アップデート

引き続きLIBOR移行状況を追ってみる。JSCCの統計データによると、LIBOR関連取引の割合は徐々に減少し、5から6割程度の日が増えてきた。7月1日から始まったOIS取引へのシフトも、加速はしていないものの一定程度みられる。一時的にTIBORからOISのシフトの様相を呈していたが、引き続きTIBOR関連取引もみられる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

LCHがTIBORスワップをクリアリングしていないという点と、TIBORの適格清算取引はZTIBORが30年、DTIBORが20年までという点にも注意が必要である。ちなみにOISは40年まで清算可能である。したがって、TIBORがJSCCに集中することからTIBOR取引のシェアが実態より高く感じるかもしれない(JSCCの適格商品はJSCCのWebを参照)。

また、20年超のDTIBORがクリアリングされていないことから、長期TIBORの取引量が実態より少なく見えているかもしれない。または、30年のDTIBORスワップがクリアリングできないのでZTIBORでクリアリングして、30年のDZベーシスが溜まっているという可能性もある。この辺りは将来的にDTIBORの適格対象年限が拡大されるときには何らかの影響があるかもしれない。

Clarusの分析を見ても、DV01ベースでみると、TIBOR取引の50%以上が長期となっている。確かにJSCCのデータを確認してみるとLIBORよりはTIBORの方が長期の割合が多い。

TIBORはLIBORとは異なり今後も存続するベンチマークであるため、DとZがどのように一本化されているかも含めて興味深いマーケットである。ただデリバティブマーケットを見ている限り、ディーラー間取引の主流はOISに移る気配があり、月末のQuoting Convention変更に向けて、更に移行が加速していくことになるだろう。

一部監査法人の問題なのかもしれないが、ヘッジ会計の継続を巡ってOISに移れないという声が一部で聞かれるが、さすがにLIBOR公表停止まで半年を切った今、そんなことも言っていられなくなる。そうなるとTIBORは10%程度で残りはOISということになっていくのだろう。

金融のIT産業化

電子取引、アルゴ取引の増加に伴い、為替マーケットにおける大手銀行の寡占が進んでいると報道されている。おそらく感染拡大による影響もあるのだろうが、この流れは引き続き進むものと予想される。2020年には、JPM、UBS、DBのトップ3で30%のマーケットシェアを占めたとのことだ。

電子取引やアルゴリズム取引への投資は不可欠となり、その巧拙が金融機関の収益を左右するようになっている。やはりこの分野でも欧米の銀行が先行している。金融については日本はやはり追いつけないのか。やはりシステムの弱さが世界的に際立っているような気がする。

金融取引では、コスト管理と効率性が求められるが、人海戦術でミスをなくす戦略を続けてきた銀行には太刀打ちできない。また、国内のシステム会社も海外に比べると格段に弱い。インドやハンガリー、中国といった国々の優秀なエンジニアの使い方が上手くないというのも関係しているのかもしれない。

20年以上前に米国で過ごした時期に、銀行通帳に頻繁に誤りがあり、日本の銀行の優秀さを改めて実感したのだが、そのミスをなくすために徹底的に人間がチェックをしていたのだろう。米国ではミスを指摘されたら直せばよい、99%正しければ十分で、最後の1%を向上させるために膨大なコストがかかるなら、費用対効果に見合わないという考え方だった。

日本なら1%のミスをなくすために極限まで努力をしろという文化があったように思う。顧客サイドにも間違いを許さない文化が日本にはある。そうこうしているうちにテクノロジーが進歩して、ミスを機械的に防ぐ方法が進歩しており、日本は完全に後れを取ってしまった。

昨年3月には、パンデミックによってボラティリティーが上昇し、Bid/Offerが金融危機以来の水準まで拡大し、金融機関に収益をもたらすこととなった。マシンが動いていれば収益が上がるということで、金融が完全にIT産業化している。株式や為替で始まったこの流れは、債券市場にも波及しており、コロナ感染拡大はこれに拍車をかけた形になっている。

記事にもあるように、銀行はアルゴリズム取引に多額の投資を行っており、変動する市場の状況に応じて取引スタイルを自動的に変更するようなAdaptive Algoも登場した。2020年には、為替トレーダーの4割以上がアルゴ取引を使っており、今後はこの比率の上昇が見込まれる。やはり日本には、金融のみならずテクノロジー企業の進歩が不可欠である。

SPAN2とは

本年2021年には米国CMEのマージンモデルの変更が控えている。これまで長年業界標準として使われてきたSPANモデルの改良版となる。SPANは30年以上前の1988年にCMEで開発された証拠金計算モデルであり、日本のJSCCを含む世界30以上のCCPで使われている。

近年は先物の種類が増えるとともに、清算集中規制によって、CCPで取り扱うOTC取引も増加した。商品の複雑化、資本賦課等のへ間もあり、単一の商品だけではなく、ポートフォリオベースのリスク管理も重要となってきた。SPAN2の概要はCMEのWebsiteで詳細が説明されているが、ここでは簡単に概要を紹介する。

