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金融取引処理の自動化と標準化

金融の世界ではコスト削減と透明性向上のために、様々な標準化の努力が続けられている。日本にいるとあまり目立たない動きのように感じてしまうが、海外では、業務プロセスが毎年のように変更されていく。デリバティブ取引のISDAの契約交渉は電子的に交渉をサポートするISDA Createがあり、データの標準化にはCDM(Common Domain Model)がある。そして昨年この両者の統合が可能になったことにより、契約と業務処理がシームレスにつながり、さらなる自動化が可能になった。

契約交渉の過程で合意された条件を、リスク管理システムや取引データ管理システムにそのまま流し、自動的にデータ処理ができるようになる。以前は、ISDA契約を一つ一つ読み込み、Threshold、適格担保などのデータをシステムに手入力していた。そして、このデータが間違っていると、XVAのプライシングミスが発生して損失につながることもあった。個人的にもこのデータ入力と確認作業を担当したことがあったが、間違いのないよう複数のチェックを入れたり、外部弁護士にレビューを依頼したりとかなりのコストをかけてデータ化したのを記憶している。

これらの自動化により、Archadie Softなどの担保管理やその他のサービスプロバイダーは、ISDA Createによって交渉が行われた契約条件を簡単に取り込むことができる。オンライン上で契約交渉を行うと、そのデータが自動的に取得、保存され、あらゆる目的に使用できるようになる。特に一つのISDAマスター契約にファンドを追加していく海外アセマネの取引に関しては、事務効率がかなり向上した。

これらのデータを標準化しておけば、当局向け取引報告、IM最適化、コンプレッション、Novationなど様々なポストトレード処理の効率性が高まるだろう。特に資本やファンディングコストなどの効率性を意識しながら金融取引を行うことが重要になっている昨今においては、こうした流れに後れないようにしておくことは非常に意味があることである。

これまではこうした動きに国内勢が後れを取ることが多かったが、金融機関がますますシステム産業化していく中、これを避けて通ることはできないだろう。

TIBOR公表停止

TIBORがなくなるのかという問い合わせが突然複数入ってきたので何かと思ったらTIBORのTSRについての話だった。パネル行5行のうち2行が離脱し、残り3社となっていたが、うち一行は今月末でレート提供を終了するので2月1日からはTIBOR参照のTSRの公表停止が提案されている。

以前は上下二社のクォートを除外して平均をとっていたが、2社しかないとレートが信ぴょう性に欠けるものになり、市場操作の可能性が高くなってしまう。もはや銀行がレートを提供してインデックスを作成するというのは困難になったと言えよう。後継金利は、おそらくTONA+スプレッドという形になるのだろう。

とはいえ、TIBOR参照のTSRを使った取引は極めて少なく影響は限定的だと思われる。TIBOR自体は残るものの、ZTIBORは2024年12月末の公表停止が既に既定路線になっている。流動性もTONAの方がかなり高くなっているのでTIBOR取引をするには余計にコストがかかるようになってきている。こうなると、コストを気にする市場参加者のTIBORの使用はますます限定的になっていくのではないだろうか。

一部TIBORの使用を継続したいというニーズは残るのだろうが、それは取引コストとの引き換えになるかもしれないということを念頭に置いておく必要があろう。

債券の電子取引は日本よりアジアが先行

Coalitionの分析で、アジアにおける債券の電子取引が急増しているという報道があった。しかも従来から増えていたドルやユーロなどの流動性の高い債券のみならず、アジア通貨建て債券の電子取引が増えているとのことである。

2016年の調査ではバイサイドが取引する債券の14%が電子だったが、2020年末には1/3を占めるまでになっている。バイサイド同士の取引やディーラーがRFQ(Request for Quote)を送るケースも出てきている。このペースで行くとかなりの取引が電子化していくことになるだろう。

いまだ大きなうねりにはなっていないものの、日本でも日本国債の取引が徐々に電子に移行しているのを感じている。それでも日本の電子化への移行は他国に比べ後れを取っている。画面に表示されたストリーミングプライスによって取引を執行できるのは楽だと思うのだが、日本の投資家は、海外に比べVoiceでの取引を選好するところが多い。これが日本はビジネスを行うにはコストがかかる理由の一つになっている。

それにしてもここ数年でかなりの業務が人手を介さない方向にシフトしている。逆にシステムにトラブルがあった時や、特殊な処理を依頼したときの例外プロセスを作るのに多大なコストがかかるようになっているが、標準的な取引をするだけであれば、ほとんど人手を介さずに多くの業務が完了するようになった。

取引報告一つとっても、取引後たたちにパブリックに報告をしなければならないという米国規制に従うには、もはや手作業では間に合わない。一方システムが止まると規制報告ができないから取引を止めるということも発生する。日本の場合は、システム化を前提にした規制が海外より多くないので何とか手作業で対応できてしまうのだが、ここを改善していかないと、効率性において世界にどんどん後れを取ってしまうのではないだろうかと心配になる。

SA-CCR適用による自己資本比率へのインパクト

大手米銀の決算が公表されたが、各行ともSA-CCRの影響に言及している。

MSは12月1日から若干の早期適用をしたが、12月31日時点では、SA-CCRの適用により標準法におけるRWAが$23bn増加したと発表している。これによる自己資本比率(CET1)は0.82%低下した。前回決算発表時の予測が1.2%低下だったので、若干改善されている。