SPAN2の特徴

リスクの変化に応じて証拠金がダイナミックに変動する

先物、オプション、OTCスワップなど複数の商品を統一の手法によってカバー

リスクファクターについての透明性を向上

将来のポートフォリオの複雑化に対応する柔軟性

季節性、オプションリスク、ポジション整理・集中リスクへの対応

SPAN2の構成要素

  1. マーケットリスク
    十分な期間をカバーするヒストリカルVaR
    必要に応じてボラティリティや相関を調整
    季節性を考慮
    Skewなどのリスクファクターを含むVol Surfaceデータを利用
  2. ストレスリスク
    Event-Driven Stress VaR(十分な期間のヒストリカルVaRを計算するとともに、Brexitなどの実際に起きたイベントを追加することもできる)
    Hypothetical Stress VaR(実際には起きていないが、起きる可能性のある架空のシナリオを考慮)
  3. 流動性リスク
    ポートフォリオベースで、デフォルト時の清算に要するコストを考慮
  4. 集中リスク
    リスクの集中した大規模ポートフォリオの清算に要する追加コストを考慮
  5. リスク相殺
    従来のSPAN1と新SPAN2のリスク相殺

従前は無担保取引からリスクが発生することが多かったが、証拠金規制や清算集中規制の導入によって、リスク管理のメインストリームが、マージンリスクの管理へと移ってきた。2018年のNasdaqのコモディティクリアリングにおけるEinar Aasの損失や今年2021年3月に起きたアルケゴスの破綻はこうした傾向をさらに強めている。

日本では伝統的にリスク管理と言えばクレジットリスク管理が中心であり、顧客企業の財務分析を行って信用枠を設定するという伝統的な与信管理が主だった。デリバティブ取引については、マーケットリスク管理が一部では行われてきたが、日本の金融が銀行中心なためか、海外に比べてExpertが少ない気がする。

特に海外ファンドのリスク管理に長けた人材が枯渇している。アルケゴスのようなファミリーオフィスやヘッジファンドとの取引においては、相手を知ることはもちろん重要だが、いかにポジションを管理し、清算時の流動性リスクや集中リスクを管理し、十分な証拠金を確保することが最重要課題となる。その意味で、SPAN2モデルのような証拠金モデルについて、もう少し興味が集まるようになっても良いと思う。

英国が金融規制をリードする

英国の金融規制がEU規制のMiFID IIとは一線を画す形になりそうだ。財務省のSunak氏からEUとは異なる英国独自の金融規制を進める旨の発言が出されている。同時に英財務省からはBrexit後のシティのビジョンを示した「A New Chapter for Financial Services」と題した文書が公表されている。投資を呼び込むために中国、インド、ブラジルなどと金融サービス協定を結ぶとしている。

確かにMiFID IIは金融業界でも評判が悪く、まだ米国Dodd Frankの方が評価が高い。金融ビジネスは規制によってかなり大きく変化するので、英国が金融規制をオープンでグローバルなものにできれば、Brexit後に失いかけた地位を取り戻すことができるかもしれない。LIBOR改革で見せたように、英国当局は金融に精通した人材が多く、欧州当局よりレベルが高いように思う。ソルベンシーIIの見直しも表明していることから銀行のみならず保険会社についてもインパクトがある。

しかし一方で、欧州規制等の同等性を得られる可能性は低くなった。欧州と英国で異なる規制環境の中でビジネスが行われるということは効率性の観点からは望ましくない。これまでは同等性を根拠にグローバルな金融取引が成り立ってきたが、金融機関側としては異なる規制対応プログラムを策定する必要がある。

とは言うものの、Brexit後に欧州にビジネスが移る危機感もあり、英国がこの問題に本腰を入れたというのは大きいと思う。単にマーケットを締め付けるだけでなく、市場参加者の意見を反映させたうえで新しい形の金融規制が生まれるかもしれない。そこに魅力を感じてロンドンが国際金融都市として栄えれば、欧州サイドにも規制見直しの機運が生まれるだろう。そしてこれは米国や日本にも影響を及ぼすことになる。コロナであらゆるビジネスが変化したのと同様に、Brexitによって、こうした変革が加速しているという見方もできる。

結局通常は変化を嫌うのが人類の常なので、天災、疫病、戦争、金融危機等のようなイベントによって、それまで変わらなかったものが変化していくのかもしれない。

OISが増えた日2

昨日に続いてOISへのシフトが続いている。昨日は取引数でみたが、今日は想定元本で見てみる。本日7/2のJSCCのスワップにおけるOISの割合は38%でこれまでの最高となっている。昨日は取引件数でOIS関連取引が20%を超えたが、取引量では13%だった。これが今日は一気に38%に上昇した。どうやらこの流れは本物のようだ。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei.html

7/1からはUSD IRSについて新規取引を控えるようにというのがARRCのガイドラインだが、これと日を同じくしてOISへの移行に火が付いたことになる。USDについては、SOFRの流動性が上がってこないことから未だLIBORの取引が多いように見える。同時に通貨スワップについてもLIBOR取引が継続している。