GSも同じく第四四半期にSA-CCRを早期適用しているが、こちらはRWAが約$15bn増加と発表している。これによって内部モデルが意味をなさなくなCollins Floorをヒットした。おそらくこれで米銀大手8行すべてがこのフロアにヒットしたことになる。

JPMは、SA-CCR適用によってRWAが$40bn増加、自己資本比率は0.3%の減少と質疑応答で答えている。

CitiはSA-CCRへのシフトで一旦資本比率を悪化させたが、最近の削減努力が実り、第四四半期に$60bnものRWAの削減を実現したようだ。12%のROWターゲットに向けかなりの努力をしたのが伺われる。

このように米銀トップは常にROEを重視して経営を行っており、その努力は数字に表れてくる。資本コストの高いビジネスからの撤退も続いており、RWAが増えればそれを減らすための努力も継続している。当然ながら、日々の取引についても資本コストを計算しながら案件に取り組むかの判断をしている。

昨今では、CVAやFVAなどの評価調整よりもKVAの方が取引制約になってきているという声も多い。こうなると、資本コストをそれほど気にかけない銀行が多い日本でのビジネスはなかなか難しくなってくる。

IT投資の差が金融機関の将来を決める

JPMが競争力強化のためシステム投資と人材投資を大幅に増やすとのことだ。これにより経費を8%増の$77bnに増やすという。これまでコスト管理にうるさかったJPMが、収益性をある程度犠牲にしてでも、新規投資を含めて資金を振り向けるという。確かJPMのIT投資は大体純利益の4割程度だったと思うが、そのうち半分にまで達するのではないだろうか。

これによって目標株価を下げたアナリストもおり、実際に株価は金曜に下落したが、おそらくそれだけ競争が激しくなっているのを意識しているのだろう。Citiなど他の銀行も、Thechnology投資を最重要分野として、システム投資を増やしている。

確かに最近の米銀システム投資コストは尋常ではない。毎年巨額の予算が振り向けられあらゆるプロセスが急速に変化している。ただ、目に見えるくらいその効果は出ており、人手を介さない業務がどんどん増えている。同じ業務に必要だった人員もかなり少なくなってきた。人為ミスも減っている。その代わりシステムが一旦止まるとすべてが止まるので、巨額の投資を続ける必要もある。

この辺りは日本とは雲泥の差があるように思う。確かにここまでのコストを掛けるのなら、人がマニュアル作業をした方が安くつくのも確かだ。特に非常に細かい顧客サービスが求められる日本では、人手で解決する方向に行きがちだ。終身雇用のもとで抱えた余剰人員で対応するのも簡単だ。傘下のシステム子会社がOBの行き先になっているという事情もある。

20年ほど前は日本と言えばテクノロジーでは最先端と言われたのが、今は全く海外からの目が変わってしまった。米国のようにFinTechなど新興企業が金融業界を揺るがすようになれば危機感も出てくるのだろうが、起業が少なくオーバーバンキングの日本ではこうした動きも鈍い。メガバンクですら年間のシステム投資額は2000億円に満たないと思うが、このままでは世界との差はますます開いてしまうのではないだろうか。

LIBOR改革後の金利指標

EUR/USDの通貨スワップについては、SOFR/ESTRとusdlibor/euriborの二つの選択肢があったため、昨年のRFR Firstからデータを追っていたのだが、12月後半になってほとんどがSOFR/ESTRになった。11月時点では半々くらいだったので、急速に新レートへのシフトが起きた格好だ。特に規制や当局ガイダンスがなくても移る時には移るというのがはっきりした。

あとはCAD、AUD、NZDがどうなるかに注目が集まる。カナダでは日本のTIBORと同じように銀行から提出されたデータに基づくレートであるCDORが使われている。TIBOR同様、透明性を高めるための改革が行われているが、長い目で見ればRFRであるSOFR/Corraに移っていくのではないだろうか。あとはCorraの流動性次第だが、一連のLIBOR改革の経験からすると、当局のガイダンスやディーラーの協力があれば、流動性をシフトさせるのは不可能ではないと思う。

とは言え、金利スワップに関してはTIBORやEuriborは引き続き存在感を維持しており、今後これを大きく変えるというきっかけはなさそうだ。エンドユーザーはおそらくこうしたレートを使い続けるだろうし、リクエストがあればディーラーは応じるしかない。おそらく流動性に見合ったコストをチャージすることになるので、エンドユーザーのコストは上がる。しかしこのコストが上がっているということには、あまりユーザーとしては気づきづらい。また、ディーラー間の競争が激しいので、コストを転嫁できていないのかもしれない。

ただ、ディーラーとしては取引をするベーシスが増えればそれが収益機会にもなる。一方で、リスク管理者としては、管理対象のリスクが増えるので全体としてのコストは確実に上がっている。

とは言え、全体としてみればLIBOR改革によってかなりすっきりしてきた。今まで管理をしていたTIBOR vs LIBOR、LIBOR6m vs 3m、LIBOR vs OISなどのベーシスが少なくなったからだ。日本ではDTIBOR vs ZTIBOR、DTIBOR6m vs 3m、ZTIBOR vs OISなどまだまだベーシスは多いが、最近はこの動きも落ち着いてきている。新年に入って海外から日本の円金利市場に関心が集まっているのをひしひしと感じているが、あまり複雑にしない方が流動性が上がるの。既に計画はあるのだが、DTIBORとZTIBORの共存という現在の形には早めに終止符を打ってほしいものだ。

LIBOR改革が市場の標準化を加速させる

LIBOR改革にともないユーロのEONIAが公表停止となった。EURを適格担保にしているCSAについては、昨年以来EONIAをESTRに変更する交渉が行われてきた。CCPにおいても2021年7月にこの変更が終了しており、既にESTRフラットでの割引が行われている。この交渉を行っていなかった市場参加者は、EONIAがなくなったためESTR+8.5bpにフォールバックしてしまった。

EONIA=ESTR+8.5bpに設定されているが、CCPと異なるESTR+8.5bpにするのも面倒なので、本来であれば、担保金利をCCP同様ESTRフラットにするのが最も望ましい。しかし、この場合割引率が異なることからスワップの時価が変動し、勝ち負けを現金決済する必要がある。この金額について取引当事者が合意することが難しいので、既存取引はESTR+8.5bpとした契約が多かった。また、新規取引はESTRフラットにしておき、古くから残るレガシースワップのみESTR+8.5bpとしているケースも見られる。

最も面倒なのは国債や社債など、現金以外の担保が適格とされているCSAだ。業界ではこうした非標準のCSAをDirty CSAと呼んでいる。これには、調達コストが安い担保を選んで拠出できるため、CTDVAがかかっている。CTDVAはCheapest to Deliver VAの略で、複数の担保を選択できるオプションの価値(評価調整)である。債券担保の場合の割引率は債券のレポレートによって計算するが、長期のレポのタームレートは存在しないため、このオプションの価値を当事者同士が完全に合意するのはかなり難しい。

ここまでくると、CSAを極力標準的なものにして、CCPと条件を合わせていきたいという市場参加者が増えてくる。おそらく市場の流動性向上のためにはこれが最も望ましい。あるいは、LCHのSwapAgentを利用して標準的な割引率を利用するのも検討に値する。今後は取引相手毎に個別に契約をカスタマイズするのではなく、極力市場標準に合わせていく方が望ましい。これは日本が一番不得意とするところであるが。

日本のビジネス慣行

元旦から世界食糧争奪戦の現場というニュースを見た。円安等の問題はさておき、日本が商売相手として面倒くさいのが問題と書かれていた。ものを欲しがるくせに金をケチる。要求が度を越している。ちょっとでも瑕疵があれば報告書を出せ、改善計画書を出せと居丈高に要求すると。それならつべこべ言わず金を出してくれる中国に売るということで、食料がかなり中国に流れてしまっているとのことだ。

金融業界では常に言われてきたことだが、これはどうやらあらゆる業界で言われている日本の特徴なのかもしれない。金融では改善計画書ならぬ「経緯書」という名前で呼ばれるが、今では海外でもKeiishoと言えば通じることが多くなった。海外ではこんなものを出すよう要求する人はまれだが、日本では必須である。

例えばフェイルというのは有価証券の引き渡しが遅れた場合には次の日に繰り越されるという市場慣行だが、日本では事務ミスと認識して出禁にするところがある。あまり海外では聞いたことがない。

国際的な契約社会においては、書面で約束することに対して慎重になるため、なかなか具体的な内容に踏み込めないのだが、four eyes check(4つの目、つまり2人でダブルチェックをすること)を徹底するなどと書かれたものが多いようだ。更にミスが起きると6 eyes checkにするなどという冗談みたいな話も聞かれる。内容というよりは書面で詫びるというプロセスが大事という側面もあるのだろう。

それでも日本だけは特殊だからと必死で対応してきたが、そろそろ日本切り捨て論が強くなっているのをひしひしと感じる。同じことは金融だけでなくあらゆるところで起きているようだ。

やはりミスや失敗を許さない文化というのがあるのだろうか。日本に経済力があった時は問題なかったが、ここまで国際的なプレゼンスが落ちてくると、いつまで過剰サービス対応を貫けるのだろうか。

NDFのクリアリングが加速

証拠金規制最終フェーズを来年に控え、LCHやEurexといったCCPにおけるNDFのクリアリングが増加している。特に取引が一方向になりがちなバイサイドにとっては、当初証拠金の負担増を避けるため、CCPにおいて清算するインセンティブがある。INR、KRW、TWDといったアジア通貨のクリアリングも増えているようだ。OTCでも証拠金が必要になれば、上場商品と何ら変わりがなくなるため、上場デリバティブへのシフトも進むかもしれない。

こうした通貨は当然アジアのバイサイドからの取引ニーズが大きいので、アジアの参加者のクリアリングシフトが起きている。日本でもEM通貨を扱う投資信託等はあるので、一定のクリアリングニーズはあるはずなのだが、どうも日本は担保拠出と担保オペレーションに対するアレルギーがあるのか、ほとんどクリアリングが使われていない。

個人的な印象だけなのかもしれないが、日本では当初証拠金、規制資本等の最適化を進めようという動きが鈍い。未だに効率性よりシェアを重視しているわけではないだろうが、ROEは依然低く、当初証拠金を減らそうという動きも鈍い。海外CCP、CLSなどの海外標準サービスの採用ペースも遅い。