ただ、6s/3s等を含むLIBOR関連取引が60%程度なので、TIBORからOISへの移行と言えなくもない。ようやくTIBORではなくOISがデリバティブの主流ということがデータに表れてきた格好だ。来週以降の移行状況にも引き続き注目したい。

OISが増えた日

JSCCのデータを日々眺めているのだが、今日は突然OISが増えている。件数の方に大きな影響があるようなので、今回は取引件数でいつものグラフを作ってみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

これまで全体の数パーセントだったOISの割合が突然20%を超えた。LIBOR関連取引も70%となった。TIBORとOISの割合が逆転しているのも特徴的だ。これはConversion等による一時的なものなのか、それともようやく流れが変わったのか、今月は市場動向から目が離せない。

また、6/23には、Tradewebからのツイートで、TONA/LIBORスイッチ取引の初約定が公開されている。JSCC以外にもこうしたベンダー経由のConversionができるとなると、今後こうした流れが加速していくものと思われる。おそらく他のベンダーも追随してくるだろう。

だがこうなるとCCPで変換する取引が減ってしまい、CCPとしてはConversion時の手数料収入が減ってしまうのだろうか。全体のボリュームからすると微々たるものなのかもしれないが。

円については初とのことだが、海外ではこうした変換も進んでいるようである。日本では海外ほど当局のPushがないためか早期コンバージョンを進める市場参加者が少ないが、安いコストでかつ簡単にコンバージョンができるのであれば、こうしたベンダーコンバージョンも良いのかもしれない。

LIBOR後の清算集中規制

CFTCコミッショナーのStump氏が海外CCPへのアクセスについてコメントを発信し続けている。LIBORがなくなったらCFTCのすべての清算集中規制は書き換えられるべき。だが、清算集中義務を課す一方で、規制対応のために、流動性を提供するCCPに米国参加者がアクセスするのを禁じるというのはおかしい。という趣旨の発言をしたとRisk.netで報じられている。

確かにBlackRockやVanguardといった米国のアセマネがJSCCにアクセスできないというのは昔からあった議論だが、これまではCFTCサイドが米国の顧客保護のためにこれを禁じていた。昨年法案が最終化したばかりなのですぐにこれが可能になるかどうかは不明だが、ここまで何度もコメントを出しているところを見ると、よっぽど大きな課題として認識しているのだろう。

確かに清算集中規制は今後修正されていくのだろうが、日本ではあまり議論が盛り上がっていない。12月にLCHなどのCCPは一括でLIBOR
から標準TONAスワップへの変換を行うが、その後はLIBOR Swapの清算集中はできない。現在の規制上はCCPが清算しないスワップは清算しなくても良いということなので、LIBORスワップを行ったとしても清算集中義務はなくなる。当然後継金利であるTONAに清算集中義務がかかることになると思われるのだが、その時期は明らかではない。

英国中銀からは12月6日以降JPY LIBOR Swapの清算集中義務がなくなる内容の市中協議文書が公開された。ただ、足下でTIBORへのシフトが進んでいるためか、その後規制がかかる後継レートは指定していない。TIBORになる可能性でも意識しているのだろうか。CFTCも同じようなルール改定を行うだろうが、現時点ではまだアナウンスはない。本来なら日本円スワップなのだから、日本がルールを決めてそれに海外が合わせるという順序が自然なのだが…

実取引データに基づかないベンチマーク、流動性に難のあるベンチマークを使うことに対する懸念が海外では強くなっている。これがAmeriborやBSBY、ターム物金利などに対する懸念にもつながっている。日本でも、OISの流動性が上がらないためターム物であるTORFを使うことに対して懸念をする声も聞かれるが、なぜかTIBORに対する批判はない。ベンチマーク規制上の要件をクリアしているというだけならBSBY等も同じで、BSBYはダメでTIBORは問題ないというのは不思議な気がする。

CFTCの話に戻ると、JSCCに参加をしたいという米国の市場参加者に対して、顧客保護のため参加できない仕組みを作るというのも理解しがたい。本人がリスクを承知で使いたいといっているのに、あなたのためを思って禁じているのですというのも不思議だ。確かに海外ETF等を投資家が買いたいと思っても日本で許可されているものでないと投資ができないようにしているのと同じなのかもしれない。こと金融に関してはこうした七不思議のようなものが多い。

LIBOR移行状況

ここからはLIBORからの移行が加速していくはずなので、2週間前に作成したグラフをUpdateしてみる。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

JSCCでクリアリングされた取引のみになるが、あまり前回と変わり映えがない。取引量が低調というのもあるのかもしれないが、この期間のLIBOR関連スワップの割合は67%となっている。TIBOR関連が22%でOISは11%という結果で、前回よりOISが減っておりTIBORが2割を超えている。

ただ、ISDA-ClarusのRFR Adoption Indicatorの推移をみると5月になって明確な上昇トレンドが確認できる。RFRの割合が6.8%というのは過去最高であり、GBPの54.9%には遠く及ばないもののUSDの6.9%と同じくらいになっている。

https://rfr.clarusft.com/

また、FCAが市中協議で意見募集を始めたが、シンセティックLIBORのベースとなるSONIAのターム物についてRifinitivではなくIBA(ICE Benchmark Administration)を選び、QUICKのTORFについても言及している。USDのターム物ではCMEが選ばれたが、GBPにおいてはIBAが面目を保った形になっている。

さて、JPY LIBORに話を戻すと、次はFSBのロードマップのP5にもあるように7/31のQuoting Conventionの変更がある。USDも7/26に同様の変更が行われるが、海外では、LIBORスワップを行うときは、まずはSOFR Swapを行い、LIBOR vs SOFRのベーシススワップを入れるという方向で話が進んでいる。ただし、円については何故かここまで具体的な話は聞かれてこない。ひょっとして日本では、特に気にせずLIBORスワップが続けられることになるのだろうか。

確かに二つのスワップをしなければならないとなると資本賦課も上がり、管理も面倒なので自然とOISに移っていくことになるが、これが変わらないのなら、逆にOISスワップをするときにLIBORスワップとLIBOR vs OISの二つのスワップをブックしなければならないとなると、移行のきっかけにもならないのではないか。単に二つのレートのスクリーンがありますよ。でもOISがメインですよ。という緩い感じのConvention Changeではあまり意味がないような気が個人的にするのだが。。。

CMEのSPAN2の導入時期が近付いてきた

長らく間議論されてきたCMEの証拠金モデルの変更が今年第四四半期になりそうだ。COVIDによって先延ばしになってきた変更がようやく導入されることになる。SPAN(The Standard Portfolio Analysis of Risk)は1988年から証拠金計算に使われており、日本でもJSCCとCMEの間でライセンス契約が結ばれ、先物・オプション取引の証拠金所要額計算にも使われている。世界で32の取引所で採用されている手法なので、日本を含めて世界中にインパクトを与える。

新しい計算手法はSPAN2と呼ばれ、シナリオベースのSPAN1と異なり、ヒストリカルデータを使ったVaRタイプのモデルとなっている。市場リスク、ストレスリスク、流動性・集中リスクの3つの部分に分かれており、ローリング・ルックバック期間に基づいている。AnchorモデルかRolling Lookbackモデルかはよく議論になるが、Anchorモデルの場合は例えば金融危機の時期を含むように2008年からといった形で過去データを固定する。

Rolling Lookbackは常に過去何年かといった期間をずらしていくので、極端な市場変動の時期が外れてしまうと証拠金額が大きくぶれてしまう。こうしたブレを緩和するために、一定のフロアを設けたり、ボラティリティを調整することによって、極端な変動が発生しないようにしている。商品によっては季節性を考慮したりもする。仮想シナリオを含めるのも良く使われる方法だ。

16のシナリオに基づくSPAN1に比べ、ポートフォリオ全体の動きを包括的に考慮するため、同じネッティング契約のもとに入っている取引については、ある程度のオフセットが見込まれるのではないかと予想される。パラレルテストは既に始まっているが、概ね好評との報道が多いため、当局承認を経て実際に導入されることになるのだろう。

アルケゴスの損失により、各金融機関ともMargined Riskの管理方法については、活発な議論がされていると思われるが、このSPANもリスク管理手法の進化に重要な役割を果たすことになるだろう。無担保取引が多かった頃は企業分析、ヘッジ等がリスク管理上重要だったが、有担保取引や取引所取引が中心になってくると、こうした証拠金計算手法がリスク管理の中心になってくるものと思われる。

米短期市場の資金の流れ

昨日米短期市場についてコメントしたが、もう少しデータも含めてみてみたい。今年3月にSLR(補完的レバレッジ比率)の一時緩和が延長されなかったことにより、JPMやCitiといった米銀大手が事業会社と預金を減らすよう話をしているという報道があったが、行き場を失ったその資金はMMFに流れた。お金を借りたいという会社が多ければ資金があるのはありがたいのだが、資金ニーズがないため、現在の資本規制下では、預金増は収益性低下につながってしまう。MMFに流れ込んだ資金は以下のように昨年以降急増している。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/

FRBはQEによって資産購入を続けているが、融資が増えない以上資産を売って現金をもらうインセンティブが銀行にはなくなる。米国債とFRBの準備預金がレバレッジ比率の計算から一時的に除外されていた時は良かったが、この期限が切れた今となっては預金増は重荷になってしまう。MMFに移してもらえば資産運用となるためSLRの計算には含まれない。

米銀大手3行の預金額は、2019年末から2020年末までに約3兆ドルから約4兆ドルへと増えたが、ローンの方は2兆ドル程度で一定である。優先株の発行等によりティア1資本を増やしてSLRの改善に努めてはいるものの、今年の第一四半期にも預金は約2500億ドル増えているため、預金は銀行経営の重しでしかなくなってきた。

企業はMMFに資金を移し、MMFは結局短期国債であるT-Billに投資をすることになるが、このT-billの発行額が減少している。となるとお金の行き場がなくなってしまったため、FRBはRRP(リバースレポプログラム)によって国債を市場に提供した。6月のデータはまだないが、このRRPの利用額を国債に絞ってグラフにしてみると以下のようになる。

https://www.financialresearch.gov/money-market-funds/federal-reserve-repo-facility-total-utilization-and-mmfs-participation/