最近ではあらゆる標準システムが、こうしたフローを中心に作られているので、海外で進む自動化、標準化の流れについていかないと、世界から取り残されてしまうのではないだろうか。外資系では、金融は完全にシステム産業化していると言われ、毎年莫大なシステム投資を続けている。商品に差がつけ難くなってきた今、サービスの差別化をシステム化で図ろうとしている。お金ばかりかければ良いという訳ではないので注意が必要だが、テクノロジーの重要性は今後の金融機関経営の最重要課題となっていくだろう。

欧州300億円規制は邦銀に影響を与えるか

10月末にアナウンスされたEUの資本規制改正案が邦銀の海外戦略に影響を与えるとRisk.netで報道されている。EU域内に支店を持つ銀行の資産が300憶ユーロを超えた場合、EU市場にシステミックリスクがあると判断されれば、事業再編を迫られ、必要な場合は現法設立が求められるというものだ。また、資産50憶ユーロ以上の場合、LCRを含む追加的な流動性要件に従う必要があるという。

300億ユーロを超えているのはSMBCだけとのことだが、その他の銀行はこの300億を意識して事業展開をせざるを得ないという報道内容となっている。

ただ細かくないようを見ていくと、それほど負担が増えるようなものには見えない。EUの専門家からも、それほど大きなインパクトがはないだろうというコメントも出ている。何となく面倒だからEUでのビジネス拡大を躊躇するという影響はあるだろうが、自国に進出する金融機関に追加規制をかけるのはどこでも同じである。米国はもちろん、アジアの国々でも現地通貨建ての流動性確保の要件など、追加規制は珍しくない。

日本で活動している海外金融機関を見ても、ほとんどが現地法人を設立し、登録金融機関または金商業者として登録し業務を行っている。以前は便利だった支店形態は、規制強化によってどんどん困難になっている。米国にもSMBC CapitalやMizuho Capitalいった現法は既に存在しているので、今後は現法による海外展開というのが中心になっていくのだろう。

ポストトレード処理

以前は、デリバティブ取引を執行した後は、システムにブックしてコンファメーションを送れば処理が完了した。しかし、近年は、規制強化に伴って、取引後の処理が重要になってきた。取引照合、SEFやETPにおける執行、CCPにおける清算、即時報告(リアルタイムレポーティング)、当局への報告、マージンコール、担保決済、分別管理など、ポストトレードサービスは、取引が行われた後に発生する、取引のライフサイクルにおけるミドルオフィスとバックオフィスのあらゆる処理をカバーする。

更に、その取引に関するファンディングコスト、資本コストがかかり続けるため、それをいかに最適化していくかということも重要になる。この代表例がコンプレッションであるが、オフセットする取引を削減し、バランスシートにのっている取引量を減らすことにより、資本効率を向上させることができる。また、所要当初証拠金額の削減、ベーシスポジションの解消、SA-CCR上の資本賦課の削減、XVAの削減まで、様々な最適化が可能である。つまり、各種取引の結果できあがったポートフォリオを常に最適化し管理していくことが重要になってきたのである。

金融業界は規制強化、競争激化、低成長化、低収益化が起きており、それに対応するためテクノロジーを使ったコスト削減によるROE向上が急務になっている。その中心となるのがポストトレード処理である。

取引報告

まずは、ポストトレード処理の最初の段階に取引報告がある。単に取引した内容を報告するだけかと思ったら大間違いで、これを適切に行わないと巨額の罰金を科せられる。ここまで取引量が増えてくると、手作業で報告をするのは不可能で、システム対応によるオートメーションが不可欠となる。システム障害が発生した時は、取引が報告できないという理由で新規取引を止めたりもする。近年、規制当局は取引報告の一貫性と正確性を高める必要性を認識し、世界的に調和したデータ要素の採用を目指して、規則の見直しに着手している。こうした規則の変更に対応するには、その要件を解釈し、変更をシステムに組み込まなければならない。米国、EU、日本と規則が異なるが、共通の分類法や技術を使用して、より費用対効果の高いシステムを作り上げる必要がある。

ISDAでは、デジタル・レギュラトリー・レポーティング(DRR)イニシアチブの下で、共通ドメインモデル(CDM)を使って、一連の規則を共通の認識で解釈できるように努めている。将来的に規制が変更になった場合も、DRRを使用するすべての企業に迅速かつ一貫した形で展開することができ、監督当局に対して透明性を確保することができる。CDMの利用により、ポストトレードに関わるコストを業界全体で50-80%削減することが可能という研究結果もある。

当初証拠金最適化

ポストトレードのもう一つの柱に当初証拠金計算と最適化がある。証拠金規制によって、より多くの市場参加者が当初証拠金を計算、モニタリング、拠出するようになり、カストディアンにおける分別管理を行うようになった。カストディアンと口座管理契約の交渉と日々のやり取りは、証拠金規制によって新たに生まれたプロセスである。

ISDAの標準モデルであるSIMMの導入も不可欠となり、このSIMMで計算された当初証拠金額が証拠金規制のThresholdを超えていないかどうかの確認も必要となった。取引の収益マージンが縮小していく中、これらのすべてのプロセスを手作業が行っていると、オペレーションコストがかさんでしまうので、極力人手を介さずに効率的に処理を行うことが金融機関の競争力の源泉となってきた。残念ながら、これは日本の金融機関が最も不得手とする分野である。