2017年くらいにもRRPが使われていたが最近はほとんど利用がなかった。それが一気に4月に3500億ドルを超えてきている。国債のみかどうか定かではないが、報道によるとこれが直近7500億ドルを超えてきた。

こうして改めてデータを見てみると、かなりマーケットの流れが変わってきているのを改めて実感した。やはりSLRの見直しは急務のように思える。

米短期市場の混乱の始まり

FRBの利上げ前倒し方針を受けてマーケットがきな臭くなってきた。6/17から、IOER(超過準備の付利)とリバースレポの金利を0%から0.05%に上げたことにより、突然過去最高水準となる7500億ドルを超える資金が、RRP(Reverse Repo Program)を通じて約70社の市場参加者から流入した。お金の行き場に困っていたMMF、政府系企業、銀行が、現金をFRBに預けた格好だ。春先までほとんど使われていなかったこのRRPの金額がここまで急増するのは異例だ。

数か月前からこの資金流入は続いており、1日当たり5000億ドル程度にはなっていたが、今後もこの増加傾向は続きそうで、近いうちに1兆ドルを超えるだろうという声も聞かれる。つい最近までほとんど利用がなかったものがここまで急増したというのは、少し神経質になるべきなのかもしれない。ここ10年くらいのグラフを見ても明らかにこの動きは目立つ。

リバースレポなので米国債を担保に資金を得る方向なので、現金が余り過ぎているか、担保債となる米国債が足りないという理由が考えられる。2月から短期国債の供給が減っているのも影響しているのだろうが、やはりお金があまり過ぎているのだろう。2019年9月にレポレートが急騰してFRBが資金供給を行った時とは反対の流れになっている。

実行FF金利が過去最低水準になっていたため、利上げを想定する声は多かったが、これを受けてFF金利は0.10%まで上昇した。0%から0.25%の範囲に誘導するためなので、パウエル議長は狙い通りとコメントしているようだが、マーケットの現場では明らかに混乱がみられる。

FRBは月間1200億ドルの資産購入プログラムを継続しており、金余りが続いているため、どこかに資金の置き場が必要になっている。銀行融資も実は昨年後半からは増えておらず、企業の資金調達ニーズも減退している。完全に金余りである。コロナショック直後は有事に備えるためかローンが一時的に増加し、企業在庫も増えていたが、昨年からそれは解消され運転資金の必要性もなくなってきた。

ワクチン接種が進み経済活動が再開されれば消費が増え、生産も復活するという見込みだったのだろうが、実はコロナ前には完全に戻らず、消費増が生産増に結び付かないのではないかという懸念も出始めている。確かにリモートで何でもできるということも明らかになり、完全に元に戻るといよりは、ロックダウン時に起きた変化が一定程度継続する可能性は高いだろう。これだけ資金が余っているのなら債券購入プログラムを止めるというのが普通の考え方だが、FRBはそのインパクトにも神経をとがらせているのだろう。

今回は単にリバースレポの金利を0.05%引き上げただけと言ってはそれまでだが、FRBが短期の金利がマイナスになるのを極度に恐れていることの裏返しなのかもしれない。誰もが安全と思っていたMMFの危機につながるかもしれないのである。SLRの一時的緩和を延長しなかったのも事態を悪化させた。

実際の生産活動に比して資金が多すぎると、その調整はインフレに表れてくるはずである。足元のインフレ加速は一時的なものとパウエル議長はコメントしているが、これが続けば緩和修正が早まる可能性があり、その時に株式市場の暴落が始まってもおかしくない。しばらくは短期市場の行方にも注目したい。

LIBOR取引に対するペナルティチャージがかかり始める

CCPで清算された取引について、12月にLIBORからOISへの一括変換作業が行われるが、当局のガイダンスにもある通り、事前に変換が行われることが望ましい。LCHでは、ペナルティという言い方はしていないものの、残ってしまっているLIBOR Swapに実質的には手数料をかけることになっている。大分前から話は出ていたので、事前変換はMUSTだと思っていたのだが、関係者と話をしてみると、このフィーに気づいていない人が多いようで気になった。

詳細はLCHのWebサイトを参照頂きたいが、フォールバックフィーとコンバージョンフィーという二つの手数料によって早期移行を促す仕組みとなっている。フォールバックフィーは、残存LIBOR Swapにかかるもので、コンバージョンフィーは12月の一括変換時にかかるフィーである。

フォールバックフィーは、LIBOR Swapの件数によってチャージされるが、重要なのはこれが毎月取られるという点である。18か月の延長のあったUSD LIBORは除外されているが、JPY、GBP、EUR、CHFについては9月末から一件5ポンドのフィーが取られる。

日本では、面倒なので最後まで待とうという声も聞かれるが、12月に変換作業を行うスワップが多いとオペレーションリスクがあるうえ、こうしたフィーによる収益インパクトもある。CCPで清算された取引については、コンプレッション/Risk Transformationがメインの削減方法になるので、来月以降できるだけ多くの参加者がTriOptimaとQuantileのRunに参加し、Risk Torelenceを上げてLIBOR取引の削減に努める必要がある。

ちなみにこの手数料は直接参加者である銀行のみならずクライアントクリアリングのポジションにも適用される。12月に適用されるコンバージョンフィーについてはまだ開示されていないものと思われるが、早期コンバージョンのインセンティブ付のために、高い水準に設定されたとしても不思議ではない。

LCHがこうしたフィーを導入しているということはJSCCなど他のCCPが追随したとしても不思議ではない。コンプレッションの参加者は特に日本では限定的かもしれないが、今後はこうしたコンプレッションRunに積極的に参加することも重要になる。まずはLIBOR Swapの件数を調べてコストを計算してみるべきだ。わずかなbid offerやブローカーコストに注意を払うトレーダーが、単に手間だからと言ってコンプレッションに参加しないというのは本末転倒である。いや。トレーダーというよりは、資本、ファンディング、証拠金、クリアリングにかかるコストに対して注意を払う部門が必要なのかもしれない。

システム的、オペレーション的に手作業が多く消極的な参加者も多いようだが、海外ではほぼ自動化が進み、通用作業の一つになっている。こうした点でも後れを取らないようにしないと、証拠金負担、資本賦課によって収益性、ROEにおいても海外に後れを取ることになる。これに気づいているクライアントクリアリングの参加者は少ないのではないかと思うが、顧客サイドも早めに準備をした方が良いのではないだろうか。

米国債に清算集中規制は適用されるか

CMEとFICCが米国債のクリアリングに関してクロスマージンの仕組みを見直すというニュースが出ている。もともとCMEはBrokerTecを運営するNex社を買収したことによって、米国債の清算進出を伺っていると数年前に騒がれた。CMEが国債とレポ取引を一体的に管理できるようになれば、国債、レポ、先物、スワップまでクロスマージンができるようになり、証拠金削減につながるので、米国債の流動性向上に資する可能性がある。

現状は国債と国債先物のクロスマージンにとどまっているが、商品が広がればマージンの削減効果も高くなる。米国債のクリアリング規制の話も出始めているが、米国債のCCPによる清算集中義務化が確定すれば、このクロスマージンは極めて重要になる。

一時はCMEがDTCCの牙城を切り崩すかと思ったのだが、両者が強調するような方向に進んでいる。提案では、各CCPがクロスマージンの証拠金削減効果を計算し、より保守的な方の数字を採用するということのようだ。既に株式オプションでOCCとCMEが実現している方式に近い。今年中に局承認までもっていきたいとのことなので、かなり検討が進んでいる模様だ。

レバレッジ比率規制の見直しをしている最中にこのニュースが出るということは、米国債の清算集中義務付けや米国債の流動性向上策の一環としてこれが出てきているとも勘繰りたくなる。確かに、銀行のバランスシート制約によって米国債の流動性問題が発生したので、清算集中によってバランスシートインパクトを軽減するという方式であれば規制緩和に反対している政治家も説得しやすい。

日本でもIRSと国債先物のクロスマージンが行われているが、すべてJSCCの中で行えるため、複数CCPが絡む米国よりはハードルが低い。国債、レポを含めたクロスマージン制度の充実を今のうちから検討しておいた方が良いのかもしれない。

Quoting Convention変更のインパクト

CFTCから6/8に公表されたインターバンクのQuoting Convention変更に関するアナウンスメントが注目を集めた。関連する基調講演及びFAQも参照頂きたい。

GBPでは昨年スワップ等の線形商品、5月にはスワップションなどの非線形商品についてのConvention変更が行われたが、ドルについては7/26にLIBORからSOFRにQuoteの慣行を変更することになる。日本についても来月同様の変更が予定されている。

これはベストプラクティスで罰則がある訳ではないのだが、マーケットでは極力これに従う方向になるだろう。余談だが、海外では昔からベストプラクティスガイダンスというものが多く、市場参加者はできる限りこれに従ってきた。日本ではあまり聞かれない慣行で、単なるガイドラインで罰則規定がないなら関係ないのではないかという意見も聞かれることがあるが、海外の市場慣行はこうしたベストプラクティスで動くことが多い。法律ではないので、たとえ市場慣行が変わらず方針変換をしたとしても、法律の書き換えは必要ないため使い勝手が良い。

さて、7/26よりディーラー間ではLIBORよりもSOFRを優先させるということだが、イメージがつかみにくい。具体的には、7/26以降ディーラー間では、LIBOR Swapの代わりにSOFR Swapを提示して取引をすることになる。しかもLIBOR Swapの画面は情報提供目的のみとなり、10/22以降はその画面が完全に消えることになる。

CFTCのアナウンスに従えば、すべての取引、アウトライトおよびベーシス・スワップは、SOFRを中心に行われることになる。 ここで、LIBORはSOFRのベーシスとしてアクセス可能となると書かれている。つまり、LIBOR Swapをやりたいと言われたら、固定 vs LIBORのスワップを行うわけではなく、まずは固定 vs SOFRのスワップを行い、SOFR vs LIBORのベーシススワップを入れることになる。Notionalが二倍になるので資本賦課の点でも不利になる。そして、10/22以降は、LIBORの画面が完全に消える。