取引量の圧縮(コンプレッション)

カウンターパーティーリスク管理の観点からは、CCPと並んでTriOptima社やQuantile Technologies社のような会社が提供するサービスの重要性も高まってきている。特に近年では、レバレッジ比率規制等想定元本で縛りをかける規制がふえてきたことから、元本を減らすコンプレッションはきわめて重要になってきている。これは、既存の取引について、参加者間でオフセットできる取引を一斉にキャンセルし、取引量を圧縮するというものである(Compression、Tear-upとも呼ばれる)。これにより、エクスポージャーや資本コストを削減すると同時に、取引管理業務からも解放される。

市場参加者は、キャンセルを希望する取引明細を同社のWeb上にアップロードすると同時に、キャンセルによって生じうる与信やリスク量の変化について、自身の許容量を提示する。TriOptimaでは、各社のキャンセル候補案件を組み合わせ、すべての参加者の許容範囲内でキャンセルできるような最適な取引の組合せを探し出し、参加者の合意が得られれば取引を一斉にキャンセルする。CDS等の想定元本残高が近年減少しているが、単純に取引が減ったというよりは、こうした残高圧縮の動きが活発化していることも、その理由の一つである。

バーゼルIに始まった資本規制は、内部格付、内部モデル等を使ったリスクに応じた計算にシフトしてきたが、2008年の金融危機を受けて、各金融機関が独自に計算したリスク指標は信用できないという方向に180度転換した。取引の想定元本で規制をかけるというレバレッジ比率規制がその最たるものであるが、リスクという観点からは完全にオフセットしている二つの取引であったとして、取引が残っている以上は取引に制約条件を加えなければならなくなった。これを受けて、金融機関サイドでは、本来のリスクのみならず想定元本も管理しなければならなくなり、リスクベースではない指標の管理も重要になってきた。

これはCCPに対する取引も同様で、各CCPでは、定期的に取引圧縮を行っている。このため、今後はコンプレッションが容易な取引のニーズが高まり、一部でMACスワップのような取引の標準化が進んだ。同時に各金融機関、CCPともに、想定元本をふくらませずに取引をブックし、キャンセルしていくような仕組みを構築していかなければならない。

 たとえば、想定元本10億円のスワップを銀行と行った後、これを解約する場合、同じ銀行と解約すれば取引が完全に消える。しかし、別の銀行のプライスが良かった場合は、反対取引を新規で入れることになる。この場合、二つの取引は完全にオフセットしているため、マーケットリスクはない。しかし、二つの銀行に対するカウンターパーティーリスクを負っていると同時に、想定元本も20億円になってしまう。このようなケースではアサインメントといって、当初の取引を新しい銀行に譲渡するやり方をとれば想定元本はふえない。なお、CCPで取引をしていればオフセットする取引はその後消えていくことになる。

さらにこうした完全にオフセットする取引でなくても、満期やクーポンが若干異なるためにコンプレッションができない場合にも、取引の内容を若干変えてでも想定元本を減らせるような仕組みも考えていく必要がある。CCPでは既にクーポンブレンディングやリスキーコンプレッションといってリスク量が若干変化するのを許容するコンプレッションも行われている。このような努力を続けていけば、想定元本を減らすのみならず、万が一参加者破綻が起きた場合でもオークションポートフォリオを簡素化できる。

SwapAgentとは

SwapAgentは、英国のCCPであるLCHのサービスで、清算はしないものの、相対取引の執行、証拠金授受、決済などを簡素化するためのサービスである。クリアリング業務で培った経験を、非清算取引に拡大し、標準化、効率化、簡素化を進めようというものである。取引自体は清算されていないが、集中取引処理、時価評価、証拠金計算、リスク計算、ポートフォリオ最適化などが、清算取引と似たようなプロセスで行われる。

通常のマージンコールにおいては、双方の時価が異なることによるDisputeが発生するが、SwapAgentでは、LCHが時価評価をすることによりDisputeがなくなる。担保決済も清算取引と同じように行われるため、標準化が可能になる。リスクファクターの計算も標準化されるため、SIMMの計算も容易になり、計算結果の違いも少なくなる。

そして、SwapAgentと非SwapAgent取引を含めたポートフォリオについて、TriOptimaなどのコンプレッションが容易に適用できるため、取引量の圧縮も可能になる。

また、何と言っても割引率が統一されるのが大きい。例えば、ドル円通貨スワップについては、CSAの適格担保の通貨によって、割引率が円のものとドルのものが混在している。一般的に通貨スワップについてはドルディスカウントを行う市場参加者が多いので、ドル担保のCSAを別途締結するところもある、追加のCSA契約締結等手間が多い。これが、SwapAgentに参加すると、すべて標準のドルディスカウントが行えるようになる。

LIBOR改革においても清算取引と同様の指標変更が行えるため、相対で交渉する手間が省けた。今後は逆にSwapAgentに参加していないとチャージをされるようなことが増えてくるものと思われる。

SA-CCRが小規模金融機関に与えるインパクト

スペインの地銀の2021年上半期のCVA資本チャージが、SA-CCRへの移行に伴い€29mmから€1bn超へと、30倍に膨らんだとの記事が出ている。この程度の規模の地銀でこれだけの資本コストの上昇は尋常でないが、地銀でもCVAを無視できない時代に突入したということなのだろう。