もともとLIBORの画面もOISの画面も両方あるから、7月以降何が変わるかよく分からないという声もあるが、取引の仕方が、固定 vs LIBORではなくOISを挟んだ二つのスワップになるとすると、やはり移行の機運は高まるのではないかと思う。

LIBOR移行進捗状況

先週は日銀副総裁の講演(最終局面を迎えたLIBOR移行対応)、ISDAのBenchmark Strategies Forum、Quick社のセミナー等、LIBOR関連の様々な情報提供が行われた。そろそろマーケットも動き出す雰囲気が感じられるので、また直近のデータが気になる。

JSCCの清算取引データを見てみると、確かに直近LIBOR Swapの割合が減少傾向にある。6/3ベーシスやDTIBOR vs ZTIBORベーシスなどはそれぞれ適宜分類して、単純にLIBOR関連、TIBOR関連、OIS関連に分けてみた。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

OISが突然取引される日はあるものの、やはり直近はTIBORへのシフトが起きているように見える。一昨日などはTIBORの取引量がLIBORに迫っている。DTIBORは20年までしか清算できないので、実はこれよりもTIBORは多い可能性もある。グラフの期間の取引量を合計すると、LIBOR関連が65%、TIBOR関連が19%、OIS関連が16%という割合になる。昨年は8割を超えていたLIBORの割合が65%というのは進歩だが、4月が67%、5月が66%だったことを考えると、それほどトレンドが大きく変わったわけではない。

やはりヘッジ会計がネックなのだろうか。当局としても金融機関にプレッシャーをかけるより、監査法人にLIBOR移行に協力するようにした方が効果的なのではないかとも思ってしまう。時価評価を嫌う日本の文化では、会計がデリバティブ市場に与える影響が他国に比べて極端に大きい。直接デリバティブ取引をすると時価評価しなければならないからという理由で、日本でRepackが多いのも会計が理由のように思う。

来月7月からは、新規のUSD LIBORスワップが原則停止となるが、厳密にいえばドル円の通貨スワップにもUSD LIBORが含まれているので、これも停止かという話もある。ただ、現状のマーケットを見ていると、7月に完全移行ができるとは到底思えない。GBPのロードマップ上もGBP LIBORレグを含む通貨スワップはQ3移行の停止を想定しているとも読める箇所があるので、しばらくは通貨スワップの移行は起きないのだろう。海外では通貨スワップの事前移行の動きも活発化しているので、日本の遅れがここでも目立ち始めている。ワクチンと同じように、日本は動き出すまでは異様に時間がかかるが、一旦動き出すとものすごいスピードで追いつくということになるのかもしれない。

金融とITの融合

金融データ分析を行うCoalition Greenwichのレポートについての記事が出ていたが、バイサイドの株式トレーディングに係る予算が12%増加したとのことだ。コロナ禍で、リモートワークに対応するためにシステム投資を増やしたところが多いようだ。予算のうち40%がリモートワーク環境に対するものなので、感染終息後もリモートワークを一部活用することになりそうだ。

次に大きいのはオーダーマネジメントシステムに対する出費で27%を占めている。また、AI、ブロックチェーン、クラウド技術に対する予算も33%程度増やすとなっている。Robotic処理などの次世代テクノロジーに対する出費も増加する見込みだ。

確かにデリバティブ取引周りの処理についても、コンファメーションを郵送やFAXで送っていた頃とは大きく異なり、かなりの部分がオートメーション化された。取引のブッキングや照合作業もほとんどが機械化されており、ミスも減ってきた。

このように金融はますますテクノロジーに依存する形に変化している。業績好調にもかかわらず、人員削減は続いているが、テクノロジーに対する出費は軒並み増えている。人の仕事がマシンに変わると言われて久しいが、少なくとも予算や人員を見ているとこれは既に業界の常識になっている。

既にかなりの部分がオートメーション化されてしまったため、口頭で確認した内容が間違っていると、それがそのまま下流のプロセスに流れ、Booking、クリアリング、清算機関へと流れてしまう。電子取引の多い海外では、あまり問題にならないが、ボイストレーディングが中心の日本では、誤ったコンファメーションを出したり、当局報告データに誤りがあることを恐れるためか、わざわざこの自動プロセスを外し、複数の人がチェックするというオペレーションを行っているところもあると聞く。

日本では、システム投資にお金が流れにくい。そんなコストを掛けるよりは人海戦術でやった方が確実という結論になることも多い。解雇という選択をしにくいため、余剰人員活用をしたいというニーズもあるのかもしれない。

しかし、ここまで海外のシステム投資が増えてくると、このままでは日本の金融が大きく取り残されてしまう可能性がある。大手はきちんと戦略を立てて、システム投資をしているところが多いが、バイサイドや大手機関投資家で、Coaltionが分析したような積極投資を行っているところは少ないように思う。

海外投資家に聞くと、フェイルに対する慣行、資金決済、口座開設にかかる手間の他にも、何か日本の金融は特殊だというイメージがあるようで、極力オフショアで取引をしたいという意見が多い。

アジアを含めた海外の資金の影響がここまで大きくなってくると、日本の金融ガラパゴス化は、日本にとってあまり良い影響があるとは思えない。本当は日本で作った基準がグローバルに広がっていけばよいのだが、金融においては、残念ながら極力グローバルスタンダードに合わせていく方が望ましいのだろう。

ターム物RFRではなくオーバーナイトRFR

6/2にFSBからもう一つ「金利指標改革:オーバーナイト物リスク・フリー・レート及びターム物レート」が公表されている。2018年7月の文書を改訂したものだが、オーバーナイトのRFRへの移行が金融の安定性のために重要としている。主にデリバティブ市場について触れられている箇所が多い。

ターム物金利についても言及があるが、it is important that transition away from IBORs is to the new overnight RFRs rather than to these types of term rates.と書かれており、ターム物ではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。IBORsはDeep/Liquid Underlying Marketに欠けるため脆弱だとしているが、内容的にはこのIBORsにはTIBORも入るように思うのは私だけだろうか。

また、以下のように、ターム物RFRを広範に使うことは、利益相反にもなりかねないと明確に述べている。

widespread use of term RFRs in derivatives would create the potential for actual or perceived conflicts of interest for market participants.

FSBもターム物に一定の役割があるとは認めつつも、その利用は限定的なものになるとしている。一方オーバーナイトRFRの利点として、中央銀行の政策金利に連動しやすく、銀行に対する信用懸念によって市場が歪められる可能性も低いという点を挙げている。そしてターム物の流動性向上を待つのではなく、オーバーナイトRFRへの移行が重要としている。

英国では、ターム物SONIAの導入にも関わらず、変動利付債や証券化商品の発行において、後決めSONIAが広く使われるようになっている。スイスではターム物金利が存在しないこともあり、住宅ローンや企業向けローンで後決め複利のSARONが一般的となっている。米国の変動利付債も後決めSOFRが一般的となり、消費者ローンは前決めSOFRになっていることなどが紹介されている。日本についての言及はない。

以下のようにFSBとしては、ターム物がオーバーナイトRFRほど頑健性を持つようになるとは予想しておらず、その使用は限定的なものであるべきと言い切っている。そしてターム物の方が変動も激しいことが予想されるので、金融の安定には望ましくないとしている。

because the FSB does not expect such RFR-derived term rates to be as robust as the overnight RFRs themselves, they should be used only where necessary.

また、どうしても金利を先に確定させたいローンなどについては、前決めRFRやIBORと同じNotice、決済を行うRFRの可能性にも触れている。ヘッジツールとしても、一部の債券のヘッジ以外はオーバーナイトRFRを使うのが効果的と述べられている。全般的にターム物の利用は限定的にすべきであり、特にデリバティブ取引については、オーバーナイトRFRをメインとすべきという強いメッセージがあちこちにちりばめられている。そしてターム物を使ったとしても、流動性がなくなる場合に備えてフォールバックの文言を準備すべきとまで言っている。

ターム物のTORFに対する期待感が強く、足下でTIBORへのシフトがみられる日本は大丈夫なのだろうか。

JPY LIBORの移行状況

TIBORの盛り上がりについて書いたが、実際のデータを確認してみたくなった。米国のようなSDRが充実していない日本では、公開されている情報としてはJSCCのデータが最も充実している。早速各指標のシェアを見るグラフを作ってみたところ以下のような結果となった。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

データの略称は以下の通り

  • L: LIBOR(含むLIBOR6/3)
  • Z: ZTIBOR
  • D: DTIBOR
  • LZ: LIBOR vs ZTIBOR
  • DZ: DTIBOR vs ZTIBOR

これだけ見ると、Lの部分がここ数か月急速にシェアを落としており、実はLIBORからの移行が進んでいるように見える。特に5月のOISは昨年の秋を超えて、13%のシェアとなっている。そしてTL(グラフのLZ)が8%へと増えている。4月以降LZが増えているが、同時にDの割合も増え、これまであまり見られなかったDZがみられるようになった。これまでほぼ同じものとされていたところ、あまりに動くのでヘッジのフローが入っているのかもしれない。

4月はOISというよりはTIBOR移行の様相を呈していたが、5月にOISが巻き返しを見せている。Quoting Conventionも来月には変わるので、ようやく動きが見えてきたということか。

全体の取引量を見てみると以下のようになる(単位:百万円)。4、5月は取引量自体が極めて少なかったが、四半期末にあたる6月には少しは取引量が戻るだろうから、6月のデータに注目したい。

https://www.jpx.co.jp/jscc/toukei_irs.html

日本全体では固定受けニーズが強いというのはよく言われることである。そうするとここ最近のTLベーシスの縮小はLからDまたはZへの移行の結果なのかもしれないが、今度はOISに移るとなると、TLが反転し、今度はOISが下がるということになるのだろうか。