こうなると、CVAをきちんと把握してそのヘッジを行おうというインセンティブが高まる。おそらく簡便法が最も簡単なのだが、少なくともBA-CVAを適用しようという銀行も増えてくるかもしれない。

日本の地銀においては、2023年3月期からバーゼルIII第3の柱に基づく開示全般について、新様式の利用を予定しているところが多いものと思われる。どうせ必要なら充分に研究して先進的なCVA計算手法を入れ、資本の効率化を向上させようとする銀行が出てきても良いのではないか。デリバティブを毛嫌いするだけでなく、うまく使えばリスク管理にもなるし、ROE向上にもつながる。

計算だけなら数人のチームを作ってとことん勉強させれば、何とか先進的な手法を導入するのは可能だと思う。あるいは複数地銀で集まって、CVA導入を目指しても良いのではないだろうか。日本では大手銀行でも資本効率が海外に比べて極端に低いので、中小金融機関でも高ROEを達成することができるのではないか。組織が硬直的でない分小規模金融機関の方が小回りが利いて、新しいことが進めやすいと思う。

金融の生産性を向上するには

日本の生産性が問題視されるようになって久しいが、確かに完璧を求め生産性を犠牲にする文化があるのかもしれない。既存のプロセスを変更するときや前例のない新しいことを始めるのが非常に困難だ。

メールのやり取り一つとっても英語より極端に時間がかかる。まず相手の会社名、部署名、役職を記入し、漢字に間違いがないか確認しながら名前を書く。そして、「いつもお世話…」にという常套文句を書き、ようやく要件に入れる。複数人宛の場合は誰を最初に書くべきかの確認も必須だ。役職も参事役と部長補佐はどちらが偉いんだなどと考えながら、内容を書くまでに意外と時間がかかってしまう。

メールの返信を書く時まで、その都度会社名とお世話に…を入れる場合もあるが、英語メールの場合は、複数のやり取りが続くと名前すら省略することがあるが、慣れてくるとメールのやりとりは、英語の方が圧倒的に早い。プロ野球で「そうですね」廃止が話題になっているが、メールでも「いつもお世話に」を禁止したいものだ。

会食時にも、手土産やタクシーを手配し、座る場所、会計、見送りに気を配り、次の日の朝にはお礼状、お礼メールを送る。慣れてしまったので何のことはないのだが、余分に時間はかかる。外資系では手土産などは送る方ももらう方も申請が必要なので、その申請も出さなければならない。コンプライアンスから追加質問がくる場合もある。古き良き伝統なのかもしれないが、少なくともこのご時世、接待の手土産は禁止にして欲しい。通常物を贈るのは禁止というのがグローバル金融機関の常識なのだが、手土産の他、事務所移転等で花を贈ったりする日本においては、各社とも特殊ルールを設けている。

このような他愛もないこと以外にも、金融ではフェイルやレポート提出の遅れ、非常に細かい事務ミスが許容されないので、そのために人海戦術で対応するしかない。こうして現場は多忙を極める割に収益にはつながらないため、生産性が下がる。95%の正確性で収益を上げるより、コストを引いた後の収益がマイナスでも100の正確性を求めている。

その割にシステム投資を抑えるため大きなミスが起きてしまう。フェイルやその他事務ミスについては、人手をかけて二重チェックをすれば防げるが、システム障害は人海戦術では防げない。製造業であれだけ費用対効果を極限まで最大化する努力ができたのだから、サービス業でも若干は効率性を考えなければならない。1円帳尻が合うまで支店の全員が残っていたというエピソードがあったが、日本のビジネス環境をよく表している。

しかし一方で、黒船、地震、コロナ等があると、急に危機感が芽生えて常識が変わる。テレワークはコロナがなければ絶対に進まなかっただろう。海外企業は、コロナ前から金曜だけはフロリダからテレワークという人もいたくらいなので、在宅勤務への移行は直ちに実行できた。つまり、何か天変地異のようなものがなくても変化が起きていたということだ。

しかし、コロナのような大きな変化が起きると、これまでのしがらみを捨てて変化できるというのも日本の良さなので、これからはチャンスが出てくるかもしれない。規制業種になってしまったので以前より難しくはなってきたが、常に新しいことにチャレンジする精神を持っていきたいものである。

関係会社間取引の清算集中・証拠金規制

2週間前の11月17日、ISDAをはじめとする5つの業界団体が、欧州委員会および欧州監督当局に対し、関係会社間取引の清算集中・証拠金規制の一時的適用除外の延長を要求した。

欧州では、関係会社の一つが欧州域外にある場合は、清算集中規制と証拠金規制の対象としていたが、一時的措置として2022年6月30日までの免除が認められている。当然EMIRに基づいて、そのグループ企業の属する国で欧州規制との同等性が認められれば規制免除になるのだが、同等性が認められないと規制対象となってしまう。

この一時的免除の延長がなされないと、EU域内のデリバティブユーザーは、EU域外との関係会社との取引についてCCPにおける清算集中をするか、証拠金規制にもとづいて担保授受を行わなければならない。

既に関係会社間取引についてはVM CSAを締結して変動証拠金の授受を行っているところは多いと思うが、これがIMにも拡大されてしまうと、かなりのコスト高になる。CCPでの清算が義務付けられるとCCPのIM拠出の他、Operation面での手間も増える。

個人的には延長されることになると予想しているのだが、恒久的免除までは踏み込まないと思うので、常にこの議論が続いていくのだろう。そして欧州と英国等の関係が悪化した際にこの免除が打ち切られる可能性もある。

規制を強化する方ばかりに注目が集まり、流動性悪化に伴う、ユーザーの不利益やコスト増がないがしろにされているのが若干気になる。これが流動性に悪影響を与えないことを祈るのみである。

清算集中規制の変更について

いよいよLIBOR移行も大詰めを迎え12月6日からは円LIBORスワップの清算集中規制もTONA Swapに変更になる。金融庁BOEESMACFTCとそれぞれ市中協議を行っているが、日本は確定、英国もそろそろ正式発表となる。ESMAは11/18に、CFTCは11/18に公表されたばかりである。

ESMAについては、JPY LIBORスワップの清算集中義務はなくなるもののTONA Swapについては何も記述がない。CFTCは市中協議が始まったばかりのようだ。

金融庁のページでは、「LIBORの恒久的な公表停止に伴う「店頭デリバティブ取引等の規制に関する内閣府令第二条第一項及び第二項に規定する金融庁長官が指定するものを定める件」等の一部改正(案)に対するパブリックコメントの結果等について」という表題で公表されている。見慣れている業界関係者には何のことはないのだが、これがLIBORからTONAへの清算集中義務の変更を指すものなのかがわかりにくいからか、いつも問い合わせがくる。きちんと改正の概要のところを見れば問題ないのだが、Googleサーチでも該当のアナウンスにたどり着けずに苦労している人も多い。

清算集中義務およびETP規制の対象をLIBORからTONAに変更する件といった具合にわかりやすくなれば良いのだろうが、法律の改正がからむので変更は難しいのだろう。海外の方が何についての市中協議なのかがわかりやすいのは事実である。

告示案についても、見慣れた人には問題ないものの、どこが変わったのかは素人目にはわかりにくいようだ。特に海外から日本に進出してくる市場参加者にとっては、これが参入障壁という人もいた。誰も規制違反をしたくないのでしっかりチェックしようと思うのだが、これは日本の規制の専門家ではなくては本当に分かりにくい。きちんと対応しようと思うとコンプライアンスオフィサーが必要になるのだが、バイリンガルのコンプライアンス担当はそれほど多くない。

その他TONA複利(後決め)で金銭の支払いの周期が1年のものとなっているが、では金利支払いが半年のものはどうなのかという問い合わせも多い。LIBORからFallbackしてしまったSwapなどは標準的なOISでないため、金利支払いが半年周期だったりするので、混乱が生じている。

告示を見る限り、明らかに金利支払い周期が一年ではないものは清算集中規制対象以外と読める。しかし全体が難しく見えるためか、顧客にそう言い切ってよいかというと、確かに一瞬ひるむ。後で問題になると訴えられる可能性もあるので、法的アドバイスはできませんと答えるのが常套手段なのだろうが、いかにも感じが悪い。

別途分かりやすい資料等を出していただいているので実際は問題ないのだが、市場参加者の多くが混乱しているのを考えると、少しアナウンスの仕方を見直しても良いのかもしれない。

G-SIBSのインパクトとCCPのエージェントモデル

今年もG-SIBsの発表があった。海外ではかなりの注目を集めており、今後バランスシート削減の動きが活発化し、市場にインパクトを与えるのではないかと懸念されている。これまでスコアの削減を進めてきたJPMが2.5%のカテゴリ4に上がり、他にもBNPがカテゴリ3に、GSがカテゴリ2に上がった。最近スコアが上昇してきた日中銀行にカテゴリの変化はなかった。邦銀ではMUFGがカテゴリ2、SMBCとMizuhoがカテゴリ1となっている。

G-SIBsというとグローバルなシステム上重要な銀行ということで、何やら名誉なことのように勘違いする人もいるが、単に破綻した時の影響が大きいので資本を多く積み増さなければならないというものであり、欧米行は必死でスコアの削減努力をしている。ここ数年のスコアを見る限り日中の銀行はこの辺りに無頓着なのか、スコアが上がってきている。カテゴリが一つ上がると最低自己資本比率が0.5%上昇するので、本来は全力で削減努力をした方が経営効率が高まる。

また、G-SIBsスコアを下げるために、CCP向け取引の取り扱いを巡って業界を上げたロビー活動が行われている。通常CCPの清算方法にはPrincipalモデルとAgencyモデルの二種類がある。LCHなど欧州、英国ではPrincipalモデルが使われることが多いが、CMEなど米国ではAgencyモデルが使われている。

Principalモデルでは、CCPと顧客の間にクリアリングブローカーが入ることになるが、Agencyモデルでは、取引自体はCCPと顧客の間に立ち、クリアリングブローカーはその取引をAgentとして保証するだけである。

先ほどのG-SIBsスコアの計算上は、規模に関する指標を計算する際に、Principalモデルの場合は対CCP、対顧客で2つの取引が存在するとして計算が行われる。一方Agentモデルでは、このような二重計算はなくなる。このため、業界団体は、欧州のCCPに対して、米国と同じようなAgentモデルを使えるようルール変更ができないか模索している。どうやらPrincipalモデルからAgencyモデルへの変更が行われるのではなく、両モデルが並行して使えるような方向性が検討されているようだ。

いずれにしてもG-SIBsを理由にこのようなロビー活動が行われているということは、いかに銀行がG-SIBsスコアの削減を重視しているかということを示している。日本ではあまりこのような話は聞かれないが、欧州がAgencyモデルを使えるようになると、ますます日本の銀行がG-SIBs上不利になってしまうのではないか。

日本のCCPがどちらのモデルを使っているかはよく話題になるが、日本ではPrincipalモデルとAgencyモデルの中間のようなモデルになっている。日本語では、「代理」、「仲介」、「媒介」、「取次」といった形態があるのだが、Agencyモデルに当たる「代理」ではなく、「取次」の形が取られている。

解釈が分かれるところなのかもしれないが、「取次」の場合はAgencyモデルととらえることができず、二重計上の問題が発生すると考えるのが自然かと思われる。つまり、欧州CCPがAgencyモデルを採用すると、世界の主要CCPで取引が二重計上される手法を使うのは日本だけとなってしまうかもしれない。

いくら今は日本の銀行がこの辺のことを気にしないとはいっても、所要資本が上がればROEが下がり、経営効率が下がる。海外でロビー活動が進んでいるのであれば日本も何かしないと、世界からまた後れを取ってしまうのではないだろうか。

米国債市場改革の行方

米国債市場改革を巡る議論が活発になってきた。昨年3月にコロナウイルスのパンデミックに怯えた投資家が保有国債の一部を売却しようとした際に市場が混乱したのが直接のきっかけだろうが、実はその前から米国債市場は非常に脆弱な状況にある。何度もここで紹介してきたように、銀行のバランスシート規制、資本規制によるコスト増のため、銀行が国債を持つことができなくなっており、規制見直しを求める声も大きくなっている。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は、バイデン政権の高官とともに、国債の取引や規制の方法を変える必要があると述べた。「昨年の春に見られたような、重要な金融市場の深刻な混乱は稀だが、次の大きなショックに耐えられるように、国債市場を補強する方法を考えなければならない」と語っている。

FRBは、既にある程度の措置を講じており、一定のレートで証券を現金と交換することを可能にする2つのプログラムを7月に恒久化したが、これだけでは不十分との意見が多い。

SECのゲンスラー委員長は、自己勘定取引を行っている企業にSECへの登録を求め透明性を高めるを提案している。これは裏を返せば銀行に対する規制を緩めて流動性を高めるというよりは、高頻度取引の会社等の新たな参加者を増やすことによって問題解決を図ろうとしているようにも見える。

ゲンスラー委員長は、CCPの必要性についても力説しているが、これには同感で、CCPで清算した部分について、銀行に課せられているバランスシート規制の対象外とするのが最も望ましいと思う。コスト増やCCPへのリスク集中を懸念する意見も出されたようだが、今の資本コストに比べればはるかに安くなる。銀行に対する規制緩和が望めない現状では、CCPによる清算拡大以外に道はないと思う。

当然実務家サイドは、資本規制の変更が主張している。本来これが最も流動性向上には有益なのだが、民主党政権のもとでこれが銀行規制緩和が行われる可能性は極めて低いと思わざるを得ない。政治というのは本当に難しい。

EUからのLCHアクセス期限が再延長

EUの金融サービス担当委員が、先週11/10に、EUの銀行がLCHなどの英国CCPでの取引清算を2022年6月の期限移行も継続できる見通しであるとコメントした。

EUはもともとはこの取引清算ビジネスを欧州域内に持っていきたいという強い意向も持っていると思われるが、その移行は遅々として進まない。ユーロ建ての金利スワップは未だ9割がLCHで清算されている。

今回のコメントは、北アイルランド議定書をめぐる英国とEUの関係悪化による影響を受けているという報道もあるが、金融の重要インフラであるCCPが政治紛争に巻き込まれているというのもおかしな話だ。

しかし、引き続き取引のEU移行圧力は継続すると思われるので、今回はまず時間の猶予が与えられただけと言える。本来このような取引市場のい分断は望ましくなく、本来であればすべてネッティングができた方が、リスクや資本コストの削減ができる。複数のCCPに清算基金を拠出したり、デフォルトマネジメントに参加したりする義務は、かなりの手間やコストになる。

また、清算業務をEUで行うことを奨励するための方策を年内に発表するとも報じられている。引き続き英国とEUの綱引きは続くが、大手のデリバティブユーザーが大規模ポートフォリオ移管を行うとはなかなか思いにくい。ひょっとしたら永遠に今の状況が続くのかもしれない。

BSBYスワップのクリアリング開始

CMEによるBSBYスワップのクリアリングが来週月曜の11/15から開始される。BSBYはBloombergが作成したクレジットスプレッドを含んだCSR(Credit Sensitive Rate)である。そんな中、LCHからもBSBYのクリアリングを年内、クリスマスまでには開始すると報道された。

当局サイドからは充分な実取引データに基づかない金利指標はLIBORと同じような市場操作の問題があるとして否定的な意見が矢継ぎ早に出されているが、金融市場は着実に変化している。英国のベンチマーク規制には準拠していないため、英銀はまだ使えないようだが、今後は一定の取引が見込まれるようになりそうだ。